ゲーム理論

Similar documents
経済と社会

独占と不完全競争

産業組織論(企業経済論)

ミクロ経済学・基本講義 第9回

Microsoft PowerPoint - 13economics5_2.pptx

産業組織論(企業経済論)

産業組織論(企業経済論)

経済学 第1回 2010年4月7日

PowerPoint Presentation

> > <., vs. > x 2 x y = ax 2 + bx + c y = 0 2 ax 2 + bx + c = 0 y = 0 x ( x ) y = ax 2 + bx + c D = b 2 4ac (1) D > 0 x (2) D = 0 x (3

産業組織論(企業経済論)

ミクロ経済学Ⅰ

経済学 第1回 2010年4月7日

Microsoft PowerPoint - 08economics3_2.ppt

Microsoft PowerPoint - 15kiso-macro03.pptx

Microsoft Word 国家2種経済.doc

スライド 1

(8 p) s( p) = = ( 8) p = ( p 8) したがって, 固定費用が全く存在しない場合, 完全に固定費用の支払いを回避できる場合には, どちらの場合にも供給

Excelを用いた行列演算

経済学 第1回 2010年4月7日

Microsoft PowerPoint - 第8章.ppt [互換モード]

PowerPoint プレゼンテーション

Microsoft PowerPoint - 08economics4_2.ppt

第2章

ミクロ マクロ経済学演習 冬休みの宿題 担当 : 河田 学籍番号 氏名 2014 年 1 月 6 日 ( 月 )17 時までに 河田研究室 (514) まで提出すること 途中の式や思考過程はそのままにしておくこと


資本分配率と労働分配率は, 生産物についての資本 ( 企業 ) と労働 ( 家計 ) の分け前の 割合を表しています. 資本分配率は資本 K の右肩の数字 ( 指数 ) です.α がいつでも資本 分配率というわけではありません. 生産関数が L 率になります. K という形であれば,β が資本分配

消費者余剰の損失分は 780 ドルとなる 練習問題 13.2 の解答公式を導出する際に重要なことは, 課税のよる価格の変化, 取引量の変化, 逆供給曲線と逆需要曲線の傾きを正しく図で描写することである これが正しくできればその他の公式は簡単である 残りの 2 つの公式を導出するために, 図 13.1

2004年度経済政策(第1回)

では もし企業が消費者によって異なった価格を提示できるとすれば どのような価格設定を行えば利潤が最大になるでしょうか その答えは 企業が消費者一人一人の留保価格に等しい価格を提示する です 留保価格とは消費者がその財に支払っても良いと考える最も高い価格で それはまさに需要曲線で表されています 再び図

ミクロ経済学・基本講義 第2回

Microsoft PowerPoint - 修論発表_進藤俊

Microsoft PowerPoint - 09macro3.ppt

<4D F736F F F696E74202D208D8296D889EB8DC65F C835B8393>

Microsoft PowerPoint - 08macro6.ppt

第8章

様々なミクロ計量モデル†

PowerPoint プレゼンテーション

<4D F736F F D208CF68BA48C6F8DCF8A C30342C CFA90B68C6F8DCF8A7782CC8AEE967B92E8979D32288F4390B394C529332E646F63>

経済研究 Vol. 67 No. 1 Jan 寡占における相対利潤最大化企業による戦略変数の選択 * 佐藤敦紘 田中靖人 差別化された財を生産する対称的な寡占において各企業が絶対利潤 ( 自らの利潤そのもの ) ではなく相対利潤 ( 自分の利潤と他の企業の利潤の平均値との差 ) を最大化

ミクロ マクロ経済学演習 冬休みの宿題 担当 : 河田 学籍番号 氏名 模範解答 2014 年 1 月 6 日 ( 月 )17 時までに 河田研究室 (514) まで提出すること 途中の式や思考過程はそのままにしておくこと

1 対 1 対応の演習例題を解いてみた 微分法とその応用 例題 1 極限 微分係数の定義 (2) 関数 f ( x) は任意の実数 x について微分可能なのは明らか f ( 1, f ( 1) ) と ( 1 + h, f ( 1 + h)

製品差別化複占市場における * 技術選択と技術補完性 紀 國 洋 新 海 哲 哉 概 要 本稿では, 費用削減技術に関して, 企業特殊的技術と補完的技術の 2 種類の技術が存在する場合に, 企業は各技術に対し研究開発資源をどのように配分するかを, 製品差別化が存在する複占モデルを用いて分析する 本稿

経済情報処理のための Mathematica 課題 改訂新里 課題 1 微分次の関数を微分せよ 1 f(x)=x 3-2x+x/(x+1) 2 f(x)=(x+1)(x 2 +1)-1/(x 3 +1) 3 f(x)=(2x+3)(x 3-2)+(2x+3)/(x 2 +1) 課題

例 e 指数関数的に減衰する信号を h( a < + a a すると, それらのラプラス変換は, H ( ) { e } e インパルス応答が h( a < ( ただし a >, U( ) { } となるシステムにステップ信号 ( y( のラプラス変換 Y () は, Y ( ) H ( ) X (

Microsoft PowerPoint - 15kiso-macro09.pptx

2011年度 東京大・文系数学

tnbp59-21_Web:P2/ky132379509610002944

日本内科学会雑誌第98巻第4号

日本内科学会雑誌第97巻第7号

国際的株式持ち合いと混合寡占市場 International Cross-Ownership and Mixed Oligopoly 高橋知也 Tomoya TAKAHASHI はしがき 中国自動車市場を念頭に置きながら 国営企業と外資系企業が競争する市場を本稿では考察する 本稿は公企業と私企業が共

l = 若年期の労働供給量, c + = 老年期の消費量, w = 賃金率, s = 貯蓄量, r + = 資本の レンタル料 ( 貯蓄からの純収益率,δ = 資産の減耗率である. 上記の最適化問題を解くと以下の式が得られる. l =Ψ ( c +, c Ψ + φ ただし Ψ である. (4 +

lt = 若年期の労働供給量, t c + = 老年期の消費量, w t = 賃金率, s t = 貯蓄量, r t+ = 資本の レンタル料 ( 貯蓄からの純収益率,δ = 資産の減耗率である. 上記の最適化問題を解くと以下の式が得られる. lt =Ψ ( c t +, c Ψ t+ φ ただし

Microsoft Word - microeconomics_2017_social_welfare11

混合戦略

社会保険料の賃金への影響について

第1章 財務諸表

パソコンシミュレータの現状

If(A) Vx(V) 1 最小 2 乗法で実験式のパラメータが導出できる測定で得られたデータをよく近似する式を実験式という. その利点は (M1) 多量のデータの特徴を一つの式で簡潔に表現できること. また (M2) y = f ( x ) の関係から, 任意の x のときの y が求まるので,

ax 2 + bx + c = n 8 (n ) a n x n + a n 1 x n a 1 x + a 0 = 0 ( a n, a n 1,, a 1, a 0 a n 0) n n ( ) ( ) ax 3 + bx 2 + cx + d = 0 4

数学2 第3回 3次方程式:16世紀イタリア 2005/10/19

調和系工学 ゲーム理論編

い最適消費点 ) を E 1 と記入しなさい 接点の位置は任意でよい (7)E 0 と E 1 を結んだ曲線の名前は, ( 価格消費 ) 曲線という 問 3.( 1) 下表のカッコ内に 増加 か 減少 の言葉を入れなさい (2) ギッフェン財は上の表では ( 3 ) 番のケースにあたる - 2 -

千葉大学 ゲーム論II

DVIOUT-r0

2018年度 東京大・理系数学

切片 ( 定数項 ) ダミー 以下の単回帰モデルを考えよう これは賃金と就業年数の関係を分析している : ( 賃金関数 ) ここで Y i = α + β X i + u i, i =1,, n, u i ~ i.i.d. N(0, σ 2 ) Y i : 賃金の対数値, X i : 就業年数. (

2018年度 2次数学セレクション(微分と積分)

短期均衡(2) IS-LMモデル

スライド 1

2017年度 金沢大・理系数学

(c) 規模に関して収穫一定の生産技術をもっているから, 総費用は直線で表され, また平均費用も限界費用も同様に直線で表されかつフラットな形状になる. 問 (b) の解答より, 1 脚当たりの総費用は $65( $390 / 6 ) であるから, 各費用関数は図 9.12 のように描くことができる.

戦略的行動と経済取引 (ゲーム理論入門)

シラバス-マクロ経済学-

スライド 1

Microsoft Word - principles-econ045SA.doc

2019 年 6 月 4 日演習問題 I α, β > 0, A > 0 を定数として Cobb-Douglas 型関数 Y = F (K, L) = AK α L β (5) と定義します. (1) F KK, F KL, F LK, F LL を求めましょう. (2) 第 1 象限のすべての点

2011年度 大阪大・理系数学

多変量解析 ~ 重回帰分析 ~ 2006 年 4 月 21 日 ( 金 ) 南慶典

漸化式のすべてのパターンを解説しましたー高校数学の達人・河見賢司のサイト

測量士補 重要事項「標準偏差」

2018年度 筑波大・理系数学

Microsoft Word - K-ピタゴラス数.doc

Probit , Mixed logit

Microsoft Word - ASMMAC_6

学力スタンダード(様式1)

2 1 1 α = a + bi(a, b R) α (conjugate) α = a bi α (absolute value) α = a 2 + b 2 α (norm) N(α) = a 2 + b 2 = αα = α 2 α (spure) (trace) 1 1. a R aα =

Microsoft Word - ミクロ経済学02-01費用関数.doc

Microsoft Word - Stattext07.doc

PowerPoint プレゼンテーション

6 2 2 x y x y t P P = P t P = I P P P ( ) ( ) ,, ( ) ( ) cos θ sin θ cos θ sin θ, sin θ cos θ sin θ cos θ y x θ x θ P

2016年度 九州大・理系数学

喨微勃挹稉弑

厚生の測度

Ł\”ƒ-2005

F = 0 F α, β F = t 2 + at + b (t α)(t β) = t 2 (α + β)t + αβ G : α + β = a, αβ = b F = 0 F (t) = 0 t α, β G t F = 0 α, β G. α β a b α β α β a b (α β)

相対性理論入門 1 Lorentz 変換 光がどのような座標系に対しても同一の速さ c で進むことから導かれる座標の一次変換である. (x, y, z, t ) の座標系が (x, y, z, t) の座標系に対して x 軸方向に w の速度で進んでいる場合, 座標系が一次変換で関係づけられるとする

Microsoft PowerPoint - 14kinyu4_1.pptx

第90回日本感染症学会学術講演会抄録(I)

第86回日本感染症学会総会学術集会後抄録(I)

Transcription:

初歩から学ぶクールノー競争とベルトラン競争 渡辺隆裕首都大学東京 Dec 5, 015 1

構成 ベンチマーク独占企業の行動同質財の市場とクールノー競争クールノー競争下でのコストダウン製品差別化とベルトラン競争ベルトラン競争下でのコストダウン戦略的代替と戦略的補完 Dec 5, 015

ベンチマーク : 独占企業の行動 線形モデルによる分析 Dec 5, 015

市場構造の分類とゲーム理論 完全競争市場 (perfectly competitive market) 古典的な経済理論 消費者や企業は多数で, 価格受容者 ( その行動によって価格が変化しない ) 企業は価格を所与とし, 生産量を決めて, 利益を最大化する 企業は限界費用と価格が等しくなるように生産量を決める 分析道具 需要曲線と供給曲線 ( 部分均衡 ) 不完全競争市場 (imperfect ly cometitive market) 独占市場 市場に企業が 1 社で, 企業は利益を最大化 寡占市場 市場には少数の企業, 利益を最大にするように競争する 消費者や企業 ( の少なくとも一方 ) は価格決定者 分析道具 ゲーム理論 Dec 5, 015 4

寡占市場の競争 : モデルの分類 1. 生産量競争か, 価格競争か? 各企業は生産量を決定する ( 生産量競争 ) クールノー競争各企業は価格を決定する ( 価格競争 ) ベルトラン競争. 同質財か, 異質財 ( 製品差別化 ) か? すべての企業の生産財は同質と考える ( 同質財 ) 市場の価格と需要の関係は単一の需要曲線で表される各企業の生産財は差別化されているとする ( 異質財 ) 同質財 異質財 ( 製品差別化 ) 生産量競争 クールノー競争各企業の生産量の合計で財の価格が決定される. 異質財のクールノー競争 ( 今回は扱わない ) 価格競争 同質財のベルトラン競争最も価格が安い企業がすべての需要を獲得 その結果, 各企業は限界費用まで価格を下げ, 利潤が 0 になる. ベルトラン競争各企業は, 自社の価格と他社の価格で, 自社の製品の需要が決まる Dec 5, 015 5

モデル : 独占企業のモデル 企業 A が, ある商品を独占的に販売している ここでは, 生産量 = 需要量 ( 販売量 ) となるように価格が決定されるとする. 在庫や不確実性を考えない. 生産量を少なくする : 高価で売れるが, 販売量は少ない 生産量を多くする : 販売量は多いが, 価格が下がる 価格と生産量の間にトレードオフがある, そのもとで企業 A は生産量 x を決定すると考える 生産量を x, その価格を p とすると, その需要は x = a bp ( 線形需要関数 ) であるとする. ここでは商品を 1 台売る費用 ( 限界費用 ) は c とし一定とする.( 線形費用関数 ) 簡単にするため固定費は考えない. 利益を最大にするために, 企業 A はこの商品をどれだけ生産すれば良いか. Dec 5, 015 6

需要関数の単純化 ここで需要関数は単純化して1 次関数を仮定する x = a bp 価格が上昇すると, 需要が減少する計量モデルにする場合は, もう少し複雑にさらに, ここでは簡単な表現にするためb = 1とする. 生産量の単位を1/b( 単位 ) と置き直して考えれば, 一般性を失わない. ここでは具体的な数値を扱わないので, これで十分 以降, 需要関数は x = a p Dec 5, 015 7

独占企業の利益最大化 生産量を x とする. 価格は p = a x で決まる ( 逆需要関数 ) 利益を π(x), 収入を R(x), 総費用を C(x) とする π(x) = R(x) C(x) R(x) = px = a x x C(x) = cx π(x) = a x x cx = x + a c x 利益 = 収入 - 費用生産量 = 需要量収入 = 価格 生産量 線形モデル ( 線形需要関数, 限界費用一定 ) では, 利益は生産量の 次関数になる. 生産量を増やすと価格が下落. そのトレードオフで最適な生産量が決定されることを表す, もっとも単純なモデルとなっている. π 企業が利益を最大にする生産量 x は? π x = max π(x) x 0 a c a c x Dec 5, 015 8

独占企業の利益最大化 生産量を x とする. 価格は p = a x で決まる ( 逆需要関数 ) 利益を π, 収入を R, 総費用を C とする π = R C R = px = a x x C = cx π = a x x cx = x + a c x 利益 = 収入 - 費用生産量 = 需要量収入 = 価格 生産量 利益が最大になる生産量は, 次関数の頂点となる x = (a c)/ であることが分かる π π = x + a c x π = x + a c π = 0 x = a c p = a + c 0 a c a c x Dec 5, 015 9

まとめ : 市場の分類と独占市場での企業行動 完全競争市場は, 古典的な需要曲線と供給曲線による分析が行われ, 寡占市場などの不完全競争市場ではゲーム理論が用いられる. 寡占市場では,(1) 生産量を決定するクールノー競争と価格を決定するベルトラン競争か,() 同質財か異質財か, の つの要因によっておおまかにモデルが分類される. 独占市場のモデルでは, 所与の需要関数と費用関数のもとで, 企業が利益を最大化するように生産量を求める. 需要関数は, 企業が生産量を増やすと価格が下落するため, そのトレードオフを考慮して生産量が決定される. 線形の需要関数と費用関数のモデルは, これをもっとも単純に表現できるモデルである. なお ( ここでは触れなかったが ), 独占市場では企業は価格を戦略変数として変化させても, まったく同等のモデルとなる. Dec 5, 015 10

同質財の市場とクールノー競争 Dec 5, 015 11

クールノー競争 先のモデルの状況で, 今度は企業 A と企業 B の 企業が競争しているとする 各企業は, 同時に生産量を決定する ( 数量競争 ) 企業 A の生産量を x A, 企業 B の生産量を x B とする 両企業の生産量の合計を x = x A + x B で表す 価格を p とすると p = a x (= a (x A + x B )) ( 逆需要関数 ) の関係があるとする 財を 1 単位生産する費用 ( 限界費用 ) は, 企業 A と企業 B ともに c 利益を最大にするために, 企業 A と企業 B はどれだけの商品を生産するか? Dec 5, 015 1

クールノー均衡 : クールノー競争の解 同時の生産量決定 クールノー競争 企業 A の利益を π A (x A, x B ), 企業 B の利益を π B (x A, x B ) とすると π A x A, x B = px A cx A = a x x A cx A = {a (x A + x B )}x A cx A = x A x A x B + (a c)x A 企業 A の利益は, 自社の生産量だけではなく, 相手企業の生産量にも依存する ( 企業 B も同じ ) 戦略形ゲーム クールノー均衡 (x A, x B ) π A x A, x B = max π A (x A, x B ) π B x A, x B = max π A (x A, x B ) x A x B クールノー均衡 : お互いに最適反応戦略を選び合う生産量の組合せ クールノー均衡は, クールノー競争という戦略形ゲームにおけるナッシュ均衡である Dec 5, 015 1

クールノー均衡を求める クールノー均衡を求めるには? 各企業の最適反応戦略を求める. 企業 A にとって, 相手企業 B の戦略 x B を所与として, 利益を最大化する戦略 (x B の関数 ) を求める π A x A, x B と呼ぶ = max x A π A (x A, x B ) となる x A を企業 A の x B に対する最適反応戦略 企業 A の利益 π A (x A, x B ) = x A x A x B + (a c)x A π A x A = 0 x A x B + (a c) = 0 x A = 1 x B + a c 企業 A の最適反応戦略 企業 A の最適生産量は, 企業 B の生産量に依存して決まる Dec 5, 015 14

クールノー競争のナッシュ均衡を求める 同様に企業 B の利益を π B (x A, x B ) とすると. π B (x A, x B ) = px B cx B = x B x A x B + (a c)x B π B x B = 0 x B x A + (a c) = 0 x B = 1 x A + a c 企業 B の最適反応戦略 Dec 5, 015 15

クールノー競争 同時の生産量決定 クールノー競争 企業 A の利益を π A (x A, x B ), 企業 B の利益を π B (x A, x B ) とする. π A = px A cx A = a x x A cx A = {a (x A + x B )}x A cx A = x A x A x B + (a c)x A 同様に π B = px B cx B = a x x B cx B = {a (x A + x B )}x B cx B = x B x A x B + (a c)x B 各企業の利益は, 自分の生産量だけではなく, 相手の生産量にも依存する 戦略形ゲーム Dec 5, 015 16

最適反応戦略からクールノー均衡を求める 両企業の最適反応戦略を求め, 連立方程式を解く 企業 Aの最適反応戦略 x A = 1 x a c B + 企業 Bの最適反応戦略 x B = 1 x a c A + 1 連立方程式を解く を 1 に代入 x A = 1 4 x A = 1 x a c A + a c 4 a c + クールノー均衡は x A = x B = a c クールノー = ナッシュ均衡とも呼ばれる x A = a c x B = a c p = a + c = c + a c Dec 5, 015 17

最適反応曲線図とクールノー均衡 x B 企業 A の最適反応曲線 x A = 1 x B + a c 最適反応曲線の交点がクールノー均衡 a c 企業 B の最適反応曲線 x B = 1 x A + a c 0 a c x A Dec 5, 015 18

独占 複占における価格と利益 独占時の生産量, 価格, 利益 x = a c p = a+c a c = c + π = a c 4 クールノー競争時の生産量, 価格, 利益 x i = a c p = c + a c (i = A, B) 市場全体の生産量 x = a c π i = a c (i = A, B) 9 独占市場より複占市場の方が, 市場の総生産量は大きくなり, 価格は低くなる ( 競争の激化により, 企業には厳しく, 消費者には優しい ) 複占市場では, 各企業の利益は独占時の半分になるわけではない ( 半分以下 ) 市場規模 の独占市場へ参入して, その利益の半分が取れるわけではない. そもそも市場規模って何? Dec 5, 015 19

クールノー均衡 : 均衡と最適化の違い クールノー均衡は 企業の利益が最大になっている と考えられるか? 企業は生産量を 最適化 しているのか? 各企業は最適な生産量を選んでいるから, 利益は最大にであると思えるが? Dec 5, 015 0

競争 囚人のジレンマ カルテル クールノー均衡は 各企業の利益が最大になっている と単純に言えない! ゲーム理論の解は 最適 ではなく, あくまでも 均衡 各企業の利益は, お互いの生産量の合計を独占市場の生産量に近づけることで, もっと大きくできる! ( 例 ):a = 7 c = 独占時の生産量と利益 x = a c =1 π = a c 企業 A, Bは生産量を6にすれば, 利益は7になる. クールノー競争の生産量と利益 x i = a c = 8 π i = a c 9 4 = 144 生産量を 6 にするより利益は小さい. なぜお互い 6 にしないのか? = 64 (i = A, B) 各企業の最適反応関数は x i = 1 x a c j + = 1 x j + 1 相手が生産量 6 なら, 自分は 9 にする方が良い! A x A = 6 x A = 9 B x A = 6 x A = 9 (7,7) (81,54) (54,81) 相手が 9 なら, 自分は 8.5 が良い 囚人のジレンマと同様に均衡はお互いの利益を最大にしていない Dec 5, 015 1

n 社の対称企業へ拡張 企業を 1,,,, n として考えてみる. 各企業の生産量を x i とする. 限界費用は c で同じとする, 固定費は考えない. 価格 p と生産量の関係 : p = a (x 1 + x + + x n ) ( 逆需要関数 ) 企業 1 の利益 π 1 = px 1 cx 1 = x 1 + a c x 1 x + + x n x 1 利益を最大にする企業 1 の生産量 : π 1 x 1 = 0 x 1 + a c x + + x n = 0 企業 1 の最適反応関数 x 1 = 1 x + + x n + a c ここでクールノー均衡の生産量をx 1 とすると, 均衡で各企業の生産量は同じになると考えられるので x 1 = 1 x 1 + + x 1 + a c となるはず. x 1 = n 1 x 1 + a c n+1 x 1 = a c x 1 = a c n+1 x i = a c n+1 市場全体の生産量 x = n a c n+1 価格 p = c + a c n+1 利益 π i = a c n+1 Dec 5, 015

独占 複占における価格と利益 独占時の生産量, 価格, 利益 x = a c p = a+c a c = c + π = a c 4 社のクールノー競争 ( 複占 ) 時の生産量, 価格, 利益 x i = a c 市場全体の生産量 x = a c π i = a c p = c + a c 9 n 社のクールノー競争時の生産量, 価格, 利益 x i = a c n+1 p = c + a c n+1 市場全体の生産量 x = π i = a c n+1 n a c n+1 企業数が増えるほど市場の総生産量は大きくなり, 価格は低くなる ( 競争の激化により, 企業には厳しく, 消費者には優しい ) n とすると, 価格は限界費用に, 利益は 0 に近づき, 完全競争と同じになることが分かります ( クールノー極限定理 ). Dec 5, 015

まとめ : 独占とクールノー競争 クールノー競争では, 企業は相手の生産量によって, 自分の利益を最大にする生産量が異なる. 相手の生産量に対して, 利益を最大にする生産量を決める関数を最適反応戦略と呼ぶ. お互いに最適反応戦略を選び合う生産量の組合せをクールノー均衡と呼び, それをクールノー競争の解と考える. クールノー均衡は, クールノー競争のゲームにおけるナッシュ均衡. 最適反応戦略を図示したグラフは最適反応曲線と呼ばれ, 最適反応曲線の交点がクールノー均衡である. クールノー均衡よりも, 独占時の生産量の半分を生産したほうが各企業の利益は高くなるが, 囚人のジレンマと同じようにそうはできない ( 均衡と最適の違い, カルテルの意味 ) 企業数が増えるほど市場の総生産量は大きくなり, 価格は低くなる ( 競争の激化により, 企業には厳しく, 消費者には優しい ) n とすると, 価格は限界費用に, 利益は 0 に近づき, 完全競争と同じになることが分かります ( クールノー極限定理 ). Dec 5, 015 4

クールノー競争下でのコストダウン Dec 5, 015 5

費用変化による競争への影響 A 社と B 社のクールノー競争クールノー均衡では, 生産量 x A = a c A 社の限界費用は c 利益は p c x A = a c 価格 p = c + a c ここで A 社は限界費用を c Δc とするコストダウンに成功したとする コストダウンの効果ナイーブな予想 (1) A 社の利益は, 費用が 1 単位あたり Δc 下がった. 利益は Δc x A = a c Δc 増加する () B 社の利益は変化しない. (1) と () は正しいか? Dec 5, 015 6

クールノー競争 :A 社の費用削減の影響 企業 A の限界費用 : c c Δc 企業 A の利益 : π A x A, x B, π B x A, x B π A x A, x B = px A cx A = x A x A x B + (a c)x A π A x A, x B = x A x A x B + (a c + Δc)x A 企業 A の最適反応戦略の変化 x A = 1 x B + a c x A = 1 x B + a c + Δc x B = 1 x A + a c 企業 B の最適反応関数は同じ Dec 5, 015 7

グラフで見るクールノー均衡の変化 x B 企業 A の費用削減前の最適反応関数 企業 A の費用削減後の最適反応関数 x A = 1 x B + a c x A = 1 x B + a c + Δc 最適反応関数は右に移動 費用削減後のナッシュ均衡 a c 0 費用削減前のナッシュ均衡 a c Dec 5, 015 8 x A 企業 B の最適反応関数 x B = 1 x A + a c 8

費用削減後のナッシュ均衡を求める 両企業の最適反応戦略を求め, 連立方程式を解く 企業 A の最適反応関数 x A = 1 x B + a c + Δc 1 企業 B の最適反応関数 x B = 1 x A + a c 連立方程式を解く を 1 に代入 x A = a c + Δc x A = 1 4 x A = 1 x a c A + a c + Δc 4 + a c + Δc x B = p = a c Δc a + c Δc = c + a c Δc Dec 5, 015 9

グラフで見るクールノー均衡の変化 x B 削減前 削減後 企業 A の最適反応関数は右に移動 ナッシュ均衡は右下に移動 企業 A の生産量は増加 企業 B の生産量は減少 a c a c Δc a c a c + Δc x A 企業 B の最適反応関数 Dec 5, 015 0

費用変化による競争への影響 A 社のコストダウンはA 社だけではなく,B 社の行動も変化させる. A 社の生産量 x A = a c+δc + Δc B 社の生産量 x B = a c Δc 価格 p = a+c Δc = c + a c Δc A 社の利益 π A = a c+δc 9 Δc Δc π B = a c Δc 企業のコストダウンは, 自企業だけではなく相手企業にも影響を及ぼす コストダウンした企業は生産量を増加させ, 相手企業は従来の生産量を減少させることが最適反応 ( 利益を最大化すること ) となる これにより, 相手企業の生産量が不変と考えた場合より, 自企業の利益の増加は大きい ( ゲーム理論による分析の特徴 ) 自社のコストダウンによる利益増加の効果 ( 直接効果 ) 相手企業の生産量減少による効果 ( 間接効果, 戦略効果 ) 一方, コストダウンにより相手企業の利益は減少する ( ライバル効果 ). 9 Dec 5, 015 1

製品差別化の市場とベルトラン競争 Dec 5, 015

製品差別化の市場 同質財の市場 ( これまで ) 安い価格の企業がすべての需要を獲得 結果として, 企業間に価格差はない. 異質財 ( 製品差別化 ) の市場 企業間で価格差がある 他企業の価格は自企業の需要に影響を及ぼすが, 安い価格の企業がすべての需要を獲得するわけではない. Dec 5, 015

企業の価格競争 ( 製品差別化市場 ) 企業 Aと企業 Bの 企業が競争, 各企業は同時に価格を決定 ( 価格競争 ) 企業 Aの価格をp A, 企業 Bの価格をp B とする相手の価格は, 自分の企業の需要量に影響する. 企業 A,Bの販売する財の需要をそれぞれx A,x B とすると価格と需要の関係は以下の式 ( 需要関数 ) x A = α βp A + γp B x B = α βp B + γp A で与えられる. 今回は正規化 ( 単純化 ) しない ( 理由はこの後のスライドで ). β γ 0 を仮定 自財の価格が上がれば需要は減少する (β 0). 他財の価格が上昇するとき, 需要が増加する競合状態 ( 代替財 :γ 0 ) を仮定する. 実はγ 0 ( 補完財 ) の場合も扱える, 後述. 他財の価格の影響は自財の価格の影響より小さい (β γ). 財を1 単位生産する費用 ( 限界費用 ) は, 企業 Aと企業 Bともにc 利益を最大にするために, 企業 Aと企業 Bは価格をいくらにするだろうか? Dec 5, 015 4

モデル化 : 逆需要関数か? 需要関数か? 同質財の市場 ( これまで ) 逆需要関数 p = a x を考えた ( 線形モデル ) 異質財 ( 製品差別化 ) の市場今回は需要関数を与えている. 逆需要関数を以下のように設定するとこれまでと整合的 ( 比較可能 ) になる. p A = a x A bx B p B = a x B bx A b は差別化の程度を表す ( b が小さいほど差別化されている ) 0 b < 1 とする ( 自財の価格に対する影響は, 自財の生産量のほうが多財より大きい ) b 1 のとき, 同質財と一致. b = 0 のとき, 独占 ( 完全差別化 ) ( 実は補完財 (b < 0) も扱える, 後述 ) 需要関数への変換 x A = α βp A + γp B x B = α βp B + γp A α = a 1 b 1 b β = 1 1 b b γ = 1 b 0 b < 1 β γ 0 Dec 5, 015 5

ベルトラン均衡 : ベルトラン競争の解 同時の価格決定 ベルトラン競争 企業 A の利益を π A (p A, p B ), 企業 B の利益を π B (p A, p B ) とすると π A p A, p B = p A x A cx A = p A c x A = p A c (α βp A + γp B ) x A = α βp A + γp B x B = α βp B + γp A クールノー競争と同様に, 企業 A の利益は, 自社の価格だけではなく, 相手企業の価格にも依存する ( 企業 B も同じ ) 戦略形ゲーム ベルトラン均衡 (p A, p B ) π A p A, p B = max π A (p A, p B ) π B p A, p B = max π A (p A, p B ) p A p B Dec 5, 015 6

ベルトラン均衡を求める ベルトラン均衡の求め方は, クールノー均衡と同じ まず, 各企業の最適反応戦略を求める. 企業 A に対して, 相手企業の戦略 p B を所与として, 利益を最大化する戦略 (p B の関数 ) を求める すなわち π A p A, p B 適反応戦略と呼ぶ = max p A π A (p A, p B ) となる p A を,p B に対する企業 A の最 企業 Aの利益 π A (p A, p B ) = p A c (α βp A + γp B ) π A = 0 βp A + γp B + (α + βc) = 0 p A p A = γ 企業 Aの最適反応戦略 β p α + βc B + 企業 Aの最適価格は, 企業 Bの価格に依存して決まる 同様に企業 Bの最適反応戦略も求める p B = γ β p A + α + βc 企業 B の最適反応戦略 Dec 5, 015 7

最適反応戦略からベルトラン均衡を求める 両企業の最適反応戦略を求め, 連立方程式を解く 企業 A の最適反応戦略 企業 B の最適反応戦略 p A = γ β p B + p B = γ β p A + α + βc α + βc 1 連立方程式を解く ( 今回は結果のみ ) p A = p B = α + βc β γ x A = x B = β(α + c γ β ) β γ π A = π B = β α + c γ β β γ Dec 5, 015 8

グラフで見るベルトラン均衡 p B 最適反応曲線の交点がベルトラン均衡 企業 A の最適反応曲線 p A = γ β p B + α + βc α + βc β γ α + βc 企業 B の最適反応曲線 p B = γ β p A + α + βc 0 α + βc α + βc β γ p A Dec 5, 015 9

逆需要関数のパラメータに変換 ベルトラン均衡価格 p A = p B = α+βc 利益 π A = π B = β β γ α+c γ β 生産量 x A = x B = β γ β(α+c γ β ) β γ 逆需要関数のパラメータに変換すると解釈がしやすい x A = α βp A + γp B p A = a x A bx B x B = α βp B + γp A p B = a x B bx A a 1 b α = β = 1 γ = b 1 b 1 b 1 b 価格 p A = p B = c + 1 b (a c) b 生産量 x A = x B = 利益 π A = π B = 1 b 1+b a c (1+b)( b) a c b Dec 5, 015 40

ベルトラン均衡 : 差別化の程度と価格 利益 逆需要関数 p A = a x A bx B p B = a x B bx A b は差別化の程度 b < 1 ( b が小さいほど差別化されている ) b 1 のとき, 同質財と一致. b = 0 のとき, 独占 ( 完全差別化 ) 価格 p A = p B = c + 生産量 x A = x B = 利益 π A = π B = 1 b 1+b 1 b (a c) b a c (1+b)( b) a c b b の増加と共に, 価格は下降, 利益は増加. b = 0 ( 完全差別化 = 独占市場 ) では, 価格 利益は独占市場に一致 b 1 ( 同質財 ) では, 価格は限界費用に一致し, 利益は0になる. 差別化が大きいほど, 価格は上昇し, 双方の利益は増加する. 含意 : 製品差別化が価格競争を緩和し, 利益を増加させる. Dec 5, 015 41

ベルトラン競争下でのコストダウン Dec 5, 015 4

ベルトラン競争下でのコストダウン ベルトラン競争下でのコストダウン A 社が限界費用を c から c Δc へコストダウンに成功したとする クールノー競争では, コストダウンした企業は生産量を増加させ, 相手企業は従来の生産量を減少させる クールノー競争では, 相手企業の生産量が不変と考えた場合より, 自企業の利益の増加は大きい 自社のコストダウンによる利益増加の効果 ( 直接効果 ) 相手企業の生産量減少による効果 ( 間接効果, 戦略効果 ) 相手企業の利益は減少する ( ライバル効果 ) ベルトラン競争ではどうか? Dec 5, 015 4

最適反応戦略の変化 両企業の最適反応戦略 企業 A 企業 B p A = γ β p B + p B = γ β p A + α + βc α + βc p A = γ β p α + βc B + 企業 B の最適反応関数は同じ βδc 均衡の計算結果は少し複雑なので, 最適反応関数の図で考察してみる. p A = α+βc β γ p B = α+βc β γ β Δc 4β γ βγ Δc 4β γ Dec 5, 015 44

グラフで見るベルトラン均衡 費用削減後の企業 A の最適反応曲線 p A = γ β p α + βc B + βδc p B α + βc β γ 費用削減後のベルトラン均衡 費用削減前のベルトラン均衡 企業 B の最適反応曲線 p B = γ β p α + βc A + 企業 A の最適反応曲線は左に移動 α + βc 費用削減前の企業 A の最適反応曲線 p A = γ β p α + βc B + α + βc α + βc βδc α + βc β γ p A Dec 5, 015 45

グラフで見るベルトラン均衡 α + βc β γ 企業 B α + βc β γ 企業 A: 費用削減後 β 4β γ Δc p B 企業 A: 費用削減前 α+βc β γ βγ 4β γ Δc p A α + βc β γ コストダウンにより, 企業 A の最適反応曲線は左に移動 均衡は左下に移動 企業 A の価格は減少 企業 B の価格も減少 逆需要関数のパラメータ表現 1 b (a c) p A = c + b 4 b Δc 1 b (a c) p B = c + b b 4 b Δc 差別化の程度と均衡 企業 A,B は,b が大きいほど ( 差別化の程度が小さいほど ) 価格を下げる ( 競争の激化 ). b = 0 では企業 B は, 企業 A のコストダウンの影響を受けない ( 完全差別 = 独占市場 ) Dec 5, 015 46

費用変化による競争への影響 : ベルトラン競争 企業のコストダウンは, 自企業だけではなく相手企業にも影響を及ぼす コストダウンした企業は価格を下げ, 相手企業も価格を下げることが最適反応 ( 利益を最大化すること ) となる これにより, 相手企業の価格が不変と考えた場合より, 自企業の利益の増加は小さい 自社のコストダウンによる利益増加の効果 ( 直接効果 ) 相手企業の価格の下落による効果は利益を減少 ( 間接効果, 戦略効果 ) 一方, コストダウンにより相手企業の利益は減少する ( ライバル効果 ) 自企業, 相手企業, 共に差別化の程度が大きいほど, 利益の減少分は小さくなる. 完全差別化 = 独占市場では, 自企業は独占市場と同じ利益増で, 相手企業は利益の変化はない. 利益と生産量の式は複雑になるので省略. Dec 5, 015 47

戦略的代替と戦略的補完 Dec 5, 015 48

クールノー vs ベルトラン : まとめ 技術開発による自社のコストダウン : 戦略効果 クールノー : 生産量や利益の増加は, 相手企業の影響を考えない時と比較して大きくなる. ベルトラン : 生産量や利益の増加は, 相手企業の影響を考えない時と比較して小さくなる. 財が同質的になるほど, コストダウンの効果は小さい. 含意 : コストダウンへの技術投資は, クールノーの時はより積極的にすべき, ベルトランの時は ( 差別化してないほど ) 消極的にすべき. 相手企業の利益への影響にも注目 クールノー ベルトラン, 共に相手の利益を減少させる. 競争形態の違いによる戦略の違いは, 様々な状況で現れる 参入企業に対する参入阻止戦略, 撤退戦略 広告やマーケティングに対する投資と戦略 特許や知的財産戦略 最低価格保証などの暗黙的な価格カルテル つの競争の違いを生み出す理由は何か? Dec 5, 015 49

クールノー VS ベルトラン : 戦略的代替と戦略的補完 クールノー競争では, 企業 A が生産量を増加させると, 企業 B は生産量を減少させることが最適反応. 相手の戦略に対し, 自分の最適戦略は逆方向に動く 戦略的代替性と呼ばれる ベルトラン競争では, 企業 A が価格を下げると, 企業 B も下げることが最適反応. 企業 A が価格を上げると, 企業 B も上げることが最適反応. 相手の戦略に対し, 自分の最適戦略は逆方向に動く 戦略的補完性と呼ばれる x B クールノー競争での企業 A の最適反応曲線 p B ベルトラン競争での企業 A の最適反応曲線 戦略的代替と戦略的補完の差は, 最適反応曲線の傾きの正負で決まっている x A p A Dec 5, 015 50

クールノー vs ベルトラン : 代替性と補完性 費用削減の効果を比較 クールノー競争 ( 生産量競争 ) ベルトラン競争 ( 価格競争 ) x B 企業 A 削減後 p B 企業 A 削減後 企業 A 削減前 企業 B 企業 B 企業 A 削減前 x A p A 費用削減は, 戦略的代替性により相手の生産量を減少させ利益を一層増加させる 費用削減は, 戦略的補完性により相手の生産量を減少させ利益の増加を鈍化させる Dec 5, 015 51

ベルトラン競争 : 補完財の場合 ここまでのベルトラン競争では差別化の程度を表す b は 0 b < 1 とした. p A = a q A bq B p B = a q B bq A ここで b < 0 の場合を許すと, 補完財関係の企業を扱える ( b < 1) パソコンとソフトウエア 周辺機器, レコーダと記録ディスク, ネット通販と物流 etc α + βc α + βc β γ p B 0 α + βc β γ 企業 A の最適反応曲線 p A = γ β p α + βc B + α + βc a 1 b α = β = 1 γ = 1 b 1 b 0 b < 1 β γ 0 企業 B の最適反応曲線 p B = γ β p α + βc A + b 1 b p A 最適反応戦略は戦略的代替の関係になる. 自社のコストダウンは, 自企業の価格を下げ, 相手企業の価格を上げる. 自企業の利益が一層増す ( 戦略効果 ) と共に, 相手企業の利益 ( ライバル効果 ) も増す. Dec 5, 015 5

全体のまとめ 不完全市場の競争形態 生産量競争 ( クールノー ) か, 価格競争 ( ベルトラン ) か? 同質財か? 製品差別化か? 企業の与件の変化は, 相手企業の行動も変化させる ( ライバル効果 ). さらにそれが自企業にフィードバックされる ( 競争効果 ) ゲーム理論による分析の意味 競争効果とライバル効果の影響がどのように現れるかは, 戦略的代替性と戦略的補完性が鍵になる. 企業数の増加は競争を激化させ (n 企業寡占のモデル ), 製品差別化は競争を緩和する. 技術開発によるコスト削減, 広告やマーケテイング効果, 特許戦略, 投資戦略, 参入と撤退などは, 上記の要因に左右される. Dec 5, 015 5

さらなる学習 経営の経済学新版 --BUSINESS ECONOMICS 丸山雅祥 ( 著 ) 有斐閣 (011) 経営的な視点から多く書かれていて, さまざまな経営戦略のキーワードや例も豊富にある. モデルの解説については少しラフである. 新しい産業組織論 : 理論 実証 政策 小田切宏之 ( 著 ) 有斐閣 (001) モデルの解説については和書で最も詳しく書かれている. 経済政策のための産業組織論. Industrial Organization: Theory and Applications Oz Shy ( 著 ) The MIT Press (1996) さまざまな Topic を解説しており, これを勉強すれば産業組織論の理論論文は読解できるようになる良いテキスト. Dec 5, 015 54