Lecture1 統合失調症 統合失調症の概要 青年期に主に発生し長期間にわたって 思考や行動などを目的に沿って行う能力が低下し 幻覚 妄想 奇異な行動などの症候がみられる疾患である 原因は明らかにされていないが ストレスへの脆弱性やドパミンの関与が示唆されている 症状は前駆症状を経て陽性症状と陰性症状が起こる 生涯有病率は 1% と言われており性差はない 発症のピークは男性で 20 歳 女性で 30 歳であり女性では 40 歳以降にもピークがある 発症の仕組みはいまだ不明であるが 発症しやすい素質と環境などの心理学的な因子がかさなって発病すると考えられている ストレス脆弱性仮説は自分の対応力を超えるストレスを受けた場合に発症が起こるという考えで 同じ程度のストレスでもより脆弱であるほうが精神症状が現れやすくなる 一方 脳内神経伝達物質の異常としてドパミン仮説が多く支持されているが それはドパミン受容体遮断薬が効果を示すことや アンフェタミンなどのドパミン作動薬が幻覚や妄想などの統合失調症様作用を示すこと 脳機能の研究により線条体からのドパミン放出が増加していることが根拠となっている 診断 診断にはアメリカ精神医学会による基準 (DSM-Ⅳ) や WHO の基準 IDC-10 が使用される 以下にアメリカ精神医学会による基準を示す (DSM-Ⅳ) A B C D E F 特徴的症状 : 以下のうち 2 つ以上を示す 各々は 1 ヶ月の期間 ( 治療が成功した場合はより短い ) ほとんどいつも存在する (1) 妄想 (2) 幻覚 (3) 解体した会話 (4) ひどく解体した または緊張性の行動 (5) 陰性症状すなわち感情の平板化 思考の貧困 または意欲の欠如妄想が奇異なものであったり 幻聴が患者の行動や思考を逐一説明するかまたは 2 つ以上の声が互いに会話しているものであるときには 基準 A の症状一つを満たすだけでよい 社会的または職業的機能の低下 障害の持続が少なくとも 6 ヶ月間存在する 分裂感情と気分障害の除外薬物乱用や一般身体疾患の除外 自閉性障害や他の広汎性発達障害の既往歴があれば 1 ヶ月以上 ( 治療が成功し場合はより短い ) 存在した場合に診断する 症状 前駆症状 神経衰弱状態や強迫などの神経症症状 抑うつが起こり登校拒否や欠勤など社会への適応不足が起きる 陽性症状 (C) 2017 NIHON CHOUZAI Co.,Ltd. 1
陽性症状には他人から危害を加えられると感じる被害妄想や自己を過大に評価する誇大妄想などの思考内容の障害 文法的に誤った発言や頻繁に会話が脱線するなどの思考過程の障害 実在しない知覚情報を感じる幻覚や幻聴などの知覚の異常がある 陰性症状 陰性症状は刺激に対する感受性が低下し無関心や喜怒哀楽の感情が鈍くなる感情の障害 自発性の低下や社会的引きこもりなどの意欲の障害などがある 分類 発生や症状の特徴などによりいくつかの亜型に分類される 妄想型 最も一般的な型であり 妄想を主体として幻覚 特に幻聴を伴う 陰性症状は顕著ではない 破瓜型 陰性症状が特徴的であり 感情の鈍麻 意識低下が起こるほか 思考障害なども見られる 妄想や幻聴は一時的であることが多い 緊張型 精神興奮 軽度の意識障害などが起こる カタレプシーが起こる場合がある Lecture2 気分障害 気分障害の概要 気分障害は文字通り通常の気分が障害される疾患であり うつ病相のみを示す単極性うつ病と躁病相と交互に繰り返す双極性障害 ( 躁うつ病 ) がある うつ病の生涯発生率は 15% と非常に高く 男性に比べると女性が特に高いといわれている (C) 2017 NIHON CHOUZAI Co.,Ltd. 2
発症の仕組みは不明であるが うつ病の発症には環境要因である周囲の心理的なサポートの不足とストレスが直接の引き金になる ストレスに対応する適応能力は遺伝因子や環境因子が関与しており そのストレス応答の機構にはセロトニンや視床下部が関与している 双極性障害では比較的遺伝因子の影響が大きいとされており 細胞のシグナル伝達を介した神経の障害が考えられている うつ病 うつ病の診断はアメリカ精神医学会の作成した基準 (DSM-Ⅳ) ではうつ病の診断で確認する項目が 9 つあり 抑うつ気分あるいは興味の低下が必須の項目となっている また 特に不眠を認めることが多く うつ病患者の 90% 以上が何らかの不眠症状を訴えている 1 その人自身あるいは他者の観察による抑うつ気分 2 興味 喜びの著しい減退 3 著しい体重減少あるいは増加 4 不眠または睡眠多寡 5 精神運動性の焦燥または制止 ( イライラや動きが少ない ) 6 易疲労性 気力の減退 7 無価値観または過剰 不適切な罪悪感 8 集中力の減退 決断困難 9 自殺企図 以上のうち 1 または 2 を含む 5 つ以上の項目が 2 週間以上存在する うつ病相の診断基準 (DSM-Ⅳ) より 双極性障害 ( 躁うつ病 ) 双極性障害は典型的な躁病相を伴うものと 軽度な躁病相を伴うものに分かれる 生涯有病率は前者で 1% 後者でも 2~3% 前後で高くは無いが再発率が高く慢性の経緯をたどることが多い 1 自尊心の肥大 または誇大 2 睡眠欲求の減少 3 普段よりも多弁であるか 会話し続けようとする心迫 4 観念奔逸 思考の競合 5 注意転導性の亢進 6 活動の増加 精神運動性の焦燥 7 無謀な行為 気分の高揚 開放的または易怒的気分が一週間以上続き 上記の 3 項目を満たす 躁病相の診断基準 (DSM-Ⅳ) より Lecture3 神経症 心身症 神経症 心身症の概要 心理的 社会環境的な要因が原因となる心因性の精神障害の中で 異常な不安を呈するものを神経症と呼び 不安そのものが主体であれば不安神経症 特定の状況などに対する恐怖であれば恐怖症 強迫観念などであれば強迫神経症と呼び 不安などの精神症状よりも潰瘍や血圧上昇など身体的な障害が主に現れる場合を心身症とよぶ 最近では原因から病名の診断をつけるのではなく状態 症状から診断をする傾向にあり 不安障害 パニッ (C) 2017 NIHON CHOUZAI Co.,Ltd. 3
ク障害 (PD) 強迫性障害 外傷後ストレス障害 (PTSD) などの分類がされている 原因は不明であるが 脳内の海馬や前頭前野など不安の感情が関わる分野に機能の異常があることが指摘されている 臨床的に使用される薬剤などから神経伝達物質はノルアドレナリン セロトニン ドパミン γ- アミノ酪酸 (GABA) などが関わっていると考えられている 症状 状態 不安障害 不安や悩みが毎日続きうまくコントロールできない状態が 6 ヶ月以上続き 心配の内容はごく一般的で仕事 金銭 健康などに関することで 妥当と見られる範囲を超えて不安が続く 従来の不安神経症に相当する パニック障害 (PD) 身体症状を伴う 非常に強い不安が急に発生する発作を起こし 動悸 心悸亢進 発汗 ふるえ 息苦しさ 胸痛 吐き気 眩暈 恐怖などが突然現れ 10 分以内に最高潮に達する 強迫性障害 強迫観念 つまり自分でも変だと思いながら感じる不安や不快感を感じ それを避けようとする行動 ( 強迫行為 ) を行う状態 またはそのどちらかを持つ状態であり 強迫行為には 手の汚れが気になり何度もあらう 鍵やガスの元栓を閉め忘れた気がして何度も確認をする などがある 外傷後ストレス障害 (PTSD) 生命の危機を感じるような出来事に直面あるいは体験 目撃し 非常に強い恐怖や無力感を感じることによって引き起こされる障害で 事後にそのときの出来事を繰り返し擬似体験する状態 Lecture4 不眠症 不眠症の概要 身体症状や精神症状など様々な原因により不眠の症状をきたすことがあるが 一過性であれば積極的な治療の必要は無い しかし 不眠症状が長期に及び身体への影響が出ると 日常生活や就労に支障を来たし さらに また眠れないのではないか? このまま眠れなかったらどうしよう? などさらに不眠症状を悪化させる不安を生じ慢性化を起こすことがある 不眠症の要因は様々であり一般に多数の要因で起こることが多く 原因を多面的に評価することが必要である 不眠を比較的起こしやすい不安や抑うつなどの性格や元来の寝つきの悪さ 40 歳を超えると見られる加齢の影響など比較的大きく変動しない基礎的要因に加え 一過性であるストレス 旅行などの促進的要因が加わり不眠を起こす 促進的な要因がすぐに取り除かれば不眠症状は改善するが 持続した不眠症状により不眠症状が続くと不眠に対する過剰なこだわりや不安などが生じ永続的要因となる 不眠症のタイプ 不眠症のタイプはいくつかの種類に分けることができるが 最も多いのは寝つきの悪い 入眠困難 である 中途覚醒 比較的他のタイプと合併することが多いが 単独の場合は睡眠時無呼吸症候群を 夜間頻尿を伴う (C) 2017 NIHON CHOUZAI Co.,Ltd. 4
場合には前立腺肥大や水分の過剰摂取を疑う 早朝覚醒 は高齢者で生理的に起こる場合も多いが うつ病でも生じることがある 治療 薬物療法では患者の様々な要因などに関わらす不眠状態を解消することができるため一般に非薬物療法よりも選択される事が多く 治療にはベンゾジアゼピン系 非ベンゾジアゼピン系 場合によってはバルビツール系の薬剤を使用する 非薬物療法は患者の生活習慣などを改善することにより不眠症自体を治療することが可能であり 理想的であるが 有効性や時間がかかることが問題である うつ病や適応障害など他の疾患の症状として不眠がある場合は併せて治療を行う (C) 2017 NIHON CHOUZAI Co.,Ltd. 5