Microsoft Word - dousanwheet_h18-19

Similar documents
<4D F736F F D CF68A4A977082C992B290AE817A B838A83938CA48B8695F18D DB D88D81816A>

2.5 味噌分析方法総ホ リフェノール量は同様に抽出し, 沖 6) の方法により測定した イソフラホ ンは, 菊地 7) ら方法により前処理し江崎 8) らに従い, 内標準を添加しイソクラチィック HPLC 法で定量分 析した イソフラホ ン以外の抗酸化成分は,HIROTA 9) らの方法に準じ前処

(別紙)

池田町特産品を用いた加工食品の開発第二報 公益財団法人とかち財団四宮紀之 共同研究 : 池田町ブドウ ブドウ酒研究所齋藤良市大渕秀樹 1. 目的および概要近年 食や健康に対する意識の高まりもあり 食酢に根強い人気があるのはよく知られている また食品に対する嗜好性の多様化もありワインヴィネガーの消費量

機酸分析 ( 株式会社島津製作所 Prominence シリーズ ) とニオイセンサによるマッピング を行なって決定した HPLC 分析条件を表 1 に示した 表 1 有機酸 HPLC 分析条件 カ ラ ム : Rspak KC-811(8.0mmID*300mmL) 2+Rspak KC-LG 溶

JASIS 2016 新技術説明会

資料2発酵乳

タチウオを原料とした魚醤油の開発

JAJP

untitled

京都府中小企業技術センター技報 37(2009) 新規有用微生物の探索に関する研究 浅田 *1 聡 *2 上野義栄 [ 要旨 ] 産業的に有用な微生物を得ることを目的に 発酵食品である漬物と酢から微生物の分離を行った 漬物から分離した菌については 乳酸菌 酵母 その他のグループに分類ができた また

合成樹脂の器具又は容器包装の規格

 

1. ばれいしょの加工食品 調理食品フレンチフライポテト ポテトフライ ポテト系スナック菓子 3 ( ポテトチップスや成型ポテトスナック ) など ( 主に 焼く 揚げる 煎るなど 120 以上で加熱したもの ) を対象とする ( 以下これらをまとめて ばれいしょ加工品 という ) 本項には アクリ

研究22/p eca

NEWS RELEASE 東京都港区芝 年 3 月 24 日 ハイカカオチョコレート共存下におけるビフィズス菌 BB536 の増殖促進作用が示されました ~ 日本農芸化学会 2017 年度大会 (3/17~

本日の内容 HbA1c 測定方法別原理と特徴 HPLC 法 免疫法 酵素法 原理差による測定値の乖離要因

鹿児島県工業技術センター研究報告 第31号 茶葉及びサトイモを活用した甘酒の開発

○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○

Concept -02-

Microsoft PowerPoint 説明資料(きのこを活用してGABA富化素材を作る)林産試験場

松澤一幸 : 菩提酛のメカニズムと微生物の遷移 11 菩提酛のメカニズムと微生物の遷移 松澤 一幸 菩提酛は, 室町時代中期に, 奈良市の郊外にある菩提山正暦寺において創製された酒母で, 現在普及している速醸酛や生酛系酒母の原型であると考えられている 1 3). この酒母の製造法は, 気温の高い時期

家政自然抜刷2004

Microsoft PowerPoint - 発酵の世界(掲載用2)

番号 11 番号 12 番号 13 番号 14 番号 15 番号 16 番号 17 番号 18 番号 19 番号 20 こいくちしょうゆうすくちしょうゆ米酢酒ワイン ( 白 ) ワイン ( 赤 ) 本みりん白みそ赤みそ八丁みそ エネルキ ー 79 エネルキ ー 55 エネルキ ー 48 エネルキ ー

Microsoft Word - タンパク質溶液内酵素消化 Thermo

卵及び卵製品の高度化基準

すとき, モサプリドのピーク面積の相対標準偏差は 2.0% 以下である. * 表示量 溶出規格 規定時間 溶出率 10mg/g 45 分 70% 以上 * モサプリドクエン酸塩無水物として モサプリドクエン酸塩標準品 C 21 H 25 ClFN 3 O 3 C 6 H 8 O 7 :

実験手順 1 試料の精秤 2 定容試料を 5%HPO3 酸で1ml に定容し 試料溶液とする この時 アスコルビン酸濃度は1~4mg/1ml の範囲がよい 3 酸化試験管を試料の (a) 総ビタミン C 定量用 (b)daa( 酸化型ビタミン C) 定量用 (d) 空試験用の3 本 (c) 各標準液

シェイクイット! ダイエットプロテインシェイク ( シリアルフレーバー ) [ID 201-JP] 15,000 ( 税込 ) 植物性タンパク質を主原料に グルコマンナン 穀物 ビタミン ミネラル 乳酸菌などを含む 栄養の偏りがちな現代人におすすめの栄養補助食品です ダイエットのために 1 食分の置

オキサゾリジノン系合成抗菌剤リネゾリド点滴静注液 リネゾリド注射液 配合変化表リネゾリド点滴静注液 組成 性状 1. 組成 本剤は 1 バッグ中 (300mL) に次の成分を含有 有効成分 添加物 リネゾリド 600mg ブドウ糖 g クエン酸ナトリウム水和物 クエン酸水和物 ph 調節

社内資料 ph 変動試験 セファゾリン Na 注射用 1g NP 2014 年 6 月ニプロ株式会社 セファゾリン Na 注射用 1g NP の ph 変動試験 1. 試験目的セファゾリン Na 注射用 1g NP は セファゾリンナトリウムを有効成分とするセファロスポリン系抗生物質製剤である 今回

食肉製品の高度化基準 一般社団法人日本食肉加工協会 平成 10 年 10 月 7 日作成 平成 26 年 6 月 19 日最終変更 1 製造過程の管理の高度化の目標事業者は 食肉製品の製造過程にコーデックスガイドラインに示された7 原則 12 手順に沿ったHACCPを適用して製造過程の管理の高度化を

SW-0778_配合変化試験成績

検査実施要領

31608 要旨 ルミノール発光 3513 後藤唯花 3612 熊﨑なつみ 3617 新野彩乃 3619 鈴木梨那 私たちは ルミノール反応で起こる化学発光が強い光で長時間続く条件について興味をもち 研究を行った まず触媒の濃度に着目し 1~9% の値で実験を行ったところ触媒濃度が低いほど強い光で長

研究要旨 研究背景研究目的 意義研究手法結果 考察結論 展望 研究のタイトル 研究要旨 ( 概要 ) あなたの研究の全体像を文章で表現してみよう 乳酸菌を用いてハンドソープの殺菌力を上げる条件を調べる手を洗う時に どのくらいの時間をかければよいのかということと よく薄めて使うことがあるので薄めても効

Microsoft PowerPoint - MonoTowerカタログ_ 最終.ppt [互換モード]

<4D F736F F D F B F934890C3928D D67836F F81754E CF93AE8E8E8CB12E444F43>

研究報告58巻通し.indd

DNA/RNA調製法 実験ガイド

食品中のシュウ酸定量分析の検討

豚丹毒 ( アジュバント加 ) 不活化ワクチン ( シード ) 平成 23 年 2 月 8 日 ( 告示第 358 号 ) 新規追加 1 定義シードロット規格に適合した豚丹毒菌の培養菌液を不活化し アルミニウムゲルアジュバントを添加したワクチンである 2 製法 2.1 製造用株 名称豚丹

表 1. HPLC/MS/MS MRM パラメータ 表 2. GC/MS/MS MRM パラメータ 表 1 に HPLC/MS/MS 法による MRM パラメータを示します 1 化合物に対し 定量用のトランジション 確認用のトランジションとコーン電圧を設定しています 表 2 には GC/MS/MS

資料 o- トルイジンの分析測定法に関する検討結果報告書 中央労働災害防止協会 中国四国安全衛生サービスセンター

求人票:リクルートスタッフィング様

Microsoft Word - TR-APA


はじめに 液体クロマトグラフィーには 表面多孔質粒子の LC カラムが広く使用されています これらのカラムは全多孔質粒子カラムの同等製品と比べて 低圧で高効率です これは主に 物質移動距離がより短く カラムに充填されている粒子のサイズ分布がきわめて狭いためです カラムの効率が高いほど 分析を高速化で

< F2D88D990AB89BB C8B4B8A6992B28DB88C8B89CA816989EF>

スライド 1

2009年度業績発表会(南陽)

4. 加熱食肉製品 ( 乾燥食肉製品 非加熱食肉製品及び特定加熱食肉製品以外の食肉製品をいう 以下同じ ) のうち 容器包装に入れた後加熱殺菌したものは 次の規格に適合するものでなければならない a 大腸菌群陰性でなければならない b クロストリジウム属菌が 検体 1gにつき 1,000 以下でなけ


食品には たんぱく質や脂質 炭水化物などの栄養成分が含まれています 私たちが健康な生活を送ることができるのは 食品から必要な栄養を必要な量とっているからです 食材を加熱すると 食材に天然に含まれている成分から新たな成分ができることがあります それによって 例えばパンを焼いたときの美味しそうな色 コー

<4D F736F F D E9197BF815B A8DC58F498F8895AA8FEA82C982A882AF82E997B089BB E646F63>

マキサカルシトール軟膏 25μg /g CH の配合変化試験 配合薬剤目次 1. 副腎皮質ホルモン剤 メサデルム0.1% 6 アルメタ軟膏 3 リドメックスコーワ軟膏 0.3% 6 アンテベート軟膏 0.05% 3 リンデロン-DP 軟膏 7 アンテベート0.05% 3 リンデロン-V 軟膏 0.1

R 白神こだま酵母の利活用 特徴 乾燥 浸透圧等の環境ストレスに対して耐性の高い酵母と糖アルコールにより増殖 発酵を制御します 実用化が見込まれる分野 酵母を利用が可能な産業 実用化実績 : 有 現状 : 評価段階 サポート : 実用化まで共同研究等により支援 特許 酵母 冷凍パン生地 乾燥パン酵母

2,3-ジメチルピラジンの食品添加物の指定に関する部会報告書(案)

血糖値 (mg/dl) 血中インスリン濃度 (μu/ml) パラチノースガイドブック Ver.4. また 2 型糖尿病のボランティア 1 名を対象として 健康なボランティアの場合と同様の試験が行われています その結果 図 5 に示すように 摂取後 6 分までの血糖値および摂取後 9 分までのインスリ

スライド 0

DNA 抽出条件かき取った花粉 1~3 粒程度を 3 μl の抽出液 (10 mm Tris/HCl [ph8.0] 10 mm EDTA 0.01% SDS 0.2 mg/ml Proteinase K) に懸濁し 37 C 60 min そして 95 C 10 min の処理を行うことで DNA

細辛 (Asari Radix Et Rhizoma) 中の アサリニンの測定 Agilent InfinityLab Poroshell 120 EC-C µm カラム アプリケーションノート 製薬 著者 Rongjie Fu Agilent Technologies Shanghai

4. 方法今回の実験にはトウモロコシを用い 糖度と見た目の腐敗度合いの 2 つを鮮度とした 糖度は 減少の幅が小さいほど鮮度が大きいとする 見た目の腐敗の度合いは カビの生え方 痛み方などから判断した 保存中のトウモロコシの粒を採取し その搾出液の糖度を測定する 1 回目の実験 まず トウモロコシを

(Microsoft Word \203r\203^\203~\203\223\230_\225\266)

(5) モッツァレラチーズの硬さ試作品を半分に切断し 切断面を下にして上から 1cm 押圧した時の負荷荷重 (g) をテクスチャーアナライザー (Stable Micro Systems 社 TA-XT2 Probe: 円筒形 φ20mm Test Speed: mm/s) にて測定した 3. 結果

<4D F736F F F696E74202D20819A835A A81798E9197BF A826F E096BE8E9197BF2E >

神戸女子短期大学論攷 57 巻 27-33(2012) - ノート - 果実によるタンパク質分解酵素の活性検査 森内安子 Examination of the Activation of Enzyme Decomposition in Fruits Yasuko Moriuchi 要旨果実に含まれて

166 太田義雄 (2) トレハロースとカルシウム塩の併用添加同一の漬菜株を4 等分に分割し, 下記の4 試験区を調製した 1 対象区 (3% 塩水のみ ) 2 トレハロース4%+3% 塩水 3 トレハロース4%+3% 塩水 + 乳酸カルシウム0.5% 4 トレハロース4%+3% 塩水 + 乳酸カル

加工デンプン(栄養学的観点からの検討)

SSH資料(徳島大学総合科学部 佐藤)

■リアルタイムPCR実践編

Gen とるくん™(酵母用)High Recovery

目 次 1. はじめに 1 2. 組成および性状 2 3. 効能 効果 2 4. 特徴 2 5. 使用方法 2 6. 即時効果 持続効果および累積効果 3 7. 抗菌スペクトル 5 サラヤ株式会社スクラビイン S4% 液製品情報 2/ PDF

ト ( 酢酸 ) を用いた ( 図 1) 各試薬がすでに調合されており操作性が良い また この分析方法は有害な試薬は使用しないため食品工場などでの採用が多く ISO などの国際機関も公定法として採用している F-キット ( 酢酸 ) での測定は 図 1の試薬類と試料を 1cm 角石英セル に添加し

EC No. 解糖系 エタノール発酵系酵素 基質 反応様式 反応 ph 生成物 反応温度 温度安定性 Alcohol dehydrogenase YK エナントアルデヒド ( アルデヒド ) 酸化還元反応 (NADPH) 1ヘプタノール ( アルコール ) ~85 85 で 1 時

IC-PC法による大気粉じん中の六価クロム化合物の測定

Pyrobest ® DNA Polymerase


<4D F736F F F696E74202D C8E8DC58F4994C5817A88C092E890AB A835E838A F2E B8CDD8AB B83685D>

別紙様式 (Ⅱ)-1 添付ファイル用 本資料の作成日 :2016 年 10 月 12 日商品名 : ビフィズス菌 BB( ビービー ) 12 安全性評価シート 食経験の評価 1 喫食実績 ( 喫食実績が あり の場合 : 実績に基づく安全性の評価を記載 ) による食経験の評価ビフィズス菌 BB-12

参考 < これまでの合同会合における検討経緯 > 1 第 1 回合同会合 ( 平成 15 年 1 月 21 日 ) 了承事項 1 平成 14 年末に都道府県及びインターネットを通じて行った調査で情報提供のあった資材のうち 食酢 重曹 及び 天敵 ( 使用される場所の周辺で採取されたもの ) の 3

平成27年度 前期日程 化学 解答例

マヨネーズの新しい「裏ワザ」研究

はじめに ベイピングとも呼ばれる電子タバコが普及するにつれて 電子タバコリキッドに含まれる化合物の分析も一般的になりつつあります 電子タバコリキッドは バッテリ式加熱ヒーターで加熱するとエアロゾルになります 1 液体混合物中の主成分は プロピレングリコールとグリセロールの 種類です 主成分に加えて

酒類総合研究所標準分析法 遊離型亜硫酸の分析方法の一部修正

HACCP 自主点検リスト ( 一般食品 ) 別添 1-2 手順番号 1 HACCP チームの編成 項目 評価 ( ) HACCP チームは編成できましたか ( 従業員が少数の場合 チームは必ずしも複数名である必要はありません また 外部の人材を活用することもできます ) HACCP チームには製品

Sustainability Report 2007

CERT化学2013前期_問題

国立信州高遠青少年自然の家お弁当一覧 1 活動弁当 A( おにぎり 2 個 ) 2 活動弁当 B( おにぎり 3 個 ) 3 特定原材料 7 品目不使用活動弁当 4 幕の内弁当

Microsoft Word - 41ET

<4D F736F F D F90858C6E5F C B B B838B>

PowerPoint プレゼンテーション

Microsoft PowerPoint - 薬学会2009新技術2シラノール基.ppt

Microsoft PowerPoint - 13.ビール酵母錠剤化.ppt

日本食品成分表分析マニュアル第4章

Western BLoT Immuno Booster

New Color Chemosensors for Monosaccharides Based on Azo Dyes

武蔵 狭山台工業団地周辺大気 環境調査結果について 埼玉県環境科学国際センター 化学物質担当 1

Microsoft PowerPoint -

Transcription:

道産小麦の有効利用に関する研究 ( 第 1 報 )~ 十勝発白醤油の検討 ~( 平成 18 年度 ) 研究開発課川原美香 四宮紀之 大庭潔 永草淳 1. 研究の目的と概要十勝は国内で最大の小麦生産地であり 収穫された小麦は主にめん用の原料として本州方面に出荷されている 小麦は米とともに主食原料としての役割を果たすとともに輪作作物として欠かすことのできない重要な作物となっている また 近年 地産地消に向けた取り組みが活発化し 十勝地域における小麦の有効利用が期待されている 小麦の用途としてはパン めん 菓子が主体になっているが 地域の特産品として PR するために新たな用途開発が求められている そのような状況のもと 地域の食品会社から北海道では製造例がない地域産小麦を用いた白醤油の提案があり 色調が薄く なおかつ香り豊かな白醤油の製造を目的として試験に取り組むこととなった 本報では十勝産小麦を原料として醤油製造試験を行い 特に乳酸菌を利用した色調低下の検討を行ったので報告する 2. 試験方法 (1) 醤油麹白醤油の原料としては一般的には小麦が主体になり 普通醤油の原料に使用される大豆は着色しやすいため少量もしくは使用しないことが多い 本試験では製造時に機械的な脱色工程を行わないことを想定し 着色をなるべく抑えるために農産原料を小麦のみで検討することとした また 比較対照として通常の醤油製造に用いられている醤油麹もあわせて発酵試験を行った 試験に用いた麹は以下のとおりである 1 小麦麹 ( ホクシン 精白品 )~ 白醤油用 2 小麦 + 大豆麹 ( ホクシン : トヨマサリ =6:5)~ 通常の醤油用 図 1 試験に用いた麹 ( 左 :1 右 :2) (2) 醤油の醸造試験以下の配合で醤油の醸造試験を行った 麹 8g 塩 32g 水 1,28g 原料を 2L ボトルに入れ 醤油用酵母 :Z.rouxii 5.8 1 4 /ml を添加 3 で保管し 1 日 1 回攪拌 (3) 乳酸菌の添加試験醤油の着色は糖とアミノ酸のメイラード反応によるところが大きい 特にペントースは加熱がかからなくてもメイラード反応を進行しやすく 白醤油の着色に影響を与える そこで 醤油の発酵過程で生成するペントースを資化するような乳酸菌 (P. pentosaceus ) を (2) の試験条件で別途添加し 添加していないものとの着色の度合いを比較した なお P. pentosaceus はあらかじめ 乳酸菌培養用の GYP 培地 ( グルコースをキシロース アラビノースに代替することで改変 ) にて培養し それぞれの糖を資化し減少させることを確認した 各試験区とも 発酵過程における ph 可溶性窒素 遊離アミノ酸 有機酸 糖の測定を行った

3. 試験結果と考察 (1) 麹の比較小麦麹と小麦 + 大豆麹を用いた醤油試作品の 1 ヶ月発酵後の状態を図 2 に 発酵過程における ph と可溶性窒素の推移をそれぞれ図 3 4 に示した 小麦麹だけの試作品は通常の大豆麹入りのものと比較して色調が薄くなった また 小麦麹の場合 通常の醤油麹よりも ph の低下が早く うま味の指標となるたんぱく分解物が少なかった たんぱく質の含量は小麦よりも大豆が高いために 結果的にうま味成分が低くなることが考えられ 白醤油の PR 点としては独自のフレーバー成分に着目する等の検討の余地があると考えられた 5.8 5.6 5.4 5.2 5 小麦小麦 + 大豆 4.8 4.6 1 回目 2 回目 3 回目 4 回目 5 回目 6 回目 図 2 麹別醤油試作品の比較 ( 右 : 小麦麹 左 : 小麦 + 大豆 ) 図 3 麹別醤油試作品の ph の推移図 [%] 1.9.8.7.6.5.4.3.2.1 1 回目 2 回目 3 回目 4 回目 5 回目 6 回目 小麦小麦 + 大豆 ク ルタミン酸 [mg/1ml] 小麦 57 小麦 + 大豆 538 図 4 麹別醤油試作品の可溶性窒素の推移 ( 右表はそのうちのグルタミン酸含量 ) (2) 乳酸菌の添加試験小麦麹で P. pentosaceus を添加したものとしないもので試作試験を行い 発酵 1 ヶ月目に醤油の品質に影響すると考えられる ph 全窒素 グルタミン酸 アスパラギン酸 乳酸 酢酸 ピログルタミン酸の分析を行った 各分析値について表 1 に示した また 試作品について発酵 3 ヶ月後の色について図 5 に示した 乳酸菌添加をしない小麦麹の白醤油試作品は市販品と比較して ph 全窒素の数値から同等以上の発酵が進んだと考えられたが 乳酸 酢酸の生成は少なかった 乳酸菌を添加した試作品は ph 低下とともに最も発酵が進んでいたと考えられ さらに図 5 に見られるように褐変が著しく抑制された このことは発酵中の ph も影響している可能性が考えられた ただし 酸味が増しすぎることが懸念されるために 乳酸菌の添加条件について更に検討する余地があると考えられた

表 1 白醤油試作品および市販品の比較 ph 全窒素 ク ルタミン酸 アスハ ラキ ン酸 (%) (mg/1ml) (mg/1ml) 小麦麹 4.96.6 57 42 小麦麹 ( 乳酸菌添加 ) 4.31.65 14 52 市販白醤油 4.97.53 乳酸 酢酸 ヒ ロク ルタミン酸 (mg/1ml) (mg/1ml) (mg/1ml) 小麦麹 n.d. 16 739 小麦麹 ( 乳酸菌添加 ) 763 n.d. 224 市販白醤油 48 44 621 乳酸菌なし 乳酸菌添加 図 5 白醤油試作品の比較 4. まとめ白醤油の着色を抑えるためには乳酸菌を用いて前発酵を行い ph 低下を早期に促進させることが有効と考えられた 白醤油は原料を小麦だけ用いることでも製造可能であったがうま味成分は通常の醤油より低く 保存中の着色も進行した 白醤油独特の香りを増強させるためにフレーバーを付与するような発酵菌の検討を今後行うことが特色ある製品づくりに有効であると考えられた

道産小麦の有効利用に関する研究 ( 第 2 報 )~ 十勝発白醤油の検討 ~( 平成 19 年度 ) 研究開発課川原美香 野口環 四宮紀之 1. 研究の目的と概要十勝は国内で最大の小麦生産地であり 収穫された小麦は主にめん用の原料として本州方面に出荷されている 小麦は米とともに主食原料としての役割を果たすとともに輪作作物として欠かすことのできない重要な作物となっている また 近年 地産地消に向けた取り組みが活発化し 十勝地域における小麦の有効利用が期待されている 小麦の用途としてはパン めん 菓子が主体になっているが 地域の特産品として PR するために新たな用途開発が求められている そのような状況のもと 地域の食品会社から北海道では製造例がない地域産小麦を用いた白醤油の提案があり 色調が薄く なおかつ香り豊かな白醤油の製造を目的として試験に取り組むこととなった 前年度の試験で 発酵初期の乳酸菌による ph 低下が白度保持に有効であったことから 今年度は発酵時に良い香りを生成するような発酵菌の検討を主に行った 2. 試験方法 (1) 小麦と大豆の前処理白醤油の原料は一般的に小麦が主体になり 普通醤油の原料に使用される大豆は着色しやすいために少量使用もしくは使用しないことが多い 前年度の試験では 1% 小麦の麹で検討したが 旨味の少ないものとなったため 今年度は小麦 : 大豆 (9:1) の混合麹で試作することとした 1 小麦の前処理原料には醸造用として用いられているタクネコムギを用いた 製麹前に小麦を精白処理する効果について調べた 小麦の表面を削って精白した小麦と未処理の小麦各 2gに水 2ml を添加し 加熱した際の熱水抽出液の色調を比較した 2 大豆の前処理原料にはトヨマサリ ( 流通名 ) を用いた 製麹前には通常 大豆の焙煎工程を入れるが 剥皮を焙煎前後のどちらに行った方が良いかを調べた 小麦と同様の条件で熱水抽出液の外観と香りを比較した (2) 発酵菌の選択試験以下の配合で醤油の醸造試験を行った 麹( 小麦 : 大豆 =9:1) 8g 塩 32g 水 1,28g 原料を 2L ボトルに入れ 醤油用酵母 :Z.rouxii(1.7 1 4 /ml) を添加した 発酵は 3 で行い 1 日 1 回攪拌した 2 週間ごとにサンプリングを行い 発酵推移を調べた 1 酵母の選択発酵菌メーカー 3 社から 6 種類の酵母を入手して 同一もろみ液に添加し (2.6 1 5 /ml) 3 4 日間発酵させた後の香りの良さを比較して最も良いと思われる酵母を選択した 以下の発酵試験については全て 選択した酵母を使用することとした 2 麹菌の選択発酵菌メーカー 3 社から白醤油用の麹菌を 1 種類ずつ ( 合計 3 種 :A B C) 入手して発酵状態の推移について ph および可溶性窒素を測定し比較を行った 各麹のα-アミラーゼ活性 酸性カルボキシペプチダーゼ活性および試作最終品 3 点 市販の白醤油 1 点の ph グルコース 乳酸 エタノール グルタミン酸 アスパラギン酸含量を測定した 3 GC-MS によるフレーバー分析試作最終品および市販白醤油のフレーバー成分を GC-MS 分析して比較した バイアル管に密閉した各サンプルのヘッドスペース中の揮発成分を SUPELCO 社の SPME(PDMS/DV B Carboxen/PDMS 併用 ) によって捕集し GC-MS 分析を行った GC-MS の分析条件を以下に示した 機器 : 島津ガスクロマトグラフ質量分析計 GCMS-QP21 カラム :TC-WAX(6m.25mm i.d. 膜厚.5μm シ ーエルサイエンス ) キャリアガス :He ガス圧 2kPa インジェクション温度 :25 オーブン温度 :45 (2min) 22 (1 /min 1min hold) 25 (2 /min) インターフェイス温度 :25

4 乳酸菌の選択前年度の試験で乳酸菌を用いて発酵初期の ph を低下させることにより 醤油の白度を保つことが示唆されたことから 発酵菌メーカー 3 社から 5 種類の耐塩性乳酸菌を入手して 同一もろみ液に添加し ph 低下を比較した 3. 結果および考察 (1) 小麦と大豆の前処理精白処理した小麦と未処理のものを比較したところ 明らかに精白処理した方が着色が少なかった ( 図 1) また 精白処理を行った場合でもたんぱく質含量にさほど損失はなかったことから 白醤油製造では精白処理を行うことが有効であると考えられた 焙煎後剥皮した大豆と剥皮後焙煎したものを比較したところ 焙煎後剥皮の方が香りが良く 剥皮後焙煎では焦げやすく 液もくすんだものとなるため 焙煎後剥皮が前処理法として適していると考えられた ( 図 2) 図 1 小麦の熱水抽出液 ( 左 : 精白処理 右 : 未処理 ) 図 2 大豆の熱水抽出液 ( 左 : 焙煎後剥皮 右 : 剥皮後焙煎 ) (2) 発酵菌の選択試験発酵菌メーカー 3 社から入手した 6 種類の酵母のうち醤油発酵時の香りが最も良いと思われた酵母を選択して麹菌の選択試験を行った 発酵菌メーカー 3 社から白醤油用の麹菌を 1 種類ずつ ( 合計 3 種 :A B C) 入手して発酵試験を行い 発酵の目安となる ph 可溶性窒素の推移を図 3 図 4 に示した また それぞれの麹菌で調製した麹の酵素活性と最終試作品の代表的な成分の分析値を表 1 に示した p H [%] 可溶性窒素 5.4.6 5.2.5 5. 4.8 4.6 4.4 A B C.4.3.2.1 A B C 4.2 2 4 6 8 [weeks] 2 4 6 8 [weeks] 図 3 麹別試作品の ph の推移 図 4 麹別試作品の可溶性窒素の推移 表 1 麹の酵素活性と最終試作品の成分分析値 麹 白醤油 α アミラーセ 活性酸性カルホ キシヘ フ チタ ーセ ph ク ルコース乳酸エタノールク ルタミン酸アスハ ラキ ン酸 [U/g(DW)] [U/g(DW)] [g/1ml] [mg/1ml] [%] [mg/1ml] [mg/1ml] A 3764 78 4.6 1.8 1736 1.9 83 33 B 4474 59 4.6 8.7 1713 1.9 115 31 C 553 73 4.6 8. 1674 2.4 87 3 市販品 4.7 11.7 72 3.4 64 22

麹別試作品の発酵中の ph 推移は A~C で違いは見られなかった 可溶性窒素は A が B C より高い数値で推移し より発酵が進んでいると考えられた 各麹の酵素活性については違いが見られたが 発酵試験終了後の白醤油の代表的な成分含量にさほど影響は見られなかった 各試作品と市販の白醤油と比較すると試作品は乳酸含量が 2 倍以上と高かったが うま味の指標成分も市販品以上に含まれ 十分な発酵が行われたものと判断された なお 市販品はアルコール添加がされているのでエタノール含量が高くなっていると考えられた その他の所見として 麹調製時に A の麹が他のものより生育が早く 発酵後の白醤油も最も良い香りが感じられた (3)GC-MS によるフレーバー分析 (2) の試験で試作品 A の香りが良いと思われたことから フレーバー成分を GC-MS 分析して比較することとした その結果 醤油の良い香りの指標になると考えられる成分に Phenethyl alcohol と 4-Hydroxy-2-ethyl-5-methyl-3(2H)-furanone(HEMF) が検出された Phenethyl alcohol は試作品 Bが最も高く ( 図 5) HEMF は試作品 A が最も高かった ( 図 6) 市販の白醤油についてはこれらの成分がほとんど検出されなかった よって 今回の試作品はいずれも市販品よりも香り豊かなものと考えられ 実際にかいだ香りの良さから考えても試作品 A が最も目的に適したものと考えられた Phenethyl alcohol(mic91) HEMF(MIC142) 6 35 5 3 4 25 Intensity 3 2 Intensity 2 15 1 1 5 市販品試作品 A 試作品 B 試作品 C 市販品試作品 A 試作品 B 試作品 C 図 5 Phenethyl alcohol 量の比較 図 6 HEMF 量の比較 (4) 乳酸菌の選択発酵菌メーカー 3 社から 5 種類の耐塩性乳酸菌を入手して もろみ液に添加し ph 低下を比較した結果 いずれの菌も発酵初期の乳酸生成が弱い傾向にあった そこで 醤油工場に常在する乳酸菌から乳酸生成能が高い菌を分離し オリジナル菌として発酵初期に添加することを検討した サンプリングした中から最も可能性が高い乳酸菌として L. mesenteroides を分離 同定した 今後 工場レベルで製造を行った場合の菌相の推移と白醤油の品質がどのように関係してくるのかを検討し より現実の製造に反映できるような条件補正を行うことが必要と考えられた 4. まとめ 風味の良い白醤油を製造するための条件を検討し 最適な発酵菌の選択を行った 本試験で確立した製造条件によってフェネチルアルコール HEMF 等の香り成分が豊かな白醤油の製造が可能であった 白醤油の白度を保つために発酵初期の ph 低下を期待できるような乳酸菌の分離を行った