報告様式 12 整理番号 SG150145 活動番号 A-001 科学研究実践活動のまとめ 1 タイトル高知県の夜空の明るさ 2016 2. 背景 目的 夜空の明るさ とは何かは, 平成 10 年 3 月に環境省が発行した 光害 ( ひかりがい ) 対策ガイドライン の中で, 夜空の明るさとは地上から大気を通して星を観測する際の背景の明るさ ( 輝度 ) のことをいう と定義されている 1960 年代以降世界各地の都市化の進展によって大気汚染が進行するとともに, 野外照明が増え続けた結果, 特に都市郊外の天文台において観測環境の悪化が生じてきた これに伴い "Light pollution", 日本においては 光害 ( ひかりがい ) という言葉が使われはじめた 光害は星を見にくくするだけでなく, 動植物の成長や生態系, 人間生活にも悪影響を及ぼしている 夜空の明るさは, 人工照明の光が水平より上に漏れる事により, 大気や大気中の水分やチリ ホコリなどに散乱されて起こる 言いかえると, 地上から宇宙に向けて上がっていた光が, 夜空にあるチリや水分でできた夜空のスクリーンに当たって夜空が明るくなることである また, 宇宙に向けて進んでいった光は散乱によって夜空を明るくするだけでなく, 宇宙から見た地球の陸地をくっきり浮かび上がらせている これは, 地上を照らさない無駄な電気エネルギーが大量にあることを意味している ( 図 1) 図 1 夜の日本列島 土佐塾高等学校は, 標高 200m の小高い山の上にあるので高知市内を一望できる環境にある 夜は高知市内の夜景が大変きれいに見える ( 図 2) しかし, 最近はゴルフ場や大型ショッピングセンターなどが次々につくられ, それらの施設から出る照明のため, 街の夜空が明るくなり, 星が見にくくなってきた 天文部としても 10 年以上前から環境省が実施している 全国星空継続観察 ( スターウォッチング ネットワーク ) に高知市内の結果を報告し続けてきた 天文部でも自分たちでどれくらい高知の夜空が明るくなってきたか夜空の明るさを調査しようと考え,6 年前から スカイクオリティメーター を用いて, 高知市周辺の夜空の明るさを観測してきた 今までの研究で夜空の明るさの時間経過率や夜空の明るさの月の影響などを調べ,6 年間の研究で求めた夜空の明るさの時間経過率や月の影響などの補正式を用いて, 高知市内の夜空の明るさマップを作成した 本研究では, 今まで観測したデータから夜空の明るさの季節変化の傾向を調べた また,3 年前に行った肉眼による夜空の明るさの観察をもう一度行い,3 年前と比較した そして, スカイクオリティメーターを用いて全天スキャンを行った その結果から地上からの光を散乱する層の高度を求めてみた 図 2 土佐塾高等学校から見た高知市の夜景 ( 左 : 東の方向, 右北西の方向 )
3. 方法 夜空の明るさの測定のため, 全国星空継続観察 ( スターウォッチング ネットワーク ) で行っていた目で見ての観測では個人差や経験の差が出たり, フィルムカメラやデジタルカメラを用いての観測では, 撮影後に特殊な画像処理が必要になってくるため簡単にはできない そこで, 簡単に定量的に測定するために, 図 3 の ユニヘドロン 社の スカイクオリティメーター (SQM-L) ( 以降 SQM-L とする ) を使用して観測を行った この機械は, 科学的に測定された数値で, 一目で夜空の明るさを確認することが可能である SQM-L は, 夜空の明るさを観察したい方向にセンサー部分を向けて, ボタンを押すだけである SQM-L は角度約 20 の光の円錐形の 1/2( 約 10 ) をスキャニングして, 光子をカウントし, 夜空の明るさを 1 平方秒角当たりの 光度 ( 等級 / 平方秒角 ) で表す ( 図 4) この表示される数値が大きけ 図 3 スカイクォリティメーター れば大きいほど空が暗いという意味である 例えば 17 と測定された星空では 満月 が煌々と照らされている夜空の状態であり, 21 以上 と測定された場合は, ほぼ真っ暗な状態を意味する 天文部も 6 年前から行ってきた SQM-L を用いての高知市周辺の夜空の明るさの測定では,SQM-L のセンサー部分を天頂方向に向けて 5 回測定し, その中央値を測定結果として用いることにした 図 4SQM の測定範囲 また,SQM を LAN 回線でコンピューターと接続できるもの (SQM-LE) を学校の屋上に S QM のセンサー部分を天頂方向に向けたものを設置した ( 図 5) そして, SQM Reader ( 図 6) というコンピューターソフトを用いて 10 分ごとに自動的に観測データを取得した 図 5 屋上に設置した SQM-LE 図 6 SQM Reader
4. 結果 考察 4-1 夜空の明るさの季節変化 土佐塾中高等学校の屋上に SQM-LE を 2012 年 9 月に設置し,2016 年 5 月まで約 4 年間継続して観測を行ってきた SQM-LE の観測結果のうち 18:00~ 翌日 6:00 まで 10 分間おきに測定したデータをグラフに表したものが図 7 で, 図は 2016 年 3 月の 1 カ月間の観測結果です 夜空の明るさ (( 等級 / 平方秒角 ) 20.7 20.6 20.5 20.4 20.3 20.2 20.1 19.9 20 19.8 19.7 19.6 19.5 19.4 19.3 19.2 19.1 18.9 19 18.8 18.7 18.6 18.5 18.4 18.3 18.2 18.1 17.9 18 17.8 17.7 17.6 17.5 17.4 17.3 17.2 17.1 16.9 17 16.8 16.7 16.6 16.5 16.4 16.3 16.2 16.1 15.9 16 15.8 15.7 夜空の明るさの観測データ (2016 年 3 月 ) 6:00 5:30 5:00 4:30 4:00 3:30 3:00 2:30 2:00 1:30 1:00 0:30 0:00 23:30 23:00 22:30 22:00 21:30 21:00 20:30 20:00 19:30 19:00 18:30 18:00 図 7 SQM-LE の 2016 年 3 月の観測データ このうち, 夜空の明るさが 20.0 以上になった日は, 月や雲のなどの影響が比較的少ない日であるので,1 カ月間で 20.0 以上になった日の中央値を調べ, グラフに表したものが図 8 である 図 8 SQM-LE の月 ごとの変化
次のような傾向があること分かった 1 2 月から 4 月にかけて SQM-LE の値が減少している ( 夜空が明るい ) これは, この時期に中国からの黄砂やスギなどの花粉, 乾燥よってチリやホコリが舞い上がることが多いことと関係しているのではないかと考えられる 2 冬は全体的に SQM-LE の値が大きい ( 夜空が暗い ) 冬は一般的に空気が澄んでいると言われるがその傾向が SQM の値にも出ていると考えられる 3 6,7,9 月で SQM-LE の値が大きい ( 夜空が暗い ) 6,7 月は梅雨,9 月は秋雨の時期である しかし, 雨が降った後は夜空の明るさを明るくしている原因であるチリやホコリが雨によって減少するので,SQM の値が大きく, 夜空が暗くなるのではないかと考えられる 4 2015 年 6 月から SQM-LE の値が, 例年より大きい ( 夜空が暗い ) SQM-LE の老朽化による測定値への影響を考えて, 違うものを設置して同時に測定してみたが, ほとんど差は認められなかった 4-2 夜空の明るさの肉眼による観察 私たちは, 夜空の明るさを SQM-L で高知市内の色々なところで測定してきました もっと, 色々な人に星を見てもらい夜空の星がどれくらい見にくくなってきているのかを知ってもらうためにも誰もが見たことのある冬の代表的な星座であるオリオン座周辺の星が肉眼で何等星まで見えるかを観察してもらいました 観察のために図 9 のような観察シートを全校生徒 教職員に配布して観察に協力してもらった 図 9 夜空の明るさ観測シート ( 左 ) と配付資料 ( 右 ) 今回は観察では 144 人の生徒 教職員などに協力してもらいました
今回と同様の調査を 2013 年 2 月 ( 参加者 197 人 ) にも行っていたので, そのときの結果と今回の結果の比較を行ってみた 2013 年 2 月実施 図 10 肉眼による夜空の明るさの観察結果 ( 左 :2013 年 2 月実施右 :2016 年 2 月実施 ) 今回の調査結果と 3 年前の調査結果を比較するために, 高知市のデータだけを取り出して 0 等星から 7 等星までの見えた人の数を割合で表してみた 結果は, オリオン座の三つ星の左下にある小三つ星まで見えたが見えた人の割合が 2013 年は 47% に対して,2016 年は 53% でした 4 等星以上が見えた人の割合が増加している これは, 高知市の夜空が全体的に少し暗くなったと考えられる この結果は,2015 年 4 月ごろから SQM-LE の観測値が少し増加したことと一致するのではないかと考えられる ただ, その原因が何にあるのかは今後の検討課題である 4-3 SQM-L による全天スキャン 今までは,SQM-L を天頂や天の北極に向けて測定していたが, 先行研究として行っている全方角 全高度に SQM-L を向けて夜空の明るさを測定する全天スキャンを行った これを行うことによってそれぞれの観測点のどの方角どの高度が夜空が明るいか暗いかを調べることができる 方法としては図 11 のように, スマートホンの自撮り棒の先の部分を三脚に取り付けて SQM-L を固定した SQM-L のスキャニング角度が 20 なので, コンパスで方角を, クリノメーターで高度を調べながら, 方角は 0,20 360, 高度は 10,30 90 を 20 刻みでそれぞれ 5 回測定し, その中央値を測定値とした 図 11 全天スキャン用 SQM-L
今回は,2 年前に作成した高知市の夜空の明るさマップ ( 図 12) で, 夜空の明るさが 20 等級以上の高知市周辺の 2 地点で ( 春野町東諸木, 高知新港 ) 観測を行ってみた 全天スキャンした結果を天球上に表したものが図 13 と図 14 である 方角は北が 0 で南が 180 である 高知新港 春野町東諸木 図 12 高知市の夜空の明るさマップ 高知市内が方角で 320~340 の方角にあるので, その方角が明るくなっている 南側が太平洋の方向になるので, 天頂から南の方に向かって夜空の明るさが暗くなっている 図 13 高知新港の全天スキャンした結果 高知市内が方角で 340 ~40 の方角にあるので, その方角が明るくなっている 南側が太平洋の方向になるので, 天頂から南の方に向かって夜空の明るさが暗くなっていて, 高知新港に比べて南側に光源が何もなかったので, 下の方まで 20 等級の範囲が続いている 図 14 春野町東諸木の全天スキャンした結果
今までの研究では, 図 12 の高知市の夜空の明るさマップの偏りから地上からの光を散乱する層が地上から 2km の所にあるという結果を求めた そこで今回は別の方法で求めるために, 全天スキャンの結果を利用した 今回の測定して高知市内の方向を見たとき,2 カ所とも地上からの光が散乱して地上に近いところで白く見える範囲があり, この部分に地上からの光を散乱する層が存在するのではないかと考え, 高知市内の 2 カ所で観測した SQM の全天スキャンのデータから地上からの光を散乱する層の高度を求めた 白く見える範囲が,SQM の値で 18 等級と 19 等級の境界付近になっていることが, 観測で分かった 2 つの観測点で全天スキャンした結果から, 高知市内の方向で最も明るいところで,18 等級と 19 等級の境界の高度を図 13,14 から測定し, 地上からの光を散乱する層の高度を求めた 高知新港と春野町東諸木のそれぞれの場所で, 高知市に方面で 18 等級と 19 等級の境界が一番高いところに地上からの光を散乱する層があると仮定して, 図 13,14 からそれぞれ方位と高度を調べた 高知新港 方位 320 高度 34 春野町東諸木 方位 17 高度 31 高知新港 春野東諸木 図 15 全天スキャンの場所と散乱層の方角
観測結果の測定した値から図 16 のような方法で高度を求めた 春野町東諸木と高知新港の間の距離を地図上で求め, それぞれの場所から高知市に方面で 18 等級と 19 等級の境界が一番高いところの方位に直線を引き, その交点の上空に地上からの光を散乱する層がある場所と考えた そこで, 交点の場所とそれぞれの観測点でできる三角形をつくり, 三角形の頂点の角度とそれぞれの頂点の間の距離を求めた 春野町東諸木から地上からの光を散乱する層の高度 ( 仰角 ) は31 であったので, 地上からの光が散乱する層の高度 = 7.5[km] tan31 4.5 [km] 高知新港から地上からの光を散乱する層の高度 ( 仰角 ) は34 であったので, 地上からの光が散乱する層の高度 = 5.38[km] tan34 3.6 [km] 地上からの光を散乱する層 高度 3.6~4.5km 春野町東諸木 31 34 7.50km 55 5.38km 45 80 6.23km 高知新港 5. まとめ 図 16 地上からの光を散乱する層の高度 SQM-LE の結果から季節による変化が認められた 春は夜空が明るく, 冬は夜空が暗い 梅雨や秋雨などの後にチリ ホコリが少ないときに夜空が暗くなる 2015 年 6 月から SQM-L E の値が少し大きくなった ( 暗くなった ) 肉眼による夜空の明るさの観察結果から高知市の周辺は 3 年前の同様の観察結果と比べて, 夜空が少し暗くなっていることが分かった この結果は SQM-LE の結果と一致している 夜空の明るさの全天スキャンの結果, 高知市内の側が夜空が明るくなっている また, 海に近い側に 20 等級の範囲が広がっていることが分かった 高知市周辺で地上からの光を散乱する層は, 高度 3.6km~4.5km のところに存在する
6. 今後の課題 高知市の電力量などを調べて, 高知市の夜空が少し暗くなった原因を調べたい 今回夜空の明るさに影響する層を約 4km に存在すると考えたが, 東京の海城中学高等学校が東京都新宿区で調べた結果 4km 付近までのエアロゾルの影響が強いというライダー観測の結果から求めたものとほぼ同じ結果が出た 日本地球惑星科学連合 2016 年大会高校生セッションで移動式のライダー観測の装置があることが分かったので, それを使用して高知で行ってみたい 全天スキャンをたくさんの場所で行い, どういう傾向があるのかを調べたい 高知市の夜空の明るさマップをより精密に作成したい 最終的には高知県の夜空の明るさマップを完成させたい 高知市の夜空が明るいことを広く知ってもらう活動をやっていきたい 県内のいろいろな場所で 時間変化率の違いを調べて 高知県全体の夜空の明るさマップ作成のための時間変化による補正に利用したい 7. 参考文献 光害対策ガイドライン,p.10-p.22, 環境庁 (1998) 冨田小冬,SQM による全天スキャン, 日本天文学会シ ュニアセッション講演要旨集 (2013) 海城中学高等学校地学部, エアロゾルが夜空の明るさに及ぼす影響 ~ 新宿区での夜空の明るさ観測から探る ~, 日本天文学会シ ュニアセッション講演要旨集 (2014) 電子国土ポータル HP http://portal.cyberjapan.jp/index.html ( 株 ) マゼラン国際光器 HP http://www.kkohki.com/ 8. 謝辞 本研究にあたり, 科学技術振興機構の中高生の科学研究実践活動推進プログラムの支援を受け, 機材などを揃えることができました 日本地球惑星科学連合 2016 年大会高校生セッションのポスター発表の時には, 愛知県立一宮高等学校地学部や遺愛女子高等学校地学部, 東筑紫学園高等学校理科部の皆様に, たくさんのご助言をいただき感謝いたします 9. 成果発表実績 日本地球惑星科学連合 2016 年大会高校生セッションポスター発表努力賞高知県高等学校生徒理科研究発表会 ( 日本学生科学賞高知県予選 ) 口頭発表最優秀賞日本学生科学賞中央予備審査に進出高大連携科学系研究フォーラム 2016 口頭発表