(4) 鋼連続合成ラーメン 2 主鈑桁橋へのコンパクト断面設計法および二重合成構造の適用検討 大日本コンサルタント株式会社北陸支社技術部構造保全計画室 田嶋一介氏 50
鋼連続合成ラーメン 2 主鈑桁橋へのコンパクト断面設計法および二重合成構造の適用検討 東田典雅 1 西川孝一 1 登石清隆 2 脇坂哲也 2 西村治 2 田嶋一介 2 1 東日本高速道路 ( 株 ) 新潟支社 ( 950-0917 新潟市中央区天神 1-1 プラーカ3 4F) 2 大日本コンサルタント ( 株 ) 北陸支社技術部 ( 930-0175 富山県富山市願海寺 633) 鋼橋では, これまでに合理化橋梁の採用によりコスト縮減が図られてきたが, 更なる合理化による経済性の追求と設計手法の発展を図るため, コンパクト断面設計法, 二重合成構造の適用性について検討を実施した. コンパクト断面設計法, 二重合成構造ともに, 鋼連続合成桁橋に対する適用性は高く, 構造の合理化を図る上で効果が確認された. また, 今後の適用範囲拡大に向け, ラーメン構造で照査が必要となる大規模地震時や剛結部の照査方法を整理した. Key Words : 合理化橋梁, 複合ラーメン橋, 全塑性状態, コンパクト断面, 合成構造, 二重合成構造, 限界状態設計法 1. 目的と構造概要 鋼橋では,PC 床版や合成床版を用いて主桁間隔を 6m 程度まで広げた少数主桁橋や開断面箱桁橋, 細幅箱桁橋等の合理化橋梁の採用によりコスト縮減が図られてきたが, 更なる合理化による経済性の追求と設計手法の発展を図ることを目的とし, 複合ラーメン橋で事例の無いコンパクト断面設計法, 鋼鈑桁橋で事例の無い二重合成構造の適用性について検討を実施した. 対象橋梁は, 鋼上部工と RC 橋脚を剛結した複合ラーメン構造を有する鋼 3 径間連続合成 2 主鈑桁橋であり, 橋長 137.0m, 最大スパン 53.0m, 有効幅員 10.75m, 斜角 90 である ( 図 -1). 2. コンパクト断面設計法 (1) 特徴コンパクト断面設計法とは, 鋼桁とコンクリート床版からなる合成断面において, ウェブに局部座屈が生じることなく鋼桁が全塑性状態に達し, 圧縮応力の大半を床版コンクリートで受け持たせることで合理的な断面を実現する設計法である ( 図 -2). 正曲げが卓越する支間中央部において, 鋼桁が全塑性状態 ( コンパクト断面 ) に達し, 合理的な断面設計が可能となる. 合成断面の終局時の特性を生かしたコンパクト断面設計法の適用により, 桁高の縮小, 鋼重の低減, 輸送部材長の長尺化等が期待できる. 137000 600 135800 600 700 33700 53000 47700 700 A1 P1 P2 A2 E R R E 図 -1 対象橋梁側面図 b 正曲げ区間 0.85σck - σy 圧縮域で座屈しない 中立軸は床版付近 塑性中立軸 + 座屈を生じずに全塑性 状態に達することが可 能な断面 σy 図 -2 コンパクト断面
(2) 要求性能および照査項目と照査式本検討では,AASHTO や Eurocode などの海外基準, 国内での設計計算例 1)2)3) を参考に, 要求性能 ( 表 -1) および照査項目と照査式 ( 表 -2) を設定した. 限界状態における荷重組合せは ( 式 1)( 式 2) の通りとし, 終局限界状態における荷重係数は, 道路橋示方書の降伏に対する安全度の照査を参考に, 死荷重 (D) は 1.3 倍, 衝撃を含む活荷重 (L) は 2.0 倍とした. 使用限界状態 1.0D 1.0L C S T ( 式 1) 注注終局限界状態 1.3D 2.0L C S ( 式 2) 注 ) コンパクト断面の設計では省略 なお, 負の曲げモーメントが作用する断面 ( 中間支点部 ) については, 床版コンクリートを無視した断面において, 鋼桁の一部が降伏に達することができるが, 局部座屈により全塑性状態に達しないノンコンパクト断面として照査を行った. (3) レベル 2 地震動に対する照査本橋は, 上部構造と橋脚柱が剛結されたラーメン構造であるため, 地震などの水平荷重が橋軸方向に載荷されたケースに対して, 上部構造及び剛結部の照査が別途必要となる. これより, 従来の許容応力度設計法では, 最も水平荷重が大きいレベル 2 地震時に対して, 道示 Ⅴ 編 14.1 に従い発生応力度が降伏 応力度 ( 割増係数 1.7) 以下であることを照査しているが, コンパクト断面設計法においては明確な設計手法が確立されていない. そこで, 設計方法として考えられる次の 3 案で検討を実施した. 第 1 案 : 許容応力度法と同様に許容応力度 割増係数 1.7 以下であることを照査する方法 ( 床版の抵抗断面は有効幅とする ) 第 2 案 : 許容応力度法と同様に許容応力度 割増係数 1.7 以下であることを照査する方法 ( 床版の抵抗断面は全幅とする ) 第 3 案 : コンパクト断面またはノンコンパクト断面として設計する方法 各案における板厚の試算結果を表 -3 に示す. 第 1 案では,P1 橋脚支点部及び隣接する交番部において下フランジの板厚が 7~9mm 増加させる必要がある. 第 2 案では, 第 1 案に比べて板厚の増加が 1mm 少なくなる程度である. 第 3 案では, 常時においてコンパクト断面として設計可能な正曲げ区間にレベル 2 地震時の負曲げが作用した場合, ノンコンパクト断面として設計を行うためには, ウェブ幅厚比の照査によりウェブ厚の増加が必要な断面が 4 断面発生するため, コンパクト断面設計法を用いたメリットがない不合理な設計となる. 表 -1 要求性能要求される性能定義した性能の限界照査方法 終局限界 塑性強度の照査 コンパクト断面設計 安全性能レベル1 地震時弾性状態の照査, 床版のひび割れ制御極限事象限界レベル2 地震時降伏強度の照査 使用性能 使用限界 弾性状態の照査, たわみ制限, 床版のひびわれ制御 疲労性能 疲労限界 疲労耐久性の照査 使用限界 終局限界 フランジ応力 表 -2 照査項目と照査式コンパクト断面設計正曲げ : コンパクト断面負曲げ : ノンコンパクト断面 床版コンクリートを桁断面に算入 σ σ y /1.15,τ τ y /1.15 σ y : 降伏応力度,τ y : せん断降伏応力度 床版コンクリート - 引張応力状態の床版コンクリートを無視し床版鉄筋を断面に算入 σ σ y /1.15,τ τ y /1.15 W a = 0.0035C W a : 許容ひび割れ幅,C: かぶり 限界モーメント M M r = min(m r 1,M r 2) M r 1: 全塑性モーメント M r 2:1.3M y M y : 降伏モーメント - 限界せん断力 V V r V r : 限界せん断力 同左 フランジ応力 ( 圧縮 ) - σ nc min(σ nc 1,σ nc 2) σ nc 1: 局部座屈を考慮した応力度 σ nc 2: 横座屈を考慮した応力度 フランジ応力 ( 引張 ) - σ t σ y 合成限界比 (M/M r ) 4 +(V/V r ) 4 1.0 同左 ウェブ幅厚比 2D cp /t w 3.76 (E/σ y ) D cp : ウェブ圧縮高さ ( 塑性 ) t w : ウェブ厚 E: ヤング係数 2D c /t w 5.7 (E/σ y ) D c : ウェブ圧縮高さ ( 弾性 )
以上より, レベル 2 地震時の設計としては, 修復性に配慮した現行の道路橋示方書と同様に, 降伏応力度以下に制限する設計とし, 床版の抵抗断面において主桁の設計と整合が図れる第 1 案が適すると思われる. 表 -3 レベル2 地震時の板厚変化 断面番号 1 2 3 4 5 6 7 8 9 101112131415 U-flg t(mm) 21 25 45 65 45 25 24 21 36 56 38 25 45 45 31 常 web t(mm) 18 18 27 27 27 18 18 21 27 27 27 21 18 18 18 時 L-flg t(mm) 22 30 50 58 44 24 22 40 60 69 61 42 24 24 22 U-flg 増厚 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 L-flg 増厚 0 0 0 7 9 9 0 0 0 0 0 0 0 0 0 U-flg 増厚 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 L-flg 増厚 0 0 0 6 8 8 0 0 0 0 0 0 0 0 0 U-flg 増厚 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 web 増厚 7 7 0 0 0 7 7 0 0 0 0 0 0 0 0 L-flg 増厚 0 0 0 7 9 9 0 0 0 0 0 0 0 0 0 備考 P1 P2 単位 :mm は常時にコンパクト断面で設計可能な箇所を示す 青字断面は板厚差による増厚箇所を示す Case1 Case2 Case3 (4) 剛結部の照査剛結部の照査は, 設計要領第二集に示されており, これに準拠した設計が可能である ( 図 -3)( 式 3)( 式 4). しかし, 示されている剛結部の設計方法が許容応力度法であり, 主桁をコンパクト断面設計法とした場合に矛盾が生じる. そこで, 許容応力度法による照査に加えて, 一般部との整合を図るため, 剛結部についても使用限界状態及び終局限界状態の照査を実施することとした. 時表 -4 一般部 剛結部の設計のせん断許容値案 (SM490 材の例 ) 地震時許容応力度法 ( 現行基準 ) コンパクト断面設計法常一般部 τ a =120N/mm 2 剛結部 τ a =120N/mm 2 終局限界状態 (1.3D+2L) τ y =205N/mm 2 使用限界状態 (D+L) τ y /1.15=178.2/mm 2 終局限界状態 (1.3D+2L) τ y =205N/mm 2 使用限界状態 (D+L) τ y /1.15=178.2/mm 2 一般部 τ y =205N/mm 2 τ y =205N/mm 2 剛結部 τ y =205N/mm 2 τ y =205N/mm 2 (5) 適用性の検討結果コンパクト断面設計法と許容応力度法の試設計の結果, 桁高を 0.3m(11%) 縮小でき, 輸送部材長の長尺化が可能となる. 全体鋼重としては 18% 程度の低減となり, 許容応力度法で最適となる桁高 2.7m で比較しても 15% 程度の鋼重の低減が可能である ( 図 -4). なお, コンパクト断面設計法においては, 桁高 2.4m としても活荷重たわみは 1/1,665 程度に収まっており, 許容値を満足していることを確認した ( 表 -5). 鋼重 330t 320t 310t 300t 290t コンパクト断面設計法許容応力度設計法 約 18% 減 約 15% 減 上部工 N 1 M 1 σ σ τ 1 S 2 N 2 280t 270t 約 3% 減 S 1 S 3 τ 2 図 -3 剛結部の設計方法 σ σ a τ τ τ τ 1 N 3 2 M 3 a M 2 柱 σ :N 1,M 1 及び N 2,M 2 によって作用する鋼主桁の垂直応力度 τ 1 :S 1,S 2 によって作用する鋼主桁のせん断応力度 τ 2 :M 3 によって作用する付加せん断応力度 ( 式 3) ( 式 4) 260t H=2.3m H=2.4m H=2.5m H=2.6m H=2.7m H=2.8m コンパクト断面設計法 許容応力度法 4. 二重合成構造 桁高 図 -4 最適桁高の比較 表 -5 最適桁高と桁高支間比最適桁高活荷重たわみ ( 桁高支間比 ) ( 許容値 ) 2.4m (1/19.2) 2.7m (1/17.1) 1/1,665 (1/500) 1/2,219 (1/500) また, コンパクト断面設計法を適用した場合のせん断許容値を表 -4 の通りとした. 現行基準において, 剛結部の常時およびレベル 2 地震時の設計は, 一般部と同様の許容値を用いていることから, コンパクト断面設計法の場合も同様に一般部と同様の許容値を用いることとする. (1) 特徴通常の合成構造は, 圧縮側にコンクリート床版が存在する正曲げ区間について, 鋼とコンクリートの合成断面として設計が可能である. 一方, 二重合成構造とは, 負の曲げモーメントが作用する断面の下フランジ ( 圧縮フランジ ) を, 上フランジと同様にコ
ンクリートと一体化することで, 全長に渡り鋼とコンクリートの合成断面として設計する構造のことである 3)4). 圧縮はコンクリート床版で負担し, 引張は鋼桁で抵抗するという材料の特性を生かした合理的な構造形式となる. また, 下コンクリート床版の設置幅として, 図 -5 に示す通り,2 本の主桁間に設置する構造 ( 構造 A), 下フランジ幅の上に設置する構造 ( 構造 B) 等が考えられている. 正曲げ合成断面 鋼桁 構造 A 負曲げ合成断面 鋼桁 コンクリート床版側面図 正曲げ合成断面 負曲げ合成断面 コンクリート床版 図 -5 二重合成構造 構造 B 正曲げ合成断面 鋼桁 コンクリート床版 二重合成構造の適用により次の利点が考えられる. 1 支間部だけでなく中間支点部においても合成構造として設計が可能となるため, 負曲げ領域の下フランジ厚を低減することができる. 2 中間支点部の剛性が高くなることで負曲げは増加するが, 支間部の正曲げモーメントが減少し, 支間部の鋼桁の板厚を低減することができる. 3 下フランジ側がコンクリートとの合成効果により座屈強度が高まり, 断面の終局耐力が大幅に増加する. このためコンパクト断面設計法を併用すると大きな効果が期待できる. (2) 検討案検討は, 通常の合成構造に加えて, 下コンクリート床版の範囲を変えた次の 3 案で実施した. なお, 各案の試算は二重合成構造との組合せ効果の高いコンパクト断面設計法を適用し, 下コンクリート床版の設置幅としては, 施工が容易かつ死荷重の増加を最小限とするため, 構造 B で検討を実施した. 第 1 案 : 合成構造 ( 正曲区間コンパクト断面設計 ) 第 2 案 : 二重合成構造 ( 中間支点部断面のみ ) 第 3 案 : 二重合成構造 ( 負曲げ区間長全体 ) (3) 検討結果第 2 案が最も鋼重の低減が可能であり, 通常の合成構造と比較すると,5% 程度の鋼重低減となる. し かし, 死荷重が 2% 程度増加することや, 下コンクリート床版の工事費を考慮すると, 大きなメリットは確認できなかった ( 表 -6). コンパクト断面数ノンコンパクト断面数コンパクト ノンコンパクト交番断面数死荷重 :kn ( 比率 ) 鋼重 :t ( 比率 ) 5. 結論 表 -6 二重合成構造の検討結果第 1 案第 2 案第 3 案 6 8 12 2 0 0 4 4 0 24,076 (1.000) 265.0 (1.051) 24,472 (1.016) 252.2 (1.000) 24,984 (1.005) 253.5 (1.011) コンパクト断面設計法は, 鋼連続合成桁橋において適用性が高く, 桁高の縮小が可能であり, 鋼重低減, 輸送部材長の長超尺化が可能であることを確認した. また, ラーメン構造特有のレベル 2 地震時の照査と剛結部の設計方法案を示すことができたが, レベル 2 地震時の荷重ケースにおいて, 下フランジ厚およびウェブ厚が決定するため, 支承構造の連続合成桁橋に比べて鋼重低減効果は小さくなった. 二重合成構造は, すべての断面において合成構造として設計できるため, 材料の特性を生かした合理的な設計となり, 鋼重の低減が可能であることを確認した. しかし, 下コンクリート床版の影響により, 死荷重増や施工費増で大きなメリットが本橋では確認できなかった. 今後,60m を超える長スパンの橋梁での検討や構造の最適化 ( 下コンクリート床版の構造等 ), 施工方法の確立等の課題の解決と本構造の発展に期待したい. 謝辞 : 本稿の作成にあたり, 長岡技術科学大学 : 長井正嗣名誉教授から貴重な助言を頂いた. ここに記し感謝の意を表する. 6. 参考文献の引用とリスト 1) 土木学会鋼構造委員会, 合成桁の限界状態に関する調査検討小委員会 : 鋼 合成構造標準示方書に基づく新たな設計,2009 年 9 月 2) 藤野和雄 高久英彰 : 国内初のコンパクト断面を導入した鋼連続合成桁橋 - 金谷郷高架橋 -, 土木技術 68 巻 3 号 (2013.3) 3) 長井正嗣 : 合成桁橋の設計に関する話題, 川田技報 Vol.25 2006 4) 稲葉尚文 : 鋼 コンクリート 2 重合成 I 桁橋の実用化に向けた研究,2011 年 3 月
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