JAMA. 2014;311(13):1317-1326 慈恵 ICU 勉強会 2014.6.17 レジデント笠間哲彦
背景 1) 赤血球輸血は治療の一貫としてよく用いられる 赤血球輸血は免疫能に影響を与え 医療関連感染症のリスクであるとされてきた Blood Cells Mol Dis. 2013;50(1):61-68 2) 白血球除去が感染のリスクを減らすともいわれてきた Best Pract Res Clin Anaesthesiol. 2008;22(3):503-517
Efficacy of red blood cell transfusion in the crimcally ill: A systemamc review of the literature Crit Care Med. 2008;36(9):2667 システマティックレビュー 輸血と患者のアウトカムの関連を検討した観察研究を検索 45 件の研究 272,596 人このうち 22 件の研究が輸血と感染の関連を検討し すべての研究で輸血は感染の独立したリスク因子であるという結果 輸血と感染の関連を示す 9 件の観察研究の Forest plots OR 1.88
輸血に関する観察研究の問題点 Transfusion. 2010;50(6):1181-1183 様々な交絡因子が入りやすく 間違った結果を示す可能性が高い
Ann Intern Med. 2012;157(1):49-58. Bias :unblinded assessment. Rela*ve Risk (95% CI) :0.81 (0.66 to 1)
目的 * 赤血球輸血が感染のリスクと関連があるかを評価する * 赤血球輸血の白血球除去は感染のリスクを独立して減らすのかを評価する
方法 1 Data Sources *PRISMA(Preferred ReporMng Items for SystemaMc Reviews and Meta- Analysesis ) に従った * 以下を満たすことを条件とした 1) 無作為化比較試験である 2) 赤血球輸血を制限群と非制限群に分けている 3) 無作為化の後の感染の結果が報告されている患者 の年齢や状態の制限がない 2014 年 1 月 22 日までのものを MEDLINE, EMBASE, Web of Science Core CollecMon, Cochrane Database of SystemaMc Reviews, Clinical Trials. gov, InternaMonal Clinical Trials Registry, and the InternaMonal Standard Randomized Controlled Trial Number Register を用いて検索した
方法 2 *Data ExtracMon and Quality Assessment データの抽出は原稿が出来上がる前になされ 無作為化の隠蔽化は以下のようになされた 1) 隠蔽化実施の明示 2) 複数の場所で研究を調整するセンターで中央割付けされる 3) 独立した統計学者によって無作為化される *Main Outcome 肺炎 縦隔炎 創傷感染 敗血症など医療関連感染症の発生率
Result1 2267 の文献のうち 無作為化比較試験でないものを除いた 78 の研究のうち感染の結果がないもの 適切な比較でないもの 方法のみの記載しかないものを除いた 21 の研究 (8735 人の患者 ) は基準を満たした そのうち 18 はメタ解析に十分な情報があった
心疾患 Result2 制限群 輸血開始の Hb の閾値 非制限群 基本的に制限群では Hb8 前後 非制限群では 10 前後 研究によっては貧血の症状の有無を加えたり 術中 術後で条件を変えている
Result3 ICU 患者 上部消化管出血 低出生体重児 整形外科術後
整形外科術後 Result4
Result5 出産後 敗血症 鎌状赤血球
肺炎 縦隔炎 創部感染などの全ての重傷感染 ( 下線部の 9 研究 ) Result6 感染のアウトカムはそれぞれの研究で異なる 敗血症による死亡例のみ 気道感染のみ 血培陽性例のみ 38.5 以上の発熱 48 時間持続例
Result7 全ての重症感染症をアウトカムとしたもの 特有のアウトカムを設けたもの
Result8 心疾患 ICU 患者上部消化管出血低出生体重児整形外科術後 敗血症
Result のまとめ 1 全体 18 trials with 7593 paments RR=0.88 (95% CI, 0.78-0.99; P =.033) Heterogeneity was not significant (Cochran Q test, P =.411; I2 = 3.7%; τ2 =.0026). PublicaMon bias was not evident the funnel plot or by the Harbord test (P =.818) or Peters test (P =.361).
Result のまとめ 2 Serious infecmon RR=0.82 (95% CI, 0.72-0.95; P =.006) no significant heterogeneity (Cochran Q test, P =.459; I2 = 0%; τ2<.0001). 11.8% (95% CI, 7.0%- 16.7%) vs. 16.9% (95% CI, 8.9%- 25.4%). NNT =38 (95% CI, 24-122) the number of avoided infecmons per 1000 paments = 26.5 (95% CI, 8.2-42.5),
Result のまとめ 3 *Leukocyte- reduced RBC の使用 8 trials RR = 0.80 (95% CI, 0.67-0.95; P =.011; I2 = 0%; τ2<.0001). Leukocyte- reduced RBC を使用しても 結果は同じ *clinical sejng による違い (Figure2) 心臓病, crimcally ill, 上部消化管出血 有意差なし 敗血症 整形 ( 股 膝置換 ) RR の低下
Result のまとめ 4 *Hb <7.0 g/dl in the restricmve group 4 trials RR = 0.82 (95% CI, 0.70-0.97; P =.023) No heterogeneity (Cochran Q test, P =.443, I2 = 0%, τ2<.0001).
閾値の違いとリスク比の関係
Discussion1 * 輸血を制限する事で医療関連感染症が減る Ø 計算上は Hb <7.0 g/dl という閾値を使用する事で 20 人に一人の感染が減る * 白血球除去について Ø US では 85% の使用 Ø 感染症予防の First step であるが 今回の結果から Second step は RestricMve な輸血の使用である p 機序はよく分かっていない *Sepsis と整形外科手術で感染が減る Ø 整形外科手術では一貫して RestricMve 群で感染の頻度が低かった Ø 医療費の削減にも繋がる
Discussion2 * 心臓病を持つ患者において Ø 研究間の均一性が保たれているにも関わらず 制限群で逆にリスクが上昇した Ø 両群で輸血使用量に大きな差がなかった Ø Bracey らの研究では 制限群 vs. 非制限群 :60% vs. 64% Ø 遵守率が非常に低い研究が含まれる US とカナダで行われた最近の研究では ü 心臓手術後に 5.8% の医療関連感染症 ( ほとんどが予防可能なもの 肺炎 縦隔炎 BSI ) ü RBC1 単位につき 感染リスクが 29% 上昇 Ann Thorac Surg. 2013;95(6):2194-2201. 心臓病については更なる調査の必要性が高い
LimitaMons1 * 感染のアウトカムが研究によって異なった * 輸血開始となるヘモグロビンの閾値が異なった * 輸血開始の判断が採血結果だけでなく臨床症状 徴候なども考慮された *60 人の小児における心臓治療のようなグループにおいてはデータがまばらであった
LimitaMons2 今後の研究では均一の基準を定めて輸血管理 医療関連感染を調べることが重要である 近年 細菌感染の証明にプロカルシトニンが有用であるとされている
Conclusion 入院患者において 赤血球輸血を制限する戦略は非制限群と比べ 医療関連感染症のリスクを減少させるかもしれない
Editorial1 * 現在の制限群と非制限群 Ø 今回含まれた研究では 概ね制限群の定義は 7-8 g/dl で 非制限群では 10 g/dl であった * 観察研究との違い Ø 以前に報告された観察研究のメタアナリシスで示されたリスクは今回の RCT のメタアナリシスの 4 倍であった * 白血球除去について Ø 白血球除去した血液のみを使用した 8 研究の結果が 全体の結果と変わらなかった 輸血製剤に含まれる白血球が免疫抑制の原因の 1 つと考えられているが それだけでは説明できない機序が存在する可能性がある
Editorial2 * 感染以外のリスクについて Ø このレビューでは 感染のリスクのみ検討されているが 輸血のリスクはそれだけではない 死亡率 心筋梗塞 その他リスクとベネフィットを考慮すべき機能がまだあるかもしれない Ø 最近では 上部消化管出血における輸血と死亡率 股関節骨折における輸血と歩行機能の関係などが報告されている * 心血管疾患を持つ患者に対する制限戦略の安全性について Ø 根拠は未だ乏しい 急性心筋梗塞患者の研究は規模の小さいもの 2 つしかなく 大規模研究が必要である 現時点では健常人より高い閾値を必要とすると考える方が無難
Editorial3 * 患者の病態に応じた閾値が必要 Ø 消化管出血に関しては逆に 輸血が多くなる方が門脈圧の上昇を招き 再出血のリスクを上げるかもしれない * 適正な輸血の Hb ラインについての今後の研究 Ø 最近の研究から ほとんどの患者で Hb 10g/dL という閾値は高すぎるという事が示されてきて Hb 7-8 g/dl が妥当なラインと考えれれているが それよりもさらに低い Hb 濃度についての研究はほとんどない Ø エホバの証人の Hb 濃度と死亡の関係を調べた研究では Hb 5 g/dl を境に死亡率が急激に上昇する事が報告されている Ø Hb 6-7 g/dl が適正な閾値である可能性はまだ残されている
私見 * 院内感染の予防は大事である * 赤血球輸血のデメリットも常に念頭に置く * 状況に応じて輸血を検討する