平成 28 年度第 6 回がん検診細胞診 組織診従事者講習会 子宮内膜および頸部の組織 細胞診 のトピック 弘前大学大学院 保健学研究科 渡邉純 平成 29 年 3 月 2 日 ( 木 ) 高崎
本日の講演内容 Ⅰ. 子宮内膜組織 細胞診 1. 子宮内膜癌の将来予測 2. 不規則増殖期内膜と増殖症の鑑別は可能か? 3. 異型のない増殖症と異型増殖症の鑑別は可能か? 4. 子宮内膜液状化検体細胞診 (Liquid-based cytology:lbc) Ⅱ. 子宮頸部組織 細胞診 1.WHO 新分類 (2014) の変更点 2.HPV 検出法
1. 子宮内膜癌の将来予測 性ステロイドホルモン標的臓器の腫瘍 アンドロゲンと前立腺癌エストロゲン プロゲステロンと乳癌エストロゲンと子宮内膜癌 ( 類内膜腺癌 )
2. 不規則増殖期内膜と増殖症の鑑別は可能か? 子宮体癌取扱い規約第 3 版 (2012)
Normal EM 子宮内膜類内膜癌の多段階発癌モデル 正常内膜過形成性内膜内膜増殖症類内膜腺癌類内膜腺癌 Hyperplastic EM Hyperplasia 異型なし異型あり G1 G3 エストロゲン高値の持続 hmlh1 メチル化 3% hmlh1 メチル化 50% hmlh1 メチル化 50% PTEN 変異 30% PTEN 変異 50% β-catenin 変異 15% β-catenin 変異 40% K-ras 変異 15% K-ras 変異 30% HER2 変異 25% PIK3CA 変異 30% PIK3R1 変異 20-40% その他の癌 ( 抑制 ) 遺伝子 ARDA1A 変異 40% p53 変異 10% p53 変異 50%
2. 不規則増殖期内膜と増殖症の鑑別は可能か? 組織診 ( 生検 ): 腺管の量的な差であり 厳密に区別するのは困難 細胞診 : ゴールドスタンダードの組織診でさえ厳密に区別するのが困難であり 細胞診ではなおさら困難
3. 異型のない増殖症と異型増殖症の鑑別は可能か? 子宮体癌取扱い規約第 3 版 (2012)
3. 異型のない増殖症と異型増殖症の鑑別は可能か? 子宮体癌取扱い規約第 3 版 (2012)
3. 異型のない増殖症と異型増殖症の鑑別は可能か? 細胞異型で異型のない増殖症と異型増殖症は鑑別できる可能性がある ただし 厳密に区別するのは困難な症例がある 内膜細胞診の今後の目標 ( 私見 ) 細胞異型と構造異型を有する腫瘍性病変 ( すなわち異型増殖症以上 ) を拾い上げることが肝要
4. 子宮内膜液状化細胞診 ( 内膜 LBC) 液状化検体細胞診 Liquid based cytology(lbc) とは 細胞診材料を直に液体中に回収 固定 保存し 薄い層に吸着させる方法. 一度の細胞採取により複数の標本の作製が可能. ( 免疫染色 遺伝子検査 ) 細胞の有効活用 (HPV など他検査へ応用可能 ). ThinPrep 法 SurePath (Thinlayer) 法 TACAS 法
SurePath 法の原理 1. 遠心分離により 診断に支障をきたす赤血球 粘液残骸 白血球が分離 2. スライドコート剤でスライド表面は + に荷電 3. 細胞蛋白成分は ー に荷電 4. 沈渣を添加すると + ー の荷電と細胞の重力により比重の重い細胞 ( 異型細胞が想定 ) から自然沈下してスライド表面に吸着 ( 重力沈降法 ) 5. 細胞は吸着できる空きスペースに吸着 + + + + + +++++
SurePath 法の利点 1. 観察容易 検鏡時間の短縮 (1 分程度 ) 2. 不適正標本がなくなり診断精度の向上 3. 採取細胞のlossが減少 4. 感染症とコンタミのリスク軽減 5. 同じカテゴリーの均一な複数標本作成可能 他の検査へ応用可能 6. 長期保存可能 保存状態良好
SurePath 法の欠点 1. 背景が十分に反映されにくい傾向 2. 希釈の誤り 3. 細胞径 核径がややコンパクト 4. コストが高い 5. 標本作成に手間と時間 ( 用手法 ) 6. 検体容器の保存場所が必要
内膜 LBC と従来法との所見の相違 LBC 法は 1. 細胞集塊数が多く収集され かつ 集塊のほつれや集塊の重積性などの構造異型が保持される 2. 細胞集塊を構成する細胞数が少なく 面積も小さい 3. 核面積 核小体面積とも小さいが N/N 比は高く 核小体は明瞭化する
従来法 ( エンドサイト法 ) との相違 背景 : 1) 検鏡に支障をきたす余分な背景 ( 赤血球 粘液など ) が省かれので観察が容易 2) 従来標本に比べ背景が十分に反映されにくい傾向があり 若干の経験が必要
従来法 ( エンドサイト法 ) との相違 出現形式 : 1) 細胞集塊の数は多いが 小型化 2) 集塊の辺縁は全体に丸みを帯びており かつ 洗浄されてきれいになり最外層核の観察が容易 3) 重積集塊内の腺腔や個々の細胞も幾分観察が容易 4) 明細胞腺癌ではミラーボールパターンが出現
従来法 ( エンドサイト法 ) との相違 細胞形態 : 小型化 細胞質 : 染色性に変わりなし 核 : 小型化 クロマチン : 淡明化 核小体 : クロマチンがやや淡明化した分 明瞭化 免疫染色 : 余分な背景が除去され また重積性が軽度で 評価が容易
腺の構造異型と細胞像 構造異型 のう胞化 間質内芽出 分岐 乳頭状 Back to back cribriform 細胞像拡張腺管偽乳頭状乳頭状 樹枝状腺密集増殖
本日の講演内容 Ⅰ. 子宮内膜組織 細胞診 1. 子宮内膜癌の将来予測 2. 不規則増殖期内膜と増殖症の鑑別は可能か? 3. 異型のない増殖症と異型増殖症の鑑別は可能か? 4. 子宮内膜液状化検体細胞診 (Liquid-based cytology:lbc) Ⅱ. 子宮頸部組織 細胞診 1.WHO 新分類 (2014) の変更点 2.HPV 検出法
LEGH 好発部位 : 子宮頸部体部側 ( 内子宮口付近 ) 組織像 : 嚢胞状に拡張した大型腺管の周囲に小型内頸部腺が分葉状増生 細胞像 1 シート状 2 細胞質粘液黄金色 3 核は基底側 4 核異型乏しい 5 核分裂像の欠如 胃型粘液 ( 中性ムチン ) パパニコロウ染色 : 黄金色 (LBC では認識困難傾向 ) 特殊染色 :PAS(+), Al-blue(±) 免疫染色 :HIK1083(+), MUC6(+) HPV (rare)
MDA 頸部腺癌全体の 1-3% 好発部位 :SC junctuin 組織像 Mucinous type (Subtype:Endometrioid, Clear cell) 1. 正常頸管腺と区別困難な腺管からなる腺癌 2.1 腺の乱雑な配列 ( ヘアピンループ状 鋭角的屈曲 ) 2 正常の深さを超える深い浸潤 (5mm 超 ) 3 間質反応 4 少なくとも一部に核異型 5 核分裂 アポトーシス像 細胞像 1 細胞質粘液黄金色 2 核偽重層化 3 配列乱れ 4 核異型 ( 粘液多い割に ) 円形 立体 緊満感 核小体 --------- 腺癌としての異型を見出す 5 核分裂 胃型粘液 ( 中性ムチン ) パパニコロウ染色 : 黄金色特殊染色 :PAS(+), Al-blue(±) 免疫染色 :HIK1083(+), MUC6(+), CEA(focal+), ER(-), PR(-), p16(-) HPV (rare)
Mucinous adenocarcinoma gastric phenotype 組織像 : 細胞質豊富, 淡明 境界明瞭 高度腺癒合 細胞像 1 細胞質粘液黄金色 2 核重層化 3 配列乱れ 4 核異型 --------- 腺癌としての明らかな異型あり 5 核分裂像 胃型粘液 ( 中性ムチン ) パパニコロウ染色 : 黄金色特殊染色 :PAS(+), Al-blue(±) 免疫染色 :HIK1083(+), MUC6(+) HPV(rare)
発癌経路モデル 正常頸管腺 幽門腺化生 LEGH AIS,g MDA AC,g STK11 遺伝子変異 (P-J synd.) 3q gain, 1p loss HPV High risk 感染 AIS 内頸部型粘液腺癌
鑑別診断ー細胞像 LEGH 1 細胞質粘液黄金色 2 シート状 3 核は基底側 4 核異型乏しい 5 核分裂像の欠如 AIS g MDA 1 細胞質粘液黄金色 2 核偽重層化 3 配列乱れ 4 核異型 -------- 腺癌としての異型を見出す 5 核分裂像 AC, g 1 細胞質粘液黄金色 2 核重層化 3 配列乱れ 4 核異型 --------- 腺癌としての明らかな異型あり 5 核分裂像
免疫染色 EC LEGH AIS,g MDA AC, g AIS AC, EC HIK1083 - + + + - - MUC6 - + + + - - CEA - ± ± ± + + p16 - - - - + + HPV - - - - + + Ki67 - low middle high high high
まとめ 1. 細胞質粘液黄金色は胃幽門腺粘液 ( 中性粘液 ) を想起 胃幽門腺化生 LEGH AIS,g MDA AC, g 2. 構造異型と核異型の有無で良悪を鑑別 3. 腺癌としての異型が明らかであれば AC, gastric phenotype の可能性も考慮
ジェノタイピング法 今回紹介する方法 近年開発された reverse line-blot array (lineararray, LA) での HPV 遺伝子型検出方法では 子宮頸部に感染する 39 種類の HPV 遺伝子型が検出可能 In situ hybridization 法 高感度の非放射性標識プローブを用いた in situ hybridization (ISH) では HPV の局在と感染様式を検出可能
[ 検体採取法と保存 ] 1) 検体採取部位 ; 子宮頸部採取器具 ;Cervex-Brush COMBI (Rover, MBL) Cytobrush (Medscand Medical) 固定保存液 ;SurePath Preservative Fluid 採取器具に残った細胞を浮遊させ固定 固定された検体は 室温保存で4 週間 冷暗所保存で6ヶ月保存可能 Cervex-Brush COMBI Cytobrush SurePath Preservative Fluid
2)DNA 抽出 アンプリリュートリキッドメディア抽出試薬セット (Roche Diagnostics, MBL) を用いて抽出した 3) PCR アンプリコアリニアアレイ HPV ジェノタイピングキットを使用 標的遺伝子型 (39 種類 ) 高リスク群 :16, 18, 31, 33, 35, 39, 45, 51, 52, 56, 58, 59, 68 低リスク群 :6, 11, 42, 43, 44 リスク不明群 :26, 40, 53, 55, 54, 61, 62, 64, 66, 67, 69, 70, 71, 72, 73, 81,82, 83, 84, CP6108, and IS39 Internal Control として β-globin を同時に増幅 4) ハイブリダイゼーション アンプリコアリニアアレイ検出用試薬セットを使用し PCR 産物と HPV に特異的なプローブをナイロンメンブレン上でハイブリダイゼーションした
LINEAR ARRAY HPV Genotyping Test のアウトライン Step1. サンプル調製 (DNA 抽出 ) Step2. ターゲット DNA を PCR により増幅 HPV の L1 領域を PGMY プライマーにて増幅 Sample 量 250μl 所要時間約 2~3 時間 Internal Control として β-globin を同時に増幅 所要時間約 3 時間 Step4. 目視による結果判定 Reference GT 16 Line GT 18 Step3. PCR 産物と HPV 特異的なプローブをナイロンメンブレン上でハイブリダイゼーション 所要時間 2.5~3 時間 GT 45 Numerical order of genotypes Low Globin High Globin ビオチン ストレプトアビジン プローブ ナイロンメンブレン 資料提供 ロシュ ダイアグノスティックス社
ハイブリダイゼーション判定例 58 16 16 58 68 35 52 51 16 CP6108 51 (-)
40% 各 HPV 遺伝子型の HPV 感染率 30% 20% HPV 感染率 10% 複合感染 単独感染 0% CP 16 52 58 31 18 51 33 39 53 68 61 66 82 35 56 71 54 62 70 6 81 42 45 11 26 40 59 67 69 84 HPV 遺伝子型 6108 IS39
Positive ratio (%) 各リスクごとの HPV 感染率 100 80 60 40 20 0 highrisk lowrisk unspecified 79.5 79 26.4 22.7 11.3 12.9 10.4 1.9 2.3 4.8 7.1 0.9 0 0 normal CIN1 CIN2 CIN3 SCC AC 84.9 91.4 62.5 12.5 n=53 n=44 n=62 n=106 n=70 n=16 低リスク群の単独感染は子宮頸部病変からは認められなかった 単独感染で認められたリスク不明群のHPVのうちわけ SCC(2 例 ):66 型 (1 例 ) 70 型 (1 例 ) CIN3(3 例 ):62 型 (1 例 ) 71 型 (1 例 ) 82 型 (1 例 ) CIN2(1 例 ):82 型 (1 例 ) CIN1(2 例 ):54 型 (1 例 ) 62 型 (1 例 )
in situ hybridization (ISH) 対象 :HPV16 型が LA 法で検出された 55 症例 CIN1: 2, CIN2: 8, CIN3: 22, 扁平上皮癌 : 21, 腺癌 : 2 使用プライマー :HPV16 型特異的プライマー (DAKO, Kyoto, Japan)
ISH 判定の実際 A: Diffuse パターン : CIN 2 ( 200) B: Punctate パターン : SCC ( 200
Evans (2002) による 50 症例の検討では ISH において diffuse パターン :HPV-DNA が episomal に存在 punctate パターン :HPV-DNA が integrate( 宿主細胞に取り込まれている )
Diffuse パターンは子宮頸部異形成で punctate パターンは扁平上皮癌で多く認められた Signal types CIN1 (%) CIN2 (%) CIN3 (%) SCC (%) AC (%) D 1 (50) 3 (37.5) 9 (40.9) 1 (4.8) - - D+P - - - - 2 (9.1) 5 (23.8) - - P - - 1 (12.5) 6 (27.3) 13 (61.9) 1 (50) Negative 1 (50) 4 (50) 5 (22.7) 2 (9.5) 1 (50) Total number 2 (100) 8 (100) 22 (100) 21 (100) 2 (100) D: diffuse パターン P: punctuate パターン 14 12 13 13 10 8 6 4 7 Diffuse Punctate 2 0 CIN 1 SCC
ISH より Punctate パターンは子宮頸癌から多く検出 16 型の HPV-DNA が episomal に存在していれば良好な経過 integrate していると前癌状態から癌化の可能性 遺伝子型 + 感染様式リスクの予想が可能となる事が示唆
結論 1. 本邦の子宮頸部病変では HPV16 52 58 31 型の順に高頻度に認められた 2. いくつかのリスク不明型 (66 型 70 型など ) が高リスクである可能性が示唆された 3. 子宮頸部病変の遺伝子型と感染様式を検出することで リスクの予想が可能となることが示唆された
本日の講演内容のまとめ 1 Ⅰ. 子宮内膜組織 細胞診 1. 子宮内膜癌の将来予測 子宮内膜癌は増加する 2. 不規則増殖期内膜と増殖症の鑑別は可能か? 細胞診で不規則増殖期内膜と増殖症を厳密に区別するのは困難である 3. 異型のない増殖症と異型増殖症の鑑別は可能か? 細胞異型で鑑別できる可能性がある 細胞異型と構造異型を有する腫瘍性病変 ( 異型増殖症以上 ) を拾い上げることが肝要である
本日の講演内容のまとめ 2 Ⅰ. 子宮内膜組織 細胞診 4. 子宮内膜液状化検体細胞診 (Liquid-based cytology:lbc) 内膜 LBC 法に特徴的な細胞像を理解した上で鏡検することで 内膜 LBC 法は有用な方法である 内膜 LBC の免疫染色により予後因子判定が可能
本日の講演内容のまとめ 3 Ⅱ. 子宮頸部組織 細胞診 1.WHO 新分類 (2014) の変更点 粘液腺癌 胃型が追加された 2.HPV 検出法 本邦の子宮頸部病変では HPV16 52 58 31 型の順に高頻度に認められた いくつかのリスク不明型 (66 型 70 型など ) が高リスクである可能性が示唆された 子宮頸部病変の遺伝子型と感染様式を検出することで リスクの予想が可能となることが示唆された