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表 6.1 横浜市民の横浜ベイスターズに対する関心 (2011 年 ) % 特に何もしていない スポーツニュースで見る テレビで観戦する 新聞で結果を確認する 野球場に観戦に行く インターネットで結果を確認する 4.

( ウ ) 年齢別 年齢が高くなるほど 十分に反映されている まあまあ反映されている の割合が高くなる傾向があり 2 0 歳代 では 十分に反映されている まあまあ反映されている の合計が17.3% ですが 70 歳以上 では40.6% となっています

無党派層についての分析 芝井清久 神奈川大学人間科学部教務補助職員 統計数理研究所データ科学研究系特任研究員 注 ) 図表は 不明 無回答 を除外して作成した 設問によっては その他 の回答も除外した この分析では Q13 で と答えた有権者を無党派層と定義する Q13 と Q15-1, 2 のクロ

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調査実施の背景 近年 ライフスタイルの多様化が著しく進んでいます 生涯未婚率が上昇し 単身世帯 一人親世帯も増加するなど 世帯構成が大きく変化しました また 25 歳から 39 歳の就業率が上昇し 共働き世帯も増加しました においては 管理職の積極的な登用が推進される一方で非正規社員の占める割合は高

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調査実施の背景 今日 様々な調査において 仕事上重要な能力の1つとして コミュニケーション能力 が上位にあげられています しかし 一言でコミュニケーション能力といっても 企業で求められるそれは多岐にわたり 具体的にどのような能力がどのような人で重要ととらえられ 各人においてそれぞれのコミュニケーショ

調査実施の背景 わが国では今 女性活躍を推進し 誰もが仕事に対する意欲と能力を高めつつワークライフバランスのとれた働き方を実現するため 長時間労働を是正し 労働時間の上限規制や年次有給休暇の取得促進策など労働時間制度の改革が行なわれています 年次有給休暇の取得率 ( 付与日数に占める取得日数の割合

1. 職場愛着度 現在働いている勤務先にどの程度愛着を感じているかについて とても愛着がある を 10 点 どちらでもない を 5 点 まったく愛着がない を 0 点とすると 何点くらいになるか尋ねた 回答の分布は 5 点 ( どちらでもない ) と回答した人が 26.9% で最も多かった 次いで

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「学び直し」のための教育訓練給付制度の活用状況|第一生命経済研究所|的場康子

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◎公表用資料

平成18年度推進計画の進行状況_参考資料

25~34歳の結婚についての意識と実態

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5 教5-1 教員の勤務時間と意識表 5 1 ( 平均時間 経年比較 教員年齢別 ) 中学校教員 調査年 25 歳以下 26 ~ 30 歳 31 ~ 40 歳 41 ~ 50 歳 51 ~ 60 歳 7:22 7:25 7:31 7:30 7:33 7:16 7:15 7:23 7:27 7:25

提案書

PowerPoint プレゼンテーション

厚生労働科学研究費補助金

アンケート調査の実施概要 1. 調査地域と対象全国に居住する 20 歳から 59 歳の会社員の男女 2. サンプル数 700 名 3. サンプル抽出方法第一生命経済研究所生活調査モニター 4. 調査方法質問紙郵送調査法 5. 実施時期 2007 年 2 月 6. 有効回収数 ( 率 ) 601 名

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調査の結果 問 1 あなたの性別は 調査に回答していただいた生徒の性別は 男 が問 % 女 が 49.5% です 男 女 問 2 あなたは, 生まれてからずっと鈴鹿市に住んでいますか 生まれたときから鈴鹿市に ずっと住ん

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調査結果 外国人労働者の受入れについて 自分の職場に外国人労働者が いる 28% 情報通信業では 48% が いる と回答 全国の 20 歳 ~69 歳の働く男女 1,000 名 ( 全回答者 ) に 職場における外国人労働者の受入れ状況や外国人労働者の受入れに対する意識を聞きました まず 全回答者

参考 男女の能力発揮とライフプランに対する意識に関する調査 について 1. 調査の目的これから結婚 子育てといったライフ イベントを経験する層及び現在経験している層として 若年 ~ 中年層を対象に それまでの就業状況や就業経験などが能力発揮やライフプランに関する意識に与える影響を把握するとともに 家

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最初に あなたの働く目的は何ですか? という質問をしたところ 20~50 代のすべての年代において 生活 家族のため と答えた人が最も多かった その割合は 20 代が 63.6% 30 代が 74.0% 40 代が 83.8% 50 代が 82.5% だった また 全年代共通で 第 2 位が 自由に

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平成26年度「結婚・家族形成に関する意識調査」報告書(全体版)

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3-1. 新学習指導要領実施後の変化 新学習指導要領の実施により で言語活動が増加 新学習指導要領の実施によるでの教育活動の変化についてたずねた 新学習指導要領で提唱されている活動の中でも 増えた ( かなり増えた + 少し増えた ) との回答が最も多かったのは 言語活動 の 64.8% であった


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1 人権問題に対する関心度と人権尊重の程度 回答者の 6 割以上が人権問題に高い関心を示しているが 約 3 割 5 分の回答者は人権問題に あまり関心がない か まったく関心がない と回答している ( 図表 1-1) 特に 若年層から中年層 (20 歳代 ~40 歳代 ) における関心度の低さが目立

日本のプロ野球に対する関心を示した表 3.1 および図 3.1 をみると スポーツニュース で見る (52.9) に対する回答が最く テレビで観戦する (39.0) 新聞で結果を確 認する (32.8) がこれに続く また 特に何もしていない (30.8) も目立った 2) 性別とのクロス集計の結果

第2回「若手社員の仕事・会社に対する満足度」調査 

平成26年度「結婚・家族形成に関する意識調査」報告書(全体版)

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調査の実施背景 第二次世界大戦後の 1948( 昭和 23) 年に新民法が施行され 家族の概念は これまでの家父長制の直系制家族から夫婦制家族へと移行しました たとえば相続財産については 現行の民法では 兄弟姉妹で均等に相続するのが原則となっています しかし墳墓の継承については 民法第八九七条による

2005 年ファイル交換ソフト利用実態調査結果の概要 2005 年 5 月 31 日 目次 調査方法...2 ファイル交換ソフトの利用者数の実態 ファイル交換ソフトの利用率とその変化 ファイル交換ソフトの利用者数とその変化...5 ファイル交換の実態 利用されてい

このジニ係数は 所得等の格差を示すときに用いられる指標であり 所得等が完全に平等に分配されている場合に比べて どれだけ分配が偏っているかを数値で示す ジニ係数は 0~1の値をとり 0 に近づくほど格差が小さく 1に近づくほど格差が大きいことを表す したがって 年間収入のジニ係数が上昇しているというこ

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質問 1 何歳から 長生き だと思いますか? 男性 女性ともに 80 歳 がトップ ( 合計 :42.3% 男性 :43.2% 女性 41.3%) 平均すると 男性が 81.7 歳 女性が 83.0 歳 と女性の方がより高年齢を 長生き と思うという 傾向があり 女性の 5 人に 1 人 (20.8


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3 地域コミュニティ活動について 地域コミュニティ活動 への参加について よく参加している 時々参加している とい う回答は 55.4% となりました また 参加したことはない と回答された方以外を対象に 地域コミュニティ団体の課題と 思うもの を尋ねたところ 回答が多かったものは 以下のとおりです

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Press Release 仕事に対しては総じて前向きな結果に 仕事への期待 が過去最高で 仕事に対する夢 の有無も昨年より上昇 売り手市場や手厚い内定フォローの影響か調査開始以来減少傾向にあった 仕事への期待 と 仕事に対する夢 の有無について 今年は一転上昇に転じた 仕事への期待がある ( どち

平成23年度

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アンケート調査の実施概要 1. 調査地域と対象全国の中学 3 年生までの子どもをもつ父親 母親およびその子どものうち小学 4 年生 ~ 中学 3 年生までの子 該当子が複数いる場合は最年長子のみ 2. サンプル数父親 母親 1,078 組子ども 567 名 3. 有効回収数 ( 率 ) 父親 927

日本の富裕層は 122 万世帯、純金融資産総額は272 兆円

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2002 年 2 月 全国の 20~69 歳の男女 598 名に聞いた 外国人労働者に関する意識調査 第一生命保険相互会社 ( 社長森田富治郎 ) のシンクタンク ライフデザイン研究所 ( 所長千葉商科大学学長加藤寛 ) では 全国の 20 ~ 69 歳の男女 598 名を対象に標記についてのアンケ

報道関係各位 2018 年 5 月 31 日 東京大学社会科学研究所所長佐藤岩夫株式会社ベネッセホールディングス代表取締役社長安達保 東京大学社会科学研究所 ベネッセ教育総合研究所共同研究プロジェクト 子どもの生活と学びに関する親子調査 2017 結果速報 勉強や目標が 自己肯定感 に影響 - 保護

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調査の概要 少子高齢化が進む中 わが国経済の持続的発展のために今 国をあげて女性の活躍推進の取組が行なわれています このまま女性正社員の継続就業が進むと 今後 男性同様 女性も長年勤めた会社で定年を迎える人が増えることが見込まれます 現状では 60 代前半の離職者のうち 定年 を理由として離職する男

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アンケート調査の実施概要 1. 調査地域と対象全国に居住する 20 歳から 59 歳の会社員の男女 2. サンプル数 700 名 3. サンプル抽出方法第一生命経済研究所生活調査モニター 4. 調査方法質問紙郵送調査法 5. 実施時期 2007 年 2 月 6. 有効回収数 ( 率 ) 601 名

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平成30年版高齢社会白書(全体版)

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調査の実施背景 戦後 日本の平均寿命は飛躍的に延び 平成 年 7 月に厚生労働省が発表した 平成 年簡易生命表 によると 65 歳の平均余命は 男性は 8.86 歳 女性は.89 歳となっています 約 0 年あるセカンドライフをより有意義に 楽しく暮らすためには人生設計や事前の準備が必要なのではない

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結婚しない理由は 結婚したいが相手がいない 経済的に十分な生活ができるか不安なため 未婚のに結婚しない理由について聞いたところ 結婚したいが相手がいない (39.7%) で最も高く 経済的に十分な生活ができるか不安なため (2.4%) 自分ひとりの時間が取れなくなるため (22.%) うまく付き合え

『いい夫婦の日』夫婦に関するアンケート調査 【プレゼント編】調査報告書

Transcription:

NOTES1 人づきあいと幸福度との関係 研究開発室小谷みどり - 要旨 - 1 30 歳以上 89 歳以下の全国男女 800 人に調査を実施したところ 地域 職場で孤立している と感じる人は男女ともに30~44 歳で最も多かった 一方で 75~89 歳の女性では 地域と 接触する場面がない と回答した人が16.0% もおり 完全に地域から孤立している高齢者が少なくない 2 地域への愛着度合いが強い人ほど幸福度が高いこと 近所に信頼できる人がいる人ほど幸福度が高いことから 地域への愛着心をどう醸成し 交流促進を図るかが 特に高齢者の QOL 向上への課題となる 3 困ったときに家族がとても頼りになるかどうかで 幸福度に大きな差があった 困ったときに家族が頼りになると思えることが 幸福度に大きな影響を与えていると推察される 他人を信頼する人ほど幸福度が高いが それ自体が幸福度をあげる要因ではなかった 1. 本稿の目的と調査概要 (1) 幸福度研究の視点 2010 年 6 月に閣議決定された 新成長戦略 では 2020 年までに 社会 環境分野の課題解決と経済成長を一体的に推進し 国民の不幸を最小化する という成果目標を掲げている (2012 年 11 月現在 ) この考え方は 18 世紀から19 世紀に活躍したイギリスの哲学者 ジェレミー ベンサム (Jeremy Bentham) の 幸福の源は個人の幸福 快楽であり その総和が社会全体の幸福になる という功利主義の理念に通じる 内閣府は 昨年末に幸福度指標試案を公表した背景として 政策の優先順位付けや政策の改良 新たな政策の提案を促すことに意義があるとしている 確かに 消費税などの増税が人々の幸福度向上にどう寄与するのかといった視点で政策の有効性を具体的に提示することができれば 結果的に社会の幸福度向上につながるだろう しかし 幸福度と政策の有効性の関係性を科学的に提示するのは 因果関係の特定を含め 至難の業である またそもそも 個人の幸福の総和が社会の幸福につながると人々は考えているのかという疑問もある 統計数理研究所が1953 年以来 5 年ごとに実施している 日本人 16

の国民性調査 によれば 個人が幸福になって はじめて日本全体がよくなる と回答した人は若者に多い傾向にあるものの 全体でみれば 1963 年以降 日本がよくなることも 個人が幸福になることも同じである (2008 年調査で40%) と回答した人が一貫して最も多い 個人の幸福と社会の幸福との関係をどう捉えるかは 世代や国 時代によっても異なるが いずれにせよ 社会の構成員である個人の幸福度向上が重要であることは言うまでもない しかし 幸福度の決定要因の理論的モデルを提示した先行研究はいまだ存在しておらず どうしたら幸せになれるのか という命題の解明にはさまざまな難題があることが分かる そこで 豊かなソーシャルキャピタルが生活満足の向上に寄与することが過去の研究で明らかにされていることから ( 小谷 2011) 本稿ではソーシャルキャピタルと幸福度の関係を考察してみたい (2) 調査の概要調査の概要は以下の通り < 調査対象者 > 30 歳以上 89 歳以下の全国の男女 800 名 ( 第一生命経済研究所生活調査モニターより抽出 ) < 調査時期 > 2011 年 8 月 27 日 ~9 月 14 日 < 調査方法 > 郵送調査法 < 有効回収数 > 763 名 ( 有効回収率 95.4%) ( 単位 : 人 ) 30~44 歳 45~59 歳 60~74 歳 75~89 歳 不明 性別合計 男性 94(23.9%) 96(24.4%) 96(24.4%) 107(27.3%) 0(0.0%) 393(100.0%) 女性 96(26.0%) 92(25.0%) 118(32.1%) 62(16.9%) 0(0.0%) 368(100.0%) 不明 0(0.0%) 0(0.0%) 0(0.0%) 0(0.0%) 2(100.0%) 2(100.0%) 年齢層合計 190(24.9%) 188(24.6%) 214(28.0%) 169(22.3%) 2(0.2%) 763(100.0%) 2. ソーシャルキャピタルと幸福度 (1) まわりの人からの孤立家庭 地域 職場で自分が孤立していると感じることがあるかをたずねたところ 孤立していると よく感じる ときどき感じる と回答した人は 職場 地域 家庭の順で多かった ( 図表 1) これを 性 年齢層別でみると 男性では 30~44 歳 で 家庭 地域 職場のいずれにおいても 孤立していると よく感じる ときどき感じる 人の合計が最も多かった ( 図表 2) この世代は 現在の生活に満足していない人が他の世代に比べて多 17

いうえ 幸福度も低かった ( 小谷 2012) ことから まわりの人との人間関係と幸福度との間には何らかの因果関係があるのではないかと考えられる 女性では 家庭 地域 職場のいずれにおいても孤立していると感じる人は 60~ 74 歳 で最も少なかった 家庭で孤立を感じる人が最も多かったのは 75~89 歳 で 60~74 歳 と15ポイントも開きがあった 地域や職場では男性と同様 30~44 歳 で孤立を感じる女性が多かった 75~89 歳 の女性では 地域と 接触する場面がない と回答した人が16.0% おり ( 図表省略 ) 孤立していると感じる以前に 実際に完全に孤立している高齢女性が少なくないことがうかがえる 図表 1 自分が孤立していると感じるか ( 場面別 ) 注 : 接触する場面がない と回答した人を除外して分析した 図表 2 自分が孤立していると よく感じる ときどき感じる 人の合計 ( 性 年齢層別 ) ( 単位 :%) 最高 最低 家庭 地域 職場 男性 30~44 歳 29.7 45~59 歳 17.3 女性 75~89 歳 29.1 60~74 歳 14.0 男性 30~44 歳 45.3 75~89 歳 11.9 女性 30~44 歳 41.1 60~74 歳 14.3 男性 30~44 歳 44.0 75~89 歳 14.3 女性 30~44 歳 32.4 60~74 歳 17.0 注 : 接触する場面がない と回答した人を除外して分析した (2) まわりの人からの孤立困ったときに家族 親戚 友人 近所の人はどの程度頼りになると思うかをたずねたところ 家族が とても頼りになる と回答した人は59.6% と過半数を占めたが 親戚や友人が とても頼りになる と回答した人は1 割程度しかおらず まあ頼りに 18

なる を合わせても 親戚や友人の存在が頼りになると考えている人は半数程度しかいなかった ( 図表 3) このことから 頼りになるのは家族だけ と考える人が少なくない実態が見てとれる 図表 3 困ったときに どの程度頼りになるか ( 相手別 ) 0% 20% 40% 60% 80% 100% 1.5 家族 59.6 32.6 6.2 0.1 親戚 10.1 42.9 32.9 14.0 0.1 友人 9.0 43.4 35.0 12.5 0.1 3.8 近所の人 25.6 37.7 32.8 0.1 とても頼りになる まあ頼りになる あまり頼りにならない 頼りにならない 無回答 家族 親戚 友人 近所の人のなかでも 友人 への信頼度合いは 属性別で顕著な特徴がみられた ( 図表 4) 図表 4 困ったときに 友人がどの程度頼りになるか ( 性別 年齢層別 ) 0 20 40 60 80(%) 男性 6.4 39.0 女性 12.0 48.1 30~44 歳 11.6 51.1 45~59 歳 9.6 47.3 60~74 歳 6.5 42.1 75~89 歳 8.9 32.5 とても頼りになる まあ頼りになる 性別では 友人が とても頼りになる まあ頼りになる と回答した人は 女性では60.1% いたのに対し 男性では45.4% と半数に満たない 年齢層別では 若い層 19

では とても頼りになる まあ頼りになる と回答した人が多く 30~44 歳では62.7% だったが 75~89 歳では41.4% にとどまり 20ポイント以上の開きがあった 高齢になると 同年代の友人も同様に高齢になるため 困ったときに頼れないという思いがあるのかもしれない 次に 頼りになる度合い別に幸福度をみると いずれも とても頼りになる と回答した人の幸福度が最も高く 頼りにならない と回答した人が最も低かった ( 図表 5) なかでも 家族 が頼りになる人とそうでない人とでは 幸福度に大きな差があり 家族が頼りにならない人の幸福度は 全体の平均値 6.8 点を大きく下回っていた しかし幸福度自体は 友人 がとても頼りになると回答した人で最も高く 家族がとても頼りになると回答した人の幸福度より高かったが 友人や親戚が頼りにならないと回答した人の幸福度は それほど低くない 分散分析の結果 家族が頼りになる程度と幸福度には有意な関連があったことから 困ったときに とても 頼りになる家族がいるかどうかが 幸福度に大きな影響を与えていると推察される 図表 5 幸福度の平均値 ( 頼りになる度合い 相手別 ) ( 点 ) 8.00 7.42 7.00 7.39 7.77 7.07 7.25 全体平均 6.8 6.00 5.00 4.00 とても頼りになる 家族親戚友人 6.12 まあ頼りになる 6.51 6.37 6.06 6.02 4.98 4.64 あまり頼りにならない 頼りにならない 注 : 幸福度は 現在の幸せの程度を とても不幸せ を 0 点 とても幸せ を 10 点として回答を求めた結果 ところで図表 3では 困ったときに近所の人が頼りになると回答した人は29.4% にとどまったが そもそも 居住する地域に対して調査対象者はどう考えているのだろうか そこで 地域に愛着がある 地域の人たちと積極的に交流したい という2 項目についてたずねたところ 地域に愛着がある と回答した人は そう思う と ま 20

あそう思う を合わせると71.3% であった ( 図表 6) 一方 地域の人たちと積極的に交流したい と思う人は半数程度の54.2%( そう思う 11.5%+ まあそう思う 42.7%) にとどまった 次に地域への愛着の有無別で 地域の人たちと積極的に交流したい という考えをみたところ 愛着がある人では 68.0% が交流したいと回答したが 愛着がない人では20.8% にとどまり 大きな差があった ( 図表 7) 図表 6 居住地域に対する考え方 0% 20% 40% 60% 80% 100% 地域に愛着がある 24.3 47.0 20.9 6.7 1.1 地域の人たちと積極的に交流したい 11.5 42.7 36.6 8.1 1.1 そう思うまあそう思うあまりそう思わないそう思わない無回答 図表 7 地域の人たちと積極的に交流したいか ( 愛着の有無別 ) 0% 20% 40% 60% 80% 100% 愛着あり (N=543) 16.0 52.0 28.9 3.1 1.0 愛着なし (N=212) 19.8 58.0 21.2 そう思うまあそう思うあまりそう思わないそう思わない また地域への愛着度合いで幸福度をみたところ 愛着の度合いが強い人ほど幸福度が高かった ( 図表省略 ) 前述したように 今回の調査対象者の中には 地域と接触する場面がない後期高齢者が少なくなかったが そもそも地域と交流したいという意欲がないのであれば問題はない しかし 因果関係を証明できないものの 地域への愛着と幸福度には正の相関があること また 近所に信頼できる人がいる人ほど幸福度が高いことから 地域の交流促進は特に高齢者のQOL 向上には重要なのではないかと思われる そのためには 住民の 地域に対する愛着心をどのようにすれば醸成できるのかを考えることが 先立つ課題であるといえよう 21

(3) 他人への信頼次に ほとんどの人は信頼できると思うかをたずねたところ 用心することに越したことはない という考えに共感する人は全体で39.6% おり ほとんどの人は信頼できる という意見に共感する人 (29.6%) を10ポイント上回った ( 図表 8) 図表 8 ほとんどの人は信頼できるか 用心するに越したことはないか の A えど A えど に B 人 A ばちとばち B 越はきはほに A ら B B らにし用なる信と近にかのにか近た心い頼んい近と中近といこす でど いい 間 いい とる 1.8% 6.2% 21.6% 29.8% 20.4% 8.5% 10.7% 29.6% 39.6% 信頼できると回答した人の割合を性別 年齢層別にみると 性別では特筆すべき特徴はなかったが 年齢層別では 信頼できる人の合計は30~44 歳で他の世代よりも顕著に少なく 2 割程度しかいなかった ( 図表 9) 図表 9 ほとんどの人は信頼できると回答した人の合計 ( 性別 年齢層別 ) 0 10 20 30 40 1.3 (%) 男性 8.0 20.4 女性 2.5 4.4 23.2 30~44 歳 1.6 3.7 18.0 45~59 歳 1.1 5.3 25.0 60~74 歳 0.9 7.1 23.1 75~89 歳 4.2 9.0 21.1 A ほとんどの人は信頼できる A に近いどちらかといえば A に近い 次に Aほとんどの人は信頼できる を 7 点 Aに近い を6 点 以下 B 用心するに越したことはない を1 点とし 信頼度得点の平均値を出したところ 性別では有意な差はなかったが 年齢層では 30~44 歳では他の世代より低いという結果が検出された ( 図表省略 ) さらに他者への信頼の度合い別に幸福度をみると 他者を信頼する人ほど幸福度が高いという結果が得られた ( 図表 10) 家族や親戚 友人がとても頼りになると回答した人の幸福度は高かったが 一般的 22

な他者に対しても信頼の気持ちを強く持っている人ほど 幸福度が高い傾向にあることがわかった しかし性別 年齢などの属性をコントロールした上で 幸福度に対する影響力をみると 他者への強い信頼自体が幸福度をあげる要因になっているとはいえなかった 人を信頼する傾向は高齢者に強いこと また男性高齢者で幸福度が高いことが 影響していると考えられる 図表 10 幸福度の平均値 ( 他者への信頼度別 ) ( 点 ) 8.00 7.77 7.50 7.00 6.50 7.02 6.00 5.50 5.00 は A ど信ほばち A 頼と A らにでんにか近きど近といるのいい + 人え 6.97 A と B の中間 6.67 6.34 どばち B らにか近といいえ B に近い し B た用こ心とすはるなにい越 5.77 3. まとめ 本稿では ソーシャルキャピタルと幸福度の関連を考察した 地域から孤立している高齢者が少なくないことは種々の世論調査の結果でも指摘されているが 今回の調査から 地域への愛着度合いが強い人ほど幸福度が高いこと 近所に信頼できる人がいる人ほど幸福度が高いことが明らかとなった したがって 地域への愛着心をどう醸成し 交流促進を図るかが 特に高齢者のQOL 向上への課題となる 一方 家族は困ったときに頼りになる存在であるうえ 家族が頼りになると思えることが 幸福度に影響を与えていた しかし 家族だけが頼りだというソーシャルキャピタルが脆弱な人が少なくないことにかんがみると 家族に限らず 友人や近所の人たちなど 人との絆や信頼する心が醸成されているかどうかが 幸福感を高める大きな要素であるといえる ( 研究開発室主席研究員 ) 参考文献 小谷みどり,2011, 高齢者のきずな Life Design Report (Summer 2011.7) 小谷みどり,2012, どんな人が幸せなのか Life Design Report (Summer 2012.7) 23