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よる感染症は これまでは多くの有効な抗菌薬がありましたが ESBL 産生菌による場合はカルバペネム系薬でないと治療困難という状況になっています CLSI 標準法さて このような薬剤耐性菌を患者検体から検出するには 微生物検査という臨床検査が不可欠です 微生物検査は 患者検体から感染症の原因となる起炎

2012 年 2 月 29 日放送 CLSI ブレイクポイント改訂の方向性 東邦大学微生物 感染症学講師石井良和はじめに薬剤感受性試験成績を基に誰でも適切な抗菌薬を選択できるように考案されたのがブレイクポイントです 様々な国の機関がブレイクポイントを提唱しています この中でも 日本化学療法学会やアメ

2012 年 11 月 21 日放送 変貌する侵襲性溶血性レンサ球菌感染症 北里大学北里生命科学研究所特任教授生方公子はじめに b 溶血性レンサ球菌は 咽頭 / 扁桃炎や膿痂疹などの局所感染症から 髄膜炎や劇症型感染症などの全身性感染症まで 幅広い感染症を引き起こす細菌です わが国では 急速な少子

抗菌薬の殺菌作用抗菌薬の殺菌作用には濃度依存性と時間依存性の 2 種類があり 抗菌薬の効果および用法 用量の設定に大きな影響を与えます 濃度依存性タイプでは 濃度を高めると濃度依存的に殺菌作用を示します 濃度依存性タイプの抗菌薬としては キノロン系薬やアミノ配糖体系薬が挙げられます 一方 時間依存性

耐性菌届出基準

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割合が10% 前後となっています 新生児期以降は 4-5ヶ月頃から頻度が増加します ( 図 1) 原因菌に関しては 本邦ではインフルエンザ菌が原因となる頻度がもっとも高く 50% 以上を占めています 次いで肺炎球菌が20~30% と多く インフルエンザ菌と肺炎球菌で 原因菌の80% 近くを占めていま

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感染症学雑誌第77巻第8号

糖尿病診療における早期からの厳格な血糖コントロールの重要性



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浜松地区における耐性菌調査の報告

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2012 年 7 月 18 日放送 嫌気性菌感染症 愛知医科大学大学院感染制御学教授 三鴨廣繁 嫌気性菌とは嫌気性菌とは 酸素分子のない環境で生活をしている細菌です 偏性嫌気性菌と通性嫌気性菌があります 偏性嫌気性菌とは 酸素分子 20% を含む環境 すなわち大気中では全く発育しない細菌のことで 通

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染症であり ついで淋菌感染症となります 病状としては外尿道口からの排膿や排尿時痛を呈する尿道炎が最も多く 病名としてはクラミジア性尿道炎 淋菌性尿道炎となります また 淋菌もクラミジアも検出されない尿道炎 ( 非クラミジア性非淋菌性尿道炎とよびます ) が その次に頻度の高い疾患ということになります

2017 年 2 月 1 日放送 ウイルス性肺炎の現状と治療戦略 国立病院機構沖縄病院統括診療部長比嘉太はじめに肺炎は実地臨床でよく遭遇するコモンディジーズの一つであると同時に 死亡率も高い重要な疾患です 肺炎の原因となる病原体は数多くあり 極めて多様な病態を呈します ウイルス感染症の診断法の進歩に

2015 年 9 月 30 日放送 カルバペネム耐性腸内細菌科細菌(CRE) はなぜ問題なのか 長崎大学大学院感染免疫学臨床感染症学分野教授泉川公一 CRE とはカルバペネム耐性腸内細菌科細菌感染症 以下 CRE 感染症は 広域抗菌薬であるカルバペネム系薬に耐性を示す大腸菌や肺炎桿菌などの いわゆる


緑膿菌 Pseudomonas aeruginosa グラム陰性桿菌 ブドウ糖非発酵 緑色色素産生 水まわりなど生活環境中に広く常在 腸内に常在する人も30%くらい ペニシリンやセファゾリンなどの第一世代セフェム 薬に自然耐性 テトラサイクリン系やマクロライド系抗生物質など の抗菌薬にも耐性を示す傾

2.7.3(5 群 ) 呼吸器感染症臨床的有効性グレースビット 錠 細粒 表 (5 群 )-3 疾患別陰性化率 疾患名 陰性化被験者数 / 陰性化率 (%) (95%CI)(%) a) 肺炎 全体 91/ (89.0, 98.6) 細菌性肺炎 73/ (86

ヘモフィルスインフルエンザ菌b型(Hib)ワクチン<医療従事者用>

シプロフロキサシン錠 100mg TCK の生物学的同等性試験 バイオアベイラビリティの比較 辰巳化学株式会社 はじめにシプロフロキサシン塩酸塩は グラム陽性菌 ( ブドウ球菌 レンサ球菌など ) や緑膿菌を含むグラム陰性菌 ( 大腸菌 肺炎球菌など ) に強い抗菌力を示すように広い抗菌スペクトルを

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与するプロトコールで抗菌薬使用は全体の 31%(Siegel et al. 2003) あるいは 34% (McCormick et al. 2005) にとどまったと報告している Rovers ら (2004) も 抗菌薬非投与で軽快する例があるが 発症 2~3 日の観察が重要であるとしている 1

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図 B 細胞受容体を介した NF-κB 活性化モデル

THE JAPANESE JOURNAL OF ANTIBIOTICS 68 3 June 2015 Streptococcus pneumoniae, Haemophilus influenzae, Moraxella catarrhalis % 2 S. pneumon

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「薬剤耐性菌判定基準」 改定内容

改訂の理由及び調査の結果直近 3 年度の国内副作用症例の集積状況 転帰死亡症例 国内症例が集積したことから専門委員の意見も踏まえた調査の結果 改訂することが適切と判断した 低カルニチン血症関連症例 16 例 死亡 0 例

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(案の2)

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は減少しています 膠原病による肺病変のなかで 関節リウマチに合併する気道病変としての細気管支炎も DPB と類似した病像を呈するため 鑑別疾患として加えておく必要があります また稀ではありますが 造血幹細胞移植後などに併発する移植後閉塞性細気管支炎も重要な疾患として知っておくといいかと思います 慢性

始前に出生したお子さんについては できるだけ早く 1 回目の接種を開始できるように 指導をお願いします スムーズに定期接種を進めるために定期接種といっても 予防接種をスムーズに進めるためには 保護者の理解が不可欠です しかし B 型肝炎ワクチンの接種効果は一生を左右する重要なものですが 逆にすぐに効

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2014 年 10 月 30 日放送 第 30 回日本臨床皮膚科医会② My favorite signs 9 ざらざらの皮膚 全身性溶血連鎖球菌感染症の皮膚症状 たじり皮膚科医院 院長 田尻 明彦 はじめに 全身性溶血連鎖球菌感染症は A 群β溶連菌が口蓋扁桃や皮膚に感染することにより 全 身にい

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顎下腺 舌下腺 ) の腫脹と疼痛で発症し そのほか倦怠感や食欲低下などを訴えます 潜伏期間は一般的に 16~18 日で 唾液腺腫脹の 7 日前から腫脹後 8 日後まで唾液にウイルスが排泄され 分離できます これらの症状を認めない不顕性感染も約 30% に認めます 合併症は 表 1 に示すように 無菌

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1 MRSA が増加する原因としては皮膚 科 小児科 耳鼻科などでの抗生剤の乱用 があげられます 特にセフェム系抗生剤の 使用頻度が高くなると MRSA の発生率が 高くなります 最近ではこれらの科では抗 生剤の乱用が減少してきており MRSA の発生率が低下することが期待できます アトピー性皮膚炎

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グリコペプチド系 >50( 常用量 ) 10~50 <10 血液透析 (HD) 塩酸バンコマイシン散 0.5g バンコマイシン 1 日 0.5~2g MEEK 1 日 4 回 オキサゾリジノン系 ザイボックス錠 600mg リネゾリド 1 日 1200mg テトラサイクリン系 血小板減少の場合は投与

2011 年 11 月 2 日放送 NHCAP の概念 長崎大学病院院長 河野茂 はじめに NHCAP という言葉を 初めて聴いたかたもいらっしゃると思いますが これは Nursing and HealthCare Associated Pneumonia の略で 日本語では 医療 介護関連肺炎 と

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<B 型肝炎 (HBV)> ~ 平成 28 年 10 月 1 日から定期の予防接種になりました ~ このワクチンは B 型肝炎ウイルス (HBV) の感染を予防するためのワクチンです 乳幼児感染すると一過性感染あるいは持続性感染 ( キャリア ) を起こします そのうち約 10~15 パーセントは

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横浜市感染症発生状況 ( 平成 30 年 ) ( : 第 50 週に診断された感染症 ) 二類感染症 ( 結核を除く ) 月別届出状況 該当なし 三類感染症月別届出状況 1 月 2 月 3 月 4 月 5 月 6 月 7 月 8 月 9 月 10 月 11 月 12 月計 細菌性赤痢

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【v4】○新旧(届出基準のみ)

種の血清型 (6A,9A,9L,18B,18F) に対する交差免疫もあるため これを含めるとカバー率はさらに上昇する PCV7でカバーできる薬剤耐性肺炎球菌の割合が カバーできない薬剤耐性肺炎球菌より高いため 薬剤耐性肺炎球菌だけでみると90% がカバーできるとされている ワクチン接種前に既に肺炎球

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一次サンプル採取マニュアル PM 共通 0001 Department of Clinical Laboratory, Kyoto University Hospital その他の検体検査 >> 8C. 遺伝子関連検査受託終了項目 23th May EGFR 遺伝子変異検

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2009年8月17日

CQ1: 急性痛風性関節炎の発作 ( 痛風発作 ) に対して第一番目に使用されるお薬 ( 第一選択薬と言います ) としてコルヒチン ステロイド NSAIDs( 消炎鎮痛剤 ) があります しかし どれが最適かについては明らかではないので 検討することが必要と考えられます そこで 急性痛風性関節炎の

薬剤耐性とは何か? 薬剤耐性とは 微生物によって引き起こされる感染症の治療に本来有効であった抗微生物薬に対するその微生物の抵抗性を言う 耐性の微生物 ( 細菌 真菌 ウイルス 寄生虫を含む ) は 抗菌薬 ( 抗生物質など ) 抗真菌薬 抗ウイルス薬 抗マラリア薬などの抗微生物薬による治療に耐えるこ

医療法人高幡会大西病院 日本慢性期医療協会統計 2016 年度

未承認薬 適応外薬の要望に対する企業見解 ( 別添様式 ) 1. 要望内容に関連する事項 会社名要望された医薬品要望内容 CSL ベーリング株式会社要望番号 Ⅱ-175 成分名 (10%) 人免疫グロブリン G ( 一般名 ) プリビジェン (Privigen) 販売名 未承認薬 適応 外薬の分類

2012 年 2 月 22 日放送 人工関節感染の治療 近畿大学整形外科講師西坂文章はじめに感染人工関節の治療について解説していきます 人工関節置換術は整形外科領域の治療に於いて 近年めざましい発展を遂げ 普及している分野です 症例数も年々増加の傾向にあります しかし 合併症である術後感染が出現すれ

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背景 ~ 抗菌薬使用の現状 ~ 近年 抗微生物薬の薬剤耐性菌に伴う感染症の増加が国際的にも大きな課題の一つに挙げられている 欧州及び日本における抗菌薬使用量の国際比較 我が国においては 他国と比較し 広範囲の細菌に効く経口のセファロスポリン系薬 キノロン系薬 マクロライド系薬が第一選択薬として広く使

地方衛生研究所におけるカルバペネム耐性腸内細菌科細菌検査の現状 薬剤耐性研究センター 第 1 室 鈴木里和

 

92 解説 Ⅰ. 序文 急性歯性感染症に対する第一選択薬はペニシリン系薬である ペニシリン系薬 セフェム系薬は下顎骨へ 歯性感染症主要起炎菌に対するsitafloxacinの抗菌 殺菌作用に関する検討 Antibacterial and Bactericidal Activity of Sitafl

1. Caov-3 細胞株 A2780 細胞株においてシスプラチン単剤 シスプラチンとトポテカン併用添加での殺細胞効果を MTS assay を用い検討した 2. Caov-3 細胞株においてシスプラチンによって誘導される Akt の活性化に対し トポテカンが影響するか否かを調べるために シスプラチ

Transcription:

30 1 15 1 39 43 56 43 MRSA MRSA 4 MRSA 1 4 1 16 6 2

PRSP BLNAR PCR 21 17.6 16.5 10 8.2 30 20 3 1 2 3 4 5 6 PRSP 1980 10 1 1987 PISP 1. PRSP-BLNARR R PRSP 1994 1996 PRSP 30 2000 50 PISP 40 10 15 BLPAR 1985 1998 2000 BLNAR 2 PRSP 1 1 6 PRSP

抗菌薬耐性菌感染症の現状とその対策 と 呼 ば れ る 耐 性 菌 で す が こ の 略 語 は penicillin resistance の肺炎球菌ということで 頭文字を取って PRSP と呼ばれます 軽度耐性菌の場合は penicillin intermediate resistance ということで PISP と呼ばれ ます それから感性菌の場合には susceptible ですか ら S を取って PSSP と略しています PRSP の多くはβ- ラクタム薬だけではなく テト ラサイクリン マクロライド系薬等異なる系統の薬物 にも 耐性を示すことから multi - drug resistance の 肺炎球菌という意味で MDRSP という呼び方をする 場合もあります これらの急速に増加してきている PRSP は 細菌細 胞のどこが変化して耐性化しているかということが あります 図 3 に示しますと 細胞壁を合成する酵素 penicillin - binding proteins の 中 の PBP1a PBP2x そして PBP2b 遺伝子が変異して耐性化していること が明らかにされています つまり 耐性化には複数の 遺伝子が関係している複雑なメカニズムになってい ます 101 図 2. 症例の年齢分布と肺炎球菌 インフルエンザ菌検出 状況 MRSA の場合には meca 遺伝子と呼ばれる私ども がその遺伝子構造を明らかにした遺伝子ですが 肺炎 球菌の場合には少なくとも 3 つが関係しているので 複雑な機構になっている訳です 一方 PRSP とともにマクロライド耐性の菌が非常 に増えてきています この耐性メカニズムには 2 つ の機構があり 一つは黄色ブドウ球菌でも知られてい るリボゾームをジメチル化する酵素の産生で その 遺伝子は ermb と呼ばれる遺伝子に乗っています こ の遺伝子を持っている菌は市販されているマクロラ イド薬すべてに耐性化します もう一つは mefa と いう遺伝子に乗っているものですが この場合には菌 体内に取り込まれたマクロライド薬を排出する機構 です この機構を保持しますと 14 員環マクロライ ドと呼ばれる マクロライドの微量投与法で使われる マクロライド薬のエリスロマイシン クラリスロマイ シン アジスロマイシン等に軽度耐性化します このような耐性遺伝子を 私どもは PCR によって 検索するシステムを構築し キット化していますが その詳細は本日は省略します キットを使って耐性遺 伝子を調べ基準薬であるペニシリン G に対する感受 性と遺伝子変異の関係を調べました 図 4 日本では小児科 あるいは耳鼻科の先生方は 好ん でセフェム系薬をお使いになられますが 欧米におい ては第一選択薬はペニシリン系薬で アンピシリン あるいはアモキシリンが勧められているという違い があります それが菌の耐性化にどのような影響を 与えているかを見ますと PBP1a 2x 2b の 3 つの遺 伝子が変化した菌の場合は MIC が 1 μg/ml から 4 μg/ml に集中して分布していることがおわかりいた だけるかと思います 一方 耐性遺伝子を持たない PSSP の場合は MIC は 0.031 μg/ml 以下にあるわけ ですから 耐性菌の MIC がたかだか 2 μg/ml 程度と いっても 感性菌から比べますと約 100 倍近い MIC の上昇となっているわけです 図 3. 肺炎球菌における薬剤耐性 図 4. 肺炎球菌の PenicillinG 感受性問と遺伝子変異との関係

102 生方 公子 それから日本株と欧米株で違うのは 日本株では PBP2x 遺伝子のみだけが変異した株が約 20 分離さ れています ところが 欧米ではこの株が非常に少な いのです この株は セフェム系薬では 0.125 0.5 μ g/ml と ちょうど感性菌と耐性菌の中間のところに シフトしてきています つまり セフェム系薬には軽 度耐性化した菌といえます 一方 欧米では PBP2x と 2b の 2 つの遺伝子が変 異した株が約 20 認められます この PBP2b という のがペニシリンに耐性を与える遺伝子だといわれてい ます PRSP の割合は確かに日本で多いのですが 欧米で はさらに高度耐性化した菌が出現しつつあることに注 目しておかなければならないと思います セフォタキ シムのような注射薬ですと 血中濃度が非常に高くな りますので 1 4 μg/ml 程度の耐性菌は治療可能と 思われますが MIC が 8 μg/ml 以上となった菌の場 合には 治療に難渋するかも知れません 問題なのは 外来でお使いになられる経口薬ではど うかということです 代表的なセフポドキシム セフ ジニルの感受性と遺伝子変異の関係をみますと 経口 セフェム薬の場合には通常投与量を服用した場合 血 中濃度はせいぜい 1 2 μg/ml 位にしかなりません 両薬剤とも PRSP に対する抗菌力は 4 8 μg/ml と 血中濃度をはるかにオーバーしています ですから このような耐性菌で呼吸器感染症を起こしている場 合 これらの薬剤を服用させましても菌はなかなか消 失致しません 症状が遷延化する原因はこの点にある ように思います 図 5 には 6 種類の経口薬の感受性累積分布を示し ます 1 μg/ml に血中濃度の目安として点線を入れ てあります 現在外来で使われています薬剤の中で ファロペネム セフジトレン 図には示していないセ フカペンの 3 薬剤しか PRSP に対して 1 μg/ml 以下 の MIC しか示しておりません 菌を抑えることがで きません ほかの薬剤では ほとんどが 1 μg/ml 以上 になっていることが示されています このようなこと がバックグラウンドにあって PRSP が非常に増えて きたといえます もう一つ マクロライド薬も相当量使われてい ますが 先程 2 つの耐性メカニズムが存在すると申 し上げました 一つは ermb と呼ばれるリボゾームを 不活化する酵素を産生する遺伝子を持った菌です こ れを保持しますと 図 6 に示すように非常に高度耐 性化します 既存のマクロライド薬は効かなくなり ます パープルで示しました mefa 遺伝子を保持する 場合には 14 員環マクロライド薬とアジスロマイシ ン等に 0.5 8 μg/ml 前後の MIC を示す軽度耐性菌 となります これらも 1 μg/ml 前後に MIC が分布し ているわけです この点が大変重要だと思われます こ の MIC レ ベ ル を 薬 物 の 体 内 動 態 か ら な が め た ら ど う な る か と い う こ と で す 図 7 に 示 す よ う に 抗菌薬の臨床効果は菌の感受性の良否だけで説 明できるものではなく いろいろな要因が関与して います 一つは 抗菌薬そのものの優劣 菌のビル レンス virulence の問題 そして 3 番目は宿主側の 問題です 肺炎球菌 あるいはインフルエンザ菌の場 合は その菌量も問題になるともいわれています こ れらの菌は常在細菌の一面も持っているからです ま た 多糖体でできた莢膜のタイプも重要です 宿主側の問題としては 先程もお示ししましたよ うに 年齢が非常に重要であること また 免疫機 能が低下してくる高齢者の場合にも問題になって きます それから病巣部位 基礎疾患の有無も重要 です 免疫学的に未熟な小児の場合には 保育園等の 集団生活をしているかどうかも大変重要です 一方 抗菌薬の場合には 一般的に MIC という抗 菌力の優劣のみで比較されてきました しかし 本来 図 5. Cumulative Cur ves of 6 Oral β- lactam Antibiotics against PRSP (n 940) 図 6. マクロライド系薬感受性と耐性遺伝子との関係

抗菌薬耐性菌感染症の現状とその対策 は殺菌性の優劣が薬剤消失後における post - antibiotic effect PAE 効果 の有無が問題になります また 経 口薬の場合には服用後の吸収性の良否が問題になり ます β- ラクタム薬の場合には Craig の理論という のがあり time above MIC すなわち 血中濃度が起 炎菌の MIC を上回る時間が非常に重要であるといわ れています セフェム系薬の場合はその時間が 50 必要であり ペニシリン系のように殺菌力が比較的あ る薬剤は 35 程度で良いと言われています つまり 8 時間間隔で服用させるセフェム系薬の場合 50 は 4 時間保たれる濃度となります 一般的には MIC が 0.5 0.8 μg/ml の菌まで臨床効果が期待出来るとい う計算になります アンピシリン アモキシシリン それからケフラール そしてマクロライド薬では MIC が 1μg/ml 前後の菌に 対しても臨床効果が期待できるという計算になります 日本で好まれているセフェム系薬は 有効濃度が意 外と低いレベルにあることが問題なわけです 欧米で 図 7. 抗菌薬の臨床効果を左右する要因 103 PRSP の場合にはアモキシシリン あるいはアンピシ リンを 倍量投与しなさいとされているのはこの点に あります 日本で許可されている投与量は 耐性菌の 現状を考えますと 投与量が少なすぎると言わざるを えません 次にインフルエンザ菌のお話に移りたいと思い ます この耐性菌の名称を本日初めて聞かれた方も いらっしゃるかと思います 急速に増えてきている BLNAR は 表 - 1 に 示 すβ- lactamase non - producing ampicillin resistance の 略 で す そ れ か ら 最 近 1 年 位の間に急速に増えてきているさらに新たな耐性菌 があります それは 複数の耐性メカニズムを持った 菌です これを BLPACR と略しますが β- lactamase producing Amoxicillin/clavulanate resistance の意味で βラ ク タ マ ー ゼ 阻 害 剤 が 入 っ た 薬 剤 に も 耐 性 と い う意味です それから感性菌は β- lactamase non producing ampicillin susceptible で BLNAS と略して います この BLNAR は検査室レベルでどのように判定で きるのかといいますと 感性菌では いろいろな感 受性ディスクで阻止円がすべて大きくみられますが BLNAR ではセファクロール セフジニル セフポド キシムには阻止円が形成されていません 図 8 アン ピシリンは 10 μg 含有されていますが 阻止円が非常 に小さくなっています それから セフォタキシムは 30 μg 含まれていますので 耐性菌の識別には使えま せん 唯一 経口薬で阻止円が認められるのはセフジ トレンのみです BLNAR では菌が分裂する時の隔壁 ちょうど部 屋の仕切りと同じものを作る酵素が変化しており ま す こ の PBP3 を コ ー ド し て い る 遺 伝 子 を ftsi 遺 伝子と呼びますが この遺伝子上の 3 か所に既に変 異が入っていることを私共は明らかにしています 1 か所にのみ変異を持った場合には軽度耐性となり ます ところが 2 か所に変異を持ちますと ちょう 表 1. インフルエンザ菌における耐性菌の名称 図 8. BLNAR - ディスクでの判定 -

104 生方 ど薬剤の相乗効果と同じように 耐性レベルが一挙に 上昇してきます このような遺伝子変異を持ちますと 感受性 MIC がどのように変化してくるかをアンピシリンとセ フォタキシムでみますと 図 9 に示すように感性菌 BLNAS に比べ BLNAR では MIC が高くなってい ることがおわかりいただけるかと思います 約 64 倍 上がっています そしてちょうど 1μg/ml 以上と先 程の PRSP と同じような濃度であることが注目され ます 一方 私どもが軽度耐性と呼んでいる Low - BLNAR は 1 か 所 だ け 変 異 を 持 っ た 菌 で す が こ の 場 合 は 感 性 菌 に 比 べ 試 験 管 で 2 本 3 本 位 の MIC 低 下で 遺伝子解析をしないと見分けがつきにくい耐性 菌です また セフェム系薬で 明らかに感受性が低 下してきているということが重要です ペニシリン系薬を好んで使う欧米ではどうかといい ますと BLNAR は 1 株もないことが示されています すなわち BLNAR と呼ばれる耐性菌は 日本で問題 になっている菌で 欧米ではきわめてまれな耐性菌 です しかし 欧米ではβラクタマーゼ産生菌が 40 も 分離されています 欧米ではβラクタマーゼ阻害剤 の入った経口薬を外来で多く処方するのは たぶん このような理由からです それでは 日本で使われている経口薬が BLNAR に 対 し て ど の 程 度 の 抗 菌 力 を 示 す か を 図 10 で み ますと 1 μg/ml に血中濃度の目安として点線を引い てありますが セフジトレンを除き ほとんどの薬剤 が BLNAR に対しては抗菌力を持っていません 日本 で開発された経口セフェム系薬の多くは BLNAR に 対して弱いことが示されています BLNAR が急速 に増加してきている原因は ここにあると思ってい ます 加えて殺菌力も非常に低下してきていることも あります 図 9. インフルエンザ菌の薬剤感受性 2000 年 分離 438 株 公子 残りの時間は 今までにお話した耐性菌による重 症感染症のことを少しお話しておきたいと思います まず 肺炎球菌による重症感染症として 髄膜炎をお 示しします 私どもが ここ 2 年ほどの間に全国的に 収集しているものですが 250 症例以上集まってきて います 肺炎球菌性髄膜炎は小児の病気かと思います と 実は小児 105 例に対し 成人 53 例という割合に なっています つまり 2 対 1 と成人でも髄膜炎がき わめて増えてきていることが示されています しかも PRSP による発症例が非常に多く 次い で PISP で す 成 人 で は PISP 例 が 多 い よ う に 見 え ま す が 統 計 学 的 に は 有 意 差 は 認 め ら れ て お り ま せん 問題はこれらの菌の病原性です 病原性に関わる莢 膜のタイプは 84 に分けることができます 気 道 感 染 症 か ら 分 離 さ れ る 菌 を PRSP PISP 2x 変異株 そして感性菌に分けて菌の血清型をみ ますと PRSP では 19 型が最も多くなっています このタイプは急性中耳炎のお子さんから高頻度に分 離されるタイプです 次が 6 型と 23 型 そして 14 型 が少し認められます PISP では少し異なり 14 型が 圧倒的に多く 次いで 23 型と 6 型となっています 14 型は肺炎例から非常に多く分離されるタイプです PBP 2x 変異株の中では 3 型菌といってムコイド型 のコロニーを形成する特徴のある菌が多くなってい ます 感性菌の場合にはいろいろなタイプが認めら れております 髄膜炎から分離された菌の成績を比べ ますと 小児の場合には抗体獲得と非常に関連してい るといわれていますが 母体からの免疫移行がないと いわれている 6 型によって発症している例が約 4 割を 占めています 小児の場合は 6 型菌は非常に重要に なってきます むしろ 中耳炎を惹起する 19 型での 髄膜炎は 1 割位で 次いで 23 型という割合になって おります 一方 成人例ですが 髄膜炎がどのタイプで発症し 図 10. BLNAR に 対 す る 経 口 β- ラ ク タ ム 系 薬 の 抗 菌 力 (n 108)

抗菌薬耐性菌感染症の現状とその対策 105 ているかといいますと ビルレンスの低い 23 型です 次いで 22 型 それから ムコイド型の 3 型というの が 14 あります つまり 小児と成人では髄膜炎を惹 起する菌のタイプは異なるということが示されている わけです 小児の予後不良例 12 例 を見ますと 劇症型とも いえるタイプがあるような気がします 死亡した例 3 例では 発症から 24 時間以内に死亡している例が 2 例あります 重篤な基礎疾患を有していたことが 高いリスクファクターになっているように思います 検出された菌は PISP です 一方 後遺症を残した例で 入院に至るまでに 48 時 間 以 上 を 要 し て い る こ と が 重 要 で あ る と 思 い ます それと PRSP が非常に多いこと 年齢が 1 歳以 下と小さいことの 3 つがリスクファクターです このように入院に至るまでに時間を要し ますと 治療薬として最も適切であるといわれている カルバペネム系薬を使用しても 後遺症を残している 例があります 治療のタイミングが非常に重要である ことが示されています 成人例の場合には PRSP による死亡例が多くなっ ています 我慢をして病院を受診するタイミングを失 した例が非常に多いように思います それと 意外と 壮年期発症例が多いことです 約半数の人が何がしか の基礎疾患を持っています それから DIC に至って いる例が多いことも判ります 問題なのは初期治療薬です 適切だと思われるカル バペネム系薬が使われていたのは 1 例のみで 他は殺 菌力の劣る注射用セフェム薬が使われていました 治療薬ですが 図 11 には考えられる治療薬をいく つか示してあります 肺炎例に対するブレイクポイ ントは 日本化学療法学会ではカルバペネム系薬に対 し 2 μg/ml に設定しております しかし 髄膜炎の 場合には髄液への移行が悪いわけですから どの辺に ブレイクポイントをおいたら良いかが問題です 恐ら く 0.125 0.25 μg/ml 位に設定しないと 治療効果と マッチしないのではないかと思います というのは このような重症感染症の場合 MBC 最小殺菌濃度 が一番問題になってくるといわれ 髄液濃度としては 起炎菌の MIC のおそらく 10 20 倍必要だといわれ ています そういった意味で パニペネム イミペネ ム ビアペネム等のカルバペネム系薬が 治療薬とし て適していると考えられます 欧米で使われているバ ンコマイシンは 日本では PRSP に対する治療薬とし ての許可を取得しておりません 最後はインフルエンザ菌による髄膜炎のお話です BLNAR による髄膜炎が非常に増えてきております 私どものところには現在 350 例位の菌が集積されて きております インフルエンザ菌性髄膜炎は成人では めったに問題になりませんが 小児では 4 歳ぐらいま でが一番重要であります 問題はこれらの起炎菌の中で BLNAR が指数関数 的に増えてきていることです 2002 年の 96 株では 26 が BLNAR であったという成績になっています 従来の治療方法による効果は非常に劣ってきていると いう印象を受けています また 将来的に注目してお かなければいけないのは BLPACR という新しいタイ プの耐性菌です 治療薬として何が最適かということですが 先程 セ フ ォ タ キ シ ム の MIC は BLNAR に 0.5 1 μg/ml にあるというお話をしました この MIC 前後の殺 菌力をみますと それが劣っていることが示されて います インフルエンザ菌性の髄膜炎の場合には セフォタキシム あるいはセフトリアキソンを使用し た場合に 再発 再燃例が意外と多いことにつながっ ていることが問題だと思います むしろ MIC はそれ ほどよくありませんが 図 12 に示すカルバペネム系 薬の中のメロペネムだけが 比較的殺菌力に優れてい ると思います いずれにしても どれが最適な治療薬であるのか 図 11. PRSP に対するβ- ラクタム系薬の抗菌力の比較 (n 78) 図 12. BLNAR に対する注射用β- ラクタム系薬の抗菌力 (n 108)

BLNAR MIC Hib PCR 2 8 2 2 6 in vitro 3 post-antibiotic effect PAE post-antibiotic effect PAE - PAE MIC 1 PAE PAE -PAE B B

b f PCR 2003 The Medical Society of Saitama Medical School