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. 軸力作用時における曲げ耐力基本式の算定 ) ここでは破壊包絡線の作成を前提としているので, コンクリートは引張領域を無視した RC 断面時を考える. 圧縮域コンクリートは応力分布は簡易的に, 降伏時は線形分布, 終局時は等価応力ブロック ( 図 -2) を考えることにする. h N ε f e

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5. 鉄筋コンクリート橋脚の耐震補強設計における考え方 5.1 平成 24 年の道路橋示方書における鉄筋コンクリート橋脚に関する規定の改定のねらい H24 道示 Ⅴの改定においては, 橋の耐震性能と部材に求められる限界状態の関係をより明確にすることによる耐震設計の説明性の向上を図るとともに, 次の2 点に対応するために, 耐震性能に応じた限界状態に相当する変位を直接的に算出する方法に見直した 1) SD390 及び SD490 を軸方向鉄筋として使用する鉄筋コンクリート橋脚に適用するために算出方法の適用性の拡張 2) 帯鉄筋の高さ方向間隔の規定の緩和による施工性の改善 ( 水平方向の配置間隔は従来どおり ) 5.2 破壊メカニズムを踏まえた単柱式鉄筋コンクリート橋脚の限界状態の設定図 -5.1 は, 柱基部で曲げ破壊するタイプの単柱式鉄筋コンクリート橋脚に対して, 正負交番繰返し荷重下における典型的な水平力 - 水平変位の履歴曲線と載荷変位の増加に伴う損傷の進展を示したものである 単柱式鉄筋コンクリート橋脚では, 軸方向鉄筋が降伏する段階になると水平力 - 水平変位関係の剛性が低下する この段階 ( 図中 1) では, 橋脚は水平曲げひび割れが生じる程度の損傷状態である その後は水平変位が増加しても水平力はおおむね一定となるが, 載荷変位が増加するに伴い, 水平ひび割れの数が増え, 柱基部に縦方向のひび割れが生じ始める ( 図中 2) この後, かぶりコンクリートが剥がれ, 軸方向鉄筋のはらみ出しが生じ ( 図中 3), 最終的には軸方向鉄筋の破断や内部コンクリートの圧縮破壊が生じる ( 図中 4) 水平力は, 軸方向鉄筋のはらみ出しが生じる段階になると徐々に低下し始め, 軸方向鉄筋の破断に伴い急激に低下する なお, 横拘束鉄筋には, かぶりコンクリートの剥落が生じたあとに, 軸方向鉄筋がはらみ出そうとする挙動を抑制する効果もある このため, 横拘束鉄筋によって適切に軸方向鉄筋及び内部コンクリートが拘束されている場合などには, かぶりコンクリートが剥落した後も, 軸方向鉄筋のはらみ出しがすぐには顕著にならない場合もある 表 -5.1 は, 耐震性能 2に対する許容変位の算出方法の考え方を H14 道示 Ⅴと H24 道示 Ⅴで比較したものである H14 道示 Ⅴでは, 最大水平力付近で安定していた水平力が低下し始める点を設計上の終局変位とみなすこととし, これに安全係数 (=1.5: タイプⅡの地震動の場合 ) を考慮することによって耐震性能 2の許容変位を算出していた しかし, これらの限界状態の点は, 上記のように終局変位に相当する点から安全係数によって割り戻された点として与えられていたため, 限界状態の変位が橋脚の損傷状態や抵抗特性の関係と直接的に関係づけられていなかった このため,H24 道示 Ⅴの改定では, 表 -5.2 のように橋の各耐震性能に対する橋の限界状態と鉄筋コンクリート橋脚の損傷状態や抵抗特性を関連づけて, 橋の耐震性能に応じた鉄筋コンクリート橋脚としての限界状態を明確にすることとし, その限界状態に相当する変位を直接的に算出する方法に見直している その上で, 許容変位を算出する際には計算方法の推定精度等を考慮するために - 12 -

安全係数を考慮している なお,H14 道示 Ⅴにおいては, 鉄筋コンクリート橋脚に対する正負交番繰返し載荷実験における一定振幅の繰返し回数にタイプⅠの地震動に対しては 10 回, タイプⅡの地震動に対しては 3 回を考慮し, 地震動のタイプに応じた安全係数及びコンクリートの終局ひずみを用いることにより, 地震動のタイプに応じた許容塑性率が設定されていた 一方,H24 道示 Ⅴでは, 繰返し回数の影響が顕著とはならない範囲に限界状態を設定することを前提に, タイプⅠの地震動とタイプⅡの地震動の両方に対して同じ許容塑性率を設定することとなっている ここで, 許容塑性率は載荷繰返し回数を 3 回とした実験結果をもとに設定している これは, 5) H24 道示 Ⅴの 10.2 の (3) の解説に示されるように, 近年の研究により, 一般的な鉄筋コンクリート橋脚において最大応答変形が生じるまでに経験する塑性応答変形の繰返し回数は, 実験における一定振幅の繰返し回数としてはタイプⅠの地震動に対しては 2~3 回とした場合に, タイプⅡの地震動に対しては 1 回とした場合にそれぞれ相当することが明らかになったこと, また, 繰返し回数が 1~3 回の範囲では地震時保有水平耐力や損傷の進展過程に及ぼす載荷繰返しの影響が顕著でないことが明らかになったことを踏まえたためである 1 2 3 4 水平力 1 2 3 4 水平変位 損傷の状態と履歴ループの特徴 2 損傷はひび割れ程度 一定振幅の繰返し載荷において履歴ループに変化が生じない 2~3 の間軸方向鉄筋の変形が生じ始め, 繰返し載荷において履歴ループにも変化が生じる 3 軸方向鉄筋のはらみ出しが顕著になり, 水平力が低下する 図 -5.1 柱基部で曲げ破壊するタイプの鉄筋コンクリート橋脚の水平力 - 水平変位関係と損傷の進展 - 13 -

表 -5.1 H14 道示 Ⅴ と H24 道示 Ⅴ による鉄筋コンクリート橋脚の許容変位の算出方法の違い ( 耐震性能 2 の例 ) H14 道示 Ⅴ の考え方 H24 道示 Ⅴ の考え方 許容変位の算出方法 3 2 3 表 -5.2 橋の耐震性能と鉄筋コンクリート橋脚の限界状態 (H24 道示 Ⅴ で明確にした点をゴシックで示す ) 耐震性能 2 耐震性能 3 橋の耐震性能橋の限界状態 地震による損傷が限定的なものに留まり, 橋としての機地震による損傷が橋として致命的とならない性能能の回復が速やかに行い得る性能塑性化を考慮する部材にのみ塑性変形が生じ, その塑性塑性化を考慮する部材にのみ塑性変形が生じ, その塑性変形が当該部材の修復が容易に行い得る範囲内で適切変形が当該部材の保有する塑性変形能を超えない範囲に定める内で適切に定める 損傷の修復を容易に行い得る限界の状態 橋脚の水平耐力を保持できる限界の状態鉄筋コンク具体的には, 水平力 - 水平変位関係において, 水平力の ( 図 -5.1 の3に対応 ) リート橋脚の低下がほとんどなく, 安定したエネルギー吸収能が確保限界状態できる状態 ( 図 -5.1 の2に対応 ) 鉄筋コンク 曲げひび割れが残留する程度あるいはかぶりコンクかぶりコンクリートが剥落した後, 軸方向鉄筋のはらみ リート橋脚のリートが軽微に剥離する程度 出しが顕著になる直前の段階 損傷状況 - 14 -

5.3 既設橋の鉄筋コンクリート橋脚の耐震補強設計に用いる地震時保有水平耐力及び許容塑性率の算出方法 H24 道示 Ⅴに規定した鉄筋コンクリート橋脚の地震時保有水平耐力及び許容塑性率の算出方法は, 曲げ塑性変形を受けた鉄筋コンクリート橋脚の塑性ヒンジ領域の軸方向鉄筋が引張りを受けた後に橋脚に作用する水平力が反転して軸方向鉄筋が圧縮される段階に軸方向鉄筋のはらみ出しが生じるという塑性ヒンジの形成メカニズムを鉄筋の配筋条件に応じて合理的に評価できる方法となっている この算出方法については, 鉄筋コンクリート橋脚が地震の影響を支配的に受ける部材であることから,H24 道示 Ⅴの 5.5 地震の影響を支配的に受ける部材の基本 の趣旨を踏まえ, その適用範囲を H24 道示 Ⅴの 10.3 において明確にしている また, 本算出方法の適用に際しては,H24 道示 Ⅴの 10.8 鉄筋コンクリート橋脚の塑性変形能を確保するための構造細目 に規定される構造細目を満たすことも前提となっている 本算出方法の特徴のひとつは, 帯鉄筋や中間帯鉄筋の軸方向鉄筋のはらみ出しに対する拘束効果をより厳密に評価できることにあるが, 既設橋や鉄筋コンクリート巻立て工法により補強された鉄筋コンクリート橋脚は, 一般に, 横拘束筋の水平方向の配置間隔の構造細目を満たさないなど, 上記の適用範囲や構造細目を満たさないことから, 本算出方法をそのまま外挿的に適用すると許容変位を過小評価することが実験結果との比較から確認されており, 許容塑性率の算出において合理的な推定精度を確保できない場合がある また, 曲げ耐力制御式鋼板巻立て工法により補強された鉄筋コンクリート橋脚の場合には, 柱基部周辺が鋼板で巻立てられた上に H 型鋼により拘束されることから, 鉄筋コンクリート橋脚において軸方向鉄筋のはらみ出しが生じるという破壊メカニズムを直接的に取り入れたH24 道示 Ⅴに規定される算出方法はそもそも適用範囲外である 既設橋の鉄筋コンクリート橋脚や鉄筋コンクリート巻立て工法又は曲げ耐力制御式鋼板巻立て工法により補強された橋脚の地震時保有水平耐力及び許容塑性率の算出方法については 既設道路橋の耐震補強に関す, る参考資料 6) ( 以下, H9 参考資料 という ) に示されており, これが用いられてきている この算出方法は, 基本的な考え方は平成 8 年の道路橋示方書 Ⅴ 耐震設計編及び H14 道示 Ⅴに規定される鉄筋コンクリート橋脚の地震時保有水平耐力及び許容塑性率の算出方法と同様となっているが, 既設橋の耐震補強設計に適用する際には, 補強された橋脚の構造特性を踏まえ, これらの道示 Ⅴの規定による鉄筋コンクリート橋脚と同等の限界状態の変位を推定するために, 次の条件が追加されている 塑性ヒンジ長に補正係数 (c Lp = 0.8) を乗じる 表 -5.3 及び表 -5.4 は, 鉄筋コンクリート巻立て工法又は曲げ耐力制御式鋼板巻立て工法で補強された橋脚模型に対する正負交番繰返し載荷実験の結果と, 当該橋脚模型に対して,H9 参考資料の算出方法に基づいて水平力 - 水平変位関係の計算を行った結果を比較して示したものである ここでは, 一定振幅の繰返し回数が3 回の正負交番繰返し載荷実験を対象として, 実験結果とその橋脚模型に対して求めたタイプⅡの地震動に対する耐震性能 2の許容変位の計算値を併せて示している 表 -5.3 及び表 -5.4 より,H9 参考資料の方法に基づいて算出されるタイプⅡの地震動に対する耐震性能 2の許容変位は,H24 道示 Ⅴの考え方に基づく耐震性能 2の限界状態を超えないことが実験結果との比較から確認される - 15 -

以上より, 本算出方法に基づいて算出されるタイプⅡの地震動に対する許容変位を用いて耐震補強設計を行えば, タイプⅡの地震動が作用したときにも H24 道示 Ⅴの考え方に基づく耐震性能 2の限界状態を超えないように設計できることになり, すなわち,H24 道示 Ⅴにおいて求めている耐震性能 2と同等の耐震性能が確保されるとみなすことができる また, タイプⅠの地震動に対する許容塑性率としては,H9 参考資料の方法に基づいて算出する場合にも, タイプⅡの地震動に対する許容塑性率の値を用いてよい 鉄筋コンクリート巻立て工法又は曲げ耐力制御式鋼板巻立て工法で補強された橋脚模型に対する正負交番繰返し載荷実験のデータは, 新設の鉄筋コンクリート橋脚に対する実験に比べてその数が限られており, 載荷の繰返し回数の影響については未解明な点もあるが, 表 -5.3 及び表 -5.4 に示した繰返し回数が3 回の正負交番繰返し載荷実験に基づく検討結果, ならびに, 5.2 に示した繰返し回数が許容変位に与える影響に関する H24 道示 Ⅴでの改定の背景を踏まえ, 現状の知見で明らかになっている範囲内で工学的な判断をしたものである このため, 今後も最新の知見に基づいて適切に対応していくことが重要である - 16 -

表 -5.3 鉄筋コンクリート巻立て工法により補強された鉄筋コンクリート橋脚模型に対する実験 結果と H9 参考資料の算出方法に基づく耐震性能 2 の許容変位の評価の比較 中間貫通鋼棒無し アンカー定着無し 7) 中間貫通鋼棒を配置 ( ただし,H24 道示 Ⅴ の構造細目 は満たさない ); アンカー定着あり 8) 600 0 1600 10 既設部 16@87.5=1400 100 補強部 7@=1400 100 130 660 130 400 130 2140 1880 130 40 既設部 20@90=1800 40 80 190 補強部 8@=1600 190 40 40 既設部 4@80=320 80 既設部軸方向鉄筋 D16 既設部軸方向鉄筋 D13 600 補強部軸方向鉄筋 D16 780 補強部軸方向鉄筋 D13 27 21 補強部帯鉄筋 D10@100 既設部帯鉄筋 D6@100 2670 補強部中間貫通筋は千鳥配置 1890 補強部帯鉄筋 D13@ 補強部中間貫通筋 D13@100 既設部帯鉄筋 D6@ 補強部軸方向鉄筋アンカー定着あり 補強部軸方向鉄筋アンカー定着なし 水平力 (kn) 耐震性能 2 の許容変位 400 300 100 0 120 80 40 100 0 40 80 120 300 : 実験結果 :H9 参考資料による計算結果 実験における耐震性能 2 の限界状態 水平力 (kn) 耐震性能 2 の許容変位 600 400 0-1 -100-0 100 1 400 実験における耐震性能 2 の限界状態 ( 軸筋の破断 ) 400 水平変位 (mm) 600 水平変位 (mm) - 17 -

表 -5.4 曲げ耐力制御式鋼板巻立て工法により補強された鉄筋コンクリート橋脚模型に対する実験 結果と H9 参考資料の算出方法に基づく耐震性能 2 の許容変位の評価の比較 正方形断面 9) 壁式断面 600 834 30 30 既設部 15@36=540 アンカー筋 4@125=0 既設部軸方向鉄筋 D16 440 130 340 2140 中間貫通 PC 鋼棒 3@400=1 340 130 アンカー筋 65 11@1=16 65 40 既設部 20@90=1800 40 40 40 既設部 4@80=320 既設部軸方向鉄筋 D13 補強鋼板 (t=1.6mm) 780 2800 既設部帯鉄筋 D6@100 2670 1890 補強鋼板 (t=1.6mm) 既設部帯鉄筋 D6@ 補強部貫通 PC 鋼棒 φ17 25 アンカー筋 M12 25 1 アンカー筋 M16 水平力 (kn) 耐震性能 2の許容変位 400 300 100 0-1 -100-100 0 100 1 300 実験における耐震性能 2 の限界状態 : 実験結果 :H9 参考資料による計算結果 ( アンカー筋の破断 ) 水平力 (kn) 耐震性能 2 の許容変位 400 300 100 0-1 -100-100 0 100 1 300 400 実験における耐震性能 2 の限界状態 ( アンカー筋の破断 ) 400 水平変位 (mm) 0 水平変位 (mm) - 18 -

5.4 補強のためにフーチングに定着する軸方向鉄筋に SD390 又は SD490 を用いる場合の考え方 H24 道示 Ⅴの改定では, 従来の規定よりも降伏点の高い鉄筋 (SD390 及び SD490) を鉄筋コンクリート橋脚の軸方向鉄筋として使用することができるようになった しかし, 既設橋の耐震補強における鉄筋コンクリート巻立て工法や曲げ耐力制御式鋼板巻立て工法の巻立て部の軸方向鉄筋のように, 補強のためにフーチングに定着する軸方向鉄筋に SD390 又は SD490 を用いる場合については, 軸方向鉄筋のフーチングへの定着方法や H9 参考資料の地震時保有水平耐力及び許容塑性率の算出方法の適用性等について実験データをもとに検証がなされていない このため, 補強のためにフーチングに定着する軸方向鉄筋に SD390 又は SD490 を用いる橋脚に対しては,H9 参考資料の算出方法の適用範囲外となる 補強のためにフーチングに定着する軸方向鉄筋に SD390 又は SD490 を用いる場合には, 軸方向鉄筋のフーチングへの定着方法や地震時保有水平耐力及び許容塑性率の算出方法等について橋脚模型に対する正負交番繰返し載荷実験結果等に基づく個別の検証が必要である - 19 -