2016年10月726号医機学

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医機学 Vol.86,No.5(2016)( 1 ) マイクロ波レーダーセンサーを用いた非接触睡眠時無呼吸計測システムの開発と臨床応用 * 後藤眞二 *2 中佳一 * 金子裕之栗田 *2 修 *1 松井岳巳 *3 山下宏治 A clinical study for non-contact sleep respirometry with microwave radar, monitored by simultaneous measuring with polysomnography. Shinji Gotoh *, Hiroyuki Kaneko *,Takemi Matsui *1, Yosikazu Naka *2, Osamu Kurita *2, Kouji Yamashita *3, Abstract We have developed a non-contact microwave radar respirometry method, where the microwave radars are located under the bed, they do not increase the strain on the subjects. In order to evaluate the effectiveness of the microwave radar respirometry, we have conducted clinical tests to make a comparison between the proposed non-contact method and polysomnograph (PSG). We tested the proposed system on twenty subjects suspected to have Sleep Apnea Syndrome (SAS) (male 16, female 4, age 35 to 67, average 49.8±10.1 years old). PSG was adopted as a reference to determine Apnea Hypopnea events. The proposed method detected 75.6% of Apnea Hypopnea events, (2,810 out of 3,716 events), and it was 58.8% of total radar events (2,810 out of 4,780 radar events.). 1. はじめに 筆者らは睡眠時無呼吸症候群 (SAS) などの 睡眠呼吸疾患のスクリーニング方式の一つとし てマイクロ波レーダー ( レーダー ) による呼吸 計測システムを提案している 1,2). レーダー計測 では直交検波をおこない,I,Q 出力から反射波の位相変位 ( レーダーセンサーと対象の距離に比例する.) を計算で求め呼吸波形としている. これまでの臨床研究ではレーダーシステムと ETCO 2 測定器,SpO 2 測定器の同時計測に タウ技研公立大学法人首都大学東京システムデザイン研究科社会医療法人社団三思会東名厚木病院 健康物質医学研究所 ( 原稿受付 :2014 年 12 月 25 日 ) * *1 *2 *3 よってレーダー計測の評価をおこなってきた. ETCO 2 測定器との比較では, 無呼吸 低呼吸によって ETCO 2 が上昇する前の ETCO 2 低下イベント 3) とレーダー計測で検出した呼吸低下イベント ( レーダーイベント ) が 88.9% 一致した 1). また,SpO 2 との比較では SpO 2 の 3% 以上の低下イベント (SpO 2 イベント ) とレーダーイベントが 78.5% 一致した 2). そこで本報告においては基礎検討として, レーダーによって検出した距離変化波形が呼吸波形と一致することを鼻カニューレによる気流測定波形との比較によって確認し, さらに, 健常者を対象に睡眠時姿勢がレーダー計測結果に与える影響を調べ, また体位変換時の波形とその対策について検討した. さらに, 臨床計測をおこない, ポリソムノグラフ (PSG) によって得 441

( 2 ) 医機学 Vol.86,No.5(2016) られた無呼吸 (Apnea) または低呼吸 (Hypopnea) イベント (PSG イベント ) に対する感度をレーダーイベントと SpO 2 イベントからそれぞれ求め, 感度を比較した. PSG 検査は SAS の確定診断が可能な装置であり,PSG イベントが 1 時間あたり何回発生するかの指標 (AHI) によって SAS の有無あるいはその重症度の判定がおこなわれている. 臨床研究は, 神奈川県厚木市の社会医療法人社団三思会東名厚木病院倫理委員会の承認を受け, また個々の被験者の文書による了承を得たうえで,PSG 検査とレーダー計測を同時におこない実施した. これまでもレーダーを使った呼吸計測の研究が知られており 4~6), 睡眠時無呼吸症候群の 7~9) スクリーニングに関する研究もおこなわれているが, レーダーによる呼吸波形のみから SAS のスクリーニングをおこなおうとする研究は筆者らの研究以外にはみられない. 本報告において, 基礎検討において体位が変わっても呼吸計測可能であることが示され, 臨床研究結果から PSG イベントに対するレーダーイベントの感度は全体の 75.6% であった. レーダー計測特有の体動によるノイズの除去をすすめ判定基準を改善する必要はあるが, レーダー計測が SAS のスクリーニングに適用可能性があると考えている. 3. 方法 1) 体位変換がレーダー計測に与える影響の検討体位変換がレーダー計測に与える影響の検討のため, 株式会社タウ技研 ( 横浜市都筑区 ) 内において合計 10 名の健常者 ( 男性 8 名, 女性 2 名,51 ~ 66 歳平均年齢 60.3 ± 1.3 歳 ) にベッド上で, 仰臥位, 側臥位, 腹臥位の三種類の体位を取らせレーダーによる呼吸計測をおこなった. 同時に比較データとして鼻カニューレによる直接呼吸気流計測をおこなった. 使用するレーダーには図 1の Microwave Vital-sign Measurement system( 略称 MVM: 株式会社タウ技研製 ) を使用した. レーダーの諸元を表 1に示す. 鼻カニューレによる計測には日本光電製 PSG-1100 を用いた. 2. 目的レーダー計測の感度を検討するにあたり, まず体位の変化がレーダー計測に与える影響について検討し, その結果に基づいて, 睡眠時無呼吸症候群の確定診断法である PSG 計測と, レーダーによる非接触呼吸計測を同時に同一の被験者におこない, レーダーイベントによる PSG イベントの感度 (sensitivity) を求めることを本論文の目的とした. また,PSG イベントに対するレーダーイベントの感度と従来から睡眠時無呼吸症候群の簡易検査で用いられる SpO 2 イベントによる感度を比較することをもうひとつの目的とした. 図 1 臨床研究に使用した マイクロ波レーダーシステム本体前方の 2 個の白色直方体がレーダーセンサーであり,15 40 74mm( 厚さ 幅 長さ ) である. 表 1 レーダーシステムの主な仕様 Microwave frequency Output power(eirp) Sensor module dimension Antenna gain 10.525GHz 10.1dBm 15 40 74(mm) 5dBi Main Unit dimension 80 200 244 442

医機学 Vol.86,No.5(2016)( 3 ) レーダーセンサーの配置は被験者の肩位置 から下肢方向に 30cm, 体幹の中央線から左右に 20cm の位置を目安としておこなった ( 図 2). 計測においては被験者ごとに一姿勢につき 5 分以上にわたってレーダーおよび PSG- 1100 で同時計測した. 測定データはレーダーと PSG-1100 で検出した呼吸の周期情報を比較しレーダーの出力波形が呼吸波形に一致することとその感度を検証することとした. レーダーと PSG ではサンプリングレートが異なるためまずデータを 10Hz のサンプリングレートにそろえ同一時刻から 2048 ポイントデータ (204.8 秒間 ) を高速フーリエ変換 (FFT) し, 信号の周波数解析をおこなった. その期間において最大パワーを示した周波数を呼吸周波数とした. 2) 臨床研究での MVM と PSG,SpO 2 の比較臨床研究は, 社会医療法人社団三思会東名厚木病院において 2014 年 5 月から 9 月の期間, SAS の疑いのある被験者が医師の指示で受検す 図 2 レーダーセンサーの設置位置マイクロ波センサーを被験者がPSG 検査を受けるベッドマットとベッド床板の間, 被験者の肩の位置から30cm 程度下肢方向, 体幹の中心線の左右 20cm 程度に設置するようにした. るポリソムノグラフ (PSG) 検査の際に本人の文書による了解を得たうえで, 図 1 のレーダーを設置し同時計測をおこなった. 被験者への PSG 器具の装着はつねに臨床検査技師がおこなった. 被験者数は 20 名で, 内訳は男性 16 名, 女性 4 名, 年齢 35 歳から 67 歳, 平均 49.8± 10.1 歳であった.PSG はスリープウォッチャー E シリーズ (COMPUMEDICS Limited (Australia) 製を用いた.PSG の測定項目は O1,O2, C3,C4 などの脳波, 左右の眼電図, 心電図, 気流, 心拍数, 動脈血酸素飽和度などであった. データ解析は帝人ファーマ株式会社に委託し, その結果を EDF 形式で保存した. レーダーの配置は前記健常者計測の場合と同様に図 2 に示す位置とした. レーダーのデータはメインユニットから無線データ伝送によってラップトップ PC に伝送し,CSV 形式で保存した.1) と同様にレーダーの2 系列のデータのうちピークパワーの大きな方を採用し, サンプリングレートをそろえたうえで同じ期間を解析した. 3) イベントの検出 : レーダーイベントの検出は以下の基準でおこなった. 1 5 秒ごとに計算した呼吸振幅を 振幅 とした. さらに, この 振幅 が位相角で 10 度を超えている場合は呼吸以外の動きとみなして,10 度を超えている期間中常に 10 度に固定し, 寝返りなどの影響を抑圧した. 2 15 秒間の上記 振幅 の平均値を計算する. 15 秒間としたのは平均計算に少なくとも 3 波形以上含むようにするとともに移動平均効果による早い周期のノイズ除去のためである. 3 ある時点の 15 秒以前と以後で2の平均値を比較し, 以前 以後の値が 2 を超える場合にレーダーイベント発生とした. :PSG イベントの決定は以下の通りである. 1 PSG の解析結果のレポートに記載された Apnea イベントと Hypopnea イベントの開始時刻, 継続時間をテキストデータから読み出し, すべてをエクセル上で時系列に並べて PSG イベントの開始時刻, 継続時間とした. 443

( 4 ) 医機学 Vol.86,No.5(2016) 2 PSG 測定は多くの症例でレーダー計測よ り長時間計測していた. 比較には PSG とレーダーが同時計測している間のデータを用いた. :SpO 2 イベントは以下のように決定した. 1 PSG の解析結果レポートに記載された SpO 2 10~12) 値がベースラインより 3% 以上低下をした時刻から3% ラインまで回復した時刻をすべてエクセル上で時系列に並べて SpO 2 イベントの開始時刻, 終了時刻とした. 2 PSG イベントと同様に SpO 2 イベントもレーダーと同時計測している間のみ比較した. 4) 検出検出 : レーダーイベントの前後 30 秒間に PSG イベントが発生している場合にレーダーイベントにより PSG イベントが検出されたとした. また SpO 2 イベントは無呼吸や呼吸低下に遅れて発生するので,PSG イベントの後 1 分以内に SpO 2 イベントがある場合に検出したとした. 検出区間を 1 分以内としたのは, 予備的に8 名の健常者に任意のタイミング ( 事前の深呼吸のような準備をさせず, 息こらえの開始をランダムにした.) で息こらえテストをおこなった結果, すべての被験者において 1 分以内に 4% 以上の 低下を示したので,3% を閾値とすれば確実にイベントを検出できると考えたからである. 感度の計算 :PSG イベントの SpO 2 イベント感度は PSG イベントと一致した SpO 2 イベント数を PSG イベント数で除した値とし, レーダーイベント感度は PSG イベントと一致したレーダーイベント数を PSG イベント数で除した値とした. イベント検出と感度はオフラインでソフトウエアによる自動計算によりおこなった. 陽性的中率の計算 :PSG イベントと一致したレーダーイベント数をレーダーイベント数で除した値をレーダーイベントの陽性的中率, 同様に PSG イベントと一致する SpO 2 イベント数を SpO 2 イベント数で除した値を SpO 2 イベントの陽性的中率とした. なお, これら研究に使用したレーダーは特定小電力無線機器として技術基準適合証明を取得しており, この周波数帯の電波被ばく防護基準を十分下回る電力密度のもとでおこなわれた. 4. 結果 1) 基礎検討の結果図 3に体位変換の影響を検討したデータ例を示す ( 被験者男女各 1 名 ). 仰臥位と側臥位 図 3 計測された呼吸波形上被験者 1( 男性 ), 下被験者 2( 女性 ) 444

医機学 Vol.86,No.5(2016)( 5 ) がほぼ同様な波形で伏臥位がやや振幅が大きいという結果であった. 仰臥位, 側臥位の場合で位相変化は概ね ± 2 の範囲に収まり, 伏臥位で ±5 の範囲に収まる程度である. 被験者 1( 男性 ) の体位変換時の波形を図 4に示す. 振幅は大きく ± 25 を超える幅で当然ながら一部は振り切れるほどの波形となっている. 被験者 2( 女性 ) の仰臥位安静状態における PSG-1100 とレーダーにより得られた呼吸波形のパワースペクトルを比較し図 5に示す. 得られた二つのパワースペクトルは概ね一致した. 特に最大のピークを示す周波数は 0.3Hz 前後で一致した. なお, 標準的な呼吸周波数は 0.3Hz 前後でありこれとも一致した. さらに, 全被験者においても同様な結果がえられた. 全被験者と全姿勢について PSG-1100 とレーダーで測定 した呼吸波形の最大パワーを示す周波数を毎分の呼吸数に換算し,PSG によるデータを横軸にレーダーによるデータを縦軸にした散布図を図 6に示す. 図 6に示す通り回帰式はy= 0.9779x であり,R 2 値は 0.93 であった. これらの結果により, 安静状態におけるレーダー計測の波形は概ね呼吸波形示すと判断した. 2) 臨床研究結果レーダーイベントの検出結果を図 7~ 図 9 に示す. 図 7においてはある時点の前後 15 秒間の振幅によってレーダーイベントを計算しているため,160 秒付近と 180 秒付近にあるような短い呼吸の低下, あるいは 60 秒ごろにあるような比較的長い時間に亘って呼吸振幅は低下しているように見えるが基準まで低下しない, などによりイベントが検出されていない区間も 図 4 被験者 1( 男性 ) 体位変換時の波形 図 5 被験者 2( 女性 ) の仰臥位呼吸計測結果 スペクトル比較 図 6 全被験者, 全姿勢比較グラフ横軸がPSG 検出呼吸数, 縦軸がMVM 検出呼吸数. 445

( 6 ) 医機学 Vol.86,No.5(2016) 示されている. 図 8にイベントのない期間の波形を示す. 図 9にレーダーイベントの誤検出結果を示す.PSG イベントが発生していない区間であるが, レーダーイベントが検出されている. 表 2に PSG イベントとレーダーイベント, および SpO 2 イベントを比較した結果を示す. レーダーイベントの感度は最高を示した症例で 97.5%, 同じく最低で 17.2% であり, 平均では 75.6% を示した. 最も低い感度を示した例では SpO 2 イベント数も少なくレーダーイベントの多くが呼吸異常によらず, 体動などによる誤レーダーイベント (PSG イベントと一致しないイベント ) であると思われる. レーダーイベントが最高の感度を示した例では SpO 2 イベント数も被験者中最大であった. 一方 PSG イベン トの SpO 2 イベントによる感度は平均 32.9% であった. 表 2の項目 Event PSG は PSG イベント数であり, Agree with Radar, Agree with SpO 2 の各項はそれぞれレーダーイベントと PSG イベントの,SpO 2 イベントと PSG イベントの一致数 (Yes) と不一致数 (No) を示す. 一致の判断は前述の通りレーダーイベントの前後 30 秒間に PSG イベントの有無,SpO 2 イベントの前 1 分以内における PSG イベントの有無でおこなった. Sensitivity の項はそれぞれ, レーダーイベントと SpO 2 イベントの感度を示す. また, それぞれの右端の項 (PPV) はレーダー計測,SpO 2 計測によって検出されたイベントの陽性的中率を示す. PSG 計測は 8 時間を超えておこなわれたが, 図 7 レーダーによる呼吸計測とレーダーイベントの検出例 ( 被験者 6) ある時点の前後 15 秒間の振幅によってレーダーイベントを計算しているため,160 秒付近と180 付近のような短い呼吸の低下ではレーダーイベントは検出しない, また,60 秒ごろのように呼吸振幅は低下しているように見えるが, 基準まで低下しないため, レーダーイベントが検出されていない個所もみられる. 図 8 同じ被験者のレーダーイベントのない時の波形 ( 被験者 6) 446

医機学 Vol.86,No.5(2016)( 7 ) 図 9 レーダーイベント誤検出例 ( 被験者 10) 図 10 レーダーイベントと PSG イベントの相関図 11 SpO 2-3% イベントと PSG イベントの相関 表 2 PSG イベントとレーダーイベント,SpO 2 イベントとの比較 太字部はPSG 診断で重症とされた被験者 S: 重症 M: 中程度 L: 軽症 PPV:Positive Predictive Value 陽性的中率 Subject Event Duration Agree Total Agree with Total PSG PSG Diagnosiity (%) (%) ity (%) withradar Sensitiv- PPV radar SpO Sensitiv- PPV 2 SpO 2 (%) H Yes No events Yes No events 1 172 8 M 103 69 59.9 194 53.1 83 89 48.3 118 70.3 2 357 8 S 348 9 97.5 414 84.1 283 74 79.3 290 97.6 3 113 8 M 77 36 68.1 259 29.7 0 113 0.0 0-4 234 8 S 194 40 82.9 276 70.3 57 177 24.4 65 87.7 5 132 8 M 102 30 77.3 173 59.0 36 96 27.3 54 66.7 6 402 8 S 365 37 90.8 398 91.7 121 281 30.1 121 100.0 7 411 8 S 188 223 45.7 212 88.7 12 399 2.9 13 92.3 8 95 8 M 74 21 77.9 144 51.4 41 54 43.2 50 82.0 9 381 8 S 344 37 90.3 386 89.1 214 167 56.2 224 95.5 10 64 8 L 11 53 17.2 102 10.8 9 55 14.1 13 69.2 11 200 8 M 107 93 53.5 160 66.9 16 184 8.0 26 61.5 12 208 8 M 164 44 78.8 184 89.1 37 171 17.8 42 88.1 13 76 8 M 67 9 88.2 191 35.1 15 61 19.7 15 100.0 14 86 8 M 69 17 80.2 358 19.3 79 7 91.9 115 68.7 15 41 8 L 31 10 75.6 246 12.6 12 29 29.3 21 57.1 16 135 8 M 99 36 73.3 174 56.9 65 70 48.1 81 80.2 17 213 8 S 172 41 80.8 301 57.1 32 181 15.0 32 100.0 18 107 8 M 85 22 79.4 211 40.3 14 93 13.1 16 87.5 19 61 8 L 53 8 86.9 161 32.9 16 45 26.2 17 94.1 20 228 8 M 157 71 68.9 236 66.5 143 85 62.7 147 97.3 Total 3,716 2,810 906 75.6 4,780 58.8 1,285 2,431 32.9 1,460 88.0 447

( 8 ) 医機学 Vol.86,No.5(2016) すべてのイベントは PSG とレーダーの同時計測をおこなった 8 時間分を集計した. 全 PSG イベント数は 3,716 回, 全レーダーイベントは 4,780 回, 全 SpO 2 イベント数は 2,477 回であった. レーダーイベントと SpO 2 イベントによる PSG イベントの感度はレーダーイベントが 75.6%, SpO 2 イベントが 32.9% であった. 表示の PSG Diagnosis の項は PSG による判定,S: 重症 M: 中程度 L: 軽症を表している.20 名の被験者のうち PSG による判定では 6 名が AHI 30 の重症であり,11 名が 15 AHI<30 の中程度, 3 名が 5 AHI<15 の軽症であった. 5. 考察イベント数と感度について :SpO 2 イベント数は PSG イベント数に比べ少ない (32.9%) が, 発生した SpO 2 イベントは高い陽性的中率 (88.0 %) を示した. 一方, レーダーイベントの感度は 75.6% であったが, 呼吸異常以外でも誤レーダーイベントが発生していると考えられた. 陽性的中率は 58.8% を示した. そこでレーダーイベントについて PSG による重症度診断結果別でみると, 重症者 : レーダーイベントは陽性的中率 81.1% を示し, 同様に中程度 48.3%, 軽度 18.7% と軽症者ほど陽性的中率が低い. これは, 重症者の方が真の呼吸異常によるレーダーイベントが多くなるためと考えられ, 軽症者においては誤レーダーイベントの発生率が高いことを示す. 誤レーダーイベントの抑圧が PSG イベントとの感度, 陽性的中率向上に有効であると考えられる. また, 図 10 に示すように患者ごとのレーダーイベント数と PSG イベント数との相関をとるとある程度の正の相関を読み取ることができる. 図 11 は比較のために SpO 2 イベントと PSG イベントとの相関をみたグラフである.SpO 2 イベントではレーダーイベントに比べ直線近似に対する R 2 値はやや小さいが近似直線の切片はほぼ原点付近にあり,PSG イベントの少ないところでは SpO 2 イベントも少なくなっている. 一方レーダーイベントは PSG イベントとのある程度の相関は認められるが PSG イベントの少ない被験者に対しても ある程度のオフセットを持った回数となっており, 軽症者のふるい分けのためにはそのオフセットを除去する必要がある. 以上の考察から, レーダーイベントによる PSG イベントのスクリーニングは一定の可能性があるが3.3 の1,2,3 で示した定義では, 図 9のように体動と思われる動きで誤レーダーイベントが発生しており, 誤イベント除去が不十分と思われる. 今後, 呼吸低下比率, 短時間フーリエ変換などによる一定区間内の支配的周波数などをパラメータとしてオフライン研究をすすめ, 誤イベント除去のためにイベント定義の最適値を決定する必要がある. 体位による感度変化 : 仰臥位, 側臥位では呼吸による体幹の変化を背後, または側面から計測しているのに対して, 伏臥位では最も動く胸部または腹部の変位を計測しているため, 図 3 のような振幅差が生まれるものと考えられる. 腹部についてもベッドやマットに圧迫された状態での変位であるから, 人が直立または座位をとる場合の腹部の変位より抑圧されていると考えられる. このため, 寝返りの前後で体位が変わった場合には呼吸振幅が変化する可能性があることになる. また, 本研究は医師の指示による本診断のための PSG 計測と同時計測した結果でありすべての被験者が SAS であるとの診断を受けており母集団に偏りがある.SAS の有病率は AHI > 5 かつ昼間の強い眠気を伴うものとした場合,30 歳以上の男性で 4%, 女性で 2% との報告があり 13), それに近い比率で構成した母集団での臨床研究が必要である. 6. 結語レーダー計測は非接触 非束縛であり SAS スクリーニング用の呼吸運動検出器として, またさまざまな呼吸疾患患者のモニタリングに有用であると考えられるので, 今後, 誤レーダーイベントの除去によって感度, 陽性的中率の改善に努めたい. また, 数パーセント程度の有病率の集団に対する臨床研究を続け実用化を進めスクリーニング可能性の検証をおこないたい. 448

医機学 Vol.86,No.5(2016)( 9 ) 7. 謝辞本研究は神奈川県のプロジェクト, 平成 25 年度かながわ成長産業イノベーション事業 による助成金によって実現した. 関係の皆様に厚く御礼申し上げる. 文献 1) 後藤眞二, 松井岳巳, 山下宏治ほか : マイクロ波レーダーセンサーによる睡眠時非接触呼吸計測法と睡眠時無呼吸症候群など睡眠時呼吸疾患スクリーニングへの応用可能性検討, 医機学 Vol.84,No.3:p317-324.2014. 2) 後藤眞二. 松井岳巳, 小島正久ほか : 睡眠時無呼吸症候群非接触一次スクリーニング器開発のための臨床研究報告, ライフサポート Vol.26, No.4:p126-131.2014. 3) Antoine Magnan, François Philip-Joet, Marc Rey et al:end-tidal CO 2 Analysis in Sleep Apnea Syndrome. CHEST Vol.103, No.1: p129-131.1993. 4) Matsui T, Gotoh S, Arai I, et al. Noncontact vital sign monitoring system for isolation unit (casualty care system). Mil Med, VoL.171, 639-643.2006. 5) Gotoh S, Suzuki S, Imuta et al., Non-contact determination Parasympathetic activation induced by a full stomach using microwave radar. Med Biol Eng Comput. Vol.47:p1017-1019.2009. 6) Kagawa M, Yoshida Y, Kubota M, et al. Noncontact heart rate monitoring method for elderly people in bed with random body motions using 24 GHz dual radars located beneath the mattress in clinical settings. J Med Eng Technol, Vol.36, p344-350.2012. 7) Kagawa M, Ueki K, Tojima H, et al. Noncontact screening system with two microwave radars for the diagnosis of sleep apnea-hypopnea syndrome. Conf Proc IEEE Eng Med Biol Soc,:p2052-2055.2013. 8) Kagawa M, Ueki K, Kurita A, Tojima H, Matsui T., Non-contact screening system with two microwave radars in the diagnosis of sleep apnea-hypopnea syndrome. Stud Health Technol Inform,Vol.192:p263-267.2013. 9) 香川正幸, 吉田悠鳥, 鈴木哲ほか :2 つのマイクロ波レーダーを用いた就寝時高齢者守りシステム 呼吸 心拍の非接触計測における体動対策. 医療情報学 Vol.30, No.2:p85-94.2012. 10) 睡眠呼吸障害研究会編, 成人の睡眠時無呼吸症候群診断と治療のためのガイドライン, メディカルレビュー社 :p15-22,2005. 11) 中野博, 大西徳信, 千崎香ほか. 睡眠時呼吸障害のスクリーニング検査法としてのパルスオキシメトリ解析方法, 呼吸,16,p791-797.1997. 12) 佐野公彦, 中野博, 大西徳信ほか. 自宅パルスオキシメトリによる睡眠呼吸障害のスクリーニング方法についての検討. 日呼吸会誌, 36(11),p948-952.1998. 13) Young T, Palta M, Dempsey J, Skatrud J et al,the occurrence of sleep-disordered breathing among middle-aged adults. N Engl J Med;VOL.328:p1230-1235.1993. 449