亀裂の変形特性を考慮した数値解析による岩盤物性評価法 地球工学研究所地圏科学領域小早川博亮 1 岩盤構造物の安定性評価 ( 斜面の例 ) 代表要素 代表要素の応力ひずみ関係 変形: 弾性体の場合 :E,ν 強度: モールクーロン破壊規準 :c,φ Rock Mech. Rock Engng. (2007) 40 (4), 363 382 原位置試験 せん断試験, 平板載荷試験 原位置三軸試験 室内試験 既往のデータ 安定性評価 ( 解析 ) 物性評価 ( 試験 ) 2
岩盤の物性評価の現状と問題点 現状 : 原子力発電所基礎 背後斜面, ダム基礎などでは原位置岩盤試験により岩盤物性を評価 既設の水力構造物基礎や周辺斜面の安定性評価においても, 岩盤の物性評価が必要. 問題点 : 1. 試験供試体に反映できない構造 ( 不連続面, 礫 ) がある場合, 評価が困難 2. 一般に, 原位置試験は高価で数多く実施できず, 結果の妥当性 ( 説明性 ) や岩盤物性の異方性の評価が容易でない. 数値解析を用いた物性評価 3 数値解析を用いた物性評価法 代表要素 代表要素の応力ひずみ関係 変形 : 弾性体の場合 :E,ν 強度 : モールクーロン破壊規準 :c,φ 安定性評価 ( 解析 ) Rock Mech. Rock Engng. (2007) 40 (4), 363 382 従来の評価方法 応力ひずみ関係 ( 試験 ) 安定性評価 ( 解析 ) 応力ひずみ関係 ( 解析 ) 均質化理論に基づくマルチスケール解析による評価方法 4
数値実験を用いた岩盤の強度特性評価 京谷 (1999) によって提案. 変形は, よく合う強度の評価方法 1. ユニットセルのモデル ( 与えたひずみに対する応答 ) A) 線形弾性モデル B) 割れ目を非線形弾性 ( かみ合わせ効果 ) 2. 破壊の考え方ユニットセル内の一点破壊 5 数値解析を用いる物性評価法のメリット 1. 力学特性の異方性がわかる 2. 試験結果の説明性 ( 説明能力 ) が上がる 6
開発した数値解析による岩盤物性評価法 解析手法 : 均質化理論に基づくマルチスケール解析必要な情報 : 1. 対象とする岩盤の幾何情報 ( 割れ目分布 ) 2. 構成材料の力学特性 特徴 : 割れ目のかみ合わせ効果を考慮 7 均質化解析システムを用いた強度評価の手順 8
割れ目の応力 - 変位関係 亀裂の閉合による剛性の増加は実験によって把握されている. Bandis S. C., Lumsden A. C., Barton N.R.(1983): Fundamentals of rock joint deformation. International Journal of Rock Mechanics and Mining Sciences. 20-6. pp.249-268. 亀裂の閉合による剛性の変化を表現 ( 非線形弾性 ) 単純なモデルを考える. 室内試験から弾性係数を与える方法を検討 9 亀裂の閉合を考慮した連続体弱層モデル 亀裂とその周辺の基質を含んだ薄い部分をモデル化 4 つのパラメータ (E 0,E α,n,β) を導入 亀裂を含む弱層の応力ひずみ関係 10
パラメータの決定方法ー弱層の応力変位関係の算定ー 11 弱層の応力ひずみ関係によるパラメータ決定 手順 1. 弱層の厚さ d で除して弱層の応力ひずみ関係を算定. 2. E 0,E α を求める. 3. 曲率が最も大きい点 (e 1* ) と接線勾配が一定になり始める (e 2* ) を読み取る. 4. n,βを求める. 12
モデルの適用性 crack Bandis の一軸試験 n ( v) = 0 + α ( 1 exp( β v )) E e E E e * * * パラメータ 弱層モデルの応力ひずみ関係 Case(thickness of layer) E 0 (MPa) E α (MPa) n β Case A (2mm) 119 79881 11.8 1.45x10 13 Case A (4mm) 238 79762 11.2 0.99x10 16 Case A (8mm) 475 76525 10.1 0.35x10 18 Case B (2mm) 53.3 79947 4.36 9.09x10 1 弱層モデルで, 弱層の応力ひずみ関係を表現可能 13 弱層モデルを用いた一軸圧縮試験 有限要素モデル 応力ひずみ関係 亀裂を含む材料のかみ合わせによる弾性係数の上昇を表現可能. 弱層高さに応じたパラメータを設定することで, 弱層のかみ合わせ効果を表現可能 14
弱層の有限要素モデル 亀裂周辺の基質部を含んだ要素を弱層と考え 亀裂のかみ合わせを考慮した連続体弱層モデル 有限要素メッシュ 亀裂の弱層化 15 解析条件 ユニットセルの画像データ 2.0 弱層モデル :E * =E +E (1-exp(-βe n )) 0 α モデル名 E 0 E α n β 1 1.0 0 0 0 2 17.0 5563 11.2 0.99x10 16 3 17.0 5563 2.00 100 1.5 原位置せん断試験 : 60cm 60cm の安山岩 150 150 に分割 (= 一要素 4mm 四方 ) a) 応力 (MP 1.0 0.5 0.0 0.000 0.005 0.010 0.015 0.020 0.025 0.030 Central Research Institute of Electric Power ひずみIndustry 16
割れ目の変形特性 Bandis(1983) モデル1 モデル2 モデル3 casea(4mm) caseb(2mm) ( 従来 ) (Bandis csea) (Bandis caseb 改 ) n 11.2 4.36 0 11.2 2.0 β 0.99*10 16 90.9 0 0.99*10 16 100 17 ユニットセルの破壊規準 ( 二次平面 ) 18
ユニットセルの破壊規準 閉じた楕円面 等方圧縮方向に広がる二葉双曲面 かみ合わせを考慮した弱層モデル 二葉双曲面の巨視的破壊基準面 一般に岩盤は等方圧縮方向では破壊しない 二葉双曲面の破壊基準面は特徴を捉えている 岩盤の強度特性をより正確に表現できている 19 極限荷重解析 20
計算と試験の比較 かみ合わせを考慮したモデルのパラメータを適切に設定することで, 岩盤の強度を評価可能 21 まとめ 1. 亀裂のかみ合わせを考慮できる弱層モデルと, パラメータの実験に基づく設定方法を提示. 2. 弱層モデルで亀裂を含む供試体の全体挙動を表現するのに有効であることを示した. 3. 弱層モデルを均質化法による岩盤の強度特性評価へ適用し, 原位置せん断試験結果と比較した. 弱層モデルで, 亀裂性岩盤の強度を評価できることを確認. 今後の展開 ユニットセルの破壊基準の算定方法の検討限界ひずみを用いた評価法, ユニットセルの極限荷重解析 利用にあたっては... ご依頼ください 参考文献 : 小早川博亮, 京谷孝史 ; 亀裂に対する連続体弱層モデルを用いた均質化法による岩盤の強度特性評価, 土木学会論文集 C, Vol. 63, No. 2, pp.428-440, (2007). 22