中学生に対するピロリ菌検査 治療について 北海道厚生連旭川厚生病院
はじめに 胃がんの発生にはヘリコバクター ピロリ ( 以下ピロリ菌とします ) が深く関わっていることがわかっており 1994 年に世界保健機構 (WHO) と世界がん研究機関 (IARC) によって 確実な発がん因子 として分類されています ピロリ菌感染から胃がんまで至る経過としては ピロリ菌の持続感染により 慢性胃炎 萎縮性胃炎 腸上皮化生 胃癌 という進展方式が考えられており 胃がんの 98~99% はピロリ菌感染者または感染既往者から発生しているというデータが示されています 一方ピロリ菌陰性者ではほとんど胃癌を発生しないことも明らかになっており 現在ピロリ菌の除菌は健康保険で慢性胃炎まで拡大されています この数年は胃がん予防を目的として中学生を対象とした早い段階での除菌治療が注目されており 2015 年 1 月現在で道内 9 市町村において 中学生におけるピロリ菌検査と除菌治療 の取り組みが行われています H28 年度から鷹栖町においても 中学生を対象としたピロリ菌検査と治療が行われています 以下この取り組みについて概説いたします
我が国におけるがん死亡者数 80000 70000 60000 胃がん 日本のがん死亡者数を示したグラフです 胃がんの死亡者数がまだまだ多い事が分かります 50000 40000 30000 20000 10000 0 1958 1960 1962 1964 1966 1968 1970 1972 1974 1976 1978 1980 1982 1984 1986 1988 1990 1992 1994 1996 1998 2000 2002 2004 2006 2008 2010 2012 2014 食道胃肝臓胆嚢 胆管膵臓肺大腸 国立がん研究センターがん情報サービス がん登録 統計 より
我が国におけるがんの罹病者数 140000 120000 100000 胃がん 次に罹患者数でみると胃がんは減っている訳ではなくむしろ上昇傾向にあり 全がんの罹患者数でトップである事がわかります 80000 60000 40000 20000 0 食道胃肝臓肺大腸胆嚢 胆管膵臓 国立がん研究センターがん情報サービス がん登録 統計 より
ピロリ菌 (Helicobacter pylori ) とは ピロリ菌の電子顕微鏡写真 ピロリ菌は胃の粘膜に生息しているらせんの形をした細菌です ヘリコバクターの へリコ は らせん形 ( へリコイド helicoid) から命名されており ヘリコプターの へリコ と意味は同じです 一方の端に鞭毛と呼ばれる毛が 4~8 本付いていて 活発に運動することができます 胃には強い酸 ( 胃酸 ) があるため 昔から細菌はいないと考えられていましたが 1982 年にオーストラリアのワレンとマーシャルという医師が胃の粘膜からの培養に成功し ピロリ菌が胃の中に生息していることを報告しました (2005 年ノーベル生理学 医学賞受賞 ) その後のさまざまな研究から ピロリ菌が胃炎や胃潰瘍などの胃の病気に深く関わっていることが明らかにされてきました
胃がんとピロリ菌の関連 (%) 3.5 3 2.5 2 1.5 1 0.5 0 0% ピロリ菌に感染していない人 (280 人 ) 2.9% ピロリ菌に感染している人 (1246 人 ) 胃がんとピロリ菌は密接に関連しているといわれています 胃潰瘍 十二指腸潰瘍や胃炎などの患者さんを対象とした調査では 10 年間で胃がんになった人の割合がピロリ菌に感染していない人では 0% であったのに対し ピロリ菌に感染している人では 2.9% であったとの報告が わが国から行われています その他国内外で胃がんとピロリ菌に関する報告が多数あります Uemura N, et al.:n Engl J Med. 2001;345(11):784-9 より作図
ピロリ菌の除菌により胃がんの発生が抑制できる年代別割合 (%) 100 90 80 70 60 50 40 30 20 10 0 100 100 98 99 98 93 92 84 76 73 50 45 20 代 30 代 40 代 50 代 60 代 70 代 男性 女性 左表は年代別 性別にみたピロリ菌の除菌により胃がんが抑制できる割合を示したものです 20 歳代では男女とも 100% の胃がん抑制効果がありますが加齢と共にその効果が低下していきます 除菌をするのであれば 若年であるほど効果があるのが分かると思います 日本消化器病学会雑誌 2010:107:359-364 より
鷹栖町の中学生に対するピロリ菌検査の目的 ピロリ菌の保菌を確認し 除菌治療することにより 胃がんの発症を抑える 次世代への検査 治療に必要な項目として (1) 鷹栖町における中学生のピロリ菌保菌率 (2) 感染経路の推定 ( 家族内感染 ) (3) 除菌療法およびその成功率 (4) 除菌による疾病予防の効果 を検査とともに調査します
対象 検査 結果通知 対象 鷹栖町の中学 2 年生で検査に申し込みしていただいた方 検査 尿検査により実施します 結果通知 結果は後日 当院より個別に通知 ( 郵送 ) します
費用 個人情報 費用 個人情報 ピロリ菌の検査は鷹栖町が負担をしますので 個人負担はありません 除菌治療については旭川厚生病院が負担をしますので 個人負担はありません ( 厚生病院の負担金は厚生連から支出されている事から 本検査等に関して個人が特定されない形での報告 発表される場合があります ) 個人情報は通常の病院での診療と同様に厳重に保護 管理されます 各種情報は個人が特定されない形で使用しますので ご安心ください
検査 治療の流れ (1) 鷹栖町教育委員会から通知された同意書 ( 兼 ) 検査申込書に署名 およびアンケートに記入し 鷹栖町教育委員会へ郵送をお願いします (2) 尿検査を実施します 尿検査は学校で行う尿検査の一部を使用し 申し込みいただいた方のみピロリ菌の検査を行ないます ( 学校で行う尿検査は学校保健安全法に基づき 主には学校生活を送るために 児童生徒の健康の保持増進図ることを目的とし実施しています 鷹栖町で行う本検査は 将来の胃がんの発症を抑える事を主な目的にしており その主旨 目的は違いますが 検査は同一の尿検体を使用し実施いたします ) (3) 検査結果が個別に通知 ( 郵送 ) されます (4) 検査が陽性の方で除菌治療を希望される方は旭川厚生病院消化器科を受診してください 2 次検査 除菌治療について説明いたします あらかじめ 受診予定日を消化器科外来にお電話ください ( 予約制 ) ( 代 )0166-33-7171 月ー金 9:00-16:00 原則として火曜日 木曜日の午前中となりますが 都合のつかない方はご相談ください
同意書 ( 兼 ) 検査申込書について 左表は検査に関する同意書 ( 兼 ) 申込書です 別紙の説明をお読みの上ご記入をお願いします 希望される方は をつけてください 氏名は自署でお願いします 電話番号 結果を郵送しますので正確にお願いします ( 連絡の都合が有りますので電話番号は正確にお願いいたします )
アンケートについて (%) 90.0 80.0 70.0 60.0 50.0 40.0 30.0 20.0 10.0 0.0 ピロリ菌の保菌率 0-9 10-19 20-29 30-39 40-49 50-59 60-69 70-79 '84-'88 '98-'00 Okuda M,et al:helicobacter 13:413,2008 より ( 歳 ) このアンケートの目的はピロリ菌の感染経路を推定するためのものです ピロリ菌の感染は口を介した感染 ( 経口感染 ) が大部分であろうと考えられています ピロリ菌の感染率は 乳幼児期の衛生環境と関係していると考えられており 上下水道が十分普及していなかった世代の人で高い感染率となっています 現在では上下水道が発達しており 親子間での感染が推測されています
アンケート記入例 1 父 母 姉 妹 義兄 甥 2 3 4 5 6 7 8 9 13 34 3 9 1 11 14 39 11 61 11 22 18 6 15 55 4 3 23 3 18 13 20 1 本人氏名忘れずに記入してください 2 続柄本人からみた関係 3 生年月日和暦で記入してください 4 性別 5ピロリ菌検査歴ピロリ菌の検査をしたことのあり なし 6 除菌歴除菌の成功 不成功に関わらず 除菌治療を受けたことのあり なし 7ピロリ菌の有無現在のピロリ菌のあり なし 除菌治療した方は判定結果 ( あり なし ) 検査歴のない方 除菌治療をしたが判定をしていない方 覚えてない方は 不明 8 除菌した年除菌歴のある方 9 既往歴今までにかかった病気について その他には 胃 MALTリンパ腫 特発性血小板減少性紫斑病 (ITP) 胃がんで内視鏡治療 など記入してください そのほかに記載することや迷うことがあれば余白に書いて下さい 記入後は封筒に入れて同意書と一緒に提出 ( 郵送 ) してください
今後の予定 平成 29 年 3 月 2 日保護者説明会 18:30~サンホ-ルはぴねす 3 月上旬主意書 同意書 ( 兼 ) 申込書 アンケートを新 2 年生に配布 3 月 17 日同意書 ( 兼 ) 申込書 アンケート回収締め切り 4 月 14 日学校尿検査 ( 本検査はこの一部を使用します ) 5 月上旬検査結果通知 ( 郵送 ) 2 次検査 治療については厚生病院で随時受け付けます 本検査に関してのお問い合わせ先旭川厚生病院健康推進課 078-8211 旭川市 1 条通 24 丁目 111 番地 ( 代 )0166-33-7171 月 - 金 9:00-16:00
中学生に対するピロリ菌検査 治療 Q&A 集 昨年 行われた 中学生に対するピロリ菌検査 治療 についての保護者対象の説明会等において出された質問事項をまとめたものです 参考にしてください Q1 小児の中でもなぜ中学生が対象なのでしょうか? また 一度除菌をして成功した後のピロリ菌の再感染はありますか? A ピロリ菌の慢性感染は多くは 4~5 歳くらいまでに成立し 10 歳以上での感染の成立は少ないと言われています 中学生の時点で除菌が成功した場合には それ以降の再感染は ほぼ無いと考えられます また 陽性者に対する除菌治療を考えた場合 中学 2~3 年生ならば 内服薬は成人量で良いと考えます Q2 尿中抗体検査の副作用はありますか? A 学校検診の尿検査と同様で 尿を採取するだけですので 尿中検査自体の副作用はありません Q3 尿素呼気試験はどのような検査でしょうか? A 尿素呼気試験自体は約 20 分で終わる簡単な検査です 検査方法は朝食事をせずに受診していただき まず呼気 ( はいた息 ) を回収します その後 検査用の薬を 1 錠内服し 20 分後に再度呼気を回収し検査終了となります この検査は高精度であり 除菌が成功したかどうかの判定にも用いられます
中学生に対するピロリ菌検査 治療 Q&A 集 Q4 病院受診から治療までの流れはどうなっていますか? 電話で旭川厚生病院に外来予約してください 火曜日 木曜日の午前中が受診日となります これ以外を希望される方は電話の際にご相談ください A 病院受診から治療までの流れの概略を右図に示します 尚 詳細な受診案内は 必要な方に検査結果に添えて後日配布致します 予約日に来院 同封の精検依頼票を 1 階新患受付に提出し消化器科受診 尿素呼気試験 ( 予約日当日 ) 陽性 陰性 除菌治療 (1 週間の投薬 ) 8 週間後 尿素呼気試験 ( 消化器科受診 ) 陰性 終了 陽性 陰性 2 次除菌治療 (1 週間の投薬 ) 8 週間後 尿素呼気試験 ( 消化器科受診 ) 陽性 要経過観察
中学生に対するピロリ菌検査 治療 Q&A 集 Q5 ピロリ菌の除菌の薬を飲む期間はどれくらいですか? また副作用はありますか? A 薬を飲む期間は 1 週間となります 除菌の薬は制酸剤 ( 胃液をおさえる薬 ) と 2 種類の抗生剤を 組み合わせて 1 日 2 回内服します 軟便傾向となる副作用は見られることがありますが重篤な副作用の報告はありません 気になる方には整腸剤を処方いたします Q6 ピロリ菌の感染経路はどうなっているのでしょうか? A 上下水道の完備されていない世代の方は井戸水などの水系感染が疑われます 一方 上下水道の完備されてからの世代では親子を中心とした家族間の感染がピロリ菌の感染経路として考えられています Q7 家族で大皿をつついただけでもピロリ菌の感染はしますか? A そのような場合だけで感染する事はありません はっきり どの行為が感染原因となるか明確ではないのですが 親が咀嚼した食べ物を子どもにあげたり 口移しをしたりはダメ ということが一般的に言われています