日本印刷学会誌51-6

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Transcription:

46 総説 電子メディアと紙メディアの書籍の環境影響 Environmental Impact of E-books and P-books Hiroyuki NAKAMURA* 中村洋之 * *Dai Nippon Printing Co., Ltd. 1-1-1, Ichigayakagacho, Shinjuku-ku, Tokyo, 162-8001 JAPAN 1. はじめに ICT 技術を活用した電子書籍の普及はグローバルに拡大している. 電子書籍市場をリードしているアメリカは, 近々に電子書籍が消費者向け書籍のほぼ半分を占めるといわれる. 欧州の電子書籍の市場規模は数年後には北米を上回り, 世界最大の市場になるとの予測もある. アジア諸国においても, 電子書籍の普及が始まっている. 日本の電子書籍の市場規模は現在 5 % 程度であると推測される. 電子情報端末が従来のケータイ ( フューチャーフォン ) からスマートフォン, タブレット端末および電子ブックリーダーに移行するに従い, 今後はコンテンツとしてコミックは高いシェアを保ちつつ, 文芸 実用書も電子化が進み, 電子書籍の市場規模が拡大すると予測される. 紙メディア市場に関して, 先進国では減少傾向にあるが, 新興国 ( アジア, ラテンアメリカ, 東ヨーロッパ, 中東, アフリカ ) においては今後も堅調な増加が予想されている. 本稿では, このような電子メディアと紙メディアが共存する社会において, 電子メディアと紙メディアの書籍の環境負荷を低減することを目的に, それぞれの環境負荷をライフサイクルアセスメント (Life cycle Assessment: 以下, LCA) 手法で評価して, それぞれが環境負荷を 見える化 する状況について解説する. 2. 印刷業界のカーボンフットプリントの取組 2.1 国内の動向印刷は書籍のみならず容器包装等として多くの商品に利用されているため, 印刷業界は早期にカーボンフットプリント (Carbon Footprint of Products: 以下,CFP) の算定ルールである商品種別算定基準 (Product Category Rule: 以下,PCR) を策定する必要があった. 客先が最終消費者等に提供する商品である書籍やカタログ等への CFP 表示の要求に対して, バリューチェーンの川上に位置する印刷企業が印刷物のライフサイクルに関連する温室効果ガス (Green House Gas: 以下,GHG) の排出量を提示するためである. そこで, 印刷を利用する商品の中で, 印刷が中心的な役割を担い, かつ, 汎用的な印刷方式を用いる 出版 商業印刷物 の PCR を策定し,2009 年 11 月に認定され, 順次, 印刷に関わる PCR を策定した. 表中1982 年東京工業大学総合理工学研究科化学環境工学専攻修士課程修了. 同年大日本印刷 ( 株 ) に入社. 2007 年 ( 一社 ) 日本印刷産業連合会に出向し, 環境保全 CFP を担当. 2012 年大日本印刷 ( 株 ) ソーシャルイノベーション研究所で環境ビジネスの開発に従事. ISO/TC130/WG15 コンビナー ISO/TC130/WG11 副コンビナー技術士 ( 環境部門 ) APEC エンジニア ( 環境 ) 村洋之Profile * 大日本印刷 ( 株 ) ソーシャルイノベーション研究所 ( 162-8001 東京都新宿区市谷加賀町 1-1-1) [46] 日本印刷学会誌

電子メディアと紙メディアの書籍の環境影響 47 1 に, これらの PCR を改訂後の公表日とともに示す. 現在, 国内の CFP の運営は, 一般社団法人産業環境管理協会が, カーボンフットプリントコミュニケーションプログラムとして実施している. 表 1 印刷物の PCR の策定 ナリオや原単位を利用して,CFP を算定することを可能にした. 具体的には, 表 2 に示すように, 印刷製品のプロファイル, 用紙と PS 版の製造仕様および印刷機の仕様のみを入力情報として設定した. 従来の他の商品 サービスの PCR のように詳細な一次データの収集を排除した, 初めての先進的かつ野心的な手法である. 本 PCR の改訂は, 表 2 改訂出版 商業印刷物 ( 中間財 )PCR のデータ収集項目 2.1.1 紙メディアの CFP 図 1 は日本における CFP 認定製品の累計実績 (2014 年 12 月現在 ) を示す. 印刷関連は, 全体の 17% を占めるものの,166 製品に留まっている. この普及の阻害要因の一つが CFP の算定に要するデータ収集の労力が大きいことであるため, この負荷を低減することを目的に出版 商業印刷物 ( 中間財 )PCR を改訂した (2014 年 11 月公表 ). 従来は, 印刷機を始めとする生産設備や空調 照明設備の消費電力 ( もしくは, 稼働時間 ) やインキ 製本材料 梱包材料等の使用量の詳細なデータを収集する必要があった. しかし, 今回の PCR の改訂で, 一次データとして用紙の使用量を把握することにより, 本 PCR で設定したシ 図 1 日本の CFP 認定製品の実績 (( 一社 ) 産業環境管理協会 ) 第 52 巻第 1 号 (2015) [47]

48 総 説 印刷業界の大多数を占める中小規模の印刷会社が CFP に取組むことができることを意図して, 収集データの項目数を減らし,CFP 算定を簡易化したものである. 今後は, 出版 商業印刷物 ( 中間財 )PCR を引用する宣伝用 業務用印刷物 PCR と出版物 PCR についても,CFP の算定に要するデータ収集の労力を低減するための改訂を計画している. 次のステップとしては, ここで CFP を算定することができるようになった中小規模の印刷会社が, 本来の LCA の目的に則して, より実態を反映する CFP を把握し, CO 2 排出量削減を加速するために一次データの収集の範囲を拡げることを期待する. 2.1.2 電子メディアの CFP 電子書籍を含む電子メディアの PCR は,2013 年 6 月 4 日に認定された. 電子メディアとは, 書籍や出版物の情報をデジタル化し, インターネットなどを通じて電子機器のディスプレイ上で閲覧可能なデジタルデータの総称であり, 電子書籍 電子雑誌 電子新聞 電子カタログ, 電子チラシ, デジタル音声, デジタル音楽, デジタル映画などを対象とする. これらに対して, 光学ディスク, 磁気ディスク, 半導体メモリーなどを通じて電子機器のディスプレイ上で閲覧可能なデジタルデータは対象外とする. 図 2 に電子メディア PCR のライフサイクルフロー図を示す. CFP の算定は, 電子メディアのコンテンツと電子メディアの利用時に使用する情報通信機器 ( タブレットやスマートフォン等 ) に関わる GHG 排出量の合算になる. 2.2 国際規格の開発動向印刷技術に関する ISO 活動は, 印刷技術を担当する専門委員会 (Technical Committee: 以下,TC) である ISO/TC 130 が実施している.ISO/TC130 を構成する WG を表 3 に示す. 2.2.1 印刷物の CFP 規格日本において, 印刷産業が内需型の産業であり,CFP に関しては日本のルールを適用することが重要であった. しかし,ISO/TC130 において, 印刷物の CFP の国際規格の開発が始まったため, 日本は日本の CFP のルールが国際規格に包含されることを基本方針にこの規格づくりに参加することが必要になった. 当時, 日本の CFP は経済産業省が試行事業を実施して, 制度化を推進し, 商品毎に PCR を策定するなど他国に比較して CFP の仕組づくりが進んでいたため, 日本が規格開発の議論を牽引し, 著者が副コンビナーを務めた. 表 4 に CFP の国際規格である ISO14067/TS(Greenhouse gases -- Carbon footprint of products -- Requirements and guidelines for quantification and communication) 図 2 電子メディア PCR のライフサイクルフロー図 [48] 日本印刷学会誌

電子メディアと紙メディアの書籍の環境影響 49 表 3 ISO/TC130 を構成する WG 表 4 ISO14067 と ISO16759 の開発 り算定方法が異なり, 現状では統一化が困難であるため, 各国の取扱いを採用できる選択項目とした. また,CFP の情報開示であるコミュニケーションに関しては, 認証を含め将来の議論とした. 一方,ISO 14067 が国際規格 (International Standard: 以下,IS) ではなく技術仕様 と ISO16759(Graphic technology - Quantification and communication for calculating the carbon footprint of print media products) の開発状況を示す.ISO/TS 14067 は,ISO/TC207( 環境 ) で開発された全産業を対象とする共通の CFP のルールである.ISO16759 は印刷物の CFP の国際規格である ISO/TS 14067 に基づく, セクター実行ガイドラインである. 表 3 が示すように,ISO/TC130 では 2009 年から印刷物の CFP の国際規格化の議論が始まり,2013 年 7 月に国際規格として発行された. 規格の開発を始めた当初は, すでに独自の CFP を運用していたドイツやフランス等の印刷業界団体から ISO 規格化への反対があったが, 日本の主張に基づいて, 前述の通り,ISO14067 の印刷業界版として開発した. この中で, 廃棄リサイクルは各国によ (Technical Specification: 以下,TS) としての発行が決まったため, 印刷産業のみが IS になることによる悪影響を懸念する意見もあったが,CFP の算定方法を中心に策定した ISO 16759 は印刷業界に対して価値があるという共通認識が得られ, 図 3 に示すように IS としての発行に至った 1). 2.2.2 電子メディアの CFP 規格電子メディアの CFP の国際規格も, 紙メディアの CFP の国際規格である ISO 16759 と同様に ISO/TS 14067 に基づく, セクター実行ガイドラインとして開発中である. 電子メディアは, 本国際規格の中で電子書籍を含む用語として定義している. 図 4 に電子書籍システムの一例を示す. ITU-T( 国際電気通信連合の電気通信標準化部門 ) が, 2012 年 3 月に ICT の環境負荷の国際規格 ( リコメンデーション ) を発行 2) したため,2012 年 4 月の ISO/TC130 図 3 ISO16759( 印刷物の CFP) 図 4 電子書籍システムの一例 第 52 巻第 1 号 (2015) [49]

50 総 説 ジョグジャカルタ会議 ( インドネシア ) で ICT 技術を利用する電子書籍の国際規格づくりに関する議論が始まった. 国際会議の中で種々の議論を重ねた結果, 電子書籍を作製 販売する印刷会社の自らが算定することのできる CFP のルールをつくることの意義が理解された. しかし, CFP 算定には電子メディアの利用時に使用する情報通信機器の GHG 排出量も算入する必要があるため,2014 年 9 月にマルチメディアの環境側面の国際規格を開発している IEC/TC100/TA13 とのジョイント WG(JWG) として ISO/TC130/JWG15 を新設した. 現在, 著者がコンビナーを務め,ISO 20294(Graphic technology - Quantification and communication for calculating the carbon footprint of e-media) として, 電子書籍を含む電子メディアの CFP の国際規格を開発中である. 3. 印刷物と電子書籍の LCA 評価 3.1 国内外の研究事例等近年,ICT を活用することで, 環境負荷を削減しようという活動が推進されている. これを反映して, 前述の ITU-T は,2012 年 3 月に L.1410(Methodology for environmental impact assessment of information and communication technologies (ICT)goods, networks and services) 2) を勧告した. この目的は, 環境問題を解決するためには, ICT を利活用することにより, エネルギー利用効率の改善や物の生産 消費の効率化, 人 物の移動を削減することにより環境問題を解決することである.L.1410 は,ICT 製品 ネットワーク サービスについて環境負荷の削減効果を定量評価するための基準を示したものである. 以下に, 印刷物と電子書籍の LCA 評価として, 国内外の研究事例等を紹介する. 紙メディアの印刷物の環境負荷に関して,LCA 手法を用いたいくつかの研究がある. 清水他 (2009) 3) は, 紙メディアの印刷物のライフサイクルの GHG 排出量を積み上げ法と配分法でそれぞれを算定 比較した.Moberg 他 (2011) 4) は, 店頭購入とネット購入の書籍の環境負荷を比較し, 配送の改善方法を提案した. 紙メディアと電子メディアの書籍等を LCA 手法で比較した多くの研究が報告されている.Yagita et al(2002) 5) は, 印刷物配送型とネット配信型の新聞のライフサイクルにおける GHG 排出量を比較する中で, ネット配信型新聞における各閲覧機器の比較も行った.Kozak(2003) 6) は, 紙メディアと電子メディアの学術書のライフサイクルステージにおける温暖化, オゾン生成および酸性化を比較した. Moberg et al(2007) 7) は, 印刷物, ウェブベースおよび電子ペーパーによる新聞の比較を行い, それぞれで環境負荷の大きい内容は, 印刷物の新聞が用紙の製造, ウェブベースの新聞が読書時のエネルギー消費, 電子ペーパーが電子ペーパー端末の製造であるとしている.Deetman(2009) 8) は, オフィスでのプリントアウト ( レーザープリンター ) と電子メディアの環境負荷として, 地球温暖化への影響を比較した.Borggren et al.(2011) 9) は, 紙メディアと電子メディアの書籍の比較を多数のインパクトカテゴリーで行った結果, カテゴリーで負荷の特性が異なり, どちらが環境に良いという一つの答えはないとした.Zgola et al. (2012) 10) は, サーバーを含めた研究を行った.Alma Media(2013) 11) は, 紙メディアと電子メディアの新聞における温暖化, 酸性化, 淡水の富栄養化, 海水の富栄養化, 浮遊粒子状物質生成, 鉱物資源枯渇, 化石資源枯渇を評価し, それぞれの新聞で環境負荷の大きい内容は, 紙メディアの新聞が用紙の製造, 電子メディアの新聞がコンテンツ制作と情報通信端末の使用とした. 電子メデイアの書籍等において, ライフサイクルの中で負荷の大きなステージは情報通信端末であると報告している研究が多い.Kozak(2003),Moberg et al.(2007), Borggren et al. (2011),Zgola et al. (2012) および Alma Media(2013) 等が, 情報通信端末の環境負荷が大きいという点で一致している. しかしながら, これらの研究では算定の基礎となるデータが推測に基づく環境影響評価が多いという課題があった. たとえば,Moberg et al.(2007) の研究では, 記者の取材 ( たとえば, 移動 ), 電子ペーパー端末の製造, インフラの製造および電子機器廃棄物のリサイクルに関して, データが不足していることが記載されていた. 3.2 最近の日本の研究結果 LCA 日本フォーラムの電子メディア研究会 ( 著者も参加 ) が,2013 年 11 月にローマ ( イタリア ) で開催された第 19 回 SETAC:LCA Case Study Symposium 12) にて, 紙メディアと印刷メディアの環境影響の比較を報告した内容を概説する. 本研究では, 上述した従来の研究で利用されたような推測データではなく, 一次データに基づく環境影響評価を実施した. さらに, 本研究では, 消費者の実態 ( 購買 使用など ) に裏付けられた一次データを収集するために, 書籍の読者を対象とする詳細なアンケート調査を実施した. 3.2.1 評価対象紙メディアと電子メディアの書籍を比較するために, そ [50] 日本印刷学会誌

電子メディアと紙メディアの書籍の環境影響 51 れぞれ図 5 と図 6 のシナリオを設定した. 両者ともに表紙を入れて 228 ページで, 販売部数を 3,000 部とした. 図 5 紙メディアの書籍のシナリオ ンターネットアンケートで以下を調べた. スクリーン調査と本調査の 2 段階を実施した. スクリーン調査では 52,463 人を対象とし, 主調査では 20 歳代,30 歳代,40 歳代,50 歳代および 60 歳代の男女の合計 1,012 人を対象とした. 調査項目は, 紙メディアの書籍では, 購入場所, 書店への移動手段 距離および書籍購入以外の目的等である. 電子メディアの書籍では, 情報通信端末の種類や利用時間等である. 共通の内容としては, 年間の購入数や読書速度等である.LCA 手法を用いて, 紙メディアの書籍は書店とインターネットで購入する場合の比較, 電子メディアの書籍は電子情報端末の利用方法による比較を実施した. 一例として, 図 9 にそれぞれの情報通信端末の 1 日当たりの利用時間を示す. 図 6 電子メディアの書籍のシナリオ 3.2.2 システムバウンダリー紙メディアと電子メディアの書籍のシステムバウンダリーをそれぞれ図 7 と図 8 に示す. 3.2.3 アンケート調査それぞれの書籍の利用状況のデータを収集するため, イ 図 9 各情報通信機器の 1 日当たりの利用時間 図 7 紙メディアの書籍のシステムバウンダリー図 8 電子メディアの書籍のシステムバウンダリー 第 52 巻第 1 号 (2015) [51]

52 総 説 3.2.4 評価結果紙メデイアの書籍と各情報通信端末の電子メディアの書籍におけるライフサイクルの GHG 排出量を図 10 と表 5 にまとめる.GHG 排出量の大きい項目は, 紙メディアの書籍では最大が用紙の製造,2 番目が買い物のための移動, 3 番目が印刷 製本であった. 一方, 電子メディアの書籍では, 圧倒的に情報通信機器の GHG 排出量が大きいことが分かった. これらが, 紙メディアと電子メディアの書籍のライフサイクルにおける GHG 排出量のホットスポットであり, 紙メディアと電子メディアの書籍のそれぞれが GHG 排出量削減のために取り組む課題となる. 紙メディアの書籍の GHG 排出量は, 約 1. 2 kg-co 2 e/ 部だが, リサイクルを考慮すると 1. 036 kg-co 2 e/ 部になる. 一方, 電子メディアの書籍では, 平均 ( 各情報通信端末の使用比率による荷重平均 ) が 0. 614 kg-co 2 e/ 部であり, 最少はスマートフォンの 0. 219 kg-co 2 e/ 部だった. しかしながら, パソコンで電子メディアの書籍を読んだ場合は, ラップトップ型パソコンの 1. 061 kg-co 2 e/ 部, デスクトップ型パソコンの 1. 122 kg-co 2 e/ 部であり, 紙メディアの GHG 排出量書籍と同程度になった. 電子メディアの書籍の GHG 排出量を算定する場合, 情 報電子端末の製造, 流通および廃棄 リサイクルに関わる GHG 排出量を情報通信端末の電子書籍の読書以外の用途も含めた使用時間当たりの値を算定し, この値と電子メディアの書籍を読むために要する時間の積から電子メディアの書籍の GHG 排出量を求めている. したがって, 図 11 に示すように, 情報通信端末の 1 日当たりの電子書籍の読書以外の用途も含む使用時間が長くなると, 電子メディアの書籍の CO 2 排出量は減少することになる. この結果, 情報通信端末の 1 日当たりの使用時間が, タブレットで 33 分, スマートフォンで 11 分, ラップトップ型パソコンで 1 時間 58 分, デスクトップ型パソコンで 2 時間 6 分, ポータブルプレイヤーで 8 分よりも長い場合, 紙メディアの書籍に対する電子メディアの書籍の CO 2 排出量が小さくなった. 図 11 情報電子機器の 1 日当たり使用時間による CO 2 排出量 4. おわりに 図 10 紙メディアと電子メディアの書籍の CO 2 排出量 表 5 紙メディアと電子メディアの書籍の CO 2 排出量 以上より, 電子メディアの書籍の GHG 排出量には, 情報通信端末の種類とその電子書籍の読書以外の用途も含む使用時間が大きく影響することが分かった. この結果は, 各書籍の読者の属性である年代や性別などにより, 評価結果が変わるということを意味するものである. しかし, 今回の目的である地球温暖化防止という視点においては,LCA の活用により, 紙メディアと電子メディアの書籍のそれぞれのライフサイクルにおける GHG 排出量のホットスポットを把握することができた. 紙メディアと電子メディアのそれぞれのホットスポットに対して, バリューチェーン上の他の事業者と連携して,GHG 排出量を削減する取組を推進することが重要である. 本稿では, 印刷業界のこの取組を活性化するために, ラ [52] 日本印刷学会誌

電子メディアと紙メディアの書籍の環境影響 53 イフサイクルシンキング (Life Cycle Thinking: 以下, LCT) に基づく CFP に関して, 国内における CFP コミュ ニケーションプログラムへの参加と, 国内外を対象とす る CFP の ISO 国際規格化の活動状況を報告した. さらに, 今回は触れなかった新たな LCT として, 企業のバリュー チェーン全体の GHG 排出量を対象とする Scope 3 や, 商品 企業の GHG 排出を含めた多項目の環境影響を対象とする 環境フットプリントなどがグローバルに展開されている. このような仕組に対しても, 本稿で紹介した CFP に関す る PCR の策定,ISO 国際規格の開発および LCA の基礎 研究は, 今後活用することのできる基盤であると考える. 5. 謝辞 本活動においては,PCR 策定にご尽力いただいた印刷 関連の各 PCR 策定 WG, 電子メディア PCR 策定 WG お よび出版 商業印刷物 ( 中間財 )PCR 改訂 WG の委員各 位,ISO 国際規格の開発にご協力いただいた ISO/TC130/ WG11 WG15 のエキスパート各位,ISO/TC130/WG11 WG15 の国内委員会の委員各位に感謝申し上げる.LCA 日本フォーラムの電子メディア研究会での取組が本研究の基盤となったことについては, 改めて感謝申し上げたい. 参考文献 1) 中村洋之, 印刷技術に関わるカーボンフットプリントの国 際規格の動向,LCA 日本フォーラムニュース,63,10(2013). 2) ITU-T(TELECOMMUNICATIONSTANDARDIZATION SECTOR OF ITU)L.1410: Methodology for environmental impact assessment of information and communication technologies (ICT)goods, networks and services 3) Hirokazu Shimizu, Katsuya Nagata, and Aran Hansuebsai: Comparison of Corporative Allocation Methods and Product Cumulative Methods for Printing Service, Journal of Printing Science and Technology, 46 (6),278 (2009). 4) Åsa Moberg, Clara Borggren, Göran Finnveden, Books from an environmental perspective-part 1: environmental impacts of paper books sold in traditional and internet bookshops. Int J Life Cycle Assess, 16, 138-147 (2011). 5) Hiroshi Yagita, Kiyotaka Tahara, Yutaka Genchi, Atsushi Inaba, The evaluation of the change possibility of the amount of CO 2 emission concerned with information delivery caused by the development of Information Technology (IT)-Case studies for net-delivery type newspaper-. The Fifth International Conference on EcoBalance, S1-91(2002). 6) Greg Kozak: Printed Scholarly Books and E-book Reading Devices, A Comparative Life Cycle Assessment of Two Book Options. Center for Sustainable Systems, Report No. CSS03-04, University of Michigan, Ann Arbor, Michigan (2003). 7) Åsa Moberg, Martin Johansson, Göran Finnveden, Alex Jonsson, Screening environmental life cycle assessment of printed,web based and tablet e-paper newspaper, Reports from the KTH Centre for Sustainable Communications, Stockholm, Sweden (2007). 8) Sebastiaan Deetman, Ingrid Odegard, Scanning Life Cycle Assessment of Printed and E-paper Scanning Life Cycle Assessment of Printed and E-paper, Documents based on the irex Digital Reader. Rex Technology. Institute of Emvironmental Sciences, Leiden University (2009). 9) Clara Borggren, Asa Moberg, Goran Finnveden, Books from an environmental perspective-part 2: e-books as an alternative to paper books. Intl J Life Cycle Assess, 16, 238-246 (2011). 10) Melissa Zgola, Jon Dettling, Tim Strecker, E-book or paperback? The role of consumer behavior in environmental performance. LCA XII. (2012). 11) Alma Media Corporation, The most significant environmental impacts of Alma Media's and its business units' operations are related to printing and distribution, properties and travel. Alma Media's Sustainable Media corporate responsibility programme. http://www. almamedia.com/sustainable-media/environment/ Accessed 25 July 2013 12) Kiyotaka Tahara, Hirokazu Shimizu, Katsuhito Nakazawa, Hiroyuki Nakamura, Ken Yamagishi, A case study of comparison of e-book and paper-book. The 19th SETAC* LCA Case Study Symposium(2013). 第 52 巻第 1 号 (2015) [53]