オピオイド / 緩和医療 2012 年 3 月 21 日 主催 : 福岡大学病院腫瘍センター 共催 : 福岡市薬剤師会 福岡地区勤務薬剤師会
緩和医療とは 生命を脅かす疾患に伴う問題に直面する患者と家族に対し 疼痛や身体的 心理社会的 スピリチュアルな問題を 早期から正確に評価し解決することにより 苦痛の予防と軽減を図り 生活の質 (QOL) を向上させるためのアプローチ (WHO, 2002 年 )
緩和医療とは 従来のがん診療 診断 積極的治療の断念 死 がんに対する治療 ( 手術 放射線 抗がん薬 ) ホスピス緩和ケア 終末期ケア 適切ながん診療 診断 がんに対する治療 ( 手術 放射線 抗がん薬 ) 終末期ケア 緩和ケア症状に対する治療 死 遺族ケア
痛みについて 痛みとは 実際に何らかの組織損傷が起こった時 あるいは組織損傷が起こりそうな時 あるいはそのような損傷の際に表現されるような 不快な感覚体験および情動体験 と定義される 痛みは主観的な症状であり心理社会的 スピリチュアルな要素の修飾を受ける 痛みの神経学的機序 ( 性質の分類 ) パターン 原因( 疼痛症候群 ) の診断を的確に行い 診断結果に従って速やかに適切な薬物療法および原因治療を行う
全人的苦痛 身体的苦痛痛み他の身体症状日常生活動作の支障 精神的苦痛不安いらだちうつ状態 全人的苦痛 (total pain) 社会的苦痛経済的な問題仕事上の問題家庭内の問題 スピリチュアルな苦痛生きる意味への問い死への恐怖自責の念
がん性疼痛の種類 ( がん疼痛の薬物療法に関するガイドライン, 2010 年, 日本緩和医療学会編 )
体性痛 皮膚や骨 関節 筋肉 結合組織など体性組織への機械的 刺激が原因で発生する痛み 骨転移の痛み 術後早期の創部痛 筋膜や筋骨格の炎症 攣縮に伴う痛みなど 組織の損傷が原因で発生する 損傷部位に痛みが限局しており 圧痛を伴う 体動に随伴して痛みが増強する 非オピオイド鎮痛薬 オピオイドが有効 突出痛に対して レスキュー ドーズの使用が重要
内臓痛 食道 胃 小腸 大腸などの管腔臓器の炎症や閉塞 肝臓や腎臓 膵臓などの炎症や腫瘍による圧迫 臓器被膜の急激な伸展が原因で発生する痛み 肝や腎などの固形臓器は被膜の急激な伸展 管腔臓器は消化管内圧の上昇を起こすような圧迫や伸展 内腔狭窄が原因で痛みが発生する 局在が不明瞭である 嘔気 嘔吐 発汗などの随伴症状を認める場合がある 非オピオイド鎮痛薬 オピオイドが有効
神経障害性疼痛 末梢 中枢神経の直接的損傷に伴って発生する痛み 障害された神経の支配領域にさまざまな痛みや感覚異常が発生する 刺激に依存しない自発痛 ( 持続痛 電撃痛 ) 刺激に誘発される痛み ( 痛覚 感覚過敏 アロディニア ) 異常感覚 疼痛領域の感覚は低下しており しばしば運動障害や自律神経系の異常 ( 発汗異常 皮膚色調の変化 ) を伴う 非オピオイド鎮痛薬 オピオイドの効果が乏しい 鎮痛補助薬の併用を考慮する
痛みのパターン 持続痛 1 日を通してずっと痛い 突出痛 普段はほとんど痛くないが 時々強い痛みが起こる ( がん疼痛の薬物療法に関するガイドライン, 2010 年, 日本緩和医療学会編 )
持続痛 24 時間のうち 12 時間以上経験される平均的な痛み と表 現される痛み 鎮痛薬の定期投与あるいは増量を行う 鎮痛薬により緩和されている持続痛と 鎮痛薬が不十分あ るいは痛みの急速な増強のために緩和されていない持続痛 がある 治療やがんの進行に伴い持続痛の程度も変化するため定期 的な評価が必要である
突出痛 持続痛の有無や程度 鎮痛薬治療の有無にかかわらず発生 する一過性の痛みの増強 レスキュー ドーズを使う 突出痛は 発症が急速で持続が短いという一般的な特徴があり 予測できる突出痛 予測できない突出痛 定時鎮痛薬の切れ目の痛み の3つのサブタイプに分類される 特徴に合わせた治療を行う
突出痛 (1) 予測できる突出痛 予測可能な刺激に伴って生じる突出痛 意図的な体動に伴って生じる痛み ( 体動時痛 ) が代表的である 突出痛の誘因となる行為を予防して避けることが重要である 誘因が避けられない場合には30~60 分前にレスキュー ドーズを使用することで予防するなどの治療を行う
突出痛 (2) 予測できない突出痛 a) 痛みの誘因があるもの ミオクローヌス 咳 消化管や膀胱の攣縮など 意図的ではない体の動きに伴って生じる突出痛 迅速なレスキュー ドーズ対応に加えて 痛みの誘因の頻度を減少させるような病態へのアプローチを行う b) 痛みの誘因がないもの ( 誘因のない突出痛 ) 痛みの特徴に応じてレスキュー ドーズが迅速に使用できるような対応を行う
突出痛 (3) 定時鎮痛薬の切れ目の痛み 定時鎮痛薬の血中濃度の低下によって 定時鎮痛薬の投与前に出現する痛み 定時鎮痛薬の増量や 投与間隔の変更を考慮する
WHO 方式がん疼痛治療法の鎮痛薬リスト 薬剤群代表薬代替薬 非オピオイド鎮痛薬 アスピリンアセトアミノフェンイブプロフェンインドメタシン ナプロキセンジクロフェナクフルルビプロフェン 弱オピオイド ( 軽度から中等度の強さの痛みに用いる ) コデイン ジヒドロコデインアヘン末トラマドール 強オピオイド ( 中等度から高度の強さの痛みに用いる ) モルヒネ オキシコドンブプレノルフィンフェンタニル (WHO, 1996 年, 一部改変 )
鎮痛薬使用の 5 原則 経口投与を基本とする (by mouth) 時間を決めて定期的に投与する (by the clock) 除痛ラダーにそって痛みの強さに応じた薬剤を選択する (by the ladder) 患者ごとに個別的な量を投与する (for the individual) 患者ごとに細かい配慮をする (with attention to detail)
経口投与を基本とする (by mouth) 簡便に投与でき 用量調節が容易で 安定した血中濃度が 得られる経口薬が最も望ましい 嘔気 嘔吐 嚥下困難 消化管閉塞などの理由で経口投与 が困難な場合は 直腸内投与 ( 坐剤 ) 持続皮下注 持続 静注 経皮投与 ( 貼付剤 ) などを検討する
時間を決めて定期的に投与する (by the clock) 持続痛に対しては 服薬時刻を決めた一定の使用間隔で投 与する 痛みが出てから鎮痛薬を投与する頓用方式は行う べきではない 突出痛に対しては レスキュー ドーズを使用する 定期 投与に加えてレスキュー ドーズを設定し 患者に使用を 促す
ラダーにそって薬剤を選択する (by the ladder) 鎮痛薬は WHOの三段階除痛ラダーに従って選択する 軽度の痛みには 非オピオイド鎮痛薬を使用する 非オピオイド鎮痛薬は天井効果のため 標準投与量以上の増量は行わない 痛みの種類によっては鎮痛補助薬を併用する 非オピオイド鎮痛薬の効果が不十分な場合は 弱オピオイドを追加する 弱オピオイドの効果が不十分な場合は 強オピオイドに変更する オピオイドは 増量すればその分だけ鎮痛効果が高まる 非オピオイド鎮痛薬や鎮痛補助薬を併用する
ラダーにそって薬剤を選択する (by the ladder)
患者ごとに個別的な量を投与する (for the individual) 適切なオピオイドの投与量とは 痛みが消え かつ副作用 が問題とならない量である 効果判定を繰り返し 鎮痛薬の投与量を調整する レスキュー ドーズを使用しながら 十分な緩和が得られ る定期投与量を決定する
患者ごとに細かい配慮をする (with attention to detail) 痛みの原因と鎮痛薬の作用機序 予想される副作用とその予防策について説明する 時刻を決めて規則正しく服用することの大切さを説明する 効果と副作用の評価を頻回に行い 適切な鎮痛薬への変更や鎮痛補助薬の追加を行う がんに対する治療によって痛みの原因病変が消失 縮小した場合は オピオイドを漸減する 離脱症候群に注意したうえで計画的に減量する 肝機能障害 腎機能障害に注意する 不安 抑うつなどの精神状態に配慮する
疼痛の強さの評価 痛みを 0 から 10 の 11 段階に分け 痛みが全くないものを 0 考えられる中で最悪の痛みを 10 として 痛みの点数を問う
疼痛治療の概要 非オピオイド鎮痛薬の開始 オピオイドの導入 残存 増強した痛みの治療オピオイドの増量レスキュー ドーズの使用 オピオイドの副作用対策嘔気 便秘 眠気 せん妄