日本科学飼料協会第 450 回月例研究会 2017.9.28 家畜の中毒の発生状況及び診断 予防法 - かび毒 有毒植物を中心として - ( 一財 ) 生物科学安全研究所宮崎茂 一般財団法人生物科学安全研究所
中毒とは 中毒とは有毒な化学物質が生体に入って特殊の病徴を呈する健康の変態であって, 有毒物質の研究は毒物学に属し病徴並びに治療に関する研究は中毒学に属する. 而して広い意味では内科学, 細菌学, 病理学の範囲にも入るが, 他面薬理学との関連は恰も両刃のかみそりで, 薬としての変化はこれを薬理学で扱い, 毒としての変状は中毒学で吟味すべく, この際毒は薬であり, 薬は毒である ( 大川徳太郎, 家畜中毒学, 文永堂,1964) 一般財団法人生物科学安全研究所 1
毒物とはこの世に毒でないものはない. あるものが毒になるか薬になるかは, その用いる量による. パラケルスス毒性学の祖スイスの医師, 錬金術師 (1493~1541) http://ja.wikipedia.org/wiki/ ファイル :Paracelsus_1.jpg 一般財団法人生物科学安全研究所 2
体反応の強さ用量生無作用量 有害でない作用 無毒性量 中毒 一般財団法人生物科学安全研究所 3 致死量化学物質の用量と生体の反応
水中毒 水でも飲み過ぎると中毒を起こす 体験事例 : 離乳直後の子牛がウォーターカップをいたずらして水を多飲 溶血 血尿 一般財団法人生物科学安全研究所 4
中毒発症に関与する要因 動物種 性 年齢による感受性の違い 反芻家畜の薬物代謝酵素活性は高い豚は硫酸抱合酵素を欠く 雌雄による薬物代謝酵素活性の違い第 1 相酵素のみならず第 2 相酵素にも性差 消化管微生物 特に反芻胃内での代謝ルーメン微生物による分解 ( トリコテセン ) 毒性の高い物質への変化 ( 硝酸 -> 亜硝酸 ) 一般財団法人生物科学安全研究所 5
トリコテセンのルーメンでの脱エポキシ化 消化管微生物特にルーメン微生物 毒性の低い脱エポキシ体 R デオキシニバレノール -H ニバレノール -OH フザレノンー X -OCOCH3 一般財団法人生物科学安全研究所 6
中毒の原因 有毒植物放牧 剪定枝 河川敷雑草 農薬最近の農薬は低毒性登録切れ農薬の畜産物への残留が問題 重金属動物種による感受性の違い かび毒急性中毒はほとんど無い その他過熱魚粉 アンモニア処理牧草 一般財団法人生物科学安全研究所 7
中毒の診断 すべての疾病の診断に共通する注意点先入観を廃し総合的な判断 毒物の摂取量見積もりも重要 家畜衛生現場では 先ず感染症に対する対応をとるため 中毒診断のための試料が確保されないことが多い 生材料 ( 血液 臓器 胃内容 ) の採取 保存 一般財団法人生物科学安全研究所 8
疫学的情報の収集給与飼料の由来 同一飼料を他の農家でも給与しているか畜舎環境 農薬 動物用医薬品の使用状況集団発生か特定の個体のみかなど 臨床症状 病理学的検査 中毒の診断法 生化学検査一般血液検査原因物質の検出 ( 血液 臓器 消化管内容 飼料など ) 症状が類似した他の疾病の否定病性鑑定では先ず急性伝染病か否かの判定が重要 再現試験 ( 原因究明 ) 原因と疑われる飼料の給与試験 一般財団法人生物科学安全研究所 9
疫学調査発生状況の確認 特徴的な症状の把握同居家畜の状況畜舎の構造や位置家畜が接触する可能性のある野草 樹木殺そ剤などの農薬使用の有無給与飼料の種類および購入先同一ロットを購入している他の農家の状況飼料を変更した場合はその時期飼料の保管状況 飼料の汚染 変敗の有無 一般財団法人生物科学安全研究所 10
中毒の診断のためには毒物の同定 定量が重要 生産動物の衛生現場 ( 家畜保健衛生所など ) での毒物分析には限界 ハード ソフト両面での制約 1. 簡易検出キットの利用人の中毒診断用試薬 ( 救命救急用 ) 食品用分析試薬環境分析用試薬など 2. 高度な機器分析検査可能施設との協力関係の構築 GC-MS, LC-MS, ICP-MS など 一般財団法人生物科学安全研究所 11
高度な分析機器による診断事例 ドクゼリ中毒馬胃内容からのシクトキシンの検出 ( ガスクロマトグラフ質量分析計 ) 5.0 SIM (m/z=258) シクトキシン 4.0 3.0 2.0 1.0 Peak-1 0.0 11.0 12.0 13.0 14.0 15.0 16.0 Retention time (min) 一般財団法人生物科学安全研究所 12
毒性物質の簡易検査試薬 硝酸態窒素 :RQ フレックス, メルコクアント試験紙 ( いずれも関東化学 ) 主要なかび毒 :ELISA キット (Romer Labs, R-Biopharm, Neogen など ) 青酸イオン : 和光 ( シアンテストワコー ) グルホシネート : 定性キット ( アベンティスクロップサイエンスジャパン ) 有機リン農薬 : 有機リン農薬検出キット ( 関東化学 ) キットセーフ AT-10( アヅマックス ) 一般財団法人生物科学安全研究所 13
RQ フレックス 一般財団法人生物科学安全研究所 14
一般財団法人生物科学安全研究所 15
ELISA キットによるかび毒の測定 飼料の場合偽陽性に注意 : 試料の前処理が必要 (http://www.naro.affrc.go.jp/org/niah/disease_poisoning/manual/myco-elisa.html) 抗 DON 抗体 酵素標識 DON 試料中 DON 抗 Ig 抗体 一般財団法人生物科学安全研究所 16
観賞魚水質検査試薬で牧草の硝酸態窒素を測定できる 一般財団法人生物科学安全研究所 17
植物中毒では胃内容からの植物検出も重要 採食の有無を確認するため, 胃内容を回収し, 肉眼あるいは実体顕微鏡で, 未消化の有毒植物を検出する. しかし, 植物の消化がすすみ判別不可能なことも多い. 家畜保健衛生所は, 感染症診断のため,PCR 法による遺伝子検査に習熟している. PCR 法による胃内容からの有毒植物遺伝子の検出 一般財団法人生物科学安全研究所 18
植物特異的遺伝子検出による中毒の診断事例 PCR 法を用いた消化管内容物からのワラビ遺伝子の検出神吉武ら 日本獣医師会雑誌 62, 457-459 (2009) rbcl( 葉緑体遺伝子 ) 形態的観察 PCR 法及び LC/MS 分析による育成牛シキミ中毒の診断河津理子ら 日本獣医師会雑誌 64, 791-796 (2011) リボゾーム RNA 遺伝子 ITS 領域 ( 転写領域内部のスペーサー ) 一般財団法人生物科学安全研究所 19
中毒の治療 産業動物では死亡してから気づくことも多いが 先ず 生命維持のための対応 飼料を疑う場合は給与中止 原因物質の除去胃洗浄下剤, 吐剤, 活性炭等の投与 原因が特定できれば, 毒物に対する拮抗薬の投与 一般財団法人生物科学安全研究所 20
食用動物における中毒 毒物の家畜への影響のみでなく 畜産物の安全性も重要 飼料の安全性確保及び品質の改善に関する法律 ( 飼料安全法 ) 第 1 条 飼料の安全性の確保及び品質の改善を図り もって公共の安全の確保と畜産物等の生産の安定に寄与することを目的とする 一般財団法人生物科学安全研究所 21
飼料の安全性の重要性 飼料中の有毒物質微生物 家畜の中毒感染症 畜産物の汚染 人の中毒食中毒 一般財団法人生物科学安全研究所 22
飼料安全法による規制 飼料の有害物質に関する基準 指導基準 ( 超過してはならない値 ) かび毒 ( 乳用牛配合飼料中アフラトキシン B1) 管理基準 ( 工程管理の指標 ) 農薬 (78 成分 ) 重金属等 ( 鉛 カドミウム 水銀 ひ素 ) かび毒 ( 乳用牛配合飼料中以外のアフラトキシン B1 デオキシニバレノール及びゼアラレノン ) その他 ( メラミン ) 一般財団法人生物科学安全研究所 23
指導基準 飼料安全法による規制の例 かび毒 対象飼料 基準 (mg/kg) アフラトキシン B1 配合飼料 ( 乳用牛用 ) 0.01 管理基準 アフラトキシン B 1 配合飼料 ( 牛用 ( ほ乳期子牛用及び乳用牛用を除く ) 豚用 ( ほ乳期子豚用を除く ) 鶏用 ( 幼すう用及びブロイラー前期用を除く ) 及びうずら用 ) 及びとうもろこし 配合飼料 ( ほ乳期子牛用 ほ乳期子豚用 幼すう用及びブロイラー前期用 ) ゼアラレノン家畜に給与される飼料 1 0.02 0.01 デオキシニバレノール 生後 3 か月以上の牛に給与される飼料 4 家畜等 ( 生後 3 か月以上の牛を除く ) に給与される飼料 1 一般財団法人生物科学安全研究所 24
どんな中毒事故が起きているか 乳牛の雌 肉用牛 中 毒 全 体 122 234 ワ ラ ビ 中 毒 2 1 キョウチクトウ中毒 4 - その他の植物中毒 5 31 農 薬 中 毒 - 1 殺 鼠 剤 中 毒 - 1 飼 料 添 加 剤 中 毒 - 31 石油 石油製品による中毒 1 - 消 毒 薬 中 毒 - 1 その他の薬物中毒 - 7 鉛 中 毒 - 1 硝 酸 塩 中 毒 2 15 カ ビ 毒 中 毒 - - 蛇 毒 中 毒 2 23 そ の 他 の 中 毒 106 122 家畜共済統計表 2015 年度病傷事故別件数 一般財団法人生物科学安全研究所 25
我々が最近経験した中毒事例 古典的中毒の再発生ワラビ中毒 魚粉中毒 ( 鶏の筋胃糜爛 ) 硝酸塩中毒 傷害サツマイモ中毒 有毒植物中毒有毒植物に関する情報不足エゴマ ドクゼリ キョウチクトウ シキミ ハナヒリノキ モロヘイヤなど 輸入粗飼料による中毒エンドファイト中毒 一年生ライグラス中毒 硝酸塩中毒 農薬 飼料添加物等使用法の失宜銅中毒 鉛中毒 イオノフォア抗生物質中毒 クロルピクリン中毒 一般財団法人生物科学安全研究所 26
有毒植物による中毒 放牧中に有毒植物を摂取する場合 舎飼い家畜に畜主が誤って給与する場合 我が国での発生事例の多くが有毒植物の剪定枝等を畜主が誤って給与した事例 発生予防のためには 畜主をはじめ畜産関係者への有毒植物情報の提供が重要 一般財団法人生物科学安全研究所 27
飼料作物以外の植物給与に関する注意点 - 剪定枝 畦畔草の利用など - 有毒植物に関する情報の周知 写真で見る家畜の有毒植物と中毒 http://www.naro.affrc.go.jp/org/niah/disease_poisoning/ plants/index.html 雑草だけではなく, 剪定枝にも注意 最近の中毒事例キョウチクトウ, オナモミ, ドクゼリ, シキミ, モロヘイヤ ハナヒリノキ エゴマ 外来植物の侵入にも注意 ナルトサワギク, コンフリー, ワルナスビ 一般財団法人生物科学安全研究所 28
http://www.naro.affrc.go.jp/org/niah/disease_poisoning/plants/index.html 一般財団法人生物科学安全研究所 29
一般財団法人生物科学安全研究所 30
どうしんウェブ (http://www.hokkaido-np.co.jp/news/donai/363533.html 一般財団法人生物科学安全研究所 31
一般財団法人生物科学安全研究所 32
自治体でも有毒植物に関する啓蒙活動 http://www.city.sapporo.jp/ hokenjo/shoku/pamph/ dokuso/index.html 一般財団法人生物科学安全研究所 33
ワラビ中毒 1960 年代に新しく開拓された牧野で多発牧野からのワラビ防除対策により発生減少 近年各地で散発 一般財団法人生物科学安全研究所 34
ワラビ中毒 有毒成分 : プタキロシド ( ラットの腸や膀胱腫瘍の原因物質牛の急性中毒の原因 ) ブラキシン C( モルモットに出血性膀胱炎 ) チアミンピリジニラーゼ ( チアミナーゼ ) 中毒症状 : 再生不良性貧血 ( 汎骨髄癆 ) 白血球, 血小板の減少. 貧血, 血液凝固不全 ( 一次止血異常 ), 昆虫による刺し傷などからの出血 血便, 血尿 膀胱腫瘍 チアミン欠乏 ( 馬 ) 一般財団法人生物科学安全研究所 35
ワラビ中毒 : 骨髄 リンパ節 リンパ球の減少 一般財団法人生物科学安全研究所 36
ワラビ中毒 : 血尿 膀胱の粘膜腫瘤と凝血 原図 : 中川迪夫一般財団法人生物科学安全研究所 37
ドクゼリ 原図 : 竹田百合子 一般財団法人生物科学安全研究所 38
ドクゼリ中毒 セリ科ドクゼリ属の植物 毒性物質 : シクトキシン 作用機序 : 抑制性神経伝達物質である GABA と拮抗 K + チャネルの障害シキミのアニサチン ドクウツギのコリアミルチンも同様 中毒症状 : 強直性 間代性痙攣嘔吐 下痢馬の事例では 旋回運動 歩行異常 痙攣 呼吸困難 一般財団法人生物科学安全研究所 39
セリと間違えたヒトの中毒事故が多い ドクゼリセリ 北海道立衛生研究所にて撮影 ( 札幌市 5 月 ) 一般財団法人生物科学安全研究所 40
エゴマ シソ科の一年草種子から絞った荏油 ( えのあぶら ) は食用, ペイント, 印刷インクや和傘, 油紙などの防水用 α- リノレン酸を多く含む 葉はぺリラケトン (perillaketone) などの 3 位置換フランを含み独特の匂いがある 一般財団法人生物科学安全研究所 41
エゴマ中毒 牛の急性肺水腫, 肺気腫 Acute bovine pulmonary edema and emphysema, ABPE 3 位置換フランなどの原因物質が肺の mixed-function oxidase (MFO) で反応性の高い物質に代謝され, これが肺組織の細胞機能障害を起こす. 中毒症状 : 呼吸困難, 頻呼吸, 沈鬱, 突然死一般に咳は無し病理所見 : 間質性肺気腫, 肺水腫, 好酸性硝子膜形成, リンパ球系細胞浸潤 一般財団法人生物科学安全研究所 42
牛の急性肺水腫, 肺気腫 Acute bovine pulmonary edema and emphysema, ABPE 原因物質 1.3- メチルインドール生草中のトリプトファンがルーメンで 3- メチルインドールに変化 2.4- イポメアノールなど傷害サツマイモが産生する 3 位置換フラン 3. ペリラケトンなどエゴマの葉に含まれる 3 位置換フラン O O ペリラケトン 一般財団法人生物科学安全研究所 43
サツマイモが産生するファイトアレキシンによる中毒 - 傷害サツマイモ中毒 - 各種の傷害 ( 甘藷黒斑病 ( 原因菌 Ceratocystis fimbriata) やその他のかびの発生 虫害など ) を受けたサツマイモが, 哺乳動物に有毒なファイトアレキシンを産生 毒性物質は,3 位が置換されたフラン化合物イポメアマロン, イポメアニン,1- イポメアノール, 4- イポメアノール,1,4- イポメアジオール シトクロム P-450 で代謝されて活性型となり肺組織を障害急性間質性肺気腫 イポメアマロンには肝毒性 一般財団法人生物科学安全研究所 44
傷害サツマイモ中毒事例 黒毛和種繁殖農場で妊娠牛群に呼吸器症状 下痢 発疹 45 頭中 30 頭が発症し 2 頭死亡 食品加工工場から排出されたサツマイモを給与サツマイモは一部が黒褐色で 強い発酵臭 病理所見は 肺のうっ血 水腫 肝の出血斑 細菌あるいはウイルスによる感染症を否定 サツマイモからフザリウム属様真菌給与サツマイモからイポメアマロンを検出 一般財団法人生物科学安全研究所 45
腐敗したサツマイモの断面 一般財団法人生物科学安全研究所原図 : 山中典子 46
シキミ 一般財団法人生物科学安全研究所 47
シキミ中毒 シキミ科シキミ属の植物宮城以南に分布墓地 寺院などに植えられる最近は公園の植栽にも用いられる 毒性物質 : アニサチン ( 種子に多い ) 作用機序 : 抑制性神経伝達物質である GABA と拮抗 K + チャネルの障害 中毒症状 : 強直性 間代性痙攣嘔吐 下痢 一般財団法人生物科学安全研究所 48
ツツジ科植物中毒 ( ハナヒリノキ, アセビ, ネジキ レンゲツツジ ) 毒性物質 : グラヤノトキシン ( アンドロメドトキシン, アセボトキシン ) 作用機序 : 細胞膜のナトリウムチャネルに結合 細胞内にカルシウムが蓄積し, 骨格筋や心筋の収縮力を強める 中毒症状 : 嘔吐, 泡沫性流涎, 四肢開張, 起立不能, 疝痛, 腹部膨満, 呼吸促迫, 全身麻痺 一般財団法人生物科学安全研究所 49
ハナヒリノキ 近畿以北の本州から北海道に分布和名の由来は, 葉の粉末が鼻に入るとくしゃみが出ることから 一般財団法人生物科学安全研究所 50
強心配糖体中毒 強心配糖体ステロイドをアグリコン ( 非糖体 ) とする配糖体で 心筋に作用してうっ血性心不全に効果を示すもの 強心配糖体を含む植物 キョウチクトウモロヘイヤ種子ジギタリスフクジュソウスズラン 作用機序 : 細胞膜の Na +,K + -ATPase 活性を阻害 結果的に細胞内に Ca 2+ が蓄積し, 心筋が収縮 中毒症状 : 食欲不振, 下痢, 起立不能, 体温低下, 心拍 微弱 一般財団法人生物科学安全研究所 51
キョウチクトウ 一般財団法人生物科学安全研究所 52
キョウチクトウ中毒 キョウチクトウ科の常緑低木 温帯に広く分布 庭木としてはもちろん, 大気汚染にも強いことから高速道路の植栽などにも用いられる キョウチクトウには種々の強心配糖体が含まれているが, 量的にもっとも多いのがオレアンドリン 剪定枝を給与したことによる牛の中毒が散発 一般財団法人生物科学安全研究所 53
モロヘイヤ ( 成熟した種子が有毒 ) 一般財団法人生物科学安全研究所 54
モロヘイヤ中毒 シナノキ科の一年生草本 インド西部あるいはアフリカ原産 葉は苦みがなく栄養素に富むため野菜として利用クレオパトラの美の源? 成熟した種子に強心配糖体 ( コルコロシド ) 葉には含まれていない 1996 年に長崎県で黒毛和種牛の中毒成熟した株全体を給与 一般財団法人生物科学安全研究所 55
オオオナモミ メキシコ原産の帰化植物 有毒成分は, カルボキシアトラクティロシド細胞内での酸化的リン酸化とミトコンドリア膜における ATP の転移を阻害 中毒症状は 歩様蹌踉, 沈鬱, 筋収縮, 痙攣, 横臥, 呼吸および心拍数増加 低血糖 一般財団法人生物科学安全研究所 56
ナルトサワギク Senecio madagascariensis マダガスカル島原産のキク科キオン属の帰化植物 1976 年に徳島県鳴門市で,1986 年には兵庫県淡路島で確認和歌山, 岡山, 高知, 鹿児島でも確認 2006 年に特定外来生物に指定 ピロリジジンアルカロイド ( 肝毒性, 変異原性 ) を含む アレロパシー作用もある オーストラリアでは家畜に被害 森田原図 一般財団法人生物科学安全研究所 57
ピロリジジンアルカロイドを含む植物 キオン属 ( セネシオ属 ) エゾオグルマ ナルトサワギクなど園芸品種も多い シンフィツム属コンフリーなど ヘリオトロピウム属ヘリオトロープなど タヌキマメ属タヌキマメ アメリカタヌキマメなど コンフリーについては 食品衛生法で販売禁止措置飼料利用についても注意喚起 ( 平成 16 年 課長通知 ) 一般財団法人生物科学安全研究所 58
平成 21 年度特定外来生物 ( ナルトサワギク ) の飼料への影響調査事業 農研機構動物衛生研究所近畿中国四国農業研究センター大阪府環境農林水産総合研究所株式会社住化分析センター 一般財団法人生物科学安全研究所 59
かび毒 ( マイコトキシン ) とは かび ( 真菌 ) の二次代謝産物のうち ヒトを含めた動物に強い毒性を示すもの 二次代謝産物とは生命維持における役割が不明な物質 かびがなぜかび毒を作るかよく分かっていない 一般財団法人生物科学安全研究所 60
かび毒とこれを作るかび フザリウム属アスペルギルス属ペニシリウム属ネオティフォディウム属 トリコテセンゼアラレノンフモニシン アフラトキシンオクラトキシン A シトリニンパツリン 麦角アルカロイドロリトレム かび毒を作るのはごく一部のかび 一般財団法人生物科学安全研究所 61
アスペルギルス属 Aspergillus 属 ( コウジカビの仲間 ) A. oryzae: 日本酒, 味醂 A. sojae: 醤油, 味噌 A. kawachii: 泡盛 A. glaucus: 鰹節のカビ付け A. fumigatus など : 肺炎などの病気を起こすアレルギー A. flavus: かび毒アフラトキシンを作る 一般財団法人生物科学安全研究所 62
サイレージにかびが生えていてもかび毒に汚染しているとは限らない ーかびとかび毒は別ー かび毒が検出されても中毒量以下であれば問題ない 一般財団法人生物科学安全研究所 63
飼料を汚染する可能性のある主なかび毒 かび毒産生するかび汚染される飼料家畜に対する影響 アフラトキシン Aaspergillus flavus, 落花生, トウモロコシ, A. parasiticus 麦, 綿実 肝障害 ( 肝細胞壊死, 肝硬変 ), 肝細胞がん, 増体率の低下, 泌乳量 産卵率の低下, 免疫機能低下 トリコテセン ( デオキシニバレノー Fusarium ル ニバレノール graminearumなど T-2トキシンなど ) ゼアラレノン Fusarium graminearum, F. tricinctum 麦, トウモロコシ, トウモロコシサイレージ トウモロコシ, マイロ, 麦, トウモロコシサイレージ 食欲低下, 増体率の低下, 嘔吐, 下痢, 皮膚炎, 無白血球症, 再生不良性貧血, 免疫機能障害 外陰部肥大, 流産 フモニシン Fusarium verticilloides (F. moniliforme), F. proliferatum トウモロコシ, トウモロコシサイレージ 肝障害 白質脳軟化 ( 馬 ), 肺水腫 ( 豚 ), 免疫機能障害 ロリトレム Neotyphodium lolli ペレニアルライグラスライグラススタッガー ( 痙攣, 起立不能 ) 一般財団法人生物科学安全研究所 64
指導基準 飼料安全法によるかび毒の規制 対象飼料 基準 (mg/kg) アフラトキシン B1 配合飼料 ( 乳用牛用 ) 0.01 管理基準 アフラトキシン B 1 配合飼料 ( 牛用 ( ほ乳期子牛用及び乳用牛用を除く ) 豚用 ( ほ乳期子豚用を除く ) 鶏用 ( 幼すう用及びブロイラー前期用を除く ) 及びうずら用 ) 及びとうもろこし 配合飼料 ( ほ乳期子牛用 ほ乳期子豚用 幼すう用及びブロイラー前期用 ) ゼアラレノン家畜に給与される飼料 1 0.02 0.01 デオキシニバレノール 生後 3 か月以上の牛に給与される飼料 4 家畜等 ( 生後 3 か月以上の牛を除く ) に給与される飼料 1 一般財団法人生物科学安全研究所 65
ALARA の原則 飼料中の有害物質の規制値を設定する際の考え方 (As Low As Reasonably Achievable) 合理的に到達可能な範囲でできる限り低く設定 生産や取引の不必要な中断を避けるため 汚染物質の通常の濃度範囲よりもやや高いレベルに設定 適切な工程管理下での汚染濃度 比較 家畜の健康に悪影響がなくかつ畜産物の基準値を下回る濃度 どちらか低い値を基準値とする 一般財団法人生物科学安全研究所 66
日本における流通飼料のかび毒汚染調査 農林水産消費安全技術センターが飼料用穀物および配合飼料のかび毒汚染の検査およびモニタリングを実施し その結果を公表 http://www.ffis.famic.go.jp 規制値を超えるかび毒はほとんど検出されていない 出荷時の配合飼料のかび毒汚染はほとんど無い 農家での汚染の可能性もゼロではない 一般財団法人生物科学安全研究所 67
日本における粗飼料のかび毒汚染実態 トウモロコシサイレージを中心に DON やフモニシンが高頻度に検出される 検出濃度は牛に中毒を起こすほど高濃度ではない しかし 粗飼料のかび毒汚染に関する情報は少ない かび毒の汚染状況は気候によって大きく変動 温暖化によりこれまで汚染が見られなかったかび毒に汚染する可能性 粗飼料を汚染するかび毒モニタリングが必要 一般財団法人生物科学安全研究所 68
客観的情報ではかび毒中毒のリスクは低いが 農林水産省が注意喚起文書 家畜共済統計表 一般財団法人生物科学安全研究所 69
農水省からの注意喚起文書 (2) 一般財団法人生物科学安全研究所 70
かびが生えたサイレージを給与したら牛の具合が悪くなった かび毒中毒? かび発生 = 嫌気度が低い サイレージの品質が悪い 好気性 通性嫌気性病原菌が増殖する大腸菌 リステリア病原性のかび 細菌による有害アミンの産生 一般財団法人生物科学安全研究所 71
かび毒中毒の診断にあたっての留意点 かび毒の摂取量が重要 かび毒の摂取量 = 飼料中濃度 X 飼料摂取量かび毒検査法の特異性にも注意 症状がかび毒の毒性で説明できるか 当該症状の原因となる他の要因の否定 一般財団法人生物科学安全研究所 72
農水省からの注意喚起文書 (1) 一般財団法人生物科学安全研究所 73
かび毒中毒診断に対する注意喚起の効果? 家畜共済統計表 一般財団法人生物科学安全研究所 74
アフラトキシンの畜産物への残留 牛がアフラトキシンを食べると アフラトキシン B1 O O O O O OCH3 牛乳に残留する O O OH O アフラトキシン M1 O O OCH3 一般財団法人生物科学安全研究所 75
飼料中 AFB1 濃度と乳汁中 AFM1 濃度との関連 Y = 1.2 X + 1.9 Y : 乳汁中 AFM1 濃度 (ng/kg 乳 ) X:AFB1 摂取量 (μg/ 頭 / 日 ) JECFA (2001) 乳中 AFM1 基準値 =0.5 μg/kg(codex, 日本 (2015.7)) =500 ng/kg 牛 1 頭あたりの許容摂取量はおよそ 400 μg/ 日配合飼料の給与量を 12 kg/ 日とすると配合飼料中濃度を 33 μg/kg (ppb) 以下にすればよい 一般財団法人生物科学安全研究所 76
食品安全委員会での食品健康影響評価 乳中のアフラトキシン M1 及び飼料中のアフラトキシン B1 2013 年 7 月 評価の要約 現状においては 飼料中のアフラトキシン B1 の乳及びその他の畜産物を介するヒトへの健康影響の可能性は極めて低いものと考えられる しかし それら畜産物中に含まれる可能性のあるアフラトキシン M1 及びその他一部代謝物が遺伝毒性発がん物質であることを勘案すると 飼料中のアフラトキシン B1 及び乳中のアフラトキシン M1 の汚染は 合理的に達成可能な範囲で出来る限り低いレベルに抑えるべきである 一般財団法人生物科学安全研究所 77
エンドファイトとは 植物体内で共生的に生存している微生物畜産分野では, イネ科の牧草に感染するネオティフォディウム属真菌 ( かび ) をさす エンドファイト自身あるいはエンドファイトの感染刺激によって植物が種々の生理活性物質を産生 植物成長制御 虫害抵抗性 抗菌活性 かび毒 動物に対する有害作用 一般財団法人生物科学安全研究所 78
エンドファイト菌糸 ( ペレニアルライグラス種子 ) 一般財団法人生物科学安全研究所 79
エンドファイトが産生するかび毒 ロリトレム ペレニアルライグラスに感染する N. lolii が産生する神経毒 哺乳動物に対する神経毒 少なくとも 18 種の同族体 ロリトレム B が最も多く毒性も強い 牛や羊にライグラススタッガーを誘発 一般財団法人生物科学安全研究所 80
日本でのライグラススタッガー発生状況 (1997-1999) 件数 給与頭数 発症頭数 死亡頭数 牛 26 5212 164 4 馬 3 12 7 0 合計 29 5224 171 4 Miyazaki et al., J. Vet. Med. Sci., (2002) Miyazaki et al., J.Vet.Diagn.Invest.,(2004) 一般財団法人生物科学安全研究所 81
日本でのエンドファイト中毒事例 顔面, 頚部, 四肢などの痙攣を主徴とする神経症状 アメリカ産ライグラスストローを飽食 ほとんどが黒毛和種の子牛, 育成牛, 繁殖雌牛 チアミン欠乏, 低カルシウム血症, 硝酸塩中毒などは否定 エンドファイト菌糸を確認 エンドファイト毒素を検出 ロリトレム B 972-3740 μg/kg エンドファイト中毒と判断 一般財団法人生物科学安全研究所 82
日本における牛のエンドファイト中毒 芝草種のペレニアルライグラス, トールフェスクはエンドファイトを積極的に利用 オレゴン州は芝草種子の大生産地 日本は, 種子を採取したあとのワラ ( ストロー ) を牛の飼料用に輸入 エンドファイトに感染しているので, 一定量のかび毒に汚染 場合によっては牛に中毒 ( ライグラススタッガー ) 一般財団法人生物科学安全研究所 83
オレゴン州立大学のガイドライン 危険水準 ( 総飼料中 μg/kg) 馬 牛 エルゴバリン 300 500 400 750 ロリトレム B 不明 1800 2000 羊 800 1200 1800 2000 一般財団法人生物科学安全研究所 84
黒毛和種去勢雄育成牛への給与試験動衛研 科飼協 FAMIC の共同研究 およそ10ヶ月齢の黒毛和種去勢牛 1 群 3 頭,5 群 x 2 回 アメリカからロリトレム B 濃度既知のストローを輸入して給与 増体日量 0.4 kg を目標に飼料設計現物あたり乾物量を体重の 2.4% 乾物の 67% をストロー 試験期間は 12 週, 発症したら解剖 解剖時に臓器組織を採取し, ロリトレム B 残留量を分析 一般財団法人生物科学安全研究所 85
黒毛和種去勢育成牛への給与試験のまとめ ロリトレム B 含有ストロー給与における NOAEL=12 µg/kg BW per day LOAEL=18 µg/kg BW per day 神経症状と増体の低下以外の異常は観察されない 腎周囲脂肪にロリトレム B が残留する ( 死亡牛の診断指標となる ) 他の可食部位への残留はごく僅か 脂肪組織へ残留するロリトレム B は, 人の健康影響へのリスクとはならない (Shimada et al. Food Addit. Contam., 2013) 一般財団法人生物科学安全研究所 86
ロリトレム B の基準値は濃度ではなく絶対値で設定 ストロー中のロリトレム B 濃度は同じでも 給与量が異なればロリトレム B 摂取量は異なる NOAEL : 12 µg/kg BW per day NOAEL を基準値とし 農家向けには ストロー中濃度と体重から 給与可能量の目安を表で提示 一般財団法人生物科学安全研究所 87
マニュアルの作成と公開 畜産農家の皆さんへ 輸入ストローを上手に使って牛の中毒を防ぐために 輸入ストローとは 独立行政法人農業 食品産業技術総合研究機構動物衛生研究所 ライグラスストロー イタンリアンストローなどと呼ばれて市販されている アメリカから輸入されたストロー ( 麦わら ) です 正確には ペレニアルライグラスというイネ科の植物の種を採った後のわらです 栄養価は低いですが安価なので 稲わらの代わりに使われています 何が問題なのですか輸入ストローの材料になるペレニアルライグラスには エンドファイトという微生物が感染していて 牛に中毒を起こす毒素を作ります 中毒した牛は 首や脇腹の筋肉をけいれんさせたり 足が突っ張ってうまく歩けなくなったりします ひどいときには立てなくなってしまいます ペレニアルライグラスの種子を顕微鏡で見たところです 糸くずのように見えるのが エンドファイトという微生物です http://www.naro.affrc.go.jp/org/niah/disease_poisoning/endo-guide.html 一般財団法人生物科学安全研究所 88
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腎周囲脂肪ロリトレム B 濃度と発症との関係 群脂肪 LB 濃度牛番号発症確認日解剖日 ( ロリトレムB 濃度,ppb) (ng/g) 72 22 29 250 750 79 (35) 92 110 83 (35) 92 90 74-92 100 1000 82-92 110 84 31 92 180 71 5 37 200 2000 75 3 37 220 77 5 37 160 一般財団法人生物科学安全研究所 90
脂肪組織に残留するロリトレム B のヒトへの影響の見積もり 最悪のケース 脂肪組織に 200 ng/g 残留 毎日霜降り牛肉 80 g( 脂肪 40 g) 40 x 200 = 8000 ng LB / day 体重 50kg 8000/50 = 160 ng/kg BW per day 育成牛に対する NOAEL = 12 µg/kg BW per day (Shimada et al. Food Addit. Contam., 2013) 一般財団法人生物科学安全研究所 91
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http://www.naro.affrc.go.jp/org/niah/disease_poisoning/plants/index.html 一般財団法人生物科学安全研究所 93
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