2. 流木災害の事例分析 2.1 本調査で対象とする流木の形態流木の発生原因は 大きく 立木の流出 過去に発生した倒木等の流出 伐木 原木の流出 用材の流出 の 4 種類に分類される ( 石川 1994) 流木の起源 それぞれの発生原因及び主な発生場所を表 2.1.1 に示す このうち 通常の治山事業で対象とする流木は 1 山腹崩壊や土石流による立木の滑落や 渓岸 渓床侵食による立木の流出 2 気象害や病虫害により発生した倒木等の流出 3 過去に流出して渓床に堆積したり埋没していた流木の再移動 4 伐木等の斜面崩壊や土石流による流出の 4 つの形態が主体となると考えられる 雪崩や火山噴火に伴うものは 上流域で発生するが 豪雨等を誘因にする現象と比べて発生頻度が低く 地域が特異であることから 個別に対応の検討が必要と考えられる 本調査は 航空レーザ測量成果等を活用して流木災害対策が必要な森林を抽出する手法を開発することを主たる目的として実施する このことから 本調査で検討する流木は 上記の1に分類される豪雨を誘因とした斜面崩壊 ( 表層崩壊 ) 及び土石流による立木の流出を起源とする流木とする 表 2.1.1 流木の発生原因と形態 流木の起源立木の流出過去に発生した倒木等の流出伐木 原木の流出用材の流出 主な発生場所 流木の発生原因と形態 上流域 中流域 下流域 斜面崩壊の発生に伴う立木の滑落 土石流発生に伴う立木の滑落 土石流の流下に伴う渓岸 渓床侵食による立木の流出 洪水による河岸 河床の侵食による立木の流出 病害虫や台風等により発生した倒木等の土石流 洪水による流出 過去に流出して河床上に堆積したり 河床堆積物中に埋没していた流木の土石流 洪水による再移動 雪崩の発生 流化に伴う倒木の発生とその後の土石流 洪水による下流への流出 火山の噴火に伴う爆風による倒木の発生とその後の土石流 洪水による下流への流出 放置された伐木や間伐材の斜面崩壊 土石流 洪水に よる流出 集積された木材の洪水による流出 洪水による椎茸原木の流出 土石流 洪水による家屋の損壊とそれに伴う破損材の 流出 土石流 洪水による木橋の流出 土石流 洪水による電柱の流出 ( 出典 : 石川芳治 渓流における流木の発生 流下と災害 水利科学第 38 巻 1No.216 1994) 2-1
2.2 既存文献調査に基づく流木災害の特性 2.2.1 調査方法流木災害の被災地に関する現地調査報告や 流木災害の発生事象に関する研究成果を収集し 発生源の自然条件 ( 地質 地況 林況等 ) 崩壊面積等を整理するとともに それらと流木災害の被害状況との関係を分析した 事例数 :1965 年 ~2014 年までの 39 災害事例主な収集文献等 砂防学会誌 治山研究発表会論文集 月刊誌 治山 等 大学 地方自治体 研究機関の災害調査報告 地名 + 流木災害 でインターネット検索 2.2.2 調査結果 (1) 流木の発生原因谷頭部 0 次谷の崩壊に起因する土石流によって発生するものが多い 谷頭 渓岸に崩壊地が無く ある程度の集水エリアを有する谷部の堆積土砂が流動化し 土石流となり発生するもの ( 沢抜け ) 風倒木被害地からの流出が次いで多い 流木の発生原因箇所数割合 谷頭部崩壊 土石流流下 36 67% 沢抜け 土石流流下 7 13% 風倒木地崩壊 流下 5 9% 渓岸崩壊 流下 4 7% 河岸の大規模崩壊 2 4% 計 54 100% 13% 9% 7% 4% 67% 谷頭部崩壊 土石流流下沢抜け 土石流流下風倒木地崩壊 流下渓岸崩壊 流下河岸の大規模崩壊 図 2.2.1 流木の発生原因 (2) 流木の発生流域面積流木が発生した渓流の流域面積は 100ha 以下で 54% 500ha 以下で 86% を占める ここでの流域は おおむね 3 次谷までの渓流域を指す 流木の発生流域面積箇所数割合 0.1km 2 未満 4 9% 0.1~1.0km 2 20 45% 1.0~5.0km 2 15 32% 5.0~10.0km 2 3 9% 10.0~15.0km 2 2 5% 計 44 100% 32% 9% 5% 9% 45% 0.1km2 未満 0.1~1.0km2 1.0~5.0km2 5.0~10.0km2 10.0~15.0km2 図 2.2.2 流木の発生流域面積 2-2
(3) 流木発生源 1 箇所あたりの崩壊面積 1 箇所当りでは小規模な表層崩壊が多く 流域内で小規模崩壊が同時多発し 土石流化するものが多い 0.5ha 未満の崩壊で 78% を占める 1.0ha 以上の崩壊は 大規模崩壊 (H17 耳川 ) や火山地域 (H25 伊豆大島 ) 等の事例である 流木発生源の崩壊面積箇所数割合 0.05ha 未満 9 35% 0.05~0.1ha 2 8% 0.1~0.5ha 9 35% 0.5~1.0ha 2 7% 1.0ha~ 4 15% 計 26 100% 7% 35% 15% 35% 8% 0.05ha 未満 0.05~0.1ha 0.1~0.5ha 0.5~1.0ha 1.0ha~ 図 2.2.3 流木発生源の崩壊面積 (4) 流木発生源の地質深成岩 堆積岩 火山岩の地域で ほぼ同様の割合で発生している 地質による明瞭な違いはみられない 火砕堆積物の地域は 発生割合は小さいが被害の程度は大きい傾向にある (H25 伊豆大島 H2 阿蘇一宮 ) 流木発生箇所の地質箇所数割合 深成岩 ( 花崗岩 ) 16 27% 堆積岩 ( 砂岩 泥岩等 ) 16 27% 火山性岩石 ( 安山岩 流紋岩等 ) 15 25% 変成岩 8 14% 火砕堆積物 4 7% 25% 14% 7% 27% 27% 深成岩 ( 花崗岩 ) 堆積岩 ( 砂岩 泥岩等 ) 火山性岩石 ( 安山岩 流紋岩等 ) 変成岩 計 59 100% 火砕堆積物 図 2.2.4 流木発生源の地質 (5) 流木発生源の植生 スギ ヒノキ人工林 広葉樹二次林で 82% を占める 土石流の流下区間等がスギ ヒノキ人工林として利用されているためと考えられる 2-3
流木発生箇所の樹種箇所数割合 スギ ヒノキ 広葉樹 24 44% スギ ヒノキ 11 21% 広葉樹 9 17% 天然生針葉樹 広葉樹 6 11% アカマツ カラマツ 4 7% 計 54 100% 17% 11% 21% 7% 44% スギ ヒノキ 広葉樹スギ ヒノキ広葉樹天然生針葉樹 広葉樹アカマツ カラマツ 図 2.2.5 流木発生源の植生 (6) 流木災害の発生月流木災害は すべて 6 月から 10 月の梅雨期 台風期に発生している そのうち 7 月から 9 月が 93% を占める 流木災害の発生月 箇所数 割合 6 月 2 5% 7 月 12 29% 8 月 11 27% 9 月 15 37% 10 月 1 2% 計 41 100% 37% 2% 5% 27% 29% 6 月 7 月 8 月 9 月 10 月 (7) 流木災害時の降雨量 図 2.2.6 流木災害の発生月 流木災害は 時間雨量 50 mm 連続雨量 200 mmを超えると多発する傾向がある 流木災害時の時間雨量箇所数割合 20~50mm 9 22% 50~80mm 13 32% 19% 22% 80~100mm 11 27% 100mm~ 8 19% 計 41 100% 27% 32% 20~50mm 50~80mm 80~100mm 100mm~ 図 2.2.7 流木災害時の時間雨量 2-4
流木災害時の連続雨量 箇所数 割合 50~200mm 5 12% 200~500mm 24 60% 500~1000mm 7 18% 1000mm~ 4 10% 計 40 100% 図 2.2.8 流木災害時の連続雨量 (8) 流木災害の被害形態橋梁やボックスカルバート等の閉塞による氾濫 溢流 橋梁の流失および河道の閉塞による氾濫が多く 62% を占める 家屋への直撃あるいは閉塞した流木の再移動による家屋の破壊が次いで多い 流木による被害形態 箇所数 割合 橋梁等の閉塞 氾濫 橋梁流失 32 44% 河道閉塞 氾濫 13 18% 家屋等の直接破壊 16 22% ダム湖流入 洪水吐閉塞 4 6% 農地への直接流入 堆積 3 4% 海域への流出 漁業施設損傷等 4 6% 計 72 100% 図 2.2.9 流木災害の被害形態 (9) 流木の到達距離流木の到達距離が推定できる 39 の災害事例について 渓流の出口 ( 崩壊土砂流出危険地区の流域基点を想定 ) から 下流への流木の到達距離を論文の記載内容に基づき図上計測した 本川に流入しているものは合流点までの到達距離とした 縦断方向の到達距離は 39 の事例のうち特殊な 2 事例 ( 阿蘇一宮 ( 火山扇状地 ) 長野須坂 ( 大規模崩壊 )) を除き渓流の出口から下流 2.0km 以内である ( 図 2.2.10) 山地災害危険地に関する土砂到達距離の調査結果 ( 図 2.2.11) と比べると 流木は通常の土砂流出よりも到達距離が大きくなる傾向がある 土石流が停止しても 流域面積が大きく流量が多い場合は 細粒土砂流と流木が洪水となって流下することで 到達距離が大きくなり 被害拡大を招くことが考えられる 流木の下流域への到達距離は 流域面積が広くなると大きくなる傾向がある ( 図 2.2.12) 2-5
5000 4500 4450 4000 流木到達距離 (m) 3500 3000 2500 2000 1500 1000 500 0 250 90 H26 広島可部 1 H26 広島可部 2 720 H26 南木曽 1340 1140 H25 伊豆大島 H25 伊那 420 300 H24 阿蘇 H23 那智川 1 1880 H23 那智川 2 190 H21 朝来 500 H21 山口剣川 1000 800 H21 山口上田南川 H18 岡谷 1850 H16 愛媛妙之谷川 620 550 H16 愛媛白浜川 H16 香川落合川 1070 H16 福井美山 510 H16 福井池田 180 60 290 170 240 290 H11 岐阜宮川 H11 岐阜河合 1 H11 岐阜河合 2 H11 岐阜河合 3 H11 岐阜河合 4 H11 岐阜河合 5 840 H11 岐阜古川 290280 210 H11 岐阜清見 H11 広島 H2 奄美 H2 熊本一宮 1000 S63 広島加計 1 70 S63 広島加計 2 400400 280 550550 S61 京都南部 S58 島根 S57 長崎 1 S57 長崎 2 S57 長崎 3 2430 S56 長野須坂 400 S51 小豆島 1800 S50 高知 730 S41 南木曽 図 2.2.10 流木の到達距離 参考 図 2.2.11 渓流における土砂到達距離 ( 出典 : 平成 17 年度山地災害危険地区危険度判定手法調査報告書 財団法人林業土木コンサルタンツ ) 2-6
14.0 流域面積 (ha) 12.0 10.0 8.0 6.0 4.0 2.0 y = 0.0025x R² = 0.5273 0.0 0 1000 2000 3000 4000 5000 到達距離 (m) 図 2.2.12 流木の到達距離と流域面積 (10) 流木の氾濫 堆積幅堆積幅が推定できる 37 の災害事例について 流木を含んだ土石流 泥流の氾濫 堆積範囲 ( 両端部の距離 ) を 論文の記載内容から図上計測した 横断方向の氾濫 堆積範囲は 地形条件や人工構造物の配置等により異なるものの 特殊な事例 ( 阿蘇一宮 ( 火山扇状地 )) を除き 500m 以内である ( 図 2.2.13) 横断方向の氾濫 堆積範囲と流域面積との間には 特に傾向はみられない ( 図 2.2.14) 1800 1700 1600 1400 氾濫 堆積幅 (m) 1200 1000 800 600 400 200 0 90 150 H26 広島可部 1 H26 広島可部 2 300 H26 南木曽 400 H25 伊豆大島 70 120 200 H25 伊那 H24 阿蘇 H23 那智川 1 80 80 H23 那智川 2 H21 朝来 450 H21 山口剣川 200 H21 山口上田南川 450 H18 岡谷 230 H16 愛媛妙之谷川 490 H16 愛媛白浜川 180 120110 150 90 70 90 150 200 100 130 80 50 H16 香川落合川 H16 福井美山 H16 福井池田 H11 岐阜宮川 H11 岐阜河合 1 H11 岐阜河合 2 H11 岐阜河合 3 H11 岐阜河合 4 H11 岐阜河合 5 H11 岐阜古川 H11 岐阜清見 H11 広島 H2 奄美 H2 熊本一宮 330 S63 広島加計 1 60 100 130 70 60 S63 広島加計 2 S61 京都南部 S58 島根 S57 長崎 1 S57 長崎 2 S57 長崎 3 450 S56 長野須坂 210 180 S51 小豆島 S50 高知 図 2.2.13 流木の氾濫 堆積幅 2-7
14.0 12.0 10.0 流域面積 (ha) 8.0 6.0 4.0 2.0 0.0 0 500 1000 1500 2000 氾濫 堆積幅 (m) 図 2.2.14 流木の氾濫 堆積幅と流域面積 2-8
2.3 事例分析結果の整理以上の事例分析の結果を下記に整理した 流木は 谷頭部 0 次谷の崩壊に起因する土石流によって発生するものが多いが 近年 の局地的な豪雨により 谷部の堆積土砂が流動化する 沢抜け に起因する土石流 流木の発生もみられる 風倒木被害地では 被害斜面の崩壊が流木源になる 流木災害は ほとんどが流域面積 100~500ha 以下の渓流で発生している 流域面積 が広いほど 流木の到達距離は大きくなる傾向がある 流木の起因となる崩壊地は 1 箇所当り 0.5ha 未満の比較的小規模な崩壊がほとんど で 小規模な崩壊の同時多発が土石流 流木の引き金になっている 流木発生源の地質による違いは見られない 流木発生源の植生は スギ ヒノキ 広葉樹が多い 土石流の流下区間等がスギ ヒ ノキ人工林として利用されているためと考えられる 流木災害はすべて 6 月から 10 月の梅雨期 台風期に発生し 時間雨量 50 mm 連続雨 量 200 mmを超えると多発する傾向がある 流木災害による被害形態は 橋梁やボックスカルバート 下流流路の閉塞による氾濫 橋梁等の流失が過半であるが 流木の直撃による家屋等の破壊も多い 流木は 通常の土砂流出に比べて到達距離が大きくなる傾向がある 土石流が停止しても 細粒土砂流と流木が洪水となって流下することで 到達距離が大きくなり被害拡大を招くと考えられる 到達距離は 特殊な事例を除き 渓流の出口から下流 2.0km 以内である 橋梁の閉塞等による横断方向の氾濫範囲は 地形条件や人工構造物の配置等により異 なるものの 特殊な事例を除き 500m 以内である 2-9