特集 2 米 英 独 仏等の主要国の最近の動向を紹介する諸外国における現状 欧米諸国 岡田至康 代表 税理士法人 PwC 常任顧問村岡欣潤 アメリカ 税理士法人 PwC シニアマネージャー高木陽一 イギリス 税理士法人 PwC マネージャー中田幸康 ドイツフランス等 税理士法人 PwC マネージャー Ⅰ はじめに 各国においては, 法人税の課税ベース及び税率のあり方を検討するに当たり, 当然ながら経済状況や企業活動の変化に対応することが求められ, 従前は主として国内における企業活動に係る税制が考慮されてきたところである 例えば, 個人所得税との関係, 優遇措置の対象業種, 費用控除限度額等が意識されてきたところであるが, 近時においては, 企業の経済活動の国際化が進展するに伴い, 自国企業の国際競争力の維持 強化及び自国課税権の確保といった観点が強く意識されるようになっている その点では, 最も典型的な要因とみられる法人税率についてその引下げを行う一方で, 課税ベースの拡大を図るのが, 各国での一般的な方向であると言えよう OECD 加盟国全体でみても, 多くの国で税率引下げが行われ, この10 年余で平均約 7 % ポイントの法人税率の低下となっている 一方, 課税ベースの拡大は必ずしも画一的ではなく, 各国での法人税の歳入構造に占める位置づけ, その時々の 政策課題等との関係で, その内容及び程度は異なるものとみられる また場合によっては, 課税ベースの縮小となる優遇措置が企業への投資誘因等として採られる場合もないわけではなく, その場合には結果的にそれに係る企業の法人税負担の軽減が図られることとなる さらに, これらの措置が, 国際競争力の観点から, 各国で同様にその導入に向けて検討されることもある この問題を巡る主要国の最近の動向は次のとおりである Ⅱ アメリカ 米国の法人税率は連邦税が35%, 州税を含めると約 40% であり, 先進国の中で一番高い税率となっている 法人税率の引下げは1986 年の The Tax Reform Act of 1986 以来行われておらず, 現在の最高連邦法人税率である35% は過去 25 年間保たれている しかし近年法人税率の引下げを伴うような抜本的な税制改正に取り組むべきという声が高まっており, 大統領から税制委員会まで複数の提案書が提出されている 全ての提案書 ZEIKEN-2013.11(No.172) 33
の中に法人税率をOECD 諸国の平均である25 % 程度の水準まで引き下げる提案が含まれている 米国は多大な財政赤字を抱えているため, 米国議会のPAYGOと呼ばれる原則方針により抜本的な税制改正は財政のバランスが取れていなければならず, 提案書には税率引下げに必要な財源確保の提案や見積が含まれている ただし, 提案書の段階では詳細な分析が行われていないものも多く, 不明瞭な部分も多々ある 財源確保の手段は提案書によって異なるが, 原則的には民主党主導の提案書は富裕層と多国籍企業に対する増税が主な内容となっており, 一方共和党主導の提案書は税率引下げによる経済効果を財源確保の手段としている 抜本的な税制改正の提案は法人税全般を取り扱っているため, 国内経済の復興 回復及び米国多国籍企業の海外競争力維持のための租税特別措置, つまり課税ベースを狭めるものも含まれており, 財源の確保は税率の引下げ及び課税ベースを狭めるような特別措置も含めて検討されている 近年発表された主な抜本的な税制改正の提案としてオバマ大統領の法人税改正フレームワーク The President s Framework for Business Tax Reform と下院税制委員会 (House Ways and Means Committee) の議長であるデイビッド キャンプ議員が発表した国際税制に関する改正案 International Tax Discussion Draft がある 2012 年 2 月に発表されたオバマ大統領の法人税制フレームワークは法人税率を28% まで引下げ, 国内製造業に対しては更に25% まで引き下げるとしている さらに現在暫定措置として導入されている研究開発費控除を恒久化する提案が含まれており, 国内経済の復興も焦点の一つとなっている 財源の確保として海外所得に対するミニマ ム税, 海外に移転された無形資産に帰属する所得を新しいCFC 税制の対象となる所得 ( いわゆるSubpart F 所得 ) として取り扱うなど新規制度の導入に加え, 現行の租税特別措置の縮減を図る提案も含まれている 租税特別措置の縮減の詳細な説明はされておらず, 特別減価償却の削減, 支払利息の損金算入制限, 大規模法人と大規模パススルー事業体の取扱いも公平にする等, 具体的な内容は明確ではない 2014 年度及び過去の予算案を基に推測すると棚卸資産における後入先出法 (LIFO) と低価法 (Lower-of-cost-or-market method) の撤廃, ファンドマネージャーの報酬 ( 俗にいうCarried Interestに係わる報酬 ) に対する増税措置, 石油 ガス会社に対する様々な租税特別措置の排除及び縮減等が具体的な案として考えられる 一方, デイビッド キャンプ議員が2011 年の10 月に発表した改正案 International Tax Discussion Draft は国際税制に焦点を当てた提案書である この提案は国際税制改正の Discussion Draftという位置づけで, 正式な法案ではなく国際税制以外の内容は乏しい 詳細を欠くところもあるが, 法案のドラフトの形で発表されたこのDiscussion Draftは将来提出される国際税制法案のロードマップになると考えられ, 今後の税制改正の動向に大きく影響することが予測されている この提案書でも法人税率を25% まで引き下げるとしており, 租税特別措置の改正による課税ベースの拡大という意味では過大な負債により発生する利子の損金算入を防止するための新たな過少資本制度が提案されている ただし, 税源確保の手段としては, 米国多国籍企業による税源侵食 利益移転による課税ベースの縮小を防止するための提案が主な内容となっている 課税ベースを狭める新規の租税特別措置も 34 ZEIKEN-2013.11(No.172)
あり方特集 含まれており, 日本が2009 年に導入した外国子会社配当益金不算入制度の導入を検討している 米国経済の空洞化の防止策として提案されており, 海外で発生した所得を米国での課税を受けることなく国内で再投資ができるようにする仕組みである これにより, 海外に蓄積された米国多国籍企業の利益を米国に還元させ, 経済活性化のために国内投資をしてもらうという狙いである また, 外国子会社配当益金不算入制度を導入することにより, 必要以上に複雑化した外国税額控除制度を廃止し, 税法を簡素化させようとする目的もある なお, オバマ大統領は, 国外所得免税制度の導入への懸念を示しており, 所得の海外移転がさらに加速するという見解を表している よって, 法人税率の引下げのみならず, 外国子会社配当益金不算入制度の導入も考慮した財源確保がDiscussion Draftでは提案されている 外国子会社配当益金不算入制度が導入された場合, 軽税率国への米国多国籍企業による利益の海外移転がますます増加することが懸念される 特に無形資産の海外移転による米国の課税ベースの縮小が指摘されており, その防止のために 3 つのオプションが Discussion Draftの中で提案されている 最初のオプション (Option A) は, オバマ政権の予算案に含まれていた案を基にしており, 国外のCFCに移転された無形資産に関連してCFCで生じた所得が新たにSubpart F 所得 (Foreign Base Company Excess Intangible Income) として米国で合算課税する 合算対象となる所得は, 1 ) 対象無形資産の有無, 2 ) 超過利益, 及び 3 ) 当該所得が生ずる国の実効税率, の 3 つの要素を基に判定する 二番目のオプション (Option B) は日本のタックスヘイブン税制と近似しており, 事業活動以外から発生する海外所得で ZEIKEN-2013.11(No.172) 10% 以下の実効税率で課税を受ける額を新たにSubpart F 所得として米国で合算課税する という仕組みである 合算課税を回避するに法は,CFCがその設立国内に事業拠点を設け, 設立国内のマーケットに対する事業の所得とする必要がある 実効税率は米国税法に基づき計算された海外所得を基に算定する 三番目のオプション (Option C) は アメとムチ アプローチと呼ばれ, 国外の無形資産より発生する所得を新たにSubpart F 所得として米国で合算課税する一方, 国内の無形資産より発生する所得は15% の優遇税率で課税するという仕組みである 国外の無形資産より発生する所得は新たにForeign Base Company Intangible Incomeと呼ばれ, 資産の売買, 消費, 処分, または役務提供による所得で無形資産に帰属する所得と定義される このオプションは他の 2 つと異なり, 所得の海外移転の防止のみならず, 国内で発生する無形資産関連所得に対して優遇措置を設けることにより, 米国多国籍企業が無形資産を国内に留めるように促す試みでもある これは欧州などにみられる Patent Box のコンセプトを借用したものとみられる このように法人税率引下げと課税ベースの拡大 縮小に関しては米国財政, 米国多国籍のアグレッシブな税務プランニング, 米国経済の復興, 抜本的な税制改正の必要性など様々な要素を背景に検討されており, 単純な法人税率引下げと課税ベースの拡大という形で整理するのは難しい さらに複雑化となる要素として, 米国の法人税率は40% 前後であるものの, 様々な優遇税制の活用により, 多くの米国多国籍企業の実効税率は20% 台に留まっている このため, 税率の低下によるメリットより, ループホール ( 抜け穴 ) の閉鎖や優遇措置の廃止によるデメリットの方が大きい企業も相当数存在すると見受けられる 35 人税の課税ベースと税率の
法定税率の引下げ案には, 主に米国で事業を行う中小企業が賛同しているが, 国外で事業を繰り広げる米国多国籍企業は比較的に消極的であると言える また, 米国両議院税制委員会の計算によると, 1 % の税率を引き下げると, 向こう10 年間でおよそ1,000 億ドルの歳入減が見込まれている つまり, 現在 35% の税率を10% 引き下げるためにはおよそ 1 兆ドルの財源が必要となる これまでに発表された改正案は収支均衡を保つことが前提とされてはいるが, どの提案書も 1 兆ドルの費用の財源について具体的な分析はされておらず, 現実的に法人税率の引下げを行うのは困難な状況にある 提案書は原則法人税に関するものであるが, 2010 年度の米国の連邦歳入の内訳によると, 法人税の占める割合は非常に少なく,2.2 兆ドルの連邦歳入総額のうちの8.9% に過ぎない よって, 法人税の課税ベースを拡大しても歳入の増加はそれほど期待できないとも言われている 法人税率を下げることによる経済効果とその他の歳入への相乗効果はあるかと思われるが, 収支均衡した抜本的な税制改正を行うには法人税以外からの財源も確保しなければ実現不可能と思われる 法人税以外の主な財源としてVATの導入とパススルー事業体への課税があるが, 本格的な議論には至っていない状態である Ⅲ イギリス 英国では課税所得の金額によって適用される法人税率が異なる 課税所得が30 万ポンド以下である小会社に対しては,20% の税率 (small profits corporation tax rate) が適用される 課税所得が30 万ポンド超の会社には, 通常税率 (main corporation tax rate) であ る23% の税率で課税される ただし, 課税所得が150 万ポンド以下の会社に対しては, marginal reliefという税額控除が適用可能である 小会社に対する法人税率は2002 年に19% に引き下げられ, その後 2011 年に20% に引き上げられているものの, 大きな変更はない 他方で, 通常税率は段階的に引き下げられている 上記のとおり, 現在の税率は23% であるものの,2013 年財政法が発効し,2014 年 4 月 1 日以降は21%,2015 年以降は20% とさらなる引下げが行われることとなる この改正により2015 年 4 月 1 日以降は課税所得の多寡による税率の相違はなくなることとなり ( なお,marginal reliefも2015 年 4 月 1 日以降は廃止される ), また, 英国の法人税の税率はG20の中で最も低い税率の一つとなる 英国政府により2012 年 12 月 5 日に発表されたAutumn statementによると, この税率の引下げは, 企業の投資と成長を促すとともに, 英国法人税の制度をより競争力のある, かつ簡易化した制度に変更する目的を支える物として述べられている 加えて, 英国政府は税率を軽減することにより, 英国がビジネスを行う国としてさらに魅力的な国になるものと考えており, さらに, 法人税率の引下げは企業のコストの引下げとなることから, さらなる企業の成長を促すことができると述べている また,2010 年及び2011 年に行われた法人税率の引下げに当たっても同様の趣旨が述べられており, 法人税の引下げは英国法人税制度をG20の中で最も競争力がある制度に変える長期的な目的に基づき行われている法人税制の改正の企画の一つであるとしている 法人税率の引下げによる税収の減少は, 税務上の減価償却費 (capital allowances) の引下げ等の課税ベースの拡大によりある程度 36 ZEIKEN-2013.11(No.172)
あり方特集 はカバーされることになる 2012 年 4 月 1 日以降,capital allowanceの償却率 (main rate) は20% から18% に引き下げられている さらに, 特別償却率 (special rate) は10% から 8 % に引き下げられ,annual investment allowanceは10 万ポンドから 2 万 5,000ポンドに引き下げられた また英国では支払利息に関して以前から移転価格税制, 過少資本税制等の損金算入制限制度があったが2009 年度の財政法により Worldwide debt capと呼ばれる新たなる支払利息損金算入制限制度が導入された この制度は支払利息の損金算入額をグループ全体の外部負債利息の水準までに制限することであり, 一定の大法人の英国支店, 及び, 大法人と75% 以上の資本関係にある英国法人が制度の対象となる 各英国支店及び英国法人における関係会社借入金額の合計金額が, 企業グループ全体の総外部借入金額の75% 相当額以下である場合 ( ゲートウェイテスト ) には, tested amount ( 各英国の純借入金に対する純支払利息額の合計 ) が, available amount ( 全世界規模でみた総外部借入金に対する支払利息額 ) を超える金額が損金不算入される金額となる この制度の導入は, 英国の支払利息に関する制度は従来, 他の多くの先進国と比べると寛容であり, 国外グループ会社に対して支払う利息に関して過大な支払利息が損金算入されないために, 支払利息損金算入の制度を変更する必要性があるものとされている また英国は2009 年 7 月より配当免税制度を導入したが, 英国財務省はWorldwide debt cap は配当免税制度の導入から生じる税収上の負担を補うには必要であると述べている 税務上の減価償却費 (capital allowances) の引下げや,Worldwide debt capが導入された一方で, 英国政府は2012 年度と2013 年度 ZEIKEN-2013.11(No.172) の財政法により無形資産に関する新しい制度を導入している 2012 年度の財政法の設立に より2013 年 4 月 1 日以降からパテントボック法ス税制が段階的に導入されている さらに, 2013 年度の財政法の設立により2013 年 4 月 1 日以降からは研究開発税控除給付 Above The Line( 調整後総所得前の課税控除 ) の新制度を導入した パテントボックス税制は, 特許権や特許に密接に関連するその他の権利より生ずる利益に対して,10% の軽減税率を適用するというものである パテントボックス税制の導入の背景としては, 英国政府は2010 年 11 月 29 日に発表した法人税に関する指針 (Corporate Tax Road Map) の中で, 特許から生じる所得に関する優遇規定としてパテントボックス税制導入の意向を明らかにしていて, パテントボックス税制は, 企業が特許権の開発, 製造及び利用に関連した高付加価値な業務を英国国内に設置するように促し, さらには特許からの所得が多いハイテク企業に適用される英国税制について, 他国との競争力を高めることができると記している また英国政府は, 特許権に重点を置く理由として, 特許権がハイテクの研究開発及び製造活動と特に深く結びついていること, 他の諸国では, 特許所得に関する特則がすでに導入されており, これらが英国税制の競争力の低下の一因となって, 企業の海外移転が促進される懸念があることを述べている 予算責任局 (the Office for Budget Responsibility) は,2012 年予算報告書 (Budget report) の第 2 章の中で, 予算編成方針を取り込んだ国家財政と経済に関する独自の見通しを発表している 本章の 2.2 表では,2012 年 4 月あるいはそれ以降に発効となる歳出計画を含む2011 年経済白書の発行日以前に発表された財政的影響を与えるあらゆる政策から生じる収益及び費用が示さ 37 人税の課税ベースと税率の
れているが, 本表によると, パテントボックス税制の導入による影響額は,2013 年 -2014 年は 3 億 5,000 万ポンド,2014 年 -2015 年は 7 億 2,000 万ポンド,2015 年 -2016 年は 8 億 2,000 万ポンド,2016 年 -2017 年は 9 億 1,000 万ポンドと試算されている 2013 年度の財政法が成立されたことにより, 研究開発税控除給付 Above The Line ( 調整後総所得前の課税控除 ) 制度は導入された 概要としては大会社に関する現行制度下では実質控除率 6 %( 法人税率 20% での 30% の追加費用控除 ) となるのに対して, 新制度下では実質控除率 8 %(10% の控除率とそれに対する20% の法人税との正味控除率 ) となる 新制度の導入の背景としてはさらに効果的な研究開発税控除給付の導入により, 大企業による研究開発活動の投資拠点としての英国の競争力を向上させることである 予算責任局 (Office for Budget Responsibility) により承認されている2012 年予算報告書 (Budget 2012) の2.1 表の数値によると, ATL 制度導入による財政への影響額は, 2013-14 財政年度は500 万ポンド,2014-15 財政年度は, 2 億 500 万ポンドとなる見通しである Ⅳ ドイツ, フランス等 ドイツにおいて, 法人の所得に対しては, 法人税, 連帯付加税及び営業税が課税される 法人税率は15%, 連帯付加税は法人税額の 5.5% で課税されている 営業税は基本税率が 3.5% であり, 各市で定める乗率 (Hebesatz) を乗じた税率となる 乗率は一般的には400 %-490% であるため, ドイツの実効税率は約 30% 程度になっている ドイツにおいては2008 年 1 月 1 日より法人 税率及び市民税である営業税の基本税率の大幅な引下げが行われ, 現在の税率となっている この引下げによって, 法人税率が25% から15%( ただし, 別途連帯付加税は法人税額の5.5% が課税 ), 営業税の基本税率が 5 % から3.5% に引き下げられた この結果, ドイツの実効税率は約 40% から約 30% に引き下げられることとなった この税率の引下げは, ドイツをビジネスを行うためにより魅力的な国とし, また, ドイツから他の国に対する所得の移転を回避する目的で行われたものである 税率については, 当時他のEU 諸国の実効税率が30% 前後であったため, これらの水準に合わせることを目的として行われていたものである 実効税率の引下げに伴って, 課税ベースの拡大も行われており, 以下のような改正が行われている 営業税の損金算入 2008 年 1 月 1 日の改正以前は, ドイツの営業税は法人税及び営業税の双方において損金算入が認められていたが, 税率の引下げに伴って損金算入が認められなくなった 支払利息の損金算入制限 支払利息の損金算入制限制度は, 従来の過少資本税制を廃止して導入された制度である そもそもドイツの過少資本制度は国外の関係会社からの借入金のみを対象としていたため,EU 加盟国の関係会社からの借入金は過少資本税制の対象となるものの, ドイツ国内の関係会社からの借入金は過少資本税制の対象とならないことから,2002 年に欧州司法裁判所によりEU 法抵触の判決が下されていた この判決を受けて2004 年に法人税法が改正され, 国内の関係会社からの借入金も過少資本税制の対象としたことにより,EU 法違反の状態は解消された 他方で, 多国籍企業においては税率の比較 38 ZEIKEN-2013.11(No.172)
あり方特集 的高いドイツで借り入れを行って支払利息を損金算入を行う一方で, 当該資金を利用して国外企業に対して出資を行うことにより, ドイツでの法人税を 不当に 減少させる行為が行われた このような行為を防止するために, 支払利息の損金算入をドイツにおける利息減価償却控除前課税所得 (EBITDA) の30% に制限し, 残額については翌期以降に繰り越すという制度が創設された ただし, 通常の 事業を行っている企業の事業活動を阻害することのないよう, 支払利息金額が100 万ユーロ (2010 年に300 万ユーロに改正 ) 以内であれば, 全額損金算入が可能という制度等の例外規定が設けられている 機能移転課税 2008 年に機能移転課税が導入され, 企業が有する機能を関連会社等に移転した場合には, 当該機能の移転に対して課税が行われることとなった これは例えば, ドイツで研究開発を行っていたものの, 当該研究開発が完成する前にスタッフをアイルランドの関連会社に移転させ, その直後にアイルランドの関連会社が特許を申請し, 高価額の製品の販売を開始するような事例が発生していた 機能移転課税の導入により, このような状況を防止することができるようになった 繰越欠損金の損金算入制限 ドイツの税法上, 繰越欠損金は原則として無期限に繰り越しが可能であるものの, 株主の変更時には, 変更した持分割合に応じて欠損金が消滅することとなる制度が導入された ( 持分割合が25-50% であれば, 欠損金額に変更割合を乗じた金額 50% 超の変更があった場合には欠損金額の全額が消滅する ) これは, 繰越欠損金を保有するドイツ企業を買収し, 繰越欠損金を利用することでドイツの法人税額を不当に減少させようとするような行 ZEIKEN-2013.11(No.172) 為を防止することを目的として導入されている ドイツにおいては上記のような課税ベース法の拡大は行われているものの, 課税所得を制限するような趣旨の租税特別措置はほとんど設けられていない 主要なものは一定の中小企業に対する加速度償却や旧東ドイツでビジネスを行う場合に, 一定の条件を満たした企業に対して固定資産の取得に補助金が与えられる制度 (2014 年以降廃止予定 ) が存在する 他方で, フランスにおける法人税率は33 1/3% である さらに, 法人税額 76 万 3,000ユーロを超える企業には, 法人税の支払い額と76 万 3,000ユーロの差額に対し,3.3% の社会保障負担金 (Contribution sociale sur les benefices, CSB) が課せられるまた,2011 年 12 月 31 日から2015 年 12 月 30 日まで年間売上高 2 億 5,000 万ユーロ以上の企業に対し, 法人税の総額 ( 控除前 ) の 5 % が加算される フランスの法人税率は1993 年から変更が行われていない フランスにおいてはEU 諸国の実効税率を考慮して税率引下げの議論が行われたことはあるものの, 変更には至っていないのが現状である なお,EUにおいては, 上記のような各国における所得ベースの範囲に関する議論のほか,EUにおける居住法人及び支店の所得を計算し, 計算された事業体ごとに所得を合算, さらに合算された所得を加盟国に配分する方法 (CCCTB:Common Consolidated Corporate Tax Base) が議論されており, 2011 年 3 月 16 日に欧州委員会より,EU 指令案が公表されている CCCTBが導入されれば, 各国における課税所得ベースが原則として統一化されることとなる 欧州委員会では, 加盟国ごとに異なる税制が, 過剰な課税, 二重課税, コンプライアンス コスト増加の原因で,EUの単一市場に 39 人税の課税ベースと税率の
おける投資の障害になっており,CCCTBは, 単一市場における障害を取り除き, 成長と雇用の増加を促進する政策であると考えているため, この制度の導入が検討されている ただし, 実際にCCCTBが導入される可能性があるかどうかについて現状では不明確な状況である Ⅴ まとめ 主要国の動向をみると, やはり法人税率引下げの実施 ( 英 独 ) ないし検討 ( 米国 ) が幅広くなされているのが一般的傾向のようであり, これは主に自国企業の国際競争力確保を図る観点からであるが, その取り巻く環境を理解するためには, 同時に, 多国籍企業に係る実際の税負担 ( 特に米国における実効税率 ), 各国での歳入構造に占める他税目 ( 特に個人所得税及び付加価値税 ) との関係等をも踏まえたところでの検討が必要である また, 課税ベースについては, 各国で法人税率の変更と併せて議論されているようであるが, その内容については, 一般的な減価償却費や繰越欠損金等の取扱いに係る制度変更に加えて, 支払利息の損金算入制限等の租税回避対応関連の諸措置による課税ベース拡大の傾向がみられるものの, 同時に, いわゆる国外所得免除制度 海外受取配当益金不算入制 度等の経済的側面等をも踏まえた検討 ( 米国 ) のほか, 個別的に, 政策的観点 ( 例えば R&D 促進 ) から各種優遇措置の採用もなされる等, 必要に応じて結果的に課税ベースの縮小となる制度の検討 採用もなされている 特に英国では, 業種間の公平及びビジネス自体での判断優先の観点から, 段階的な法人税率引下げを行うとともに, 課税ベースを広げているが, 一方で高付加価値業務に対する誘因措置 ( パテントボックス ) を導入していることは注目される ただ, 経済の国際化 高度化の中で, 各国とも企業行動を踏まえた制度対応が求められ, 独自の国際競争力確保策による国家の税収や経済への中長期的影響は必ずしも明らかではない このような中で, ごく最近は, 欧州における課税ベース共通化の動き (CCCTB) のほか, むしろ各国間の競争条件の均一化を求める動きが出ている 法人税率の決定は各国主権の権限の範囲内であるとしても,OECDで検討が進められているBEPS( 税源浸食 所得移転 ) プロジェクトのように, 多国籍企業による二重非課税の恩典享受や低税率国への所得移転を制限するとともに, 各国における制度の整合性を図ることによる各国企業の同等競争条件確保への動きがみられる 国際的な法人税制度の調和を図る動きが今後どのように具体化していくのか, その動向が大いに注目される 40 ZEIKEN-2013.11(No.172)