4 東日本大震災の発生 (1) 東日本大震災の被害状況 これまでの想定をはるかに超えるマグニチュード 9.0 の地震が発生した 人的被害は 12 都道県で約 15.8 千人 行方不明者は 3.3 千人にのぼる 浸水区域において被害を受けた建物は約 22 万棟であり うち全壊 ( 流失含む ) は約 12 万棟 ( 約 55%) であった 1 地震動と津波平成 23 年 3 月 11 日の 14 時 46 分 三陸沖を震源とする東北地方太平洋沖地震 ( 以下 東日本大震災 という ) が発生した 地震の規模はこれまでの想定をはるかに超えるマグニチュード 9.0 であり 1900 年以降に発生した地震の中で世界 4 番目の大規模な地震となった 各地の震度は 宮城県栗原市における最大震度 7をはじめ 宮城県 福島県 茨城県 栃木県で震度 6 強と広い範囲で強い揺れが観測され 静岡県東部でも震度 5 弱が観測された また その後約 1ヶ月の間にマグニチュード 6.0 を超える地震が5 回発生しており 3 月 15 日に静岡県東部を震源としてマグニチュード 6.4 最大震度 6 強の地震も発生している 東日本大震災では 最大波高 16.7m( 岩手県大船渡市 痕跡などからの推定 ) 最大遡上高約 40mにのぼる巨大な津波が発生し 太平洋岸の6 県 62 市町村の沿岸部及びその後背地の約 535k m2の広範囲に亘って浸水した 特に 仙台市以南の平野部では 津波が防潮堤 防潮林や河川堤防を越流し 海岸線から内陸 5km 付近まで津波が押し寄せたことにより 大きな被害を受けた市街地が見られた 2 人的被害東日本大震災による死者は 12 都道県で約 15.8 千人にのぼり 戦後最大の人命が失われるという甚大な被害をもたらした なお 震災発生から1 年を経過した平成 24 年 3 月現在でも 3.3 千人以上が行方不明のままとなっている 年代別の死者割合をみると 65 歳以上の高齢者が約 60% を占めている 3 建物被害津波が相当の高さと速度を持って到達した範囲では 木造建築物のほとんどが 基礎部分を残しただけで上屋は破壊 流失した 一方 RC 建築物は 大部分が形を残していたが 津波被害の激しい地域では RC 建築物も倒壊が見られた 浸水区域において被害を受けた建物は約 22 万棟であり うち全壊 ( 流失含む ) は約 12 万棟 ( 約 55%) 半壊( 大規模半壊含む ) は約 7.6 万棟 ( 約 34%) 一部損壊は 2.3 万棟 ( 約 11%) であった 特に 宮城県南三陸町では 建物の6 割以上が全壊するという被害が生じた 建物被害と浸水深の関係では 浸水深 2.0~2.5mでは 70% 以上が全壊しているのに対して 浸水深 1.5~2.0mでは 40% 未満となっており 浸水深 2m 前後で被災状況に大きな差がみられたことが報告されている RC 建築物及び鉄骨造の建築物では 再使用困難なほどの損壊が生じる割合は低く また どの構造でも 1 階建及び2 階建と比べ3 階建以上の 全壊 ( 流失 ) 全壊 の割合が低いという結果も見られた 1-70
項目人的被害建物 地盤への要因別被害危険物 工場被害インフラ被害 表 1-1-19 東日本大震災の被害等の状況 被害概要 犠牲者は 死者約 15.8 千人 行方不明者 3.3 千人にのぼる 死者のうち 65 歳以上の高齢者が約 60% を占めた ( 平成 24 年 3 月現在 ) 避難所生活者( 避難所の他 親族 知人宅や公営住宅 仮設住宅等への入居者も含む ) は 343.9 千人にのぼる ( 平成 24 年 3 月現在 ) 地震動による被害 宅地の変形 宅地擁壁の損傷 地割れ 側溝が押しつぶされる等の被害があった 長周期振動による被害 長周期振動によって 東京 大阪など沿岸部からかなり離れた場所の高層建築物が大きく揺れ 建物内の家具等の倒壊 エレベータでの閉じ込め事故等の被害があった 津波による被害 太平洋沿岸の青森県から千葉県にかけての 6 県 62 市町村で津波による建物倒壊 浸水被害が生じた 家屋被害は 全壊( 流出を含む )12 万棟 半壊 ( 大規模半壊含む )7.6 万棟 一部損壊 2.3 万棟であった 浸水深と建物被害の関係では 浸水深 2m 以上で全壊の建物の割合が多い 火災による被害 火災は全体で 284 件発生しており 県別には宮城県で 135 件 岩手県で 34 件 茨城県で 31 件発生した 建物火災以外に 瓦礫置き場において自然発火と考えられる火災が発生した 液状化による被害 浦安市や横浜市をはじめ 広範囲で液状化による被害が発生した 盛土造成地の崩壊 地すべりによる被害 本震での強く長い揺れや頻発する余震により 宮城県の仙台市 白石市等の盛土造成地において地すべりによる被害が相次いだ この中には 昭和 53 年の宮城県沖地震においても地すべりが発生した地区もみられる 特に 宮城県仙台市の緑が丘地区では 対策工事が実施されているにも関わらず 東日本大震災により再び地すべりが発生した 地震動による被害 新潟 川崎などでは石油タンクのスロッシング被害( 容器内の液体が外部からの比較的長周期な振動によって揺動し この揺動により液体が容器から溢れ出る被害 ) が生じた 火災による被害 市原市 川崎市において 石油コンビナート工場の火災が生じた 防潮堤 比較的発生頻度の高い津波などを想定して整備されてきた海岸保全施設等に対し 設計対象の津波高をはるかに超える津波の襲来により 海岸保全施設等の多くが被災し 背後地において甚大な津波被害が生じた 盛土等の土木構造物は 津波の遡上時の押し波が盛土部を越水すると 裏のり面の浸食や天端の崩壊が生じ 引き波によって崩壊 流亡が生じた ライフライン 上水道は 226 万戸が復旧している 一方で 岩手県 宮城県 福島県で約 4.5 万戸が依然として断水している ( 平成 24 年 2 月 24 日 14 時現在 ) 下水道は 津波による下水処理施設やポンプ施設の被害が大きかった 電力供給システムの被害は 地震動や津波により多くの発電所が被害を受けて停止し 変電 送電 配電の各設備も少なからず被害を受け 東北電力管内の約 486 万戸 東京電力管内の約 405 万戸で停電が発生した 特に 原子力発電所の被害は エネルギー供給面のみならず 今なお深刻な影響を及ぼしている ガスは 仙台市東部沿岸地区等被害が甚大で作業のできない地区と避難勧告区域など安全性が確保できない地区を除いた約 31 万戸に対して 平成 23 年 4 月 16 日までに供給を再開した 東北電力管内の停電( 約 486 万戸 ) は平成 23 年 6 月 18 日までに復旧作業に着手可能な地域の停電はすべて復旧した 交通網 高速道路では 路面の崩落やひび割れ ジョイント部の段差発生などの被害が生じた 一方で 高速道路の盛土部分の避難地としての利用や内陸市街地への瓦礫の流入抑制の機能もみられた 一般道では 路面の損傷 橋梁高欄倒壊等の損傷 橋梁の落橋 床版の流出 盛土崩壊等の被害が生じた 橋梁は 鋼桁やトラスなどの軽い桁は上流に流される被害が生じており 新北上大橋( 宮城県石巻市 ) のトラス橋は 上流 600m 付近に漂着した 1-71
表 1-1-19 東日本大震災の被害等の状況 ( 続き ) 第 1 編静岡県の都市づくりの基本的な考え方 項目インフラ被害 ( 続き ) 災害廃棄物 瓦礫の発生と処理避難行動応急仮設住宅の建設経過被害額 被害概要 鉄道各線において 駅舎の崩壊 盛土崩壊 橋桁流出 落橋防止装置の破壊 架線切断 路盤崩壊 車両の横転 大破等の被害が生じた 港湾は 373 バースが被災した また 地盤沈下により護岸天端と水面がほぼ同レベルとなり 水没や浸水している箇所がみられた さらに 係留されていた船舶は 内陸部の市街地まで押し流され 建物の上や道路上に打ち上げられていた 空港は 13 空港が被災した 避難地 避難路 避難地等に指定されていた場所への浸水による機能障害が生じた 宮城県仙台市の海岸公園の築山 宮城県石巻市の日和山公園及び参道などでは 津波からの避難地 避難路として機能した 仙台東部道路 ( 仙台若林 JCT と名取 IC 間における周辺 ) では 住民が法面を駆け上がり 避難した約 230 人の住民が命をとりとめた 大量の瓦礫が発生し 応急対策活動等に著しい支障を与えた 収集した災害廃棄物の集積地として 公園等の大規模な敷地が利用された 収集した災害廃棄物の集積地では 自然発火によると考えられる火災が生じた 津波が来る前に避難行動を開始した人は全体の 63% であった 避難時の交通手段は徒歩と車でほぼ半々であり 年齢が若くなるにつれて車での避難の割合が高い 避難距離は 徒歩で平均 438m 車で平均 2,431mであった 国土交通省住宅局発表による平成 24 年 3 月 5 日現在の 東日本大震災における応急仮設住宅の着工数は 53,077 戸であり 完了済み戸数は 52,620 戸 ( 完了率 99.1%) である 東日本大震災による被害額は 総計約 16.6 兆円であり 建築物等が約 10.4 兆円 社会基盤施設が約 2.2 兆円であった 1-72
(2) 国の復旧復興の方向 減災 の考え方を重視し 構造物に頼る防御から 逃げる ことを基本とする対策を重視すべきという考え方を示している 津波対策を構築するに当たっては 発生頻度と発生被害に応じた2つのレベル(L1 レベル L2 レベル ) の津波を想定するとの考え方を示している 東日本大震災からの復興に当たっては コンパクトなまちづくり 多重化による代替性( リダンダンシー ) の確保という視点に留意し 整備 再構築を図ることとしている 1 復興への提言 ~ 悲惨の中からの希望 ~ 平成 23 年 6 月 25 日に東日本大震災復興構想会議から内閣総理大臣に答申された本提言では 東日本大震災の 復興構想 7 原則 が次のように示されている 復興構想 7 原則原則 1: 失われたおびただしい いのち への追悼と鎮魂こそ 私たち生き残った者にとって復興の起点である この観点から 鎮魂の森やモニュメントを含め 大震災の記録を永遠に残し 広く学術関係者により科学的に分析し その教訓を次世代に伝承し 国内外に発信する 原則 2: 被災地の広域性 多様性を踏まえつつ 地域 コミュニティ主体の復興を基本とする 国は 復興の全体方針と制度設計によってそれを支える 原則 3: 被災した東北の再生のため 潜在力を活かし 技術革新を伴う復旧 復興を目指す この地に 来たるべき時代をリードする経済社会の可能性を追求する 原則 4: 地域社会の強い絆を守りつつ 災害に強い安全 安心のまち 自然エネルギー活用型地域の建設を進める 原則 5: 被災地域の復興なくして日本経済の再生はない 日本経済の再生なくして被災地域の真の復興はない この認識に立ち 大震災からの復興と日本再生の同時進行を目指す 原則 6: 原発事故の早期収束を求めつつ 原発被災地への支援と復興にはより一層のきめ細やかな配慮をつくす 原則 7: 今を生きる私たち全てがこの大災害を自らのことと受け止め 国民全体の連帯と分かち合いによって復興を推進するものとする 大自然災害に備えたこれからの地域づくりに関しては 減災 の考え方が重要であるとし 被災しても人命が失われないことを最重視するとともに 構造物に頼る防御から 逃げる ことを基本とする対策を重視すべきという考え方を示している さらに 土地利用規制と各種事業とを組み合わせた 多重防御 の必要性について言及し その実現に向けて新たな仕組みを考えるべきとの考え方を示している また 東日本大震災からの復興に当たっては 高齢者や弱者にも配慮したコンパクトなまちづくり 暮らしやすさや景観 環境 公共交通 省エネルギー 防犯の各方面に配慮したまちづくりを行うとともに 広域的インフラについては 多重化による代替性 ( リダンダンシー ) の確保という視点にも留意しつつ整備 再構築を図ることとしている 1-73
2 東日本大震災からの復興の基本方針 平成 23 年 7 月 29 日に政府の東日本大震災復興対策本部が決定した本方針は 国による復興のための取組の全体像を提示したものであり 復興への提言 において示された 復興構想 7 原則 にのっとり復興を推進していくこと 減災 の考え方に基づき災害に強い地域づくりを推進していくことが明らかにされた そして 各府省が一体となって総合的かつ計画的に実施する復興施策として 以下の施策を掲げている 復興に向けて示された主な施策 災害に強い地域づくり 高齢化や人口減少等に対応した新しい地域づくり ( 変化する宅地需要に段階的に対応 ) 高齢者等に配慮したコンパクトで公共交通を活用したまちづくり 暮らしやすさや防犯 景観 再生可能エネルギー 省エネルギー 環境 リサイクル 安心 安全等に配慮したまちづくり 逃げる ことを前提に 多重防御 による 津波防災まちづくり を推進 地域における暮らしの再生 地域包括ケア体制の整備と地域拠点の安全な場所への集約化 避難場所 災害時拠点となる学校等の防災機能強化 地域経済活動の再生 三陸復興国立公園 ( 仮称 ) の整備検討 エコツーリズムの推進 コミュニティ再生を支える地域に密着した生業の復元 支援 道路 港湾 臨海鉄道等の物流インフラの復旧 再生可能エネルギーの利用促進 環境先進地域の実現 3 東北地方太平洋沖地震を教訓とした地震 津波対策に関する専門調査会報告 中央防災会議に設置された専門調査会が計 12 回の審議を経て 平成 23 年 9 月 28 日に公表した本報告では 津波対策を構築するに当たって 発生頻度と発生被害に応じた2つのレベルの津波を想定するとの考え方 すなわち 発生頻度は極めて低いものの甚大な被害をもたらす最大クラスの津波 (L2 レベル ) に対しては 生命を守ることを最優先し 住民の避難を軸に総合的な津波対策を確立することを基本とする 発生頻度は高く津波高は低いものの大きな被害をもたらす津波 (L1 レベル ) に対しては 人命保護 財産保護 経済活動の安定化 効率的な生産拠点の確保の観点から 海岸保全施設等を整備することを基本とする との考え方が示された 復興に向けて示された主な施策 円滑な避難行動のための体制整備とルールづくり 避難場所 津波避難ビル等の適切な選定及び整備 避難車両の増加 信号滅灯などによる交通渋滞を考慮した避難路の整備 地震 津波に強いまちづくり 粘り強い海岸保全施設や多重防御としての交通インフラの活用等 浸水リスクの低い場所での行政関連施設 避難場所 医療 福祉施設の建設 津波災害が懸念される地域における土地利用制限 建築物構造規制の検討 津波に対する防災意識の向上 ハザードマップの充実 徒歩避難原則の徹底等と避難意識の啓発 防災教育の実施と地域防災力の向上 1-74
(3) 津波防災地域づくり法津波による災害を防止し 又は軽減する効果が高く 将来にわたって安心して暮らすことのできる安全な地域の整備 利用及び保全を総合的に推進することにより 津波による災害から国民の生命 身体及び財産の保護を図るため 平成 23 年 12 月 14 日に津波防災地域づくりに関する法律 ( 津波防災地域づくり法 ) が制定された この法律では 国土交通大臣による基本指針の策定 市町村による推進計画の作成 推進計画区域における特別の措置及び一団地の津波防災拠点市街地形成施設に関する都市計画に関する事項について定めるとともに 津波防護施設の管理 津波災害警戒区域における警戒避難体制の整備並びに津波災害特別警戒区域における一定の開発行為及び建築物の建築等の制限に関する措置等について定めている 出典 : 津波防災地域づくりに関する法律について ( 国土交通省 ) 図 1-1-75 津波防災地域づくり法の概要 1-75
出典 : 津波防災地域づくりに関する法律について ( 国土交通省 ) 図 1-1-76 基本指針の概要 出典 : 津波防災地域づくりに関する法律について ( 国土交通省 ) 図 1-1-77 推進計画の概要 1-76
出典 : 津波防災地域づくりに関する法律について地方公共団体等説明用資料 ( 平成 24 年 3 月 国土交通省 ) 図 1-1-78 津波防災地域づくりのイメージ 出典 : 津波防災地域づくりに関する法律について地方公共団体等説明用資料 ( 平成 24 年 3 月 国土交通省 ) 図 1-1-79 津波災害警戒区域の概要 1-77
出典 : 津波防災地域づくりに関する法律について地方公共団体等説明用資料 ( 平成 24 年 3 月 国土交通省 ) 図 1-1-80 津波災害警戒区域の概要 ( つづき ) 出典 : 津波防災地域づくりに関する法律について地方公共団体等説明用資料 ( 平成 24 年 3 月 国土交通省 ) 図 1-1-81 津波災害特別警戒区域の概要 1-78
(4) 県の東海地震対策 国の制度に基づく事業 県単独事業など 継続的に東海地震対策を実施している 大規模地震対策特別措置法 には 東海地震による災害から住民の生命 財産を守るため 緊急に整備すべき施設として 避難地 避難路 消防用施設 緊急輸送路及び関連施設 通信施設などが挙げられている 県では 地震防災対策強化地域における地震対策緊急整備事業に係る国の財政上の特別措置に関する法律 ( 地震財特法 ) に基づく地震対策緊急整備事業について 昭和 55 年度から平成 26 年度までの 35 箇年計画を作成しており 各種施設の整備を推進しているところである また 地震防災対策特別措置法 に基づく地震防災緊急事業五箇年計画 ( 第 3 次五箇年計画 : 平成 18 年度 ~ 平成 22 年度 ) により 避難地 緊急輸送路などの整備を進めてきた このほか 県単独事業による地震対策事業 法人事業税の超過課税を財源とする地震対策事業も実施しており 昭和 54 年から平成 22 年度にかけ 合計 2 兆円を越す地震対策事業を実施してきた 出典 : 静岡県の東海地震対策 ( 平成 24 年 4 月 静岡県 ) 図 1-1-82 県が取り組んだ地震対策事業実績 1-79
出典 : 静岡県の東海地震対策 ( 平成 24 年 4 月 静岡県 ) 図 1-1-83 これまでの地震対策事業と被害軽減効果 1-80