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はじめに セリ科のマンシュウミシマサイコ (Bupleurum Chinese DC) またはミシマサイコ (Bupleurum scorzonerifolium) の根を乾燥させた柴胡は もっとも広く使われている生薬 ( 漢方薬原料 ) の 1 つです 中華人民共和国薬典の説明によると 1 セリ科のマンシュウミシマサイコ (B. Chinese DC) とミシマサイコ (B. scorzonerifolium) は それぞれ Beichaihu ( 北柴胡 ) ( 中国北部産柴胡 ) および Nanchaihu ( 南柴胡 ) ( 中国南部産柴胡 ) と呼ばれています 北柴胡と南柴胡のほかにも 中国には柴胡として使われている複数の種があります 柴胡 (Radix bupleuri) は 中国の特許医薬品において 多くの多成分薬剤に使用されており インフルエンザや発熱などの治療に効果があります 柴胡には複数の成分が含まれていますが 治療効果という点では サイコサポニンがもっとも重要であると考えられています これまで 各種の柴胡に含まれるサイコサポニンの測定では 21 nm 以下という低波長で検出する HPLC 分析が用いられてきました こうした低波長の UV 検出では メタノールなどの有機溶媒のグラジエントを用いる場合にフラットなベースラインを維持することは困難です ベースラインでドリフトが生じると ピークを積分できないことがあるため 定量分析に影響を及ぼすおそれがあります 柴胡に含まれるサイコサポニンの一種であるオレアナン型サポニンは 低波長でのみ UV を吸収します 他のサイコサポニンはジエン構造を持つため より簡単に UV で検出することが可能です オレアナン型サイコサポニンは 柴胡のスライスや HPLC サンプル前処理の際に高温や低 ph にさらされると不安定になり ジエン型サポニンに変化します 柴胡の研究には LC/MS 機器が用いられる場合もあります LC/MS は検出下限や感度という点では優れていますが コストが高く 操作者に MS の知識が求められます 最近では 柴胡の分析に蒸発光散乱検出器 () が用いられる傾向があり 中国の科学誌にいくつかの論文が発表されています 2,3 では 溶媒よりも揮発性が低い化合物をすべて検出できます ベースラインは 溶媒の UV 吸光度やグラジエント条件にかかわらず 安定に保たれます また ではサイコサポニンの二重結合の数にかかわらず成分を検出することが可能です 低波長で UV を吸収する一部の揮発性成分は を用いた分析ではレスポンスを示さないため 定量分析においてサイコサポニンのピークに干渉することがありません 柴胡のフィンガープリントクロマトグラムは 産地を特定するうえで重要となります 柴胡に含まれるサイコサポニン以外の成分も それぞれ異なる治療効果を有しています 柴胡に関する包括的なデータを得るためには UV 検出と の両方を用いて サイコサポニンおよびその他の成分のピークを検出する必要があります 参考文献 2,3 によれば 従来の HPLC メソッドで複数のサイコサポニンを分離する場合の分析時間は 約 5 分です 最近では この分析時間を短縮するために RRLC が大きな注目を集めるようになっています RRLC 分析では 分離効率は従来の HPLC 分析と同程度に保たれる一方で 分析時間が短くなり コストも低くなります 本研究では 各種の LC システム構成の参考とするために RRLC 分析条件と従来の HPLC 分析条件の 2 つのメソッドを使用しました マンシュウミシマサイコ ミシマサイコ等の複数の柴胡サンプルを分析したところ 各サンプルにピークプロファイルの違いがあることがわかりました また定量分析により 各サンプルのサイコサポニンの含有量を測定しました 実験手法 標準溶液とサンプルラボにおいて サイコサポニン標準物質として柴胡 (Bupleuri Chinese) の根から 6''-アセチル-SSa (3) 3''-アセチル-SSd (5) 6''-アセチル-SSd (6) を分離し SSa (2) と SSd (4) については中国薬品生物製品検定所 ( 中国 北京 ) から購入しました また SSc (1) は 漢方薬固形製剤工学センター (National Pharmaceutical Engineering Center for Solid Preparation in Chinese Herbal Medicine) ( 中国 江西 ) から購入しました それぞれのスペクトルデータ (UV MS 1H NMR 13C NMR) と文献の値を比較し 物質の構造を確認しました 未加工薬 ( 乾燥根 ) は研究グループのメンバーが採取しました 使用機器従来の LC メソッドと RRLC メソッドのいずれについても Agilent 12 シリーズ Rapid Resolution LC システムを使用しました システム構成は以下の通りです Agilent 12 シリーズオンラインデガッサ Agilent 12 シリーズバイナリポンプ SL Agilent 12 シリーズ高性能オートサンプラ SL Agilent 12 シリーズカラムコンパートメント SL マイクロフローセル ( 容量 2 µl 光路長 3 mm) を搭載した Agilent 12 シリーズダイオードアレイ検出器 SL 標準ネブライザを搭載した Agilent 12 シリーズ蒸発光散乱検出器 Agilent ChemStation ソフトウェアリビジョン B.3.2 ( システムコントロール データ採取 データ評価に使用 ) 2

サンプル前処理細かく粉砕した乾燥根物質 (.5 g) を メタノール 8 ml 中 (2 % のピリジンを含む ) で 3 分間超音波処理し 3, rpm で 1 分間遠心分離しました この手順を 3 回繰り返し 各回の上澄み液をひとつに集めて ロータリーエバポレーターで濃縮しました これにメタノールを加え再び超音波処理して希釈し 体積を正確に 1 ml としました この溶液を.22 µm ナイロンメンブレンでろ過したのち 直接注入しました 表 1 に各サンプルの番号と対応する名称を示しています 名称 サンプル番号 Bupleunum chinese 3 Bupleunum scorzonerifolium 12 Bupleunum smithii var.parvifolium 21 Bupleunum bicaule 25 Bupleunum rockii 27 表 1 サンプルの名称と番号 従来の HPLC 分析条件溶媒 A: 水溶媒 B: アセトニトリル流量 : 1 ml/min グラジエント : 分 3 %B; 5 分 4 %B; 25 分 5 %B; 6 分 1 %B 注入量 : 15 µl カラム : ZORBAX SB C18 4.6 x 25 mm 粒子径 5 µm 温度 : 室温 UV 検出器 : 21 nm 248 nm 標準フローセル : 蒸発温度 :4 C 圧力 :55 psi ゲイン :7 フィルター :3s RRLC 分析条件溶媒 A: 水溶媒 B: アセトニトリル流量 :.8 ml/min グラジエント : 3 %B 1 分 ; 4 %B 5 分 ; 5 %B 14 分 ; 1 %B 注入量 : 2 µl カラム : ZORBAX SB C18 3 x 5 mm 粒子径 1.8 µm 温度 : 室温 UV 検出器 : 21 nm 248 nm マイクロフローセル : 蒸発温度 :4 C 圧力 :55 psi ゲイン :7 フィルター :3s 結果と考察 まず 従来の HPLC および RRLC 分析条件でサイコサポニン標準溶液を分離しました 同時に 大部分のサイコサポニンで最高の感度が得られるように パラメータを最適化しましたが すべての分析対象物でレスポンスを最大化するのは不可能でした 最適化する必要のあるおもなパラメータは の温度と圧力です 温度 4 C 圧力 55 psi で最高の結果が得られました 最終的なメソッドでこの値を用いて さらなる分析を行 Norm. 3 2 DAD (21 nm) 1 2 15 1 4 いました 分析条件の詳細については 実験手法のセクションに示しています 図 1 は および UV 検出を用いた従来の HPLC 分析で得られた 6 種類のサイコサポニンのクロマトグラムを示しています UV 検出のほうが多くのピークが検出され ベースラインに若干のドリフトが見られます サンプル前処理で用いたメタノールは UV での検出ではレスポンスを示しましたが チャンネルではシグナルは検出されませんでした UV 検出での 6 種のサイコサポニン メタノール以外のピークは 標準精製プロセスに起因する不純物を表しています この 2 つのクロマトグラムからは ベースラインノイズが少なく不純物の干渉もない のほうが サイコサポニン分析により適していることがわかります 各サイコサポニンのピークと化合物名を表 2 に記載しています ピーク化合物 1 サイコサポニン c SSc 2 サイコサポニン a SSa 3 6''-O-アセチルサイコサポニン a 6''-アセチルSSa 4 サイコサポニン d SSd 5 3''-O-アセチルサイコサポニン d 3''-アセチル-SSd 6 6''-O-アセチルサイコサポニン d 6''-アセチル-SSd 表 2 標準サイコサポニンの名称と対応するピーク番号 5 3 5 6 1 2 3 4 5 6 7 図 1 および UV 検出を用いた従来の HPLC 分析により得られた 6 種のサイコサポニン標準物質のクロマトグラム 3

図 2 には RRLC 分析条件を用いた分析の結果を示しています 分析時間が 6 分から 6 分に短縮されました クロマトグラムからは フラットなベースラインと良好なピーク分離が見てとれます この RRLC 分析は 従来の HPLC 分析と同じケミストリのカラム充填剤を使用しているため 溶出順序は 従来の HPLC 分析のときと同じです 中華人民共和国薬典によれば B. bicaule ( サンプル 25) は一般的に使用されている柴胡ではありません しかし実際には 一部の漢方医はこの種の柴胡を使用しています 図 3 には および UV 検出で得られたクロマトグラムを示しています HPLC で分析した場合 サンプル 25 のプロファイルは 一般的な柴胡よりも多くのピークを示しました および UV シグナルを比較したところ 2 つのピーククラスターが確認されました このことは 異なる種類の化合物を検出する能力という点で と UV 検出が互いを補い合っていることを示しています 最初のクラスターは 溶媒よりも揮発性の高い化合物で構成され 発色団が含まれています 2 つ目のクラスターの化合物は 溶媒よりも揮発性が低く 発色団は含まれていません これらのピークの構造はまだ知られていません ここで得られた結果と薬理学研究を組み合わせれば こうしたピークが治療上の効果を持つかどうかを さらに解明することができるものと考えられます [mau] 4 3 2 1 1 2 3 1 2 3 4 5 6 7 図 2 および UV 検出を用いた RRLC 分析により得られた 6 種のサイコサポニン標準物質のクロマトグラム Norm. 4 35 3 25 2 15 1 5 4 DAD (21 nm) 5 6 DAD (21 nm) 1 2 3 4 5 6 図 3 および UV 検出を用いた従来の HPLC 分析により得られた Bupleunum bicaule ( サンプル 25) のクロマトグラム 4

図 4 には RRLC メソッドを用いて同じサンプルを分析した結果を示しています 分析時間は 14 分未満です これにより サンプルスループットを 5 倍に向上させることが可能です カラム固定相では従来の HPLC メソッドと同じ化学結合相を使用しました そのため 同じ溶出順序が保たれ 同様のピークプロファイルが得られています 本研究の次のセクションでは さらなる分析時間の短縮とコスト削減を目的に この RRLC メソッドを適用して複数のサンプルについてプロファイルを測定しました および UV 検出では 必ずしもすべての成分が同じ挙動を示すわけではないので すべての分析対象物が溶出したかどうかを確認するためには 両方の検出器を備えた LC システムを使用するのが効果的です これにより ピークの検出漏れを防ぎ カラム内に成分が残されていないことを確認できます 図 5 には 検出を用いた RRLC 分析で得られた 4 種類のサンプルのクロマトグラムを示しています サンプル 3 と 12 は それぞれ北柴胡 (Beichaihu) と南柴胡 (Nanchaihu) で いずれも中華人民共和国薬典に記載されています これらのサンプルの違いは おもにピークプロファイルの最後の部分に現れます サイコサポニンのピークプロファイルは サンプルごとに異なります そのため サイコサポニンの量を測定するだけでは 産地の違う柴胡を分析するのは困難です サンプル 21 とサンプル 25 のクロマトグラムには 一部の共通ピークのほかに 他のサンプルよりも多くのピークが表れています ( サンプル 25 のクロマトグラムは図 4 を参照 ) サンプル 12 (B. scorzonerifolium) とサンプル 27 (B. rockii) のクロマトグラムは 溶出の後半で他のサンプルよりもピークが少なくなっています [mau] 5 4 3 2 1 DAD (21 nm) 2 4 6 8 1 12 図 4 および UV 検出を用いた RRLC 分析により得られた Bupleunum bicaule ( サンプル 25) のクロマトグラム [mv] 35 3 25 2 15 1 5 21 27 12 3 2 4 6 8 1 12 14 16 図 5 検出を用いた RRLC 分析により得られた実際のサンプルの 4 種類のクロマトグラム 5

異なるサンプルのプロファイルは 生薬原料の産地を特定するうえで役立ちます 現時点では 比較用のライブラリを構築するためには より多くのサンプルを用いたインフォマティクス調査を行う必要があります 今後 より多くのサンプルが入手できれば そうした研究が可能となるでしょう 6 種類のサイコサポニンの定量分析分析時間を短縮するために RRLC システムとメソッドを用いて定量分析を行いました 通常 検出は直線形ではなく 検量線はサンプルと機器のパラメータに左右されます 表 3 に 定量分析の結果を示しています y は対数変換したピーク面積 x は対数変換した参照サイコサポニンの濃度 (mg/ml) を表しています 分析したサイコサポニンの検出器レスポンスが直線ではないため 検出下限 (LOD) は定量下限 (LOQ) のぴったり 3 倍にはなりません サンプルの揮発性や ネブライザにより生成される粒子サイズが違うため 本研究に選択した条件下ですべてのサンプルを最高の感度で分析することはできませんでした 化合物 検量線 * r 2 テスト範囲 LOD LOQ (µg/ml) (µg/ml) (μg/ml) SSc y = 1.5642x + 3.2933.9982 3 2 1 3 SSa y = 1.3892x + 3.992.9967 33.5 335 8.38 25.16 6''-アセチル-SSa y = 1.8218x + 3.1273.9955 37.5 6 25 37.5 SSd y = 1.4256x + 3.996.9954 29 29 14.5 29 3''-アセチル-SSd y = 1.3251x + 2.898.9976 3 24 18 3 6''-アセチル-SSd y = 1.6341x + 3.564.9988 6 12 22.5 45 表 3 6 種類のサイコサポニンの測定に用いた線形回帰方程式の統計解析 (* 回帰方程式 y = ax + b の y は対数変換されたピーク面積 x は対数変換された参照サイコサポニンの濃度 mg/ml を表します ) 化合物 サンプル 3 サンプル 12 サンプル 21 サンプル 25 サンプル 27 (µg/ml) (µg/ml) (µg/ml) (µg/ml) (µg/ml) SSc 7 99 5 28 N/A SSa 11 29 73 43 4 6''-アセチル-SSa N/A 8 9 N/A N/A SSd 28 187 352 232 25 3''-アセチル-SSa 16 138 N/A N/A N/A 6''-アセチル-SSd 83 N/A 83 62 64 表 4 実際のサンプルの定量分析結果 (N/A: 検出下限未満 ) 実際のサンプルのピーク面積をもとにして得られた各種サイコサポニンの濃度を 表 4 に示しています この結果からを見ると 産地の異なるサンプルでは サイコサポニンのプロファイルが異なっていることがわかります SSd と SSa は すべてのサンプル中に多量に存在しています SSc もほぼすべてのサンプルに含まれますが SSa や SSd のように高い濃度ではありません 他の 3 種類のサイコサポニンは SSa および SSd から生じる分解成分です この分解成分の存在により プロファイルがまったく異なるものになっています 一部のサンプルには そうした分解サイコサポニンは存在しませんでした 結論 Agilent 12 シリーズ RRLC システムを使えば 従来の HPLC メソッドと RRLC メソッドの両方で サイコサポニンの定量分析を行うことができます 柴胡の全成分を完全に分離するまでの所要時間は 従来の HPLC メソッドでは 7 分なのに対し RRLC メソッドではわずか 15 分です そのため サンプルスループットが向上し 分析 1 回あたりのコストが低下します Agilent 12 シリーズ を検出に使用し すべてのサイコサポニンで良好なレスポンスが得られるようにパラメータを最適化しました 本研究では サイコサポニンなどの弱い発色団を持つ化合物でも によりシグナルが向上することが示されました この結果より 発色団を含まない化合物を分析する場合には が最適であることが わかります また での検出では低 UV 域で吸光する溶媒を使用する場合のベースライン安定性も向上します と UV では 検出された柴胡のピークプロファイルが異なりました このことは いずれの検出器でも 単独ではすべてのピークを検出できないため 両方の検出テクニックを併せて使用する必要があることを示しています 生薬の産地を突き止める必要がある場合には を使えば 補完的なフィンガープリントクロマトグラムが得られます サンプルのフィンガープリントからプロファイルの違いを検証すれば 生薬の産地を判断するのに役立ちます 本アプリケーションで紹介した分析条件は 定量分析が可能であることから 品質管理にも適しています 6

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