抗菌薬適正使用支援プログラム実践のためのガイダンス

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650 日本化学療法学会雑誌 S E P T. 2 0 1 7 委員会報告 抗菌薬適正使用支援プログラム実践のためのガイダンス GUIDANCE FOR IMPLEMENTING AN ANTIMICROBIAL STEWARDSHIP PROGRAM IN JAPAN 8 学会合同抗微生物薬適正使用推進検討委員会

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652 日本化学療法学会雑誌 S E P T. 2 0 1 7 本ガイダンスの構成について 推奨度とエビデンスレベルの設定規準

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654 日本化学療法学会雑誌 S E P T. 2 0 1 7 I. 序文 1.AS とは 2. 日本における現状 3. 今後の課題

VOL. 65 NO. 5 日本化学療法学会雑誌 655 引用文献

656 日本化学療法学会雑誌 S E P T. 2 0 1 7 II. 総 論 1.AS の組織体制づくり 2.AS の基本戦略 (I) 介入 1) 耐性菌対策推進のためにあるべき感染症管理体制整備の必要性 ~ 現状 ~ ~ 目標 ~ 感染防止対策部門 ( 医療安全管理部門でも可 ) ICT( 感染制御チーム ) 看護師 医師 薬剤師 臨床検査技師 *1 職種 ( 多くは看護師 ) のみ資格要件を規定 感染制御部 感染症科 ( 独立した組織が望ましい ) ICT( 感染制御チーム ) AST( 抗菌薬適正使用支援チーム ) 2) 感染症管理体制整備によって期待される効果 *ICT と AST の構成員は重複可 * 各職種は以下の資格を有することが望ましい医師 (ICD: Infection Control Doctor, ID: Infectious Disease Expert) 薬剤師 (IDCP: Infectious Disease Chemotherapy Pharmacist, PIC: Board Certified Pharmacist in Infection Control, ICPS: Board Certified Infection Control Pharmacy Specialist) 看護師 (CPNIPC: Certified Professional Nurse for Infection Prevention and Control, CNIC: Certified Nurse for Infection Control, CNS-ICN: Certified Nurse Specialist-Infection Control Nursing) 臨床検査技師 (ICMT: Infection Control Microbiological Technologist) ICT( 感染対策 ) および AST( 抗菌薬適正使用支援 ) からなる独立した組織を構築し, 各組織に所属する医療従事者には専門家を配置し, 以下の効果を得るために専念できる環境が必要である 国民への教育や啓発 学校や自治体等と連携し, 市民全体への啓発 抗菌薬濫用の防止 感染症診療の向上 感染症患者に対する抗菌薬の適正使用支援 予後の改善, 耐性菌患者の減少, 医療費の削減 サーベイランス 感染症発生率, 耐性菌出現率, 抗菌薬使用量の把握 耐性菌化や抗菌薬曝露状況の把握 地域での感染対策 医療機関だけでなく, 介護施設や保健所等とも連携強化 耐性菌の地域内拡散の防止 略語説明 ICT: Infection Control Team( 感染制御チーム ) AST: Antimicrobial Stewardship Team( 抗菌薬適正使用支援チーム ) 図 1. 本邦における感染管理体制整備の目標 3)

VOL. 65 NO. 5 日本化学療法学会雑誌 657 図 2. AS における介入プロセス (II) 抗菌薬使用の最適化

658 日本化学療法学会雑誌 S E P T. 2 0 1 7 (III) 微生物 臨床検査の利用 (IV)AS の評価測定 表 1. ASP を個別展開するためのチェックリスト チェック欄 1 AS の組織体制づくり はい いいえ 該当なし * 1 ICT とは区別された AST が組織されている 2 感染症 感染制御の専門資格を有する多職種メンバーが含まれる 3 AST と ICT は十分な連携がとれている 4 AST は病院管理部門から十分なサポートが得られている 2 介入 1 感染症治療の早期モニタリングの仕組みがある 2 主治医へフィードバックする仕組みがある 3 抗菌薬使用の事前承認 ( 許可制やその代替案 ) がとられている 3 抗菌薬使用の最適化 1 経験的治療を支援する体制がある 2 PK/PD 理論に基づいた用法 用量決定の支援体制がある 3 薬物治療モニタリング (TDM) が実施可能である 4 デ エスカレーションが行われている 5 経口薬へのスイッチ療法を検討している 6 各種ガイドラインが利用されている 4 微生物検査 臨床検査の利用 1 適切な検体採取や培養検査が実施できる体制が整っている 2 血液培養は 2 セット以上の採取が実施されている 3 アンチバイオグラムが利用されている 4 POCT による感染症迅速診断が実施されている 5 適切なバイオマーカーが利用されている 5 AS の評価測定 1 AS のプロセス評価が実施されている 2 プロセス指標として抗菌薬使用状況がモニタリングされている 3 プロセス指標として TDM 実施率がモニタリングされている 4 AS のアウトカム評価が実施されている 5 アウトカム指標として耐性菌検出率がモニタリングされている 6 アウトカム指標として治療成績がモニタリングされている 6 特殊集団に対する AS 1 免疫低下患者が AS の対象となっている 2 集中治療患者が AS の対象となっている (ICU や NICU) 3 抗真菌薬治療患者が AS の対象となっている 7 教育 啓発 1 AS に関する院内啓発が行われている 2 AS に関する学生教育が行われている * 医療機関の個別事情によって該当しない場合にチェックする

VOL. 65 NO. 5 日本化学療法学会雑誌 659 (V) 特殊集団の選択と AS の集中 (VI) 教育 啓発 3.ASP の個別展開 引用文献 Pseudomonas aeruginosa

660 日本化学療法学会雑誌 S E P T. 2 0 1 7 III. 各論 :AS 実践プログラム 1.AS の組織体制づくり Executive summary Comments/Literature review 引用文献 2. 介入 Executive Summary

VOL. 65 NO. 5 日本化学療法学会雑誌 661 図 3. 感染症治療の早期からのモニタリングとフィードバックと抗菌薬使用の事前承認 Comments/Literature Review 1. 介入の概要 2. 介入の手法

662 日本化学療法学会雑誌 S E P T. 2 0 1 7 Clostridioides Clostridium difficile C. difficile β P Klebsiella P

VOL. 65 NO. 5 日本化学療法学会雑誌 663 表 2. AS における感染症治療モニタリングの把握項目とプロセスの例 種類 対象 手法や検査 開始時期 介入時期 期間 特定抗菌薬 特定の抗菌薬の使用患者 ( 例 : 注射用広域スペクトラム抗菌薬, 抗 MRSA 薬など ) 使用届出制 届出提出時より 感染症兆候 特殊患者集団 施設が必要と判断した特定の抗菌薬使用患者 菌血症や細菌性髄膜炎兆候の患者 耐性菌検出患者 真菌感染症兆候の患者 ICU,NICU に在室する患者 免疫不全疾患, 発熱性好中球減少症, 臓器移植の患者など 特定抗菌薬の使用やコンサルテーション血液や髄液などの培養検査 抗菌薬の使用が判明した時やコンサルテーション時より 培養結果陽性時より 培養検体より耐性菌分培養検査離時バイオマーカー検査 ( 例 :β-d グル検体陽性時よりカン, アスペルギルス抗原 ) 特定の部署への入室 臨床検査結果や感染症の兆候など 網羅的に例示しており, 各施設の状況に応じて取捨選択可能である 抗菌薬処方開示時より 必要時 抗菌薬の選択や用法 用量 TDM 感染症検査結果の判明時 治療効果判定時 投与経路変更時 長期投与時他 抗菌薬治療の終了, または, モニタリングの契機となった事象の終了まで 3. 感染症治療のモニタリング対象 P= P=

664 日本化学療法学会雑誌 S E P T. 2 0 1 7 4. 介入のタイミング P= P 5. 介入の効率化をサポートする情報技術 (IT) システム P= P= P= P= P=

VOL. 65 NO. 5 日本化学療法学会雑誌 665 P 引用文献

666 日本化学療法学会雑誌 S E P T. 2 0 1 7 Clostridium difficile

VOL. 65 NO. 5 日本化学療法学会雑誌 667 3.ASP の評価指標 Executive summary

668 日本化学療法学会雑誌 S E P T. 2 0 1 7 表 3. ASP における評価指標例 2, 9, 13, 14) プロセス指標の例 2, 16, 17, 18) アウトカム指標の例 抗菌薬使用状況 (AUD,DOT, 未投薬日数 ) 耐性菌発生率 抗菌薬選択 用法用量の適正率 治療費 TDM 実施率 副作用発生率 血液培養実施率 (2 セット採取率 ) 死亡率 初期治療開始までの時間 入院期間 ガイドラインやバンドルの遵守率 再入院率 抗菌薬投与患者率 感染症の発生率 PK/PD パラメータの達成率 感染症再発率 De-escalation 実施率など QALYs( 質調整生存年 ) など DDD:defined daily dose, DOT:day of therapy, TDM:therapeutic drug monitoring, PK/PD: pharmacokinetics/pharmacodynamics, QALYs:quality-adjusted life years プロセスはアウトカムによって変化するので, 絶対的な基準ではない 各指標は客観的 かつ再現性の高いものを用いることが望ましい Comments Clostridioides Clostridium difficile Literature review

VOL. 65 NO. 5 日本化学療法学会雑誌 669 表 4. 抗菌薬使用に使用される評価指標例 指標名称 単位説明算出式 1 ( 例 ) 利点 欠点, その他の情報 AUD(antimicrobial use density) 単位 :DDDs/100 bed-days や DDDs/1,000 patient-days 等 DOT(day of therapy) 単位 :DOTs/100 bed-days や DOTs/1,000 patient-days 等 AUD/DOT LOT(length of therapy) 単位 :days 等 一定期間における抗菌薬の力価総量を世界保健機関 (WHO) で定義された DDD( defined daily dose) 2 で除した値 (DDDs) を患者延べ日数で補正した値 一定期間における抗菌薬の治療日数の合計 (DOTs) を患者延べ日数で補正した値 上記の AUD と DOT の比 1 日使用量が DDD よりも低いと 1 より低値となる 各患者に投与された抗菌薬の治療期間の合計 ただし, 併用した場合も1 日と数える AUD= (( 1,000 2) 10,000) 100=5 (DDDs/100 bed-days) DOT=( 1,000 1 0,0 0 0) 10 0=10 (DOTs/100 bed-days) AUD/DOT=5 10= 0.5 LOT=1,000 days 平均治療期間 =1,000 100=10 日 外来処方は使用量 ( 力価 ) を DDD で除し, 分母を 1 日あたりの地域住民 (inhabitants) で補正する DID(DDDs/1,000 inhabitants/ day) という算出方法もある AUD という単語は日本でかなり普及しているが, 海外誌等では DDDs と示されることもある 欧州を中心に使用されている AUD は, 計算が比較的容易であり, 力価を求めるため, コスト計算にも利用できる利点があるが, 小児には適用できず, 定義された DDD が自国の投与量や推奨量と異なると施設間で比較する際に過少あるいは過大評価を招く 米国で標準的な指標として用いられており, 小児にも使用できるが, 投与量の概念が入らず,LOT と異なり, 併用患者の投与も重複して数えることから治療期間を推定できない また, 分母に患者延べ日数ではなく, 入院患者数を用いる場合もあり, 耐性率との相関は患者延べ日数を分母とした場合よりも良好という報告がある 最近, わが国で 1 日使用量の評価指標として報告されている指標 左記に示すように維持量が少ない場合に 1 以下となる LOT を抗菌薬投与患者数で除して平均治療期間を算出することが可能である 患者個々の投与データが必要となり,DOT のように各抗菌薬における使用状況の比較や併用投与の状況を評価できない また, 施設背景を併せるなどのリスク調整が必要であり,ICU など病棟単位での評価に有用とされている 他施設と比較することを目的として LOT を患者延べ日数で補正した LOT/1,000 patient-days が使用されることもある 1.1 カ月間の A 病院 ( 入院患者延べ日数 10,000 患者 日 ) では,1 カ月間にメロペネム (DDD=2 g) が 100 人の患者に 1 g/ 日で 10 日間ずつ単剤投与されていた すなわち, 使用総量は 1,000(g), 投与日数, 治療期間はともに 1,000( 日 ) 2.https://www.whocc.no/atc_ddd_index/ 引用文献

670 日本化学療法学会雑誌 S E P T. 2 0 1 7

VOL. 65 NO. 5 日本化学療法学会雑誌 671 4. 処方医や専門家の教育 啓発活動, ガイドラインの活用 1. 抗菌薬適正使用に関する教育 啓発は ASP 推進に寄与するか推奨項目 Literature review 処方医への教育 啓発が ASP 推進にもたらす効果 Proteus mirabilis E. cloacae 患者への教育 啓発が ASP 推進にもたらす効果 2. 抗菌薬適正使用を実現するための効果的な教育 啓発推進はどのように行うべきか 推奨項目

672 日本化学療法学会雑誌 S E P T. 2 0 1 7 表 5. 適正な抗菌薬処方に必要とされる教育要素 ( 文献 12 を改変 ) 項目概念 ( 関連分野 科目 ) 学習内容, 成果 耐性菌 耐性菌の選択/ 変異 ( 微生物学, 遺伝学, 疫学 ) 衛生学( 微生物学に基づいた感染制御 ) 抗菌薬 作用機序, 耐性機序, 毒性 ( 薬理学 ) 抗菌薬のコスト( 公衆衛生学, 医療倫理 ) 感染症 診断 感染 / 炎症 ( 生理学, 微生物学, 免疫学, 感染症学 ) 細菌 ウイルス 真菌の分離同定 ( 微生物学 ) 抗菌薬感受性( 微生物学, 感染症学 ) 抗菌薬耐性の原因 ( 細菌自身および細菌叢における ) 耐性微生物の拡散 広域 / 狭域スペクトラム抗菌薬 抗菌薬の併用療法 臨床検査データの解釈 発熱や CRP の解釈 迅速診断検査 抗菌薬投与開始前に培養検体を採取することの重要性 基本的な微生物学的検査の解釈 ( グラム染色, 培養,PCR など ) 感染症 治療 抗菌薬治療の適応 実際, 臓器特異性など 初期 / 標的治療と予防投与の定義 抗菌薬を処方すべきではない状況 定着と感染の違い ウイルス感染 炎症と感染 感染症 予防 カルテの記録管理 抗菌薬処方 ( 初期 ) 抗菌薬治療 ( 標的治療 ) 標準的な抗菌薬処方 コミュニケーションスキル ( 薬物治療学, 外科学, 麻酔科学, 臨床微生物学 / 感染症学 ) 抗菌薬を選択した経緯, 投与開始のタイミング, 投与期間など ( 臨床医学 ) 経験的治療 : ローカルデータやガイドライン活用 ( 臨床微生物学 / 感染症学, 臨床薬理学 ) 微生物検査室との連絡 連携 感染症専門家や微生物学者への相談の重要性 ( 臨床微生物学 / 感染症学, 病院薬学 ) 実臨床におけるガイドラインの有用性 抗菌薬使用の質的指標 ディスカッションの手法 ( 心理学, 臨床医学 ) 周術期の抗菌薬予防投与 ( 抗菌薬の選択, 投与期間, 投与タイミング ) 抗菌薬投与の指示を医療記録として文書化する能力の養成 投与期間と投与中止日の記録 初期治療: 最適な微生物学的推測 抗菌薬の選択,PK/PD に基づく投与量設定 最適な投与期間 投与開始後の抗菌薬処方の再評価 抗菌薬処方の合理化/de-escalation 注射から経口へのスイッチ TDM ガイドラインに基づいた抗菌薬処方の実際 抗菌薬処方の監査とフィードバック 患者への抗菌薬適正使用に関する説明 Literature review 教育啓発プログラム 卒前 AS 教育の実態と今後の課題

VOL. 65 NO. 5 日本化学療法学会雑誌 673 薬剤師の卒前教育 卒後 AS 教育 院内における医療スタッフへの教育 ガイドライン ローカルデータの ASP 教育 啓発への活用

674 日本化学療法学会雑誌 S E P T. 2 0 1 7 引用文献

VOL. 65 NO. 5 日本化学療法学会雑誌 675 5. 微生物学的検査, アンチバイオグラム, 迅速診断法, バイオマーカーの応用 Executive Summary Literature Review

676 日本化学療法学会雑誌 S E P T. 2 0 1 7 E. coli P. aeruginosa P. aeruginosa M. pneumoniae M. pneumoniae M. pneumoniae

VOL. 65 NO. 5 日本化学療法学会雑誌 677 μ 引用文献 β β β β Escherichia coli Pseudomonas aerginosa S. aureus E. coli. pneumoniae Mycoplasma pneumoniae Mycoplasma pneumoniae

678 日本化学療法学会雑誌 S E P T. 2 0 1 7 Mycoplasma 6. 最適治療 (Optimization) のさまざまな方策 Executive summary Literature review I) 用量 投与回数の最適化 II) 最適治療としての併用療法

VOL. 65 NO. 5 日本化学療法学会雑誌 679 β β III) 最適治療としての狭域化 ( デ エスカレーション ) IV) 最適治療としての経口薬へのスイッチ療法

680 日本化学療法学会雑誌 S E P T. 2 0 1 7 引用文献 Enterobacteriaceae

VOL. 65 NO. 5 日本化学療法学会雑誌 681 Staphylococcus 7. 治療薬物モニタリング (TDM) ならびに PK/PD 理論に基づいた用法 用量の適正化 Executive summary Literature review β

682 日本化学療法学会雑誌 S E P T. 2 0 1 7 引用文献

VOL. 65 NO. 5 日本化学療法学会雑誌 683 8. 深在性真菌症に対する AS Executive summary Literature Review Candida albicans C. glabrata C. parapsilosis C. tropicalis C. krusei C. lusitaniae C. guilliermondii C. glabrata C. krusei Candida C. albicans C. glabrat Aspergillus fumigatus

684 日本化学療法学会雑誌 S E P T. 2 0 1 7 引用文献 Candida albicans albicans Candida Candida glabrata Candida Cryptococcus neoformans Aspergillus fumigatus Aspergillus fumigatus Aspergillus fumigatus Aspergillus

VOL. 65 NO. 5 日本化学療法学会雑誌 685 Candida 9. 特殊集団に対する AS Executive summary Literature Review P

686 日本化学療法学会雑誌 S E P T. 2 0 1 7 引用文献

VOL. 65 NO. 5 日本化学療法学会雑誌 687 利益相反自己申告