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透析看護の基本知識項目チェック確認確認終了 腎不全の病態と治療方法腎不全腎臓の構造と働き急性腎不全と慢性腎不全の病態腎不全の原疾患の病態慢性腎不全の病期と治療方法血液透析の特色腹膜透析の特色腎不全の特色 透析療法の仕組み血液透析の原理ダイアライザーの種類 適応 選択透析液供給装置の機能透析液の組成抗

Point

CQ1: 急性痛風性関節炎の発作 ( 痛風発作 ) に対して第一番目に使用されるお薬 ( 第一選択薬と言います ) としてコルヒチン ステロイド NSAIDs( 消炎鎮痛剤 ) があります しかし どれが最適かについては明らかではないので 検討することが必要と考えられます そこで 急性痛風性関節炎の

1治療 かっていたか, 予想される基礎値よりも 1.5 倍以上の増加があった場合,3 尿量が 6 時間にわたって 0.5 ml/kg 体重 / 時未満に減少した場合のいずれかを満たすと,AKI と診断される. KDIGO 分類の重症度分類は,と類似し 3 ステージに分けられている ( 1). ステー

02 入職 (1 年目 ) 2 写真 ( 脇さん ) No.1 就活している学生の皆さんへ! 私の場合は 条件がかなり限定的だったため 決めやすかったのですが 病院の特徴と薬剤科がどのような仕事内容なのかをしっかり説明して頂ける病院にしました それは 入職後に望んだ条件ではないのが分かったとしても

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10050 WS2-3 ワークショップ P-129 一般演題ポスター症例 ( 感染症 ) P-050 一般演題ポスター症例 ( 合併症 )9 11 月 28 日 ( 土 ) 18:40~19:10 6 分ポスター会場 2F 桜 P-251 一般演題ポスター療

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④資料2ー2

目次 1. 目的 2 2. 人工透析患者の年齢等の分析 3 性別 被保険者 被扶養者 3. 人工透析患者の傷病等の分析 8 腎臓病 併存傷病 平成 23 年度新規導入患者 4. 人工透析 健診結果 医療費の地域分析 13 二次医療圏別 1


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2 成分が同一の剤形変更 例 タケプロンOD 錠 15mg タケプロンカプセル 15mg ユリーフOD 錠 4mg ユリーフ錠 4mg コカールドライシロップ 40% カロナール細粒 20% ( 粉砕 ) レボフロキサシン錠 500mg レボフロキサシン細粒 10% 患者に説明 ( 価格 服用方法等

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(2) レパーサ皮下注 140mgシリンジ及び同 140mgペン 1 本製剤については 最適使用推進ガイドラインに従い 有効性及び安全性に関する情報が十分蓄積するまでの間 本製剤の恩恵を強く受けることが期待される患者に対して使用するとともに 副作用が発現した際に必要な対応をとることが可能な一定の要件

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平成 28 年 10 月 17 日 平成 28 年度の認定看護師教育基準カリキュラムから排尿自立指導料の所定の研修として認めら れることとなりました 平成 28 年度研修生から 排泄自立指導料 算定要件 施設基準を満たすことができます 下部尿路機能障害を有する患者に対して 病棟でのケアや多職種チーム

BSA(m 2 )= 体重 (kg) 身長 (cm) =1.27m 2 となり 173.6mL/min/1.73m 2 を 1.27m 2 である患者個人の腎機能に換算 ( で補正を外すと ) すると 127.4mL/min になりますが これでも実測 CCr

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別添 1 抗不安薬 睡眠薬の処方実態についての報告 平成 23 年 11 月 1 日厚生労働省社会 援護局障害保健福祉部精神 障害保健課 平成 22 年度厚生労働科学研究費補助金特別研究事業 向精神薬の処方実態に関する国内外の比較研究 ( 研究代表者 : 中川敦夫国立精神 神経医療研究センタートラン

腎機能を正確に見積もるコツと理論 ~ 投与設計のすべてがここから始まる ~ 阿蘇の雲海 熊本大学薬学部附属育薬フロンティアセンター 臨床薬理分野平田純生

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鑑-H リンゼス錠他 留意事項通知の一部改正等について

障害程度等級表 級別じん臓機能障害 1 級 じん臓の機能の障害により自己の身辺の日常生活活動が極度に制限されるもの 2 級 3 級 じん臓の機能の障害により家庭内での日常生活活動が著しく制限されるもの 4 級 じん臓の機能の障害により社会での日常生活活動が著しく制限されるもの

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第16回慢性腎臓病療養指導看護師認定受験(DLN)受験申請登録書

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第 7 条対策委員会の構成および運営については 細則に定める 第 3 章他の組織との連携 第 8 条認定制度の運営に当たっては 必要に応じて 日本腎臓学会 日本透析医学会 日本医療 薬学会 日本病院薬剤師会 日本薬剤師会等と協議し 連携をはかることとする 第 4 章腎臓病薬物療法専門薬剤師 認定薬剤

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3 病床数 施設 ~19 床 床 床以上 284 (3 施設で未回答 ) 4 放射線専門医数 ( 診断 治療を含む ) 施設 ~5 人 226 6~10 人 人

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脂質異常症を診断できる 高尿酸血症を診断できる C. 症状 病態の経験 1. 頻度の高い症状 a 全身倦怠感 b 体重減少 体重増加 c 尿量異常 2. 緊急を要する病態 a 低血糖 b 糖尿性ケトアシドーシス 高浸透圧高血糖症候群 c 甲状腺クリーゼ d 副腎クリーゼ 副腎不全 e 粘液水腫性昏睡

政策課題分析シリーズ14(本文2)

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議題 2: 入退院サポートセンターにおける当院の取り組みについて 議題 3: 自動車運転禁止 注意に該当する薬剤の指導について 議題 4: 患者情報共有化のための連絡文書 ( 案 ) について 第 6 回全体会議日時 : 平成 27 年 12 月 25 日 ( 木 )17:15~19:15 場所 :

代議員 ( 以下 代議員 という ) から選任され 本学会理事会 ( 以下 理事会 という ) の議決 を経て委嘱した若干名をもって構成される 第 7 条対策委員会の構成および運営については 細則に定める 第 3 章他の組織との連携 第 8 条認定制度の運営に当たっては 必要に応じて 日本腎臓学会

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日が沈むのがはやくなり 涼しい風が吹くようになって参りました 皆様いかがお過ごしでしょうか 9 月 22 日の秋分の日を過ぎると徐々に 昼が短くなり夜の方が長くなって参ります また この時期を境にして徐々に寒くなっていきます 皆様 体調には気を付けて秋を楽しんでいきましょう 食欲? 運動? 読書?

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2/12 開催時間研修会 検討会等名称研修等の目的 内容 概要等開催場所参加人員 院内外 職種等 5 平成 26 年 5 月 15 20:00~ 21:35 第 10 回薬薬連携勉強会地域保健薬局薬剤師との連携強化 院内 : 薬剤師 10 人院外 : 薬剤師 12 人 6 平成 26 年 5 月 2

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オクノベル錠 150 mg オクノベル錠 300 mg オクノベル内用懸濁液 6% 2.1 第 2 部目次 ノーベルファーマ株式会社

未承認薬 適応外薬の要望に対する企業見解 ( 別添様式 ) 1. 要望内容に関連する事項 会社名要望された医薬品要望内容 CSL ベーリング株式会社要望番号 Ⅱ-175 成分名 (10%) 人免疫グロブリン G ( 一般名 ) プリビジェン (Privigen) 販売名 未承認薬 適応 外薬の分類

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糖尿病の薬物療法としては, インスリン療法と経口糖尿病薬 ( 他の箇所との語句の統一が適当と考えられます 経口糖尿病薬 経口血糖降下薬 回答 : 上記のご指摘の点に関しまして修正と語句の統一をさせて頂きました P.12 解説 10 行目 : グリクラジド MR 薬を基本として グリクラジド MR 薬

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はじめに この 成人 T 細胞白血病リンパ腫 (ATLL) の治療日記 は を服用される患者さんが 服用状況 体調の変化 検査結果の経過などを記録するための冊子です は 催奇形性があり サリドマイドの同類薬です は 胎児 ( お腹の赤ちゃん ) に障害を起こす可能性があります 生まれてくる赤ちゃんに

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2 2

添付文書情報 の検索方法 1. 検索条件を設定の上 検索実行 ボタンをクリックすると検索します 検索結果として 右フレームに該当する医療用医薬品の販売名の一覧が 販売名の昇順で表示されます 2. 右のフレームで参照したい販売名をクリックすると 新しいタブで該当する医療用医薬品の添付文書情報が表示され


<様式2> 個人情報ファイル簿(単票)

DOTS 実施率に関する補足資料 平成 26 年 12 月 25 日 結核研究所対策支援部作成 平成 23 年 5 月に改正された 結核に関する特定感染症予防指針 に DOTS の実施状況は自治体による違いが大きく実施体制の強化が必要であること 院内 DOTS 及び地域 DOTS の実施において医療


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egfr(ml/min/1.73 m2 ) が標準体形に補正してある意義は何か? 小柄な体格の方は体格なりの小さな GFR で十分なのに 体表面積未補正値を用いると腎機能を過小評価して分類されてしまうことを防ぐためです かつては日本人の体表面積は 1.49m 2 が用いられていましたが 国際的に 1

Transcription:

日病薬誌第 50 巻 8 号 (937 949)2014 年 平成 25 年度学術委員会学術第 1 小委員会報告 慢性腎臓病 (CKD) 患者への適正な薬物療法に関する調査 研究 腎機能低下患者における薬剤業務マニュアル CKD 患者の薬物療法適正化のポイントと実例 の書籍化 ( 最終報告 ) 委員長東京薬科大学薬学部医療実務薬学教室 竹内裕紀 Hironori TAKEUCHI 委員 白鷺病院薬剤科 東京大学医学部附属病院薬剤部 金城学院大学薬学部 和泉智 Satoshi IZUMI 大野能之 Yoshiyuki OHNO 柴田佳菜子 Kanako SHIBATA 熊本赤十字病院薬剤部中部労災病院薬剤部西陣病院薬剤部 下石和樹 Kazuki SHIMOISHI 田中章郎 Akio TANAKA 三宅健文 Takefumi MIYAKE 腎機能低下患者は, 慢性糸球体腎炎, 糖尿病腎症などの腎疾患患者に留まらず, 多くの高齢者も含まれるため, すべての診療科に患者が存在し, 多くの薬剤師が病棟薬剤業務や薬剤管理指導業務のなかで遭遇する しかし, 腎機能低下患者への薬学的管理に関する適切な業務内容について記されたものがなく, 各施設がそれぞれの方法を模索しながら対応しているのが現状である 特に腎機能低下患者の薬物療法では,⑴ 過量投与による中毒性副作用防止のための腎機能に応じた用量 用法設定と,⑵ 薬剤性腎障害による腎機能悪化防止のための適正使用が大きな柱となる 現学術第 1 小委員会では, 慢性腎臓病 ( 以下,CKD) 患者への薬物療法適正化を目指して, 平成 19 20 年度には添付文書における 腎障害に投与禁忌 の薬物について実態調査 1,2), 平成 21 年度には,CKD 患者の腎排泄性薬の過量投与による中毒性副作用や薬剤性腎障害の実態および薬剤師の関与についてのアンケート調査を行い, 副作用経験薬剤の種類や薬剤師の取り組みなどの現状を明らかにしてきた 3) 平成 22 年度には,CKDに関して薬剤師が特徴的な取り組みや先駆的な業務を実践している病院を選択 視察し, その活動や実際の関与事例を紹介した 4) そして, 平成 23 年度には, 薬剤師がCKD 患者の薬物療法にどのようにかかわるべきかを CKD 患者の薬物療法適正化のための薬剤業務手順書 としてまとめた 5) 平成 24 年度には,CKD 患者の適切な薬物療法を行うにあたり, 情報の源となる添付文書の記載が必ずしも, 臨床現場で使用するうえで適切に書かれていない現状があるため, 具体的に添付文書上で問題となる記載法についてパターン化し, 典型例の掲示を行い, 記載法についての提言を行った 6) 上記活動のなかで平成 23 年度は, CKD 患者の薬物療法適正化のための薬剤業務手順書 の作成に取り組み, 病院薬局協議会, 日本病院薬剤師会雑誌, 日本病院薬剤師会 ( 以下, 日病薬 ) ホームページにて報告致してきた しかし, 日病薬会員等から もっと詳細な手順書にしてほしい というご要望や書籍化を勧めるご意見をいただいた また, 平成 24 年度の活動についても, 腎機能低下患者への投与に関係する添付文書記載の問題点を整理し, 記載法についての提言を行ったが, 現状の腎機能低下患者への投与における添付文書の読み方やその対応の仕方についても提示してほしいとの意見をいただいた そこで, いままでの活動内容を盛り込みながら腎臓病領域に限らず, 幅広い診療科における腎機能低下患者の薬物療法適正化を目指し, 病棟薬剤業務や薬剤管理指導業務, 薬 薬連携などに役立つ 腎機能低下患者における薬剤業務マニュアル を書籍化する企画を立てた 腎臓病領域に限らず, 幅広い診療科における腎機能低下患者の薬物療法適正化に役立つ業務マニュアルを目指す 病棟薬剤業務, 薬剤管理指導業務, 薬 薬連携において, 腎機能低下患者への薬学的管理は大きな割合を占め, 重要な業務となるため, それらに対応した適切な 937

腎機能低下患者における薬剤業務マニュアル表紙 ( 案 ) 腎機能低下患者における薬剤業務マニュアル ( レイアウト例 ) 業務内容を記す 腎機能低下患者への薬学的管理の先駆的および特色ある取り組みをしている施設の業務内容を紹介することで, 多くの薬剤師に広め, 各施設の今後の業務改善の参考になるようにする 4) 1. 読者対象病院薬剤師, 薬局薬剤師等 2. 監修日本病院薬剤師会 3. 編集日本病院薬剤師会, 腎機能低下患者における薬剤業務マニュアル作成委員会 4. 出版社じほう 5. 体裁 発行時期 B4 判 200 頁前後 /2 色刷 (1ページ内の文字数:1,500 字 ) 6. 発行予定平成 26 年 9 月 7. 執筆項目 ポイント はじめに 本文( 業務手順, その他 ) 先駆的 特徴的施設の紹介, 事例,( コラム ) 参考図書の紹介 に表紙 ( 案 ) および に実際の書籍のレイアウト例を示す 以下に書籍の内容として目次一覧を示す 1. 序文 ( 日本病院薬剤師会会長 ) 2. 監修にあたって ( 日本病院薬剤師会学術委員会委員長 ) 3. 編集にあたって ( 日本病院薬剤師会学術第一小委員会委員長 ) 4. 序 ( 薬剤業務マニュアル編集委員長 ) 5. 本書の活用方法について ( 薬剤業務マニュアル編集委員長 ) 1. 採用時確認事項 1 採用検討薬の活性体の消失経路の確認 ( 腎排泄性 or 肝代謝性 ) 2 採用検討薬の腎 ( 尿中活性体 ) 排泄率の確認 3 採用検討薬の透析性の確認 4 採用検討薬の腎機能低下に応じた用量 用法, 禁忌の確認 5 採用検討薬の腎障害性の有無の確認 2. 同一薬効群に腎排泄性と肝代謝性薬剤がある薬剤 938

の場合の採用薬の考え方 ( ピメノロールとピルジカイニドの例 ) 3. 腎機能低下患者への用量調節が必要となる薬剤が採用された場合の院内への情報提供 1. 腎機能低下患者に投与する上で必要な情報 ( 腎排泄率, 腎障害性, 透析除去率等 ) 2. 腎機能低下患者に投与する上で必要な情報の調べ方 ( 資料等 ) など 3. 腎障害性薬物を投与する上で必要な情報の調べ方など 4. 腎機能低下患者への薬物投与における添付文書の読み方の注意点 1 尿中排泄率の記載 2 腎機能低下患者に対する対応の記載 3 腎障害に関しての記載 4その他 施設紹介 : 投薬ガイドライン等の様々な書籍, ホームページ ( 白鷺病院 ) 1. 入院 外来院内調剤 1チェックの手順 ( 腎機能低下患者の処方における腎排泄性薬や腎障害性薬剤のチェック手順や調剤時の工夫 ) 2 処方監査, 調剤時の工夫 ( 処方せんへの腎排泄薬の印や腎機能表示, 調剤棚への印など ) 3 腎機能低下患者の疑義照会のポイント ( 腎排泄性薬, 腎障害性薬等の処方 ) 2. 外来院外処方 施設紹介 : 処方せんへの腎機能記載 ( 院内 : 中部労災病院, 院外 : 福井大学医学部附属病院 ) 1. 腎機能低下患者の持参薬チェック 2. 腎機能低下患者の管理のために必要な患者情報 3. 腎機能低下患者の処方チェック 処方提案 4. 腎機能低下患者への服薬指導 ( 退院時指導含む ) 5. 腎機能低下患者への集団指導 チーム医療の実践 (CKD 教育入院, 腎臓病教室, クリニカルパス作成 ) など 施設紹介 : 透析カンファレンス ( 東京大学医学部附属病院 ) 施設紹介 : 腎臓内科における活動 ( 東京医科大学八王子医療センター ) 施設紹介 : 腎臓病教室 ( 北里大学病院 ) 1. 腎疾患外来 ( 糖尿病透析予防加算含む ) 2. 外来透析専任薬剤師 3. 腎移植外来 ( 移植後患者指導管理料 ) 4. 腹膜透析外来への参画 施設紹介 : 薬剤師外来 ( 白鷺病院 ) 施設紹介 : 糖尿病透析予防加算 ( 水島共同病院薬剤部 ) 施設紹介 : 腎移植外来 ( 熊本赤十字病院 ) 施設紹介 :CAPD 外来 ( 名古屋大学病院 ) 1. 各腎機能評価法 (CCr,eGFRcreat,eGFRcys, 実測 CCr, 実測 GFRなど ) の特徴と使用 ( 例 : ダビガトランやmg/kgで記載されている薬剤 : どの検査値をどう使用していくか ) 2.eGFRの体表面積補正の外しなど 3. 様々な患者腎機能チェックシステムなど 施設紹介 : 患者腎機能チェックシステム ( 春日井市民病院 ) 1. 患者腎機能の評価 2. 腎機能低下時に用量調節が必要な薬剤の確認 ( 腎排泄性薬や, その他の体内動態変化のある薬 ) 3. 腎機能低下に応じた用量調節 ( 減量や投与間隔延長の選択, 透析患者の投与, 初回投与量に対する考え方 ) 4. 腎排泄以外の体内動態が変化する薬剤の確認など TDM 1. 保存期患者, 透析患者, 腎移植患者のTDMを実施する上でのポイント,TDMの手順( 依頼 報告まで ) 2. 腎機能低下時にTDMによる用量調節が必要な薬剤 1 抗菌剤 ( アミノグリコシド系, グリコペプチド系 ( バンコマイシン, テイコプラニン ) 2 強心配当体 ( ジゴキシン ) 3 抗不整脈薬 ( ジソピラミド, プロカインアミド, シベンゾリン, ピルシカイニド ) 4 抗がん薬 ( メトトレキサート ) 5 抗躁薬 ( 炭酸リチウム ) 6 抗てんかん薬 ( ガバペンチン, トピラマート, レベチラセタム, ラモトリギン, フェノバルビタール ) 3. 自己免疫性腎疾患および腎移植で使用される薬剤 1カルシニューリン阻害薬 ( タクロリムス, シクロ 939

スポリン ) 2mTOR 阻害薬 ( エベロリムス ) 3 代謝拮抗薬 ( ミコフェノール酸, ミゾリビン ) 施設紹介 :AUC 測定報告書 ( 東京医科大学八王子医療センター ) 1. 腎機能低下患者への腎障害性薬剤の投与の考え方 2. 各腎障害性薬剤の処方時の対応 1NSAIDs 2 抗菌薬 ( アミノグリコシド, グリコペプチド系 ) 3 造影剤 4 抗がん薬 ( シスプラチン, メトトレキサートなど ) 5 炭酸リチウム 6カルシニューリン阻害薬 7その他 コラム : 腎障害性薬剤の調査結果 CKD 1. 高血圧症の薬学的管理手順 ( 腎硬化症の予防 ) 2. 糖尿病腎症の薬学的管理手順 ( 糖尿病腎症の進展予防 ) 3. 自己免疫性腎疾患 腎移植に対する免疫抑制療法の薬学的管理手順 ( 腎機能低下の予防 ) 4. 腎不全の尿毒症毒素の管理手順 5.CKD-MBDの治療薬の薬学的管理手順 6. 腎性貧血治療薬の薬学的管理手順 7. 高 K 血症治療薬の薬学的管理手順 8. アシドーシス治療薬の薬学的管理手順 9. 高尿酸血症治療薬の薬学的管理手順 10. 脂質異常症治療薬の薬学的管理手順 11. 腎機能低下時の輸液療法の管理手順 12. 腎機能低下時の栄養 ( 製剤 ) 管理手順 1. 血液透析 2. 腹膜透析 3. 腎移植 1. 患者腎機能検査値の保険薬局への提供法 1 患者に検査値を渡し, 保険薬局への提示促進 2お薬手帳へのCKDシール貼付や腎機能検査値 (egfrなど) の記載 3 処方せんへの腎機能検査値 (egfrなど) の表示 4 保険証等の電子化に伴う処方 検査データ管理 ( 将来 ) 5 保険薬局でS-Cr 自己簡易測定による患者腎機能評価 2. お薬手帳の活用 ( 退院時に必要事項の記載 ) 3. 保険薬剤師と病院薬剤師の連携会議 ( 勉強会, 相談会等 ) 施設紹介 : 薬局電子カルテ閲覧ネットワーク ( 八尾市立病院 ) 施設紹介 : 長崎あじさいネット ( 長崎県薬剤師会 ) 施設紹介 :CKDシール( 熊本グループ, 滋賀医科大学病院 ) 施設紹介 : 処方せんに検査値 ( 京都大学病院 ) 施設紹介 : 自己 S-Cr 測定 ( 八王子薬剤センター ) 施設紹介 : お薬手帳の活用 ( 東京医科大学八王子医療センター ) 医師 看護師など他の医療スタッフへの教育 啓蒙活動のやり方 CKD 患者に関する薬物療法の書籍は多く出版されているが, 本企画の書籍では, 実際の薬剤師の業務を中心に作成していく点が大きなポイントである 腎機能低下患者や高齢者が入院してきた場合などに, 薬剤師として, 想定される様々なケースに, どのような手順で, どのような薬学的管理を実践していくべきかを学術的なバックグランドも豊富に盛り込みながら記載した 最後にいままでの本委員会 CKD 患者への適正な薬物療法に関する調査 研究 の活動の総括として, この書籍が病棟薬剤業務等におけるCKD 患者の薬学的管理に活用をしていただければ幸いである 1) 平田純生, 和泉智ほか : 平成 19 年度学術委員会学術第 8 小委員会報告高齢者および慢性腎疾患患者への適正な薬物療法に関する調査 研究 重篤な腎障害 に関する禁忌薬物に関する調査 第 1 報, 日本病院薬剤師会雑誌,, 1162-1163 (2008). 2) 平田純生, 和泉智ほか : 平成 20 年学術委員会学術第 7 小委員会報告高齢者および慢性腎疾患患者への適正な薬物療法に関する調査 研究 重篤な腎障害 に関する禁忌薬物に関する調査 第 2 報, 日本病院薬剤師会雑誌,, 27-30 (2009). 3) 和泉智, 鎌田直博ほか : 平成 21 年度学術委員会学術第 1 小委員会報告高齢者および慢性腎臓病 (CKD) 患者への適正な薬物療法に関する調査 研究 CKD 患者の副作用および薬剤性腎障害と薬剤師の関与に関するアンケート調 940

査, 日本病院薬剤師会雑誌,, 989-1008 (2010). 4) 和泉智, 大野能之ほか : 平成 22 年度学術委員会学術第 1 小委員会報告高齢者および慢性腎臓病 (CKD) 患者への適正な薬物療法に関する調査 研究 CKD 患者の薬物療法における薬剤師の関与事例等の収集, 日本病院薬剤師会雑誌,, 937-941 (2011). 5) 和泉智, 大野能之ほか : 平成 23 年度学術委員会学術第 1 小委員会報告高齢者および慢性腎臓病 (CKD) 患者へ の適正な薬物療法に関する調査 研究 CKD 患者の薬物療法適正化のための薬剤業務手順書, 日本病院薬剤師会雑誌,, 919-922 (2012). 6) 竹内裕紀, 和泉智ほか : 平成 23 年度学術委員会学術第 1 小委員会報告慢性腎臓病 (CKD) 患者への適正な薬物療法に関する調査 研究 腎機能低下患者への投与に関係する添付文書記載の問題点の調査, 日本病院薬剤師会雑誌,, 789-791 (2013). お知らせ 1 日 1 回は日病薬のホームページを確認しよう 本会のホームページは広報 出版部が中心となり事務局と連携を図りながら企画運営しており, 会員の皆様に必要となる重要な情報を逐次発信しております 我々を取り巻く環境は, 多くの情報をより早く正確に把握し理解する必要があります そのためにはインターネット環境は, もはや必須のツールとなっています 会員の皆様におかれましては, 最低 1 日 1 回は本会のホームページを確認されるようお願い致します なお,ID およびパスワードは本誌の巻末に掲載しております 広報 出版部 JSHP メールニュースへ是非ご登録下さい!! 今般, インターネットの普及とともに迅速な情報の配信が求められております そこで, 日本病院薬剤師会ではメールニュースの配信を行っております 毎週金曜日に, 最新 NEWSやホームページの更新状況をお送り致します 日本病院薬剤師会からの重要な情報を漏らさずに受けとることができます ご登録は, 日本病院薬剤師会ホームページ (http://www.jshp.or.jp/) のメールニュース登録画面からお願い致します 広報 出版部 941