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非ラベル化アミノ酸分析カラムを用いた LC/MS による遊離アミノ酸分析の検討 バイオ系チーム 清野珠美, 廣岡青央 要旨本チームで従来行っていた, ガスクロマトグラフィーを用いたプレラベル化法による遊離アミノ酸分析は, アミノ酸のラベル化という前処理があるものの,1 試料の分析時間が10 分以内という迅速分析が可能であった しかし, 天然アミノ酸の1つで, 清酒の苦味に寄与するアミノ酸であるアルギニンが検出できないという欠点があった そこで今回, 液体クロマトグラフィー - 質量分析装置 (LC/MS) と非ラベル化アミノ酸分析カラムを用いて, 多重反応検出 (Multiplereactionmonitoring:MRM) モードによる, アルギニンを含んだ20 種類の遊離アミノ酸分析の検討を行った 条件検討の結果, 化学的な前処理を行わなくても,1 試料 15 分で,20 種類のアミノ酸を分離 検出することができ, ほとんどのアミノ酸が 1-25mM の濃度幅で良好な検量線を作成できた またこの条件を用いた, 実試料 ( 麹汁培地, 清酒 ) のアミノ酸分析でも, 再現性の高い結果が得られた 本法で得られる多成分データは, 食品, 特に清酒の品質管理に大きく貢献できると考えられる 1. はじめに食品におけるアミノ酸は, 三大栄養素の1つであるタンパク質の構成成分であるとともに, ヒトが口にしたとき, 個々に甘味, 酸味, 苦味を感じたり, 他成分との相乗効果でうま味を感じるといった, 味に寄与する成分でもある ゆえに, 食品に含まれるアミノ酸の量やその組成は, 食品産業分野において重要な分析項目の1つとなっている アミノ酸分析には, 現在ガスクロマトグラフィー (GC) や高速液体クロマトグラフィー (HPLC) が用いられている 本チームでは従来, アミノ酸分析キット EZ:faast(Phenomenex) によるプレラベル化法を用いた 1) GC 分析を採用してきた しかし, この方法では,1 試料 10 分以内で再現性の高い分析が可能であるが, 天然アミノ酸の1つであるアルギニンが検出できないという欠点がある アルギニンは, 清酒の苦味に大きく寄与することが報告されており 2), 清酒製造の技術貢献を目的としている本チームにとっては, アルギニンも分析可能な, アミノ酸迅速分析方法を確立する必要があった 一方で,HPLC を用いた方法では, ポストラベル化法によるイオン交換クロマトグラフィー 3) やプレラベル化法による逆相クロマトグラフィー 4) があるが, 前者は検出させる複数のアミノ酸を, クロマトグラム上で完全に分離しなければならないため, 分析時間の短縮が困難であること, 後者は分析前にラベル化 操作が必要であり, 試料マトリックスによってはラベル化効率が下がる可能性があること, といった難点があった 近年普及している質量分析装置 (Masspectrometer: MS) は, 物質をイオン化し, その質量電荷比 (m/z) を選択的に検出 追跡することができる装置である これをGC やHPLC の検出器として利用することで, クロマトグラフィーによるピークの分離が完全でなくとも, 特定のm/z を追跡し, 複数の成分を同時に, 且つ高感度に検出することが可能となった さらに近年, インタクト株式会社から, 液体クロマトグラフィー - 質量分析装置 (LC/MS) 専用の非ラベル化アミノ酸分析カラムが開発された ( 図 1 左 ) このカ 図 1 左 : 非ラベル化アミノ酸分析カラム (Intrada AminoAcid,Imtakt), 右 : 液体クロマトグラフィー質量分析装置 (AQUITY TQD,Waters) -96-

京都市産業技術研究所 ラムは, ギ酸 -アセトニトリル溶液とギ酸アンモニウム溶液という,2 つの移動相を用いたグラジエント溶出によって, 天然アミノ酸 20 種類を分離することができるカラムである 本チームでは今年度,GC では分析できなかったアルギニンを含む, 天然アミノ酸 20 種類をより迅速に分析することを目的とし, 上記の非ラベル化アミノ酸分析カラムと本研究所で所有しているLC/MS( 図 1 右 ) を用いて, 遊離アミノ酸分析条件を検討してきた これまでに,LC/MSによる選択イオン検出 (Selectedion monitoring:sim) モードを用いて, 実際の試料による良好な分析結果が得られ, 酒研会報にて報告している 5) SIM モードとは, 特定のm/z を持つ物質を追跡し, 選択的に検出するモードである 本ノートでは, さらに検討を進め,LC/MSのもう1つの検出モードである多重反応検出 (Multiplereaction monitoring:mrm) モードによる分析条件を確立したので, その結果を報告する MRM モードとは,SIM モードで選択した物質にエネルギーを当てて, 物質を開裂させることで生成したプロダクトイオンの m/z を追跡するモードであり,SIM モードよりも選択性が高く, 高感度な検出が可能である 2. 実験方法 2.1 標準アミノ酸の分析天然アミノ酸 20 種類のうち, トリプトファン, アスパラギン, グルタミンについては, 蒸留水を用いて10 mmol/l 混合溶液を作成した それ以外のアミノ酸については,0.1N HCl を用いて10mmol/L 混合溶液を作成した ただしシスチンのみ, 濃度を5mmol/L にした 両液は-80 Cで保存した 使用時は両液を混合し, 0.1% ギ酸を用いて希釈して1,5,10,25,50,100, 500,1000mmol/L のアミノ酸混合標準溶液を作成して分析に供した ( この時シスチンは各濃度値の半分となる ) LC/MSの分析条件を表 1に示す 2.2 実試料を用いたLC/MSによる遊離アミノ酸分析実試料として, 麹汁培地および清酒サンプルを用いた 試料は0.1% ギ酸を用いて200 倍に希釈し,0.45mm フィルターによるろ過後, 分析に用いた LC/MS 分析条件は表 1の通りである 試料濃度は, 各アミノ酸のピーク面積と原点を通る標準溶液 1,5,10mmol/L の検量線を基に算出した 表 1 LC/MS 分析条件 3. 結果と考察 3.1 標準アミノ酸の検量線とその直線性各アミノ酸のm/z とそのプロダクトイオンの m/z の組み合わせ (MRM トランジション ) の決定には, Maslynx ソフトウェア (Waters) のInteliStart 機能を用いた その際のMS 検出はエレクトロスプレーイオン化 (ESI),Positive モードで行った 得られた各アミノ酸の MRM トランジションを表 2に示す これを用いて, アミノ酸混合標準溶液を分析し, 原点を通る検量線を作成した 図 2はアミノ酸混合標準溶液 10mmol/L のマスクロマトグラムである 分析開始後 9 分までに,20 種類のアミノ酸が検出されている 検量線については,20 種類すべてのアミノ酸において,500-1000mmol/L の間で検量線が飽和する傾向が見られた 表 2に示すように, 一部を除き, ほとんどのアミノ酸は,1-25mmol/L の濃度幅において直線性の寄与率 r2 が0.99 以上となった プロリン, シスチン, ヒスチジンは,1-10mmol/L においてr2 が0.99 以上となった リジンは1-10mmol/L, アルギニンは1-25mmol/L においてr2 が0.98 となった よって, これらの濃度範囲で20 種類のアミノ酸の良好な検量線が得られることが示された -97-

図 2 アミノ酸混合標準溶液のマスクロマトグラム (Cystine:5μmol/L, その他 :10μmol/L) 3.2 実試料の遊離アミノ酸分析表 3に麹汁培地および清酒サンプルの各遊離アミノ酸濃度とCV 値を示す 試料を200 倍に希釈しても, 麹汁培地のシスチンを除き, すべてのアミノ酸を検出し, 濃度を算出することができた また3 回分析によるCV 値も, 一部 10% を超えているが, ほとんどのアミノ酸で10% 未満となり, おおむね再現性の高い結果が得られた 表 4では, 同サンプルを SIM,MRM の両モードで分析した時の濃度値を比較した MRM モードでのアミノ酸の濃度値は, ほとんどがSIM モードの場合から ± 数 % の差で収まっていたが, 麹汁培地のグルタミン, アスパラギン, リジン, アルギニンでは ±10% 超, 清酒サンプルのアスパラギン酸およびアスパラギンでは ±10% 超, アルギニンでは ±20% 超の違いが見られた SIM モードよりもMRM モードで濃度値が低くなる 原因としては次のようなことが考えられる 化学的な前処理なしの試料にはアミノ酸以外にも様々な成分が含まれている SIM モードのような一段階のm/z 選択では, 試料分析時に, アミノ酸と同じm/z 値を持つ成分を同時に検出し, ピークを過大検出している可能性がある 一方,MRM モードで濃度値が大きくなる原因に関しては, 現在のところ不明である しかし,MRM は m/z 値を二段階で選択するため,SIM よりも選択性は増している ゆえに今回の結果も, 原理的にMRM による濃度値の方がより妥当な値であると考えられる 麹汁培地のシスチンについは,SIM モードで1.75 ppm と検出されたが, 実際のクロマトグラムを見ると, ノイズをピークとして検出していた クロマトグラムにおけるベースラインのノイズの大きいSIM モードでは, 希釈後試料の濃度が低かったため, そのノイズに目的ピークが埋もれてしまい, 正しいピーク検出を行 -98-

京都市産業技術研究所 表 2 各アミノ酸の MRM トランジションと検量線の直線性 表 3 麹汁培地と清酒サンプルのアミノ酸分析結果 えなかったことが原因だと考えられる 同試料を, クロマトグラムのノイズが小さくなるMRM モードで分析したところ,200 倍希釈した麹汁培地ではシスチンのピークは現れなかった これらの結果から, この希釈倍率では麹汁培地中のシスチンは正しく検出されないことが示された 一方で, 清酒サンプル中のシスチンはSIM,MRM モードともに検出された 食品中のアミノ酸濃度には大小があるため, 各アミノ酸濃度が LC/MSの検出範囲に収まるように, 試料の希釈倍率を考慮した方が, より正確な分析値を得られると考えられる 4. まとめ今回検討した分析条件により, 試料の前処理なしに, 1 試料全 15 分で20 種類のアミノ酸を分析することが可能となった 実際の食品試料を含め, 分析値の再現性も比較的良好であった 特に清酒の苦味に寄与するアルギニンは,GC では分析できなかったが,LC/MS を用いた今回の分析条件により分析可能である そのため, 本分析方法で得られる多成分データは, 食品, 特に清酒の品質管理に大きく貢献できると考えられる 今後, この分析条件を活用し, 様々な試料のデータを蓄積していく予定である -99-

表 4 SIR モードと MRM モードの比較 文献 1) 特開 2000-310626. 2) 岩男君夫他 : 日本醸造協会誌,99[9],659(2004). 3)M.W.Dong,J.R.Gant:J.Chromatogr.A,327, 17(1985). 4)R.L.Heinrikson,S.C.Meredith:Anal.Biochem, 136[1],65(1984). 5) 清野珠美 : 酒研会報,54,39(2015). -100-