連載 多様な働き方 時代の 賃金設計 前回は ランク型賃金表 ( 1) を使って 勤務地限定社員を取り扱う方法を解説しました 全国転勤可能な社員には 将来の転勤要請に応えられる貢献度を考慮する必要があるため 勤務地限定社員と全国社員の評価レートに差をつけることが前回のポイントでした 具体的には 図表 1 のように 勤務地限定社員は全国社員よりも評価レートを 1 点低くし 賃金表の適用ランクも 1 ランク低く設定しましたね 1: ランク型賃金表 は株式会社プライムコンサルタントの登録商標です 今回は パートタイマー ( 2) の取り扱いについて考えていきます 従来は パートタイマーの賃金を正社員の賃金とは関係なく設定し 例えば図表 2 のような時給表で管理していた会社が大半ではないでしょうか あるいは パートの時給は一律 950 円 昇給なし というように 入社以降 時給改定が全くないケースもたくさん ありました 2: 本稿において パートタイマー は パートタイム労働法の短時間労働者の定義にならって 1 週間の所定労働時間が通常の労働者より短い人 を指すことにします しかし これからの 多様な働き方 の時代には 雇用区分の違いと処遇の違いの関係を合理的に説明して納得してもらうことが必要不可欠となります すでに 2015 年 4 月施行の改正パートタイム労働法には 短時間労働者の待遇について 通常の労働者の待遇との相違は 職務の内容 人材活用の仕組み その他の事情を考慮して 不合理と認められるものであってはならない ( 第 8 条 ) と規定されており パートだから 非正規社員だから という雇用区分の違いを理由にはできなくなっています さらに 政府が重要政策の一つに掲げる 同一労働同一賃金の実現 の流れの中で よりいっそう明快な説明が求められること 40 先見労務管理 2017.2.25
多様な働き方 時代の賃金設計 図表 1: ランク型賃金表を用いた勤務地限定社員の取り扱い ( 例 ) 基本給表 役割責任 号数ランク月額 Ⅰ 等級 Ⅱ 等級 Ⅲ 等級 Ⅳ 等級 Ⅴ 等級 14 S=14 点 13 S=13 点 A=13 点 12 S=12 点 A=12 点 B=12 点 11 S=11 点 A=11 点 B=11 点 C=11 点 10 S=10 点 A=10 点 B=10 点 C=10 点 D=10 点 9 S=9 点 A=9 点 B=9 点 C=9 点 D=9 点 8 S=8 点 A=8 点 B=8 点 C=8 点 D=8 点 7 S=7 点 A=7 点 B=7 点 C=7 点 D=7 点 6 S=6 点 A=6 点 B=6 点 C=6 点 D=6 点 5 S=5 点 A=5 点 B=5 点 C=5 点 D=5 点 4 A=4 点 B=4 点 C=4 点 D=4 点 3 B=3 点 C=3 点 D=3 点 2 C=2 点 D=2 点 1 D=1 点全国社員 勤務地 限定社員 ( 注 ) 表中の点数 (1 点 14 点 ) は対応する評価レートを表す Ⅰ 等級 Ⅴ 等級のランクは 全国社員にはグレーの範囲 勤務地限定社員には白地の範囲を適用する 図表 2: パートタイマーの時給表の例 ( 単位 : 円 ) 初級 中級 上級 1 号俸 850 900 950 2 号俸 855 905 955 3 号俸 860 910 960 4 号俸 865 915 965 5 号俸 870 920 970 6 号俸 875 925 975 7 号俸 880 930 980 8 号俸 885 935 985 9 号俸 890 940 990 10 号俸 895 945 995 11 号俸 900 950 1,000 2017.2.25 先見労務管理 41
連 載 は間違いありません そこで本連載では 正社員の基本給表と関連付けてパートタイマーの賃金を決定する方法をお奨めしたいと思います 具体的にはランク型賃金表を応用するわけですが このようにすると正社員の処遇と比較しやすいばかりでなく 賃金管理の実務がとてもシンプルにできるというメリットもあります では 実際にどのような考えで賃金制度を組み立てていけばよいのか 今回は 基本的なポイントを解説したいと思います 1 賃金を時給換算で比較すること正社員とパート社員では労働時間が異なります そこで賃金水準の比較は 月給ではなく正社員の基本給を時給に直して行います 今 月平均所定労働時間が 160 時間の会社の高卒初任給 ( 初任等級はⅠ 等級 ) が 16 万 5000 円だった場合 165,000 160 1,031 ですので 時給は 1031 円ということになります もし この会社のパート時給が 900 円だったとすると 高校新卒の正社員よりも時給ベースで 131 円も差があることになり 両者に大きな水準格差があることがわかります ( 3) 3: 仮に時給 900 円で 160 時間働くと 14 万 4000 円ですので 月給ベースで考えると 2 万 1000 円も低いことになります 2 総合的な貢献度を比較できるようにすること先の例のように時給ベースで 131 円もの差があると その理由を知りたくなります ね これに対し パートだから 非正規社員だから ということではなく 合理的に答えるためには 社員の 総合的な貢献度 に基づいて説明する必要があります 総合的な とつけた意味は 社員の貢献度を次のように幅広い観点から判断するからです ( ア ) 今 どんな仕事をしているか ( イ ) その仕事でどんな働きぶりを示しているか ( ウ ) 将来 仕事や勤務地の変更要請に対応できるかどうか ( ア ) は パートタイム労働法の 職務の内容 ( 業務の内容及び責任 ) に相当します これを調べるために 職務分析などの手法が紹介されていますが ( 4) 本連載で推奨している役割等級では 社員に任せる役割責任を定義していますので パート社員の役割責任を整理することで明確化できると考えています ここでいう 業務の内容及び責任 は 単に仕事の種類や担当範囲だけでなく 例えば働ける曜日や労働時間 時間外勤務への対応に制約があったり パートにはクレーム対応や業績目標に対する結果が問われなかったりという責任の違いなども含まれます 4: 職務の内容の比較について 厚生労働省は次のような手法を紹介しています いずれも 同省のホームページから閲覧 ダウンロードできますので興味のある方は参考にしてください 職務分析 職務評価実施マニュアル及び試行ツール http://www.mhlw.go.jp/bunya/ 42 先見労務管理 2017.2.25
多様な働き方 時代の賃金設計 koyoukintou/parttime/job_analysis. html 社内の職務( 役割 ) 評価の方法 http://part-tanjikan.mhlw.go.jp/esti mation/ ( イ ) は 勤務成績の評価のことです これまでの評価制度で支障がなければそれを使えばよいですし 従来の評価が整理した役割責任と合わなかったり そもそも評価がなかった場合は 仕事に即した評価制度を作る必要があるでしょう 筆者は 二つの理由から 今後はパート社員にも働きぶりの評価を行って 定期的に賃金を改訂することが一般的になると考えています 一つ目の理由は 賃金改定があること ( 昇給だけでなく 場合によっては降給もある ) は 労働者のモチベーションを保つうえで重要な要素だからです 1 年前後の短期間ならともかく 数年間働けば仕事の熟練度は上がります 初めは時間がかかっていた作業も 経験を重ねるとともに正確かつスピーディーにできるようになるでしょう 仕事の生産性が上がっているのに賃金が据え置きでは張り合いがありません また どんなに働きが悪くても賃金は絶対に下がらないということでは 手抜きをする人が出たり 真面目に努力している人が不満になったりしかねません 2018 年 4 月以降は 労働契約法の 5 年超の有期雇用は無期雇用に転換できる 規定に基づく無期転換社員が発生します 多くの無期契約パート社員が生まれることが予想され パート社員にも長期勤続を前提 2017.2.25 先見労務管理 としたモチベーション管理が不可欠となるでしょう 実際 筆者のクライアント企業でも 社長さんが パート時給が 10 年以上変わらない仕組みは問題だとして パート社員にも評価制度を導入し 時給改定を行うようにした例があります もう一つの理由は 昨年 12 月 20 日に政府が発表した 同一労働同一賃金ガイドライン案 の中で次のように記されているためです 2 -⑴-4 昇給について 勤続による職業能力の向上に応じて行おうとする場合昇給について 勤続による職業能力の向上に応じて行おうとする場合 無期雇用フルタイム労働者と同様に勤続により職業能力が向上した有期雇用労働者又はパートタイム労働者に 勤続による職業能力の向上に応じた部分につき 同一の昇給を行わなければならない また 勤続による職業能力の向上に一定の違いがある場合においては その相違に応じた昇給を行わなければならない 法制化はこれからですが 一つ目の理由と相まって パート社員にも 職業能力の向上に応じた昇給 をする動きが広がるとみて間違いないでしょう さて 貢献度の観点の ( ウ ) は パートタイム労働法の 人材活用の仕組み ( 人事異動等の有無及び範囲 ) に相当するもので 前回の勤務地限定社員でとりあげた 転勤できるかどうか という要素もこの観点に 43
連 載 入ります 正社員とパート社員の違いを明らかにするために 職種の変更や転勤の有無などをていねいに整理することが求められます このように パート社員についても 役割責任 評価 人材活用の仕組み を正社員と比較可能な形で明確化することによって 貢献度を比べる根拠が揃います 3パートタイマーの時給表を正社員の賃金表と関連付けて設定することパート社員にも評価に応じた賃金改定を行うには パート社員用の時給表が必要になります パート社員の役割責任にふさわしい時給の範囲を定め 評価に応じた昇給 降給ができるように号俸表を用意します このとき 正社員の賃金表との関係が分かるように設定することがポイントです そのために 正社員の基本給範囲をランクに区分したのと同じように パート時給 図表 3: パートタイマー 勤務地限定社員を含めたランク型賃金表のイメージ ( 例 ) 基本給表 役割責任 号数ランク月額月額 P1 等級 P2 等級 Ⅰ 等級 Ⅱ 等級 Ⅲ 等級 Ⅳ 等級 Ⅴ 等級 16 S=16 点 15 14 13 12 11 10 9 S=15 点 A=15 点 S=14 点 A=14 点 B=14 点 S=13 点 A=13 点 B=13 点 C=13 点 S=12 点 A=12 点 B=12 点 C=12 点 D=12 点 S=11 点 A=11 点 B=11 点 C=11 点 D=11 点 S=10 点 A=10 点 B=10 点 C=10 点 D=10 点 S=9 点 A=9 点 B=9 点 C=9 点 D=9 点 8 S=8 点 A=8 点 B=8 点 C=8 点 D=8 点 7 S=7 点 S=7 点 A=7 点 B=7 点 C=7 点 D=7 点 6 A=6 点 A=6 点 B=6 点 C=6 点 D=6 点 5 S=5 点 B=5 点 B=5 点 C=5 点 D=5 点 4 A=4 点 C=4 点 C=4 点 D=4 点 3 B=3 点 D=3 点 D=3 点全国社員 2 1 C=2 点 D=1 点 勤務地限定社員 ( 注 ) 表中の点数 (1 点 16 点 ) は対応する評価レートを表す Ⅰ 等級 Ⅴ 等級のランクは 全国社員にはグレーの範囲 勤務地限定社員には白地の範囲を適用する 44 先見労務管理 2017.2.25
多様な働き方 時代の賃金設計 の範囲をランクに区分します そのうえで 正社員の基本給表を時給換算したものと一覧で表示すれば 賃金の高さを相互比較できるようになります 通常 パート社員の賃金は正社員よりも低いので 賃金表には正社員のⅠ 等級よりも低い金額が必要になり これまで見てきたよりも金額幅の広い賃金表を設計することになるでしょう 4 評価レートと時給の改定基準を設定することもう一つのポイントは 時給の運用ルールを正社員と同じような形で整備しておくことです ランク型賃金表ですので 時給改定はランクと評価の兼ね合いで改定号数を決める段階接近法 ( 5) で行います そのために パート社員の評価レートを定め 号俸改定のマトリクス表を作ります この評価レートを正社員と並べて表示すれば パート社員の貢献度も雇用区分を超えた共通の軸で比較していることが一目瞭然となります 図表 3 は 正社員とパート社員 および前回検討した勤務地限定社員をひとつながりのランク型賃金表で取り扱い それぞれ の適用ランク 評価レートを設定したイメージ図です 5: 段階接近法 は株式会社プライムコンサルタントの登録商標です 以上が パートタイマーの賃金制度を構築する基本的な考え方です 次回は これに基づいて具体的に賃金表を作る手順を解説していきたいと思います < 補足 > 政府の 同一労働同一賃金ガイドライン案 では 手当や賞与による待遇格差の是正についても挙げられていますが これらについては改めて触れることとし 本連載ではしばらくは最も重要な基本給に絞って解説していきます たなか ひろし 1966 年生まれ 広島大学理学部卒業後 東ソー にて研究開発 技術営業に従事 英語教育業を経て 2006 年 プライムコンサルタントに入社 幅広い業種で会社と社員の良い絆づくりを目指したコンサルティングを展開する 中小企業診断士 日本人材マネジメント協会会員 ゴールドラット スクール認定トレーナー (TOC Management Tools Basic) TOC-ICO 認定 Jonah 2017.2.25 先見労務管理 45