市場と経済A

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税法実務コース 所得税 学習スケジュール 回数 学 習 テ ー マ 内 容 第 1 章 テーマ1 所得税の仕組みテーマ2 所得税額の計算テーマ3 非課税所得 所得税の仕組み 税額計算 所得税が課税されないものについて学習します テーマ1 各種所得金額の計算の概要テーマ2 利子所得テーマ3 配当所得

スライド 1

FX取引に係る確定申告について

スライド 1

ワコープラネット/標準テンプレート

妙高市 税に関するWEBページ

2. 改正の趣旨 背景給与所得控除 公的年金等控除から基礎控除へ 10 万円シフトすることにより 配偶者控除等の所得控除について 控除対象となる配偶者や扶養親族の適用範囲に影響を及ぼさないようにするため 各種所得控除の基準となる配偶者や扶養親族の合計所得金額が調整される 具体的には 配偶者控除 配偶

妙高市 税に関するWEBページ

3 ページ 4 ページ 5 ページ 5 6 ページ 7 ページ 8 ページ 8 ページ 9 ページ 10 ページ 2

所得控除 雑損控除 医療費控除 社会保険料控除等 旧生命保険料控除 旧個人年金保険料控除 ( 実質損失額 - 総所得金額等の合計額 10%) 又は ( 災害関連支出の金額 -5 万円 ) のうち いずれか多い方の金額医療費の実質負担額 -(10 万円と総所得金額等の 5% のいずれか低い金額 ) 限

以下の表のように計算されます 総 所 得 金 額 所得控除 課税総所得金額 退職所得金額 雑 損控除額 課税退職所得金額 山林所得金額 土地等に係る事業所得等の金額 土地建物等に係る譲渡所得金額 医療費 社会保険料 小規模企業共済等掛金 生命保険料 地震保険料 配偶者 配偶者特別 課税山林所得金額

平成19年度市民税のしおり

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5 事業用の車両等を売却 ( 譲渡 ) した場合の売却益 ( 譲渡益 ) 売却損 ( 譲渡損 ) については 事業所得とはならない 総合課税の譲渡所得 ( 土地 建物以外 ) の扱いになり 所有期間 (5 年超か以下か ) によって長期譲渡所得 短期譲渡所得に区分される 6 使用可能期間が1 年未満

e-PAP確定申告_【電子申告】第3者作成書類の添付省略

平成19年度分から

(2) 源泉分離課税制度源泉分離課税制度とは 他の所得と全く分離して 所得を支払う者 ( 銀行 証券会社等 ) がその所得の支払の際に 一定の税率で所得税を源泉徴収し それだけで所得税の納税が完結するものです 1 対象となる所得代表的なものとして 預金等の利子所得 定期積金の給付補てん金等があります

平成19年度税制改正.xls

第5回基礎問題小委員会 礎5-4

配当所得は 他の所得と総合し 累進税率を適用して税額を計算しますが 一定の上場株式等の配当等については 他の所得と分離して税額を計算する申告分離課税を選択することができます ただし 申告分離課税を選択すると 配当控除を受けられず 確定申告をする一定の上場株式等の配当等の全てについて総合課税とするか

市場と経済A

Microsoft Word - 個人住民税について(2018~2022)

MR通信H22年1月号

( 3 ) 所得税法上 非課税となっているもの給与所得者の通勤手当公的年金の遺族年金 障害年金雇用保険の失業等給付生活用動産の譲渡損害賠償金 見舞金 慰謝料など宝くじの当選金など これらによる 収入 は 社会政策的な見地などから 所得 扱いされない = 非課税となる Ⅱ 確定申告が必要となる人は誰か

資料5 表紙

第 3 表所得控除表 ( 続 ) ( その 2) 合計 事業所得者 生 命 保 険 料 控 除 一般 個人年金 介護医療 人員 金額 人員 金額 人員 金額 合 70 万円以下 100 万円 150 万円 200 万円 250 万円 300 万円 400 万円 500 万円 600 万円 700 万


Microsoft Word - 個人住民税について

平成 31 年度 ( 平成 30 年分 ) 所得控除 雑損控除 納税義務者又はその者と生計同一の配偶者 その他親族が有する資産について 災害 盗難 横領によ る住宅 家財 現金の損害一定額 控除計算 A B いずれか多い方の金額 A:( 損失額 - 保険金等による補てん額 )-( 総所得金額等の合計

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第6回税制調査会 総6-3

[2] 株式の場合 (1) 発行会社以外に譲渡した場合株式の譲渡による譲渡所得は 上記の 不動産の場合 と同様に 譲渡収入から取得費および譲渡費用を控除した金額とされます (2) 発行会社に譲渡した場合株式を発行会社に譲渡した場合は 一定の場合を除いて 売却価格を 資本金等の払戻し と 留保利益の分

Ⅰ 年の中途で行う年末調整の対象となる人 年末調整は 原則として給与の支払者に 給与所得者の扶養控除等 ( 異動 ) 申告書 ( 以下 扶養控除等申告書 といいます ) を提出している人について その年最後に給与の支払をする時に行うことになっていますので 通常は12 月に行うこととなりますが 次に掲

著作権について 本冊子は著作権法で保護されている著作物であり 本冊子の使用に関しては 以下の点にご注意くださ い 本冊子の著作権は 創企株式会社に属します 創企株式会社の許可なく 本冊子の全部又は一部をいかなる手段においても複製 転載 流用 転売 する事を禁じます 創企株式会社の許可なく 本冊子から

所得控除 基礎控除 配偶者控除などの下記の表に記載されたものをいいます それぞれ一定の要件を満たしている場合は 課税所得金額を計算する際に それぞれの控除が受けられます 個人の県民税 個人の市町村民税 12

PowerPoint プレゼンテーション

平成16年度

「経済政策論(後期)《運営方法と予定表(1997、三井)

所得控除 基礎控除 配偶者控除などの下記の表に記載されたものをいいます それぞれ一定の要件を満たしている場合は 課税所得金額を計算する際に それぞれの控除が受けられます 個人の県民税 個人の市町村民税 12

税金読本(3-2)住民税(所得割)の計算方法と納税

3 総合所得の種類と計算方法 ( 分離所得については市役所にお問い合わせください ) 所得の種類 事業 営農 業 等業 不 動 産 利配給雑 子当与公的年金等その他 ( 総合 ) 譲渡一時 概要農業 漁業 製造業 卸売業 小売業 サービス業その他の事業から生ずる所得建物や土地などの不動産 借地権など


< 所得控除の詳細 > 1 所得控除額計算一覧表 控除名 控除の詳細 控除額町県民税 控除額 参考 所得税 次の イ と ロ のい 次の イ と ロ のい ずれか多い方の金額 ずれか多い方の金額 災害や盗難等により 本人や本 イ ( 損害金額 - 保険 イ ( 損害金額 - 保険 雑損控除 人と同一

退職金についての市県民税はどうなるの? 私は平成 28 年 4 月に退職しました 勤続 30 年で退職金は 2,100 万円ですがこの退職 金に対する市県民税はいくらですか 通常の市県民税の課税は前年中の所得に対し翌年課税されるしくみになっていますが 退職金に対する課税については 他の所得と分離して


1: とは 居住者の配偶者でその居住者と生計を一にするもの ( 青色事業専従者等に該当する者を除く ) のうち 合計所得金額 ( 2) が 38 万円以下である者 2: 合計所得金額とは 総所得金額 ( 3) と分離短期譲渡所得 分離長期譲渡所得 申告分離課税の上場株式等に係る配当所得の金額 申告分

3 所得から差し引かれる金額に関する事項 及び 4 所得から差し引かれる金額 控除の種類内容 10 雑損控除 11 医療費控除 12 社会保険料控除 13 小規模企業共済 等掛金控除 14 生命保険料控除 15 地震保険料控除 16 寡婦 ( 夫 ) 控除 17 勤労学生控除 18 障害者控除 19

平成16年度

(1) 所得階級別人員 区 分 給与所得者 所得者別内訳 雑所得者 他の区分に該当しない所得者 人人人人人人人人人 70 万円 以下 25,319 1,201 20,012 54, ,063 6, , 万円 12,048 2,039 8,935 22,

第 11 表の 1 平成 25 年度個人の市町村民税の納税義務者等に関する調 所得割のみを納める者 納税義務者 ( 人 ) 所得割額 ( 千円 ) 給与所得者営業等所得者農業所得者その他の所得者給与所得者営業等所得者農業所得者その他の所得者 1 下 関 市

受付印 平成 29 年度市民税 県民税申告書台帳番号 現住所 宛名番号個人番号 ( マイナンバー ) 明 大 昭 平 明 大 昭 平 明 大 昭 平 明 大 昭 平 明 大 昭 平 続柄 同居 住所 同居 同居 同居 2 別居 別居 別居 別居 専従者控除額 専従者控除額 専従者控除額 特別控除額

PowerPoint プレゼンテーション


平成 28 年度市民税 県民税申告の手引き 申告書を提出しなければならない人平成 28 年 1 月 1 日現在 幸手市内に住所を有する人 (1 月 2 日以降に幸手市に転入した人は従前の住所地で申告を行ってください ) ただし 次に該当する人は この申告をする必要はありません 1 平成 27 年分の

所得税改革の次なる論点は?

1 個人住民税の見直しの方向性 ( その 1) 論点 1 住民税の所得控除については 控除項目 金額ともに所得税の範囲内としてきたところであり 所得税にお いて成年扶養控除 配偶者控除を見直す場合には 税体系上の整合性の観点等から 住民税についても同 様に見直すこととしてはどうか 所得税の給与所得控

計算してみましょう あなたの個人住民税はいくらになりますか? 高知市に住む T さんの場合 ( サラリーマン ) 家 族 妻 ( パートタイム労働者 収入 120 万円 : 所得 =120 万円 -65 万円 =55 万円 ) 子 人大学生 中学生 収 入 万円 社会保険料 万円 新生命保険料 万円

新・NPO法人申請マニュアル.pwd

VBA 所得税確定申告書 システムのご利用と注意事項について システムのご利用について このシステムは データ入力用のユーザーフォームと表示と印刷用のエクセルのワークシートにより構成されています このシステムの利用には Microsoft 社の Excel 2016/2013/2010 が必要になり

平成13年度 住民税のしおり

賦課の根拠となった法律及び条例(その2)

2018年 租税法基礎答練1回

(3) 市町村民税の特別徴収義務者に関する調 ( ロ ) 年金特徴に係る分 特別徴収義務者数 ( 単位 : 人 千円 ) 納税義務者数 特別徴収税額 特別徴収税額の内訳 (b)+(c) 納税義務者数うち均等割のみ (a) 所得割額 (b) 均等割額 (c) 高知市 9 19,810 3,962 60

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地震保険料 寡婦控除寡夫控除 あなたやあたなと生計を一にする配偶者その他の親族が所有している居住用家屋 生活用動産を保険や共済の目的とする契約で かつ 地震 噴火又は津波等を原因とする火災 損壊等による損害の額を補てんする保険金や共済金が支払われる地震保険 また平成 18 年末までに結んだ保険期間

「経済政策論(後期)《運営方法と予定表(1997、三井)

改正された事項 ( 平成 23 年 12 月 2 日公布 施行 ) 増税 減税 1. 復興増税 企業関係 法人税額の 10% を 3 年間上乗せ 法人税の臨時増税 復興特別法人税の創設 1 復興特別法人税の内容 a. 納税義務者は? 法人 ( 収益事業を行うなどの人格のない社団等及び法人課税信託の引

入力に必要な書類(所得税)

投資法人の資本の払戻 し直前の税務上の資本 金等の額 投資法人の資本の払戻し 直前の発行済投資口総数 投資法人の資本の払戻し総額 * 一定割合 = 投資法人の税務上の前期末純資産価額 ( 注 3) ( 小数第 3 位未満を切上げ ) ( 注 2) 譲渡収入の金額 = 資本の払戻し額 -みなし配当金額

平成19年度 市民税・県民税申告の手引き   安城市

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スライド 1

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2. 改正の趣旨 背景給与所得控除額の変遷 1 昭和 49 年産業構造が転換し会社員が急速に増加 ( 働き方が変化 ) する中 (1) 実際の勤務関連経費が給与所得控除を上回っても 当時は特定支出控除 ( 昭和 63 年導入 ) がなく 会社員は実際の勤務関連経費がいくら高くても実額控除できなかった

Z-64-A 簿記論〔第一問〕-解 答-

給与の所得金額の算出速算表 収入金額 給与所得の金額 0 ~ 650, ,000 ~ 1,618,999 収入金額 -650,000 1,619,000 ~ 1,619, ,000 1,620,000 ~ 1,621, ,000 1,622,000 ~ 1,6

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6 課税上の取扱い日本の居住者又は日本法人である投資主及び投資法人に関する課税上の一般的な取扱いは 下記のとおりです なお 税法等の改正 税務当局等による解釈 運用の変更により 以下の内容は変更されることがあります また 個々の投資主の固有の事情によっては異なる取扱いが行われることがあります (1)

VBA 所得税確定申告書 システムのご利用と注意事項について システムのご利用について このシステムは データ入力用のユーザーフォームと表示と印刷用のエクセルのワークシートにより構成されています このシステムの利用には Microsoft 社の Excel 2016/2013/2010/2007 が

1 見直しの視点 個人住民税の諸控除 住民税の所得控除については 控除項目 金額ともに所得税の範囲内としてきたところであり 所得税において成年扶養控除 配偶者控除を見直す場合には 住民税についても同様の検討が必要ではないか 所得税の給与所得控除や退職所得金額の計算方法の見直しは 住民税には原則 自動

( 外国 ) 同上 ケース ( ) 相続人が取得した全 2 財産に対して課税 ( 外国 ) 国内財産に対しての み課税 ケース ( ) 相続人が取得した全 3 財産に対して課税 ( 外国 ) 同上 ( 平成 25 年度税制改正より ) ケース ( ) 被相続人 相続人いず 4 れも 5 年超居住の場

1 収入金額等 2 所得金額 事業 住民税 ( 市民税 県民税等 ) 申告書の書き方 収入金額とは 所得税や社会保険料を差し引く前の給与 年金 売上金及び賃貸料など 平成 30 年中に収入を得ることが確定した金額をいいます 所得金額とは 収入金額から 必要経費等 ( その収入を得るための必要経費また

平成 31 年度 (2019 年度 ) 特別区民税 都民税 ( 住民税 ) の算出方法 平成 31 年 1 月 1 日現在 渋谷区内に住所がある人に対して 平成 30 年の 1 月から 12 月までの 1 年間の所得を基礎に税額を算 出します 住民税の算出方法は次のとおりです なお 区内に住所がなく

第 1 章 図 所得の種類 15

[Q1] 復興特別所得税の源泉徴収はいつから行う必要があるのですか 平成 25 年 1 月 1 日から平成 49 年 12 月 31 日までの間に生ずる所得について源泉所得税を徴収する際 復興特別所得税を併せて源泉徴収しなければなりません ( 復興財源確保法第 28 条 ) [Q2] 誰が復興特別所

税のあらまし 個人の県民税 市町村民税 個人住民税 市町 村税 県税 この税金は 住民である ということに課され 個人の県民税と市町村民税をあわせて 一般に 個人住民税 と呼んでいます 県や市町で行う住民に身近な行政サービスに必要な 経費を そこに住む住民に分担してもらうことにより 地方自治への関心

上場株式等の譲渡益に係る課税 上場株式等の税金について 上場株式等の譲渡益に係る税率は以下の通りです 平成 25 年 1 月 1 日 ~ 平成 25 年 12 月 31 日 平成 26 年 1 月 1 日 ~ 平成 49 年 12 月 31 日 平成 50 年 1 月 1 日 ~ % (

第22回税制調査会 総22-2

「経済政策論(後期)《運営方法と予定表(1997、三井)

イ税務署へ確定申告書を提出し 所得税の住宅ローン控除の適用を受けている 退職所得 山林所得がある方 所得税の平均課税の適用を受けている方は 住宅ローン控除申告書を提出することにより控除額が大きくなる場合があります 申告書を提出される方は3 月 15 日 ( 月 ) までに申告してください 申告しなけ

【表紙】

名 : 個人住民税参照メッセージ 1 利用業務ユニット X 2 業務ユニット 1 1 データ連携においてデータを利用する側の業務ユニット ( サービス要求側業務ユニット ) の業務ユニット番号 2 識別番号 X 個人 ( 法人を含む ) を識別する番号 3 相当年度 X 賦

給与所得控除 給与収入の金額控除額 162 万 5,000 円以下 65 万円 162 万 5,000 円超 180 万円以下収入金額 40% 180 万円超 360 万円以下収入金額 30% + 18 万円 360 万円超 660 万円以下収入金額 20% + 54 万円 660 万円超 1,00

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必要経費の考え方 所得の種類によって 名前は異なるが 内容としては 必要経費 にあたるものを示していると考える ( 例 ) 配当所得の場合 株式取得の借入金利子給与所得の場合 給与所得控除額雑所得 ( 公的年金 ) の場合 公的年金等控除額譲渡所得の場合 取得費用などの他 特別控除額一時所得の場合


平成24年度 市民税・県民税の申告の手引

平成28年度 いばらき県税ガイドブック

個人市民税 控除・税率等の変遷【市民税課】

iii. 源泉徴収選択口座への受入れ源泉徴収ありを選択した特定口座 ( 以下 源泉徴収選択口座 といいます ) が開設されている金融商品取引業者等 ( 証券会社等 ) に対して 源泉徴収選択口座内配当等受入開始届出書 を提出することにより 上場株式等の配当等を源泉徴収選択口座に受け入れることができま

Transcription:

財政学 Ⅰ 1 第 7 回租税 (2) 所得税 (1) 2016 年 5 月 27 日 ( 金 ) 担当 : 天羽正継 ( 経済学部経済学科准教授 )

2 所得税とは何か 所得税 : 個人の所得に対して課される国税 法人の所得に対して課される国税として 法人税がある そのため 所得税を 個人所得税 法人税を 法人所得税 と称することがある 個人の所得に対して課される地方税として 個人住民税 ( 道府県民税および市町村民税 ) がある 現在 所得税は国税収入の約 3 割を占める (2014 年度決算では31.7% で 金額は16.8 兆円 ) 所得税はまず租税主体に着目し それに帰属する事実を租税客体とする人税 能力 ( 応能 ) 原則に基づき 納税者の経済力に合わせて課税できるため 誂え税 とも呼ばれる 現在の所得税の起源は 1891 年にドイツで導入されたもの 大きく三つの特徴を備える 税率の累進性 所得が多ければ高い税率が適用される 差別性 勤労所得には軽く 資産所得には重く課税 最低生活費の免税 課税最低限を設け それに満たない所得には課税しない

3 所得をどのように捉えるか (1) 周期説 ( 所得源泉説 ): 所得源泉と結び付いた 周期的所得 のみを所得とみなし 一時的所得 は所得とみなさない 周期的所得 : 給与など 生産要素の提供に対して周期的 ( 定期的 ) に支払われる報酬 一時的所得 : 相続や贈与 富くじや賭博の賞金 キャピタル ゲインなど 一時的に得られた利得 資産価値の増加を キャピタル ゲイン 減少を キャピタル ロス と呼ぶ 純資産増価説 : 一定期間内における純資産の増加を所得として捉える 周期的所得だけでなく 一時的所得や帰属所得も含まれる 帰属所得 : 持家や資産の保有 家事労働 自家消費など 貨幣の受け取りはないものの 実際にはそこから便益を享受していることから 生じているとみなされる所得 純資産増価説における所得は 支出の側面から見た場合 一定期間内における経済力の増加 ( 消費 + 資産の純増 ) として捉えられる このような所得概念を包括的所得概念と呼ぶ 所得 = 消費 + 資産の純増 は Y = C + S の関係にほぼ等しい ただし 包括的所得概念における所得には 帰属所得のように貨幣換算されない所得も含まれることに注意 収入の側面から見た場合は 所得 = 周期的所得 + 移転所得 + 帰属所得 + キャピタル ゲイン となる しかし 包括的所得概念をそのまま現実の所得税の課税標準として採用することは不可能 そのため 実際の所得税制度では包括的所得概念を 理念型 としつつ 実行可能な所得概念が模索される

4 所得をどのように捉えるか (2) 包括的所得概念 周期的所得 ( 要素所得 ) 消費所得移転所得 ( 相続 贈与 ) 帰属所得 キャピタル ゲイン 資産 資産 期首 期末 出所 : 神野直彦 財政学改訂版 191 頁

所得額の算定 (1): 総合課税 日本の所得税法は 所得を源泉別に 10 種類 ( 利子 配当 不動産 事業 給与 退職 山林 譲渡 一時 雑 ) に区分 以下の 5 種類の所得は基本的に 合算された上で累進税率が適用される ( 総合課税 ) 不動産所得 : 不動産等の貸付による収入 事業所得 : 個人で営んでいる事業から生じる所得 収入金額から必要経費を差し引いて求められる 給与所得 : 勤務先から受ける給料 賞与等の所得 所得のうち最大の比重を占める 収入金額から給与所得控除を差し引いて求められる 控除額は収入金額によって異なり 最低額は 65 万円 一時所得 : 営利を目的とした継続的行為から生じたものではなく 労務その他の役務としての性質や 資産の譲渡による対価としての性質を有しない一時的な所得 懸賞金 競馬や競輪の払戻金等 雑所得 : その他のいずれにも該当しない所得 公的年金 原稿料 印税等 以上のうち いくつかについては合算されず 分離して課税される 5 相続や贈与 帰属所得等は含まれず 包括的所得概念から乖離

6 所得額の算定 (2): 分離課税 以下の所得は基本的に その他の所得から切り離して課税される ( 分離課税 ) 利子所得 : 預貯金や債券の利子等の分配にかかわる所得 配当所得 : 株主や出資者が法人から受け取る配当等の分配にかかわる所得 退職所得 : 退職により勤務先から支払われる退職手当等の所得 山林所得 : 山林を伐採して譲渡したり 立木のままで譲渡することによって生じる所得 譲渡所得 : 土地 建物 株式 ゴルフ会員権等の資産を譲渡することによって生じる所得 以上の所得のうち 利子所得 配当所得 譲渡所得のうち株式等の譲渡所得には 金融所得として一律 20% ( 所得税 15% 住民税 5%) の税率が適用される 退職所得と山林所得が分離課税されるのは 長期間かけて発生する所得であり 短期間で発生する他の所得とは同様に扱えないと考えられているため

7 所得控除 総合課税される所得が決まると 最低生活費を免税するとともに 納税者の個人的事情を勘案するために 所得控除が差し引かれる 所得控除には現在 基礎控除 配偶者控除 配偶者特別控除 扶養控除 医療費控除 社会保険料控除 生命保険料控除 地震保険料控除 障害者控除 寡婦 ( 夫 ) 控除 勤労学生控除 小規模企業共済等掛金控除 寄附金控除 雑損控除がある 基礎控除 : すべての納税者に認められる 金額は 38 万円 配偶者控除 : 配偶者が所得税を支払うだけの所得を稼得していない人に適用 現在 政府で廃止 縮小が検討されている 扶養控除 : 子供や親などを扶養している人に適用 パートやアルバイトの場合 給与が給与所得控除 65 万円と基礎控除 38 万円の合計額である 103 万円以内であれば 所得税を課されない さらに学生の場合 勤労学生控除 27 万円が適用されるので 130 万円まで課税されない 控除のうち 一般的に適用されるもの ( 給与所得控除 基礎控除 配偶者控除 配偶者特別控除 扶養控除 社会保険料控除 ) の合計額を課税最低限と呼ぶ

8 累進税率 (1) 所得から所得控除が差し引かれ 課税所得が決まると それに税率が掛け合わされて税額が決定する 所得税の税率は 課税所得が大きくなるほど高くなる累進税率 より正確には 課税所得の各階層 ( ブラケット ) に対して適用される超過累進税率 超過累進税率構造の下では 課税所得が増加する以上に租税負担が増加するため 比例税率よりも大きな所得再分配機能を有する 現在 超過累進税率は 5%(195 万円以下 ) 10%(195 万円超 330 万円以下 ) 20%(330 万円超 695 万円以下 ) 23%(695 万円超 900 万円以下 ) 33%(900 万円超 1,800 万円以下 ) 40%(1,800 万円超 4,000 万円以下 ) 45%(4,000 万円超 ) の 7 本立て かつては 16 本立て 最高税率 75% という時代もあった ( スライド 9) 例 : 超過累進税率が 10%(100 万円以下 ) 15%(100 万円超 500 万円以下 ) 20%(500 万円超 1,000 万円以下 ) 30%(1,000 万円超 5,000 万円以下 ) の場合 4,000 万円の課税所得に対する税額は以下のように計算される 100 0.10 + (500-100) 0.15 + (1,000-500) 0.20 + (4,000-1,000) 0.30 = 1,070 課税所得の増加額に対する税額の増加額の比率は限界税率 所得控除前の所得額に対する税額の比率は実効税率 所得控除後の課税所得に対する税額の比率は平均税率と呼ばれる

9 累進税率 (2) 所得税の主な税率改正の推移 1950 年 1953 年 1969 年 1984 年 1987 年 1989 年 1995 年 1999 年 2007 年 2015 年 税率 課税課税課税課税課税課税課税課税課税課税税率税率税率税率税率税率税率税率税率所得階級所得階級所得階級所得階級所得階級所得階級所得階級所得階級所得階級所得階級 % 万円 % 万円 % 万円 % 万円 % 万円 % 万円 % 万円 % 万円 % 万円 % 万円 5 195 5 195 10 30 10 300 10 330 10 330 10 330 10 330 10.5 50 10.5 150 12 120 12 200 14 60 14 200 15 2 16 300 17 300 18 100 20 5 20 7 20 500 20 600 20 900 20 900 20 695 20 695 21 400 22 150 23 900 23 900 25 8 25 12 25 600 25 600 26 200 30 10 30 20 30 250 30 800 30 800 30 1,000 30 1,800 30 1,800 33 1,800 33 1,800 34 300 35 12 35 30 35 1,000 35 1,000 37 1,800 ~ 38 400 40 15 40 50 40 1,200 40 1,200 40 2,000 40 3,000 40 1,800 ~ 40 4,000 42 500 45 20 45 100 45 1,500 45 1,500 45 4,000 ~ 46 700 50 50 50 200 50 1,000 50 2,000 50 3,000 50 2,000 ~ 50 3,000 ~ 55 50 ~ 55 300 55 2,000 55 3,000 55 5,000 60 500 60 3,000 60 5,000 60 5,000 ~ 65 500 ~ 65 4,500 65 8,000 70 6,500 70 8,000 ~ 75 6,500 ~ ( 刻み数 ) 8 11 16 15 12 5 5 4 6 7 ( シャウプ勧告 ) ( 富裕税廃止 ) ( 長期税制答申 ) ( 最高限界税率の引下げ ) ( 抜本改革 ) ( 税制改革 ) ( 最高限界税率 ( 最高限界税率 ( 税源移譲後 ) の引下げ ) の引上げ ) 出所 : 江島一彦編著 日本の税制平成 27 年度版 97 頁

10 税額控除 税額が算出された後 必要に応じて一定の金額が税額控除として差し引かれ 納税額が確定する 主な税額控除 配当控除 : 総合課税される配当所得がある場合に 原則として配当所得の 10% または 5% に相当する金額を控除 外国税額控除 : 日本で課税される所得の中に外国で生じた所得があり その所得に対してその外国の法令により所得税に相当する税金が課税されている場合に 一定額を控除 政党等寄附金特別控除 : 政党または政治資金団体に対して一定の寄附金を支払った場合に 寄附金控除 ( 所得控除 ) の適用を受ける場合を除き 一定額を控除 認定 NPO 法人等寄附金特別控除 : 認定 NPO 法人等に対して一定の寄附金を支払った場合に 寄附金控除 ( 所得控除 ) の適用を受ける場合を除き 一定額を控除

得控11 非まとめ : 所得税の課税プロセス 課税所得分離課税所括的所税得除包所合概得総課税念課税課所 税率 = 得税額税額控除 納税額 出所 : 神野直彦 財政学改訂版 192 頁