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IFRS における適用上の論点第 26 回 リストラクチャリング関連コスト 有限責任あずさ監査法人有限責任あずさ監査法人 IFRSアドバイザリー室パートナー山邉道明 IFRSアドバイザリー室シニアマネジャー松田麻子 1. はじめに本連載では 原則主義 であるIFRSを適用する際に 実務上判断に迷うようなケースについて解説しています 第 26 回となる今回は リストラクチャリング関連コストをテーマとして取り上げます リストラクチャリングでは 様々な事項が関連するため 適用すべき基準書も多岐に亘ります 本連載の第 8 回 ( 売却目的で保有する非流動資産及び非継続事業 ) 第 10 回 ( 資産の減損における使用価値 ) 第 13 回 ( 子会社 支店及び関連会社に対する投資等に関する税効果 ) でもリストラクチャリングに関連する論点を取り上げてきましたが 本稿では リストラクチャリングに関連して発生するコストにIAS37 号 引当金 偶発負債及び偶発資産 を適用するに当たって生じる論点をご紹介します また リストラクチャリングに伴う解雇給付については IAS37 号の対象外とされ IAS19 号 従業員給付 を適用することとされているため IAS19 号での取扱いを合わせてご紹介します なお 文中意見にわたる部分は筆者の私見であること 当法人の見解については随時見直しが行われる可能性があることを予めお断りします 2. リストラクチャリングとはリストラクチャリングとは 企業が従事する事業の範囲または事業運営の方法を大きく変更させることとなる 経営者が立案し統制している計画であり 以下が例として挙げられます (IAS37 号第 10 項 70 項 ) 一事業部門の売却や撤退 国もしくは地域における事業所の閉鎖 またはある国もしくは地域から他の国もしくは地域への事業活動の移転 経営管理構造の変更 企業の事業運営の性格と重点に重要な影響を及ぼす根本的な再編成リストラクチャリングは複数のフェーズ ( 計画 決定 公表 従業員や取引先に対する通知 実施等 ) を経て行われるため どの時点で引当金を認識すべきかについて判断を伴います また IAS37 号はリストラクチャリングに必然的に伴うコストであっても継続的活動に関するコストは引当金に含めてはならないと明確に定めているため どのような費用または損失を引当金の対象として測定すべきかについても判断を要します 以下では リストラクチャリング コストの認識 測定につき 従業員給付以外のコストと 従業員給付 ( 解雇給付 ) とに分けて見ていきます

2 3. リストラクチャリング コスト ( 従業員給付を除く ) (1) 日本基準の取扱い日本基準では 将来の特定の費用または損失であって その発生が当期以前の事象に起因し 発生の可能性が高く かつ その金額を合理的に見積ることができる場合に引当金が認識されます ( 企業会計原則注解 18) このため 企業の現在の債務ではない将来の特定の費用または損失も含まれます ( 例 : 修繕引当金 ) また 引当金に関する包括的な会計基準が設定されていないことから リストラクチャリング関連の引当金をどの時点で認識するか コストの範囲をどこまで含めるかについては 多様な実務慣行が存在しているものと考えられます IFRSにおける引当金の認識要件を満たすのは 過去の事象から発生した 法的または推定的な 現在の債務 のみです 策定した計画がIAS37 号の定義するリストラクチャリングに該当する場合には 当該計画について推定的債務の存在を示す事象が発生した時点において リストラクチャリングに必然的に伴うもので かつ継続的活動と関連のないコストについて引当金を計上します (2) 認識 1 基本原則推定的債務は 公式計画があり かつ その計画を実行するという妥当な期待を 影響を受ける人々に対して惹起した時点で発生します (IAS37 号第 72 項 ) この 公式計画 では 以下の事項が明確にされている必要があります 関係する事業または事業の一部 影響を受ける主たる事業所 雇用契約終結による補償を受ける従業員の勤務地 職種 概数 負担する支出 計画が実施される時期また 妥当な期待を惹起する とは 計画の実施を開始するか または 影響を受ける人々に対して当該契約の主要な特徴を公表することをいいます 取締役会の意思決定のみでは推定的債務は発生しません これらの要件は 年金制度の改訂 縮小により生じる過去勤務費用 (IAS19 号第 102 項 ) や解雇給付を除くすべてのリストラクチャリング コストに適用されます 2 売却のケース事業の売却に係る債務は 拘束力のある売却契約が事業の買手との間で締結されるまで発生しません したがって 事業を売却するという決定が公表された後でも 拘束力のある売却契約が締結されるまで債務は発生しないため 引当金は認識されません また 特定の売却取引には規制当局の認可や株主承認が必要な場合があります この場合であっても 締結された売却契約は 規制当局による承認や認可に重要性があり それが大きな障害となると考えられるケースを除き 通常 拘束力を有すると考えられます 当法人の見解では 売却契約に端を発する引当金は 必要な承認や認可を得られる可能性が得られない可能性よりも高い (more-likely-than-not) 場合 契約が成立した時点で費用及び引当金を認識します

3 3 公表の内容及び方法推定的債務の要件の1つとして 計画の主要な特徴を 影響を受ける人々に公表することが挙げられます ただし その公表内容及び方法について具体的な規定はなく 論点となります 公表内容は 影響を受ける人々に 計画が撤回されず実行されるという妥当な期待を惹起するだけの明確性を有することが必要であるため 当法人の見解では 少なくとも以下の内容が公表される必要があります 影響を受ける事業もしくは事業の一部 予想される時期 影響を受ける従業員の職種及びその概数なお 対象の事業が複数の事業所で行われている場合には その計画の詳細さが議論となります 当法人の見解では 影響を受ける事業所が特定されている必要がありますが リストラクチャリングの予測費用まで公表することは求められていません これは 予測費用の公表が リストラクチャリングが実行されるという期待を高める主要因となる可能性は低いと考えているためです また 公表方法として 個々に影響を受ける人々 ( 例 : 従業員 取引先 ) に対する通知までは求められていないと考えられます これは IAS37 号が引当金の認識に際して 債務の相手方を識別することまで要求していないためです とはいえ 影響を受ける人々が潜在的な影響を識別し ( 請求するとした場合に ) 何を請求できるかを理解するために 計画及び計画の公表内容は十分に詳細なものである必要があると考えられます 4 実施予定時期の制限リストラクチャリング計画が推定的債務を発生させるために十分なものであるためには その計画ができるだけ早く開始され 計画に重要な変更が起こり得ないような時間的枠組み ( タイム フレーム ) の中で完了するように計画される必要があります その実施時期について 特段の具体的な制約は規定されてはいません ただし タイム フレームが長期になるほど 企業が計画を変更する機会を持ち得るため 他の者に リストラクチャリングがコミットされているという妥当な期待を惹起しているとはいえないと考えられます 5 会社機関の意思決定原則として 取締役会の意思決定のみでは 意思決定により影響を受ける人々に 何ら妥当な期待を惹起していないため 推定的債務は発生しません ( 例 : 従業員の解雇に関する意思決定 ) ただし 取締役会の意思決定に際して 従業員の代表を含む意思決定機関( 例 : 従業員による経営委員会 ) との対話が必要とされている場合には 従業員の代表を含む意思決定機関による計画の承認によって 影響を受ける従業員への直接的な伝達までは行われていないとしても 推定的債務が発生する可能性があります (3) 測定 1 基本原則リストラクチャリングにかかる引当金の対象となるコストは 前述のとおりリストラクチャリングから発生する直接の支出 すなわちリストラクチャリングに伴い必然的に発生する支出のうち 企業の継続的な活動とは関連がないものです (IAS37 号第 80 項 ) リストラクチャリング引当金に含まれるコストの例として 以下が挙げられます 解約費用 ( 例 : リース契約の解約に係る違約金 )

4 不利な契約に係る引当金 営業中止から最終処分までの見積りコスト 2 引当金に含まれないコスト IAS37 号は 将来の営業損失を引当金として計上することを認めていません 企業の継続的活動にかかるコストであるため リストラクチャリング引当金に含まれないコストの例として 以下が挙げられます 予想される将来の営業費用及び営業損失であって 不利な契約に関連しないもの 従業員の配置転換に伴うコスト 残留を奨励するためにインセンティブとして支払われるボーナス及び報酬 資産や事業の移転費用 4. 解雇給付 (1) 日本基準との相違日本基準上 解雇給付に関する包括的な基準はなく 引当金の一般要件 ( 企業会計原則注解 18) により検討がされているものと考えられます 早期割増退職金と通常の退職給付とを区分する基準もありません これに対して IFRS 上は 解雇給付と他の従業員給付を区別すること 及び解雇給付の認識と測定に関するルールが 以下のとおり規定されています (2) 解雇給付の範囲解雇給付とは 次のいずれかの結果として従業員の雇用の終了と交換に支給される従業員給付をいいます 通常の退職日前に従業員の雇用を終了するという企業の決定 雇用の終了と交換に給付の申し出を受け入れるという従業員の決定 IFRS 上 解雇給付と他の従業員給付を区別することが重要であり 発生要因の特定には判断を伴います これは 解雇給付は解雇の事実から発生し 勤務以外の要件に基づき費用 ( 及び負債 ) 認識されるのに対し 他の従業員給付は給付の対象となる勤務期間等にわたり費用 ( 及び負債 ) 認識するためです 従業員給付が勤務との交換で提供されること ( すなわち解雇給付ではないこと ) を示す指標として 以下が示されています (IAS19 号第 162 項 ) 給付は 将来の勤務提供を条件としている 給付は 従業員給付制度の規約により支給されているまた 従業員給付の形式 ( 早期退職契約等 ) は その発生理由 ( 勤務か解雇か ) の決定要因とはなりません 一般的には 解雇給付は一時金として支払われることが多いものの 退職後給付の引き上げ ( 従業員給付制度を通じて間接または直接に ) や 特定の通知期間の終了までの給与 ( 従業員が勤務をもはや提供しない場合 ) があり 判断が必要です (3) 認識 1 基本原則企業は 解雇給付に係る負債及び費用を 次のいずれか早い方の日に認識します (IAS19 号第 165 項 )

5 企業が 当該給付の申し出を撤回できなくなった時 企業が IAS37 号の範囲内であり解雇給付の支払を伴うリストラクチャリングに係るコストを認識した時なお 企業が解雇給付を認識する場合には 他の従業員給付の制度改定または縮小に関する会計処理も行う必要が生じる場合もあります 2 企業が解雇給付の申し出を撤回できなくなる時点とは企業が解雇給付の申し出を撤回できなくなる時点は 退職の決定が従業員によって行われるか 企業によって行われるかにより 異なる要件が示されています ( ア ) 従業員の決定による場合解雇給付が 雇用の終了と交換に給付の申し出を受け入れるという従業員の決定の結果として支払われる場合 企業が解雇給付の申し出を撤回できなくなるのは 次のいずれか早い方の時点とされます (IAS19 号第 166 項 ) 従業員が申し出を受け入れた時 企業が申し出を撤回できる能力に対する制限 ( 例 : 法律上 規制上又は契約上の要求若しくは他の制限 ) の効力が発生した時 その制限が申し出の時点で存在する場合には 申し出が行われた時となる 設例 1 拒否権を有する解雇給付の申し出 以下の前提で 企業は解雇給付の費用及び債務を認識すべきでしょうか 企業 Aは従業員に対する自発的退職の募集を行うことを決定し 正式で詳細な計画を策定して従業員へ通知した この通知を受けて従業員は応募することができる ただし A 社は応募する従業員に対して自発的退職の提供を拒否する権利を保持している この設例では A 社は自発的退職を拒否することができます したがって 企業が申し出を撤回できる能力に対する制限はなく 解雇給付の費用及び債務を認識することは適切ではないと考えられます ( イ ) 企業の決定による場合従業員の雇用を終了するという企業の決定の結果として支払われる解雇給付について 企業が申し出を撤回できなくなるのは 次の要件すべてを満たす解雇計画を 影響を受ける従業員に企業が通知した時です (IAS19 号第 167 項 ) その計画を完了するのに必要となる行動が 計画の重大な変更が行われる可能性が低いことを示している その計画が以下の事項を特定している - 雇用を終了する従業員の数 - 職務や職階並びに勤務地 ( ただし 個々の従業員を特定する必要はない ) - 予想される計画の完了日 その計画が 従業員が受け取る解雇給付を十分に詳細に定めていて 従業員が自らの雇用が終了した場合に受け取る給付の種類と金額を算定できる

6 3 リストラクチャリング計画の一環である場合の解雇給付リストラクチャリング計画の一環として解雇給付を支給する場合には 2で述べた要件 ( 企業が申し出を撤回出来なくなった時点 ) とIAS37 号の引当金の要件を満たす時点のいずれか早い方で費用 ( 負債 ) を認識します ( 前述 1 参照 ) 設例 2 リストラクチャリング計画の一環である解雇給付 設例 1に以下の要件を追加した場合 企業は解雇給付の費用及び債務を認識すべきでしょうか A 社が募集し 従業員が自発的退職に応募する可能性がある正式な詳細計画は 従業員に伝達されたより広範なリストラクチャリング計画の一部である A 社はリストラクチャリングに係る費用の認識につき IAS37 号の要件を満たしている 設例 2の場合 A 社のリストラクチャリング計画はIAS37 号の範囲内であり 解雇給付の支払いを伴うリストラクチャリングに係る費用を認識しているため 解雇給付の費用及び負債を認識すると考えられます (4) 測定解雇給付は従業員給付の性質に従って 当初認識時の測定 その後の変動の測定及び表示が行われます 解雇給付が退職後給付の増額として提供される場合には 企業は退職後給付の規定を適用します それ以外の場合には 以下の規定を適用します 解雇給付が その解雇給付を認識した会計年度の末日後 12ヶ月以内にすべて決済されると予想される場合 企業はその解雇給付に短期従業員給付の規定を適用します 解雇給付が その解雇給付を認識した会計年度の末日後 12ヶ月以内にすべて決済されると予想されない場合 企業はその解雇給付にその他の長期従業員給付の規定を適用します 5. おわりに 今回は リストラクチャリングの費用及び負債の論点を取り上げました 本稿が実務のご参考となれば幸いです 編集 発行 有限責任あずさ監査法人 IFRSアドバイザリー室 azsa-ifrs@jp.kpmg.com ここに記載されている情報はあくまで一般的なものであり 特定の個人や組織が置かれている状況に対応するものではありません 私たちは 的確な情報をタイムリーに提供するよう努めておりますが 情報を受け取られた時点及びそれ以降においての正確さは保証の限りではありません 何らかの行動を取られる場合は ここにある情報のみを根拠とせず プロフェッショナルが特定の状況を綿密に調査した上で提案する適切なアドバイスをもとにご判断ください 2014 KPMG AZSA LLC, a limited liability audit corporation incorporated under the Japanese Certified Public Accountants Law and a member firm of the KPMG network of independent member firms affiliated with KPMG International Cooperative ( KPMG International ), a Swiss entity. All rights reserved. www.kpmg.com/jp/ifrs この IFRS における適用上の論点第 26 回リストラクチャリング関連コスト は 週刊経営財務 3174 号 (2014 年 8 月 4 日 ) に掲載したものです 発行所である税務研究会の許可を得て あずさ監査法人がウェブサイトに掲載しているものですので 他への転載 転用はご遠慮ください The KPMG name, logo and cutting through complexity are registered trademarks or trademarks of KPMG International.