足部アライメントと歩行における足部の運動学的特徴の関連 奥貫拓実 < 要約 > 静的な足部回内の評価で多く用いられる立位における舟状骨降下量 (navicular drop:nd) は歩行時の ND や足部運動との関連が報告されている. しかし, 歩行時の ND と足部の運動学的特徴との関連を検討した研究はない. 本研究の目的は, 歩行時の ND と足部の運動学的特徴との関連を検討することとした. 対象は健常成人 20 名とし, 立位における体表からの ND の測定と三次元動作解析による歩行時の ND および足部の運動を記録した. 初期接地から立脚相 80% までを解析区間とし, 関節角度は下腿に対する足部の運動として算出した. 歩行時の ND は足部外反角度最大値との間に有意な正の相関 (R=0.45,P=0.045) を, 足部外反角度変化量との間に有意な負の相関 (R=-0.49,P=0.030) を認めた. また, 歩行時の ND と立位における ND, および足部外転角度最大値は相関がある傾向を示した (R=0.40,P=0.079;R=0.44,P=0.055). 本研究は, 歩行時の ND と足部外反 外転運動が関連していることを示唆した. Ⅰ. はじめに足部はそのアライメントを変化させることで歩行時に衝撃吸収や推進力を生み出す機能を有する. 内側縦アーチ高の低下に関連した足部回内や後足部外反などの足部アライメントは, 足部機能を破綻させるため, 下肢傷害の危険因子の一つとして考えられている. その中でも, 立位の足部過回内は足底腱膜炎や中足骨 脛骨疲労骨折, 膝蓋大腿疼痛症候群などの下肢障害と関連することや medial tibial stress syndrome( 以下 MTSS と略す ) などの下肢 over use 障害の発生を予測すると報告されている 1 ~4). 同様に, 歩行時の後足部外反角度最大値が大きいことや 5 ), 走行時の後足部外反角度 外転角度最大値ならびに変化量が大きいことなど 6 ), 動作時の足部回内運動が下肢 over use 障害の発生を予測したと報告されている. これらのことから, 立位ならびに動作時の足部回内は下肢 over use 障害の発生に寄与する重要な因子と考えられる. 立位の足部回内アライメントの指標として舟状骨降下量 (navicular drop: 以下 ND と略す ) が広く用いられており 7), 下肢 over use 障害を予測すると報告されている 8). 健常者において, 立位の ND は歩行 走行時の舟状骨降下量と関連す ること 9,10), また, 歩行時の後足部外反角度や第一中足骨背屈角度最大値と関連することが報告されており 11,12), 立位の ND は動作時の足部アライメントや足部運動と関連することが明らかになっている. また,MTSS 群と健常群で動作時の足部アライメントを比較した後ろ向き研究では, 歩行時の ND や内側縦アーチの低下が MTSS 群で大きいことが報告されており 13,14), 動作時の足部アライメントは MTSS の病態と関連していることが考えられる. 歩行時の ND は矢状面上の舟状骨の降下を捉えており, 歩行時の内側縦アーチの低下と関連すると報告されている 15). しかし,over use 障害の危険因子と考えられている足部運動と歩行時の ND との関連を検討した報告は渉猟した限り認められなかった. 立位および歩行時の ND と足部運動との関連を検討することは, 内側縦アーチの低下に関連する因子の一部を明らかにし, さらには下肢 over use 障害の発生機序や病態の解明に寄与すると考えられる. したがって本研究の目的は, 立位および歩行時の ND の関連, 歩行中における ND と足部の運動学的特徴との関連を検討することとした. 仮説は, 歩行時の ND と 1) 立位時の ND は関連する,2)
歩行時の足部外反角度 外転角度最大値ならびに変化量は関連する,3) 歩行立脚期における舟状骨高最低位 (the lowest navicular height: 以下 LNH と略す ) 時の足部外反角度 外転角度は関連することとした. Ⅱ. 対象と方法 1. 被験者被験者は健常成人 20 名 ( 男性 10 名, 女性 10 名, 年齢 22.0±1.1 歳, 身長 167.1±9.0cm, 体重 58.9±9.8kg) とし, 除外基準は下肢 体幹の手術歴および骨折歴,6 ヵ月以内に整形学的既往を有していることとした. 測定脚は全例利き脚とした. 利き脚はボールを蹴る脚と定義した. 被験者の足部アライメントを足部回内の指標とされる ND を用い評価した.ND は Brody 7 ) の方法に準じ, 距骨下関節中間位 (subtalar neutral: 以下 STN と略す ) での立位と安静立位の舟状骨高の差とし, 測定脚のみ測定した.STN は被験者に足部回内外運動をゆっくり行ってもらい, 距骨頭の内外側が同程度に触れる位置と定義した ( 図 1). 舟状骨高は舟状骨最突出部と床面との距離を, mm 単位で 3 回測定し,3 回の平均値とした.ND の測定は同一被験者が行い, 本研究における検者内信頼性は 0.77 を示した ( 対象は 9 名 ). なお, 本研究は本学保健科学研究院倫理委員会の承認および各被験者から同意を得て実施した. 図 1.Navicular drop 距骨頭に触れ距骨下関節中間位を決定した. 図 2. 体表マーカー貼付配置 2. 装置歩行の計測には, 赤外線カメラ 6 台 (Motion Analysis 社製,200Hz) と三次元動作解析装置 Cortex(Motion Analysis 社製 ) を用い, 被験者の両大腿遠位 下腿 足部に 36 個のマーカーを貼付した 16) ( 図 2). 立脚相を同定するために床反力計 (Kistler 社製, 1000Hz)1 枚を使用した. 立脚相は床反力垂直成分が 10N を越えている時間と定義した. 歩行は裸足の自由速度で行い, 測定脚で床反力計に接地した成功 3 試行を解析した. 図 3. 歩行時の舟状骨高の軌跡 ( 三次元動作解析で記録した垂直成分の座標 ). 赤矢印は舟状骨高が最低位となった位置. 舟状骨高最低位が foot flat 時のタイミングと重なることを, 踵骨 第一中足骨頭マーカーが同じ高さを記録していることで確認した.
3. データ解析 STN での立位時の関節角度を 0 とし, 足部運動は下腿に対する足部の角度として, 足部外反 外転角度を,Visual 3D(C-Motion 社製 ) を用いて算出した. 角度変化量は初期接地 (initial contact: IC) の角度と角度最大値の差として算出した. 解析区間は IC から立脚相 80% までとした. また, 歩行時の ND は三次元動作解析装置で記録した STN での立位と LNH 時の舟状骨高の差とした ( 図 3). 舟状骨高は舟状骨に貼付したマーカーと床面との距離として算出した. 4. 統計解析歩行時の ND と 1) 立位時の ND,2) 歩行時 の足部外反角度 外転角度最大値ならびに変化量, 3)LNH 時の足部外反角度 外転角度との関連を Pearson の積率相関係数を用いて検討した. 有意水準は P<0.05 とした. 統計解析には PASW18 (IBM 社製 ) を使用した. Ⅲ. 結果表 1,2 に本研究の各測定項目と相関係数,P 値, 平均値を示す. 歩行時の ND(6.2±4.6mm) と足部外反角度最大値 (12.0±4.4 ) の間に有意な正の相関関係を認めた (R=0.45,P=0.045, 図 4a). 歩行時の ND と足部外反角度変化量 (6.3 ±3.1 ) の間に有意な負の相関関係を認めた (R =-0.49,P=0.030, 図 4b). 立位の ND(9.1 ±3.4mm) と歩行時の ND の間, 歩行時の ND と外転角度最大値 (10.4±3.6 ) の間には, 有意傾向として中等度の相関関係を認めた ( それぞれ R=0.40,P=0.079, 図 4c;R=0.44,P=0.055, 図 4d). また, 歩行時の ND と足部外転角度変化量,LNH 時の足部外反角度 外転角度の間には有意な相関関係を認められなかった ( それぞれ P =0.930,0.107,0.255). Ⅳ. 考察本研究の目的は, 歩行時の ND と足部の運動学的特徴を検証することであった. 仮説として, 歩 表 1. 歩行時の ND と立位の ND, 足部運動との相関係数ならびに P 値. 有意水準は P<0.05. 歩行時の ND R value P value 立位の ND 外反角度最大値変化量外転角度最大値変化量 LNH 時の外反角度 LNH 時の外転角度 0.40 0.45-0.49 0.44 0.02 0.37 0.27 0.079 0.045 0.030 0.055 0.930 0.107 0.255 ND:navicular drop( 舟状骨降下量 ).LNH: 歩行立脚期 における舟状骨高最低位 (the lowest navicular height). 表 2. 各測定項目の平均値 ±SD 測定項目 平均値 ±SD 立位の ND(mm) 9.1±3.4 歩行時の ND (mm) 6.2±4.6 外反角度最大値 ( ) 12.0±4.4 変化量 ( ) 6.3±3.1 外転角度最大値 ( ) 10.4±3.6 変化量 ( ) 3.6±1.4 LNH 時の外反角度 ( ) 10.7±4.5 LNH 時の外転角度 ( ) 8.0±4.4 ND:navicular drop( 舟状骨降下量 ).LNH: 歩行立脚期 における舟状骨高最低位 (the lowest navicular height). 行時の ND と 1) 立位の ND,2) 歩行時の足部外 反角度 外転角度最大値ならびに変化量,3)LNH 時の足部外反角度 外転角度の間には有意な正の 相関関係を認めることを挙げた. 本研究は, 歩行 時のND と足部外反角度最大値の間には有意な正 の相関関係を認め, また, 有意傾向として歩行時 の ND と立位の ND, 歩行時の ND と足部外転角 度最大値の間には中等度の相関関係を認めた. こ れらは本研究の仮説を部分的に支持した. しかし, 歩行時の ND と足部外反角度変化量の間には有意 な負の相関関係を認め, 他のパラメータでは有意 な相関関係を認められず, 一部仮説と異なる結果 を示した. 歩行時の ND と立位の ND は中等度の正の相関 関係にあり, 先行研究と同程度の相関係数 (R=
0.357) を示し 9), 先行研究の結果を支持した. また, 歩行時の ND と足部外反角度最大値との間には有意な正の相関関係が認められた. 歩行時のND は内側縦アーチの低下と関連することが報告されている 16 ). 足部外反は, 舟状骨を足部内側方向と下方に変位させる運動と考えられる. 内側縦アーチの低下は舟状骨と床面の垂直距離が短くなることであるため, 歩行時の ND と足部外反角度最大値は関連したと考えられる. また, 有意傾向ではあるが, 歩行時の ND と足部外転角度最大値の間に関連を認めた. 足部外転角度の増大に伴い, 足関節底背屈軸は進行方向に向く. それゆえ, 進行方向と一致した矢状面運動である足関節背屈運動が妨げられ, 足部外反運動の増大が誘発されると考えられる. これは歩行立脚期に足部内側の負荷の増加を招き, 内側縦アーチの扁平化に 寄与すると考えられる. また, 歩行時の ND が大きいと足部外反角度が大きくなり, 運動連鎖によって脛骨内旋が生じる 17). 本研究は足部の関節角度を下腿に対する足部運動として算出しているため, 脛骨内旋により足部外転角度が大きくなった可能性がある. これらのことから, 歩行時の ND は矢状面上の舟状骨高を捉えている指標であるが, 舟状骨の降下には水平面と前額面の運動である足部外反 外転運動が関連している事が示された. しかし, 歩行時の ND と LNH 時の足部外反角度 外転角度に有意な相関関係は認められなかった. このことから, 内側縦アーチの低下に足部外反 外転運動以外の運動が関与していることが考えられる. 距骨底屈や第一リスフラン関節背屈により内側縦アーチの低下が生じることや 17), 立
位のND は歩行時の第一中足骨背屈角度最大値と関連することが報告されている 12 ). そのため, 立位の ND が大きいことで LNH 時に後足部に対する前足部の背屈といった前 中 後足部のセグメント間の運動が内側縦アーチの低下に関連していた可能性がある. また, 足部外反角度が大きいことで, 内側縦アーチを構成する第一趾列 ( 第一中足根関節, 楔舟関節, 距舟関節 ) の可動性が増加し, 矢状面上の運動が生じやすくなることが報告されている 19 ). 第一趾列の矢状面上の運動が更に大きくなることが考えられ, 内側縦アーチの低下に寄与している可能性がある. 足部を一つの剛体としている本研究ではこのような足部セグメント間の運動が反映されず, 歩行時の ND とLNH 時の足部外反角度 外転角度との間に有意な相関関係が認められなかった可能性がある. また, 歩行時の ND と外反角度変化量との間には負の相関関係が認められた. 歩行時の ND と足部外反角度最大値は正の相関関係が認められたことから, 歩行時の ND が大きい者は歩行立脚期全体を通して, 足部が外反方向へ偏位していた可能性がある.IC 時から内側縦アーチの低下を招いていた可能性が考えられ, 歩行立脚期にアーチの低下はそれ以上生じることがなく, 足部外反角度変化量が小さくなったことが考えられる. 立位の足部回内アライメントが over use 障害の発生を予測したと報告されている 1~4). 本研究結果では, 立位の足部回内アライメントは歩行立脚期の大きな内側縦アーチの低下や, 大きな足部外反角度 外転角度と関連したことから, こうした運動が過大に生じることが障害発生に寄与する可能性が考えられる. 下肢 over use 障害の予防や治療では足底板やテーピングによる介入がよく用いられる 20,21). 歩行立脚期の足部回内運動により衝撃吸収機能が働くが, 足部回内運動が生じないことで, 大きな衝撃が足部 下腿に伝達されることが考えられる. 足部テーピングは回内足に対して, 静止立位時の内側縦アーチを上昇させる効果が報告されているため 21), 立位の ND が大きい者に対して, テー ピングを使用することで,IC 時の内側縦アーチが 上昇し, 歩行立脚期に正常な足部回内運動が生じ, 足部の衝撃吸収機能が働く可能性がある. また, 内側縦アーチの低下には前額面 水平面の運動と も関与しているため, 単純に舟状骨の降下のみを 抑制するような介入ではなく, 足部運動を多平面 的に制動する必要があると考えられる. 謝辞 本卒業研究にあたり, 御多忙中, 御指導下さっ た本学諸先生方ならびに本院院生の方々, 実験に 協力して頂いた本学学生の皆様に感謝申し上げ ます. 引用文献 1) Williams et al., Arch structure and injury patterns in runners. Clinical Biomechanics. 16:341-347, 2007. 2) Barton et al., Foot and Ankle Characteristics in patellofemoral pain syndrome: a case control and reliability study. Journal of Orthopaedic & Sports Physical Therapy. 40(5):286-296, 2010. 3) Raissi et al., The relationship between lower extremity alignment and medial tibial stress syndrome among non-professional athletes. Sports Medicine, Arthroscopy, Rehabilitation, Therapy & Technology. 1(11): doi:10.1186/1758-2555-1-11, 2009. 4) Reinking et al., Exercise-related leg pain in female collegiate athletes the influence of intrinsic and extrinsic factors. The American Journal of Sports Medicine. 34(9):1500-1507, 2006. 5) Kaufman et al., The effect of foot structure and range of motion on musculoskeletal overuse injuries. The American Journal of Sports Medicine. 27(5):585-593, 1999. 6) Willems et al., A prospective study of gait related risk factors for exercise-related lower leg pain. Gait & Posture 23:91-98, 2004. 7) Brody., Techiques in the evaluation and treatment of the injured runner. Orthopedic Clinics North America. 13(3):541-58,1982. 8) Bennett et al., The relationship between isotonic plantar flexor endurance, navicular drop, and exercise-related leg pain in a
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