東京成徳大学研究紀要 人文学部 応用心理学部 第 25 号 (2018) ( 成田,2013) また現在 核家族化により家庭の外での保育 教育を活用し期待をかける保護者が増加する傾向に加え 少子化の進行に伴い 少ない子どもに期待をかけ大切に育てたいと思う気持ちが強くなっていると考えられ 保護者が習い

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保育園・幼稚園~小学校低学年のこどもを持つお父さん、お母さん600人に聞く「こどもの教育に関する夫婦の意識調査」

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研究組織 研究代表者西山哲成 日本体育大学身体動作学研究室 共同研究者野村一路 日本体育大学レクリエーション学研究室 菅伸江 日本体育大学レクリエーション学研究室 佐藤孝之 日本体育大学身体動作学研究室 大石健二 日本体育大学大学院後期博士課程院生

Microsoft PowerPoint - 【2013年度】保護者

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草津市 ( 幼保一体化 ) 集計表 資料 4 幼児教育と保育の一体的提供のための現況調査 ( 施設アンケート ) 速報 平成 25 年 7 月草津市 1

学力向上のための取り組み

1. プロ スポーツ ( サッカー, 野球 ) 球団のアンケート項目

1. 交際や結婚について 4 人に3 人は 恋人がいる または 恋人はいないが 欲しいと思っている と回答している 図表 1 恋人が欲しいと思わない理由は 自分の趣味に力を入れたい 恋愛が面倒 勉強や就職活動に力を入れたい の順に多い 図表 2 結婚について肯定的な考え方 ( 結婚はするべきだ 結婚

出産・育児調査2018~妊娠・出産・育児の各期において、女性の満足度に影響する意識や行動は異なる。多くは子どもの人数によっても違い、各期で周囲がとるべき行動は変わっていく~

(1) 体育・保健体育の授業を改善するために

履修モデル 1 短期大学士 ( ) 二種免許状 保育士 認定ベビーシッター の区分 資格 単位数保育士 資格必要単位数 保育士 認定ベビーシッター 卒修業科選目択必 個々の学生の得意な分野を伸ばし 魅力のある保育者を育てる 子どもの保健 Ⅰ 1 必修 必修 4 保育原理 1 必修 必修 2 児童家庭

調査の結果 問 1 あなたの性別は 調査に回答していただいた生徒の性別は 男 が問 % 女 が 49.5% です 男 女 問 2 あなたは, 生まれてからずっと鈴鹿市に住んでいますか 生まれたときから鈴鹿市に ずっと住ん

1 国の動向 平成 17 年 1 月に中央教育審議会答申 子どもを取り巻く環境の変化を踏まえた今後の幼児教育の在り方について が出されました この答申では 幼稚園 保育所 ( 園 ) の別なく 子どもの健やかな成長のための今後の幼児教育の在り方についての考え方がまとめられています この答申を踏まえ

4 身体活動量カロリズム内に記憶されているデータを表計算ソフトに入力し, 身体活動量の分析を行った 身体活動量の測定結果から, 連続した 7 日間の平均, 学校に通っている平日平均, 学校が休みである土日平均について, 総エネルギー消費量, 活動エネルギー量, 歩数, エクササイズ量から分析を行った

表 6.1 横浜市民の横浜ベイスターズに対する関心 (2011 年 ) % 特に何もしていない スポーツニュースで見る テレビで観戦する 新聞で結果を確認する 野球場に観戦に行く インターネットで結果を確認する 4.

1. 結婚についての意識 結婚について肯定的な考え方 ( 結婚はするべきだ 結婚はしたほうがよい ) の割合は男性の方が高い一方 自身の結婚に対する考えについて いずれ結婚するつもり と回答した割合は女性の方が高い 図表 1 図表 2 未婚の方の理想の結婚年齢は平均で男性が 29.3 歳 女性は 2

15 第1章妊娠出産子育てをめぐる妻の年齢要因

家庭における教育

資料1 世帯特性データのさらなる充実可能性の検討について

アンケート調査の実施概要 1. 調査地域と対象全国の中学 3 年生までの子どもをもつ父親 母親およびその子どものうち小学 4 年生 ~ 中学 3 年生までの子 該当子が複数いる場合は最年長子のみ 2. サンプル数父親 母親 1,078 組子ども 567 名 3. 有効回収数 ( 率 ) 父親 927

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Ⅲ 目指すべき姿 特別支援教育推進の基本方針を受けて 小中学校 高等学校 特別支援学校などそれぞれの場面で 具体的な取組において目指すべき姿のイメージを示します 1 小中学校普通学級 1 小中学校普通学級の目指すべき姿 支援体制 多様な学びの場 特別支援教室の有効活用 1チームによる支援校内委員会を

家族時間アンケート結果報告書 家族時間 に関する アンケート調査の結果 平成 23 年 6 月 福井県 - 1 -

短 報 Nurses recognition and practice about psychological preparation for children in child health nursing in the combined child and adult ward Ta

第 3 章 保護者との関わり 子育て支援 に来園する親子の平均組数は 国公立で 14.1 組 私立で 19.2 組だった ( 図 表 3-3-1) では どのようなことを親子は体験しているのだろうか 実施内容について複数回答で聞いたところ 私立幼稚園と国公立幼稚園で違いがみられた (

1 施設で生活する高校生の本音アンケート 3 2 調査項目 4 3 施設で生活する高校生の自己肯定感について...5 (1) 一般高校生との比較 5 4 施設で生活する高校生の進路について.7 (1) 希望職種の有無と希望進路 7 (2) 性別 学年による進路の違い 8 5 施設で生活する高校生のア

平成18年度

3-1. 新学習指導要領実施後の変化 新学習指導要領の実施により で言語活動が増加 新学習指導要領の実施によるでの教育活動の変化についてたずねた 新学習指導要領で提唱されている活動の中でも 増えた ( かなり増えた + 少し増えた ) との回答が最も多かったのは 言語活動 の 64.8% であった

十和田市 事業別に利用数をみると 一時預かりは 年間 0 (.%) 以 上 (.) - (.%) の順となっています 問. 一時預かり ( 年間 ) n= 人 以上. 幼稚園の預かり保育は 年間 0 (.%) 以上 (.%) (.%) の順となっています ファミリー サポー

2. 調査結果 1. 回答者属性について ( 全体 )(n=690) (1) 回答者の性別 (n=690) 回答数 713 のうち 調査に協力すると回答した回答者数は 690 名 これを性別にみると となった 回答者の性別比率 (2) 回答者の年齢層 (n=6

( 続紙 1) 京都大学博士 ( 教育学 ) 氏名田村綾菜 論文題目 児童の謝罪と罪悪感の認知に関する発達的研究 ( 論文内容の要旨 ) 本論文は 児童 ( 小学生 ) の対人葛藤場面における謝罪の認知について 罪悪感との関連を中心に 加害者と被害者という2つの立場から発達的変化を検討した 本論文は

報道関係各位 2012 年 1 月 25 日 株式会社ベネッセコーポレーション 代表取締役社長福島保 高校受験調査 ~ 高校 1 年生は自らの高校受験をどのように振り返っているのか ~ 高校受験を通じて やればできると自信がついた 71% 一方で もっと勉強しておけばよかった 65% 株式会社ベネッ

調査結果 転職決定者に聞く入社の決め手 ( 男 別 ) 入社の決め手 を男 別でみた際 性は男性に比べると 勤務時間 休日休暇 育児環境 服装 オフィス環境 職場の上司 同僚 の項目で 10 ポイント以上 かった ( 図 1) 特に 勤務時間 休日休暇 の項目は 20 ポイント以上 かった ( 図

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参考 1 男女の能力発揮とライフプランに対する意識に関する調査 について 1. 調査の目的これから結婚 子育てといったライフ イベントを経験する層及び現在経験している層として 若年 ~ 中年層を対象に それまでの就業状況や就業経験などが能力発揮やライフプランに関する意識に与える影響を把握するとともに

調査レポート

46 福島大学総合教育研究センター紀要第10号 育の支援員の参加もあった スクールカウンセラーの 表1 受講者 のべ数 の属性別人数 参加も 例年通り 一定数ある 学校以外の機関では 内は全受講者に占める 医療関係者が多く そのなかでも 臨床心理士はもち 属性 ろんのこと それ以外の職

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家政_08紀要48号_人文&社会 横組

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実習指導に携わる病棟看護師の思い ‐ クリニカルラダーのレベル別にみた語りの分析 ‐

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2008 年 1 月 11 日 株式会社エルゴ ブレインズ ポイントオン株式会社 自主学習時間は 1 日平均 4 時間以上 ~ 高校 3 年から塾 予備校に通い始めた追い込み組 ~ 株式会社エルゴ ブレインズ ( 本社 : 東京都港区 代表取締役最高経営責任者 CEO: 宮田徹 証 券コード :43

第 1 章アンケートの概要 1-1 調査の目的 1-2 対象者 1-3 調査方法 1-4 実施期間 1-5 調査結果サンプル数 第 2 章アンケート調査結果 2-1 回答者自身について (1) 問 2: 年齢 (2) 問 5: 同居している家族 2-2 結婚について (1) 問

( ウ ) 年齢別 年齢が高くなるほど 十分に反映されている まあまあ反映されている の割合が高くなる傾向があり 2 0 歳代 では 十分に反映されている まあまあ反映されている の合計が17.3% ですが 70 歳以上 では40.6% となっています

第 5 章管理職における男女部下育成の違い - 管理職へのアンケート調査及び若手男女社員へのアンケート調査より - 管理職へのインタビュー調査 ( 第 4 章 ) では 管理職は 仕事 目標の与え方について基本は男女同じだとしながらも 仕事に関わる外的環境 ( 深夜残業 業界特性 結婚 出産 ) 若

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13 Ⅱ-1-(2)-2 経営の改善や業務の実行性を高める取組に指導力を発揮している Ⅱ-2 福祉人材の確保 育成 Ⅱ-2-(1) 福祉人材の確保 育成計画 人事管理の体制が整備されている 14 Ⅱ-2-(1)-1 必要な福祉人材の確保 定着等に関する具体的な計画が確立し 取組が実施されている 15

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< 受験生トレンド > 受験生に必須のアイテム 受験生の半数以上が勉強に SNS を活用 3 人に 1 人以上が活用している Twitter が第 1 位に 目的は モチベーションを上げたい 記録に残したい 共有して安心したい が上位に 勉強専門アカウントについては約 5 割が興味 約 2 割が活用

5 教5-1 教員の勤務時間と意識表 5 1 ( 平均時間 経年比較 教員年齢別 ) 中学校教員 調査年 25 歳以下 26 ~ 30 歳 31 ~ 40 歳 41 ~ 50 歳 51 ~ 60 歳 7:22 7:25 7:31 7:30 7:33 7:16 7:15 7:23 7:27 7:25

第 1 章調査の実施概要 1. 調査の目的 子ども 子育て支援事業計画策定に向けて 仕事と家庭の両立支援 に関し 民間事業者に対する意識啓発を含め 具体的施策の検討に資することを目的に 市内の事業所を対象とするアンケート調査を実施しました 2. 調査の方法 千歳商工会議所の協力を得て 4 月 21

(2) 国語 B 算数数学 B 知識 技能等を実生活の様々な場面に活用する力や 様々な課題解決のための構想を立て実践し 評価 改善する力などに関わる主として 活用 に関する問題です (3) 児童生徒質問紙児童生徒の生活習慣や意識等に関する調査です 3 平成 20 年度全国学力 学習状況調査の結果 (

教育学科幼児教育コース < 保育士モデル> 分野別数 学部共通 キリスト教学 英語 AⅠ 情報処理礎 子どもと人権 礎演習 ことばの表現教育 社会福祉学 英語 AⅡ 体育総合 生活 児童家庭福祉 英語 BⅠ( コミュニケーション ) 教育礎論 音楽 Ⅰ( 礎 ) 保育原理 Ⅰ 英語 BⅡ( コミュニ

2.調査結果の概要

市中学校の状況及び体力向上策 ( 学校数 : 校 生徒数 :13,836 名 ) を とした時の数値 (T 得点 ) をレーダーチャートで表示 [ ] [ ] ハンドボール ハンドボール投げ投げ H29 市中学校 H29 m 走 m 走 表中の 網掛け 数値は 平均と同等または上回っているもの 付き

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小学校国語について

に教室の中を立ち歩いたり 教室の外へ出て行ったりする 68.5% 次に 担任の指示通りに行動しない 62.1% などとなっている また 不適応状況の発生の予防に効果的と思われる対応策 ( 図 2) 6 として最も多かったのが 学級担任の援助となる指導員等の配置 校長 61.4% 教諭 61.0% 次

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参考 調査員調査の対象者へのアンケート ( 平成 21 年 4 月実施 ) の概要 1 目的総務省統計局が調査対象者から直接 調査員調査の実施状況を把握し 平成 20 年度の委託業務の中で調査員調査の検証を行うとともに 今後の民間調査機関への指導についての参考資料を得る また 本アンケートでは 回答

1. 子どもとの朝活歴 半数近くに上る Q. 朝活 について質問です 子どもと一緒に何らかの朝活をしたことがありますか? もしくは現在朝活をしていますか? ( 単一回答 N=417) 子どもと一緒に朝早くに何らかの活動に取り組んでいるかを質問したところ 現在 朝活している と回答したのは全体の 43

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1. プロ スポーツ ( サッカー, 野球 ) 球団のアンケート結果

論文題目 大学生のお金に対する信念が家計管理と社会参加に果たす役割 氏名 渡辺伸子 論文概要本論文では, お金に対する態度の中でも認知的な面での個人差を お金に対する信念 と呼び, お金に対する信念が家計管理および社会参加の領域でどのような役割を果たしているか明らかにすることを目指した つまり, お

第 1 章 札幌市幼児教育振興計画の策定 本計画は 主に幼稚園教育を対象とする 本計画は 平成 18 年度から概ね10 年間を計画期間とし 今後はこの方向性に基づいて早期に具体的な施策 ( アクションプログラム ) を打ち出していく 本計画は 社会情勢の変化などに対応し 必要に応じて計画の見直しを行

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アンケート調査の実施概要 1. 調査地域と対象全国の中学 3 年生までの子どもをもつ父親 母親およびその子どものうち小学 4 年生 ~ 中学 3 年生までの子 該当子が複数いる場合は最年長子のみ 2. サンプル数父親 母親 1,078 組子ども 567 名 3. 有効回収数 ( 率 ) 父親 927

地域の幼児教育の拠点となる幼児教育センターの設置及び「幼児教育アドバイザー」の育成・配置に関する調査研究 実施報告書(2年次)(4)

2 次 2 次 率 2 次 2 次 大阪教育 ( 教育 - 小中 - 保健体育 ) 69 ( 教育 - 中等 - 保健体育 ) 奈良教育 ( 教育 - 教科 - 英語 ( 中 )) 55.0 山口 ( 教育 - 学校 - 国語 ) 50.0 ( 教育 - 学校 - 英語 ) 52.5 福岡教育 (

完成版1:習志野市発達支援モニタリング調査保護者データ分析報告

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02世帯

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1 発達とそのメカニズム 7/21 幼児教育 保育に関する理解を深め 適切 (1) 幼児教育 保育の意義 2 幼児教育 保育の役割と機能及び現状と課題 8/21 12/15 2/13 3 幼児教育 保育と児童福祉の関係性 12/19 な環境を構成し 個々 1 幼児期にふさわしい生活 7/21 12/

第3部 次世代育成支援対策(前期行動計画) 第3章 子どもの心身の健やかな成長に資する教育環境の整備

図表 2-1から 最も多い回答は 子どもが望む職業についてほしい (9%) であり 以下 職業に役立つ何らかの資格を取ってほしい (82.7%) 安定した職業についてほしい (82.3%) と続いていることが分かる これらの結果から 親が自分の子どもの職業に望むこととして 最も一般的な感じ方は何より

組合員対象 奨学金制度に関するアンケート の集計状況 1. はじめに調査概要とサンプル特性について < 調査概要 > 調査実施期間 2016 年 11 月 16 日 ~12 月 28 日 調査対象 全国の国公立および私立大学の学部学生 院生 回収数 1,745 有効回答数 文責 : 加藤


(2) 体重 平成 25 年度の幼稚園 小学校 中学校及び高等学校における幼児 児童及び生徒の体重 ( 県平均値 以下同じ ) については次のとおりである 1 前年度との比較 ( 表 2) 男子の体重は 6 歳 11 歳 13~17 歳で 前年度の同年齢より.2~2. kg増加しており 最 も増加し

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課題研究の進め方 これは,10 年経験者研修講座の各教科の課題研究の研修で使っている資料をまとめたものです 課題研究の進め方 と 課題研究報告書の書き方 について, 教科を限定せずに一般的に紹介してありますので, 校内研修などにご活用ください

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幼児の習い事に関する研究 性差に着目した考察 別府さおり * 阿久根 ** 雅 A Study about Lessons for Preschool Children An Inquiry Focused on Gender Differences Saori BEPPU Miyabi AKUNE Ⅰ. 問題と目的 幼児教育や早期教育の功罪に関する多方面からの研究が行われて久しいが その中で 習い事に対する取り組みの様相も明らかになっている 幼児の習い事についての調査では 特に幼稚園児において習い事をしている割合が高いことが示されている 伊藤 鳥原 (2000) の調査では182 名のうち62.1% 住田 山瀬 片桐(2012) の調査では433 名のうち66.4% ベネッセ総合教育研究所(2015) の調査では533 名のうち73.0% もの幼稚園児が習い事をしており いずれも保育園児に比べ高い割合であることが明らかになっている 園の保育時間や生活の様子を鑑みても 幼稚園児の方が習い事をしやすい環境にあると言えるが 教育機関である幼稚園を利用しながら さらに習い事という早期教育に取り組んでいる幼児の方が多く 早期教育に力を入れている幼稚園児の保護者は少なくないと考えられる 習い事を始める理由について伊藤 鳥原 (2000) は 子どもが希望するから が最も多く 子どもが自発的に習い事をしているケースが多いことを示した上で ピアノなどの情操教育やスポーツ系の習い事に比べ学習塾や英会話は親の側が必要性を感じて選択していることから 運動面や情操面での習い事は子どもの希望が優先されるが知能面での習い事には親の期待が反映されていると考察している 成田は1997 年と2013 年に 短期大学生とその保護者を対象に習い事についての調査を実施し 2 回の調査結果を比較検討している 2013 年の調査では習い事を始めたきっかけが自分 ( 子ども ) の意思であった割合が減少する一方 親など大人に勧められた ( 保護者の意向であった ) 割合は増加していることを明らかにし 早期教育を行うにあたって子どもの意思 意見を聞くことの重要性を示唆した * Saori BEPPU 福祉心理学科 (Department of Social Work and Psychology) ** Miyabi AKUNE 株式会社ケアサービス (Care Service Co., Ltd.) 97

東京成徳大学研究紀要 人文学部 応用心理学部 第 25 号 (2018) ( 成田,2013) また現在 核家族化により家庭の外での保育 教育を活用し期待をかける保護者が増加する傾向に加え 少子化の進行に伴い 少ない子どもに期待をかけ大切に育てたいと思う気持ちが強くなっていると考えられ 保護者が習い事にかける期待もより高まっていることが推察される そのような中で 習い事をするか否か どんな習い事をするかなどは 幼児自身よりも保護者の価値観や意識により左右されるようになっているのではないだろうか ところで 幼児期の教育は人間形成の基盤を培う重要なものであるが 社会的 文化的性であるジェンダーが幼稚園や保育園での保育 教育場面で隠れたカリキュラムとして物的 人的環境において用いられている実態が明らかにされている (eg. 森 川田 善本 坂田,1998; 金子 青野,2004) では 習い事においてはどうだろうか 森 坂田 (1999) によると 保育士より保護者の方が 性差を肯定し性差別の傾向があるという調査結果が示されている 習い事に保護者の価値観や意識が反映されているとすると 熱心に取り組まれている習い事においてジェンダーが再生産されている可能性がある そこで本研究では 幼稚園に在籍する幼児の習い事の実態を明らかにし その中で性差に関連すると判断されるものを取り上げ 考察を試みることにした 汐見 (1996) は 乳幼児教育産業を 教室 を開いて生徒と親を集め その場でなんらかの教育活動を展開するもの 通信添削の形で定期的に教材や参考資料を送り 家庭で親に教育活動を展開させるもの まとまった教材を家庭訪問販売や通信販売で売り 親に教育させるもの その他 の4つに分類している 本研究では この4 分類の一つ目を適用し 家庭の外での教育活動に参加するものを 習い事 とした II. 方法 (1) 調査協力者千葉県八千代市にある幼稚園に在籍する4 歳から6 歳の園児の保護者であった 規模と立地を考慮して選択した3 園に調査協力を依頼し 430 名に質問紙を配布し261 名から回答を得た ( 回収率 60.7%) そのうち 記入の不備があった1 名を除いた260 名を分析の対象とした (2) 調査方法各幼稚園の担任教諭から園児を通じて保護者に質問紙を配布し 園児を通じて担任が質問紙を回収した (3) 調査期間 2016 年 10 月から11 月であった (4) 調査内容質問紙の内容は 習い事の有無及び内容 習い事を始めた理由 習い事に対する満足度などであった 質問項目は 伊藤 鳥原 (2000) の調査 ベネッセ教育研究所 (2015) 第 5 回幼児の生活アンケート 及びベネッセ (2008) 第 3 回子育て生活基本調査 ( 幼児版 ) を参考に作成した (5) 分析方法 98

幼児の習い事に関する研究 性差に着目した考察 習い事の有無の年齢及び性別による違いを検討するため χ 2 検定を実施した それ以外の項目に ついては単純集計を行い 習い事をしている者について性差の観点から幼児のジェンダー研究の知見をもとに考察を加えた なお 一部に未記入の項目があったため合計が一致しない場合がある III. 結果と考察 1. 調査協力者と幼児の属性協力者は母親 259 名 父親 1 名であり 幼児の性別は男児 121 名 女児 139 名であった 幼児の年齢は4 歳児 37 名 5 歳児 144 名 6 歳児 76 名であり 平均年齢は5 歳 6ヶ月 (4 歳 0ヶ月 ~6 歳 8ヶ月 ) であった きょうだいの人数は 2 人きょうだいが最も多く (148 名 ) 次いで3 人きょうだい (64 名 ) 一人っ子 (33 名 ) 4 人きょうだい (12 名 ) 5 人以上 (2 名 ) の順であった 2. 習い事の実態 (1) 習い事をしている人数表 1に習い事の有無と全体及び年齢別 性別の人数と割合を示した 習い事をしている人数は174 名 (66.9%) していない人数は86 名 (33.1%) であった 年齢と性別による習い事の有無の違いを検討するためにχ 2 検定を実施した その結果 5 歳児において性別による偏りが有意傾向 (χ 2 =3.800, df=1,p<.10) 6 歳児において性別による偏りが有意 (χ 2 =9.589,df=1,p<.05) であった 以上の結果から 5 歳児 6 歳児では 女児は男児に比べ 習い事をしている割合が高いことが示された 表 1 習い事の有無と全体及び年齢別 性別の人数と割合 (2) 習い事の内容表 2に習い事の内容と 全体の人数 開始時の平均年齢 年齢別 性別の人数を示した ( 複数回答可 ) 全体では スイミングが48 名で最も多かった 伊藤 鳥原 (2000) 住田 山瀬ら(2012) ベネッセ総合教育研究所 (2015) のいずれの調査でもスイミングは上位であり ほぼ一致した結果となった 次いで多かったのは 体操の42 名であった 後述の 習い事を始めた理由 にある 能力を伸ばすため 体を丈夫にするため という回答から 保護者のスポーツ関係の習い事への期待が大きいことが推察された 年齢別にみると 年齢が上がるにつれ習い事の種類が増えていることが示された 開始時平均年齢は4 歳代が最も多かった リトミックのみ3 歳代で 発達の基礎になる力を育てる目的で早期から開始すると考えられた 一方 そろばん 書道 絵画 造形といった巧緻性がより求められる習い事は他の習い事に比べ開始年齢が遅く また学習塾は 小学校への進学を見据えて平均年齢 5 歳代から開始すると考えられた 99

東京成徳大学研究紀要 人文学部 応用心理学部 第 25 号 (2018) 表 2 習い事の内容と全体の人数 開始時平均年齢及び年齢別 性別の人数 性別では サッカーは男児に多く 楽器 語学 ダンス 音楽教室 バレエは女児に多かった 性別による習い事の内容の違いがあることが示された (3) 習い事の回数表 3に1 週間の習い事の回数と 全体の人数 年齢別 性別の人数と割合を示した 表 3 1 週間の習い事の回数 全体の人数及び年齢別 性別の人数と割合 1 週間の習い事の回数は 1 回が最も多く 次いで2 回 3 回以上であった 習い事の回数が週 1 回である幼児の割合は6 歳女児が最も低く 女児において年齢が上がるにつれ週あたりの習い事の回数が増えていることが示唆された (4) 習い事を始めた理由表 4に習い事を始めた理由と 全体の件数 年齢別 性別の件数と割合を示した ( 複数回答可 ) 習い事を始めた理由は 本人の意思 が最も多く 全体の半数以上が選択していた また 保護 100

幼児の習い事に関する研究 性差に着目した考察 表 4 習い事を始めた理由と全体の件数及び年齢別 性別の件数と割合 者の意思 のうち 具体的な内容として 親の希望 (4 件 ) が挙げられた一方 子どもに合っていそう (8 件 ) 水嫌いにならないため (2 件 ) 体調的問題 (1 件 ) といった回答も挙げられており 必ずしも保護者の一方的な思いだけで習い事をさせているわけではないと考えられた いずれの年齢においても 男児は女児に比べ 体を丈夫にするため という回答の割合が高かった 青野 金子 (2008) は 保育士を対象にした調査で 男性に対したくましさ 行動力といった伝統的な男性像が期待されていることを示した また 田中 佐藤 (2002) は 伝統的性役割観を内面化している保護者は 男の子 の特性を強さ たくましさ 元気さ 活発さと捉え我慢強さ等を求める傾向にあり 子どものしつけにおいてジェンダー再生産に寄与しやすいことを指摘している 本調査の結果は 保護者が子どもに期待する姿が子どもの性別により異なること 男児に対して期待される男性像が反映された可能性があることを示していると考えられる (5) 習い事をさせた結果 幼児が成長したこと表 5に 習い事をさせた結果 幼児が成長したことの内容と全体の件数 年齢別 性別の件数と割合を示した ( 複数回答可 ) また 表 6に 習い事をさせた結果 幼児が成長したことの その他 の内容とカテゴリー及び件数を示した 述べ28 件の回答を 内容の類似性をもとにカテゴリー化した 習い事を始めた理由 では 能力を伸ばすため という回答は31 件であったが 習い事をさせた結果 技術 正しいやり方が身についた 上手になった という回答が132 件と最も多く 習い事の内容そのものを身につけ成長している幼児が多いと言える また 同じく 習い事を始めた理由 の 体表 5 習い事をさせた結果 幼児が成長したことの内容 全体の件数及び年齢別 性別の件数と割合 101

東京成徳大学研究紀要 人文学部 応用心理学部 第 25 号 (2018) 表 6 習い事をさせた結果 幼児が成長したこと その他 の内容とカテゴリー及び件数 を丈夫にするため という回答は30 件であったのに比し 習い事を始めた結果 体力がついた という回答は58 件であった これらの結果から 実際に習い事をさせた結果 子どもが期待した以上に成長していると保護者が感じていることが窺える いずれの年齢においても 男児は女児に比べ 体力がついた という回答の割合が高かった このことを 習い事の内容 及び 習い事を始めた理由 と関連づけて考察すると 特に男児の保護者は 体を丈夫にする ことを期待してスポーツ関係の習い事を選択し 全てが期待通りであるかは定かではないものの一定の成果が得られたと考えていることが窺える しかし 男児の保護者が習い事の成果を評価する観点が 体力やたくましさといった伝統的な男性像として期待される側面に置かれていた可能性も現段階では否定できない 女児は いずれの年齢においても男児に比べ 友達ができた という回答の割合が高かった このことをジェンダーの観点から示す先行研究は見られなかったが 幼児期の社会的行動の発達は女児において著しいことから 習い事での他者との関わりを通して友達を作ることができるのは女児に多いことが推察される (6) 性差に関わる自由記述の分析性差に関わると判断できる回答が 女児の保護者 3 名の自由記述において示された 1 保護者の期待 女の子なので字は上手になってほしい ( 筆者注 : 書道を習っている女児 ) 基本的に小学校の間は 体を動かして友達と遊ぶ時間であり 宿題以外は極力やらせない 特に男の子 ( 同 : 回答者の息子 ) 女の子( 同 : 回答者の娘 ) は将来のコミュニケーションとしての習い事はありかなと思っている 以上 2 件の自由記述は 保護者の子どもに対する期待を示すものであるが いずれも科学的根拠をもたない女性に対する偏見であるジェンダー バイアスを示すものであると考えられる 2 習い事への参加制約 102

幼児の習い事に関する研究 性差に着目した考察 サッカーは 女子一人で 本人は気にしていないが 泊まりの合宿など参加が難しく 本人はイヤらしい この回答は 性別による習い事への参加制約が存在することを示している 本件は指導体制上の制約が背景にあると推測されるが 男女共同参画社会が目指されることになって久しい我が国で 性別による制約が未だに存在することを示すものであると考えられる IV. 総合考察 本研究では 幼児の習い事について保護者を対象に調査を実施し 性差に着目した考察を中心に行った 幼児の習い事におけるジェンダーを示した研究として 森 坂田 (1999) は 女児の習い事はピアノ スイミングスクール 体操教室の順で多く 男児の習い事はスイミングスクール ピアノ 体操教室の順で多いこと また習い事をしている幼児の人数は 男児に比べ女児が多いことを示し 保護者のジェンダー意識の表れを示唆した また 伊藤 鳥原 (2000) によると 習い事の数 週あたりの回数 費用のいずれも女児に比べ男児が多かった 習い事の種類についても 男児はスポーツ系や学習塾 幼児教室が 女児はピアノが多いことから 伸ばしたい能力の中心が男児は運動面と知能面 女児は情操面に置かれており ジェンダー バイアスの形成に影響を与える要因の一つであると示唆している 本調査では 習い事をしている幼児は5 6 歳児において男児より女児に多いことが示された また 習い事の内容 回数 習い事を始めた理由 習い事をさせた結果 成長したことのいずれにおいても 性別による差異が認められた 先行研究を踏まえて考察すると 本研究の結果は 習い事の選択や幼児に対する期待に保護者のジェンダー観が反映されていることを示すものであったと言える しかし 本調査では保護者のジェンダー観そのものは問うていないため 今後は習い事の実態と併せて追求して行くことが必要であろう 一方 習い事を始めた理由で最も多かったのは 本人の意思 であった 子どものジェンダーについての知識はすでに2 3 歳で習得され始めると言われている (Golombok & Fivush, 1994) このことから 本研究において対象になった幼児自身がすでにジェンダー観に基づいた選択をしており 家庭や幼稚園をはじめとする生活環境の中でジェンダーが再生産されている可能性を示すものであった 早期教育の一般化が進み 習い事をする幼児の割合も増加の一途を辿る現代において 習い事をジェンダーの観点から再考する必要があると考える 謝辞調査にご協力いただきました各幼稚園の先生及び保護者の皆様に心から感謝申し上げます 附記この論文は 阿久根雅著 (2016) 平成 28 年度東京成徳大学応用心理学部福祉心理学科卒業論文 幼児の習い事の実態と習い事に対する保護者の考え に新たに分析 考察を加えたものである 103

東京成徳大学研究紀要 人文学部 応用心理学部 第 25 号 (2018) 引用文献青野篤子 金子省子 (2008) 保育にかかわる保護者のジェンダー観. 日本家政学会誌,59(3),135-142. ベネッセ (2008) 第 3 回子育て生活基本調査 ( 幼児版 ).http://berd.benesse.jp/berd/center/open/report/ kosodate/2008_youji/hon/pdf/data_11.pdf.( 最終参照日 :2017 年 11 月 15 日 ) ベネッセ総合教育研究所 (2015) 第 5 回幼児の生活アンケート 調査票.http://berd.benesse.jp/up_ images/research/chousahyou201511.pdf.( 最終参照日 :2017 年 11 月 15 日 ) ベネッセ総合教育研究所 (2015) 第 5 回幼児の生活アンケート 集計表.http://berd.benesse.jp/up_ images/research/shukeihyou1123.pdf.( 最終参照日 :2017 年 11 月 15 日 ) 藤田由美子 (2007) 子どもの ジェンダーと身体 をめぐる意識構造. 九州保健福祉大学研究紀要,8, 61-70. Golombok, S. and Fivush, R.(1994)Gender Development. Cambridge University Press, New York. 小林芳郎 滝野揚三訳 (1997) ジェンダーの発達心理学. 田研出版. 伊藤葉子 鳥原菜穂子 (2000) 習い事に対する親の意識. 千葉大学教育学部研究紀要,48,1,111-122. 金子省子 青野篤子 (2004) 保育所 幼稚園におけるジェンダー フリー 保育者 保護者インタビューと観察をもとに. 日本保育学会大会発表論文集,57,568-569. 三村保子 力武由美 (2006) 保育 子育て実践における 個の尊重 ジェンダーの視点から再考する. 西南女学院大学紀要,10,143-152. 森隆子 川田富子 善本佳世子 坂田仁美 (1998) 保育のなかのジェンダーに関する一考察 (Ⅱ) 保育者の実態から検討する. 日本保育学会大会研究論文集,51,708-709. 森隆子 坂田仁美 (1999) 保育のなかのジェンダーに関する一考察 (Ⅲ) 保護者の実態から検討する. 日本保育学会大会研究論文集,52,416-417. 成田朋子 (2013) 早期教育のあり方について考える 保育科学生とその保護者への習い事についての回想調査に基づいて. 名古屋柳城短期大学研究紀要,35,89-103. 汐見稔幸 (1996) 幼児教育産業と子育て. 岩波書店. 住田正樹 山瀬範子 片桐真弓 (2012) 保護者の保育ニーズに関する研究 選択される幼児教育 保育. 放送大学研究年報,30,25-30. 田中享胤 佐藤和順 (2002) 幼児のしつけ形成過程にみるジェンダー再生産の装置 保護者を対象にした調査をもとに. 兵庫教育大学研究紀要,22,1-9.URI:http://hdl.handle.net/10132/858 104