症例報告
Ⅰ
佐野ほか 尿毒症性胸膜炎の 3 例 a 235 b 図 1 a Chest radiograph on admission showing right pleural effusion. b Light microscopic findings of the pleural biopsy specimen. Pleural biopsy specimens show fibrin precipitation on the pleural surface with cell infiltration hematoxylin eosin stain original magnification 100. シリン耐性黄色ブドウ球菌肺炎の合併を契機に呼吸状 入院時現症 身長 150 cm 体重 44.1 kg 体温 37.0 態が一層悪化し CO2ナルコーシスとなり非侵襲的陽 度 血圧 220/110 mmhg 脈拍 98/分 整 呼吸数 28/ 圧換気療法を開始した しかし 徐々に血圧低下と呼 分 努力様 意識清明 眼瞼結膜貧血あり 眼球結膜 吸状態の悪化を認め 第 104 病日に呼吸不全のため永 黄疸なし 表在リンパ節触知せず 心音純 右下肺野 眠した 呼吸音減弱 腹部 平坦 軟 圧痛なし 肝脾触知せ ず 下肢浮腫なし 症例 2 76 歳 男性 入院時検査所見 末梢血では 白血球 16,300/μL 主訴 呼吸困難 好中球 94.8 と好中球優位の白血球増多と Hb 11.0 g/ 現病歴 67 歳より抗糸球体基底膜抗体型腎炎による dl の正球性正色素性貧血を認めた 凝固系では フィ 急速進行性腎炎症候群のため血液透析を開始した 入 ブリノゲン 628 mg/dl FDP 27.7μg/mL D ダイマー 院の 6 か月前より右側胸水貯留を認めるようになり 14.1μg/mL と凝固 線溶系の亢進を認めた 赤沈 101 透析による除水 抗生剤投与を行うも改善なく 当院 mm/1 時間値と亢進していた 血清総蛋白 7.2 g/dl 呼吸器内科を受診した 胸水穿刺の結果 血性の滲出 アルブミン 3.2 g/dl の低アルブミン血症を認め ALP 性胸水 胸水中蛋白 3.4 g/dl LDH 205 mg/dl 細胞 411 IU/L と上昇を認めた 入院時の血清尿素窒素 52.6 数 383/μL ADA 10.8 U/L ヒアルロン酸 58,000 ng/ mg/dl 血清クレアチニン 7.01 mg/dl であった 免 ml を認めた 一般細菌および結核菌培養検査は陰性 疫学的検査では CRP 15.83 mg/dl と上昇していた 抗 で 細胞診は classⅡであった その後 呼吸困難を自 糸 球 体 基 底 膜 抗 体 は 陰 性 で MPO ANCA PR3 覚するようになり 入院 1 か月前に胸腔鏡下胸膜生検 ANCA も陰性であった を施行した 胸膜組織には 悪性腫瘍や結核病変を認 胸部 X 線写真では両側に胸水貯留を認め 図 2a めず 線維素性胸膜炎の所見を認めた 図 2b 維持 胸部 CT では 両側胸膜肥厚と右胸水貯留 右下葉の 透析施設にて抗凝固薬を低分子ヘパリンに変更し 透 無気肺を認めた 析方法を血液濾過透析に変更されたが症状の改善なく 入院後経過 胸膜生検の結果より尿毒症性胸膜炎と 当院に入院した 診断した 血性胸水であったため透析時の抗凝固薬を 既往歴 71 歳 早期胃癌内視鏡的粘膜切除術 72 メシル酸ナファモスタットに変更した さらに 透析 歳 ウイルス性髄膜炎 時間を 5 時間に延長し 透析膜は PMMA 膜を使用し 家族歴 特記事項なし 血流量 200 ml/分で週 3 回の血液透析を行い Kt/V 生活歴 飲酒 1.5 合/日 47 年間 喫煙 20 本/日 1.6 を達成した しかし 回路内の残血が多く第 14 病 45 年間 日より抗凝固薬を低分子ヘパリンに変更した ツベル
236 佐野ほか 尿毒症性胸膜炎の 3 例 a b 図 2 a Light microscopic findings of the pleural biopsy specimen. Pleural biopsy specimens show fibrin precipitation on the pleural surface with fibrotic thickening and cell infiltration hematoxylin eosin stain original magnification 200. b Chest radiograph on admission showing bilateral pleural effusion. クリン反応は陰性で T SPOT は未検であったが 維持 入院時現症 身長 141 cm 体重 39.1 kg 体温 36.8 透析患者に合併した原因不明の血性胸水貯留で赤沈の 度 血圧 146/75 mmhg 脈拍 65/分 整 意識清明 亢進を認めていたことから 深在性結核の合併を疑い 眼瞼結膜貧血なし 眼球結膜黄疸なし 頸静脈怒張な 第 6 病日より抗結核療法 イソニアジド 100 mg/日 し 表在リンパ節触知せず 心音 Levine3 度の収縮 隔日 リファンピシン 450 mg/日 ピラジナミド 1.2 期雑音あり 肺野 右下肺野呼吸音減弱 腹部 平坦 g/日 ストレプトマイシン硫酸塩 0.5 g/回 週 1 回筋 軟 圧痛なし 下肢浮腫なし 注 計 5 回 を開始した 胸水に変化はみられなかっ 入院時検査所見 末梢血では Hb 10.4 g/dl の正球 たが CRP 4 mg/dl 台 赤沈 60 mm/1 時間値まで低 性正色素性貧血を認めた 凝固系では フィブリノゲ 下し 自覚症状の軽減がみられ第 46 病日に近医に転院 ン 397 mg/dl FDP 9.9μg/mL D ダイマー 3.04μg/ となった その後 同院にて血液透析と抗結核療法を ml と凝固 線溶系の亢進はわずかで 赤沈 49 mm/1 継続したが 胸水の改善は認めず 労作時呼吸苦の増 時間値で軽度亢進していた 動脈血液ガスでは room 悪により在宅酸素療法を開始して退院となった 転院 air で PO2 57.4 Torr の低酸素血症と PCO2 43.4 Torr の 6 か月後 肺炎を合併し呼吸状態不全となり永眠した 高 CO2血症を認めた 血清総蛋白 6.6 g/dl 血清アル ブミン 3.4 g/dl と低下し 血清尿素窒素 36.8 mg/dl 症例 3 66 歳 女性 血清クレアチニン 5.84 mg/dl であった 免疫学的検 主訴 労作時呼吸困難 査では CRP 1.31 mg/dl と上昇し 抗核抗体 40 倍 現病歴 29 歳より妊娠高血圧腎症による慢性腎不全 Homogeneous type を認めたが 免疫グロブリン 補 のため腹膜透析が開始となり その 3 か月後より血液 体価に異常は認めず MPO ANCA PR3 ANCA は 透析に移行した 入院の 3 か月前より労作時の息切れ 陰性だった を自覚 胸部 X 線検査にて右胸水貯留を認めたため近 胸部 X 線写真および胸部 CT 検査では右側に優位の 医に入院した 胸水穿刺の結果 悪性腫瘍や感染を示 大量の両側胸水貯留を認めた 図 3a 心臓超音波検 唆する所見は認めず 溢水による胸水の診断となり退 査では 大動脈弁狭窄症と閉鎖不全症を認めたが左室 院した 維持透析施設にて透析による除水を行うも労 収縮能は正常範囲で 心囊液貯留も認めなかった 胸 作時呼吸苦と胸水の改善が得られず 当院に入院 水穿刺の結果は 血性の滲出性胸水 胸水中蛋白 4.4 既往歴 56 歳 頸椎症性脊椎症で脊柱管拡大術 59 g/dl LDH 119 mg/dl 細胞数 490/μL ADA 20.5 歳 子宮癌で単純子宮全摘術手術 65 歳 右変形性膝 U/L ヒアルロン酸 20,600 ng/ml で 一般細菌およ 関節症で人工関節置換術 び結核菌培養は陰性であり 細胞診では悪性所見を認 家族歴 父 胃癌 長女 巣状糸球体硬化症 めなかった 生活歴 飲酒 なし 喫煙 なし 入院後経過 入院後 血液透析の抗凝固薬をメシル
佐野ほか 尿毒症性胸膜炎の 3 例 a 237 b 図 3 a Chest radiograph on admission showing right pleural effusion. b Light microscopic findings of the pleural biopsy specimen. Pleural biopsy specimens show fibrotic change with cell infiltration hematoxylin eosin stain original magnification 100. 図 4 Clinical course of case 3 INH isoniazid, RFP rifampycin, PZA pyrazinamide, SM streptomycin, PSL predonisolone, CRP C reactive protein, BW body weight after dialysis 酸ナファモスタットに変更し off line 血液濾過透析 第 49 病日に抗結核療法を中止し 尿毒症性胸膜炎によ を PS 膜 1.5 m2 血流量 200 ml/分 8 L 置換で開始 る炎症を抑制する目的で 第 56 病日より経口プレドニ し Kt/V 1.5 を維持した 透析中は血圧低下のためさ ゾロン 30 mg/日によるステロイド療法を開始した らなる除水は困難であった また ツベルクリン反応 その結果 透析中の血圧が上昇して除水が可能とな が弱陽性を示し T SPOT は陰性であったが深在性結 り 胸水の減少とともに呼吸状態も改善し CRP も低 核の合併を疑い 第 11 病日より抗結核療法 イソニア 下した 第 64 病日には酸素吸入を中止し 第 68 病日 ジド 100 mg/日 ピラジナミド 0.7 g/日 週 3 回 リ 以降 プレドニゾロンを漸減した その後 胸水の再 ファンピシン 450 mg/日 ストレプトマイシン硫酸塩 貯留は認めなかったが プレドニゾロン 2.5 mg/日ま 0.5 g 週 1 回筋注 計 4 回 を開始した しかし 胸 で減量したところで CRP の再上昇を認めたためプレ 水の改善なく CRP 上昇も認めていたため 第 38 病 ドニゾロン 10 mg/日を継続して第 108 病日に退院し 日 胸腔鏡下胸膜生検を施行した 生検の結果 悪性 た 図 4 退院後 プレドニゾロンを漸減し 5 か月目 腫瘍や結核感染を示す所見は認めず 線維素性胸膜炎 に中止するも CRP の上昇や胸水の再貯留は認めな の所見を認め 尿毒症性胸膜炎と診断した 図 3b かった
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