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2 11. 脂肪 蓄 必 12. 競技 引退 食事 気 使 13. 日 練習内容 食事内容 量 気 使 14. 競技 目標 達成 多少身体 無理 食事 仕方 15. 摂取 16. 以外 摂取 17. 自身 一日 摂取 量 把握 18. 一般男性 ( 性. 一日 必要 摂取 把握 19. 既往歴 図

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分娩前後の飼養管理飼養管理の基本 1. 乾乳期乾乳期は 乳腺の再生 分娩後の高泌乳に向けたルーメンの準備 胎児への栄養供給 乳房炎の治療などを行うための大切な期間です 乾乳期は 乳牛の生理的反応の違いから乾乳前期 ( 分娩 8 週前 ~ 4 週前 ) と乾乳後期 ( 分娩 3 週前 ~ 分娩 ) に分けて考えます 1) 乾乳前期は 酷使された乳腺組織を休息 回復させる時期です この時期は 過肥を防ぐため粗飼料主体の給与とし 全体の乾物摂取量は体重の1.5~2% とします また T DN 給与量は維持に妊娠加算分を加えた要求量の90~100% を目安とします なお ボディコンディションは乾乳期までに3.25~3.75に調整し 分娩時に3.5 前後とするのが理想的です 2) 乾乳後期 ( クロースアップ期 ) は 穀類の多給に向けたルーメンの馴致と 胎児への 栄養供給のための時期です ルーメンの馴致は 乾乳前期の粗飼料主体の飼料給与によ って退化した絨毛組織を回復させ 微生物をルーメン環境に慣れさせることであり こ れには 3週間必要です さらに この時期は 胎児や子宮の急激な成長により消化管が圧 迫されたり 分娩や泌乳の準備によるホルモンバランスの崩れが原因で 食欲が減退し 乾物摂取量を低下させ 分娩前からのエネルギー不足 さらには体脂肪動員を生じさせ 脂肪肝 ケトーシスを起こしやすくします そこで クロースアップ期は 分娩後のルーメン環境に慣れさせるほか 乳牛に無理 なくエネルギー摂取をさせることが大切となり 濃厚飼料を増給することが管理の基本 となります 2. 泌乳初期分娩後は 乳量のピークが4~5 週 乾物摂取量のピークが10~12 週ですので 泌乳初期では 乳量とバランスがとれた乾物摂取ができないのが普通です この負のエネルギーバランスが過度になると 乳牛は体脂肪などの蓄積養分から栄養素を動員し その結果 脂肪肝 ケトーシスなどの代謝障害や繁殖障害が引き起こされます したがって この時期に重要なことは 乳牛に無理なく乾物摂取量を高めることです このためには クロースアップ期から濃厚飼料を増給し 分娩後は栄養濃度の高い飼料に切り替え 2~ 3 日毎に1kg 増加させることが管理の基本となります -1-

乾乳後期 ( クロースアップ期 ) の濃厚飼料増給試験 概要 1. 試験内容乾乳後期 ( 以下 クロースアップ期 ) について 栄養充足率を高めた2 形態の濃厚飼料の段階的増給が分娩前後の生理状態 乳量および繁殖性等へ及ぼす影響について検討した この試験でのクロースアップ期の具体的な給与方法は 表 1に示した 表 1 クロースアップ期におけるにおける濃厚飼料濃厚飼料の給与方法試験区名頭数分娩予定 3 週前 ~ 分娩予定 2 週前 ~ ~ 分娩予定 1 週前 ( 目標栄養充足率 )~ 配合増量区 13 配合飼料 2kg 配合飼料 3kg 配合飼料 4kg (TDN107% CP122%) 配合 麦増量区 14 配合 2kg+ 大麦 0.5kg 配合 2kg+ 大麦 1.5kg 配合 2kg+ 大麦 2.5kg (TDN113% CP112%) 配合定量区 17 配合飼料 2kg 配合飼料 2kg 配合飼料 2kg (TDN83% CP85%) 配合飼料は市販乾乳用配合飼料 ( 乾物中 TDN74% CP18%) 粗飼料は チモシー乾草を1 頭当たり1 日 1.2kg 定量給与とし イタリアンサイレージは目標栄養充足率にあわせて給与量を調整した ( 表 1 の補足説明 ) 配合増量区 : 乾乳用配合飼料 2 kg/ 日からスタートとし 1週ごとに 1kg増給 3 週目で 4kg/ 日とする 蛋白質含量は高めに設定 (3 週間目栄養充足率 : TDN107% CP122%) 配合 麦増量区 : 乾乳用配合飼料 2kg/ 日の定量給与に加えて 大麦を1 週目 0.5kg 2週目 1.5kg 3週目 2.5kg( 配合飼料と併せて 4.5kg/ 日 ) とする 蛋白質含量は低めに設定 (3 週間目栄養充足率 : TDN113% CP112%) 配合定量区 : 分娩予定前 3 週から分娩まで乾乳用配合飼料 2 kg/ 日の定量給与 なお 分娩直後から 1 週目までの濃厚飼料の給与方法は表 2 に示したとおりで その後 は 3kg の大麦の定量給与に加え 搾乳飼料を2 ~ 3 日で1kg の割合で増給した 濃厚飼 料の給与量は 大麦と搾乳用配合を併せて最高 表 2 分娩後におけるにおける濃厚飼料濃厚飼料の給与方法 ( 配合増給区 ) 14kg/ 日までとした ( 配合 麦増給区 ) 区分 乾乳用配合 搾乳用配合 大麦 合計量 区分 乾乳用配合搾乳用配合大麦合計量 分娩日 4.0 1.0-5.0 分娩日 2.0 0.5 2.5 5.0 1 日目 4.0 1.5-5.5 1 日目 2.0 1.0 2.5 5.5 2 日目 4.0 2.0-6.0 2 日目 2.0 1.5 2.5 6.0 3 日目 4.0 2.5-6.5 3 日目 2.0 2.0 2.5 6.5 4 日目 4.0 3.0-7.0 4 日目 2.0 2.5 2.5 7.0 5 日目 4.0 3.5-7.5 5 日目 2.0 3.0 2.5 7.5 6 日目 4.0 4.0-8.0 6 日目 2.0 3.5 2.5 8.0 7 日目 - 7.0 2.0 9.0 7 日目 - 6.0 3.0 9.0 8 日目以降 大麦 3kg+ 搾乳用配合 1kg/2~3 日増給 大麦と搾乳用配合飼料で最高 14kg とした 8 日目以降 大麦 3kg+ 搾乳用配合 1kg/2~3 日増給 大麦と搾乳用配合飼料で最高 14kg とした -2-

2. 試験結果 (1) 乾物摂取量の増加 クロースアップ期の濃厚飼料の増給により 分娩後の乾物摂取量が高まる 分娩予定 3週間前から濃厚飼料を増給した区は 分娩後の乾物摂取量の増加が確認された ( 図 1) (2) 乳量の増加 クロースアップ期の濃厚飼料の増給により 分娩後の乳量増加が期待できる 分娩予定日 3週間前から市販乾乳用配合飼料を増給した区 ( 配合増給区 ) で 分娩後 15 日目の乳量を100 とした乳量増加率が高まる傾向があった ( 図 2 ) なお 配合増給区で乳量が高まった要因は 乾乳後期の飼料中蛋白水準 (CP15.3%) 1) を高めると 乳腺細胞の再生を促進し 産乳性が向上するとの報告に準ずるものと考え られる ちなみに 本試験での分娩直前の全飼料中 CP 水準は 配合増給区で 15.0% 配合 麦増給区で 13.1% であった 20 18 配合増給区 (4 頭 ) 配合 麦増給区 (3 頭 ) 配合定量区 (3 頭 ) 190% 170% 配合増給区 配合定量区 配合増給区 配合 麦増給区 16 150% 14 130% kg/ 日 12 10 8 6 110% 90% 70% 配合定量区 配合 麦増給区 4 2 50% 15 日 30 日 45 日 60 日 75 日 0 分娩日 -14 日分娩日 -7 日分娩日 +7 日分娩日 +14 日分娩日 +21 日 図 1 分娩前後の乾物摂取量 図 2 乳量増加率の推移 ( 分娩後 15 日を 100%) (3) 繁殖成績の向上と分娩難易度 クロースアップ期の配合飼料 麦の増給により 繁殖成績の向上が期待できる クロースアップ期に濃厚飼料を増給しても 分娩難易度に影響は見られない 配合飼料 麦増給区は 受胎日数が短かく 種付回数も少なかった また 分娩時 の産子体重は 飼料増給の影響はなく 分娩難易度についても影響は無い ( 表 3 ) なお 配合増給区で 繁殖成績が良くなかったのは 乾乳後期の飼料中蛋白水準 ( CP15.3 1) %) を高めると 繁殖成績は思わしくなかったとする報告に準ずるものと思われる -3-

表 3 分娩難易度と繁殖状況 試験区 頭数 産歴 分娩難易 産子体重 受胎までのまでの日数 初回種付日数 種付回数 配合増給区 11 3.3±1.8 1.6±1.1 45±4 197±88 97±33 3.8±2.2 配合 + 麦増給区 14 3.4±1.8 1.7±1.0 43±4 141±52 119±54 1.6±1.0 配合定量区 13 2.6±1.1 1.6±1.0 46±5 197±90 117±63 2.8±1.2 1 乳用牛群検定の 難易コード を使用 2 交雑種 ET 和牛を除く < 難易コード > 1 : 介助なしの自然分娩 2: ごく軽い介助 3:2-3 人を必要とした助産 4 : 数人の助産を必要とした難産 5: 外科手術を必要とした難産または分娩時母牛死亡 (4) クロースアップ期の栄養水準と暑熱ストレス クロースアップ期の濃厚飼料の増給により 栄養改善が図れる クロースアップ期の栄養水準の違いよりも 暑熱ストレスの方が大きい 血液中の NEFA より増加する また 分娩前の 値 ( 遊離脂肪酸値 ) は体脂肪動員の指標であり エネルギー不足に NEFA 値が高い場合は肝機能の低下や蛋白摂取不足の 1) 関連も指摘されている 各試験区での NEFA 値の推移 ( 図 3) は 配合増給区と配合 麦増給区が 分娩前後で配合定量区よりやや低い傾向にあり 栄養改善の傾向が見ら れた また 夏期分娩の NEFA 値の推移は 夏期以外の分娩と比べ高い傾向を示し 暑熱 ストレスの方が 分娩前の栄養水準の影響よりも大きい ( 図 4) 1. 0 0. 8 0. 6 配合定量区 配合増量区 配合 麦増量区 ( meq/l) 配合定量区 0. 4 配合 合麦増量 0. 2 配合増量区 0. 0-21 -11-1 9 19 29 39 49-0. 2 図 3 分娩前後の NEFA の推移 ( meq / L) 1. 0 夏期分娩 0. 9 0. 8 夏期分娩 夏期分娩以外 0. 7 0. 6 夏期分娩以外 0. 5 0. 4 0. 3 0. 2 0. 1 0. 0-2 1-1 6-1 1-6 - 1 4 9 1 4 1 9 2 4 図 4 夏期分娩での分娩前後の N E F A の推移 -4-

分娩前後の飼養管理技術飼養管理技術のポイント 乾乳期から分娩前期における基本的な管理技術として リード飼養法があります 図 3 は 日本飼養標準乳牛 ( 2006 年版 ) 等で紹介されているリード飼養法に 今回試 験のクロースアップ期での濃厚飼料の段階的増給をアレンジしました 乾乳前期濃厚飼料 0~2kg/ 日 TDN90% クローズアップ期濃厚飼料の段階的増給 4kg kg/ 日 3kg kg/ 日 TDN110 110% 2kg kg/ 日 1kg/2 日 最高 15kg 濃厚飼料 1kg kg/2~3 日増 ( 最高 15kg まで ) ( 牛の状態を見ながら給与量を加減する ) 粗飼料 : 体重の 1.2%( %(DM DM)~ 粗飼料 : 体重の 1.6%( %(DM DM) 8 週 3 週前 2 週前 1 週前分娩 4 週 16 図 3 リード飼養法飼養法によるによる給与事例 1. 乾乳前期 ( 乾乳直後 ~ 分娩前 3 週間まで ) (1) BCS( ホ テ ィコンテ ィションスコア ) は 乾乳期までに3.25~3.75に調整しておきます (2) 過肥を防ぐため粗飼料主体の給与としますが 粗飼料の栄養価が低い場合 ( 粗飼料 の品質が悪く 食い込みが悪い場合等 ) や BCS の回復が遅れてしまった牛は 栄養価 の調整のために濃厚飼料を給与するなど TDN 充足率は 90%~100% を確保するように します (3) 粗飼料は 日本飼養標準で示されるリード飼養表の表では体重の 1.2% と表示されて いますが これは最低量と考えてください TDN 充足率 90% 以上を満たすためには 粗 飼料だけなら 品質にもよりますが DM( 乾物量 )/ 体重は 1.5% 以上なるのが普通です し 日本飼養標準でもこの時期の全乾物摂取量の指標は 2% 前後なっています (4) この時期の濃厚飼料は ルーメンの絨毛組織の退縮を最小限にするために給与する もので 通常 1~2kg とします 給与量は 牛の BCS を見て加減してください 乾乳前期の技術ポイント 乾乳期に入る前に BCS を 3.25~3.75( 基本 3.5) に調整しておく 過肥を防ぐため粗飼料主体の給与とする TDN 充足率は 90%~100% を確保するようにし 総 DM 量は体重の 2% を目安とす る 濃厚飼料は ルーメンの絨毛組織の退縮を最小限にするために給与するもので 通常 1~2kg とする -5-

2. クロースアップ期 ( 分娩前 3 週間 ~ 分娩まで ) (1) 食欲が減退し 乾物摂取量が低下ぎみとなる時期ですので 嗜好性や品質の悪い飼 料の給与は避けるようにします (2) 濃厚飼料は 2 ~ 2.5kg( 乾乳前期から徐々に増給 ) からスタートし 1 週毎 1kg 増 給していき 最高で4 ~4.5kg とします 濃厚飼料の大半を占める非繊維炭水化物は ルーメン内で主にプロピオン酸と酪酸 を産生し 酪酸は絨毛の伸長を促すとされており 泌乳初期の乾物摂取量の増大に関 係します ( 3) この時期の乾物摂取量の目安は DM/ 体重で 1.5% 程度です TDN 充足率は100 ~110 % を目標とし CP 充足率は110 ~ 120 % を目標とします 今回の試験では CP 充足 率が 120 % 程度では産子体重と分娩難易度に影響はありませんでしたが CP140 % で 2) 胎児が顕著に大きくなるとの報告がありますので 注意してください CP が高くな り過ぎる場合は 乾乳用配合飼料の一部を麦で代替えすることをお勧めします (4) 3 週間前から 陽イオン含量 ( Na K Ca Mg) を減らし 骨から乳腺への Ca の 動員を準備させます 具体的には マメ科牧草や Ca の多い濃厚飼料 リンカル剤の 制限 ( Ca 濃度は 0.4 % 以下 ) また K 含量は 2 % 以下の低含量の粗飼料を用いるよう にします なお ビートパルプは 非粗飼料繊維 ( NFFS) が多く Kも少ないこと からクローズアップ期に給与すべき飼料です 体内へ Ca の吸収量が高めるためには 陽イオンを減らすか 陰イオンを増やすか といったことになり カチオン ( 陽イオン) アニオン( 陰イオン ) バランス ( DCAD) の考 え方があります ( Na +K +0.15Ca +0.15Mg) -( Cl +0.20S +0.3P) を0 ~-10meq / 100 g( DM) になることを目標に設計します クロースアップ期のポイント クロースアップ期は分娩前 3 週間とし 濃厚飼料は2kg/1 日から開始し 1 週毎 1kg 増給していき 最高で4~4.5kgとする この間のTDN 充足率は100~110% CP 充足率は110~120% を目標とする この間は CaやK 等の陽イオンの給与量を抑える 特にK 含量は2% 以下の低含量の粗飼料を用いるようにする ビートパルプは K 含量が低く 微生物の増殖維持にも効果があるので クロースアップ期に給与すべき飼料である -6-

3. 泌乳初期 1) この時期は 乳牛に無理なく乾物摂取量を高めることが重要で 分娩前から濃厚飼料 の給与量を増やし 分娩後はより栄養濃度の高い飼料に切り替えていくことです 2) 負のエネルギーバランスになると 体脂肪から栄養分を補給し 脂肪肝 ケトーシス の原因となり 子宮回復 初回排卵 発情回帰の遅れにつながります 3) 理想は TMR での給与ですが 分離給与の場合は 粗飼料を食い込ませてから濃厚飼 料を給与するようし 濃厚飼料は2 ~ 3 日ごとに 1kg 増加 最高 15kg までとします 4) また 濃厚飼料給与量は 多くても 1 回量 3kg を超えないように 多回給餌に努める ようにします 自動給餌機を使用しなくても 1 日 3 ~ 4 回は必要です 5) 一度の濃厚飼料多給は ルーメンアシドーシスにより食欲減退や蹄病を引きお越しま す この時期の食欲不振は 負のエネルギーバランスを大きくするので要注意です 6) 粗飼料は 乾物摂取量を高めるためにも良質なものを給与するようにし 特に暑熱時 には 分娩前後を通じて消化性の良い良質なものを給与するとともに 暑熱対策には十 分努めて下さい 泌乳初期での粗飼料給与量の目安は DM 量で体重の 1.6 % 程度です 蹄病の発生機序 アシドーシスによりルーメン内 ph を急激に低下 死んだ微生物が エンドキシン ヒスタミンを放出し それが蹄の裏側のケラチン層細胞を崩壊させ内出 血を起こさせる これによりケラチン層の血流が阻害され 蹄の発育異常 傷が生じる ここに菌が感染して障害を起こす 6) 分娩前後にβカロテン ( 50 万 IUmg / 日 ) とビタミン E( 1,000IU / 日 ) を分娩前 7 日 ~ 分娩後 30 日間 給与することで 子宮回復 初回排卵 発情回帰 初回授精までの日 3) 数が改善されるとしています また 分娩前 9 週間 ~ 分娩後 20 週間で給与した試験で はβカロテンは 300mg( 8.3 万 IU )/ 日 ビタミンE は 1,000IU/ 日で繁殖成績の改善効果 が高かった 4) としています 泌乳初期のポイント 分娩後の濃厚飼料の給与は 分娩直前の給与量から始め 牛の状態を見ながら2 ~3 日ごとに 1kg 増加 最高 15kg までとする 乾物摂取量を高めるために 良質な粗飼料を給与するようにする 給与量は DM 量で体重の 1.6 % を目安とする 分娩前後の暑熱対策には十分努めること 繁殖成績向上のため 分娩前後のビタミン A E 剤の添加補給は重要である 参考文献 1) 2) 楠原徹他 ; 移行期の栄養水準が産乳と繁殖に及ぼす影響, 茨城県畜産センター研究報告 32 号 (2002) 3) 渋谷清忠他 ; ビタミン類投与による繁殖成績等の改善, 大分県畜産試験場試験成績報告書 31 号 ( 2002) 4 ) 宇田三男他 ; 乳牛の分娩前後の飼養法に関する研究, 茨城県畜産試験場研究報告 9~11 号 ( 1985~1987) -7-