278 小児 小 児 Ⅰ. ウイルムス腫瘍 1. 放射線療法の目的 意義ウイルムス腫瘍は, 年間約 50 例が小児がん全国登録に報告されている この腫瘍は National Wilms Tumor Study Group(NWTSG) のランダム化比較試験により, 現在では治癒可能な疾患となった 化

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70% の患者は 20 歳未満で 30 歳以上の患者はまれです 症状は 病巣部位の間欠的な痛みや腫れが特徴です 間欠的な痛みの場合や 骨盤などに発症し かなり大きくならないと触れにくい場合は 診断が遅れることがあります 時に発熱を伴うこともあります 胸部に発症するとがん性胸水を伴う胸膜浸潤を合併する

1)表紙14年v0

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胸部 131 対側肺門および転移のない鎖骨上リンパ節はCTVには含まない PTV X 線透視などで症例ごとに呼吸性移動を観察し CTVからITVを設定し さら に0.5 程度のセットアップマージンをつける 2 放射線治療計画 かつてLD SCLCには 原発腫瘍から 2 のマージンをとり 両側肺門 気

外来在宅化学療法の実際

佐賀県肺がん地域連携パス様式 1 ( 臨床情報台帳 1) 患者様情報 氏名 性別 男性 女性 生年月日 住所 M T S H 西暦 電話番号 年月日 ( ) - 氏名 ( キーパーソンに ) 続柄居住地電話番号備考 ( ) - 家族構成 ( ) - ( ) - ( ) - ( ) - 担当医情報 医

094 小細胞肺がんとはどのような肺がんですか んの 1 つです 小細胞肺がんは, 肺がんの約 15% を占めていて, 肺がんの組 織型のなかでは 3 番目に多いものです たばことの関係が強いが 小細胞肺がんは, ほかの組織型と比べて進行が速く転移しやすいため, 手術 可能な時期に発見されることは少

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ことから過剰診断が問題視され 2003 年には厚生労働省の決 定で休止となりました 2. 診断 (1) 臨床症状 : 早期に腫瘤を触知することはまれです ただし 1 歳までの赤ちゃんにみられる病期 4S という腫瘍では 皮下への転移 肝腫大による腹部膨満や呼吸障害がみられます 幼児では転移のある進行

170 消 化 器 2. 病 期 分 類 による 放 射 線 療 法 の 適 応 2 cm 以 下 でリンパ 節 転 移 や 遠 隔 転 移 のない 腫 瘍 (T1N0M0)は 放 射 線 治 療 単 独 で 治 療 する 2 cmを 超 える 腫 瘍 については5 FUとマイトマイシンCの 化 学

原発不明がん はじめに がんが最初に発生した場所を 原発部位 その病巣を 原発巣 と呼びます また 原発巣のがん細胞が リンパの流れや血液の流れを介して別の場所に生着した結果つくられる病巣を 転移巣 と呼びます 通常は がんがどこから発生しているのかがはっきりしている場合が多いので その原発部位によ

教育講演 放射線治療における位置的不確かさの影響 ずれるとどうなる 都島放射線科クリニック / 大阪大学塩見浩也 放射線治療を確実に施行するためには, 安全なマージンの設定が不可欠である. ターゲットの設定は,ICRU report 50, 62 3) で規定されている肉眼的腫瘍体積 (GTV; g

10 年相対生存率 全患者 相対生存率 (%) (Period 法 ) Key Point 1 の相対生存率は 1998 年以降やや向上した 日本で

33 NCCN Guidelines Version NCCN Clinical Practice Guidelines in Oncology (NCCN Guidelines ) (NCCN 腫瘍学臨床診療ガイドライン ) 非ホジキンリンパ腫 2015 年第 2 版 NCCN.or

9章 その他のまれな腫瘍

頭頚部がん1部[ ].indd

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268 皮膚癌 手術では大きな欠損を生じる腫瘤径の大きな悪性黒子型黒色腫に対して放射線治療が行われることがある 1) リンパ節に対する予防照射や術後照射は適応に関して議論のあるところであるが,MDACCでは病期 Ⅱ,Ⅲ に対して施行している 2) 骨転移や脳転移に対しては姑息的照射が一般的に行われて

130724放射線治療説明書.pptx

Microsoft Word - 肺癌【編集用】

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6 月 25 日胸腺腫 胸腺がん患者の情報交換会 & 勉強会質疑 応答 奥村教授にお聞きしたいこと 奥村教授の話 1 特徴 (1) 胸腺腫 胸腺がん カルチノイドの違いについて 胸腺腫はがんの種類か 病理学的には胸腺腫はがんではなくて正常と区別つかず機能を残したまま腫瘍化したもの 一部 転移するもの

を優先する場合もあります レントゲン検査や細胞診は 麻酔をかけずに実施でき 検査結果も当日わかりますので 初診時に実施しますが 組織生検は麻酔が必要なことと 検査結果が出るまで数日を要すること 骨腫瘍の場合には正確性に欠けることなどから 治療方針の決定に必要がない場合には省略されることも多い検査です

肺癌の放射線治療

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食道がん化学放射線療法後のsalvage手術

密封小線源治療 子宮頸癌 体癌 膣癌 食道癌など 放射線治療科 放射免疫療法 ( ゼヴァリン ) 低悪性度 B 細胞リンパ腫マントル細胞リンパ腫 血液 腫瘍内科 放射線内用療法 ( ストロンチウム -89) 有痛性の転移性骨腫瘍放射線治療科 ( ヨード -131) 甲状腺がん 研究所 滋賀県立総合病

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9 2 安 藤 勤 他 家族歴 特記事項はない の強い神経内分泌腫瘍と診断した 腫瘍細胞は切除断端 現病歴 2 0 1X 年7月2 8日に他院で右上眼瞼部の腫瘤を に露出しており 腫瘍が残存していると考えられた 図 指摘され精査目的で当院へ紹介された 約1cm の硬い 1 腫瘍で皮膚の色調は正常であ

小児がんの診療の流れ はじめて小児がんを疑われたときから 受診 そして 経過観察 に至るまでの流れを示しました 今後の見通しを確認するための目安としてお使いください

限局性前立腺がんとは がんが前立腺内にのみ存在するものをいい 周辺組織やリンパ節への局所進展あるいは骨や肺などに遠隔転移があるものは当てはまりません がんの治療において 放射線療法は治療選択肢の1つですが 従来から行われてきた放射線外部照射では周辺臓器への障害を考えると がんを根治する ( 手術と同

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114 頭頸部 Ⅹ. 舌癌 1. 放射線療法の目的 意義舌癌は口腔領域 ( 舌, 口腔底, 頬粘膜, 歯肉 歯槽, 硬口蓋 ) に発生する癌のうち 約 50% を占める 舌は構音 摂食 嚥下と深く関わる臓器であり, 機能 形態の温存に優れる放射線治療のよい適応領域である 幸い舌組織は粘膜下が筋組織で

骨軟部腫瘍 はじめに 九州大学病院では 整形外科が中心となり骨や軟部組織に発生した腫瘍 ( 骨軟部腫瘍 ) の治療を行っており 血液腫瘍内科 放射線科 外科 小児科 小児外科 皮膚科などの協力を得て集学的治療による悪性骨軟部腫瘍患者さんの生命予後の改善と 整容性と機能性に優れた患肢温存治療の実践に大

がん登録実務について

「             」  説明および同意書

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性黒色腫は本邦に比べてかなり高く たとえばオーストラリアでは悪性黒色腫の発生率は日本の 100 倍といわれており 親戚に一人は悪性黒色腫がいるくらい身近な癌といわれています このあと皮膚癌の中でも比較的発生頻度の高い基底細胞癌 有棘細胞癌 ボーエン病 悪性黒色腫について本邦の統計データを詳しく紹介し


2. 転移するのですか? 悪性ですか? 移行上皮癌は 悪性の腫瘍です 通常はゆっくりと膀胱の内部で進行しますが リンパ節や肺 骨などにも転移します 特に リンパ節転移はよく見られますので 膀胱だけでなく リンパ節の検査も行うことが重要です また 移行上皮癌の細胞は尿中に浮遊していますので 診断材料や

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70 頭頸部放射線療法 放射線化学療法

資料 3 1 医療上の必要性に係る基準 への該当性に関する専門作業班 (WG) の評価 < 代謝 その他 WG> 目次 <その他分野 ( 消化器官用薬 解毒剤 その他 )> 小児分野 医療上の必要性の基準に該当すると考えられた品目 との関係本邦における適応外薬ミコフェノール酸モフェチル ( 要望番号

32 中枢神経 中枢神経 Ⅰ. 悪性神経膠腫 1. 放射線療法の目的 意義悪性神経膠腫の治療の主体は手術であり, 可及的に摘出量を多くすることが予後に寄与するという意見も多い ただし, 浸潤性格の強い腫瘍のため, 腫瘍が残存することは避けられず, この制御を目的として放射線療法や化学療法が行われる

膵臓癌について

1. ストーマ外来 の問い合わせ窓口 1 ストーマ外来が設定されている ( はい / ) 上記外来の名称 対象となるストーマの種類 7 ストーマ外来の説明が掲載されているページのと は 手入力せずにホームページからコピーしてください 他施設でがんの診療を受けている または 診療を受けていた患者さんを

1. ストーマ外来 の問い合わせ窓口 1 ストーマ外来が設定されている ( / ) 上記外来の名称 ストマ外来 対象となるストーマの種類 コロストーマとウロストーマ 4 大腸がん 腎がん 膀胱がん ストーマ管理 ( 腎ろう, 膀胱ろう含む ) ろう孔管理 (PEG 含む ) 尿失禁の管理 ストーマ外

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294 小児 図1 stepped field ヘルメット型 Yoshio Arai, MD University of Pittsburgh Physicians 提供 図2 矩形照射野 両目尻にマーキングし 同部で水平ビームになることを確認 蓋内くも膜下腔 尾側は第 2 頚椎下縁までを含む範囲と

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遠隔転移 M0: 領域リンパ節以外の転移を認めない M1: 領域リンパ節以外の転移を認める 病期 (Stage) 胃がんの治療について胃がんの治療は 病期によって異なります 胃癌治療ガイドラインによる日常診療で推奨される治療選択アルゴリズム (2014 年日本胃癌学会編 : 胃癌治療ガイドライン第

要望番号 ;Ⅱ-286 未承認薬 適応外薬の要望 ( 別添様式 ) 1. 要望内容に関連する事項 要望者 ( 該当するものにチェックする ) 学会 ( 学会名 ; 特定非営利活動法人日本臨床腫瘍学会 ) 患者団体 ( 患者団体名 ; ) 個人 ( 氏名 ; ) 優先順位 33 位 ( 全 33 要望

ける発展が必要です 子宮癌肉腫の診断は主に手術進行期を決定するための子宮摘出によって得られた組織切片の病理評価に基づいて行い 組織学的にはいわゆる癌腫と肉腫の2 成分で構成されています (2 近年 子宮癌肉腫は癌腫成分が肉腫成分へ分化した結果 組織学的に2 面性をみる とみなす報告があります (1,

がん化学(放射線)療法レジメン申請書

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10 年相対生存率 全患者 相対生存率 (%) (Period 法 ) Key Point 1

表面から腫れがわかりにくいため 診断がつくまでに大きくなっていたり 麻痺が出るまで気付かれなかったりすることも少なくありません したがって 痛みがずっと続く場合には要注意です 2. 診断診断にはレントゲン撮影がもっとも役立ちます 骨肉腫では 膝や肩の関節に近い部分の骨が虫に食べられたように壊されてい

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5. 乳がん 当該疾患の診療を担当している診療科名と 専門 乳房切除 乳房温存 乳房再建 冷凍凝固摘出術 1 乳腺 内分泌外科 ( 外科 ) 形成外科 2 2 あり あり なし あり なし なし あり なし なし あり なし なし 6. 脳腫瘍 当該疾患の診療を担当している診療科名と 専

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Title 多剤併用化学療法が奏効した再発性成人型 Wilms 腫瘍の 1 例 Author(s) 久野, 貴平 ; 田村, 賢司 ; 吉道, 丈 ; 大河内, 寿夫 ; 西川, 鎌田, 雅行 ; 井上, 啓史 ; 執印, 太郎 Citation 泌尿器科紀要 (2009), 55(11): 699

学位論文の要旨 Combined Analyses of hent1, TS, and DPD Predict Outcomes of Borderline-resectable Pancreatic Cancer (hent1,ts,dpd の組み合わせ検討による切除可能境界膵癌の予後予測 ) Y

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10 年相対生存率 全患者 相対生存率 (%) (Period 法 ) Key Point 1 10 年相対生存率に明らかな男女差は見られない わずかではあ

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が 6 例 頸部後発転移を認めたものが 1 例であった (Table 2) 60 分値の DUR 値から同様に治療後の経過をみると 腫瘍消失と判定した症例の再発 転移ともに認めないものの DUR 値は 2.86 原発巣再発を認めたものは 3.00 頸部後発転移を認めたものは 3.48 であった 腫瘍

32 子宮頸癌 子宮体癌 卵巣癌での進行期分類の相違点 進行期分類の相違点 結果 考察 1 子宮頚癌ではリンパ節転移の有無を病期判定に用いない 子宮頚癌では0 期とⅠa 期では上皮内に癌がとどまっているため リンパ節転移は一般に起こらないが それ以上進行するとリンパ節転移が出現する しかし 治療方法

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日本内科学会雑誌第96巻第4号

7. 脊髄腫瘍 : 専門とするがん : グループ指定により対応しているがん : 診療を実施していないがん 別紙 に入力したが反映されています 治療の実施 ( : 実施可 / : 実施不可 ) / 昨年の ( / ) 集学的治療 標準的治療の提供体制 : : グループ指定により対応 ( 地域がん診療病

C 型慢性肝炎に対するテラプレビルを含む 3 剤併用療法 の有効性 安全性等について 肝炎治療戦略会議報告書平成 23 年 11 月 28 日

リンパ腫グループ:リンパ腫治療開発マップ

第71巻5・6号(12月号)/投稿規定・目次・表2・奥付・背

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4DCTを用いたITV(internal target volume)の検討

修練カリキュラム

(別添様式1)

頭頸部 95 原発部および画像的リンパ節転移陽性部には根治線量を加えるCTV1とする 術後照射では組織学的残存部 GTVが頭蓋底や上縦隔リンパ節領域に進展している場合には, 緩和医療としての照射になるので, 患者状態ごとに患者負担が大きくなり過ぎないように症状に合わせてCTVを設定する PTV: 上

放射線治療とは?

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手術を支持する根拠とされていた また 非治癒因子が 1 つである患者が減量手術の良い対象と報告された しかしながら それらの報告には PS が良く合併症が少なく腫瘍量が少ない患者に好んで減量手術が行われている selection bias が明らかに存在し 化学療法単独でも か月の予後が

がん化学(放射線)療法レジメン申請書

1 BNCT の内容 特長 Q1-1 BNCT とは? A1-1 原子炉や加速器から発生する中性子と反応しやすいホウ素薬剤をがん細胞に取り込ませ 中性子とホウ素薬剤との反応を利用して 正常細胞にあまり損傷を与えず がん細胞を選択的に破壊する治療法です この治療法は がん細胞と正常細胞が混在している悪

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スライド タイトルなし

1 BNCT の内容 特長 QA Q1-1 BNCT とは? A1-1 原子炉や加速器から発生する中性子と反応しやすいホウ素薬剤をがん細胞に取り込ませ 中性子とホウ素薬剤との反応を利用して 正常細胞にあまり損傷を与えず がん細胞を選択的に破壊する治療法です この治療法は がん細胞と正常細胞が混在して

この二つの特徴によって 従来のリニアックでは困難であった再照射にも対応が可能となってきている 本稿では 当施設で再照射を行った症例を呈示 検討しつつ 再照射における の有用性と問題点を検討する 2. 方法当施設では 2010 年 10 月より を導入し 2014 年 3 月までに約 1000 例の照

158 消化器 タにて呼吸性移動を確認することが望ましい PETCTもGTV 決定に有用であり, 可能であれば併用する GTV 原発巣 : 食道バリウム造影,CT, 食道表在癌の場合には色素内視鏡によりGTVを決定する 多発病変あるいはスキップ病変のある場合はこれもGTVに含める 画像的に病変を描出

要望番号 ;Ⅱ-183 未承認薬 適応外薬の要望 ( 別添様式 ) 1. 要望内容に関連する事項 要望者学会 ( 該当する ( 学会名 ; 日本感染症学会 ) ものにチェックする ) 患者団体 ( 患者団体名 ; ) 個人 ( 氏名 ; ) 優先順位 1 位 ( 全 8 要望中 ) 要望する医薬品

MV X 5 6 Common Terminology Criteria for Adverse Events Grade 1 Grade Gy 16 QOL QOL 5 6 7, 8 9, VOL.3 NO

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278 小児 小 児 Ⅰ. ウイルムス腫瘍 1. 放射線療法の目的 意義ウイルムス腫瘍は, 年間約 50 例が小児がん全国登録に報告されている この腫瘍は National Wilms Tumor Study Group(NWTSG) のランダム化比較試験により, 現在では治癒可能な疾患となった 化学療法の強化とともに, 放射線治療線量は減量され, 注意深く配慮した放射線療法を行えば, ほとんど合併症を問題にしなくてすむようになった NWTSの従来の治療方針は外科手術 ( 一期的切除 ) が主体であったのに対して, NWTS 5 ではInternational Society of Pediatric Oncology(SIOP) 1,2) の方針を採用し, 巨大なstageⅢ 症例に対して生検後の術前化学療法, 遅延一期的切除を認めるようになった 3) 2. 病期分類による放射線療法の適応国際的には NWTS 病期分類が用いられているが,NWTS 5 にのっとって共同研究 表 1. ウイルムス腫瘍治療方針 (NWTS 5 プロトコール ) 病期と年齢 予後因子 治療法 stageⅠ/ 予後良好群 24ヵ月以下, 腫瘍 550g 以下 24ヵ月以上, 腫瘍 550g 以上 手術放射線療法なし化療なし stageⅠ/ 未分化型 (focal of diffuse) 手術放射線療法なし EE 4A:AMD+VCR(18 weeks) stageⅡ/ 予後良好群 stageⅢ/ 予後良好群 stageⅡ Ⅲ/ 未分化型 (focal) 手術 10.8Gy stageⅣ/ 予後良好群 DD 4A:AMD+VCR+ADR(24 weeks) stageⅣ/ 未分化型 (focal) stageⅠ Ⅲ/ 腎臓明細胞肉腫 手術 10.8Gy stageⅡ Ⅳ/ 未分化型 (diffuse) I:AMD+VCR+CPM+VP 16(24 weeks) stageⅠ Ⅳ/ 横紋筋肉腫様腫瘍 手術 10.8Gy RTK:CBDCA+VP 16+CPM(24 weeks) AMD=actinomycin D( アクチノマイシン D) VCR=vincristine( ビンクリスチン ) ADR=doxorubicin( アドリアマイシン ) CPM=cyclophosphamide( シクロホスファミド ) VP 16=etoposide( エトポシド ) CBDCA=carboplatin( カルボプラチン )

小児 279 を開始した日本ウイルムス腫瘍スタディグループではNWTS病期分類を用いる Favorable Histology 予後良好群 のstageⅢ Ⅳ anaplastic tumor 退形成腫瘍 のstageⅡ Ⅳ clear cell sarcoma of the kidney CCSK 腎明細胞肉腫 の全病期 rhabdoid tumor 横紋筋肉腫様腫瘍 のstageⅢ Ⅳに 術後照射10.8Gy 6 回 8 日 が必要である 手術日を術後 0 日とすると 化学療法は術後 5 日から開始し 術後照 射開始も術後 9 日より遅れてはならない3 4 表1 stageⅢとなるような腹腔全体の 腫瘍漏出や腫瘍播種が認められたときは 全腹部照射を行う 転移病巣に対する放射 線治療は有効であり 化学療法と併用となる 3 放射線治療計画 1 標的体積 GTV 手術前 初診時 CTにて認められた原発巣 リンパ節転移巣 CTV NWTSでは原発腫瘍 リンパ節転移であるGTVを充分に含み 外側は側腹壁 を照射野に入れることとしている また腫瘍の頭側 尾側は 1 のマージンをとるこ とが必要である リンパ節転移は 頭側は横隔膜脚部 尾側は腸骨動脈領域まで達す ることが多い 内側は対側傍大動脈リンパ節領域を含むように 椎体全幅が照射野に 入るように設定する 側弯症予防のためにも 椎体全幅を含めることは重要である 腹腔全体の腫瘍漏出や腫瘍播種が認められたときは 全腹部照射 横隔膜ドームか ら閉鎖孔まで 大腿骨頭は遮蔽 とする 肝転移では 切除不能例には 2 マージンをとる照射野とする 多発肝転移 瀰漫 性肝転移の場合 全肝とする 診断時から判明している肺転移では両全肺 肺尖部と肺背部下縁を含み 両肩 上 腕骨頭 を遮蔽すること PTV CTVに呼吸による変動などを考慮し設定する a 大動脈造影 図1 ウイルムス腫瘍 b 造影CTスキャン c シミュレーション写真 3 歳女児 StageⅢ C1n1v1M0U0 の術後照射野

280 小児 2) 二次元治療計画術後照射であるので, 術者の見解が重要である 小児では腹部照射では脊椎への影響を考慮し, 椎体全幅を照射野に入れる前後二門照射が基本である ( 図 1) 4. 放射線治療 1) 照射法 X 線は 6 MV 以上を用いることが望ましい 前後対向二門照射が多く用いられる 肺転移症例の全肺照射を行うときに, 腹部照射の適応があれば同時に照射するが, 骨髄抑制が起これば肺照射を先に行う 患児の固定にはテープによる固定と真 図 2. 照射時固定法の 1 例頭部シェルと真空バッグによる体幹部固定 空バッグなどによる固定法がある ( 図 2) 2) 線量分割総線量 10.8Gyとし,1 日線量 1.8Gyで週 5 日間照射を原則とする 照射野が全腹腔照射などと大きくなるときは,1 日線量 1.5Gyとし, 総線量 10.5Gyとする しかし残存腫瘍が大きく局所再発をきたす可能性の高いときには, 追加照射 10.8Gyを考慮する 残存腎は鉛ブロックで遮蔽するか1/3 以上は14.4Gy/8 回 /10 日を越えないようにし, 肝臓の1/2 以上は19.8Gy/11 回 /2 3 週を越えないようにする 肝転移では, 切除不能例には局所照射とし, 全肝が侵されていれば全肝照射 19.8Gy/ 11 回 /2 3 週とする 照射野を縮小して5.4 10.8Gy/11 回 /2 3 週追加照射することもある 肺転移では原則的に両全肺 12Gy/8 回 /2 週照射を行う 照射終了後 2 週間たっても残存する場合は切除するか7.5Gy/5 回追加照射を考慮する 18ヵ月以下の乳幼児に対しては化学療法を用い, 放射線治療は控える 但し, 胸部単純写真で肺転移が認められず,CTでのみ認められたもの( CT only metastases) に対しては, 全肺照射の適応ではない 5,6) 脳転移では全脳に30.6Gy/17 回 /3 4 週照射し, 骨転移局所にも30.6Gy/17 回 / 3 4 週照射する 3) 併用療法放射線治療開始時には,NWTSプロトコールに準じた化学療法が同時併用されている

小児 281 5. 標準的な治療成績 NWTS Ⅳ(stageⅡ Ⅳ) では,pulse intensive(single dose)regimen( パルス強化 療法 ) による 2 年無病生存率は 89.4% であり,standard(divided dose)regimen( 標準 療法 ) による 90.5% と変わりがなく良い成績であった 7) 日本小児外科学会悪性腫瘍委 員会の 1986 1990 年登録症例の予後追跡調査では, 全例の 5 年生存率は 84.7%, 病 期 Ⅰ Ⅱ では 91.9%, 病期 Ⅲ80%, 病期 Ⅴ66.7%, 病期 Ⅳ18.1% であった 8) 6. 合併症現在のNWTSに従って放射線治療を行えば, 放射線照射による重篤な副作用は避け得る しかし前述の配慮を怠ると側弯症や腎 肝 肺の有害反応を生じる ウイルムス腫瘍の治療 15 年後には1.6% の二次がん発生の累積危険率があり,NWTSの治療全体では期待値に対して8.4 倍 ( 標準化発生率比率 ) の二次がんの発生が認められた 初期治療としての放射線治療は15Gy 以下であれば期待値に対して5.5 倍の二次がんの発生であった 9) 7. 参考文献 1)Tournade MF, Com-Nougue C, de Kraker J, et al. Optimal duration of preoperative therapy in unilateral and nonmetastatic Wilms tumor in children older than 6 months: results of the Ninth International Society of Pediatric Oncology Wilms Tumor Trial and Study. J Clin Oncol 19 : 488-500, 2001. 2)Boccon-Gibod L, Rey A, Sandstedt B, et al. Complete necrosis induced by preoperative chemotherapy in Wilms tumor as an indicator of low risk : report of the international society of paediatric oncology (SIOP) nephroblastoma trial and study 9. Med Pediatr Oncol 34 : 183-190, 2000. 3)INT-0150 / POG 9440 / CCG 4941 : National Wilms Tumor Study - 5 : Therapeutic Trial and Biology Study. 4)D Angio GJ, Tefft M, Breslow N, et al. Radiation therapy of Wilms tumor : results according to dose, field, post-operative timing and histology. Int J Radiation Oncology Biol Phys 4 : 769-780, 1978. 5)Green DM, Fernbach DJ, Norkool P, et al. The treatment of Wilms tumor patients with pulmonary metastases detected only with computed tomography: a report from the National Wilms Tumor Study. J Clin Oncol 9 : 1776-1781, 1991. 6)Meisel JA, Guthrie KA, Breslow NE, et al. Significance and management of computed tomography detected pulmonary nodules : a report from the National Wilms Tumor Study Group. Int J Radiat Oncol Biol Phys 44 : 579-585, 1999. 7)Green DM, Breslow NE, Beckwith JB, et al. Comparison between single-dose and

282 小児 divided-dose administration of dactinomycin and doxorubicin for patients with Wilms tumor : a report from the National Wilms Tumor Study Group. J Clin Oncol 16 : 237-245, 1998. 8) 日本小児外科学会悪性腫瘍委員会 : 小児悪性固形腫瘍 5 腫瘍の予後調査結果の報告 1986 90 年登録症例について. 日小外会誌 35 : 716-738, 1999. 9)Breslow NE, Takashima JR, Whitton JA, et al. Second malignant neoplasms following treatment for Wilm s tumor : a report from the National Wilms Tumor Study Group. J Clin Oncol 13 : 1851-1859, 1995. ( 国立成育医療センター放射線治療科正木英一 )