第 4 章平衡状態 目的物質の平衡状態と自由エネルギーの関係を理解するとともに, 平衡状態図の基礎的な知識を習得する. 4.1 自由エネルギー 4.1.1 平衡状態 4.1.2 熱力学第 1 法則 4.1.3 熱力学第 2 法則 4.1.4 自由エネルギー 4.2 平衡状態と自由エネルギー 4.2.1 レバールール 4.2.2 平衡状態と自由エネルギー 4.3 平衡状態図 4.3.1 全率固溶型 4.3.2 共晶型および共析型 4.3.3 包晶型および包析型演習問題 4.1 自由エネルギー 4.1.1 平衡状態 (equilibrium state) 平衡状態 : 外界の条件が一定の時, 系が最終的に到達する最も安定な状態 図 4.1 物体が倒れる際の位置エネルギーの変化 平衡状態に達した後に, 外界から仕事, 熱などが加えられる 系内に変化が生じ, 新たな平衡状態へ向かう
4.1.2 熱力学第 1 法則 一定圧力下にある球形の固体を考える. 物体は外界から投入された熱エネルギー ΔQ のために内部エネルギー U( 原子の運動エネルギー + 位置エネルギー ) が変化し, これにより熱膨張して外界へ仕事をする. : V p : : r : 圧力体積表面積半径 図 4.2 熱力学第 1 法則の説明図 球の体積変化は よって外界になした仕事は 4 3 3 2 V = π{( r + r) r } 4π r r 3 2 p r = p(4π r ) r = p V 熱力学第 1 法則 U ( = U2 U1) = Q p V (4.1) 内部エネルギー変化 : : 投入された熱エネルギー p QU V : 外界になした仕事 熱力学の第 1 法則は, 投入された熱エネルギーから外界になした仕事量を差し引いた値が内部エネルギーの変化量であることを意味する. 4.1.3 熱力学第 2 法則 熱力学第 2 法則 Q S T (4.2) S : T : エントロピー温度 熱力学第 2 法則は, 変化の方向を規定する法則である. 式 (4.2) において, 可逆変化の場合には等号, 不可逆変化の場合には不等号を用いる.
4.1.4 自由エネルギー 式 (4.1) に式 (4.2) を代入すると U + p V T S 0 (4.3) p およびT が一定であれば ( U + pv TS) 0 (4.4) ギブスの自由エネルギー G U + pv TS (4.5) (Gibbs free energy) 式 (4.4) をG を用いて書き改めれば G 0 (4.6) すなわち, 系内の状態変化はギブスの自由エネルギーが減少する方向へ進み, 最終的に ΔG = 0 に達した際に平衡状態となる. 一方, 式 (4.3) より p V ( U TS) (4.7) ヘルムホルツの自由エネルギー F U TS (4.8) (Helmholtz free energy) 式 (4.7) は,-ΔF が外界に対してなすことができる最大の仕事であり, TS は系に束縛されていて取り出すことができないエネルギーを意味する. なお, 固体や液体のような凝集系ではΔV が小さいので, G F である. ( 例 ) 純鉄の相変化 : 任意の温度における相は自由エネルギーが最小となる相である. 912 以下 bcc 912~1394 fcc 1394~1538 bcc 1538 以上 液相 図 4.3 純鉄における相と自由エネルギーの関係
4.2 平衡状態と自由エネルギー 4.2.1 レーバールール (lever rule) X 金属に Y 金属が c wt% 含まれている. この合金が 相および 相に分離したとする. 相 : 重量,Y 金属を c wt% 含む 相 : 重量,Y 金属を c wt% 含む ( ただし c <c ) 図 4.4 2 相に分離した合金 であるとする. 合金の全重量を とすると = + c = c + c よって 相の重量比は c c = c c (4.9) 4.2.2 平衡状態と自由エネルギー X,Y 両金属かならなる合金における Y 金属の含有量と自由エネルギーの関係は, 図 4.5 の (a) か (b) のどちらかになる. 単位重量あたりの自由エネルギーを G と表記する. 合金が, 相に分離したと仮定すると, 合金の全自由エネルギーは G = G + G (4.10) = + また, (4.11) 図 4.5 自由エネルギー組成曲線
式 (4.10) と式 (4.11) より G = G G = G + ( G G ) G さらに式 (4.9) を適用すれば ( (4.12) ) 図 4.5(a) の場合 : 合金が 2 相に分離したと仮定すると, 式 (4.12) は全自由エネルギーが図 4.5(a) の C 点で G になることを示している.G が最小値となるのは G =G の時, すなわち C 点 (c=c =c ) である. よって, 合金は単相となる. 図 4.5(b) の場合 : 式 (4.12) で示される G が最小値となる場合を考えると, c c, c c の時合金は Y 金属の含有率が c の単相となる. c <c<c の時合金は Y 金属の含有率が c あるいは c の 2 相となる. (c,c は, 図のように自由エネルギー組成曲線に接線を引くことにより求められる ) 以上のように, 平衡状態で存在する相は自由エネルギーに関する考察から明瞭に理解できる. + G c c c c 4.3 平衡状態図 4.3.1 全率固溶型 X,Y 両金属が, どのような割合でも固溶しあう場合 Y 濃度が c wt% の場合を考える. a 点 : 液相 L の自由エネルギーが低いため, 全て液相 b 点 : 液相 L 中に固相 S が晶出 c 点 :S 中の Y 濃度は c S, L 中は c L (4.2.2 節参照 ) d,e 点 : 固相の自由エネルギーが低いため, 全て固相 図 4.6 全率固溶型平衡状態図の説明
4.3.2 共晶型および共析型 X,Y 両金属が, 一部溶け合う場合 図 4.7 (a) 共晶型平衡状態図,(b) 共析型平衡状態図 共晶型 : 液相 L 固相 α+β 共析型 : 固相 γ 固相 α+β 点 : 共晶点 (eutectic point) 点 : 共析点 (eutectoid point) Y 金属濃度 c 1 wt% 点 : 液相の自由エネルギーが低いため全て液相 点 : 初晶 α が晶出 (α 相,L 中の Y 濃度は両脇の で読める ) C 点 : 固相の自由エネルギーが低いため全て固相. L+ 初晶 α (α +β )+ 初晶 α (α,β 相中の Y 濃度は両脇の で読める ) Y 金属濃度 c e wt% a,b 点 : 全て液相 c 点 :L (α +β ) 共晶反応 図 4.8 共晶型平衡状態図の説明
4.3.3 包晶型および包析型 X,Y 両金属が, 一部溶け合うが, 融点に著しい相違がある場合 図 4.9 (a) 包晶型平衡状態図,(b) 包析型平衡状態図 包晶型 : 液相 L+ 固相 α 固相 α+β 包析型 : 固相 γ + 固相 α 固相 α+β 点 : 包晶点 (pertectic point) 点 : 包析点 (pertectoid point) 図 4.10 包晶型平衡状態図の説明
Y 金属濃度 c 1 wt% L( 1 点 ) 初晶 α +L( 2 点 ) 初晶 α + β ( 3 点 ) (α+ 微細 β )+( β + 微細 α )( 4 点 ) Y 金属濃度 c p wt% L( 1 点 ) 初晶 α +L( 2 点 ) β ( 3 点 )+L β + 微細 α ( 4 点 ) Y 金属濃度 c 2 wt% L(C 1 点 ) 初晶 α +L(C 2 点 ) β +L(C 3 点 ) β (C 4 点 ) 複雑な平衡状態図であっても, 以上 5 種類の型の組み合わせに過ぎない. 4 章演習問題 問題 1 図 4.11 は,g-Cu 系の平衡状態図である. これについて, 以下の問に答えよ. (1-1) この平衡状態図は何型か. (1-2) Cu の含有量が 28.5 wt% で, 温度が 779 の特徴的な点の名称を答えよ. (1-3)(1-2) で答えた点直下の温度で,α 相および β 相に含まれる Cu の量を答えよ. (1-4) その際の, α 相の β 相に対するの重量比を求めよ. 図 4.11 g-cu 系平衡状態図
問題 2 図 4.12は先に示したg-Cu 系合金の微視組織である. 以下の問に答えよ. (2-1) 図 4.12(a) の白色部は初晶 α 相である. 現在, 温度が 779 直下であると仮定する. この材料に含まれるCuの量はどのような範囲にあると推測されるか. 図 4.11に基づいて答えよ. (2-2) 室温における微視組織が図 4.12(b) に示す様相であった. この合金に含まれるCuの量を, 図 4.11に基づいて答えよ. (a) (b) 図 4.12 g-cu 合金の微視組織 問題 3 図 4.13はX,Y 両金属からなる合金のある温度における自由エネルギー組成曲線である. 図中,Lは液相をSは固相を表す. 以下の問いに答えよ. (3-1) Y 金属をc 1 wt% 含む場合, この合金はどのような相を有するか. (3-2) Y 金属をc 2 wt% 含む場合, この合金はどのような相を有するか. 4 章演習問題解答 図 4.13 合金の自由エネルギー組成曲線 問題 1 (1-1) 共晶型,(1-2) 共晶点,(1-3) α 相中に 8.8 wt%, β 相中に 92 wt%, (1-4) α 相の β 相に対する重量比は,3.2( 式 (4.9) 参照 ) 問題 2 (2-1) 8.8 以上,28.5 wt% 未満 ( 初晶 + 共晶組織 ) (2-2) 28.5 wt%( 共晶組織 ) 問題 3 (3-1) Y 金属を c 1 wt% 含む固相 ( 単相 ) (3-2) Y 金属をそれぞれ c a, c b wt% 含む 2 つの固相