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特集 : 病態別経腸栄養法 ~ 病態別経腸栄養剤をいかに選択し いかに使用するか?~ 各論エビデンスに基づく病態別経腸栄養法 ~ 病態別経腸栄養剤の選び方と使い方 ~ 急性呼吸不全の栄養管理 * keywords: 人工呼吸管理 栄養素の役割 至適熱量設定 海塚安郎 Yasuo KAIZUKA 社会医療法人製鉄記念八幡病院救急 集中治療部 Steel Memorial Yawata Hospital, Department of Emergency and Critical Care Medicine 急性呼吸不全は肺酸素化障害が主病態であり 原因は細菌性肺炎 誤嚥性肺炎 間質性肺炎 刺激性のガスの吸入 敗血症 多発性外傷 ショックなど数多くあり それらは肺の直接障害によるものと全身性炎症反応の標的臓器となり発症する場合がある 治療は 原因への治療と呼吸循環をはじめとする全身管理で構成される 侵襲に伴い神経 内分泌 免疫系が賦活され代謝動態は異化亢進となる さらに呼吸不全では呼吸仕事量の増加 挿管による新たな感染症のリスク 広域抗菌薬使用による正常細菌叢の乱れ ステロイド使用による高血糖 喀痰力の維持改善の点からも全身管理の一環として代謝 栄養管理が重要であり 早期からの経腸栄養が推奨される 初期投与設定では 熱量は 2 5 k c a l / k g / 日 ( 2 0 B M I 2 5 ) とし 使用する栄養剤は 1. 5 ~ 2. 0 k c a l / m L 濃度 タンパク質投与量は 1. 0-1. 2 g / k g / 日 脂質含量 1 5 ~ 3 0 % を基準とし 血糖値は 1 2 0 ~ 1 6 0 m g / d L とする 炭酸ガス産生抑制が必要な病態では脂質含量を増やす その後は血液生化学データの推移を確認し電解質および体液の厳密な管理を行い その上で患者の個別性を反映 ( 投与熱量 タンパク質量の調節 ) した栄養管理を行う ALI/ ARDS 症例への n-3 系脂肪酸 γ リノレン酸 抗酸化物質を強化した栄養剤は現状では 考慮すべき レベルである はじめに 本項では まず急性呼吸不全の病態 治療 次に早期経腸栄養を含む栄養療法が適応する病態 最後に疾患 / 病態に適合した栄養剤について概説する 呼吸不全症例への栄養管理の重要性は当然であるが 疾患特異性を考慮した栄養サポートのデータは未だ限定的である点には留意する必要がある 1 急性呼吸不全とは 呼吸では 吸う時に空気中の酸素を取り込み 吐く時に体内で産生された二酸化炭素を排出する この機能が 著しく障害された状態が呼吸不全である 呼吸不全では酸素が十分に体内に取り込めず 血液中の酸素が減少し低酸素血症となる 酸素は生命にとって欠くことはできないので 呼吸不全は各組織 臓器に重大な悪影響を及ぼし 栄養素のミトコンドリア内での代謝にも支障を 4 4 来たす また急性呼吸不全とは症状が 1か月以内に起こ る場合いう 血液ガス分析の結果 室内気吸入時 P a O 2 < 6 0 t o r r( m m H g ) あるいは P a C O 2 > 4 5 t o r r( m m H g ) の値を示せば呼吸不全と診断する 急性呼吸不全の治療は 呼吸不全を起こした原因疾患の治療と全身に必要量の酸素を供給するための酸素療法を主体とした全身管理になる 重症例では人工呼吸管理が必要となる *Nutrition Support for the Acute Pulmonary Failure Patient 静脈経腸栄養 Vol.27 No.2 2012 37(671)

2 呼吸不全の原因疾患 酸素取り込みの場である肺内で起こっている病態は 換気血流不均衡 シャント 拡散障害 そして肺胞低換気と説明される ここでは 臨床で遭遇する頻度の高い 3つの疾患について概説する 1) 肺炎肺炎は 気管支より末梢の酸素と二酸化炭素を交換する肺胞と呼ばれる部位に起こる感染に伴う炎症 と定義される 肺胞は気道とつながっているので 同時に気管支炎も起こす 肺炎では肺胞にまで微生物が侵入し それに対して体の防御機構がはたらき 炎症性の細胞や滲出液が肺胞内に満たされた状態になる 肺炎は 主に細菌やウイルスなどの病原微生物により肺が侵される病気である 肺炎には 感染源を吸い込んで発病する細菌性肺炎 ウイルス性肺炎 非定形肺炎などの感染性の肺炎と 薬剤性肺炎 アレルギー性肺炎などの非感染性の肺炎がある いずれにしろ 炎症細胞浸潤 サイトカイン放出 気道分泌物の増加 気道粘膜の浮腫により気管支では気流の通過不良が生じ 肺胞では有効な換気面積が減少する それゆえ 換気血流不均衡 が生じ低酸素血症を生じる 炎症反応は肺炎が起こった局所部位のみならず その情報が全身に伝達され その程度は様々だが全身で炎症反応が惹起され ( 全身性炎症反応症候群 (Systemic inflammatory response s y n d r o m e ; S I R S )) 生体の代謝動態にも影響を与える 細菌性肺炎で経気道的に細菌が侵入する場合は誤嚥 ( ごえん ) を原因とすることが多い 病態改善には 喀痰のための筋力が重要になる 細菌性肺炎では 起炎菌の同定 感受性のある抗菌薬投与が第一義的な治療となる 重症度が高い場合 挿管呼吸管理が必要となる 宿主が免疫不全 / 低下状態であれば細菌の駆除は完遂できず 新たな細菌感染症を起こすリスクが増加する 2 )A L I /A R D S (Acute Lung Injury/Acute Respiratory Distress Syndrome) 急性肺障害 (Acute Lung Injury; 以下 ALIと略 ) と急性呼吸促迫症候群 (Acute Respiratory Distress Syndrome; 以下 ARDSと略 ) は先行する基礎疾患をもち 2 3 日間の短期間に強い息切れ 呼吸困難が起こり 急性に進行する低酸素血症で胸部 X 線写真上では両側性の肺浸潤影を認め かつ心原性肺水腫が否定できるものである A L I と A R D S の差異は P a O 2 /FiO( 2 動脈血酸素分圧 / 吸入気酸素分圧 ) の値が 300 以下であれば A L I さらに P a O 2 /FiO 2 の値が200 以下であれば AR DSと定義される 病態は種々の基礎疾患を背景に非特異的炎症が生じ 肺胞上皮細胞や肺毛細血管内皮細胞が障害され 透過性亢進型の肺水腫を来たす 原因 ( 基礎 ) 疾患は大きく直接肺障害 ( 頻度の高いもの ; 肺炎 胃内容吸引 ) と間接肺障害 ( 全身炎症の波及 ; 頻度の高いものは敗血症 次いで外傷 重症熱傷 ) に分かれる それを病歴 画像 気管支鏡所見 血液生化学データ 血清学的所見 生体材料の培養などから見極めて診断 / 治療を行う A R D S / A L I に対する薬物療法としては グルココルチコイド シルベスタットがあるが決定的なものでは無い 多くの呼吸不全で使用されるグルココルチコイド (ex. ソルメドロール プレドニン ) は ( エビデンス上の ) 臨床的効果は定かでなくとも 血糖値の上昇などの代謝変動は必ず来たすので 治療と代謝栄養管理の連携 ( 血糖値測定の頻度増 インスリン投与の増量等 ) が重要である 3 ) 肺水腫肺の実質 ( 気管支 肺胞 ) に水分が染みだして溜まった状態をいう 溜まった水分により拡散障害が起こり呼吸不全に陥る 肺水腫になるメカニズムには以下の 3つが考えられるが 実際の臨床では 2 つ以上の病態が絡み合っていることも稀ではない 1 血管内圧の上昇毛細血管の内圧が上昇して 水分が血管外に押し出される状態 左心不全や過剰輸液などが原因 : この病態に関しては 循環器疾患 急性心不全の項を参照 2 血漿膠質浸透圧の低下血液中のタンパク質 ( アルブミン ) が減少することにより血管内に水分を留めておけなくなり 血管外に流出する状態 高度の炎症後や 肝硬変やネフローゼ症候群などが原因 38(672) 病態別経腸栄養法 ~ 病態別経腸栄養剤をいかに選択し いかに使用するか?~

3 血管透過性の亢進 1 陽圧換気の影響血管壁が水分を通しやすくなり 血管外へ漏出する状 a) 循環器系 胸腔内圧上昇により静脈灌流が減少 ( 心態 上記 ARDS/ALI の主たる病態 拍出量低下 血圧低下 尿量減少 ) 静脈系のうっ血いずれの病態でも生体に加わる侵襲により 神経 内 ( 肝 消化管うっ血 脳圧上昇 ) 分泌 免疫系の反応が惹起され 生体の代謝動態が変動 b) 肺機能 圧損傷 容量損傷 ズレ応力による障害 炎し異化亢進へと向かい 生体内で消費される基質も同様症の惹起に変化する 病悩期間における体内タンパク質の喪失を 2 内分泌系への影響最低限にし 疾病治療促進に向かう栄養管理法を目指す a ) 下垂体後葉ホルモンの抗利尿ホルモン ( A D H ) の分泌亢進 乏尿 3 人工呼吸管理 1) 人工呼吸管理の目的呼吸不全症例では 鼻カニュラ マスク リザーバー付き酸素マスクによる酸素投与が行われる これは吸入気酸素分圧を上げることを目的として行われる しかし呼吸が不規則な場合 不穏が見られる場合には吸入器の酸素濃度は安定しない 酸素投与で効果がない場合には 非侵襲的陽圧換気療法 (Noninvasive Positive Pressure Ventilation; 以下 NPPVと略 ) もしくは挿管による陽圧呼吸管理が選択実施される その目的は 以下の3 つである 1 低酸素血症に対する酸素化改善 2 換気の補助 ; 高二酸化炭素血症に対する肺胞換気量の改善 3 努力呼吸に対する呼吸仕事量の軽減気道管理 ( 開通性 浄化 ) を患者本人が行える場合で マスク装着が受け入れられる場合は N P P V が選択可能であり 挿管では気道の清浄性の確保 吸気の加湿は医 b) 副腎皮質ホルモン ( アルドステロン ) の分泌亢進 体液 ( N a ) 貯留 3デバイスの影響 a ) 挿管チューブによる損傷 口腔から気管内の異物であり 人工呼吸器関連肺炎 (Ventilator Associated Pneumonia; 以下 VAPと略 ) の誘因そのものである b)n PPVマスクによる損傷 マスクによる皮膚損傷 口腔内乾燥などの問題が起こる可能性あり 4 酸素の影響 a ) 高濃度酸素 ( F i O 2 > 6 0 % ) 投与 成人でも酸素中毒の可能性があり high PEEP(>12cmH 2 O ) とし可及的に酸素濃度を下げる対応をするが これは胸腔内圧を上げる以上から人工呼吸管理は 呼吸不全が重症でかつ管理が長期になるとその弊害が顕在化する 呼吸管理開始時から抜管に向け原疾患の治療 並びに合目的的な全身管理が重要になる なればこそ その一環として早期から至適代謝栄養管理を開始する必要がある ( 1) 表 1) 療者側の管理に委ねられる 表 1 呼吸不全での望むべき人工呼吸管理 ; 的確な診断 / 病態把握 / 全身管理呼吸不全では 呼吸数の増加 肺 1 ) 吸気プラトー圧を 3 0 c m H コンプライアンス低下 気道抵抗の 2 O 以下 吸入気酸素分圧は 60% 以下 2) 自発呼吸温存の呼吸器モード ; 使用する呼吸器と患者の病態から選択上昇により呼吸仕事量が増加してい 3) PEEPレベルは FiO 2 0.6で PaO 2 70±5mmHgを維持する至適値る つまり少なくとも呼吸に関する 4 ) V A P の対策としてのオーラルケア 腸管管理エネルギー所要量は増加している 5 ) 体液管理 : 循環維持し 肺内水分を絞る 目標体重値の設定 6 ) 入室時栄養アセスメントに基づく至適代謝 栄養管理 7 ) 厳密な内部環境維持 / 改善 ; 細胞内外電解質 酸塩基平衡 2) 人工呼吸管理における 8) 臥床管理の弊害 :Kinetic therapy( 自動体交ベッド ) 半坐位 坐位 腹臥位注意点 9) 鎮静薬の使用目的の明確化 筋弛緩剤の使用制限 ( 使用しない ) 陽圧呼吸管理には酸素化改善の 10) 呼吸管理中からの早期リハビリテーション 抜管後の嚥下評価 / 訓練利点があるが 非生理的な換気法で 11) 患者の生活リズムを考慮した睡眠 精神面のサポート 12) 全体を通底したチーム医療の形成あるため 次の欠点がある 静脈経腸栄養 Vol.27 No.2 2012 39(673)

3 ) 呼吸管理と経腸栄養管理 ; 横隔膜を挟んだ胸腔と腹腔陽圧換気による胸腔内圧上昇での静脈灌流の障害は 消化管うっ血および横隔膜を介した腹腔内圧上昇により腸管蠕動を低下させる要因となる 逆に早期経腸栄養により蠕動改善 排便 排ガスにより腹腔内圧が減少すれば 横隔膜の可動性が改善し換気効率および背側無気肺の改善が期待できる 一方不適切なトリガー感度 呼吸器モードの設定により呼吸器の設定が合わないと呑気が起こり その結果腹部膨満となれば経腸栄養の阻害因子となる 一方挿管中には鎮痛鎮静薬が使用されるが その選択も経腸栄養の成否に影響する場合がある 塩酸モルヒネ ブプレノルフィンでは使用量により程度の差はあるが腸管蠕動を抑制する また鎮静中には 咳嗽反射も抑制されるため気管内に胃管が誤挿入されても判別し難い場合が有り 栄養チューブ誤挿入回避 先端位置の確認には細心の注意が必要である 4 栄養療法の適応と要点 1) 積極的栄養介入を考慮する要因呼吸不全を主訴に入院した症例で 積極的な代謝 栄養管理介入の対象になるかを考慮する要因を列挙する まずどの疾患でも当てはまる項目は 1 入院前栄養障害 ;SGA 検査値から判定 2 高齢者 ; 絶対的な年齢より入院前の身体機能 生活歴 3 既往症 ; 糖尿病 心不全 肝障害 腎障害であり これに呼吸不全の疾患特異性を考慮すると 4 入院時の侵襲が過大 ; 炎症所見 ( C R P 髙値 W B C 増多もしくは異常低値 ) 血小板減少 血液培養陽性 循環状態不安定 ( 昇圧剤使用 輸液負荷 ) 5 経口摂取が不能 ;3 日以上の挿管呼吸管理が予想される (ALI /A R DS 重症肺炎ではほぼ全例対象となる ) 意識レベルの低下 胃管排液の持続 ( e x. 6 時間で 4 0 0 m L 以上 ) 腹部膨満 ( 呼吸不全では呑気による腹満に注意 ) 6 NPPV 管理で経口摂取によりマスクを外すと酸素化低下著明 ; 鼻カニュラに変更すると S ao 2 90% 7 呼吸不全の治療 ; 広域スペクトラム抗菌薬の継続 循環動態が不安定な状態を脱した場合 : 不安定な状態の定義 高容量カテコラミン投与時 (DA and/or DOB>8γもしくは NA 併用時 NA 単独 >0.2γ) 輸液 輸血にて循環補助を必要としている 乳酸値(Lac) が髙値持続 乳酸値が改善しない ; 嫌気性代謝であり利用障害 この状態が改善すれば栄養療法を開始可能 呼吸不全時の呼吸管理条件 : 循環状態が不安定なら ;FiO 2 60% で SaO 2 90% 循環に問題が無い呼吸不全 ;FiO 2 <80% で SaO 2 90% 呼吸器の設定がこの条件を満たせば栄養療法を開始可能 循環 / 呼吸管理の条件が栄養投与開始条件を満たさない場合 入室から24 48 時間以上 ; 主輸液からブドウ糖 400 kcal/ 日 + 血糖値管理 排便があり 胃内逆流 ( - ); 胃内持続投与 10mL/ 時 (max.480kcal/ 日 ) バイタルサインの変動 ( 血圧低下 頻脈 呼吸苦 ) 注入以上の胃内逆流 腹満 腹痛があれば中止 図 1 呼吸不全症例の栄養療法開始条件 ; 適切な呼吸管理が実施され 循環が安定している症例の要件 および満たしていない症例への対応注 )DA: ドーパミン DOB: ドブタミン NA: ノルアドレナリン 使用 ステロイドパルス療法 8 酸素療法中 抜管後 NPPV 実施中の食指不振 ; 経口食開始後の摂取量目標値の 50% 以下などが加わる このような項目に該当すれば栄養療法の対象となる 該当する項目が重複しているほど栄養管理の必要性は増すが そのような症例では介入に当たって代謝動態 血液生化学データのモニタリングなど慎重な対応が必要になる 挿管管理をされている重症例では図 1の条件を満たしていることが積極的な栄養療法を開始する重要な要件になる 下段には要件を満たさない場合の最低限の栄養法を記載した 2) 急性呼吸不全における要点当然であるが 目的は血液検査データの改善ではない 目指すべきは 疾患治療のアウトカムの改善である より具体的には 救命率改善 挿管期間短縮 ICU 在室日数および在院日数短縮 合併症発生率改善 退院時の ADL 維持の程度 再入院率の低下である それには 至適栄養管理により 免疫能および創傷治癒機転維持改 40(674) 病態別経腸栄養法 ~ 病態別経腸栄養剤をいかに選択し いかに使用するか?~

善 呼吸筋 ( 横隔膜 肋間筋 胸鎖乳突筋 腹直筋 腹斜筋等 ) 骨格筋 および内臓タンパクの可及的維持 臓器障害進展阻止が必要になるが 経過中これを客観的に知ることは出来ない 実際の栄養療法の実施に当たり継時的変化を知る指標として血液生化学データの推移を参考にする ただし 侵襲 ( の継続 ) 時には栄養指標 ( 血清アルブミン 総コレステロール値 トランスサイレチン等 ) の改善は多くの要因により困難であり それのみを指標に投与エネルギーを増加すると 相対的な過剰栄養に陥る危険が高い その場合には 栄養療法の副作用を評価する血糖値 血中尿素窒素 (BU N) トリグリセリド値が異常値への推移することを回避する投与エネルギー 栄養素投与量を設定することで 安全マージンを持った栄養管理が可能である 重要なことは 重症病態ほど投与エネルギーが多く必要な訳ではなく 至適栄養投与量の幅が狭いと認識することである また 術後症例のような定型的経過を取ることが少ない急性呼吸不全 特に A L I /A R D S では 現在どの病期病態 ( M o o r e の説では 障害期 転換期 同化期等 ) にあるかを理解する必要があるが 存外に難しい 栄養状態の改善がない 血糖値の上昇などでおかしいと思っていると新たな合併症 ( 障害期の再来 ) が判明することも少なくない 呼吸不全では抜管し 抗菌薬等の薬剤も中止になり 充分量の経口摂取が出来るまでは気が抜けない 5 栄養療法の実際 本項目に関しては既に 急性呼吸不全による人工呼吸患者の栄養管理に関するガイドライン 2) を日本呼吸療法医学会が作成している ( 人工呼吸 27 巻 1 号,p75-118. 2010 年 ; 著者も編集委員として参加 ) 現在その 4 4 4 4 4 4 Ve r.1. 0 版がインターネット上から P D F で自由にダウン 4 4 4 4 4 ロード可能である ( http://square.umin.ac.jp/jrcm/ pdf/eiyouguidline.pdf) 内容は 1980 年 1 月 2009 年 7 月の当該論文にランクづけをし 各項目について推奨度をつけたものである また既に対象論文を 2010 年 12 月までとした Ver.1.1が作成済みであり 近日中に学会ホームページ上にアップされる予定である 呼吸管理を必要とする重症症例の栄養管理に 関し 詳細な項目立てをしてエビデンスに基づく指針 その推奨度および解説が記載されている 本邦の医療事情を考慮し 利益相反にも配慮した日本語のガイドラインであり参考にされたい 欧米の栄養関連学会ガイドラインより作成年度が新しく その点からもお勧めである そこで述べられる急性呼吸不全症例への栄養管理の基本的な事項を 確認のため抜粋列記する ( 根拠となるエビデンス 推奨度についてはガイドライン本編を参照されたい ) これを基本に 各施設の実情に合った 患者の個別性を考慮した栄養療法を実施することが現実的である 1) 栄養療法の開始治療開始前に 体重減少 栄養歴 病態の重症度 理学的所見 腸管機能などから栄養評価を行うことを推奨する 2 ) 栄養療法の選択栄養療法を必要とする患者には 静脈栄養 ( P N ) よりも経腸栄養 ( E N ) を推奨する 3) 経腸栄養 1 経腸栄養の開始時期 ; 適切な呼吸管理が実施され循環状態が安定している症例では 入室時もしくは侵襲後 24 48 時間以内の早期に経腸栄養を少量から開始することを考慮すべきである 2 経腸栄養開始時の腸管機能の評価 ; 腸蠕動音 排便排ガスの確認が取れなくても経腸栄養を開始することを推奨する 3 経腸栄養開始時の循環状態の評価 ; 循環状態が不安定な症例 ( ショック状態 高容量カテコラミン投与時や 輸液 輸血にて循環補助を必要としている ) では 経腸栄養は循環状態の安定が得られるまで開始を留保することを推奨する 4 経胃内栄養と小腸内 ( 幽門後 ) 栄養 ; 両投与法とも選択可能な投与経路である 誤嚥の危険が高い または胃内投与が実施できない場合には 小腸にチューブを留置して経腸栄養を行うことを考慮すべきである 5 経腸栄養と誤嚥の危険性 ; 経腸栄養実施中には 常に誤嚥の危険度の評価し 胃内停滞により逆流のリスク 静脈経腸栄養 Vol.27 No.2 2012 41(675)

が疑われる症例では リスクを減じる手段を考慮すべきである その手段には 以下の項目が挙げられる a) ベッドの頭部 ( 上半身 ) を30 45 挙上することを考慮すべきである b ) 消化管蠕動促進薬の使用を考慮すべきである c) 誤嚥の高リスク症例や胃内投与不耐症 (intolerance) では 持続注入に切り替えることを考慮すべきである d) チューブ先端を幽門後へ進めて留置することを考慮すべきである 6 経腸栄養実施時の投与エネルギー設定 ; 栄養療法開始に際し 推算式による計算値もしくは間接熱量計による測定結果を用いて目標投与エネルギーを設定することを推奨する 本編 6-2 ) 参照 7 投与エネルギー増量計画の実際 ; 開始後は 1 週間をめどに目標量 ( 一日投与量 ) の少なくとも 50% 以上を目指し増量することを考慮すべきである さらに積極的に投与量増加をはかる場合 ( 少なくとも目標量の 8 0 % 以上 ) には 施設の実情にあったプロトコールの作成を推奨する 8 目標設定エネルギー量に到達できない場合 ; 経腸栄養開始と同時に静脈栄養を併用するメリットは無い 7 10 日に至ってもその時点で目指すエネルギーに到達することができない場合は 静脈栄養の併用を考慮すべきである 本編 6-2 ) 参照 4 ) 静脈栄養重症病態では不可避な栄養投与ルートであり 習熟する必要がある 開始後の栄養投与量は安定しているが かえって投与熱量設定に注意を要する カテーテル類の管理も重要である 1 静脈栄養の適応 ; 静脈栄養は経腸栄養が不可能な場合に考慮すべきである 2 静脈栄養時の投与エネルギー量 ; 急性期には設定エネルギー投与量の 80% をゴールとし 過剰なエネルギー投与にならないよう考慮すべきである 5 ) 低リン血症の回避重症患者においては血中無機リン濃度を継続的にモニターし 低リン血症を来たさないよう適切に補正することを推奨する 6 ) 血糖値管理栄養管理中には血糖値管理プロトコールを作成し積極的な血糖値管理を行う その場合の血糖管理目標値は120 160mg/dL とし 180mg/dLを超えることなく変動幅を少なくし かつ低血糖の回避に細心の注意を払うことを推奨する 6 経腸栄養剤の選択 1) 栄養素急性呼吸不全の病態生理から考えられる 各栄養素の役割 注意点を述べる 1 炭水化物主要なエネルギー源として重要であり 経腸栄養剤では グルコースが重合したデキストリンとして含有し浸透圧を調節している 侵襲下ではまず血糖値の上昇が問題である 上記のごとく管理目標値を設定してインスリン使用下に血糖値管理を行うが 栄養療法中に陥りやすい高血糖 + 高インスリン血症の状態は回避する必要がある 理由は 血液中にインスリンが多量に存在すると腎臓でのナトリウム排泄機能が低下するので 体内の水分は貯留傾向となり 呼吸不全の水分管理の原則とは逆行する さらに 高インスリン血症は交感神経を緊張させるので循環状態にも影響する 運動負荷がない重症病態ではインスリンが脂肪細胞 特に内臓脂肪組織の脂肪細胞にブドウ糖や脂肪を取り込ませる 3 ) 6 ) インスリン投与量の上限は個々の症例で異なるが 当院では上限を原則 1 0 0 U / 日 ( 糖尿病既往例では 150U/ 日 ) としている 炭水化物投与量の問題は二酸化炭素産生にも関与している 7 ) 1 1 ) 炭水化物燃焼による炭酸ガス産生量は呼吸商 ( 以下 RQ と略 )=1.0 であり消費酸素量と同等である しかし炭水化物投与が過剰になり炭水化物から脂質が合成される (lipogenesisi) 場合には 1.0< RQ<8.0の髙値となる (= 二酸化炭素の過剰産生 ) 結果として測定 RQ>1.0 となり 炭酸ガス排出により多くの有効肺胞換気量を必要とする 挿管中はまだしも 抜管の阻害因子となり注意が必要である 以上から 侵襲下投与熱量設定と炭水化物含量が重要になる 最低投与量は 100 150g/ 日 lipogenesisi 回避のため経静脈栄養時にはグルコース投与速度は 42(676) 病態別経腸栄養法 ~ 病態別経腸栄養剤をいかに選択し いかに使用するか?~

4mg/kg/ 分以下を総投与熱量に占める割合は 40 6 0% を推奨する 2 脂質 2 つの考慮すべき点がある 主要熱源としての脂質投与量設定と機能性脂質の役割を考慮した組成並びに投与量になる 熱源としての脂質は1g で9kca lの熱量を産生し かつその際 RQ=0.7 と低値であり 二酸化炭素産生量が少なくて済む またインスリン非依存性にエネルギー産生が可能である その点に関し 呼吸不全で炭酸ガス呼出障害がある場合 ( C O P D の急性増悪後 ) や ステロイドパルス療法などの高血糖症例に対する高脂肪 / 低炭水化物の栄養剤の有効性が報告されている 1 2 ) 1 4 ) その場合の高脂質の上限は 60% と考えられる 上記病態以外では総投与熱量に占める割合は 15 30% が推奨される 一方最低投与量は総エネルギーの 2 4% である 少量の経腸栄養が施行出来ている重症患者関しては大豆由来の脂肪乳剤の積極的投与は不要であろう また経静脈投与される脂肪乳剤は 血中で人工脂肪粒子のリポタンパク化の上限があり高脂血症および 網内系機能抑制回避のためにも投与速度の上限がある 上限はトリグリセリドに換算して 0.1g/kg/ 時となる 15) T P N 症例での開始時期に関しては 侵襲制御のめどがつき 投与エネルギー増量を考慮する数日から 1 週間をめどに使用を開始し モニタリングを行い投与速度に注意を払い漸増し 総エネルギーの 1 5 2 0 % を供給するようにする これにより TPNでの必須脂肪酸の補充も可能となる 次に機能的脂質に関しては A L I /A R D S 症例に対する魚油由来の n- 3 系脂肪酸の効果が検討されている 経腸からの単独投与での有効性を示すデータは無い 一方 n-3 系脂肪酸 γリノレン酸 抗酸化物質を強化した栄養剤オキシーパ R での ALI/ARDS 症例に対する有効性が報告されている 1 6 ) 1 8 ) が 最近になり同様な組成の栄養剤を投与した ALI 症例での検討で 否定的な報告 (The OMEGA study) がなされ 19) 今後の動向が注目される 魚油 (n-3 系不飽和脂肪酸 ) 含有の脂肪乳剤 ( 他にもココナッツ油 ( M C T ) オリーブ油 ( n - 9 系 ) 由来 およびそれらを混合した脂肪乳剤等も ) は欧州などでは販売されているが 本邦は未発売であり現状使用できない 3タンパク質侵襲下における異化亢進 窒素バランスを考慮したタンパク質量の決定とアミノ酸の中で侵襲下免疫調整の役割が期待されるアルギニンおよびグルタミンの使用が考慮される点である まず侵襲下のタンパク質投与量は 1.2 2.0g/ kg/ 日に調整することを考慮すべきである 2 0 ) 2 3 ) ただし タンパク質投与により腎臓への負荷が増し 高齢者 腎機能低下症例では それにより BU N 値の上昇等の腎機能悪化の可能性があることを念頭に置き 常に検査値の推移に留意すべきである 侵襲が制御出来なければ 栄養療法のみでは異化亢進の改善はかなわない 当院では 7 0 歳以上の高齢者では入院時採血値で腎不全がなくても初期投与目標 ( 入室 4 7 日目の達成値 ) を1.0 g/kg/ 日としている その背景には 呼吸管理の一環として肺内水分減少のため利尿剤により細胞外液を絞り 腎臓に負担をかける可能性のある抗菌薬その他薬剤を使用することがある 開始後検査データの推移を確認し 必要に応じ経腸栄養剤の変更等により個々の症例に合わせタンパク質投与量を増やしている その結果として1.2 2.0g / kg / 日に落ち着くと解釈している アルギニンは非侵襲下では創傷治癒を高め リンパ球を中心とする免疫細胞の機能を高める 一方炎症性メディエーターの存在下では一酸化窒素 (NO) 産生の基質として働く NOは生体防御機構の重要因子であるが 血管拡張作用があり低血圧を誘発する危険がある アルギニンを強化した免疫調整栄養剤は術前投与の有効性などが報告されているが 重症度の高い敗血症患者で死亡率が増加した報告があり 24)25) 呼吸不全では重症敗血症からの A R D S 症例などに使用することは奨められない 2 6 ) 3 1 ) ただし これらの報告はアルギニン単独の効果を比較したものではなく 市販の免疫調整栄養剤を用いているものが多いため 他の栄養素の影響を考慮する必要がある 呼吸不全の一部の病態では積極的使用を控えると理解できる 次にグルタミンであるが その作用は抗酸化反応 免疫機能維持 熱ショックタンパク産生 核酸合成などに関与し 侵襲下では筋タンパクから取り崩し ( 崩壊 ) により必要部分に供給され 条件付き必須アミノ酸と呼ばれる 消化管においては腸上皮細胞の栄養となり 腸管の 静脈経腸栄養 Vol.27 No.2 2012 43(677)

integ r it yを維持する そのようなグルタミンを強化した 3 2 ) 3 5 ) 経腸栄養の投与は熱傷や外傷患者で有効性が報告されており ( その場合の推奨投与量は 0.3 0.5g/kg/ 日 ) 考慮すべきだが それ以外の原因による呼吸不全症例へのグルタミン強化経腸栄養の投与を推奨する十分なデータはない 3 6 ) 3 9 ) 静脈投与は 本邦では未発売だが グルタミンをアラニル グルタミンとし安定させた輸液製剤があり 呼吸不全症例を含む重症病態の静脈栄養時にはグルタミンを添加することは推奨される 4 0 ) 4 4 ) ただし栄養を主に経腸栄養から投与されている場合 グルタミンの経静脈投与を推奨する十分なデータはない 45) また静脈栄養時 分岐鎖アミノ酸を強化した製剤の使用を推奨する十分なデータはない 4 6 ) 4 9 ) 4 電解質 (Na, K, Ca, Mg, Cl, P, HCO 3 ) 充分量の投与により予後を改善する電解質は存在しない ただし 細胞内外電解質のモニタリングを適正頻度で行い 常に生理的範囲に留めるよう補正に務めることは非常に重要である 輸液管理 陽圧呼吸管理 挿管による呼気中不感蒸泄の喪失 利尿剤 入院前低栄養 炎症の持続 低アルブミン血症 貧血は 電解質 体液分布の撹乱要因である 症例によっては 栄養剤 輸液による電解質投与量 尿 便 および体液排液の電解質を測定し 電解質出納を厳密に管理する必要がある 5ビタミン類重症病態での必要量は不明な部分が多く 欠乏症回避のため RDI(Recommended daily intake) を100% 満たすことが原則である 注意点は 体重が少ない症例で投与熱量が1000kcal/ 日以下で維持管理される場合は 経腸栄養のみではビタミン類の不足を来たす場合がある 使い慣れた栄養剤の電解質およびビタミン含量を把握しておくことが望ましい 抗酸化ビタミン ( ビタミン C ビタミン E β - カロテン コエンザイム Q 10 ) では 重症病態でのビタミン C(P N)+ ビタミン E(E N) 補充の有用性が2つの RCT 論文で示されている 50)51) ただし 2 つの論文ではその投与量 期間とも異なっており推奨投与量の決定は困難である 急性呼吸不全症例に薬理学的量投与することで予後を改善することを示すデータは無い 6 微量元素こちらもビタミン同様重症病態での必要量は不明な部 分が多く 欠乏症回避のため R DIを100% 満たすことが原則である 敗血症症例でのセレン補充 (PN) の有効性が報告されている 5 2 ) 5 5 ) ものもあるが 至適投与量は未定である さらに本邦では市販のセレン静注用製剤はなく 院内調剤および倫理委員会等での承認手続きがいる 2) 栄養剤栄養剤の選択 ; 当院での実際 1 濃度上述した急性呼吸不全の水分管理を必要とする病態 昇圧薬および抗菌薬溶解液 ルート確保の輸液などの不可避な水分投与が必要となる等の理由で 栄養投与時の水分は可及的に制限することが望ましい ゆえに 1. 5 2.0kcal/mLの濃度の栄養剤が奨められる 各栄養剤の水分含量は各製剤のパッケージに記載されているので確認する 2 投与エネルギー当院では 3 日以上の挿管症例では高濃度酸素暴露下の症例も含め 間接熱量測定を行いその値 (EE) を栄養療法初期設定値 ( 入室数日 7 日目の目標値 ) として管理している 頻回に E E を測定しより厳密に投与熱量を設定する有効性も報告されている 56) 当院のデータ解析からは 急性呼吸不全では推算式を用いる場合 健常時実体重をもとに 25 BM I 20では初期設定量は 25kcal/kg/ 日 BMI>25では理想体重に補正して 25kcal/kg/ 日 BMI<20では 30kcal/kg/ 日で過不足ない一定のレンジに入る栄養管理が可能である その後の投与熱傷は 侵襲のコントロール状況 血糖値 インスリン使用量 肝腎機能評価に基づき維持 増量 時に減量 組成の変更を考慮している また 経腸栄養開始後目標熱量に達しない場合でも 1 週間程度は静脈栄養を併用は避けるべきである 57) 回復期に E E を用いる場合には 投与熱量を測定値の 1.2~ 1.3 倍としている 病期が転換期から同化期になると代謝動態も異化亢進状態が戻り 結果 インスリン使用量が減り 血液データの栄養指標は 栄養療法成否に応じデータの改善が見られる この時期には 挿管の有無に関わらず ベッド上で坐位をとらせる等の運動負荷を与え 投与エネルギー タンパク質を増加する 疾病が治癒に向かった後も 手を抜かず継続して積極的な栄養管理 ( 経口摂取量を把握することも含めて ) を行うことが重要である この時期に 44(678) 病態別経腸栄養法 ~ 病態別経腸栄養剤をいかに選択し いかに使用するか?~

適切な栄養管理が継続できて 初めて 表 2 腸管管理法 ; 入室後から継続して 腸管機能を意識した管理を行う 失われた体タンパクと身体機能が改善する 3 組成の選択上記栄養素の組成をベースに 各症例の病態に合わせ 院内採用の各種栄養剤を選択使用する 重症呼吸不全でも 腎機能低下があれば タンパク質含量が制限された腎不全用栄養剤を選択することもあり得る選択肢である また各栄養剤の価格を考慮することも重要である 7 当院における急性呼吸不全症例への栄養管理 : 単純で効果的栄養量介入当院 ICUにおけるプロトコールを示す ( 表 2 図 2) 入室時から腸管管理を行い 腸蠕動を回復促進させ排便を得た後 一番簡便な胃管からの間歇投与で経管栄養開始している 人工呼吸器関連肺炎 (ventilator-associated pneumonia; VAP) 対策からも早期に腸管の順行蠕動を回復し 腸管機能を維持することは重要である 呼吸不全症例では 積極的に 2.0kcal/mL 濃度の一般組成の栄養剤を選択している 当院では 2 種類の製剤 ( テルミール R 2. 0α アイソカル R 2K Ne o) が採用されており 各々タンパク含量が 3.625g/100kcal(43.5g/ 1200kcal) と3.0g/100kcal(36g/ 1 2 0 0 k c a l ) である 腎機能 水分管理計画 投与熱量からタンパク投与量を勘案し選択している 投与開始後には 腎機能を反映する検査値の推移 尿中窒素排泄量を測定し 必要であれば乳清由来のタンパク粉末等の添加 もしくは よりタンパク濃度の高い製剤への変更を行い タンパク質投与量を調 1) 血管内容量を維持する輸液管理 ( 腸管循環の確保 肺内水分量調節 ) 経腸栄養可能な循環安定 目標 Hb 値設定し輸血 浸透圧利尿薬 (D-mannitol) 持続投与 2) 強心昇圧薬の選択 ドブタミン 小容量ノルアドレナリン 3 ) 腹単から胃 腸管ガス像 腸管壁の継時的変化 ; 蠕動 浮腫の有無確認 小腸ガス 腸管壁浮腫の可能性 : 消化管蠕動改善処置 アルブミン製剤投与 4) 腹腔内圧の正常化 ( 消化管内減圧による胃 腸管血流の改善 横隔膜可動性確保 ) セイラムサンプ TM 管 イレウス管の使用 5) 入室初期からの腸内細菌叢管理 緩下剤効果をもつ腸内細菌叢利用二糖類 D-ソルビトール ( ラクツロース ) 乳酸菌製剤の使用 6) その他消化管蠕動促進薬 排便促進薬の使用 ( 胃内排出促進 排便誘発 ) メトクロプラシド ( プリンペラン ) クエン酸モサプリド ( ガスモチン ) 六君子湯 エリスロマイシン 大建中湯 ジノプロスト ( P G F 2α) バサコジル ( テレミンソフト ) グリセリン浣腸 7 ) 禁忌でなければ 排便後早期経腸栄養の開始 ; 経胃管から 間歇もしくは持続投与 8) 下痢に対しては原因を精査し対応性状 臭気 便培養 C D トキシン 使用抗菌薬スペクトル 投与期間 投与薬剤の確認 乳酸菌製剤 止痢薬の投与 9)H 2 ブロッカー PPI の使用条件設定 胃液 ph < 4 消化性潰瘍内服中 抗凝固療法時では使用を考慮する 入室時 管理中 中止 見合わせ 減量基準の設定 実投与量の把握 排便状況 合併症対策 病態の評価 胃管栄養困難例 チューブの幽門後留置 静脈栄養 栄養アセスメント ( 疾患の侵襲度 栄養状態 身体所見 ) 腸管機能評価 腸管器質的障害の有無判定 腸管機能改善を図る ( 腸管管理 ) 経鼻 ( 口 ) 胃管挿入 ( 挿管 意識障害 ): 胃液逆流量の測定 胃内 ph の測定 ( 制酸剤の使用の必要性判定 ) 経管栄養開始時 : まず経胃管投与を試みる 排便確認後注入開始 : 栄養剤選択 ( 濃度 1.5 2.0kcal/mL 病態別 ) 胃管排液 : 徐々に減少 約 250mL/6 時間以下等では開始 1 回 100 200mL から増量 初期到達目標熱量 :25kcal/kg/ 日 注入条件 : 速度 50 100mL/ 時 2 6 回 / 日 必要時持続注入 循環動態 :DA and/or DOB8γ 以上では 待機 注入量 速度の減量 胃管先端の確認 ( 胃液逆流法 > 注入音法 毎回の確認 ) 注入時頭上位 (15-45 ) 注入終了時右側臥位 経管栄養継続中 早期経腸栄養継続可能の要件 : 中止 見合わせ 減量基準 循環動態 :DA and/or DOB8γ 以上必要時 NA 併用時 消化器機能 : 注入後に嘔吐 腹痛 2 時間後注入物と同一性状が半分以上が胃管より吸引 血糖コントロール :140±20mg/dL 生化学データ確認 実注入量の把握 設定熱量への漸増 至適熱量 栄養素投与 : 栄養剤選択 タンパク質量補正 嘔吐時 : 注入体位 速度 薬剤投与 下痢 : その原因を検索 対応 経腸栄養で必要カロリーが一定期間満たされない場合の併用 : 末梢 ( 脂肪乳剤を考慮 ) 中心静脈栄養 ( 投与熱量は制限 ) 図 2 当院重症患者早期栄養管理基本プロトコール注 )DA: ドーパミン DOB: ドブタミン NA: ノルアドレナリン 静脈経腸栄養 Vol.27 No.2 2012 45(679)

節している 現在当院採用の経腸栄養剤は薬品 食品合わせて 20 種類である 投与目標値の設定 血糖値管理目標は上述のとおりである 一方 n-3 系脂肪酸 γリノレン酸 抗酸化物質を強化した濃度 1. 5 k c a l / m L の A L I / A R D S に適した栄養剤 ( オキシーパ R ) と考えられる製剤は 脂質が 5 6 % であるが 当院 2 4 症例 ( 平均 6 9. 5±1 8. 4 5 歳 ) の使用経験では 下痢な どの副作用の頻度も増加もなく 使用上の問題はなかった ( タンパク質含量は 4.16g/100kcal 49.9g/1200kcal) 当院ではこの栄養剤を Septic ARDSと診断し すでに血小板数減少を来たしている症例で使用している ただし自験例では 上述の従来法との比較で臨床効果 ( 救命率 人工呼吸器装着気管 臓器障害数 I C U 入室期間 ) に明確な差は無かった 参考文献 1) 海塚安郎. 急性呼吸不全に対する栄養管理時の水 電解質の基本的考え方. 井上善文編. 臨床栄養別冊 6 栄養療法に必要な水 電解質代謝の知識. 医歯薬出版株式会社 東京 2011 p116-124. 2) 日本呼吸療法医学会栄養管理ガイドライン作成委員会. 急性呼吸不全による人工呼吸患者の栄養管理に関するガイドライン. 人工呼吸 27:75-118.2010. 3) Tappy L, Berger M, Schwarz J-M, et al. Hepatic and peripheral glucose metabolism in intensive care patients receiving continuous high- or low-carbohydrate enteral nutrition. J Parenter Enteral Nutr 23:260 8,1999. 4) Sakurai Y,Aarsland A, Herndon D, et al. Stimulation of muscle proein synthesis by long-term insulin infusion in severely burned patients. Ann Surg 222: 283 94,1995. 5) Schwarz JM, Chioléro R, Revelly JP, et al. Effects of enteral carbohydrates on de novo lipogenesis in critically ill patients. Am J Clin Nutr 72: 940-5,2000. 6) Acheson KJ, Schutz Y, Bessard T, et al. Glycogen storage capacity and de novo lipogenesis during massive carbohydrate overfeeding in man. Am J Clin Nutr 48: 240 7, 1988. 7) Askanazi J, Rosenbaum S, Hyman A, et al. Respiratory changes induced by the large glucose loads of total parenteral nutrition. JAMA 243:1444 7, 1980. 8) Frayn KN. Calculation of substrate oxidation rates in vivo from gaseous exchange. J Appl Physiol;55, 628 34, 1983. 9) Guenst JM, Nelson LD. Predictors of total parenteral nutrition-induced lipogenesis.chest 105:553-9, 1994. 10)Liposky JM, Nelson LD. Ventilatory response to high caloric loads in critically ill patients. Crit Care Med 25: 796-802, 1994. 11)McClave SA, Lowen CC, Kleber MJ, et al. Clinical use of the respiratory quotient obtained from indirect calorimetry. JPEN J Parenter Enteral Nutr 27:21-6, 2003. 12)van den Berg B, Bogaard JM, Hop WC. High fat, low carbohydrate, enteral feeding in patients weaning from the ventilator. Intensive Care Med 20: 470-5, 1994. 13)al-Saady NM, Blackmore CM, Bennett ED. High fat, low carbohydrate, enteral feeding lowers PaCO 2 and reduces the period of ventilation in artificially ventilated patients. Intensive Care Med 15: 290-5,1989. 14)Mesejo A, Acosta JA, Ortega C, et al. Comparison of a high-protein disease-specific enteral formula with a high-protein enteral formula in hyperglycemic critically ill patients. Clin Nutr 22: 295-305, 2003. 15)Iriyama K, Tonouchi H, Azuma T, et al. Capacity of high-density lipoprotein for donating apolipoproteins to fat particules in hypertriglyceridemia induced by fat infusion. Nutrition 7: 355-7, 1991. 16)Gadek JE, DeMichele SL, Karlstad MD et al. Effect of enteral feeding with eicosapentaenoic acid, gammalinolenic acid, and antioxidants in patients with acute respiratory distress syndrome. Crit Care Med 27: 1409-20, 1999 17)Singer P, Theilla M, Fisher H et al. Benefit of an enteral diet enriched with eicosapentaenoic acid and gamma-linolenic acid in ventilated patients with acute lung injury. Crit Care Med 34: 1033-8, 2006. 18)Pontes-Arruda A, Aragao AM, Albuquerque JD et al. Effects of enteral feeding with eicosapentaenoic aicd, gamma-linolenic acid, and antioxidants in mechanically ventilated patients with severe sepsis and septic shock. Crit Care Med 34: 2325-33, 2006. 19)Rice TW, Wheeler AP, Thompson BT, et al. Enteral omega-3 fatty acid, gamma-linolenicacid, and 46(680) 病態別経腸栄養法 ~ 病態別経腸栄養剤をいかに選択し いかに使用するか?~

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