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PVA 平成 15 年度 Ⅰ 部化学研究部月曜班春輪講書 はじめに 21 世紀を迎え プラスチック 繊維 ゴムなどを中心とした高分子化学の技術や工業は日進月歩の目覚しい展開を見せている 我々が日常生活の中でその恩恵にあずかっていることは言うまでもない 軽くて強く しかも腐らない 錆びない という性質は従来の金属や木材には全く無かったもので その上に種類も多くあらゆる分野に適切なコストパフォーマンスで対応できることは その普及を早めた しかし 我々は今 半世紀前には予想もしなかった 負の遺産 を背負い込むことになった 先進諸国における著しい経済発展に伴う大量生産 大量消費によって 人類が合成した多くの化学物質による河川や土壌の汚染 さらにおびただしく発生するゴミの処理などが問題となっている そのような状況下 プラスチックもまた 負の遺産 を作り出してきた原因物質の一つとなっている プラスチックの処理について考え 廃プラスチックの有効利用 再資源化が重要な課題となっている 後処理を考えた製品や素材の開発 物質循環といった大きな視点からのリサイクルを視野に入れた新しい素材開発についても同時に取り組む必要があろう 生分解性プラスチックなどの環境に配備した物質の研究 開発が より必要性を増すものと考えられる 理想的な生分解性ポリマーとは 使用している間は優れた性能を持続的に発揮し 廃棄後は自然界で速やかに分解され 環境中に残留 蓄積せずに完全に消化されるものである 月曜班では生分解性ポリマーであるポリビニルアルコール ( 以下 PVA) の実験をする この PVA はホルムアルデヒドとの反応によりビニロンをホウ酸ナトリウムとの反応によりスライムととして知られる糊状薄の生成する 班活動では まず代表的な高分子の合成法であるラジカル重合 取り分けその中でも反応の温度制御が容易な乳化重合という重合法の原理と利点を理解する実験として PVA の合成材料であるポリ酢酸ビニル ( 以下 PVAc) を合成する その PVA cから PVA を合成する

原理 生分解性プラスチック プラスチックは石油から取れる炭化水素から合成されたもので 一般的に言えば このように炭素 C と水素 H からなる高分子化合物はきわめて細菌のアタックを受けにくい しかし その分子構造の中に 天然に存在するセルロースやデンプンのような たとえば酸素 (O) 特に H と結合した水酸基 (-OH) を含んでいるとか たんぱく質のような窒素 (N) それもアミド結合(-CO NH-) を含むプラスチックになると生分解する可能性は高くなるのである PVA の合成 単体のビニルアルコール (CH 2 =CHOH) はアセトアルデヒド (CH 3 CHO) との ケトエノールの互変異により単離できないほど少量しか得られないのでまずポ リ酢酸ビニル (PVAc) を合成し 加水分解により PVA を得る ラジカル重合 ラジカルとは 不対電子を一個以上有する原子あるいは原子団の総称である ラジカル反応は 開始剤 (initiator) が均一開裂 もしくは酸化還元反応により生じたラジカルがアルケンのπ 電子を攻撃する事によって 反応が開始される ラジカル反応の素反応は開始反応 (initiation) 生長反応(propagation) 停止反応 (termination) 連鎖移動反応(chaintransfer) の四つに分けられる 反応式では以下のように表せる ただし モノマーを M 開始剤を I 連鎖移動剤を A で表す 開始反応 (initation) I 2R(1) R.+M M.(2)

生長反応 (propagation) M.+M M. (3) 停止反応 (termination) 2M. P(4) 2M. 2P(5) 連鎖移動反応 (chaintransfer) M.+A P+A.(6) 開始反応 開始反応は開始剤の分解反応 (1) と 生長ラジカル (M.) の生成する反応 (2) よりなる 熱重合の開始剤 (initiator) を大別すると 単一で用いられるものと 2 成分以上の物質を混合して用いられるものとがある 前者は一元開始剤 ( あるいは単に開始剤 ) と呼ばれ 後者は二元開始剤 ( あるいはレドックス開始剤 redoxinitiator) と呼んで区別される レドックス開始剤 酸化性物質はある種の還元性物質の存在下でレドックス的に急速に分解する このような組み合わせは水系で用いられるものと 非水系で用いられるものとに区別され それぞれ乳化重合あるいは塊状重合などの低温重合開始剤として使用される 一般に水溶性レドックス系の酸化剤には過硫酸塩 過酸化水素 ヒドロペルオキシドのような過酸化物があり 水溶性の無機還元剤 (Fe 2+ や NaHSO 3 など ) あるいは有機還元剤 ( アルコール ポリアミンなど ) と組み合わせて用いられる

生長反応 生長反応はモノマーが次々と生長ラジカルに付加する反応である 次々とモノ マーがラジカルに付加して鎖が伸びていく 図 1. 生長反応 ( 著作権の都合上 図は削除させていただきます ) 停止反応 停止反応は 通常 2 分子的に起こり 再結合停止 (4) と不均化停止 (5) がある 不均化反応は水素原子の移動で起こり 不飽和と飽和の末端基を持つポリマーが 50% ずつ生成する また 再結合停止で生成したポリマーの分子量は 不均化停止で生成したポリマーの分子量の2 倍となる したがって 両反応で停止が起こるときには生成ポリマーの分子量分布曲線は幅広くなる 連鎖移動反応 連鎖移動反応は重合系に存在するすべての物質 ( たとえばモノマー 開始剤 溶媒など ) と生長ラジカルの反応 (6) で起こる 原則として式 (6) で生成するラジカルは式 (7) の再開始反応で直ちに生長ラジカルに変化するが A. が比較的安定で 式 (7) の反応を起こしにくい時には重合速度の低下がみられる このような物質は 重合制御剤と呼ばれる イニシエーター ペルオキソベンゾイルの分解 三級アミンと過硫酸塩の酸化還元反応などが代 表的である 今回は 臭素酸カリウムと亜硫酸水素ナトリウムの酸化還元反応 を利用する

乳化重合 乳化重合では 水に界面活性剤 ( 乳化剤 ) を溶かし これに水に不要のモノマーを加えてかき混ぜて乳濁液を作り 水溶性の開始剤を加えて加熱し かき混ぜながら重合させる 乳濁液の中ではモノマーは界面活性剤のつくるミセルの中に小油滴として存在しており 水溶性開始剤から発生したラジカルがその中に入ってくると重合が開始される このラジカルの数は少ないので停止反応は起こりにくく 重合度の高いポリマーが生成する 重合温度の制御は容易である 生成ポリマーも乳濁液 [ エマルジョン (emulsion) あるいはラテックス (latex)] となっており そのまま塗料 接着剤や表面処理剤として用いられることも多い ポリマーを乳濁液から取り出すには 塩析などの操作が必要となってくる ポリマーは微粉末状で得られる 乳化重合のように大量に水を使う方法では 排水の処理もプロセスの一部とし て重要である PVA の合成 PVAに対応するモノマー ビニルアルコール (CH 2 =CHOH) は 構造上アセトアルデヒドとケト エノール互変異性の関係にあり この二者の間の平衡は著しくアセトアルデヒド側に偏っているので ビニルアルコール は実際上存在しない そこでまず 酢酸ビニルを重合させてポリ酢酸ビニルをつくり ( 図 2) その側鎖を加水分解してポリビニルアルコールを導くのである( 図 3) ( 著作権の都合上 図は削除させていただきます ) 図 2.PVAc の生成 ( 著作権の都合上 図は削除させていただきます ) 図 3.PVAc のけん化 ポリ酢酸ビニルは有機溶媒に溶け 非晶性であるが PVA は水溶性となり また一部結晶性となり 繊維にすることが出来る

ビニロンの合成 上記の性質を利用して しかも水に不要な繊維を作るため 水酸基の一部をホ ルムアルデヒドと反応させて汗タールかすると ビニロンが出来る 実験操作 PVAc の合成 試薬 器具 試薬 :0.6M(5%) 酢酸ビニル (CH 2 =CHOCOCH 3 ) 水溶液 300ml 0.15M 臭素酸カリウム (KBrO 3 ) 水溶液 5ml 0. 45M 亜硫酸水素ナトリウム (NaHSO 3 ) 水溶液 5ml 5M 塩化ナトリウム (NaCl) 水溶液 300ml アセトン (CH 3 COCH 3 )10ml 器具 :1L 三角フラスコ 50ml ビーカー 攪拌棒 2 本 ポリエチレンシート 15cm 15cm 手袋

操作 1.0. 6M 酢酸ビニル水溶液 300ml を三角フラスコに入れる 2.0. 15M 臭素酸カリウム水溶液 5ml と 0.45M 亜硫酸水素ナトリウム水溶液 5ml を加える 3. フラスコをよくまわし 時々振りながら 15 分間反応を進行させる 粒子が 成長するにつれ 混合物は乳状になる 4. エマルジョンを 5M 塩化ナトリウム水溶液 5ml をとったビーカーに注いで ポリマーを凝集させる 5. ポリマーをピンセットで取り出す 6. 水中でよく練って 塩分と未反応のモノマーを取り除く 7.1,2 回水を加えて繰り返す 8. イニシーターの濃度を変えて 1~7 の操作を繰り返す PVA の合成 試薬 器具 試薬 :PVAc2g メタノール 100ml 洗浄用メタノール 40% 水酸化ナトリウム 2.5g 器具 : ビーカー (300ml) ガラス棒恒温槽ブフナー漏斗吸引ビンろ紙アスピレータ ー

操作 1.300ml ビーカーに PVAc2g をとり メタノール 100ml を加え攪拌し溶かす 2.40% 水酸化ナトリウム水溶液 2.5ml を加え 30 分間放置する 3. 約 60 の湯浴中で攪拌しながら 10~15 分ほど反応させる 4. 室温まで冷却してから吸引ろ過する 5. メタノール 100ml を加え もう一度吸引ろ過し 少量のメタノールで洗浄 したあと 室温で乾燥させる 結果 考察 表 1.PVAcの結果 KBrO3(mol/l) NaHSO4(mol/l) 収量 (g) 収率 (%) 0.05 0.15 22.923 147.92 0.1 0.3 13.724 87.97 0.15 0.45 4.897 31.6 表 2.PVA の結果 KBrO3(mol/l) NaHSO4(mol/l) 収量 (g) 収率 (%) 0.05 0.15 1.696 82.09 0.1 0.3 0.767 38.37 0.15 0.45 1.122 56.04 今回の実験では PVAc 合成の際 操作 4でポリマーを凝集させることができず 実験は失敗に終わってしまった おそらく 操作 3においてフラスコをよく振っていなかったので乳化重合が上手く進行しなかったものと考えられる 次に実験する時には 時間をかけて頻繁に混ぜ合わせなければならない また 臭素酸カリウムが水に上手く溶けきらないまま重合を始めてしまったことも失敗を招いた一因であろう

酢酸ビニルには重合を阻害するためのスタビライザーが含まれているが 上手 く実験を行えば酸化還元反応により発生する活性酸素がスタビライザーを破壊 するものと予想できる 展望 月曜班では生分解性ポリマーは PVA のみしか扱っていないので PVAc や PVA をきちんと合成した上で 今後は他の生分解性ポリマー ( キチン キトサン etc.) を合成し PVA との物性の比較もやっていきたい 具体的には融点測定や分子量 水溶性の比較を検討している 現状ではまだポリマーの合成の段階なので 腐葉土 ( 分解酵素 ) などを用いた生分解性の証明等は今後の課題とする 実験室では生分解性の証明は困難なので 夏休み等に適当な場所を探して実験していこうとも考えている 生分解性のより良い証明方法等も その都度メンバーで模索していきたい また 時間が許せば重合環境 ( 温度 試薬の濃度 種類 ) による収率や分子量の変化を NMR や IR を用いて測定していきたい 参考文献 1. 高分子材料の化学 / 井上祥平 宮田清蔵 /(1993) 丸善 2. 高分子合成の化学 / 大津隆行 /(1979) 化学同人 3.MASTDemonstration1:Polymers http://matse1.mse.uiuc.edu/~tw/polymers/a.html メンバー 2OK 西木淳郎 2OK 本多孝至 2OK 寺田智仁 2OK 嶋田大輔 2K 伊藤哲