素粒子論的宇宙論基礎 新井真人 ( チェコ工科大学 )

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Where is Czech? 首都 : プラハ公用語 : チェコ語人口 :1 千 43 万人

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アインシュタインとプラハ 1910 1912: プラハ大学 ( 現カレル大学 ) に赴任 一般相対論の研究を推進 1911: 光の伝播に関する重力の影響 を出版 宇宙論にゆかりのある地?

宇宙論 宇宙がどのように始まり どのように進化して現在の姿になったか 将来どうなるのかを研究する学問

講義の目次 宇宙論の歴史 宇宙膨張 ガモフの熱い宇宙模型 宇宙背景放射 標準ビッグバン模型 一様等方宇宙模型 輻射優勢宇宙 物質優勢宇宙 インフレーション 標準ビッグバン模型の問題点 問題点の解決 密度揺らぎの起源 素粒子論模型 観測との比較

宇宙論の歴史 1678 年ニュートン 重力の法則 ( 万有引力 ) の発見 ケプラーの法則の再現 惑星軌道の理解 楕円 双曲線

アインシュタイン一般相対性理論 1915 年 : ニュートンの重力理論に取って代わる新しい重力理論 現代宇宙論の始まり アインシュタイン方程式 時空のゆがみ 物質のエネルギー

アインシュタインの静的宇宙モデル 時間変化しない宇宙 止まっている物体は重力で動き出す 宇宙項の導入 重力 ( 引力 ) 反発力 宇宙膨張の発見アインシュタインは宇宙項を取り下げる

1 9 2 2 1922 フリードマン宇宙模型 宇宙項のない場合の解の発見 開いた空間 平坦な空間 閉じた空間

1929 ハッブルの発見 遠くにある銀河は その銀河までの距離に比例して遠ざかっている 後退速度 = H 距離 H: ハッブルパラメーター 宇宙膨張の証拠

膨張する宇宙

ハッブル図 :1929 年 後退速度 = H 距離 H=530 km/sec/mpc 1Mpc=10^6pc 1pc=3.262 光年 ウィルソン山天文台

ハッブル図 :1996 年 後退速度 = H 距離 H=72±3 km/sec/mpc ハッブル宇宙望遠鏡

1946 ガモフの熱い宇宙模型 宇宙膨張 過去の宇宙は高温高圧の状態 元素の起源を宇宙初期に求めた 水素 75% ヘリウム 25% 予言 : 熱い宇宙の痕跡として宇宙マイクロ波背景放射が存在する

元素合成 宇宙初期 : 高温高密度 1 兆度 : 光子 電子 陽電子 ニュートリノが熱平衡 陽子と中性子の数は互いに移り変わる

元素合成 宇宙が冷えてくると 陽子と中性子は互いに移り合うことができなくなる 10 億度 : 重水素の生成 ヘリウム原子核の生成 宇宙の核子 ( 陽子 中性子 ) の 1/4 がヘリウムになる

元素合成終了後 ( 再結合 ) 3000 度 : 水素の原子核 ( 陽子 ) ヘリウムの原子核 電子が光子と熱平衡状態 陽子 + 電子 水素原子 + 光子 自由な電子がいなくなる 光子は電子に邪魔 ( 散乱 ) されずに 現在にいたるまで直進する 宇宙背景放射として観測

1965 宇宙背景放射の発見 様々な波長の光 (= 電磁波 ) 宇宙背景放射マイクロ波が全方向からほぼ等方的に観測される ( 波長に対するエネルギー分布は調べられなかった ) Penzias と Wilson が CMB を発見したマイクロ波ホーンアンテナ

1990 COBE COsmic Background Explorer (COBE) T=2.726K のプランク分布であることを確認

温度揺らぎ 宇宙初期はバリオンと光子が強く相互作用 バリオンに密度揺らぎがあると 光子の密度にも同じような揺らぎがあると考えられる 温度揺らぎ 空間

温度揺らぎ :COBE

温度揺らぎ :COBE 北極方向 銀河中心の正反対 銀河中心 銀河面 銀河中心の正反対 南極方向

Analogy http://background.uchicago.edu/~whu/beginners/map.html

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2003 WMAP(Wilkinson Microwave Anisotropy Probe)

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温度揺らぎの観測の歴史

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標準ビッグバン理論 まとめ 宇宙膨張の発見 宇宙背景放射の発見 元素合成の説明これらすべてを説明する好ましい模型 でも問題点あり

標準ビッグバン理論の問題点 地平線問題 平坦性問題

標準ビッグバン理論の問題点 地平線問題 平坦性問題 インフレーション理論佐藤 グース (1981) 密度揺らぎの起源も与えられる

インフレーション の間に宇宙が倍になる ( バクテリアと銀河の大きさに相当 )

素粒子論模型 インフレーションを起こすには真空エネルギーが必要 素粒子論模型の見方からは それはヒッグスなどのスカラー場が与えると考えられる インフラトン インフレーションを起こすようなスカラーを用いた模型を構築できる 模型は観測結果 (COBE, WMAP) から制限される

講義の目次 宇宙論の歴史 宇宙膨張 ガモフの熱い宇宙模型 宇宙背景放射 標準ビッグバン模型 一様等方宇宙模型 輻射優勢宇宙 物質優勢宇宙 インフレーション 標準ビッグバン模型の問題点 問題点の解決 密度揺らぎの起源 素粒子論模型 観測との比較

一様等方宇宙模型 半径 密度の 3 次元中の球面に乗っている質量 m の質点を考える フリードマン方程式 : 光速 : 曲率

宇宙膨張の様子 膨張で質量が変わらないことから : 現在の質量密度 : 現在の半径 膨張の様子 は現在という意味で用いる これは圧力ない物質の時の話 宇宙には光子 水素ガスなどの圧力を持つ物質も含まれるので その効果を入れる必要あり

宇宙の発展方程式 フリードマン方程式 K=-1: 閉じた宇宙 K=0: 平坦な宇宙 K=1: 開いた宇宙 : 宇宙定数 エネルギー保存則 ( 熱力学第一法則 ) 体積に含まれるエネルギー変化 + 圧力による単位時間当たりの仕事

宇宙初期の膨張の様子 圧力がないときの膨張の様子 ( 物質優勢宇宙 ) 宇宙初期 高温高圧 すべての粒子は光子のように光速に近い速度で走る超相対論的粒子 圧力と密度の関係 ( 統計力学から )

放射優勢時代 をエネルギー保存則に代入 フリードマン方程式に代入

放射優勢と物質優勢 放射優勢 物質優勢 放射優勢 物質優勢 放射優勢 物質優勢

アインシュタイン方程式を用いた導出 アインシュタイン方程式 フリードマン ロバートソン ウォーカー (FRW) 計量

平面上の 2 点間の距離 直交座標

平面上の 2 点間の距離 直交座標 極座標 変数変換で不変

一般相対性理論における距離 時間と 2 次元平面上の線素 時空との間の 4 次元距離 (t,x,y) の座標変換に対して不変 時間と 3 次元平面上の線素 光の経路 :

今 図のように半径 R の球面上の 2 点間の距離を考える 球面上の極座標での座標を P(θ, φ),q(θ + dθ, φ + dφ) とすると 曲がった空間の例である 半径 R の 2 次元曲面 dl 2 = (Rdθ) 2 +(R sin θdφ) 2 P と Q の座標 Q も 2 次元曲面上にあることから 球面上の極座標 また 半径 R の球が 3 次元ユークリッド空間とすると 球面の方程式 x 2 + y 2 + z 2 = R 2 となる 球面上の 2 点の座標を P(x,y,z), Q(x+ dx, y+ dy, z+ dz) とする面上にある条件から R 2 = (x + dx) 2 +(y + dy) 2 +(z + dz) 2 R 2 + 2(xdx + ydy +

2 次元曲面 PQ 間の距離 2 次元定曲率空間 球面上での計量 今 図のように半径 R の球面上の 2 点間の距離を考える 球面上の極座標での座標を P(θ, φ),q(θ + dθ, φ + dφ) とすると dl 2 = (Rdθ) 2 +(R sin θdφ) 2 変数変換 である 球面上の極座標

平面 曲面 双曲面 2 次元平面 2 次元曲面 2 次元双曲面 平面 曲面 双曲面

3 次元定曲率曲面から FRW へ 平面曲面双曲面宇宙膨張に従ってこの空間が膨張する 座標の値は変わらないが 距離は に比例して伸びる

FRW 計量 時間が増加 2 点間距離

アインシュタイン方程式を用いた導出 アインシュタイン方程式 FRW 計量

宇宙の発展方程式 フリードマン方程式 K=-1: 閉じた宇宙 K=0: 平坦な宇宙 K=1: 開いた宇宙 : 宇宙定数 エネルギー保存則 ( 熱力学第一法則 ) 体積に含まれるエネルギー変化 + 圧力による単位時間当たりの仕事

放射優勢と物質優勢 放射優勢 物質優勢 放射優勢 物質優勢 放射優勢 物質優勢

宇宙膨張パラメーター ハッブルの法則 後退速度 = H 距離 : 銀河間距離 H=72±3 km/sec/mpc は現在という意味で用いる 距離 = 座標間距離 スケールファクター

臨界密度 の時のフリードマン方程式 は現在という意味で用いる 1 銀河 / or 陽子 5 つ /

密度の内訳 (K=0) フリードマン方程式 密度 物質密度 への寄与 : バリオン ( クオーク 3 体からできる粒子 ) : 暗黒物質 ( 電磁波を放出しない物質 ) 放射 ( 電磁波 )

密度パラメータ 物質密度パラメータ 物質パラメータを用いたフリードマン方程式の書き換え

密度パラメータとフリードマン方程式 フリードマン方程式 曲率と宇宙定数の密度パラメータも導入

現在の時刻でのフリードマン方程式 密度パラメータの観測値

赤方偏位 光のドップラー効果 : 測定値 : 本来の波長 光源が遠ざかることにより 観測する光の波長が長波長側へずれる

FRW 計量と光の経路 FRW 計量 光の経路 空間の等方性から光は動径方向を進むとしてよい

赤方偏位とスケールファクター で出た光をで受けとる で出た光をで受けとる

赤方偏位とスケールファクター ( 周期 )

地平線 我々の銀河にどれくらい遠くから情報が届くかを考えて それが届くぎりぎりの領域 情報が伝わる最大の速度は光速度だから地平線は膨張宇宙での光の伝搬を調べることで分かる に出た光が観測者に届くとすると 地平線 にしたときに積分が有限

地平線の計算 物質優勢宇宙での地平線

地平線の計算 物質優勢宇宙でのフリードマン方程式 宇宙定数のない平坦な物質優勢宇宙の地平線

宇宙年齢 宇宙定数のない平坦な物質優勢宇宙の年齢 現在の宇宙年齢 現在 一番遠くに見える宇宙 ( 約 120 億年 )

実際の宇宙 実際の宇宙は物質だけでなく放射や宇宙定数の寄与がある これを用いて地平線 宇宙年齢を計算する必要がある

宇宙膨張の温度依存性 電磁波のエネルギーの温度依存性 プランク分布で全振動数を積分することで得られる 放射のエネルギー密度のスケール依存性 温度のスケール依存性

宇宙の温度 放射優勢宇宙 宇宙定数無し Ex.

宇宙の発展の様子まとめ 放射優勢 物質優勢 放射優勢 物質優勢 放射優勢 物質優勢

標準ビッグバン理論まとめ 宇宙膨張の様子はフリードマン方程式で説明される 放射優勢 物質優勢宇宙 観測から宇宙はほぼ平坦であると思われる 元素合成が説明できる 水素 75% ヘリウム 25% 宇宙背景放射の予言 COBE, WMAP で確かめられる

標準ビッグバン理論の問題点 地平線問題 平坦性問題 インフレーション理論佐藤 グース (1981) 密度揺らぎの起源も与えられる

講義の目次 宇宙論の歴史 宇宙膨張 ガモフの熱い宇宙模型 宇宙背景放射 標準ビッグバン模型 一様等方宇宙模型 輻射優勢宇宙 物質優勢宇宙 インフレーション 標準ビッグバン模型の問題点 問題点の解決 密度揺らぎの起源 素粒子論模型 観測との比較

地平線問題 宇宙背景放射の観測によれば 宇宙は一様で等方的 宇宙は至る所で同等 特別な場所はない 現在の宇宙のあらゆる場所は 過去において互いに因果関係にあったと考えられる ( ないなら 場所によって異なる物理であっても良い ) ところが宇宙の発展方程式によれば 現在の宇宙の中には過去に何の因果関係のなかった場所がある

ハッブル半径 ハッブルの法則 時刻 t において距離 L(t) だけ離れた 2 点は 宇宙膨張によって v という速さで遠ざかる 光速で遠ざかる点は 我々見える一番古い光 ハッブル半径 現在のハッブル半径 これが過去にどれだけ離れていたか?

ハッブル半径と地平線 の時の距離 距離はスケールファクターに比例 の時の地平線 放射優勢宇宙のフリードマン方程式から 距離は過去に何の因果関係もなかったことになる

ハッブル半径と地平線 の時の距離 地平線問題 距離はスケールファクターに比例 の時の地平線 放射優勢宇宙のフリードマン方程式から 距離は過去に何の因果関係もなかったことになる

地平線問題の起源 距離と地平線のスケールファクター依存性 ( 放射優勢 ) ( 物質優勢 ) ( 放射優勢 ) ( 物質優勢 ) 地平線

平坦性問題 観測から現在の宇宙は平坦 宇宙誕生から100 億年経った今でも平坦であるためには宇宙初期においての精度で平坦でなければならない フリードマン方程式 宇宙定数なし

平坦性問題 放射優勢時代 ( 放射優勢 ) ( 物質優勢 ) の時

平坦性問題 放射優勢時代 ( 放射優勢 ) ( 物質優勢 ) の時 宇宙初期もほぼ平坦でなければならない そうでなければ 現在の観測に合わない

インフレーション 宇宙初期に地平線内におき 指数関数的膨張をさせればよい地平線問題は解ける 地平線 地平線 平坦性問題も解ける

指数関数的膨張 加速度方程式 加速膨張 Ex. 負の圧力 エネルギー保存則 定数

平坦性問題への解 インフレーションが で起こるとする e-folding

平坦性問題への解 とすれば インフレーションがある程度起きれば (e-foldingが大きければ ) がほとんど1である必要はない

インフレーション模型の実現 必要な要素 インフレーションの終わり : 指数関数的膨張から放射優勢宇宙へと引き継がれなければならない : これを実現するような 時空のゆがみ 物質のエネルギー どんな物質がこの条件を満たすか? 場の理論

場の理論 素粒子の振る舞いを記述する理論 質点の運動のラグランジアン 場の理論のラグランジアン スカラー場がの条件を与えるような模型を考える インフレーションを起こすスカラー場をインフラトンと呼ぶ

自然単位系 長さ (L)/ 時間 (T) 長さ ^2(L^2) 質量 (M)/ 時間 [T] プランクスケール

インフラトンの運動方程式 一様等方性より時間依存性のみ考える 最小作用の原理 FRW 計量

インフラトンの運動方程式 エネルギー運動量テンソル 解くべき方程式 : 条件

Slow-roll 近似 Slow-roll 近似

Slow-roll パラメータ 条件とを書き換える

Slow-roll パラメータ 条件とを書き換える :Reduced Planck scale

Slow-roll パラメータ

Slow-roll パラメータ

Slow-roll パラメータ

Slow-roll パラメータ

e-foldings 平坦性問題を解くには が必要

Slow-roll 近似まとめ

単純なインフレーション模型 ラグランジアン Slow-roll パラメータ

インフレーション解

インフレーション解

インフレーション解

インフレーションの終わり が満たせなくなったとき もしくは これと e-folding を用いて インフレーションが起こる時の初期値を求める

Slow-roll 近似なしの解 インフレーション期インフレーション終了振動

インフレーション後 インフレーションで宇宙は急激に膨張 インフレーション終了後 インフラトンは標準模型の粒子 ( 電子 光子 ニュートリノ 陽子 中性子など ) に崩壊する それらの粒子で熱平衡状態になる ( 再加熱 ) 標準 Big-Bang 模型 ( 放射優勢時代 ) に引き継がれる

インフレーションによる温度変化 温度は急激に下がる インフレーション後ー振動期 物質優勢期のように振る舞う

温度の時間発展 インフレーション開始 インフレーション終了 再加熱

インフレーションを入れた宇宙の発展の様子 Big-Bang Big-Bang+ インフレーション 地平線 地平線 放射優勢物質優勢インフレーション物質優勢 放射優勢

密度揺らぎ 宇宙背景放射の観測 COBE WMAP Planck 宇宙はほぼ一様だけど小さい非一様性がある

なぜ温度揺らぎが起こる? 宇宙初期 熱平衡状態の時 物質と放射は強く相互作用をしていた 物質に密度揺らぎがあると 放射の密度にも同じ揺らぎが起こる それが温度揺らぎとして観測される 密度揺らぎの種をインフラトンの揺らぎで模型化できる

r インフレーション模型と観測量 観測量 スペクトル指数 2 点相関関数 ( パワースペクトル ) スカラー テンソル比 宇宙背景放射の偏光 0.4 0.3 WMAP 観測値 スカラー テンソル比 0.2 0.1 0.0 0.92 0.94 0.96 0.98 1.00 1.02 n s スペクトラルインデックス

r インフレーション模型と観測量 観測量 スペクトル指数 2 点相関関数 ( パワースペクトル ) スカラー テンソル比 宇宙背景放射の偏光 0.4 0.3 WMAP 観測値 インフレーション模型の中のパラメータとこれら観測量は関係づけられる スカラー テンソル比 0.2 0.1 0.0 0.92 0.94 0.96 0.98 1.00 1.02 n s スペクトラルインデックス

密度揺らぎの模型化 アインシュタイン方程式 時空の曲がり具合 物質密度 密度揺らぎ 密度揺らぎに呼応してにも揺らぎが起こる 揺らぎに対しての運動方程式

密度揺らぎの模型化 揺らぎの運動方程式 この方程式を解けば 揺らぎの時間発展が分かる これら揺らぎと観測量が関係する

スカラー揺らぎ 宇宙背景放射の揺らぎ 宇宙の大規模構造 銀河集団の形成 を計算できる

物質揺らぎ 上記の量を使って を書き下すこ とができる との 2 階微分方程式揺らぎの発展が分かる

揺らぎの成長 揺らぎは地平線に入る所まで成長 Super horizon 地平線 インフレーション 物質優勢 放射優勢

揺らぎの相関関数 揺らぎの 2 点関数 ある領域と他の領域の密度揺らぎの違いを色々な場所で平均したもの 運動量空間では 領域の大きさによる揺らぎを調べることになる パワースペクトル スペクトル指数 at (super horizon)

テンソル揺らぎ 時空自身の揺らぎ 宇宙背景放射の偏光に寄与する 2 点相関関数 スカラー テンソル比

r WMAP 7 years 0.4 0.3 0.2 0.1 0.0 0.92 0.94 0.96 0.98 1.00 1.02 n s

インフレーション模型と観測 理論と観測の比較のための道具立て パワースペクトル スペクトラル指数 スカラー テンソル比 Slow-roll パラメータ e-foldings

インフレーション模型と観測 e-foldings インフレーションの終わり

パワースペクトル

スペクトル指数 スカラー テンソル比

r WMAP 7-years 0.4 0.3 0.2 0.1 0.0 0.92 0.94 0.96 0.98 1.00 1.02 n s

Slow-roll パラメータ e-foldings インフレーションの終わり

パワースペクトル

WMAP 7-years and two models

まとめ 1 標準ビッグバン模型 宇宙膨張 宇宙背景放射 元素合成など現在の観測にあう事実をよく説明できる 地平線問題 平坦性問題などの問題があった インフレーション 宇宙初期の短時間に急激な膨張 地平線問題 平坦性問題を解決 インフレーションは標準ビッグバン模型を補完する

r まとめ 2 素粒子論とインフレーション インフラトンと呼ばれるスカラー場を導入することでインフレーションシナリオを実現 パワースペクトラム スペクトラル インデックス スカラー テンソル比の観測値を用いて模型との比較が可能 Planck 衛星の結果でもっとパラメータ領域は狭められ る 0.4 0.3? 0.2 0.1 0.0 0.92 0.94 0.96 0.98 1.00 1.02 n s

まとめ 3 宇宙初期を記述するに当たって などの場の理論 ( 標準模型 ) の記述は適切? 宇宙初期は高エネルギーなので それに合わせた記述が必要かも 超対称性理論 超重力理論 これらを取り入れたインフレーション模型

まとめ 4 その他の話題 暗黒物質 素粒子論的解釈 : どんな粒子がどれだけの割合で存在するか 超対称性粒子との関係 Lightest SuperParticle (LSP)