2010.08.28 日本教育心理学会第 52 回大会於 : 早稲田大学 自主シンポジウム J039 大学での職業指導義務化 に教育心理学は何が言えるか 働くこと の価値観研究の観点から 杉本英晴 ( 早稲田大学人間科学学術院 ) 1 義務化 の背景 の確認 進学率の上昇 多様な学生の入学 新規学卒一括採用 非正規職の拡大 長期雇用慣行のゆらぎ OJT 等の訓練機会の減少 非正規職 正規職 への移行の難しさ などなど 2
3 大卒者の現状 高校 大学短期大学 社会 就職も進学もしない者大卒者のうち 16.1% 短大卒者のうち 14.1% 2010 年 3 月卒業者大学生の就職率 60.8% 短期大学生の就職率 65.2% 3 義務化 の背景 の確認 大学から職業への接続がうまくいかず, 非正規雇用者 無業者が拡大する歯止めをかけられるためには 大学で職業指導を義務化!? 大学から 職業 社会への移行が想定されている 4
5 大学 短期大学から 職業 社会への移行のシステム 就職活動による新卒一括採用 卒業後非正規雇用から正規雇用への移行の困難さ 就職活動を行わないと就職できない就職できないと, 卒業後就職しづらい 5 ひきこもり 内閣府の実態調査推計 70 万人, 親和群 155 万人 6
話題提供者の役割 本報告は, 大学と 職業 社会の接続に焦点 これまで行われてきた 働くこと の価値観に関連した教育 支援, 研究を挙げながら キャリアガイダンスの義務化に伴う留意点を検討すること 7 本発表の流れ 話題提供者の役割の確認 キャリア教育 支援の確認 働くこと の価値観研究からの検討 職業指導の義務化 に向けて 8
現行のキャリア教育 支援の確認 9 10 まずはじめに, 近年, 大学 短期大学では, さまざまなキャリア教育 支援の取り組みが行われている どのような取り組み?
キャリア 教育 重視 就職 支援 重視 職業観形成を目的とした 講義 就職セミナー就職ガイダンス 学生相談 インターンシップ関連科目 キャリア支援センター 11 キャリア教育 支援の現状 日本学生支援機構 職業観形成を目的とした講義 大学 :74.3%; 短大 :72.4% 就職セミナー 就職ガイダンス 大学 :91.8%; 短大 :95.7% 文部科学省 インターンシップ実施状況 大学 :67.7%; 短大 :43.6% ほとんど義務化? 12
文科省 (2010) 中教審 今後の学校におけるキャリア教育 職業教育の在り方について 各大学はキャリア教育の方針を明確にし, 教職員の理解の共有を図った上で, 学生一人一人の状況にも留意しながら, 教育課程内外を通じて全学で体系的 総合的にキャリア教育を展開することが求められる 13 働くこと の価値観研究からの検討 14
そもそもキャリア教育とは キャリア教育の推進に関する総合的調査研究協力者会議報告書 (2004) 児童生徒一人一人のキャリア発達を支援し, それぞれにふさわしいキャリアを形成していくために必要な意欲 態度や能力を育てる教育 端的には, 児童生徒一人一人の勤労観, 職業観を育てる教育 15 そのため大学においても キャリア教育として 働くこと の価値観を形成することを目的 教える 講義 体験するインターンシップ 16
インターンシップ 1998 年, 文部省 通産省, 労働省の合意 学生が在学中に自らの専攻, 将来のキャリアに関連した就業体験を行うこと 推進に当たっての基本的な考え方 意義 1 新たな学習意欲を喚起する契機 意義 2 高い職業意識の形成 意義 3 自主性 独創性のある人材の育成 17 インターンシップの形態 大学コンソーシアム京都 (2003) 1 体験型 ( 日常業務型 課題達成型 ) 2 見学型 ( 作業集中型 作業分散型 ) 3 講義型 佐藤 堀 堀田 (2006) 1 課題達成型 2 中核業務型 3アルバイト パート型 4その他 仕事形態の違いが大きい? 18
新名主 (2005) 2002 年度の大学コンソーシアム京都のインターンシッププログラム ビジネスコース : 定員 400 名に対して 699 名出願 面接に合格した 344 名のうち手続きを行った 338 名 参加者数 208 社のうち,169 社 業種から 1~2 社抽出して 35 社でおこなった 120 名に自由記述のアンケート 19 その結果 実習前 社会に対するイメージが厳しく, 大変 就業意識の未熟さからの焦燥感 実習後 就業意識の形成 1 対 1の会話をする機会が得られた場合, あるいは複数の人と接触する機会をもったとき 価値観 を聞く機会に恵まれている 20
佐藤 堀 堀田 (2006) においても 学生の満足度 中核業務型と課題達成型 > アルバイト パート型 課題達成型 > 中核業務型 勉強にもっと力を入れようと思った 他大学の友達が増えた 中核業務型 > 課題達成型 職業観の明確化, 肯定的変化 自信の向上 自分の興味 適性, 職業選択に関する情報の獲得 正社員への肯定的イメージ 21 インターンシップのまとめ 進路選択を促す 働くこと の価値観を形成 ただし, 参加者が限定される ( 少数 ) 参加者は, 進路選択に対して比較的積極的 新名主 (2005) 数名は不安や悩みが深まった 共通点として, 実習内容に不満を持っている 日常常務ー単一部署ー作業集中型 の学生 くる日もくる日もバイトと同じ作業をやらされるのには心底うんざりした 22
補足として, アメリカでは インターンシップは, 企業が主体の就業体験 大学主体の教育プログラムは Cooperative Education インターンシップとは異なる位置づけ 日本の場合, 就業体験 = インターンシップ となっていることが, 教育効果目標設定を困難に 23 講義 インターンシップとは異なり, 必修であれば, 全学生がキャリア教育の機会に恵まれる 進路選択に対して消極的な学生も対象に ただし, ここで留意すべき 2 つの課題 働くこと の義務的な価値観の提示に際して 価値観を共有する Social network に注目して 24
たくさんの講義目標があり, 少ない時間の中で? 職業選択を促すために, 就職はしなければいけない 義務的な目標 就職活動は通らなければならない 通過儀礼 義務的な目標 を持たせるような 義務的な価値観 が共有されると 25 Higgins(1987) 自己乖離理論 理想目標 ( こうありたい ) を含んだ自己概念 理想自己 義務目標 ( こうあるべき ) を含んだ自己概念 義務自己 理想自己 異なる否定的感情を生起 現実自己 義務自己 26
現実自己とのズレ 理想自己と現実自己のズレ 失意や落胆に関連する感情の生起 接近行動 ポジティブな結果に焦点化しやすい 義務自己と現実自己のズレ 不安や恐怖に関連する感情の生起 回避行動 ネガティブな結果に焦点化しやすい 27 もともと 進路選択に対して消極的な学生への教育 支援が期待される 講義 において 義務的な価値観 形成が目標とされ, 現実の自分の価値観との差異が表面化すると 進路選択に対して, 回避的な行動をとるようになる可能性 28
ところで, 29 働くこと の価値観 ソーシャルネットワークによって規定されている 複雑なキャリア発達において, 青年の生活文脈ではとくに友人関係は重要で (Young, 1999), 日々行われる相互作用を通して, 規範や価値観を同化させ, 理念を発展させる (Sebald, 1986) 30 限定的な集団と進路選択の密接な関連性新谷 (2002): 近隣の中学校に属していた同級生 先輩後輩からなるつながりが有する 地元つながり文化 フリーターを選択し, その状態を維持していた 堀 (2004): 地元の同年齢で構成された人間関係に所属し, そこに安住する 限定型 高学歴者に多く人間関係が薄く特に家族以外の人間関係がほとんどない 孤立型 無業者の多くを占めている
杉本 (2008) 大学生の友人関係と就職イメージとの関連 友人関係尺度 : 独立変数, 就職イメージ : 従属変数 一要因の分散分析 孤立型制度 最低自立 最低 限定型拘束 最高希望 最低 拡大型拘束 最低その他 最高 CLU1 CLU2 CLU3 CLU4 CLU5 CLU6 CLU7 CLU8 CLU9 CLU10 N=55 N =52 N =44 N =54 N=37 N=41 N=107 N =72 N =73 N =75 F 値 多重比較の結果 拘束的イメージ 3.99 3.89 4.02 3.46 3.83 4.42 3.75 4.14 3.89 3.27 5.76 *** CLU1 2 3 6 8 9>CLU10 (0.90) (1.06) (1.22) (1.09) (1.08) (0.79) (0.91) (0.88) (1.27) (1.12) CLU6 8>CLU4, CLU6>CLU7 制度的イメージ 4.78 4.95 4.97 4.99 5.12 5.33 5.22 5.38 5.09 5.54 4.00 *** CLU10>CLU1 2 3 4 (1.00) (1.07) (0.93) (1.00) (0.90) (0.98) (0.72) (0.75) (0.96) (0.92) CLU8>CLU1 希望的イメージ 4.74 5.15 4.78 5.40 5.64 4.73 5.45 5.43 5.25 5.96 10.68 *** CLU10>CLU4 5 7 8>CLU1 3 6 (0.93) (1.08) (1.33) (0.99) (0.80) (0.72) (0.81) (0.89) (1.02) (0.82) CLU10>CLU2 9 自立的イメージ 5.57 5.85 5.88 5.83 6.02 6.02 5.89 6.16 6.13 6.21 3.60 *** CLU8 9 10>CLU1 (0.90) (0.76) (0.86) (0.87) (0.82) (0.92) (0.78) 31(0.64) (0.74) (0.76) *** p <.001 すなわち, 32 講義 の中で喚起された不安は 限定された回避的で類似した集団内で抑制回避的な価値観のさらなる共有 講義や説明会で取り上げても, その場だけ で 継続した 形成は困難
職業指導の義務化 に向けて 33 34 対象の問題 さまざまな集団との関わり 取り組める者進路決定できる者 支援が届きやすい 就職に対するモチベーション低 取り組めない者進路決定できない者 支援が届きにくい 就職に対するモチベーション高 特定の集団との関わり
そこで 学生全体に働きかける 個別に働きかける だけでなく 個人のソーシャルネットワークに働きかける 35 36 発表は以上です ありがとうございました 杉本英晴 (SUGIMOTO Hideharu) hideharu.sugimoto@gmail.com