ワンポイント講習 農業水利施設の機能診断及び補修について 東海農政局土地改良技術事務所 槻瀬誠
農業水利施設の機能診断 及び補修について 東海農政局 土地改良技術事務所 1
目 次 農業水利施設の機能診断 及び補修について 1. 農業水利施設の現状等 2. 施設の長寿命化 3. 施設の機能診断 4. 水路の目地補修 5. 自主施工と外部発注 6. 補修後の維持管理 7. 作業時の安全対策 8. その他 2
1. 農業水利施設の現状等 農業用水を供給する全国の農業用水路の延長は約 40 万 km うち基幹的な農業用水路の延長は約 4 万 9 千 km ダム 頭首工 用排水機場等は 7 千カ所余り 1-1. 基幹的農業水利施設 貯水池: 1,237カ所 頭首工: 1,949カ所 水門等: 1,062カ所 管理施設: 219カ所 機場 : 2,801カ所 水路 : 48,509km 集水渠: 61km 点施設線施設 : 7,268カ所 48,570km 出展 : 農林水産省農村振興局 農業基盤情報基礎調査 より 基幹的農業水利施設とは 受益面積が 100 ha 以上 ( 東京ドーム 20 個分 ) のもの 調査結果は平成 20 年 3 月 31 日時点の推計値 注 ) 貯水池 : コンクリート フィル 複合ダム及び 堤体を有しないため池 但し ファームポンドは除く 頭首工 : 可動堰 固定堰 複合堰 粗朶などによる仮設的な堰及び自然取水口 点施設とは 貯水池 頭首工 水門等 管理施設 用排水機場をいい 線施設とは 水路 集水渠である 3
1-2. 農業水利施設の老朽化と戦略的な保全管理 2.8 倍 3.0 倍 食料 農業 農村政策審議会平成 23 年度第 2 回農業農村振興整備部会 ( 現行土地改良長期計画の説資料より ) 4
設機能深刻な機能低下再建設施ライフサイクルコスト1-3. 戦略的保全管理とは ( 施設の長寿命化 ) 施設の長寿命化を図るため 深刻な機能低下が発生する前に 機能診断に基づく適切な対策を施す予防保全対策を実施し ライフサイクルコストの低減を図る 施設の長寿命化 従来の対応 補修 補修 再建設 深刻な機能低下 評価期間 評価期間 従来の対応 予防保全的な対応 予防保全的な対応 コア採取による強度測定 ホ リマーセメントモルタルによる補修 5
2. 施設の長寿命化 2-1. 施設の長寿命化対策の流れ 1 機能診断 2 計画策定 3 実践活動 施設の変状を把握し 補修等の対策の要否を判断する 機能診断結果を踏まえて 活動計画を策定する 活動計画に基づき 補修等の対策を実施する どこか悪くなっているところはないか 変状 ( 不具合 ) の原因は何か すぐに補修する必要がある変状か どこから優先的に直すか いつ頃直すか どんな工法で行うか 予算はどのくらいか 水路目地の漏水防止 パイプライン付帯施設の補修 ため池安全施設の補修 6
2-2. 施設の機能と性能 水路に必要な機能と性能 本来的機能 機能 ( 役割 ) 性能の例 ( 数値 ) 構造機能 耐久性 強度 摩耗深 中性化深 力学的安定性 鉄筋腐食量 耐用年数 安定性 水理機能 通水性 通水量 粗度係数 通水断面 流量制御 水理的安定性 分水量の制御 分水制御機能 水利用機能 配水の弾力性 配水効率 用水到達時間 調整容量 維 保守管理性 持管理費 環境性能 ( 保全性 ) 社会的機能 安全性 信頼性 破損事故件数 補修履歴 耐震性 建設 経済性 費 維持管理費 景観 親水性 歴史的価値 自然環境 環境性 例 ) 自動車の機能と性能 機能 走る 運ぶ 性能 最高時速 280km/h 5 人乗り 7
3. 施設の機能診断 3-1. 開水路の機能診断 対象施設の劣化の度合いを可能な限り定量的に把握するとともに その劣化が起こっている要因を特定する 8
3-2. パイプラインの機能診断 パイプライン及び一体的なポンプ場 ファームポンド等の施設について 破損や劣化状況を把握する 機能診断のポイント 1 調整施設 ファームポンドに損傷が無いか アオコが発生していないか 目視で確認 2 パイプライン 埋設区間では 地表に水がしみ出していないか 目視で確認 9
3-3. ため池の機能診断 ため池の堤体 遮水シート コンクリート構造物等の施設の破損 劣化状況を目視で点検する 点検時期は ため池の管理 運用スケジュールに合わせて 水位が低下する時期等に実施する 機能診断のポイント 10
4. 水路の目地補修 4-1. 目地補修工法水路の目地の劣化やコンクリート表面の摩耗 ひび割れ はく離等の老朽化の状況に応じて対策工法を検討する 目地材の劣化 脱落などにより漏水等を生じている目地 目地被覆工法 目地充填工法 目地成型ゴム挿入工法 塗装方式 シート ( テープ ) 貼付方式 シート固定方式 11
4-2. 目地補修の材料選定フロー ( 参考 ) 補修方法選定時の考慮事項 使用できる材料 道具 投入できる費用 補修に要する日数 YES 目地のひび割れ ドライ施工 NO YES 目地幅変動有無 NO NO 水中施工 YES YES 目地幅 2.0cm 以上 NO NO 漏水 湧水の有無 YES 有機系材料 ( テープ補修 ) 有機系材料 ( 変成シリコン ) 無機系材料 ( 特殊セメント ) 無機系材料 ( 止水モルタル ) 無機系材料 ( 水中パテ ) 12
4-3. 現地補修フロー ( 清掃 ) 13
4-4. 現地補修フロー ( ガラス繊維入りモルタル ) 14
4-5. 現地補修フロー ( シーリング ) 15
4-6. 現地補修フロー ( 接着テープ ) 16
4-7. 目地補修材料の特徴と価格 使用資材特徴価格例 シーリング材 ( 変成シリコーン ) ガラス繊維入りモルタル 普通モルタル 長期の耐久寿命をもつ シーリング材変成シリコーンは 塗 3 本で2~3 装可 目地施工する紫外線に強く 乾燥後場合はホコリも付きにくいため 仕上げ面として使用する ガラス繊維は強度を高めるとともに主にひび割れを防止する プライマーは旧コンクリートへの含浸効果で吸着効果を高め 弾性効果をも高める 水を加えるだけで安定した品質のモルタルを作ることができる 5kg 使用して 2~3 目地施工する場合 5kg 使用して 2~3 目地施工する場合 2,290 円 (1 箇所当たり 760~1150 円 ) 2,037 円 (1 箇所当たり 700~1000 円 ) 375 円 (1 箇所当たり 125~190 円 ) 17
5. 自主施工と外部発注 自主施工による実施が困難な例 厳密な測量を伴う工事測量 施工の精度が 施設の機能に影響を与える場合 ( 水路勾配が緩く 厳密な水路高さの管理が必要な場合等 ) 専門的な技術が要求される工事特殊な品質管理が必要となる場合 ( 表面被覆材の付着強度試験 ) 施工量が多い工事工事期間内に完了させるために専門技術者による効率的な施工が必要な場合 危険を伴う工事や施設管理者の許可が必要な工事交通量の多い道路に隣接した箇所での施工鉄道に隣接した箇所での施工掘削断面確保のために土留め工などの仮設が必要な施工 等 18
6. 補修後の維持管理 自主施工の実施 記録する内容 変状及びその要因 対策の方法 施工記録 ( 実施日 施工前 後の写真 使用材料写真等 ) 施工管理責任者名 補修工法の検討 簡易な補修工法の耐久性 信頼性の検証 追跡調査 点検は毎年 1 回程度 耐久性 信頼性の検証 データ記録 蓄積 19
7. 作業時の安全対策 (1) 共同活動における安全管理の徹底 必要な保険手続が済んでいるか確認 当日の作業内容 手順を参加者に周知 事故が発生した場合の連絡体制の整備 (2) 作業を行う際の配慮事項 計画的な作業の実施 作業に適した作業帽 服装や保護具の着用 機械 器具等の点検 周辺者及び周辺環境等への配慮 傷害共済等各種の任意保険への加入 重機や電気工具等を使用する場合は危険が多く注意が必要 危険作業は専門知識のある人や資格を持っている人が担当し それ以外の人は 機械周辺に近づかないことが重要 作業現場周辺の状況を事前に調査し 危険作業等を含め作業分担についてはよく話し合いをしてから作業内容をよく把握したうえで作業にあたることが大事 活動組織が実施する共同活動中に死亡事故が発生しています 活動員の作業時における事故の防止及び第三者の安全確保に努められるよう 安全管理の徹底をお願いします 20
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水土保全相談センター 22
ご清聴ありがとうございました 東海農政局水土保全相談センター TEL 052-232-1067 Email:suidohozen@tokai.maff.go.jp http://www.maff.go.jp/tokai/seibi/kensetu/tochikai/suidohozen/ 東海農政局土地改良技術事務所 TEL 052-232-1057 http://www.maff.go.jp/tokai/seibi/kensetu/tochikai/ 23