強化プラスチック裏込め材の 耐荷実験 実験報告書 平成 26 年 6 月 5 日 ( 株 ) アスモ建築事務所石橋一彦建築構造研究室千葉工業大学名誉教授石橋一彦

Similar documents
第 14 章柱同寸筋かいの接合方法と壁倍率に関する検討 510

(Microsoft Word - \221\346\202R\225\322\221\346\202Q\217\315.docx)

接合部性能試験報告書

接合部性能試験報告書

1. 一般事項 1) 接合金物 名称 : フラットプレートスリム合板仕様 用途 : 在来軸組工法建築物における軸組材相互の接合 補強 2) 試験依頼者 名称 : 株式会社タナカ 所在地 : 茨城県土浦市大畑 連絡先 : TEL ) 試験の目的

<4D F736F F D2082B982F192668E8E8CB195F18D908F D88C9A8B5A8CA4816A>

を 0.1% から 0.5% 1.0% 1.5% 2.0% まで増大する正負交番繰り返し それぞれ 3 回の加力サイクルとした 加力図および加力サイクルは図に示すとおりである その荷重 - 変位曲線結果を図 4a から 4c に示す R6-1,2,3 は歪度が 1.0% までは安定した履歴を示した

水平打ち継ぎを行った RC 梁の実験 近畿大学建築学部建築学科鉄筋コンクリート第 2 研究室 福田幹夫 1. はじめに鉄筋コンクリート ( 以下 RC) 造建物のコンクリート打設施工においては 打ち継ぎを行うことが避けられない 特に 地下階の施工においては 山留め のために 腹起し や 切ばり があ

<4D F736F F D208D5C91A297CD8A7793FC96E591E6328FCD2E646F63>

PowerPoint プレゼンテーション

PowerPoint プレゼンテーション

<4D F736F F D2082B982F192668E8E8CB195F18D908F F E836D838D B816A>

<4D F736F F D2082B982F192668E8E8CB195F18D908F A836C A>

Microsoft PowerPoint - H24 aragane.pptx

コンクリート実験演習 レポート

Microsoft PowerPoint - zairiki_3

<4D F736F F D D891A291CF97CD95C78B7982D182BB82CC947B97A682CC8E8E8CB D89BF8BC696B195FB96408F91>

Microsoft PowerPoint - ‚æ2‘Í.ppt

第 5 章大型有開口パネル実大構面水平加力実験 83

コンクリート工学年次論文集 Vol.25

木造の耐力壁及びその倊率 試験業務方法書

国土技術政策総合研究所資料

構造力学Ⅰ第12回

PowerPoint Presentation

Microsoft Word - 4_構造特性係数の設定方法に関する検討.doc

材料強度試験 ( 曲げ試験 ) [1] 概要 実験 実習 Ⅰ の引張り試験に引続き, 曲げ試験による機械特性評価法を実施する. 材料力学で学ぶ梁 の曲げおよびたわみの基礎式の理解, 材料への理解を深めることが目的である. [2] 材料の変形抵抗変形抵抗は, 外力が付与された時の変形に対する各材料固有

Microsoft Word - A doc

PowerPoint プレゼンテーション

<4D F736F F D C082CC8BC882B08B7982D182B982F192668E8E8CB12E646F63>

施工と管理2014年12月.indd

コンクリート工学年次論文集 Vol.30


. 実験方法 ヒノキ板を断面形状を高さ 8mm および 16mm の 種類としいずれも幅 mm として用意した 試験片長さを 1mm mm 3mm mm mm に切断し 写真 1, のように万能試験機で垂直になるように設置後 圧縮荷重をかけ最大圧縮荷重値を最大座屈荷重値としてデータを収集した 折れ曲


本日話す内容

Microsoft PowerPoint - 知財報告会H20kobayakawa.ppt [互換モード]

コンクリート工学年次論文集 Vol.30

-

スライド 1

Microsoft PowerPoint - suta.ppt [互換モード]

Microsoft PowerPoint - シミュレーション工学-2010-第1回.ppt

第1章 単 位

Microsoft PowerPoint - fuseitei_6

1. 空港における融雪 除雪対策の必要性 除雪作業状況 H12 除雪出動日数除雪出動回数 H13 H14 H15 H16 例 : 新千歳空港の除雪出動状況 2. 検討の方針 冬季の道路交通安全確保方策 ロードヒーティング 2

道路橋の耐震設計における鉄筋コンクリート橋脚の水平力 - 水平変位関係の計算例 (H24 版対応 ) ( 社 ) 日本道路協会 橋梁委員会 耐震設計小委員会 平成 24 年 5 月

<4D F736F F D208D5C91A297CD8A7793FC96E591E631318FCD2E646F63>

Microsoft PowerPoint 発表資料(PC) ppt [互換モード]

軸受内部すきまと予圧 δeff =δo (δf +δt ) (8.1) δeff: 運転すきま mm δo: 軸受内部すきま mm δf : しめしろによる内部すきまの減少量 mm δt: 内輪と外輪の温度差による内部すきまの減少量 mm (1) しめしろによる内部すきまの減少量しめしろを与えて軸受

静的載荷実験に基づく杭頭部の損傷度評価法の検討 柏尚稔 1) 坂下雅信 2) 向井智久 3) 平出務 4) 1) 正会員国土交通省国土技術政策総合研究所 主任研究員博士 ( 工学 ) 2) 正会員国立研究開発法人建築研究所 主任研

コンクリート工学年次論文集 Vol.24

4. 粘土の圧密 4.1 圧密試験 沈下量 問 1 以下の問いに答えよ 1) 図中の括弧内に入る適切な語句を答えよ 2) C v( 圧密係数 ) を 圧密試験の結果から求める方法には 圧密度 U=90% の時間 t 90 から求める ( 5 ) 法と 一次圧密理論曲線を描いて作成される ( 6 )

コンクリート工学年次論文集Vol.35

コンクリート工学年次論文集 Vol.29

Microsoft Word - KSスラブ 論文.doc

強化 LVL 接合板および接合ピンを用いた木質構造フレームの開発 奈良県森林技術センター中田欣作 1. はじめに集成材を用いた木質構造で一般的に用いられている金物の代わりに スギ材単板を積層熱圧した強化 LVL を接合部材として用いる接合方法を開発した この接合方法では 集成材と接合板である強化 L

目次 1. 適用範囲 1 2. 引用規格 1 3. 種類 1 4. 性能 2 5. 構造 2 6. 形状 寸法 3 7. 材料 3 8. 特性 4 9. 試験方法 検査 6 ( 最終ページ :11)

Microsoft PowerPoint - elast.ppt [互換モード]

コンクリート工学年次論文集 Vol.33

<4D F736F F D208D7E959A82A882E682D18F498BC78BC882B B BE98C60816A2E646F63>

コンクリート工学年次論文集 Vol.29

第 2 章 構造解析 8

Super Build/FA1出力サンプル

Microsoft Word - 講演会原稿

<4D F736F F D208D5C91A297CD8A7793FC96E591E631308FCD2E646F63>

破壊の予測

Microsoft PowerPoint - zairiki_11

材料の力学解答集

ブロック断面図 嵌合部水平方向あそび ブロック下凹部 ブロック上凸部 試験中ブロック ボルト鉄筋の挙動 あそびの合計幅

PowerPoint Presentation

コンクリート工学年次論文集 Vol.29

今月のイチオシ

<4D F736F F D F B982F192668E8E8CB15F95F18D908F91>

<4D F736F F D E682568FCD CC82B982F192668BAD93785F F2E646F63>

耳桁の剛性の考慮分配係数の計算条件は 主桁本数 n 格子剛度 zです 通常の並列鋼桁橋では 主桁はすべて同じ断面を使います しかし 分配の効率を上げる場合 耳桁 ( 幅員端側の桁 ) の断面を大きくすることがあります 最近の桁橋では 上下線を別橋梁とすることがあり また 防音壁などの敷設が片側に有る

Microsoft Word - 1B2011.doc

コンクリート工学年次論文集 Vol.33

スライド タイトルなし

Microsoft PowerPoint - 課題S6スラブ協力幅_修正

1

全学ゼミ 構造デザイン入門 構造解析ソフトの紹介 解析ソフト 1

接合部性能試験報告書

問題 2-1 ボルト締結体の設計 (1-1) 摩擦係数の推定図 1-1 に示すボルト締結体にて, 六角穴付きボルト (M12) の締付けトルクとボルト軸力を測定した ボルトを含め材質はすべて SUS304 かそれをベースとしたオーステナイト系ステンレス鋼である 測定時, ナットと下締結体は固着させた

建設技術審査証明報告書(案)

接合部性能試験報告書

< B795FB8C6094C28F6F97CD97E12E786477>

Bentley Architecture Copyright(C)2005 ITAILAB All rights reserved

<8D5C91A28C768E5A8F91836C C768E5A8F A2E786C73>

建築支保工一部1a計算書

DURACON POM グレードシリーズ ポリアセタール (POM) TR-20 CF2001/CD3501 ミネラル強化 ポリプラスチックス株式会社

コンクリート工学年次論文集 Vol.29

OpenCAE勉強会 公開用_pptx

【PC】

コンクリート工学年次論文集 Vol.29

実験 :T R 図 1 鋼材引張試験片 ( 単位 :mm,t-1 は摩擦接合部試験の中板に同じ ) 実験 :F 試験部分 R 添板 C-1 中板 A

奈良県森技セ研報 No.41 (2012) 37 スギ異樹種集成材を用いた門型ラーメン架構の水平加力試験 *1 中田欣作 奥田一博 国産スギ材とカラマツおよびベイマツ材を組合せた異樹種集成材を作製し 一般住宅でのラーメン構造としての利用の可能性を検討するために これらの集成材を用いた門型ラーメン架構

第 章金物試験による仕様の検討

資料 2 輪荷重走行試験の既往データ 1. 概要 道路橋 RC 床版の損傷メカニズムの解明には, 輪荷重走行試験機を活用した研究が大きく寄与してきた. 輪荷重走行試験機は, 任意の荷重を作用させながら往復運動するもので国内に十数機が設置され, 精力的な研究が行なわれてきた. 輪荷重走行試験機はその構

コンクリート工学年次論文集 Vol.31

FEM原理講座 (サンプルテキスト)

<874B91E631308FCD976995C78D5C91A2907D8F572E707562>

Transcription:

強化プラスチック裏込め材の 耐荷実験 実験報告書 平成 26 年 6 月 5 日 ( 株 ) アスモ建築事務所石橋一彦建築構造研究室千葉工業大学名誉教授石橋一彦

1. 実験目的 大和建工株式会社の依頼を受け 地下建設土留め工事の矢板と腹起こしの間に施工する 強 化プラスチック製の裏込め材 の耐荷試験を行って 設計荷重を保証できることを証明する 2. 試験体 試験体の実測に基づく形状を次に示す 実験に供する試験体は3 体であり No.1 No.2 No.3とする それぞれ裏込め楔と裏込め材の二つが1セットとなっている 下図の裏込め楔の下面を裏込め材の上面に接触させて用いる 設計荷重は kn である 2φ 36 75 36 75 25 59 265 71 395 裏込め楔概略寸法 34 37 51.5 14.5 8 11.4 46 8 19.5 裏込め材概略寸法

3. 加力方法 加力は千葉工業大学の建築構造実験室にある tf 試験機で行う 下図のように 1セットの試験体を試験機の下部耐圧版に載せ その上に 5 の鉄板を載せて加力する この鉄板の上部と試験機テーブルとの相対変位をダイヤルゲージで測定しながら加力する 加力ルールは設計荷重の1/2(kN) を最初に加力して一旦除荷し 続けて設計荷重 (kn) まで加力して除荷し この時の変形を読み取っておき 次はその2 倍になるまで加力して除荷する 最後はその変形の3 倍を目指して加力するが 破壊したことが明らかになったところで実験を終了する tf 試験機 クロスヘッド 左ダイヤルゲージ 球座 右ダイヤルゲージ 上部耐圧板 5 鉄板裏込め楔裏込め受け材下部耐圧板 tf 試験機 テーブル 実験方法詳細

4. 荷重と変形の関係と実験経過 荷重と変形の関係を次ページ以降に示す 荷重は試験機の荷重 tfをkn に変換したものであり 変形は左右対称に配置したダイヤルゲージの読み ( mm ) を平均したものである すべての試験体で 左右の変形は最後までそれほど差はなく併進した No.1 No.2 No.3 で共通して言えることは 各サイクルの荷重をかけ始める時と 荷重を除荷してにするときに 裏込め材と裏込め楔との接触部に起きたと思われる ガタ が変形の滑りとなって現れた この滑りは~5kN および5kN~の荷重で起きている 実際施工で楔を軽く ( 荷重にして人が乗る程度に ) 打ち込んだ時には5kN 未満の応力が発生することを示している kn およびkN の繰り返し荷重では 載荷時の 5kN 以上の荷重では線形性の強い荷重変形関係が得られている 設計荷重のkN を載荷したときの変形 (3.5~4 mm ) の約 2 倍になるまで加力する過程で kn までに剛性の低下が大きくなり材料の塑性化が進行した この荷重サイクルの最大荷重は設計荷重の 1.5 倍のkN 前後となった 設計荷重時変形の 3 倍を目指して加力すると 7 kn 前後で破壊音を聞いた No.1 および No.2 においては 75kN 付近で変形が進んでも荷重が上がらないため 3 倍の変形近くで除荷して実験を終了した 最大変形は11 mm前後であった No.3 では途中までは他の試験体と同様の荷重変形曲線が得られ 最終加力段階で変形が11mm以上に進み 荷重が上がらなくなったが さらに加力を続けると荷重が若干上がってkN 以上に達した このとき 裏込め楔の折損がはっきり確認されたので除荷して実験を終了した 最大変形は 13 mm以上となった 実験終了後の全試験体の状態を写真に示す 各試験体で 裏込め楔の断面が大きい方の 裏込め材との接触区間端部に折損の状況がみられる No.3ではそれが顕著である また各試験体の裏込め楔の 裏込め材との接触区間に圧縮力によりつぶれて変形した跡がみられる 測定した変形の大部分はこの部分の変形による

荷重変形関係 (No.1) 1 2 3 4 5 6 7 8 9 1 11 12 13 14 15 変形mm 荷重変形関係 (No.2) 1 2 3 4 5 6 7 8 9 1 11 12 13 14 15 変形 mm

荷重変形関係 (No.3) 1 2 3 4 5 6 7 8 9 1 11 12 13 14 15 変形 mm 圧壊 圧壊 圧壊 折損 折損 折損 実験終了後の写真 ( 右から No.1 No.2 No.3 No.4( 予備 ))

5. 実験結果のまとめ 荷重変形曲線を重ねてみると 各試験体の比較ができる 載荷時の荷重変形関係は 設計荷重までは線形性があり 剛性は No.2 No.3 No.1 の順で高い 塑性化が進行した設計荷重を超える荷重での剛性も 同一変形における大小の順は 変形が 1 mm程度になるまで変わらない 5kN 以上の荷重変形曲線の内 徐荷の履歴を削除し さらに新しい荷重履歴だけを残した荷重変形曲線のアウトラインを次に示す このアウトラインを折れ線に近似して 各試験体の比較を行う 第一折れ線は 5kN の測定点からアウトラインの剛性が急に低下する直前までの各測定点の近似直線とする 第一折れ線のx 軸切片を初期すべりと定義する 第一折れ線の勾配を弾性剛性と定義する 第二折れ線はアウトラインの剛性が急に低下した測定点から最大変形点までの各測定点の近似直線とする 第一折れ線の近似直線と第二折れ線の交点を折れ曲がり点と呼ぶ 第二折れ線の勾配を塑性域勾配と呼ぶ 上記の荷重変形曲線のアウトラインから得た 各試験体の力学的性質を表に示す 各試験体の力学的性質を総合して述べると 次のことが結論的に言える 初期すべりは1mm弱で この点に原点を移動すれば 126kN/ mmから 146kN/ mmの弾性剛性を有することが分かる 弾性剛性線から塑性化して第二折れ線に折れ曲がる点は 設計荷重の kn を超えて 56 kn までの間であり 変形としては約 4.5 mmの点である 塑性域の勾配はおよそ 4kN/ mmである 破壊モードは裏込めの楔の折損で決まり その時の耐力は kn 弱である その時の変形は 1 mm強である

No.1 No.2 No.3 荷重変形関係 1 2 3 4 5 6 7 8 9 1 11 12 13 14 15 変形mm 荷重変形関係 ( アウトライン ) No.1 No.2 No.3 No.1 直線近似 No.2 直線近似 No.3 直線近似 1 2 3 4 5 6 7 8 9 1 11 12 13 14 15 変形 mm

荷重変形曲線のアウトラインから得た力学的性質 初期すべり弾性剛性折れ曲がり点塑性域勾配最大変形 荷重試験体 x K1 δ 1 P1 K2 δ max Pmax 番号 mm kn/mm mm kn kn/mm mm kn No.1.755 145.8 4.61 561.5 35.9 1.67 779.2 No.2.84 125.9 4.34 441.1 48.7 11.51 79.2 No.3.923 144.2 4.64 536.4 34.1 13.37 833.9 平均.839 138.6 4.53 513. 39.6 11.85 81.1 凡例 荷重変形関係 ( アウトライン ) No.1 直線近似, 4.61, 561.5 No.1 直線近似, 1.67, 779.2 No.1 No.1 直線近似 No.1 直線近似,.755, 1 2 3 4 5 6 7 8 9 1 11 12 13 変形mm