PowerPoint プレゼンテーション

Similar documents
杉戸町高齢者実態調査

フレイルのみかた

資料編

高齢者におけるサルコペニアの実態について みやぐち医院 宮口信吾 我が国では 高齢化社会が進行し 脳血管疾患 悪性腫瘍の増加ばかりでなく 骨 筋肉を中心とした運動器疾患と加齢との関係が注目されている 要介護になる疾患の原因として 第 1 位は脳卒中 第 2 位は認知症 第 3 位が老衰 第 4 位に

心房細動1章[ ].indd

学位論文の内容の要旨 論文提出者氏名 庄司仁孝 論文審査担当者 主査深山治久副査倉林亨, 鈴木哲也 論文題目 The prognosis of dysphagia patients over 100 years old ( 論文内容の要旨 ) < 要旨 > 日本人の平均寿命は世界で最も高い水準であり

博士論文 考え続ける義務感と反復思考の役割に注目した 診断横断的なメタ認知モデルの構築 ( 要約 ) 平成 30 年 3 月 広島大学大学院総合科学研究科 向井秀文

11 平成 21 年度介護予防事業実施状況について 平成 22 年 7 月 大阪市健康福祉局健康づくり担当

Microsoft PowerPoint ⑤静岡発表 [互換モード]

Microsoft Word 栄マネ加算.doc

老人保健研究報告書(介護保険〜).indd

論文内容の要旨

通常の市中肺炎の原因菌である肺炎球菌やインフルエンザ菌に加えて 誤嚥を考慮して口腔内連鎖球菌 嫌気性菌や腸管内のグラム陰性桿菌を考慮する必要があります また 緑膿菌や MRSA などの耐性菌も高齢者肺炎の患者ではしばしば検出されるため これらの菌をカバーするために広域の抗菌薬による治療が選択されるこ

地域包括支援センターにおける運営形態による労働職場ストレス度等の調査 2015年6月

<8CF68F4F897190B68E478E8F82548AAA82518D E656339>

自動車感性評価学 1. 二項検定 内容 2 3. 質的データの解析方法 1 ( 名義尺度 ) 2.χ 2 検定 タイプ 1. 二項検定 官能検査における分類データの解析法 識別できるかを調べる 嗜好に差があるかを調べる 2 点比較法 2 点識別法 2 点嗜好法 3 点比較法 3 点識別法 3 点嗜好

このような現状を踏まえると これからの介護予防は 機能回復訓練などの高齢者本人へのアプローチだけではなく 生活環境の調整や 地域の中に生きがい 役割を持って生活できるような居場所と出番づくりなど 高齢者本人を取り巻く環境へのアプローチも含めた バランスのとれたアプローチが重要である このような効果的

高齢化率が上昇する中 認定看護師は患者への直接的な看護だけでなく看護職への指導 看護体制づくりなどのさまざまな場面におけるキーパーソンとして 今後もさらなる活躍が期待されます 高齢者の生活を支える主な分野と所属状況は 以下の通りです 脳卒中リハビリテーション看護認定看護師 脳卒中発症直後から 患者の

Medical3

厚生労働科学研究費補助金(循環器疾患等生活習慣病対策総合研究事業)

Ⅰ はじめに

協会けんぽ加入者における ICT を用いた特定保健指導による体重減少に及ぼす効果に関する研究広島支部保健グループ山田啓介保健グループ大和昌代企画総務グループ今井信孝 会津宏幸広島大学大学院医歯薬保健学研究院疫学 疾病制御学教授田中純子 概要 背景 目的 全国健康保険協会広島支部 ( 以下 広島支部

<4D F736F F F696E74202D AAE90AC94C5817A835F C581698FE39E8A90E690B6816A2E >

様式 3 論文内容の要旨 氏名 ( 神﨑光子 ) 論文題名 周産期における家族機能が母親の抑うつ 育児自己効力感 育児関連のストレス反応に及ぼす影響 論文内容の要旨 緒言 女性にとって周産期は 妊娠 分娩 産褥各期の身体的変化だけでなく 心理的 社会的にも変化が著しいため うつ病を中心とした気分障害

課題名

[ 原著論文 ] メタボリックシンドローム該当者の年齢別要因比較 5 年間の健康診断結果より A cross primary factors comparative study of metabolic syndrome among the age. from health checkup resu

利用者基本情報 基本情報 作成担当者 : 相談日年月日 ( ) 来 所 電話 その他 ( ) 初回 再来 ( 前 / ) 本人の現況在宅 入院又は入所中 ( ) フリガナ 本人氏名 男 女 M T S 年月日生 ( ) 歳 Tel ( ) 住 所 Fax ( ) 日常生活 障害高齢者の日常生活自立度

スライド 1

機能分類や左室駆出率, 脳性ナトリウム利尿ペプチド (Brain Natriuretic peptide, BNP) などの心不全重症度とは独立した死亡や入院の予測因子であることが多くの研究で示されているものの, このような関連が示されなかったものもある. これらは, 抑うつと心不全重症度との密接な

1 基本健康診査基本健康診査は 青年期 壮年期から受診者自身が自分の健康に関心を持ち 健康づくりに取り組むきっかけとなることを目的に実施しています 心臓病や脳卒中等の生活習慣病を予防するために糖尿病 高血圧 高脂血症 高尿酸血症 内臓脂肪症候群などの基礎疾患の早期発見 生活習慣改善指導 受診指導を実

4 月 17 日 4 医療制度 2( 医療計画 ) GIO: 医療計画 地域連携 へき地医療について理解する SBO: 1. 医療計画について説明できる 2. 医療圏と基準病床数について説明できる 3. 在宅医療と地域連携について説明できる 4. 救急医療体制について説明できる 5. へき地医療につ

Microsoft Word - 02-頭紙.doc

Microsoft PowerPoint - R-stat-intro_12.ppt [互換モード]

Microsoft PowerPoint - sc7.ppt [互換モード]

スライド 1

2017 年 3 月臨時増刊号 [No.165] 平成 28 年のトピックス 1 新たに報告された HIV 感染者 AIDS 患者を合わせた数は 464 件で 前年から 29 件増加した HIV 感染者は前年から 3 件 AIDS 患者は前年から 26 件増加した ( 図 -1) 2 HIV 感染者

PowerPoint プレゼンテーション

ータについては Table 3 に示した 両製剤とも投与後血漿中ロスバスタチン濃度が上昇し 試験製剤で 4.7±.7 時間 標準製剤で 4.6±1. 時間に Tmaxに達した また Cmaxは試験製剤で 6.3±3.13 標準製剤で 6.8±2.49 であった AUCt は試験製剤で 62.24±2

旗影会H29年度研究報告概要集.indb

Microsoft Word - 2_調査結果概要(訂正後)

jphc_outcome_d_014.indd

( 様式乙 8) 学位論文内容の要旨 論文提出者氏名 論文審査担当者 主査 教授 米田博 藤原眞也 副査副査 教授教授 黒岩敏彦千原精志郎 副査 教授 佐浦隆一 主論文題名 Anhedonia in Japanese patients with Parkinson s disease ( 日本人パー

1. 多変量解析の基本的な概念 1. 多変量解析の基本的な概念 1.1 多変量解析の目的 人間のデータは多変量データが多いので多変量解析が有用 特性概括評価特性概括評価 症 例 主 治 医 の 主 観 症 例 主 治 医 の 主 観 単変量解析 客観的規準のある要約多変量解析 要約値 客観的規準のな

Microsoft Word 施策の推進方策(Ⅰ-1-2健康寿命の延伸_

Microsoft Word - manuscript_kiire_summary.docx

10 年相対生存率 全患者 相対生存率 (%) (Period 法 ) Key Point 1

, 地域包括支援センターの組織と人材 2. 1 福祉専門職の歴史と特性

医療事故防止対策に関するワーキング・グループにおいて、下記の点につき協議検討する

Q1.65 歳での健康寿命に 65 を足せば 0 歳での健康寿命になりますか A1. なりません 別途 健康寿命の算定プログラム 等を用いて 0 歳での健康寿命を算定する必要があります 例えば 健康寿命の算定方法の指針 の図 4-3 の男の算定結果を見ると 健康な期間の平均が 65 歳時点では 17

表 1 高齢者虐待の判断件数 相談通報件数 ( 平成 26 年度対比 ) 養介護施設従事者等 ( 1) によるもの虐待判断件数相談 通報件数 ( 3) ( 4) 養護者 ( 2) によるもの虐待判断件数相談 通報件数 ( 3) ( 4) 27 年度 408 件 1,640 件 15,976 件 26

サービス担当者会議で検討し 介護支援専門員が判断 決定するものとする 通所系サービス 栄養改善加算について問 31 対象となる 栄養ケア ステーション の範囲はどのようなものか 公益社団法人日本栄養士会又は都道府県栄養士会が設置 運営する 栄養士会栄養ケア ステーション に限るものとする 通所介護

平成17年度社会福祉法人多花楽会事業計画(案)

7 対 1 10 対 1 入院基本料の対応について 2(ⅲ) 7 対 1 10 対 1 入院基本料の課題 将来の入院医療ニーズは 人口構造の変化に伴う疾病構成の変化等により より高い医療資源の投入が必要となる医療ニーズは横ばいから減少 中程度の医療資源の投入が必要となる医療ニーズは増加から横ばいにな

学位論文の内容の要旨 論文提出者氏名 大庭祥子 論文審査担当者 主査深山治久副査下山和弘 古屋純一 論文題目 Screening tests for predicting the prognosis of oral intake in elderly patients with acute pneu

4 身体活動量カロリズム内に記憶されているデータを表計算ソフトに入力し, 身体活動量の分析を行った 身体活動量の測定結果から, 連続した 7 日間の平均, 学校に通っている平日平均, 学校が休みである土日平均について, 総エネルギー消費量, 活動エネルギー量, 歩数, エクササイズ量から分析を行った

過去の習慣が現在の習慣に与える影響 インターネットの利用習慣の持ち越し 松岡大暉 ( 東北大学教育学部 ) 1 問題関心本研究の目的は, インターネットの利用の習慣について, 過去のインターネットの利用習慣が現在のインターネットの利用の習慣に影響を与えるかを検証することである. まず, 本研究の中心

平成18年度厚生労働科学研究費補助金(労働安全衛生総合研究事業)

地域包括ケア病棟 緩和ケア病棟 これから迎える超高齢社会において需要が高まる 高齢者救急に重点を置き 地域包括ケア病棟と 緩和ケア病棟を開設いたしました! 社会福祉法人 恩賜財団済生会福岡県済生会八幡総合病院

かけはし_049.indd

表紙.indd

まちの新しい介護保険について 1. 制度のしくみについて 東温市 ( 保険者 ) 制度を運営し 介護サービスを整備します 要介護認定を行います 保険料を徴収し 保険証を交付します 東温市地域包括支援センター ( 東温市社会福祉協議会内 ) ~ 高齢者への総合的な支援 ( 包括的支援事業 )~ 介護予

<4D F736F F D208B8F91EE E838A E398C8E82DC82C >

居宅介護支援事業者向け説明会

Microsoft Word _nakata_prev_med.doc

青焼 1章[15-52].indd

EBNと疫学

1 保健事業実施計画策定の背景 北海道の後期高齢者医療は 被保険者数が増加し 医療費についても増大している 全国的にも少子高齢化の進展 社会保障費の増大が見込まれる このような現状から 一層 被保険者の健康増進に資する保健事業の実施が重要となっており 国においても 保健事業実施計画 ( データヘルス

Microsoft Word - cjs63B9_ docx

平成13-15年度厚生労働科学研究費補助金

0_____目次.indd

講義「○○○○」

西和賀町 高齢者実態調査結果報告書 平成 29 年 3 月 岩手県西和賀町

表 5-1 機器 設備 説明変数のカテゴリースコア, 偏相関係数, 判別的中率 属性 カテゴリー カテゴリースコア レンジ 偏相関係数 性別 女性 男性 ~20 歳台 歳台 年齢 40 歳台

基礎統計

計画改訂の趣旨 社会構造が大きく変化し 少子高齢化が進む中 生活環境の改善や医療の進歩などにより 平均寿命が延びている一方で 肥満や糖尿病などの生活習慣病が増加しており 健康づくりや疾病予防の重要性はますます高まっています 子どもから高齢者まで すべての県民が 健やかな生活をおくるために ヘルスプロ

「手術看護を知り術前・術後の看護につなげる」

講演

現況解析2 [081027].indd

2. 栄養管理計画のすすめ方 給食施設における栄養管理計画は, 提供する食事を中心とした計画と, 対象者を中心とした計画があります 計画を進める際は, それぞれの施設の種類や目的に応じて,PDCA サイクルに基づき行うことが重要です 1. 食事を提供する対象者の特性の把握 ( 個人のアセスメントと栄

Microsoft Word - 西原町日常生活ニーズ調査報告書

(別紙様式1)

図. 各要因による 9.4 年間での日英 ( イングランド ) の生存期間の差 ~ 日英高齢者の生存期間の比較研究から ~ 注 ) 調査開始時点の日英の年齢や健康状態の差を調整した上でも 9.4 年間の間に日本人が女性で319 日 男性で132 日 英国人よりも長生きをしていました グラフの数字は

Chapter 1 Epidemiological Terminology

分析のステップ Step 1: Y( 目的変数 ) に対する値の順序を確認 Step 2: モデルのあてはめ を実行 適切なモデルの指定 Step 3: オプションを指定し オッズ比とその信頼区間を表示 以下 このステップに沿って JMP の操作をご説明します Step 1: Y( 目的変数 ) の

Medical3

リハビリテーションマネジメント加算 計画の進捗状況を定期的に評価し 必要に応じ見直しを実施 ( 初回評価は約 2 週間以内 その後は約 3 月毎に実施 ) 介護支援専門員を通じ その他サービス事業者に 利用者の日常生活の留意点や介護の工夫等の情報を伝達 利用者の興味 関心 身体の状況 家屋の状況 家

シプロフロキサシン錠 100mg TCK の生物学的同等性試験 バイオアベイラビリティの比較 辰巳化学株式会社 はじめにシプロフロキサシン塩酸塩は グラム陽性菌 ( ブドウ球菌 レンサ球菌など ) や緑膿菌を含むグラム陰性菌 ( 大腸菌 肺炎球菌など ) に強い抗菌力を示すように広い抗菌スペクトルを

する 研究実施施設の環境 ( プライバシーの保護状態 ) について記載する < 実施方法 > どのような手順で研究を実施するのかを具体的に記載する アンケート等を用いる場合は 事前にそれらに要する時間を測定し 調査による患者への負担の度合いがわかるように記載する 調査手順で担当が複数名いる場合には

宗像市国保医療課 御中

<4D F736F F D DC58F4994C581458A C5817A AA94F68E EE8CEC944692E88ED28EC091D492B28DB895F18D908F918A C52E646F63>

介護予防のための生活機能評価 に関するマニュアル 目次 [ 概要 ] 2 [ 本文 ] 1 はじめに 介護予防にかかわるこれまでの経過と取り組み 介護予防の重要性 12 2 生活機能評価 の目的および位置付け 生活機能評価 の目的 生活機能評価

27 年度調査結果 ( 入院部門 ) 表 1 入院されている診療科についてお教えください 度数パーセント有効パーセント累積パーセント 有効 内科 循環器内科 神経内科 緩和ケア内科

Microsoft Word - p docx

確定拠出年金(DC)における継続投資教育の効果

平成20年度厚生労働科学研究費補助金(循環器疾患等生活習慣病対策総合研究事業)

障害厚生年金 厚生年金に加入している間に初診日 ( 障害のもととなった病気やけがで初めて医者にかかった日 ) がある病気やけがによって 65 歳になるまでの間に 厚生年金保険法で定める障害の状態になったときに 受給要件を満たしていれば支給される年金です なお 障害厚生年金に該当する状態よりも軽い障害

平成 28 年度老人保健事業推進費等補助金 老人保健健康増進等事業 介護保険施設における歯科医師 歯科衛生士の関与による 適切な口腔衛生管理体制のあり方に関する調査研究事業 一般社団法人日本老年歯科医学会 平成 29(2017) 年 3 月

当し 図 6. のように 2 分類 ( 疾患の有無 ) のデータを直線の代わりにシグモイド曲線 (S 字状曲線 ) で回帰する手法である ちなみに 直線で回帰する手法はコクラン アーミテージの傾向検定 疾患の確率 x : リスクファクター 図 6. ロジスティック曲線と回帰直線 疾患が発

時間がかかる.DOSS は妥当性が検証されておらず, 更に評価に嚥下造影検査が必要である. FOSS や NOMS は信頼性と妥当性が評価されていない.FOIS は 7 段階からなる観察による評価尺度で, 患者に負担が無く信頼性や妥当性も検証されている. 日本では Food Intake LEVEL

3. 安全性本治験において治験薬が投与された 48 例中 1 例 (14 件 ) に有害事象が認められた いずれの有害事象も治験薬との関連性は あり と判定されたが いずれも軽度 で処置の必要はなく 追跡検査で回復を確認した また 死亡 その他の重篤な有害事象が認められなか ったことから 安全性に問

Transcription:

65 歳以上の介護保険未申請者の 自覚的な嚥下機能と虚弱との関連 - 性差の観点から - 長崎嚥下リハビリテーション研究会山部一実 岩井冨美子佐世保市吉井地域包括支援センター西田隆宏長崎大学医歯薬学総合研究科地域リハビリテーション分野中尾理恵子 西原三佳 本田純久

背景 日本では 肺炎による死亡 は 65 歳以上から死因の第 4 位にランクインする重大な疾患である 特に高齢者の嚥下障害は 誤嚥性肺炎の引き金となりやすい 軽度の嚥下機能低下 すなわち不顕性誤嚥も軽視できない 高齢者の肺炎の死亡率には男女差があり 男性は 65 歳から死亡率が高まるのに対して 女性では 70 歳以上から死亡率が高まる また それ以降の年齢でも総じて男性の肺炎の死亡率が女性よりも高い ( 例 :75-79 歳では男性 9.2% 女性 6.7%)

社会的背景 介護予防の観点から 2006 年から早期発見 早期治療のために基本チェックリストにおける嚥下機能を含む口腔機能低下のスクリーニングが行われている 高齢者の誤嚥性肺炎という命に直結する嚥下の問題に対して 介入が少ない現状がある 介護予防は 運動機能向上 および 認知機能向上 の介入がほとんどであり 嚥下機能向上を含む口腔機能向上プログラムはほとんど行われていない

意義 臨床での嚥下機能を評価した研究はあるが 地域在住の高齢者を対象とした調査はほとんどない 肺炎の死亡率に年齢層ごとに性差があることから 性差を考慮した早期発見 早期介入が重要となる

目的 自覚的な嚥下機能低下に性差があるかどうか調査する ( 仮説 : 男性のほうが女性より嚥下機能が低下している ) 嚥下機能が 老年期症候群 ( 基本チェックリストのその他の領域 ) と関連があるかどうかを男女別に検証する

方法 長崎県佐世保市の吉井地域包括支援センター圏域 ( 吉井町 世知原町 江迎町 鹿町町 ) において行われた ( 高齢化率 33.2%) 65 歳以上の介護保険の認定を受けていない高齢者 4819 人に佐世保市が基本チェックリストを配布した 配布は H24 年 ~H26 年の 3 年間であった H27 年までに回収できた 3639 人 ( 回収率 75.5%) のうち 欠損値のあった 164 人を除外した 3475 人を対象とした

質問紙 ( 基本チェックリスト ) 基本チェックリストは 2006 年に厚生労働省が開発した前虚弱高齢者 (Pre-frail older adults) のスクリーニングツールである 25 項目の はい いいえ の 2 択の自記式の質問紙で 口腔 栄養 運動 認知 うつ 生活 閉じこもり の 7 領域からなる 本調査では 口腔 3 質問および 栄養 2 質問項目は それぞれ独立した領域とした

倫理的配慮 基本チェックリストの書面によりインフォームドコンセントを行い同意を得た 基本チェックリストのデータ使用については 佐世保市の許可を受けた 長崎大学医学部の倫理審査委員会にて承認を得る予定

統計解析 年齢を 60 歳代 70 歳代 80 歳以上に層化し男女ごとに嚥下機能低下の割合の変化をコクラン アーミテージ検定にて検証 年齢層ごとに嚥下機能低下の割合を男女で比較 ( カイ二乗検定を用いる ) 基本属性 ( 年齢 BMI>18.5 の有無 ) に性差があるかどうかを t 検定およびカイ二乗検定を行った 嚥下機能を含む基本チェックリストの各領域に性差があるかどうかをカイ二乗検定を用いて検証 嚥下機能の低下を目的変数として 各チェックリストの領域との関連を粗オッズ比 OR (95% 信頼区間 ) を用いてリスク推定

結果 1 男女ごとの年齢層ごとの嚥下機能低下の割合の比較 2 男女の基本属性比較 2 男女の基本チェックリストの比較 3 男女ごとの嚥下機能低下とその他の領域の該当割合のリスクの推定

18% 16% 1 男女の年齢層ごとの主観的嚥下機能低下 P<0.001 の割合の比較 P=0.029 15.8% NS 16.5% 14% 12% 11.2% 11.5% 11.8% 10% 8% 7.3% 6% 4% 2% 0% 65-69 歳 70-79 歳 80 歳以上 男女線形 ( 男 ) 線形 ( 女 ) カイ二乗検定 コクランアーミテージ乗検定

男女の年齢層ごとの主観的嚥下機能低下の割合の比較 年齢層ごとの嚥下機能低下の割合の男女の比較 (N=3475) 年齢層男性女性 p 65-69 歳 26 (7.3%) 61 (15.8) <0.001** 70-79 歳 81 (11.2%) 105 (11.5%) 0.863 80 歳以上 56 (11.8%) 102 (16.5%) 0.029* カイ二乗検定 *p<0.05 **p<0.01

表.1 男性における年齢層ごとの嚥下機能低下の割合の比較 (N=1555) 年齢層人数嚥下機能の低下あり (n,%) p 65-69 n=358 26 (7.3) 0.042* 70-79 n=723 81 (11.2) 80>= n=474 56 (11.8) コクラン アーミテージ検定 *p<0.05 女性における年齢層ごとの嚥下機能低下の割合の比較 (N=1920) 年齢層 人数 嚥下機能の低下あり (n,%) p 65-69 n=387 61 (15.8) 0.419 70-79 n=915 105 (11.5) 80> n=618 102 (16.5) コクラン アーミテージ検定

1 年齢層ごとの嚥下機能低下の男女の比較 60 歳代と 80 歳以上は 女性のほうが嚥下機能の低下を自覚している割合が多い 70 歳代は性差はない 男性の場合は 年齢層ごとに嚥下機能が低下する傾向が統計的に認められた 女性の場合は 年齢層ごとに嚥下機能が低下する傾向は統計的に有意ではなかった

2 基本属性の男女の比較 基本属性の男女の比較基本属性 合計 (n, %) 男性 (n=1555) 女性 (n=1920) p 平均年齢 (SD) 75.8 (6.8) 75.7 (6.9) 75.9 (6.8) 0.343 65-69 歳 745 (21.4) 358 (23.0) 387 (20.2) 0.118 79-79 歳 1638 (47.1) 723 (46.5) 915 (47.7) 0.846 80 歳 1092 (31.4) 474 (30.5) 618 (32.2) 0.195 BMI (kg/m2), 平均 (SD) 22.7 (3.1) 22.8 (3.0) 22.5 (3.2) 0.001** BMI (kg/m2)<18.5 266 (7.7) 103 (6.6) 163 (8.5) 0.040* 年齢 平均 BMIの比較はt 検定 BMI<18.5の割合の比較はカイ二乗検定 *p<0.05 **p<0.01

2 基本属性の男女の比較 各年齢層に男女の有意差はない BMI の平均は男性 (22.8)> 女性 (22.5) BMI<18.5( やせ ) の割合は有意に女性が多い

2 基本チェックリスト項目の男女の比較 基本チェックリスト項目の男女の比較 基本チェックリスト項目合計 (n, %) 男性 (n=1555) 女性 (n=1920) p 口腔機能 咀嚼機能の低下 ( あり ) 577 (16.6) 270 (17.4) 307 (16.0) 0.279 嚥下機能の低下 ( あり ) 431 (12.4) 163 (10.5) 268 (14.0) 0.002** 唾液分泌能の低下 ( あり ) 427 (12.3) 169 (10.9) 258 (13.4) 0.022* 低栄養状態 ( 該当 ) 37 (1.06) 17 (1.09) 20 (1.04) 0.013* 身体機能の低下 ( 該当 ) 419 (12.1) 138 (8.9) 281 (14.6) <0.001** 閉じこもり状態 ( 該当 ) 231 (6.6) 84 (5.4) 147 (7.7) 0.0008** 認知機能の低下 ( 該当 ) 958 (27.6) 470 (30.2) 488 (25.4) 0.002** うつの状態 ( 該当 ) 563 (16.2) 237 (15.2) 356 (17.0) 0.167 生活機能の低下 ( 該当 ) 128 (3.7) 59 (3.8) 69 (3.6) 0.755 カイ二乗検定 *p<0.05 **p<0.01

2 基本チェックリスト項目の男女の比較 女性が男性より該当割合が多い項目 口腔機能 ( 嚥下 唾液分泌能の低下 ) 身体機能低下 閉じこもり 男性が女性より該当割合が多い項目 低栄養状態 ( 急激な体重減少 +BMI<18.5) 認知機能

3 男女別の主観的な嚥下機能の低下による基本チェックリスト各項目のオッズ比 12 男性 女性 10 9.83 8 6 6.2 6.04 6.3 4 2 2.78 2.55 3.6 3.12 ns 1.09 2.79 2.3 1.65 2.88 2.03 4.13 2.38 0 咀嚼能力低下唾液分泌能低下低栄養状態身体機能低下閉じこもり状態認知機能低下うつ状態生活機能低下

3 男女別の主観的な嚥下機能の低下による基本チェックリスト各項目のオッズ比と 95% 信頼区間 男女別の嚥下機能低下に対する各項目の該当割合の粗オッズ比 ( 点推定 ) とその区間推定 項目非該当 / 該当 OR 95% CI OR 95% CI 口腔機能 咀嚼能力低下 2.78 1.95-3.98 ** 2.55 1.89-3.44 ** 唾液分泌能低下 3.6 2.43-5.34 ** 3.12 2.29-4.24 ** 低栄養状態 6.2 2.33-16.52 ** 1.09 0.32-3.74 身体機能の低下 6.04 4.05-9.00 ** 2.79 2.06-3.78 ** 閉じこもり状態 2.3 1.32-4.03 ** 1.65 1.08-2.53 * 認知機能の低下 2.03 1.46-2.83 ** 2.88 2.21-3.76 ** うつ状態 4.13 2.90-5.89 ** 2.38 1.77-3.20 ** 総合的な生活機能低下 9.83 5.72-16.9 ** 6.3 3.86-10.31 ** 粗オッズ比と 95% 信頼区間カイ二乗検定 *p<0.05 **p<0.01 男性 (n=1555) 女性 (n=1920)

3 口腔 栄養機能に関して 口腔機能 男女ともに 嚥下機能の低下は 咀嚼機能の低下 唾液分泌能の低下 のリスクを有している 栄養状態 男性のみ 嚥下機能の低下は 低栄養状態 ( 急激な体重減少 +BMI<18.5) のリスクを有している

3 基本チェックリストのその他の領域に関して 男女ともに 嚥下機能の低下は以下は 身体機能低下 閉じこもり状態 認知機能低下 うつ状態 生活機能低下 のリスクを有している 男性のほうが全般的に各領域のリスクが高い傾向がある

考察 ( 冒頭まとめ ) 嚥下の衰えの自覚は 女性のほうが男性より多い ( 仮説は支持されなかった ) 対象者の特性は 男性のほうが身体の機能が高い割には低栄養の割合はやや高かった 男性は年齢と共に嚥下機能が低下する傾向にあるが 女性は統計的に有意な単調減少は認められず 自覚的な嚥下機能の低下は 女性については低栄養状態のリスクとはなっていないが 男性の場合は 6.2 倍ものリスクを有している 自覚的な嚥下機能の低下は 男女ともに 口腔機能 ( 咀嚼 唾液 ) 身体機能 閉じこもり 認知機能 うつ 生活機能の低下のリスクを有しているが 男性のほうがよりリスクが高い傾向にある

考察 ( 性差の理由 ) 比較的元気な地域在住の高齢者 (65 歳以上の介護保険未申請者 ) は 男性のほうが 女性と比して 早期の嚥下の衰えを自覚しにくい ( 過小評価 ) 可能性がある または女性のほうが嚥下に対して敏感 ( 過大評価 ) になりすぎている可能性がある ( 特に 60 歳代 ) 性差が起こる理由は 女性は男性よりも総合的に心身の機能が低いので 心理的なむせを起こしやすいのかもしれない

考察 ( 嚥下機能の低下とその他の領域との関連 ) 嚥下機能の低下は 男女ともに他の口腔機能 ( 咀嚼 唾液 ) 身体機能 認知機能 うつ状態 さらには生活機能の有意なリスクファクターとなっていることが示された このことは 先行研究と一致しており 介護予防には 嚥下機能の早期介入の必要性を示している 男性のほうが女性よりも嚥下機能低下による各領域のリスクが高い傾向にあるため 特に男性への効果的な嚥下リハビリテーションが望まれる

男性に関して 男性のほうが女性よりも やや低栄養状態の傾向にあるが 身体機能は男性のほうが高い 嚥下機能の低下は 直接的には 低栄養状態を招くと考えられる さらに 低栄養状態の項目には BMI が含まれているため 比較的客観的な指標といえる 自覚的な嚥下機能の低下は 女性については低栄養状態のリスクとはなっていないが 男性の場合は 6.2 倍ものリスクを有している 男性は女性よりも身体機能が高い割には 嚥下機能が落ちた場合に すぐに低栄養を起こしやすく そのために肺炎の死亡率が女性よりも高い傾向にあるのかもしれない

限界 横断研究であるために 因果関係の説明力が弱い 基本チェックリストが自記式であるために主観的評価であること 自己申告バイアスの可能性がある 嚥下機能に影響を及ぼす因子 ( 脳卒中後遺症 その他神経疾患 薬剤の有無 ) が不明 限られた地域 ( 農村部 ) であるために一般化するには無理がある 今後は 客観的なスクリーニング ( 例えば 100mmLWST RSST) 検査の導入を図り 嚥下に影響を及ぼす因子を調整して検証していく必要がある

研究の強み サンプルサイズが大きいこと ( 統計的な検出力が大きい ) 介護保険の申請をしている高齢者 入院や施設入所している高齢者とは異なる予防戦略に関して重要な意味をもつ すなわち 比較的元気な地域在住の高齢者を対象とした点において 本研究の知見は地域における嚥下リハビリテーションの予防戦略に有用な情報を含む

結論 男性のほうが女性より嚥下の衰えを感じている人は少なかった 男性は 年齢層ごとに嚥下機能が低下するのに対して 女性は年齢層ごとに有意な低下は認めれなかった 男性のみ 自覚的な嚥下機能の低下が客観性のある低栄養状態の高いリスクを有していた 男女ともに嚥下機能の低下は心身の状態の悪化と強く関連していることが確認されたが 男性のほうがよりリスクが高い傾向がある 今後は 客観性のある検査を用いて早期発見 ( スクリーニング ) していく必要があり 性差を考慮した嚥下リハビリテーションが望まれる