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Transcription:

蝸牛症状を主体としたメニエール病症例 白戸耳鼻咽喉科めまいクリニック 白戸勝 Some Cases of Meniere's Diseases without Vertigo Masaru Shirato Shirato ENT Clinic (Hakodate) はじめに メニエール病は耳鳴 難聴などの蝸牛症状を随伴した回転性めまい発作を繰り返す疾患として特徴づけられている しかし その亜型としてめまいを伴わないメニエール病 ( 蝸牛型メニエール病 ) の存在も知られている 今回 めまいは散発的 軽度ながら聴力変動が主体であったメニエール病を呈示し メニエール病の本態について考察したので報告する 症例呈示 1. 症例 1 症例 1:25 歳女性初診 : 平成 7 年 3 月 3 日主訴 : 左難聴現病歴 : 平成 7 年 1 月末頃より何となく聞こえが悪く またフワーッとした感じのめまい感があった 左耳鳴 ( ゴーッ ) も続いて いた 2 月 27 日に回転性めまい出現 自覚的に聞こえは変わらず 既往歴 : 特記すべきものはない 経過 : 初診時 左側に低音障害型の感音性難聴を認めた ( 図 1 左 ) また フレンツエル眼鏡下に右向き自発眼振をみとめた イソソルビド 9ml/ 日 他の内服治療にてめまいは軽快 聴力も除々に回復した 途中 軽いめまいが一度あったが すぐに - 1 - 初診時 (H7.3.3) 最大悪化時と回復時図 1 症例 1のオージオグラム

消失 9 ケ月後には聴力は完全に正常に復 し 治療を打ち切った 図 2 に聴力の経過 をおよそ 2 週おきに示した 図中 低音部 3 点とは 125Hz,25Hz,5Hz の 3 分法に よる平均聴力レベルである 同様に中音部 3 点は 5Hz,1Hz 2Hz の 3 分法に よる平均聴力レベル 高音部 3 点は 2Hz 4Hz 8Hz の平均聴力レベ ルである ( 以後の症例についても同様 ) 平成 1 年 3 月 2 日 左耳鳴 左難聴に て再診した 今回はめまいの自覚はなかっ 図 2 症例 1 の聴力経過 た 再診時の聴力はやはり低音障害型の感音性難聴であった ( 図 1 右 ) フレンツエル眼 鏡下 ENG 記録下 いずれにおいても自発眼振 頭位眼振などは認められなかった 1 2 3 4 5 6 7 8 9 1 初診 H7.3.3 再診 H1.3.2 め軽い めまいまい発作 2 6 11 15 19 23 28 32 36 1 4 8 12 17 21 26 3 週 イソソルビド 9ml/ 日から内服開始 途中 一時聴力の悪化を認めたが徐々に回復 現 在ほぼ正常に復し なお経過観察中である [ 要約 ] 最初の経過はメニエール病確実例の典型的な経過である 再診後の経過は蝸牛型 メニエール病ともいうべき経過である 2. 症例 2 症例 2:32 歳女性 初診 : 平成 9 年 9 月 2 日 主訴 : 右聴覚過敏 現病歴 : 平成 9 年 7 月初旬より時々 自 分が回る感じのめまいが出現していたが 寝込むほどではなかった 8 月 12 日頃より 他人の声 自分の声が右耳に異常に響いて 聞こえるようになった 徐々に増強してい る感じがあり当科初診した 既往歴 : 特記すべきものはない 経過 : 初診時 低音障害型の感音性難 聴を認めた ( 図 3 左 ) また ENG 記録下 に左向き自発眼振を認めた した めまいは途中一度だけ軽いふらふら 感を訴えたのみである 聴力は最初のうち は 多少の変動はあるもののあまり変化が なかったが 28 週過ぎから回復傾向を示 し 34 週には一旦正常に復した しかし その後 めまいの出現なしに再び悪化した 以後は徐々に回復し 現在は正常近くにも どっている 治療はイソソルビド内服 9~ 6ml/ 日を聴力変動に応じて投与し 聴力 - 2-1 2 3 4 5 6 7 8 9 1 いめまい図 4 症例 2の聴力経過軽初診時 (H9.9.2) 初診 H9.9.2 図 3 症例 2 のオージオグラム ふら4にほぼ2 週毎の聴力レベルの経過を示ふら感図 最大悪化時と回復時 4 8 12 16 21 25 28 32 36 4 44 48 52 57 週

が落ち着いた 54 週から内服を中止して経過観察中である 聴力の最大悪化時と回復時の差は低音部で約 5 であった ( 図 3 右 ) [ 要約 ] めまいは軽度であったにもかかわらず 聴力がなかなか回復せず また 急激な悪化 回復を示した例である 3. 症例 3 症例 3:49 歳女性初診 : 平成 7 年 1 月 9 日主訴 : 左耳鳴現病歴 : 平成 7 年 9 月中旬より左耳鳴 ( ブ ーン ) が出現 また 今朝クラッとする軽いめまいがあった 既往歴 :6~7 年前の健康診断で左難聴を指摘されたことがある また 年に何回か左耳鳴を自覚することはあったが 気にとめずにいた 経過 : 初診時聴力は水平型 やや低音障害が強い感音性難聴であった ( 図 5 左 ) ENG 記録下 右向き自発眼振を認めた 聴力レベルの経過を図 6, 図 7に示した 初診時 (H7.1.9) 最大悪化時と回復時図 5 症例 3 のオージオグラム 1 2 3 4 5 6 7 8 9 1 いめまい図 6 症例 3の聴力経過軽初診 H7.1.9 3 5 8 11 14 17 2 23 26 29 33 39 45 51週 1 2 3 4 5 6 軽作7 8 9 1 めまい発いめまい2 年目 3 年目 ふらふら感軽いめまめまい発作いめまいは初診時に訴えたが 以後しばらくはなかった しかし 最初の頃の聴力変動は激 53 63 73 82 92 12 112 123 133 143 153週 図 7 症例 3 の聴力経過 ( つづき ) しく 本人の自覚でも日内でも時間帯によって聞こえが良くなったり悪くなったりするということであった 治療は最初ハイドロコーチゾン 3mg/ 日からの漸減療法を点滴静注で2 週間ほど行ったが あまり効果的ではなかった 以後 イソソルビド 9ml/ 日の内服を開始し 適宜増減した 聴力の最大悪化時は約 4 週頃で この時は軽いめまいを訴えた その後 聴力は比較的落ち着いていたが 7~1 週にかけて再び聴力が悪化 この時はめまいも何回か出現していた時期であった 以後は次第に落ち着いているが聴力は若干低下したまま経過している 全経過 3 年以上にもわたっている 最大悪化時と回復時の聴力変動は低音部で約 5 であった [ 要約 ] 最初の頃は聴力変動のみが激しい症例で 途中 めまいを訴えた時期もあったが - 3 -

そのめまいも軽度であった 4. 症例 4 症例 4:43 歳男性 初診 : 平成 9 年 2 月 25 日 主訴 : 左耳鳴 現病歴 :2 週間前から耳に水が入ったよ うな ボワーッとした感じの左耳鳴が出現 してきた こちらから問いただすと 軽い フワーッとするめまいがあるという 既往歴 :2 年前に同様の左耳鳴と回転性 めまいが出現し 1 週間ほどで良くなった 経過 : 初診時 左側の低音障害型感音 性難聴を認めた ( 図 8 左 ) ENG 記録下 右向き自発眼振を認めた 聴力レベルの経過を図 9 に示した 26 週 まで軽いめまいを 3 回ほど訴えたが 聴力 変動と一致するものではなかった それ以 後はめまいは訴えず 聴力変動のみを繰り 返し 全体としては悪化の傾向にある 最 も聴力が悪かった 83 週に点滴静注でハイ ドロコーチゾン 6mg/ 日からの漸減療法 を 2 週間行ったが効果はみられなかった 悪化時と回復時の変動幅は低音部で約 5 であった 1 2 3 4 5 6 7 8 9 1 らふら感図 9 症例 4の聴力経過ふ初診時 (H9.2.25) 初診 H9.2.25 [ 要約 ] 聴力のコントロールに苦慮している症例である 図 8 症例 4 のオージオグラム 軽いめまいふらふら感最大悪化時と回復時 6 12 18 24 31 39 45 51 59 65 71 77 83週 考 案 メニエール病は蝸牛症状 ( 耳鳴 難聴など ) を伴う回転性めまい発作を反復する内耳性めまい疾患である 病理学的には内リンパ水腫が存在することが明らかにされているが しかし 内リンパ水腫発生の原因はいまだ明確ではない 日本平衡神経科学会の診断の手引きでは 病歴からの診断として 1) 発作性の回転性 ( 時に浮動性 ) めまいを反復する 2) めまい発作に伴って変動する蝸牛症状 ( 耳鳴 難聴 ) がある 3) 第 8 脳神経以外の神経症状がない 4) 原因を明らかにすることができない また 検査からの診断では 1) 聴力検査においてメニエール病に特徴的な内耳性難聴を認める 2) 平衡機能検査で内耳障害の所見を認める 3) 神経学的検査でめまいに関連する第 8 脳神経以外の障害を認めない 4) 耳鼻咽喉科学的検査 内科学的検査 臨床検査学的検査などで内耳障害の原因を認め - 4 -

ない となっている 一方 上記のメニエール病確実例の亜型として 蝸牛症状を伴わないめまい発作の反復に対して 前庭型メニエール病 めまいを伴わない変動する内耳性難聴に対して 蝸牛型メニエール病 (endolymphatic hydrops without vertigo) の診断名が用いられる これら二つのメニエール病の亜型については これが本来のメニエール病の範疇に属するものであるかどうかについて議論の多いところでもある しかし メニエール病の概念を原因不明の特発性内リンパ水腫と規定するならば この二つの亜型もメニエール病の一過程として容認されるべきものと考えられる メニエール病確実例のめまい発作として 回転性めまいが特徴のように挙げられているが その経過中には めまいは動揺性あるいは浮動性のこともある また 自覚的に蝸牛症状がなくてもめまい発作時に聴力検査を行うと内耳性難聴が検出されることもある 今回の症例のように前庭症状 ( めまい発作 ) と蝸牛症状が必ずしも随伴 消長しない例もみられる 蝸牛型メニエール病は文字通りめまいを伴わないメニエール病であるが 詳細に検査をすると自発あるいは誘発眼振が認められる例が少なからずある また逆に 前庭型メニエール病と考えられていた例に経過中 自覚がないにもかかわらず内耳性難聴が検出されることもある めまいの性状についても回転性めまいは必発ではない このように考えるとメニエール病はその自覚症状から診断するには無理がある あくまでも 特発性内リンパ水腫 として その概念に合うものであるかどうかを問題とすべきである メニエール病は発作性の回転性めまいに蝸牛症状を伴う典型的な例から 蝸牛症状のみあるいは前庭症状のみのものまで 幅広く分布する疾患であると考えられる まとめ 1) 蝸牛症状を主体としたメニエール病の4 症例を報告した 2) いずれもめまいは散発的 軽度で 聴力障害との関連は薄かった 3)3 例はイソソルビドの継続投与にて聴力は比較的コントロ-ルされているが 1 例は治療に難渋している 4) メニエール病はめまい発作と蝸牛症状の随伴が典型的なものから 蝸牛症状のみ あるいは前庭症状のみのものまで 幅広く分布する疾患と考えられる - 5 -