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( 図 1) 2. 16s rrnaシークエンスによる約 1,000 例の大腸腫瘍におけるFusobacterium 解析まず 511 例の大腸癌症例に対し 16S rrnaシークエンスを行った結果 286 例 (56%) が Fusobacterium 陽性 225 例 (44%) が陰性であった ( 文献 2) 陽性群におけるFusobacterium 相対発現値の中央値は 0.025 であり それをカットオフ値としてFusobacterium 陽性群を高発現群と低発現群に分け 統計学的解析に用いた さらに我々は465 例の大腸前癌病変に対しても16S rrnaシークエンスを行った その内訳は過形成性ポリープ (hyperplastic polyp, HP)129 例 sessile serrated adenoma (SSA) 120 例 traditional serrated adenoma (TSA)94 例 通常型腺腫 ( 非鋸歯状腺腫 )122 例である その結果 前癌病変においては約 30% でFusobacterium 発現が認められたが どの組織型においても大腸癌と比較するとFusobacterium 発現は有意に低いという結果であった またFusobacterium 高発現は前癌病変においてはほとんど認められなかった ( 図 2) さらに大腸癌症例におけるFusobacterium 高発現群から無作為に 10 症例を選択して 同一症例における大腸癌組織と癌周辺正常粘膜組織におけるFusobacterium 発現を比較したところ すべての症例において大腸癌組織の方が高い発現を認めた ( 図 3) さらに大腸腫瘍の無い健常人の正常大腸粘膜に対してもFusobacterium 発現を解析したところ 8 例のうち 6 例がFusobacterium 陰性 2 例が低発現であった 正常大腸粘膜におけるFusobacteriumの発現は 大腸癌症例の方が健常症例よりも高い傾向にあったものの 統計学的有意差はなかった 5

( 図 2) ( 図 3) 6

3. 大腸腫瘍におけるFusobacteriumの発現と臨床病理学的または分子学的因子との相関大腸癌症例をFusobacteriumの陰性群 低発現群 高発現群の 3 群に分けて臨床病理学的因子や遺伝子異常における差異を統計学的に解析した その結果 腫瘍径において高発現群で有意に大きな径であったことと 遺伝子異常においてはマイクロサテライト不安定性の大腸癌が高発現群において有意に多く認められた さらに大腸前癌病変においては 様々な遺伝子の高メチル化を示すCpG island methylator phenotype(cimp) 陽性の症例ではCIMP 陰性例と比較してFusobacterium 陽性が多く認められた (CIMP 陽性 :43% CIMP 陰性 :27% P = 0.0023) 大腸の部位別にみると SSAにおいては S 状結腸から盲腸 ( 近位結腸 ) に向かうにつれてFusobacterium 陽性の頻度が高くなるという結果が得られた 考察約 1,000 例の日本人の大腸腫瘍の組織検体を用いてFusobacterium 発現を解析した結果 大腸癌においては 56% がFusobacterium 陽性でその高発現とマイクロサテライト不安定性が有意に相関するなど 欧米での報告と矛盾しない結果が得られた さらに大腸前癌病変でのFusobacterium 発現は大腸癌より低頻度であったものの CIMP statusと相関することが明らかとなった 大腸における炎症が発癌の危険因子であることはよく知られているが そのメカニズムの一つとしてミスマッチ修復遺伝子などのメチル化を引き起こすことが言われている Fusobacteriumは炎症性腸疾患や急性虫垂炎など大腸における炎症に関わることが明らかとなり さらに最近では大腸癌でCIMP 陽性とFusobacteriumの高発現が正の相関を示すことも報告されている 今回の我々の研究においても 大腸前癌病変ではCIMP 陽性群で有意に Fusobacterium 陽性例が多く Fusobacterium 属が遺伝子のメチル化などエピジェネティックな変化に関与している可能性が考えられた 特にserrated pathwayと呼ばれるssaから癌化する過程においてエピジェネティックな異常が重要とされるが そのSSAが癌化するのに重要とされる遺伝子異常は近位結腸でより多く見られると報告されている 今回の研究においてSSAのFusobacterium 陽性率がS 状結腸から近位結腸に向かうにつれて高くなったことは serrated pathwayによる大腸発癌と Fusobacteriumの関連を示唆するものと考えられた 今後は大腸発癌早期におけるFusobacteriumの役割を明らかにするため さらなる症例集積と遺伝子異常の解析を進めるとともに 食習慣など生活様式に関わる因子との相関も検討を進める予定である 要約 1. 大腸腫瘍のFFPE 標本に対し 16S rrnaシークエンスを行うにあたり 適切なプロトコールを確立した 7

2. 日本人の大腸癌症例における Fusobacterium 発現は 56% に認められ これは欧米人での 報告とほぼ同程度であった また大腸前癌病変や大腸正常粘膜と比較すると大腸癌組織においてFusobacterium 発現は有意に高かった 3. 日本人の大腸癌症例において Fusobacterium 高発現は大きな腫瘍径 マイクロサテライト不安定性と有意に相関し これは欧米での報告と矛盾しない結果であった さらに大腸前癌病変を対象とした検討ではCIMP 陽性の症例でFusobacterium 陽性例が多く また SSAにおいてはS 状結腸から近位結腸に向かうにつれ その陽性例が多く認められた これらの研究結果より Fusobacterium は大腸発癌に関わっている可能性が示唆された 文献 1. Nosho K*, Igarashi H*, Nojima M, et al. Association of MicroRNA-31 with BRAF mutation, Colorectal- Cancer Survival and Serrated pathway. Carcinogenesis. 2014;35:776-83. *These authors contributed equally 2. Ito M, Mitsuhashi K, Igarashi H, et al. Association of Fusobacterium nucleatum with clinical and molecular features in colorectal serrated pathway. in submission 8