2017 春経済原論 ( ミクロ経済学 ) 2017 年 6 月 20 日 3 なぜ市場均衡が望ましいのか ( つづき ) 価格, 限界費用, 限界効用 B D 需要曲線 K F = 限界効用曲線 E C G A 供給曲線 = 限界費用曲線 O X 1 X * X 2 需要量, 供給量 ケース 1 X * ( 市場均衡 ) まで生産して消費する場合限界効用の合計 (= 総効用 )= OX * EB 限界費用の合計 (= 総費用 )= OX * EA 総余剰 = 総効用 総費用 = AEB ケース 2 X 1 まで生産して消費する場合限界効用の合計 (= 総効用 )= OX 1 KB 限界費用の合計 (= 総費用 )= OX 1 CA 総余剰 = 総効用 総費用 = ACKB = AEB CEK X 1 のところでは限界効用が限界費用より高いため,X 1 からさらに生産 消費することで総余 剰を増やすことができる.X 1 では総余剰は最大化されていない. 生産 消費が過小である. ケース 3 X 2 まで生産して消費する場合 (1) X * まで生産 消費することによる総余剰 = AEB (2) X * からX 1 まで生産 消費することによる総余剰限界効用の合計 (= 総効用 )= X * X 2 GE 限界費用の合計 (= 総費用 )= X * X 2 FE 総余剰 = 総効用 総費用 = EGF (1)+(2)=AEB EGF 1
X * から先は限界費用が限界効用を上回っているため, 生産 消費することで純粋に費用だけが発生していく ( つくる人の苦労を下回る喜びしか消費者に生み出せない ). せっかくX * までのところで増やしてきた余剰を, どんどん減らしていくことになる.X 2 では総余剰は最大化されない. 生産 消費が過大である. 結局, 市場均衡取引量より少なくても多くても, 総余剰は市場均衡に比べて小さくなってしまう. 市場均衡において総余剰 ( 社会に生み出される純粋な喜び ) が最大化される. 完全競争下で市場均衡が総余剰を最大化するということは, 一般に市場均衡とは異なる生産 消費量へ と誘導しようとする政府の介入は, 総余剰を最大化しないということになる. 4 政府による市場介入の評価 : 総余剰の観点から ( 教科書 Ⅲ 資源配分のゆがみ ) 政府による市場介入の典型的手段 間接税 ( 例 : ひとつ売る / 買うごとに 20 円の税金を政府に払う ) 補助金 ( 例 : ひとつ売る / 買うごとに 20 円の補助金を政府からもらう ) 価格規制 ( 上限規制 :100 円を超える価格で売買してはいけない下限規制 :100 円未満の価格で売買してはいけない ) 4.1 間接税 ( 売手への課税のケース ) は均衡取引量にどう影響するか 1 ひとつ売るごとに 20 円の税金を政府に払う = ひとつ追加で生産 供給する際に, 限界費用に加えて税金 100 円を負担しなければならない = 生産者にとっては限界費用が税金分増加するのと同じ. 限界費用曲線が税金分だけ上方にシフトする. 千葉さんの限界費用 1 杯目 2 杯目 3 杯目 4 杯目 5 杯目 6 杯目 7 杯目 限界費用 1 ( 生産要素のみ ) 10 円 20 円 30 円 40 円 50 円 60 円 70 円 税金 20 円 20 円 20 円 20 円 20 円 20 円 20 円 限界費用 2 ( 税金含む ) 30 円 40 円 50 円 60 円 70 円 80 円 90 円 1 ここでは売手に課税するケースを扱うが, 買手に課税するケースも結論は全く同じである. ただし, 買手に課税するケースでは需要曲線が税金分だけ下方にシフトする. したがって, 市場価格も低下することになる. しかし, 取引量への影響や, 総余剰への影響は, 売手に課税するケースと全く同じである. 詳しくは マンキュー経済学 1 ミクロ編 などを参照されたい. 2
120 100 80 税金 60 40 20 限界費用 0 1 2 3 4 5 6 7 8 間接税が課されると, 生産者から見れば各生産量における限界費用が上昇するため, 同じ市場価格の下で利潤を最大にする生産量は課税前より少なくなる. 供給が少なくなれば,( 需要は不変なので ) 超過需要が発生し, 市場価格が上昇する. 供給が少なくなり, 市場価格が上昇するため, 均衡取引量は完全競争市場均衡から減少する. 3
4.2 間接税の総余剰への影響 課税後の供給曲線 B K E 税額 課税前の供給曲線 H C A O X 1 X * 課税前の総余剰 = AEB 課税後の総余剰 = 総効用 - 総費用 + 政府の税収 = (OX 1 KB - OX 1 KH) + ACKH = HKB + ACKH = ACKB ポイント : 平行四辺形 ACKH の部分 ( 税金 ) は, 生産者にとっては費用負担になるが, 政府にとっては 収入となる. したがって, 社会全体としては費用負担になっていないので, 総余剰を考える際には 費 用 と考える必要はない. すなわち, 需要曲線と課税前の供給曲線の間の面積を考えればよい. 既述の通り, 課税によって供給が減少し, 市場価格が上昇するため, 生産 消費量は課税のない場合の市場均衡から減少する. したがって, 総余剰もその最大値から減少してしまう. このように, 政府による介入によって取引量が市場均衡を下回ることで, 三角形 CEK の部分の余剰が失われてしまう. これは, 政府が課税によって総余剰 AEB の一部を民間から政府に移そうとしたときに, 民間から政府に移すだけにとどまらず, 一部の余剰が消失してしまう ( 誰の手にも残らない ) ことを意味している. 市場への介入によって ( 総余剰の最大値から ) 消失してしまう部分の余剰のことを 死荷重損失 (dead-weight loss) という. 4
なぜ死荷重が発生するのか ある財の生産費用が 100 円, それを消費することで消費者の得る効用が 115 円であるとする. これを生産し, 消費することで, 社会には純粋に 15 円分の喜びが発生する ( 総余剰 ). 100 生産者の費用 消費者の効用 115 この場合,100 円と 115 円の間のどこかに価格が決まり, この財は生産され消費されることになる. 一方, ここで生産者に 20 円の税金が課されるとどうなるか? 100 生産者の費用 20 税金 消費者の効用 115 生産者の負担する費用は生産コスト 100 円に, 政府に支払う税金 20 円が加わる. したがって, 最低でも 120 円の価格がつかなければ供給できない. 他方, 消費者が得られる効用は 115 円であるから, 最高でも 115 円までしか払う準備はない. たとえ税金が課されても, この財を生産し消費すれば, 社会としては 15 円分の余剰が生ずる ( 税金は払う側にとっては費用だが, 政府にとっては収入となるので, 社会全体でみれば差し引きゼロとなり, 考える必要がない ). しかし, 生産者個人は税金分も自らの費用負担と認識するため, 消費者が支払える価格の範囲内では供給するインセンティヴを持たない. 結果として, この財は供給されないことになる. このように, 税金は社会的な費用と生産者個人の費用とを乖離させることで, 生産者に供給を思いとど まるインセンティヴを与えてしまう. 供給によって総余剰が増えるにもかかわらず, である. これが, 課税が社会に死荷重という犠牲を強いることになる原因である. 5
4.3 弾力性と課税による死荷重 課税による費用の増加は, 生産者から見れば価格の低下と同様の効果を持つ. したがって, 供給の価格弾力性が大きいほど, 課税による供給の減少は大きくなる. そして, 取引量の市場均衡からの減少幅が大きくなり, 死荷重も大きくなる. 取引量が大きく縮小するため, それほど大きな税収は得られない. 供給減少による価格上昇は, 需要の価格弾力性が大きいほど, 需要量を大きく減らす. そして, 取引量 の市場均衡からの減少幅は大きくなり, 死荷重も大きくなる. 取引量が大きく縮小するため, それほど大きな税収は得られない. まとめると, 供給および需要の価格弾力性が大きいほど, 課税による死荷重は大きくなり, 一方で期待 される税収は縮小する. したがって,1 円の税収を得るための死荷重は大きくなる. 反対に, 価格弾力性の小さい財 サービスでは, 課税による死荷重は小さく, 多くの税収が見込める. 税 税 応用問題 : 補助金の効果 (1) 政府が 1 単位の生産につき一定額の補助金を出す場合, 生産者の費用はどのように影響を受けるか. また, 供給曲線はどう変化するか. 結果として, 取引量はどのような影響を受けるか. (2) 補助金は死荷重を発生させるだろうか. 補助金による死荷重を図示してみよう. 補助金は, 税金と違って政府から民間に与えられるものである. したがって, マイナスの効果はない のではないかという印象を持ってしまいがちである. しかし, すでに見た通り, 総余剰を最大にする には取引量が多すぎてもダメなのである. 6