Vibrio属の検査法

Similar documents

緑膿菌 Pseudomonas aeruginosa グラム陰性桿菌 ブドウ糖非発酵 緑色色素産生 水まわりなど生活環境中に広く常在 腸内に常在する人も30%くらい ペニシリンやセファゾリンなどの第一世代セフェム 薬に自然耐性 テトラサイクリン系やマクロライド系抗生物質など の抗菌薬にも耐性を示す傾

Microsoft Word - 届出基準

白金耳ご購読者各位

(Microsoft Word - \202\205\202\2232-1HP.doc)

目次 I. コレラ菌の概説 II. コレラ菌検査に関する一般的注意 1. 検査材料の採取及び輸送 2. 検査の判定及び診断基準 III. 検査方法 1. 病原体分離 a. 分離培地 増菌培地及び性状確認培地 1 分離培地 2 増菌培地 3 性状確認培地 b. 検査材料及び検査方法 1 糞便の検査方法

!YAK Sample 教材! 問題 2 セレウス菌 27 セレウス菌は 短い潜伏期間で嘔吐を主徴とするタイプと より長い潜伏期間で下痢を主徴とするタイプの2 つの型があり それらの発症にはいずれも毒素が関与している (94 70) 黄色ブドウ球菌 28 Staphylococcus aureus

<4D F736F F D20824F B C838982CC8C9F8DB896402E646F63>

Microsoft Word kokuritu-eiken.doc

目について以下の結果を得た 各社の加熱製品の自主基準は 衛生規範 と同じ一般生菌数 /g 以下 大腸菌 黄色ブドウ球菌はともに陰性 未加熱製品等の一般生菌数は /g 以下であった また 大腸菌群は大手スーパーの加熱製品については陰性 刺身などの未加熱製品については

腸管出血性大腸菌の研修資料

ファクトシート 作成日 : 平成 23 年 11 月 24 日 エルシニア症 (Yersiniosis) 1 エルシニア症とは エルシニア症は Yersinia 属菌の中で一般的に食中毒菌として知られる Yersinia enterocolitica と仮性結核菌として知られる Yersinia p

Taro-O104.jtd

DNA/RNA調製法 実験ガイド

<4D F736F F F696E74202D208DD78BDB82CC95AA97A C977B814593AF92E85B93C782DD8EE682E890EA97705D>

Taro-SV02500b.jtd

2 食中毒ってなんですか? 飲食物を摂取することによって起きる 急性の胃腸障害を主症状とする健康障害のこと 大部分の食中毒事例は ある種の微生物により発生 ただし 原因 ( 病因物質 ) によっては 主症状が胃腸障害以外のものもある 昔は 食あたり とも呼ばれていた

埼玉県調査研究成績報告書 ( 家畜保健衛生業績発表集録 ) 第 55 報 ( 平成 25 年度 ) 11 牛呼吸器病由来 Mannheimia haemolytica 株の性状調査 および同定法に関する一考察 中央家畜保健衛生所 荒井理恵 Ⅰ はじめに Mannheimia haemolytica

豚丹毒 ( アジュバント加 ) 不活化ワクチン ( シード ) 平成 23 年 2 月 8 日 ( 告示第 358 号 ) 新規追加 1 定義シードロット規格に適合した豚丹毒菌の培養菌液を不活化し アルミニウムゲルアジュバントを添加したワクチンである 2 製法 2.1 製造用株 名称豚丹

はじめに

◎ 腸管出血性大腸菌 (EHEC/VTEC)による感染症の発生動向について

平成 24 年度外部精度管理調査結果 平成 24 年度の細菌試験 水質試験に関する試験検査精度管理調査を実施し その結果を平成 24 年 12 月 19 日に開催した試験検査精度管理委員会において協議した ( 平成 24 年度の委員名簿は表 1 のとおり ) 調査の結果を報告する 氏名所属 職名氏名

PowerPoint プレゼンテーション

Microsoft Word - SalmonellsST

別紙 1 新型インフルエンザ (1) 定義新型インフルエンザウイルスの感染による感染症である (2) 臨床的特徴咳 鼻汁又は咽頭痛等の気道の炎症に伴う症状に加えて 高熱 (38 以上 ) 熱感 全身倦怠感などがみられる また 消化器症状 ( 下痢 嘔吐 ) を伴うこともある なお 国際的連携のもとに

2017 年 8 月 9 日放送 結核診療における QFT-3G と T-SPOT 日本赤十字社長崎原爆諫早病院副院長福島喜代康はじめに 2015 年の本邦の新登録結核患者は 18,820 人で 前年より 1,335 人減少しました 新登録結核患者数も人口 10 万対 14.4 と減少傾向にあります

4. 加熱食肉製品 ( 乾燥食肉製品 非加熱食肉製品及び特定加熱食肉製品以外の食肉製品をいう 以下同じ ) のうち 容器包装に入れた後加熱殺菌したものは 次の規格に適合するものでなければならない a 大腸菌群陰性でなければならない b クロストリジウム属菌が 検体 1gにつき 1,000 以下でなけ

Microsoft Word - NIHSJ-03-ST F

Microsoft PowerPoint - 食中毒って何?

1,透析液汚染調査の狙い

スライド タイトルなし

Microsoft Word - 04H22研究報告岡久.doc

2012 年 11 月 21 日放送 変貌する侵襲性溶血性レンサ球菌感染症 北里大学北里生命科学研究所特任教授生方公子はじめに b 溶血性レンサ球菌は 咽頭 / 扁桃炎や膿痂疹などの局所感染症から 髄膜炎や劇症型感染症などの全身性感染症まで 幅広い感染症を引き起こす細菌です わが国では 急速な少子

耐性菌届出基準

(3) 食中毒 ( 感染症 ) の症状 セレウス菌食中毒は その臨床症状から嘔吐型と下痢型の二つに分けられます それぞれ の特徴は 表のとおりです 1), 2) 嘔吐型食中毒 下痢型食中毒 発症菌量 10 5 ~10 8 /g 10 5 ~10 8 /g 毒素産生場所 食品 小腸 潜伏期間 0.5~

鶏大腸菌症 ( 組換え型 F11 線毛抗原 ベロ細胞毒性抗原 )( 油性アジュバント加 ) 不活化ワクチン平成 20 年 6 月 6 日 ( 告示第 913 号 ) 新規追加 平成 25 年 9 月 26 日 ( 告示第 2480 号 ) 一部改正 1 定義組換え型 F11 線毛抗原産生大腸菌及びベ

Ⅰ 滋賀県感染症発生動向調査事業の概要

目 次 第 5 編 冷 凍 食 品 の 衛 生 基 準 及 び 試 験 方 法 Ⅰ. 冷 凍 食 品 の 衛 生 基 準 1. 水 産 冷 凍 食 品 の 基 準 農 産 冷 凍 食 品 の 基 準 調 理 冷 凍 食 品 及 びその 他 の 冷 凍 食 品 の 基 準

1 月号は以下の情報を掲載しています 1. 茨城県感染症発生動向調査事業に基づく試験検査 検出状況 1) 全数把握疾患 2) 病原体定点依頼検査その他の検査 3) 集団 ( 施設や学校等 ) 事例 月別検出件数 1) 三類 四類 五類 ( 全数把握 ) 2) 五類 ( 定点 ) その他の検査 3)

< F2D915395B68CB48D BD816A2E6A7464>

細菌学的検査 チフス総数 ,013 2, , ,119 23, , , ,

分離・同定検査

<4D F736F F D D8ACC8D6495CF8AB38ED282CC88E397C38AD698418AB490F58FC782C982A882A282C48D4C88E E B8

A 農場の自家育成牛と導入牛の HI 抗体価の と抗体陽性率について 11 年の血清で比較すると 自家育成牛は 13 倍と 25% で 導入牛は 453 倍と % であった ( 図 4) A 農場の個体別に症状と保有している HI 抗体価の と抗体陽性率を 11 年の血清で比較した および流産 加療

よる感染症は これまでは多くの有効な抗菌薬がありましたが ESBL 産生菌による場合はカルバペネム系薬でないと治療困難という状況になっています CLSI 標準法さて このような薬剤耐性菌を患者検体から検出するには 微生物検査という臨床検査が不可欠です 微生物検査は 患者検体から感染症の原因となる起炎

 

糖尿病診療における早期からの厳格な血糖コントロールの重要性

平成 30 年東京都食中毒発生状況 ( 速報値 ) 平成 30 年 8 月 31 日現在 8 月末までの都内の食中毒の発生状況が 東京都から公表されました 昨年と比較すると 件数では 30% 増 患者数では 46% 減となっています 最近 10 年間の平均と比較すると 患者数はほぼ同じですが発生件数

生物学に関する実験例 - 生化学 / 医療に関する実験例 ラジオアッセイ法によるホルモン測定 [ 目的 ] 本実習では, 放射免疫測定 (Radioimmunoassay,RIA) 法による血中インスリンとイムノラジオメトリックアッセイ ( 免疫放射定測定 Immunoradiometric ass

Clostridium difficile 毒素遺伝子検査を踏まえた検査アルゴリズム

Taro-kv20025.jtd

設問 3 FFP PC が必要になった場合 輸血できるものを優先する順番に並べてください 1A 型 2B 型 3O 型 4AB 型また 今回この症例患者は男性ですが 女性で AB 型 (-) だった場合 PC の輸血で注意する点はありますか? 患者は AB 型なので 4AB 型 >1A 型 =2B

Taro-SV16200.jtd

LAMP 法を用いた食中毒原因菌の簡便かつ迅速検出法の開発 根本二郎

<4D F736F F D C58A C18F A C A>

(Microsoft PowerPoint - \220H\222\206\223\ \214\335\212\267\203\202\201[\203h)

第 88 回日本感染症学会学術講演会第 62 回日本化学療法学会総会合同学会採択演題一覧 ( 一般演題ポスター ) 登録番号 発表形式 セッション名 日にち 時間 部屋名 NO. 発表順 一般演題 ( ポスター ) 尿路 骨盤 性器感染症 1 6 月 18 日 14:10-14:50 ア

年次別 主な病原体別の食中毒事件数の推移 * 腸管出血性大腸菌を含む

身に着けよう!微生物検査の基本スキル 用手法による同定法

生食用鮮魚介類等の加工時における殺菌料等の使用について 平成 25 年 3 月食品安全部 1. 経緯食品への添加物の使用については 食品衛生法第 11 条第 1 項に基づく 食品 添加物等の規格基準 ( 昭和 34 年厚生省告示第 370 号 以下 規格基準 という ) の第 2 添加物の部において

糖尿病診療における早期からの厳格な血糖コントロールの重要性

<4D F736F F F696E74202D20834A D836F834E835E815B C E52967B81698E9696B18BC78F4390B3816A2E70707

免疫学的検査 >> 5E. 感染症 ( 非ウイルス ) 関連検査 >> 5E106. 検体採取 患者の検査前準備 検体採取のタイミング 記号 添加物 ( キャップ色等 ) 採取材料 採取量 測定材料 F 凝固促進剤 + 血清分離剤 ( 青 細 ) 血液 3 ml 血清 H 凝固促進剤

資料2発酵乳

Microsoft Word  上原さとみ.doc

テイカ製薬株式会社 社内資料

No28023

2014 年 10 月 30 日放送 第 30 回日本臨床皮膚科医会② My favorite signs 9 ざらざらの皮膚 全身性溶血連鎖球菌感染症の皮膚症状 たじり皮膚科医院 院長 田尻 明彦 はじめに 全身性溶血連鎖球菌感染症は A 群β溶連菌が口蓋扁桃や皮膚に感染することにより 全 身にい

Taro-kv12250.jtd

< F2D FAC909B2E6A7464>

2012 年 1 月 25 日放送 歯性感染症における経口抗菌薬療法 東海大学外科学系口腔外科教授金子明寛 今回は歯性感染症における経口抗菌薬療法と題し歯性感染症からの分離菌および薬 剤感受性を元に歯性感染症の第一選択薬についてお話し致します 抗菌化学療法のポイント歯性感染症原因菌は嫌気性菌および好

1 2

<4D F736F F F696E74202D20834F E815B8E9197BF2E B8CDD8AB B83685D>

( 別添 ) ヒラメからの Kudoa septempunctata 検査法 ( 暫定 ) 1. 検体採取方法食後数時間程度で一過性の嘔吐や下痢を呈し, 軽症で終わる有症事例で, 既知の病因物質が不検出, あるいは検出した病因物質と症状が合致せず, 原因不明として処理された事例のヒラメを対象とする

感染予防対策に向けたヒト及び環境等における感染症起因菌の調査 ( 平成 27 年度 ) 2 岡山県内のレジオネラの疫学調査と小児科受診患者等のエルシニア抗体保有調査について 中嶋洋, 檀上博子, 河合央博, 大畠律子 ( 細菌科 )

平成 26 年度微生物リスク管理基礎調査事業 ( 分離菌株の性状解析 ) 委託事業仕様書 1 事業の趣旨 ( 目的 ) 本事業は 食品媒介有害微生物を原因とする食中毒のリスク管理措置を検討するため 家畜の糞便等から分離されたカンピロバクター属菌株 サルモネラ属菌株 リステリア モノサイトジェネス菌株

PowerPoint プレゼンテーション

表 2 衛生研究所 保健所別菌株検出数 ( 医療機関を含む ) 内訳 衛生研究所保健所試験検査課県中支所会津支所郡山市いわき市 総計 喫食者 接触者 従事者食品 3 3 拭きとり総計 遺伝子型別解析遺伝子型別解析は, デンカ生研の病

2 経験から科学する老年医療 上記 12 カ月間に検出された病原細菌総計 56 株中 Escherichia coli は 24 株 うち ESBL 産生菌 14 株 それ以外のレボフロキサシン (LVFX) 耐性菌 2 株であった E. coli 以外の合計は 32 株で 内訳は Enteroco

医大病院室長殿

名古屋市で飼育されている犬 猫の Capnocytophaga canimorsus C. cynodemi の保有状況調査 はじめにヒトにおけるCapnocytophaga canimorsus 感染症は 犬 猫からの咬傷や掻傷からヒトへ感染が起こり 発症した場合急性敗血症が起こり致死率の高い疾病

馬ロタウイルス感染症 ( アジュバント加 ) 不活化ワクチン ( シード ) 平成 24 年 7 月 4 日 ( 告示第 1622 号 ) 新規追加 1 定義シードロット規格に適合した馬ロタウイルス (A 群 G3 型 ) を同規格に適合した株化細胞で増殖させて得たウイルス液を不活化し アジュバント

平成 28 年度感染症危機管理研修会資料 2016/10/13 平成 28 年度危機管理研修会 疫学調査の基本ステップ 国立感染症研究所 実地疫学専門家養成コース (FETP) 1 実地疫学調査の目的 1. 集団発生の原因究明 2. 集団発生のコントロール 3. 将来の集団発生の予防 2 1

1

2 参考 検体投入部遠心機開栓機感染症検査装置 感染症検査装置 (CL4800)

はじめに 病原性大腸菌 O-157( 以下 O-157 と略す ) は 腸管出血性大腸菌 ( ベロ毒素産生性大腸菌 ) に属し O-157 感染は O-157 に汚染された飲食物を摂取するか 患者の糞便を何らかの理由で直接口にすることで起こる O-157 に感染した場合 無症状から死亡するケースまで

免疫学的検査 >> 5E. 感染症 ( 非ウイルス ) 関連検査 >> 5E106. 検体採取 患者の検査前準備 検体採取のタイミング 記号 添加物 ( キャップ色等 ) 採取材料 採取量 測定材料 F 凝固促進剤 + 血清分離剤 ( 青 細 ) 血液 3 ml 血清 H 凝固促進剤

Q&A(各自治体宛)

東京都微生物検査情報 第37巻第11号 

食の安全と安心フォーラム第15回 ノロウイルス食中毒の現状 対策 課題 2018/7/25 食の安全と安心フォーラム第15回 食の微生物汚染 リスク低減のポイントを議論する ノロウイルスによる食中毒の 現状 対策 課題 日時 2018年7月25日 水 今日の内容 ノロウイルス食中毒の現状 カキによる

東邦大学学術リポジトリ タイトル別タイトル作成者 ( 著者 ) 公開者 Epstein Barr virus infection and var 1 in synovial tissues of rheumatoid 関節リウマチ滑膜組織における Epstein Barr ウイルス感染症と Epst

は室温で 2 時間インキュベーションした後, 凝集活性を測定した. 2 hrbc を用いた NV 濃縮 hrbc または ghost を PBS で 10% に調整し, それぞれ 100 ml,1 ml ずつ希釈された NV 溶液 50mL に加え,4 で 2 時間インキュベーションした後,hRBC

スライド タイトルなし

家政_08紀要48_自然&工学century

Microsoft Word - ①(概要).doc

日本脳炎不活化ワクチン ( シード ) 平成 24 年 7 月 4 日 ( 告示第 1622 号 ) 新規追加 1 定義シードロット規格に適合した日本脳炎ウイルスを同規格に適合した株化細胞で増殖させて得たウイルス液を不活化したワクチンである 2 製法 2.1 製造用株 名称日本脳炎ウイル

割合が10% 前後となっています 新生児期以降は 4-5ヶ月頃から頻度が増加します ( 図 1) 原因菌に関しては 本邦ではインフルエンザ菌が原因となる頻度がもっとも高く 50% 以上を占めています 次いで肺炎球菌が20~30% と多く インフルエンザ菌と肺炎球菌で 原因菌の80% 近くを占めていま

PowerPoint プレゼンテーション

検査項目情報 インフルエンザウイルスB 型抗体 [HI] influenza virus type B, viral antibodies 連絡先 : 3764 基本情報 ( 標準コード (JLAC10) ) 基本情報 ( 診療報酬 ) 標準コード (JLAC10) 5F410 分析物 インフルエン

医療機関における診断のための検査ガイドライン

Transcription:

Ⅴ. ビブリオ属の検査法 1. はじめにグラム陰性通性嫌気性桿菌でオキシダーゼテスト陽性の菌グループをビブリオ科 (Vibrionaceae) とする ビブリオ属は現在 30 数菌種が知られている ヒトの下痢症原因菌 : Vibrio cholerae O1 O139( コレラ菌 ) 3 類感染症菌 V.cholerae non-o1 non-o139(nag ビブリオ ) V.parahaemolyticus ( 腸炎ビブリオ ) 食中毒菌 V.mimicus V.fluvialis V.furnissii 食品等の検査では V.alginolyticus V.vulnificus が分離されることが多い 2. ビブリオ属の種類と特徴 1) コレラ菌 (V.cholerae O1 および O139) コレラの原因菌で 主な病原因子はコレラトキシン (CT) である コレラは人のみが発症する疾患で 感染者のヒト糞便が主な感染源である 典型的症状は CT の作用で起こる大量の無痛性水様性下痢と脱水症状で 比較的軽症のまま経過することもあり 最近はその傾向が強い 一端単毛性のやや湾曲したグラム陰性無芽胞桿菌で 発育に食塩を必要としない 1 分類 : 現在 V.cholerae は O1~O205 の血清型に分類されている 3 類感染症菌に指定されたコレラ菌は 表 4に示す生化学的性状を示し 血清型が O1 または O139 で ctx 遺伝子を保有し CT を産生する菌である この遺伝子は線維状ファージのゲノム上にコードされ 菌から菌へ移行する 2 抗原型 :V.cholerae O1 は a b c 抗原の量的な違いで小川型 稲葉型に分 けられる 市販の診断用血清 ( または感作ラテックス ) で型別できる ( 表 1) 表 1 コレラ菌の抗原型 診断用血清 感作ラテックス 混合 (O1) 小川因子稲葉因子 a b c 小川 + + - + + - 稲葉 + - + + - + V.1

3 生物型 :V.cholerae O1 はアジア型とエルトール型に区別される ( 表 2) 表 2 アジア型とエルトール型の鑑別性状 性状溶血性 ニワトリ赤血 ホ リミキシン B ファーシ Ⅳ ファーシ Ⅴ VP 生物型 ( ヒツシ ) 球凝集性 感受性 (50U) 感受性 感受性 アジア型 - - + + - - エルトール型 + + - - + + 4 コレラ菌の取り扱い * コレラ毒素を産生する菌 (3 類感染症 ) 行政上防疫対策の対象となる * コレラ毒素を産生しない菌 ( 食中毒菌扱い ) 防疫対策とらない * 真性患者 保菌者の決定は 衛生研究所が行う ( 国内初発でない場合も含む ) 2)V.cholerae non-o1 および non-o139(nag ビブリオ ) NAG ビブリオはコレラ菌と分類学的に同じ種に属し その生態も同じである 本菌による感染症 ( 食中毒 ) が発生したときは 防疫措置の対象ではない 表 4に示す生化学的性状を示し 血清型が O1 または O139 以外 3)V.mimicus 発育に食塩を必要としない 選択分離培地上の所見は腸炎ビブリオと類似している 散発下痢症患者から分離されることは稀であり 海外旅行者に多い 4)V.parahaemolyticus ( 腸炎ビブリオ ) わが国における食中毒の主要な原因菌の一つである 汽水域および沿岸海水に生息し 夏期に主に魚介類から感染することが多い 調理器具等を介して他の食品への二次感染によることも多い 一端単毛性のグラム陰性 無芽胞桿菌で 発育に食塩を必要とする 発育至適温度は 30~37 で 42 でも発育するが 10 以下では発育しない 至適 ph は 8.0 至適条件下での増殖は 他の感染型食中毒菌に比べて速い 血清型 :K 抗原と O 抗原の組み合わせによって型別される 5)V.fluvialis および V.furnissii 食中毒菌に指定されているが 発生事例はほとんどない V.fluvialis は ブドウ糖からガスを産生しない V.furnissii は ブドウ糖からガスを産生する 両菌とも発育に NaCl を必要とする V.2

6)V.vulnificus 分離培地上の外見は腸炎ビブリオに非常によく似ているが 耐塩性 ONPG 試験 セロビオースの分解性で区別できる 慢性肝疾患 ガン 白血病等の患者に感染して敗血症を起こし 多くの場合致死的な転帰をとる アルコール依存症 糖尿病 二枚貝の生食は高リスクである 7)V.alginolyticus 海産魚介類等のビブリオ属の検査で非常に高率に分離される ヒトの下痢症とは無関係と考えられている 分離平板上で大きな集落を形成する 表 3 ビブリオ属の種類と特徴まとめ V.cholerae O1,O139 ( コレラ菌 ) V.cholerae non-o1,non-o139 (NAG ビブリオ ) 病原因子 ( 検査法 ) CT (VT-RPLA, PCR) なし 特徴 血清型 ヒトに激しい水様下痢を起こす 血清型 :O1( 稲葉型 小川型 ) または O139 コレラ菌 (O1) の生物型 : アシ ア型 エルトール型 血清型 :O2~O205 (O139 以外 ) コレラ菌と同じ種に属し その生態も同じ V.mimicus TDH? 海外旅行者に多い 腸炎ビブリオ V. furnissii TDH (KAP-RPLA,PCR) TRH( ウレアーセ テスト ) 血清型 :O と K の組み合わせ 食中毒の主要な原因菌で魚介類から感染する V. fluvialis なし集団発生事例はほとんどない V. vulnificus? 慢性肝疾患等患者は海水浴 生魚喫食に注意 V. alginolyticus なし非病原菌 V.3

H2S 表 4 ビブリオ属の性状分離培地上の集落性状 菌 種 TCBS クロモアカ ーヒ フ リオ コレラ菌 黄色 青色 NAG ビブリオ 黄色 青色 V.mimicus 青緑色 V.fluvialis 黄色 V. vulnificus 青緑色 V.parahaemolyticus 青緑色 紫色 V.alginolyticus 黄色 白色 表 5 主な鑑別性状 菌 コレラ菌 生化学性状 種 NAG ビブリオ V.mimicus V.fluvialis V.furnissii V.vulnificus 斜 面 高 層 TSI ガ ス リ ジ ン LIM 運 動 性 VP 0 3 耐塩性 + + - - + + + d + + - - - + + + + - - + + + d + + - - - + + - + - - + + + - + + - - - + + + + - - - d + - - + + - - + + + + + - - d + - - + + - - + + - + - - + + + - - + + - - + + V.parahaemolyticus - + - - + + + - - + + + - + - V.alginolyticus インドール + + - - + + + + - + + + + + - 6 8 10 オキシダーゼ O N P G 3. ビブリオ属の検査法 1) 使用培地 1 増菌培地 : アルカリペプトン水 ( 栄研 ) ( 食塩ポリミキシンブイヨン )( 栄研 ニッスイ ) 2 分離培地 :TCBS 寒天 ( 栄研 ニッスイ 極東等 ) クロモアガービブリオ ( 関東化学 ) 3 生化学的性状確認培地 : * 1NaCl 加 TSI 寒天 1NaCl 加 LIM 培地 1NaCl 加 VP 半流動培地 1NaCl 加普通寒天斜面培地 * 耐塩性試験培地 (0,6,8,10NaCl 加 Tryptone water) V.4

2) 検査法 1 コレラ菌 便 食品 水等 直接培養増菌培養 TCBS アルカリヘ フ トン水 37 37 8-15h 一夜分離培養 TCBS 37 一夜疑わしいコロニーためし凝集 (O1,O139) (+) (-) 確認培養コレラ菌陰性 TSI,LIM ( 他のヒ フ リオの可能性 ) VP,NA 耐塩性試験 (O,6,8,10) 37 一夜性状確認 ( 表 5) 血清型別( 表 1) 毒素産生試験 ( 衛研で実施 ) 1 検体の処理 ( 増菌培養 ) 便 検体量:0.5~1g 増菌培地:10ml 食品 検体量:10~25g( 状況により ) 増菌培地 :90~225ml 河川水 海水等 検体量:~2000ml A; 遠心分離法検体を 8,000rpm で 30 分程度遠心分離した沈査を試料とする B; フィルター濾過法検体を吸引濾過 ( ホ アサイス 0.22-0.45µm) し 濾紙を試料とする * A または B の試料を増菌培地 10~ 100ml に入れ増菌培養する C;2 倍濃厚法検体に2 倍濃度に調整した増菌培地を等量加え 増菌培養する 2 分離培養 : 増菌培養液 1エーセ 画線培養 3 疑わしいコロニーためし凝集 性状試験 * TCBS 上のコレラ菌様黄色コロニーを感作ラテックス a コレラ菌診断用血清 O139 抗血清でスライト 凝集試験 * 凝集 (+): コレラ菌陽性の疑い 生化学的性状 CT 産生試験を行い決定する * 凝集 (-): コレラ菌陰性 必要に応じ 生化学的性状を調べ菌種を特定 4 毒素産生試験 * RPLA 法 PCR 法で行う ( 衛研で実施 ) V.5

2 腸炎ヒ フ リオ ( その他のヒ フ リオ ) 便 食品 環境等 直接分離増菌培養アルカリ性ヘ フ トン水 or ( 食塩ホ リミキシンフ イヨン ) TCBS 37 8-15h クロモアカ ーヒ フ リオ 37 分離培養一夜 TCBS クロモアカ ーヒ フ リオ 37 一夜疑わしいコロニー確認培養 TSI,LIM VP,NA 耐塩性試験 (O,6,8,10) 37 一夜性状確認 ( 表 5) 血清型別耐熱性溶血毒 (TDH) 産生検査 (RPLA,PCR) 3 腸炎ヒ フ リオの定量培養 (MPN) 検体の 10 倍希釈液作成 a 10ml+2 倍濃度アルカリヘ フ トン水 10ml 3 本 b 1ml+アルカリヘ フ トン水 10ml 3 本 c 0.1ml+アルカリヘ フ トン水 10ml 3 本 37 一夜培養分離培養クロモアカ ーヒ フ リオ (TCBS) 37 一夜培養疑わしいコロニー確認培養 TSI,LIM,VP,NA 耐塩性試験 (O,6,8,10) 37 一夜培養性状確認 ( 表 5) 1 検体の処理 ( 増菌培養 ) コレラ菌検査法と同じ 2 分離培養の平板上のコロニー性状は表 4 参照 3 血清型別 : 腸炎ビブリオは K 抗原と O 抗原の組み合わせで型別される K 抗原型別 : * 生菌によるスライト 凝集試験 * NA または TSI 寒天上の菌を使用 O 抗原型別 : * 加熱死菌によるスライト 凝集試験 * NA 又は TSI 寒天上の菌を 3 食塩水 ( 約 1ml) に濃厚浮遊させる * 121 30~60 分加熱 * 3,000rpm20 分遠心分離した沈渣を使用海産物等の食品を検査対象とした検査では V.vulnificus が分離されることがある 腸炎ヒ フ リオと V.vulnificus の鑑別は ONPG 試験およびセロビオース分解試験が有効である 腸炎ヒ フ リオと V.vulnificus の鑑別セロヒ オース ONPG 分解性腸炎ヒ フ リオ - - V.vulnificus + + 希釈系列毎の陽性試験関数を最確表に 当てはめ MPN 値を求める V.6