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基準範囲の考え方 ph 7.35~ mmHg pco2 mmhg po2 mmhg HCO3 mmol/l BE mmol/l 35~45 85~105 60> 呼吸不全 21~28-2~+3 so2(%) 95~99% 静脈 pco2=45mmhg po2=40mmhg 動脈 pco

肥満者の多くが複数の危険因子を持っている 肥満のみ約 20% いずれか 1 疾患有病約 47% 肥満のみ 糖尿病 いずれか 2 疾患有病約 28% 3 疾患すべて有病約 5% 高脂血症 高血圧症 厚生労働省保健指導における学習教材集 (H14 糖尿病実態調査の再集計 ) より

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Transcription:

clinical question 2016 年 2 月 1 日 J Hospitalist Network 入院患者における腎機能障害 施設名神戸大学医学部附属病院総合内科作成者 : 南地克洋 西村光滋監修 : 金澤健司 分野 : 腎臓テーマ : 診断

症例 70 歳男性 主訴なし 腎機能障害の原因精査目的にて紹介 現病歴約 20 年前 2 型糖尿病指摘され 内服加療療開始 ADLは自立 3 週前当院整形外科にて左膝関節置換術施行コンサルト前日 1 週間で増悪する大球性貧血 腎機能障害を認め当科紹介 既往歴高血圧,2 型糖尿病 ( 約 20 年前 ) アルコール性肝障害 ( 肝硬変の指摘無 ) 胃潰瘍 ( 胃 2/3 切除 30 年前 ) 高尿酸血症 個人歴喫煙歴なし飲酒 : 焼酎 1.8L を 2.3 日で飲む 内服薬シタグリプチンバルサルタンメコバラミンアロプリノール

当科初診時現症 バイタル 身体所見 ROS BP 106/69mmHg HR 106 SpO2 97% RR 14 BT 36.4 眼球結膜貧血軽度黄染なし頸部リンパ節触知せず甲状腺腫大なし胸部心音清 no murmur 肺音清腹部平坦 軟 圧痛なし 右季肋下 3 横指に肝を触知四肢浮腫なし 食事量減少 (-), 腹痛 (-), 黒色便 (+) その他の ROS に異常所見認めず

当科初診時採血結果 WBC 6100 /μl BUN 40.1 mg/dl Hb 6.8 g/dl Cre 1.97 mg/dl Ht 20.9 % Na 134 meq/l MCV 105 K 6.2 meq/l Plt 33 万 /μl Cl 106 meq/l ret 12 % cca 9.6 meq/l AST 35 IU/L CK 115 IU/L ALT 28 IU/L CRP 2.57 mg/dl LDH 171 IU/L HbA1c 7.5 % γgtp 609 U/L BS 163 mg/dl ALP 464 U/L 尿酸 3.3 mg/dl

約 1 週間前の血液検査との比較 約 1 週前 当科初診時 Hb 11g/dl 6.8g/dl BUN 22.4mg/dl 40.1mg/dl Cre 1.2mg/dl 1.97mg/dl egfr 43 27.3 と増悪を認めた 数日以内の尿量に変化はない

総合内科医は 他院 他科入院患者の急性腎機能障害 (Acute Kidney Injury: AKI) につい てよく相談を受ける どのように評価を進めればよいだろうか?

Clinical Question 1 入院患者に AKI が認められた場合 ど のように評価すればよいか? 1-1 AKIをどう分類するか? 1-2 入院患者での頻度は? 1-3 診断のためのポイントは? 1-4 考慮すべき病態は?

CQ1 入院患者に AKI が認められた場合 どのように評価すればよいか? 1-1 AKI をどう分類するか? 1. 腎前性 2. 腎性 3. 腎後性 尿細管障害 間質障害 糸球体障害 障害部位により 3 つに分類

CQ1 入院患者に AKI が認められた場合 どのように評価すればよいか? 1-1 AKI をどう分類するか? 糸球体疾患のうちでは主要なパターンとして 腎炎 と ネフローゼ 腎炎パターン 尿中に変形赤血球 白血球の沈渣を伴い 顆粒円柱 赤血球円柱 白血球円柱 (+) とさまざまなパターンの蛋白尿 (+) RPGN は腎炎パターン ネフローゼパターン 入院患者の AKI の原因としては非常にまれ

CQ1 入院患者に AKI が認められた場合 どのように評価すればよいか? 1-2 入院患者での頻度は? 急性尿細管壊死腎前性慢性腎機能障害に合併する急性腎障害 ( ほとんどが急性尿細管壊死か腎前性 ) 尿路閉塞糸球体腎炎血管炎急性間質性腎炎動脈塞栓 45%(337/748) 21%(158/748) 13%(95/748) 10%(75/748) 4%(33/748) 2%(15/748) 1%(8/748) 腎前性 + 腎性が入院中 AKI 全体の 8 割 Epidemiology of acute renal failure: a prospective, multicenter, community-based study. Madrid Acute Renal Failure Study Group. Kidney Int. 1996;50(3):811

CQ1 入院患者に AKI が認められた場合 どのように評価すればよいか? 1-3 診断のためのポイントは? 病歴 腎機能出現前後のバイタルサインの変化を比較 腎機能出現前後の尿量の変化を比較 造影剤投与の有無 腎性? 腎毒性のある薬剤 腎性? 食事量 水分量 腎前性? 肝硬変の既往 肝腎症候群? 心不全の有無 虚血性心疾患の既往の有無 心腎症候群?

CQ1 入院患者に AKI が認められた場合 どのように評価すればよいか? 1-3 診断のためのポイントは? 身体診察 バイタルサインを腎機能障害出現前後で比較 脱水 腎前性? 心不全 (mottled skin, 頸静脈怒張, Ⅲ 音, abdomino-jugular test) 心腎症候群? 皮疹 急性間質性腎炎? Blue toe コレステロール塞栓?

CQ1 入院患者に AKI が認められた場合 どのように評価すればよいか? 1-3 診断のためのポイントは? 検査 まずは画像検査 ( 腹部エコー CT) で 水腎症の有無をチェック 腎後性? 尿検査 腎性? vs. 腎前性? 尿検査腎性腎前性 尿比重 1.010-1.020 1.020 尿浸透圧 < 350 mosm/kg > 500 mosm/kg 尿沈渣 顆粒円柱 (Muddy brown casts) 尿細管上皮細胞 円柱 (-) あるいは硝子様円柱

CQ1 入院患者に AKI が認められた場合 どのように評価すればよいか? 1-3 診断のためのポイントは? 検査 尿排泄分画 腎性? vs. 腎前性? 尿排泄分画腎性腎前性 ナトリウム排泄分画 (FE Na)*(%) > 2% < 1% 尿素排泄分画 (FEUrea)(%) > 35% < 35% 尿酸排泄分画 (FEUA)(%) > 15% < 7% *FENa ={[ 尿中 Na/ 血漿 Na]/[ 尿中クレアチニン / 血漿クレアチニン ]} x100 でも FENa 解釈には注意が必要

CQ1 入院患者に AKI が認められた場合 どのように評価すればよいか? 1-3 診断のためのポイントは? 検査 FENa から AKI 原因を考える際の 4 つの重要な限界に注意! FENa<1%= 腎前性 は GFR の著しい低下時のみ成立 血清クレアチニン 1 回測定では 正確な GFR 推定は困難 腎前性腎不全以外にも FENa<1% となる AKI 原因あり CKD 症例 利尿剤使用症例などナトリウム排泄亢進症例は 腎前性でも FENa>1% のことあり

CQ1 入院患者に AKI が認められた場合 どのように評価すればよいか? 1-4 考慮すべき病態は? (1) 急性尿細管壊死 (2) 急性間質性腎炎 (3) 肝腎症候群 (4) 心腎症候群 (5) Normotensive ischemic acute renal failure

CQ1 入院患者に AKI が認められた場合 どのように評価すればよいか? 1-4 考慮すべき病態は? (1) 急性尿細管壊死 病態は腎性腎不全

急性尿細管壊死 Dark-pigmented granular cast= Muddy Brown Cast

急性尿細管壊死 急性尿細管壊死の 3 大原因 1 腎虚血 2 敗血症 3 腎毒素 3 腎毒素 : 多くの薬剤 外因性 内因性の毒素 1 抗生剤 ( アミノ配糖体アムホテリシン B) 2Heme-Pigments( 横紋筋融解溶血 ) 3 シスプラチン 4 造影剤 5 ペンタミジン 6 ホスカルネット 7 シドホビル 8 テノホビル 9 免疫グロブリン製剤 10 マンニトール 11Hydroxyethyl starch 12synthetic cannabinoids

CQ1 入院患者に AKI が認められた場合 どのように評価すればよいか? 1-4 考慮すべき病態は? (2) 急性間質性腎炎 病態は腎性腎不全

急性間質性腎炎の原因 75% 以上が薬剤性 ( 抗菌薬 NSAIDs など )

急性間質性腎炎の原因 三徴である発熱 皮疹 好酸球増多の頻度はそれほど高くない

CQ1 入院患者に AKI が認められた場合 どのように評価すればよいか? 1-4 考慮すべき病態は? (3) 肝腎症候群 病歴で肝硬変の既往を確認する必要がある 病態は腎前性腎不全

肝腎症候群 (HRS) 肝硬変患者における AKI の原因として最多

肝腎症候群 (HRS) の分類 肝腎症候群は予後と臨床的特徴から Type1 と Type2 に分類される 腎前性腎不全との鑑別が必要 Type1 Type2 何らかのイベント後に急性増悪し 入院患者に見られる腎機能障害 median survival 1 ヶ月 外来で難治性腹水のある患者に見られる慢性経過の腎機能障害 median survival 6 ヵ月

肝硬変 門脈圧亢進 内臓 / 全身血管拡張 肝腎症候群 病態生理 有効動脈血流量減少 神経体性系活性化 ( レニンアンジオテンシン系 交感神経系 抗利尿ホルモン ) ナトリウム- 水保持腹水低ナトリウム血症 腎血管収縮腎血流減少 肝腎症候群 心拍出量の増大 高心拍出量心不全

肝硬変と急性腎機能障害肝硬変患者における acute kidney injury のメカニズム HRS が無くても肝硬変患者は fluid loss や Bacterial infection を契機として急性腎機能障害を起こしうる

肝腎症候群 (HRS) は除外診断 以前は 1.5L の等張液輸液により循環血漿量を増加させても という条件であったがアルブミンのほうが循環血漿量増加作用が強く持続的であると考えられ基準が改められた

CQ1 入院患者に AKI が認められた場合 どのように評価すればよいか? 1-4 考慮すべき病態は? (4) 心腎症候群 病歴で心疾患の既往を確認する必要がある 病態は腎前性腎不全

定義 心腎症候群 Cardiorenal syndrome 一方の慢性 / 急性の臓器不全が双方向性にもう一方の慢性 / 急性臓器不全を引き起こす タイプ 1: 心機能の急性増悪 急性腎機能障害タイプ 2: 心機能の慢性増悪 慢性腎機能障害タイプ 3: 腎機能の急性増悪 急性心機能障害タイプ 4: 腎機能の慢性増悪 慢性心機能障害タイプ 5: 全身疾患による心機能障害と腎機能障害 入院患者ではタイプ 1 とタイプ 5 が問題となる

心腎症候群 Cardiorenal syndrome(type1) の病態生理 心不全に伴う心拍出量 ACEI 利尿薬投与 サイトカイン活性化 ホルモン分泌等 腎障害

心腎症候群 Cardiorenal syndrome(type5) の病態生理 糖尿病 アミロイドーシス 血管炎 敗血症といった全身疾患 ホルモン 血行動態悪化 サイトカイン活性化等 心腎障害

CQ1 入院患者に AKI が認められた場合 どのように評価すればよいか? 1-4 考慮すべき病態は? (5) Normotensive ischemic acute renal failure 血圧が正常にもかかわらず 糸球体濾過量が低下し腎前性腎不全となる?

腎臓には血圧の変動に対しても糸球体濾過量を維持するための自己調節能がある

正常腎での調節メカニズム 正常灌流圧 灌流圧低下 プロスタグランジン アンジオテンシン Ⅱ 糸球体濾過圧を維持 これは灌流圧が低下しても輸入細動脈を拡張 ( プロスタグランジンを介し ) させ 輸出細動脈を収縮 ( アンジオテンシン Ⅱ を介し ) させることで糸球体濾過圧を維持し対応するため

NSAIDs 使用時の灌流圧低下 プロスタグランジン 糸球体濾過圧 NSAIDs はプロスタグランジンの産生を阻害し 輸入細動脈の拡張を阻害することで糸球体濾過圧が低下し自己調節能を障害する

ACEI/ARB 使用時の灌流圧低下 アンジオテンシン Ⅱ 糸球体濾過圧 ACEI/ARB はアンジオテンシン Ⅱ を阻害し 輸出細動脈の収縮を阻害することで糸球体濾過圧が低下し自己調節能を障害する

表 1 左記が自己調節能を阻害する因子として挙げられる 表 1 のような患者では灌流圧低下に対し糸球体濾過量を維持できない

表 1 の因子のみでも腎機能障害の原因となりうる さらに そのような患者に左表による低潅流が加わると腎機能増悪の原因となる

病歴のポイントは? 1 高血圧 2 慢性腎機能障害 3 高齢者 ( その他表 1 の因子を持つ患者 ) において普段 140-150mmHg の血圧が 100-110mmHg に低下した場合 ( 絶対値は低血圧でないが ) 自己調節能低下のため腎機能障害を起こしえる 病歴として普段の血圧を知ることが重要! ( 血圧が正常のため普段と比較して低下していることが見逃されるかもしれない )

検査のポイントは? 尿中 Na 濃度 <20mmol/L FENa<1% FEUN<35% 血中 BUN/Cre 比 20:1 以上 病態的には腎前性腎不全 腎前性腎不全 であることに注意 脱水

他の腎前性腎不全と同様低潅流状態が長引くと急性尿細管壊死へと進展不可逆的となる可能性 尿中 Na 濃度 <20mmol/L FENa<1% BUN/Cre 比 20:1 以上 FEUN<35% 尿中 Na 濃度 >20mmol/L FENa>1% FEUN>35% BUN/Cre 比 10:1 程度

治療のポイントは? 低灌流状態 不可逆的急性尿細管壊死の可能性 病態は腎前性腎不全だが原因は表 1 の因子 表 1+ 表 2 の因子による低灌流 腎前性腎不全 補液と短絡的に考えず 前記の因子の除去が必要 急性尿細管壊死となると 原因因子除去にても改善に数日を要する可能性あり

症例 70 歳男性 主訴なし 腎機能障害の原因精査目的にて紹介 現病歴約 20 年前 2 型糖尿病指摘され 内服加療療開始 ADLは自立 3 週前当院整形外科にて左膝関節置換術施行コンサルト前日 1 週間で増悪する大球性貧血 腎機能障害を認め当科紹介 既往歴高血圧,2 型糖尿病 ( 約 20 年前 ) アルコール性肝障害 ( 肝硬変の指摘無 ) 胃潰瘍 ( 胃 2/3 切除 30 年前 ) 高尿酸血症 個人歴喫煙歴なし飲酒 : 焼酎 1.8L を 2.3 日で飲む 内服薬シタグリプチンバルサルタンメコバラミンアロプリノール

追加検査 尿定性検査 : 比重 1.014, ph5.0, 蛋白 (±), 糖 (-), ケトン体 (-), 潜血 (-) 尿沈渣 : 赤血球 1-4 個 /HPF, 白血球 <1 個 /HPF, 扁平上皮 (-) 硝子円柱 (-) 尿中 Na 濃度 :18meq/L FENa=0.9% 腎前性? 腹部超音波検査 : 水腎症 (-) 下大静脈径 1.5cm 呼吸性変動軽度 採血上 葉酸 ビタミン B12 血清銅の低下なし 下部内視鏡で出血源となる異常なし 上部内視鏡検査 : 胃潰瘍からの出血を認めた 食道静脈瘤 (-)

高齢者で糖尿病高血圧の既往がありバルサルタン投与中 心疾患や肝硬変の既往はない 外来での血圧は 130-140mmHg で推移 今回診察時 106/69mmHg 普段の収縮期血圧より 25-35mmHg 低下している 尿検査で間質性腎炎や糸球体疾患を疑う所見なし 胃潰瘍からの出血による貧血 (+) 貧血の進行とともに腎機能障害 (+) 画像上 水腎症 (-) 血管内容量低下は明らかでない

Table1 の左記の因子を持っている患者に Table 2 の出血の因子が加わったことで発症した Normotensive ischemic acute renal failure と診断した

治療 1ARB ( バルサルタン ) を中止 2 輸血 3Proton pump inhibitor(ppi) を投与 血圧は 135/75mmHg 程度に上昇 2 週間後 Hb 6.8g/dl 9.2g/dl BUN 40.1mg/dl 22.4mg/dl Cre 1.97mg/dl 1.22mg/dl egfr 27.3 46.1 貧血 血圧の改善と共に腎機能の改善も認めた

Take home message 入院患者の腎機能障害を診察する際は病歴 経過 臨床状況 バイタルを考慮 腎前性と腎性が原因の 8 割 頻度は少ないが急性間質性腎炎 肝腎症候群 心腎症候群 normotensive ischemic acute renal failure も念頭に 腎前性腎不全 = 脱水 は必ずしも正しくない 輸液