第 14 回日本乳癌学会東北地方会 2017.3.4 教育セミナー 治療部門 担当工藤俊山形県立中央病院乳腺外科 skudo@ypch.gr.jp
筆頭演者の利益相反状態の開示 すべての項目に該当なし 2017.3.4
第 14 回日本乳癌学会東北地方会教育セミナー 治療部門 テーマ 実地臨床の現場でしばしば遭遇する 局所進行乳癌の治療 について 実例を通して検討する
局所進行乳癌 定義 Locally advanced This includes a subset of patients with clinical stage IIB disease (T3N0) and patients with stage IIIA to IIIC disease. (UpToDate2016) 特徴 遠隔転移率 局所再発率が高く その予後不良 ( 乳癌診療ガイドライン他 ) 治療 化学療法を施行したのち 局所療法 ( 外科的療法 放射線療法 ) を含む集学的治療が勧められる ( 乳癌診療ガイドライン推奨 B)
今回の主な Clinical Questions Case1 19 歳女性 ER(-)PgR(-) HER2(-) Clinical Questions TNBC 症例での術前薬物療法の内容は? 化学療法著効(cCR) の場合の局所治療方法は? 若年者への妊孕性確保は? Case 2 62 歳女性 ER(+)PgR(+) HER2(-) Clinical Questions Luminalタイプの術前薬物治療は? 術前化療中進行(PD) の場合の次の治療は? 術後 nonpcr 例の追加治療の必要性は? 術前 術後 再発時のバイオマーカーの変化
症例 1
( 診断 ) rt CEA T3(7cm) N1M0 Stage IIIA 症例 1 (19 歳女性 ) 来院時 CT ( 既往歴 家族歴 ) なし ( 現病歴 ) 右乳房にしこり自覚で来院 学生 未婚 148cm 67Kg 来院時 CT ( 腫瘍 CNB) 浸潤性乳管癌 (soltub.) ER(-) PgR(-)HER2(-) ki67 (60%) ( 腋窩リンパ節 FNA) Malignant
症例 1 CQ1 最初に行う治療は? 19 歳女性未婚 ( 既往歴 家族歴 ) なし ( 診断 ) rt CEA T3(7cm) N1 M0 Stage IIIA A1 術前化学療法 A2 手術 ( 病理 ) 浸潤性乳管癌 (soltub.) ER(-) PgR(-)HER2(-) ki67 (60%)
2015 年版 * 全身疾患の可能性の高い局所進行乳癌 (StageIII) に対する初期治療はサブタイプにかかわらず まず化学療法を選択する B : 科学的根拠があり 実践するよう推奨する
症例 1 CQ1 最初に行う治療は? 19 歳女性未婚 ( 既往歴 家族歴 ) なし ( 診断 ) rt CEA T3(7cm) N1 M0 Stage IIIA ( 病理 ) 浸潤性乳管癌 (soltub.) ER(-) PgR(-)HER2(-) ki67 (60%) A1 術前化学療法 A2 手術 推奨 B( 乳癌診療ガイドライン 15 ) 許容 ( 乳癌診療ガイドライン 15 )
初期治療としての化学療法の役割 Neoadjuvant therapy : Where we can all agree 2015 ASCO Annual Meeting Angela DeMichele MD,MSCE 術後予定の化学療法レジメンを術前に実施しても その治療成績 ( 生存率 ) には差がない 手術不能局所進行乳癌を手術可能にできる 手術の温存術率の向上が得られる 炎症性乳癌に対しては標準治療である 治療中に薬剤効果が判定できる 病理学的効果判定で予後予測できる (pcr は予後良好 )
症例 1 CQ2 選択するレジメンは? 19 歳女性未婚 ( 診断 ) rt CEA T3(7cm) N1M0 Stage IIIA ( 病理 ) 浸潤性乳管癌 (soltub.) ER(-) PgR(-)HER2(-) ki67 (60%) 術前化学療法のレジメン A(E)C x4 - wptx x12 A(E)C x4 - DTX x4 ddac x4 - ddptx x4 FEC x4 - DTXx4 FEC x6 TC x4 TAC x6 A(E)C x4 その他 yes
TNBC 局所進行乳癌は アンスラサイクリン - タキサン療法が初期治療として推奨される 1A (ESMO ガイドライン 15 ) 術 ( 前 ) 後化学療法の系譜 (Trastuzumab は除く ) 1980~CMF 1990~ アンスラサイクリン 2000 ~ タキサン CMFx6 FASG05 No chemo. Milan trial NSABP B15 BCIRG001 TACx6 FEC100x6 PACS01 JBCRG01 FECx3-DTX(100)x3 FECx4-DTX(75)x4 CALGB9344 CALGB9741 ACx4 ACx4-PTXx4 ddacx4-ddpx4 NSABP B18 USO 9735 NSABP B27 ECOG1199 TCx4 ACx4-DTXx4 ACx4-wPTXx12 術前治療としてはいくつかの化学療法が有効である 一般に 術後療法として推奨されている化学療法は術前治療としても考慮できる (NCCN ガイドライン 15 )
症例 1 CQ2 選択するレジメンは? 19 歳未婚 ( 診断 ) rt CEA T3(7cm) N1M0 Stage IIIA ( 病理 ) 浸潤性乳管癌 (soltub.) ER(-) PgR(-)HER2(-) ki67 (60%) 今回の症例 1 初期治療 (NAC) FECx4 DTX(75)x4 術前化学療法のレジメン A(E)C x4 - wptx x12 A(E)C x4 - DTX x4 ddac x4 - ddptx x4 FEC x4 - DTXx4 FEC x6 TC x4 TAC x6 A(E)C x4 その他 yes
症例 1 US Main tumor 経時的変化 19 歳女性未婚 ( 診断 ) rt CEA T3(7cm) N1M0 Stage IIIA ( 病理 ) 浸潤性乳管癌 ER(-)PgR(-)HER2(-) ki67 (60%) 初期治療 (NAC) FECx4 DTX(75)x4 FECx4 Docx4
症例 1 NAC 前 MRI 19 歳女性未婚 ( 診断 ) rt CEA T3(7cm) N1M0 Stage IIIA ( 病理 ) 浸潤性乳管癌 (soltub.) ER(-) PgR(-)HER2(-) ki67 (60%) 初期治療 (NAC) FECx4 DTX(75)x4 NAC 後
症例 1 NAC 前 CT 19 歳女性未婚診断 ) rt CE T3(7cm) N1M0 Stage IIIA ( 病理 ) 浸潤性乳管癌 (soltub.) ER(-) PgR(-)HER2(-) ki67 (60%) 初期治療 (NAC) FECx4 DTX(75)x4 効果 ccr NAC 後
症例 1 CQ3 次の局所治療 ( 手術 ) は? 19 歳女性未婚 ( 診断 ) rt CE T3(7cm) N1M0 Stage IIIA ( 病理 ) 浸潤性乳管癌 (soltub.) ER(-) PgR(-)HER2(-) ki67 (60%) 初期治療 (NAC) FECx4 T(DTX)x4 効果 :ccr 手術 部位術式 yes 右乳房 ct3 ct0/tis 腋窩リンパ節 cn1 cn0 全摘 (Bt) 温存 (Bp) リンパ節郭清 (ALND) センチネル LNs 検査 (SNB)* 陰性なら郭清省略 センチネル LNs 検査 (SNB)* 陽性でも郭清省略
症例 1(19 歳女性 ) ( 診断 ) rt CE T3(7cm) N1M0 Stage IIIA ( 病理 ) 浸潤性乳管癌 (soltub.) ER(-) PgR(-)HER2(-) ki67 (60%) 初期治療 (NAC) FECx4 T(DTX)x4 効果 :ccr CQ3 次の局所治療 ( 手術 ) は? 治療部位術式 yes 手術 右乳房 ct3 ct0/tis 腋窩リンパ節 cn1 cn0 乳癌診療ガイドライン 全摘 (Bt) 温存 (Bp) リンパ節郭清 (ALND) センチネル LNs 検査 (SNB) * 陰性なら郭清省略 センチネル LNs 検査 (SNB) * 陽性でも郭清省略 術前化学療法で縮小した浸潤癌に対する乳房温存法は勧められる 術前化療前に N0 である症例では SNB による ALND 省略を考慮してよい 術前化療前に N1 以上の症例では SNB による ALND の省略は基本的に勧めない 推奨ランク B C1 C2 〇 〇
cn1 NAC cn0 ALND 省略 (SNB) の課題 最近の報告やシステマティック レビューでは NAC 前 cn0 症例において SNB は良好な同定率, 偽陰性率を示しており, 外科医, 病理医および放射線科医から構成された熟練したチームで行われる SNB であれば腋窩リンパ節郭清省略を行うことを考慮してもよい 推奨 C1 しかし,NAC 前 N1 以上である症例における SNB の精度は信頼できない可能性が高く, 日常臨床として行うには時期尚早である 推奨 C2 (CQ13 解説より抜粋 ) ALND 省略の課題とは SNB の診断精度 ( 高い同定率と低い偽陰性率の証明 ) その後の照射域 その後の予後
cn0 NAC cn0 SLNB の妥当性 高同定率 低偽陰性率 Sentinel lymph node surgery after neoadjuvant chemotherapy is accurate and reduces the need for axillary dissection in breast cancer patients. Hunt KK et al. Ann Surg 2009 250(4):558-66 MDA がんセンター (USA) cn0 症例 (n=3746) の検討 NAC 後でも SLN found( 同定率 ) と false negative( 偽陰性率 ) に差なし LRR( 局所 ( 領域 ) 再発 ) にも差なし
cn1 NAC cn0 SNB 同定率と偽陰性率は? ~3 つの前向き臨床試験 ~ ACOSOG Z1071: JAMA 2013 310(14):1455-61 SENTINA: Lancet Oncol 2013 14(7):609-18 SN FNAC: JCO 2009 7(5):729-32 同定率 (IR) が 80%~93% と低い 高い同定率 (IR) のためには Mapping に併用療法が推奨 SNB 偽陰性率 (FNR) は平均 10% 以上と高い 低くするには 少なくとも 3 個以上の検索が必要 IR: Identification Rate 4.9% FNR: False Negative Rate
cn1 NAC cn0 NAC 後 ALND 省略の条件 NCCN ガイドライン ver3,15 2015 ASCO Annual Meeting Axillary Management after Neoadjuvant Chemotherapy Tari A. King MD (MSKCC: Memorial Sloan Kettering Cancer Center) JAMA Oncology Review 2016 Axillary Nodal Management Following Neoadjuvant Chemotherapy: A Review. Morrow M et al. ** ** 但し この場合の前向き臨床試験結果もなく 長期予後も不明であり まだ結論づけれないとの記述あり
症例 1(19 歳女性 ) CQ3 次の局所治療 ( 手術 ) は? ( 診断 ) rt CE T3(7cm) N1M0 Stage IIIA ( 病理 ) 浸潤性乳管癌 (soltub.) ER(-) PgR(-)HER2(-) ki67 (60%) 当院での初期治療 (NAC) FECx4 T(Doc)x4 効果 :ccr 当院での手術 rt Bp+SNB(0/4)* 治療部位術式 yes 手術 右乳房 ct3 ct0/tis 腋窩リンパ節 cn1 cn0 全摘 (Bt) 温存 (Bp) リンパ節郭清 (ALND) センチネル LNs 検査 (SNB) * 陰性なら郭清省略 センチネル LNs 検査 (SNB) * 陽性でも郭清省略 〇 〇 最終病理 yptisypn0 切除断端 (-) pcr * 現状の日本のガイドラインに準拠するなら 手術 :rt Bp+ALND 推奨 ( 未だ議論の余地あり )
症例 1(19 歳女性 ) CQ4 術後照射はどうしますか? ( 診断 ) rt CEA T3(7cm) N1M0 Stage IIIA ( 病理 ) 浸潤性乳管癌 ER(-) PgR(-)HER2(-) ki67 (60%) ( しない? 乳房だけ? 胸壁だけ? 腋窩領域は?) 初期治療 (NAC) FECx4 T(DTX)x4 効果 :ccr 当院での手術 rt Bp+SNB(0/4) 最終病理 yptisypn0 切除断端 (-)
NAC 後の残乳房 / 胸壁への放射線治療 進行乳癌においては術前化学療法が奏効しても化学療法前の病期に従って術後放射線療法の適応を決定し, 施行することが勧められる 推奨 B 術前化学療法後に乳房温存手術を行う場合には,pCR が得られた症例であっても術後放射線療法が勧められる 推奨 B
NAC 後 pcr の時の放射線治療の必要性 2015 ASCO Annual Meeting pcr でも照射は行ったほうが局所再発には良い ypn- でも照射は行ったほうが局所再発には良い
NAC 後の領域リンパ節照射 (RNI) については? The impact of postmastectomy and regional nodal radiation after neoadjuvant chemotherapy for clinically lymph node-positive breast cancer: a National Cancer Database (NCDB) analysis. Ann Oncol 2016 27(5):818-27 温存 温存では ypn0 でも ypn+ でも領域リンパ節照射 (RNI) の有無に OS の有意差がない 温存 RNI :regional nodal irradiation
cn1 ypn0/ypn+ 領域リンパ節照射の進行中臨床試験 NSABP B51/RTOG 1304 The Role of Postmastectomy Radiation Therapy in Patients with Breast Cancer Responding to Neoadjuvant Chemotherapy ALLIANCE A011202 (NCT01901094) A Randomized Phase III Trial Comparing Axillary Lymph Node Dissection to Axillary Radiation in Breast Cancer Patients (ct1-3 N1) Who Have Positive Sentinel Lymph Node Disease After Neoadjuvant Chemotherapy
CQ4 NAC 後手術の後照射はどうしますか? ( 乳房だけ? 腋窩領域は?) 手術所見放射線照射術式術後リンパ節転移乳房 胸壁腋窩領域 Bt ypn0 PMRT ypn1 Bp ypn0? whole Breast ypn1? RNI PMRT :postmastectomy radiation therapy RNI :regional nodal irradiation 本例は Rt. Bp+SNB(0/4), yptis/ypn0(pcr) 断端陰性 Whole Breast : total 50Gy
症例 1(19 歳女性 ) CQ5 NAC 前に妊孕性保護行いますか? ( 診断 ) rt CEA T3(7cm) N1M0 Stage IIIA ( 病理 ) 浸潤性乳管癌 (soltub.) ER(-) PgR(-)HER2(-) ki67 (60%) 初期治療 (NAC) FECx4 T(Doc)x4 効果 :ccr 手術 rt Bp+SNB(0/4) 効果 pcr yptisypn0 放射線照射 Breast : 50Gy 妊孕性保護しない 妊孕性保護する 卵子冷凍保存 LHRHa その他
Fertility after breast cancer Alexandre C. et al. Maturitas, 2012 vol73(3) Pages 191-196 化療レジメンと無月経のリスク 妊孕性保持の選択肢
LHRH アゴニスト併用による月経回復率 Ovarian suppression using luteinizing hormone-releasing hormone agonists during chemotherapy to preserve ovarian function and fertility of breast cancer patients: a meta-analysis of randomized studies. Ann Oncol 2015;26:2408-2419 化学療法終了後 12 カ月の月経回復率 Twelve non-randomized and randomized studies 大きな study では LHRHa 投与が良い結果 小規模な study は差がない結果 Remain uncertain
化療中の LHRH アゴニスト併用による卵巣機能維持 (POEMS/S0230 Trials) (1) Phase III Trial of LHRH Analog Administration During Chemotherapy to Reduce Ovarian Failure Following Chemotherapy in Early Stage, Hormone- Receptor Negative Breast Cancer N Engl J Med 2015; 372:923-32 対象 ( 患者背景 ) ER(-) 方法 ( 演者改 ) Goserelin 併用は 化療前遅くとも 1 週間以上前に投与開始 化療終了後 2 週間以内に投与終了
化療中の LHRH アゴニスト併用による卵巣機能維持 (POEMS/S0230 Trials) (2) Phase III Trial of LHRH Analog Administration During Chemotherapy to Reduce Ovarian Failure Following Chemotherapy in Early Stage, Hormone- Receptor Negative Breast Cancer N Engl J Med 2015;372:923-32 Outcome 2 年後卵巣不全率 Chemotherapy Alone (N=113) 結果 Chemotherapy plus Goserlin (N=105) 15/69 (22%) 5/66(8%) 0.04 妊活率 18/113(16%) 25/105(24%) 0.12 妊娠率 12/18 (67%) 22/25(88%) 0.03 出産児数 12 人 18 人 DFS(4 年間 ) 78% 89% 0.04 p OS(4 年間 ) 82% 92% 0.05 卵巣不全( 化療閉経 ) 率はLHRHa 投与群で低い (P=0.04) 妊娠 出産数の結果から 妊孕性維持にも有効(p=0.03)?! ( 演者改 )
化療中の妊孕性保持についての現段階の見解 乳癌診療ガイドライン 推奨ランク LHRHa は化学療法誘発性閉経の割合は減少する可能性があり検討してよい C1 妊孕性維持を目的とした LHRHa 使用のエビデンスは乏しく, 勧められない C2 乳癌患者の妊娠出産と生殖医療に関する診療の手引 2014. 推奨ランク パートナーのいない女性では 未受精卵凍結保存を勧める C1 乳癌に化療が必要と考える場合は勧めるべき その際 卵巣機能障害 不妊の可能性をできるだけ早い段階から説明し 不妊治療医へのコンサルテーションを勧める 挙児希望のみを理由に安易に化療を回避することは避けるべき A NCCN ガイドライン 2015. 化学療法の施行中または施行後には無月経となることが多いが 35 歳未満の女性の大多数では 術後化学療法の終了後 2 年以内に月経が再開するようである 複数のランダム化試験によって ER 陰性腫瘍を有する閉経前女性では術後化学療法中に GnRHa による卵巣抑制を行うことで 卵巣機能を温存でき 化学療法により無月経となる可能性が低下することが示されている
症例 1(19 歳女性 ) CQ5 NAC 前に妊孕性保護行いますか? ( 診断 ) rt CEA T3(7cm) N1M0 Stage IIIA ( 病理 ) 浸潤性乳管癌 (soltub.) ER(-) PgR(-)HER2(-) ki67 (60%) 初期治療 (NAC) FECx4 T(Doc)x4 効果 :ccr 手術 rt Bp+SNB(0/4) 効果 pcr yptisn0 放射線照射 Breast : 50Gy 妊孕性保護 しない 妊孕性保護 する 卵子冷凍 保存 LHRHa その他 yes 本症例では +LHRHa 併用実施 化学療法終了後 LHRHa 投与中止 その後 6 か月で生理再開 妊娠体験はなし 術後 4 年順調経過中 〇
症例 2
症例 2 61 歳女性 ( 既往歴 家族歴 ) 特記すべきことなし ( 現病歴 )2009.12 初診主訴 : 右乳房の皮膚潰瘍ともなう巨大乳房腫瘤 ( 診断 )T4c ( 腫瘍サイズ 11cm+ 腋下転移リンパ 13cm) N2 M0 Stage IIIB ( 組織検査 ) 浸潤性乳管癌 (soltub)
症例 2 初診時の CT
ER PgR HER2 症例 2 治療前針生検 浸潤性乳管癌 (soltub) Grade III(3+3+3) ER+,PgR+,HER2(0) バイオマーカー (IHC) HE ER PgR HER2
症例 2 61 歳女性右局所進行乳癌 T4c N2 M0 Stage IIIB ( 組織 ) 浸潤性乳管癌 (soltub) HG III(3+3+3) ER+,PgR+,HER2(0) CQ6 最初に行う治療は? A1 手術 A2 化学療法 A3 内分泌療法
2015 年版 * 全身疾患の可能性の高い局所進行乳癌 (StageIII) に対する初期治療はサブタイプにかかわらず まず化学療法を選択する B : 科学的根拠があり 実践するよう推奨する
症例 2 CQ7 選択する化療のレジメンは? 61 歳女性右局所進行乳癌 T4c N2 M0 Stage IIIB ( 組織 ) 浸潤性乳管癌 HG III(3+3+3) ER+,PgR+,HER2(0) 化学療法のレジメン A(E)C x4 - wptx x12 A(E)C x4 - DTX x4 ddac x4 - ddptx x4 FEC x4 - DTXx4 FEC x6 TC x4 TAC x6 A(E)C x4 その他
症例 2 CQ7 選択する化療のレジメンは? 61 歳女性右局所進行乳癌 T4c N2 M0 Stage III ( 組織 ) 浸潤性乳管癌 HG III(3+3+3) ER+,PgR+,HER2(0) 化学療法のレジメン A(E)C x4 - wptx x12 A(E)C x4 - DTX x4 ddac x4 - ddptx x4 FEC x4 - DTXx4 FEC x6 TC x4 TAC x6 A(E)C x4 その他 今回の治療計画 化療 (FECx4 DTXx4 ) その後可能なら手術
症例 2 61 歳女性右局所進行乳癌 T4c N2 M0 Stage IIIB ( 組織 )IDC(soltub) HG III(3+3+3) ER+,PgR+,HER2(0) ( 治療計画 ) FECx4 DTXx4 CQ 8 FECx4 腫瘍縮小 (cpr) 原発巣 11cm 7.0cm リンパ節 13cm 6.0cm DTX x4 の予定のところ x2 で 途中で再増大 (cpd) となりました こんな場合 治療はどうしますか? A1 手術 ( 摘出可能なら ) A2 化学療法 DTX 残り 2 回このまま継続 A3 化学療法 A4 放射線療法 A5 その他 別レジメンへ変更
* 化学療法中に病状が進行した場合は, 局所制御を目的に乳房照射を検討する必要がある
NAC(FECx4 DTXx4) の cpd 率 (1) Breast Cancer 12:99-103,2005
術後補助療法のタキサンの意義 Comparisons between different polychemotherapy regimens for early breast cancer: metaanalyses of long-term outcome among 100 000 women in 123 randomised trials (EBCTCG) Lancet. 2012 379(9814): 432 44. タキサンの上乗せは乳癌死亡抑制に効果ある サブグループ解析 タキサン上乗せ群とタキサン非含有レジメン継続群と比較するとタキサンの有効性は低くなる (2 サイクル以上継続は有意差なし )
本症例は FECx4 DTX x2 後 PD( 手術も困難 ) のため 先に効果認めた FECx2 追加施行しました (FECx4 DTXx2 FECx2) *Epirubicin total dose 140mg x6 =840mg/body 600mg/m2 (< 900mg/m2)
化学療法の開始前 CT FECx4 DTXx2 FECx2 終了後 CT
症例 2 手術 術式 右乳房全摘一部大胸筋切除広背神経一部切除と縫合右腋窩リンパ節郭清 (Level I~III) 広範囲皮膚切除と植皮
手術標本 手術標本バイオマーカー検索 ER HE HER2-FISH ER Invasive ductal carcinoma(soltub), Grade III, s+, p-, ly2v0,n+ level II(-)III(-) 組織治療効果 grade1b, 切除断端 (-) ER(-), PgR(-), HER2(+2) FISH( 増幅なし ) 2 か所検索ほぼ同結果 PgR HER2 ER(-),PgR(-),HER2(+2) FISH( 増幅なし )
症例 2 CQ9 non-pcr は予後不良といわれます 術後治療はどうしますか? 61 歳女性右局所進行乳癌 T4c N2 M0 Stage IIIB ( 組織 )IDC(soltub) HG III(3+3+3) ER+,PgR+,HER2(0) 化学療法 FECx4 DTXx2 FECx2 手術 ( 組織 )IDC(soltub) n+ HG III(3+3+3) ER(-),PgR(-),HER2(-) non-pcr A1 放射線照射 ( 右胸壁 ~ 鎖骨上 ) A2 追加化学療法 + 放射線照射 A3 内分泌療法 + 放射線照射 A4 無治療 A5 その他
NAC 後 non-pcr に対する術後追加化学療法 CREATE-X trial A phase III trial of adjuvant capecitabine in breast cancer patients with HER2-negative pathologic residual invasive disease after neoadjuvant chemotherapy (CREATE-X, JBCRG-04) Toi M, Lee S-J, Lee ES, et al SABC, Dec 8-12,2015
CREATE-X trial (DFS) DFS のサブグループ解析 5FU+/- HR-(=Triple Negative) 群で Capcitabine が 特に有効
症例 2 臨床経過 2009 年 12/28 初診 2010 年 1/8 4/6 5/9 7/1 9/8 11/5 NAC 開始 手術 術後治療 FECx4 DTX x2 FECx2 ( Capecitabine) Radiaition 2011 年 4/20 5/6 左鎖骨下リンパ節再発 再発部手術 (2017.1 新再発病変なく外来フォロー中 )
症例 2 左鎖骨下リンパ節再発 HE HER2 ER(0),PgR(0)HER2(+3)
症例 2 バイオマーカーの変化 ( 不一致 ) 症例 2 ER PgR HER2 生検標本 (NAC 前 ) + + - 手術標本 - - - (IHC+2) 再発標本 - - + (IHC+3)
Discordances in Estrogen Receptor status, progesterone receptor status, and HER2 status between primary breast cancer and metastasis. The Oncologist 2013;18:667-74 原発巣と転移部位とのバイオマーカー不一致について 術後補助療法によるバイオマーカー不一致について
NAC 後のバイオマーカーの変化 (MDA cancer center) 2013 Breast Cancer Symposium Patient characteristics No receptor change N=236(59%) Any receptor change N=162(41%) p Subtype HR-positive HER2-positive TNBC 113(48%) 30(13%) 93(39%) 80(51%) 42(27%) 35(22%) 0.0001 Neoadjuvant Chemo Class -Anthracycline-based -Anthracycline/Taxanebased -Taxane based 50(22%) 159(69%) 21(9%) NAC によるバイオマーカーの変化 全体に 41% が変化を認めた 25(16%) 117(73%) 18(11%) 0.29 ( 演者改 ) 変化率は HR 陽性 HER2 陽性で高く TNBC では低い傾向 (p=0.0001) Anthracycline/Taxane-based で高くなっているが 差はない (P=0.29)
遠隔再発時の生検は勧められるか? 遠隔再発巣であることが断定的であると思われる病変であっても 原発巣のER,PgR,HER2が不明 あるいは検査の信頼性が低い場合や 治療方針が変わる可能性がある場合は 再発巣の生検を行うことが勧められる 推奨 B 生検に際しては利益と不利益を十分考慮し 患者の苦痛や合併症を最小限にする必要がある 患者には十分な病状説明を行い関連各科と連携を取り生検を行うが 自施設での生検に支障がある場合は躊躇せず他施設に生検を依頼すべきである P382
まとめ 局所進行乳癌 (HER2 陰性 ) に対して 実例を通して治療法について検討した 局所進行乳癌では 化学療法を初期治療とし 手術や放射線照射など加えた集学的治療が基本である TN 局所進行乳癌に対しては アンスラサイクリン - タキサン療法後 ccr が得られた その場合の次の手術術式や放射線照射の縮小 省略に関しては 予後を含めて引き続き十分検証していく余地がある 化学療法後 non-ccr 例に対しては 最適レジメンや術後治療法など まだ十分確立されていない 個々にしっかり対応していく必要がある 若年者の化学療法による完全閉経に対しては LHRHa を併用することで比較的回避できている LHRHa 併用法は まだ確立されてはいないが 可能な限りの予防や備えを行いながら 十分な化学療法を考えたい バイオマーカーは 化学療法の影響や進行転移に伴って変化 ( 不一致 ) することが十分あり得る 治療指針や予後に関わるため 可能な限り精査したい