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このジニ係数は 所得等の格差を示すときに用いられる指標であり 所得等が完全に平等に分配されている場合に比べて どれだけ分配が偏っているかを数値で示す ジニ係数は 0~1の値をとり 0 に近づくほど格差が小さく 1に近づくほど格差が大きいことを表す したがって 年間収入のジニ係数が上昇しているというこ

図表 1 人口と高齢化率の推移と見通し ( 億人 ) 歳以上人口 推計 高齢化率 ( 右目盛 ) ~64 歳人口 ~14 歳人口 212 年推計 217 年推計

今回の改正によってこの規定が廃止され 労使協定の基準を設けることで対象者を選別することができなくなり 希望者全員を再雇用しなければならなくなりました ただし 今回の改正には 一定の期間の経過措置が設けられております つまり 平成 25 年 4 月 1 日以降であっても直ちに希望者全員を 歳まで再雇用

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2 継続雇用 の状況 (1) 定年制 の採用状況 定年制を採用している と回答している企業は 95.9% である 主要事業内容別では 飲食店 宿泊業 (75.8%) で 正社員数別では 29 人以下 (86.0%) 高年齢者比率別では 71% 以上 ( 85.6%) で定年制の採用率がやや低い また

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- 調査結果の概要 - 1. 改正高年齢者雇用安定法への対応について a. 定年を迎えた人材の雇用確保措置として 再雇用制度 導入企業は9 割超 定年を迎えた人材の雇用確保措置としては 再雇用制度 と回答した企業が90.3% となっています それに対し 勤務延長制度 と回答した企業は2.0% となっ

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定していました 平成 25 年 4 月 1 日施行の 高年齢者等の雇用の安定等に関する法律の一部を改正する法律 では, 継続雇用制度の対象者を限定できる仕組みの廃止について規定されていますが, 平成 25 年 4 月 1 日の改正法施行の際, 既にこの基準に基づく制度を設けている会社の選定基準につい

平均賃金を支払わなければならない この予告日数は平均賃金を支払った日数分短縮される ( 労基法 20 条 ) 3 試用期間中の労働者であっても 14 日を超えて雇用された場合は 上記 2の予告の手続きが必要である ( 労基法 21 条 ) 4 例外として 天災事変その他やむを得ない事由のために事業の

いずれも 賃金上昇率により保険料負担額や年金給付額を65 歳時点の価格に換算し 年金給付総額を保険料負担総額で除した 給付負担倍率 の試算結果である なお 厚生年金保険料は労使折半であるが 以下では 全ての試算で負担額に事業主負担は含んでいない 図表 年財政検証の経済前提 将来の経済状

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日韓比較(10):非正規雇用-その4 なぜ雇用形態により人件費は異なるのか?―賃金水準や社会保険の適用率に差があるのが主な原因―

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平成 31 年 4 月 1 日から平成 34 年 3 月 31 日まで 63 歳平成 34 年 4 月 1 日から平成 37 年 3 月 31 日まで 64 歳 4 定年について 労働者の性別を理由として差別的取扱いをしてはなりません ( 均等法第 6 条 ) ( 退職 ) 第 48 条前条に定める

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事業活動の縮小に伴い雇用調整を行った事業主の方への給付金

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自動的に反映させないのは133 社 ( 支払原資を社内で準備している189 社の70.4%) で そのうち算定基礎は賃金改定とは連動しないのが123 社 (133 社の92.5%) となっている 製造業では 改定結果を算定基礎に自動的に反映させるのは26 社 ( 支払原資を社内で準備している103

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金のみの場合は年収 28 万円以上 1 年金収入以外の所得がある場合は合計所得金額 2 16 万円以上が対象となる ただし 合計所得金額が16 万円以上であっても 同一世帯の介護保険の第 1 号被保険者 (65 歳以上 ) の年金収入やその他の合計所得が単身世帯で28 万円 2 人以上世帯で346

問題の背景 高齢者を取り巻く状況の変化 少子高齢化の急速な進展 2015 年までの労働力人口の減少 厚生年金の支給開始年齢の段階的引き上げ 少なくとも 年金開始年齢までは働くことのできる 社会 制度づくり ( 企業への負担 ) 会社にとっての問題点 そしてベストな対策対策が必要に!! 2

取材時における留意事項 1 撮影は 参加者の個人が特定されることのないよう撮影願います ( 参加者の顔については撮影不可 声についても収録後消去もしくは編集すること ) 2 参加者のプライバシーに配慮願います 3 その他 (1) 撮影時のカメラ位置等については 職員の指示に従ってください (2) 参

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現役時代に国民年金 厚生年金に加入していた者は 一部を除き6 歳以上で老齢基礎年金 老齢厚生年金を受給することができる 4 老齢基礎年金の額は 年度は満額で年額 78, 円 ( 月額 6,8 円 ) であるが 保険料を納付していない期間があればその期間に応じて減額される 一方 老齢厚生年金の額は現役

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平成25年4月から9月までの年金額は

平成 年 2 月 日総務省統計局 労働力調査 ( 詳細集計 ) 平成 24 年 10~12 月期平均 ( 速報 ) 結果の概要 1 Ⅰ 雇用者 ( 役員を除く ) 1 1 雇用形態 2 非正規の職員 従業員の内訳 Ⅱ 完全失業者 3 1 仕事につけない理由 2 失業期間 3 主な求職方法 4 前職の

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9-1 退職のルール 職することは契約違反となります したがって 労働者は勝手に退職することはできません 就業規則に 契約期間途中であっても退職できる定めがある場合には それに従って退職できることになりますが 特段の定めがない場合には なるべく合意解約ができるように 十分話し合うことが大切です ただ

Ⅲ コース等で区分した雇用管理を行うに当たって留意すべき事項 ( 指針 3) コース別雇用管理 とは?? 雇用する労働者について 労働者の職種 資格等に基づき複数のコースを設定し コースごとに異なる配置 昇進 教育訓練等の雇用管理を行うシステムをいいます ( 例 ) 総合職や一般職等のコースを設定し

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第 1 子出産前後の女性の継続就業率 及び出産 育児と女性の就業状況について 平成 30 年 11 月 内閣府男女共同参画局

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( 様式第 1 号 ( 共通 )) 共通事項 1 キャリアアップ管理者 情報 ( 氏名 ): 役職 ( 配置日 ): 年月日 2 キャリアアップ管理者 の業務内容 ( 事業所情報欄 ) 3 事業主名 印 4 事業所住所 ( - ) 5 電話番号 ( ) - 6 担当者 7 企業全体で常時雇用する労働

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生涯現役促進地域連携事業に係る企画書の評価等について 1 評価委員会の設置等 (1) 厚生労働省職業安定局雇用開発部高齢者雇用対策課 ( 以下 事務局 という ) に生涯現役促進地域連携事業の企画書評価のため 生涯現役促進地域連携事業企画書等評価委員会 ( 以下 評価委員会 という ) を設置する

2. 継続雇用制度の対象者を雇用する企業の範囲の拡大上記の選別基準が廃止されることにより 企業が雇用する従業員が増加すると推察され 雇用事業主だけでの雇用確保は限界があると考えられるため 継続雇用の雇用確保先がグループ企業にまで拡大された 3. 厚生労働大臣による高年齢者雇用確保措置に関する勧告に従

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個人型確定拠出年金(iDeCo)の加入状況

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ⅰ. キーワードや法令を知る 01 処遇検討の背景 少子高齢化が急速に進展する中 労働力人口の減少に対応し 経済と社会を発展させるため 高年齢者をはじめ働くことができる全ての人が社会を支える全員参加型社会の実現が求められております また 現在の年金制度に基づき平成 25 年度から特別支給の老齢厚生年

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従業員に占める女性の割合 7 割弱の企業が 40% 未満 と回答 一方 60% 以上 と回答した企業も 1 割以上 ある 66.8% 19.1% 14.1% 40% 未満 40~60% 未満 60% 以上 女性管理職比率 7 割の企業が 5% 未満 と回答 一方 30% 以上 と回答した企業も 1

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問 2 次の文中のの部分を選択肢の中の適切な語句で埋め 完全な文章とせよ なお 本問は平成 28 年厚生労働白書を参照している A とは 地域の事情に応じて高齢者が 可能な限り 住み慣れた地域で B に応じ自立した日常生活を営むことができるよう 医療 介護 介護予防 C 及び自立した日常生活の支援が

することを可能とするとともに 投資対象についても 株式以外の有価証券を対象に加えることとする ただし 指標連動型 ETF( 現物拠出 現物交換型 ETF 及び 金銭拠出 現物交換型 ETFのうち指標に連動するもの ) について 満たすべき要件を設けることとする 具体的には 1 現物拠出型 ETFにつ

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本誌に関するお問い合わせはみずほ総合研究所株式会社調査本部電話 (03) まで 当レポートは情報提供のみを目的として作成されたものであり 商品の勧誘を目的としたものではありません 本資料は 当社が信頼できると判断した各種データに基づき作成されておりますが その正確性 確実性を保証す

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平成 28 年 9 月度実施実技試験 損保顧客資産相談業務 139

再任用と年金加入の関係をまとめると次のようになる ( 都道府県によって勤務形態は異なる ) 再任用の勤務形態フルタイム勤務 3/4 1/2 週の勤務時間 38 時間 45 分 29 時間 19 時間 15 分 共済年金 厚生年金 (2016 年 9 月 30 日まで ) 加入する年金 (2015 年

そこで 本稿では 単独世帯に着目して217 年の賃金水準から年金額を算出し 高齢単独世帯の平均的な支出額と比較することにより 超高齢社会における所得基盤確保のあり方の課題を確認する 2. 単独世帯の年金額と支出額の比較 (1) 月額の年金額と支出額の比較厚生労働省 賃金構造基本統計調査 (217 年

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みずほインサイト 政策 2013 年 2 月 20 日 希望者全員を 65 歳まで雇用義務化高齢者が活躍できる職場の創設と人材育成が課題 政策調査部上席主任研究員堀江奈保子 03-3591-1308 naoko.horie@mizuho-ri.co.jp 2013 年 4 月 1 日に高年齢者雇用安定法の改正法が施行され 段階的に希望者全員を 65 歳まで雇用することが企業に義務付けられる みずほ総研の試算では 60~64 歳の雇用者増により 2025 年度の人件費は現行比 1.4 兆円増加する これは法改正の影響より 年金支給開始年齢の引き上げによる継続雇用希望者増加の影響が大きい 生産年齢人口の減少が不可避のなか 就業者数の減少抑制のためにも 高齢者の労働市場への参加を推進することが必要である 企業は高齢者が活躍できる職場の創設や人材育成が課題となる 1.2013 年 4 月 1 日から段階的に希望者全員を 65 歳まで雇用へ (1) 高年齢者雇用安定法の改正 2013 年 4 月 1 日に 高年齢者等の雇用の安定等に関する法律 ( 以下 高年齢者雇用安定法 ) の改正法が施行され 段階的に希望者全員を65 歳まで雇用することが企業に義務付けられる 現行の高年齢者雇用安定法では 65 歳未満の定年を定めている事業主に対して 65 歳までの雇用を確保するため 1 定年の引き上げ 2 定年到達者を引き続き雇用する継続雇用制度の導入 3 定年の定めの廃止 のいずれかの措置を実施することが義務付けられている ( 図表 1) ただし 2の継続雇用制度の対象者は 労使協定により定める基準 ( 以下 基準 ) により限定できる仕組みが設けられている 現行制度は 2006 年 4 月の同法改正により実施されており 60 歳から64 歳に支給される 特別支給の老齢厚生年金 の 定額部分 の支給開始年齢の引き上げに伴い 段階的に65 歳までの雇用確保措置が企業に義務付けられたものである 2013 年 4 月の改正により 継続雇用制度の対象者を 基準 により限定できる仕組みが廃止される 1 これは 2013 年 4 月から 特別支給の老齢厚生年金 の 報酬比例部分 の支給開始年齢の引き上げが開始されることに伴い 高齢者が少なくとも年金支給開始年齢までは意欲と能力に応じて働き続けられる環境の整備を目的として実施されるものである ただし 法改正前に継続雇用制度の対象者を限定する 基準 を設けている事業主については 報酬比例部分 の支給開始年齢に到達した以降の者を対象に その 基準 を引き続き利用できる12 年間の経過措置が設けられる 2 ( 図表 2) 1

(2) 指針 による継続雇用の除外例 基準 の廃止により 企業は段階的に希望者全員を65 歳まで雇用することが義務付けられるが 2012 年 11 月に策定された 高年齢者雇用確保措置の実施及び運用に関する指針 ( 以下 指針 ) では 勤務状況が著しく不良で 従業員としての職責を果たし得ないときや 精神または身体の障害により業務に耐えられないとき等 就業規則に定める解雇事由または退職事由に該当する場合には 継続雇用しないことができるとされている ( 図表 3) 図表 1 高年齢者雇用安定法と改正の概要 現行の高年齢者雇用制度の概要 定年を定める場合には 60 歳を下回ることができない 65 歳未満の定年を定めている事業主は 65 歳までの雇用を確保するため 次のいずれかの措置 ( 高年齢者雇用確保措置 ) を実施しなければならない (2006 年 4 月 1 日改正 ) 1 定年引き上げ 2 継続雇用制度の導入 ( 労使協定により基準を定めた場合には希望者全員を対象としない制度も可 ) 3 定年の定めの廃止 改正法の概要 (2013 年 4 月 1 日改正 ) 継続雇用制度の対象者を労使協定により定める基準により限定できる仕組みを廃止 継続雇用制度の対象者を雇用する企業の範囲をグループ企業まで拡大 義務違反の企業に対する公表規定の導入 高年齢者雇用確保措置の実施及び運用に関する指針の策定 その他 厚生年金( 報酬比例部分 ) の受給開始年齢に到達した以降の者を対象に 基準を引き続き利用できる12 年間の経過措置を設けるほか 所要の規定の整備を行う ( 資料 ) 厚生労働省資料よりみずほ総合研究所作成 図表 2 基準 廃止の経過措置経過措置期間 60 61 62 63 2013.4.1~2016.3.31 希望者全員基準適用可 64 65 歳 2016.4.1~2019.3.31 2019.4.1~2022.3.31 2022.4.1~2025.3.31 2025.4.1~ 希望者全員 希望者全員希望者全員希望者全員 基準適用可 基準適用可 基準適用可 ( 資料 ) 厚生労働省資料よりみずほ総合研究所作成 2

2.2013 年 4 月の高年齢者雇用安定法改正の影響 (1) 高齢者雇用の現状 以下では 高年齢者雇用安定法改正の影響を試算するため 現状の高年齢者雇用状況を確認する まず 65 歳までの雇用確保措置の実施状況については 厚生労働省の2012 年の調査 3 によると 65 歳までの雇用確保措置の実施済み企業 4 のうち 1 定年の廃止 により対応した企業は2.7% 2 定年の引き上げ により対応した企業が14.7% 3 継続雇用制度の導入 により対応した企業が82.5% である また 3 継続雇用制度の導入 により対応した企業を100% とすると このうち 継続雇用の対象者を限定する 基準を定めていない企業 は 42.8% 基準を定めている企業 は 57.2% である 2013 年 4 月の法改正の影響を受けるのは 基準を定めている企業 であり 65 歳までの雇用確保措置の実施済み企業全体の47.2% と半数弱に上る ( 図表 4) 図表 3 解雇事由等の該当者に関する 指針 の記述 第 2 高年齢者雇用確保措置の実施及び運用 2 継続雇用制度 ( 一部略 ) 心身の故障のため業務に堪えられないと認められること 勤務状況が著しく不良で引き続き従業員としての職責を果たし得ないこと等就業規則に定める解雇事由又は退職事由 ( 年齢に係るものを除く 以下同じ ) に該当する場合には 継続雇用しないことができる 就業規則に定める解雇事由又は退職事由と同一の事由を 継続雇用しないことができる事由として 解雇や退職の規定とは別に 就業規則に定めることもできる また 当該同一の事由について 継続雇用制度の円滑な実施のため 労使が協定を締結することができる なお 解雇事由又は退職事由とは異なる運営基準を設けることは高年齢者等の雇用の安定等に関する法律の一部を改正する法律の趣旨を没却するおそれがあることに留意する ただし 継続雇用しないことについては 客観的に合理的な理由があり 社会通念上相当であることが求められると考えられることに留意する ( 注 ) 下線は筆者 ( 資料 ) 高年齢者雇用確保措置の実施及び運用に関する指針 ( 平成 24 年 11 月 9 日厚生労働省告示第 560 号 ) より抜粋 図表 4 高齢者の雇用確保措置の内訳 継続雇用制度定年引き上げ定年廃止 雇用確保措置の内訳 継続雇用制度の基準の有無 基準なし 35.3% (42.8%) 82.5% (100.0%) 基準あり 47.2% (57.2%) 14.7% 2.7% 0 20 40 60 80 100 (%) ( 注 )1. 雇用確保措置の内訳は 雇用確保措置実施済企業 ( 全体の 97.3%) を 100% としたときの割合 四捨五入の関係で合計は 100% にならない 2.( ) 内は継続雇用制度の導入により雇用確保措置を実施した企業全体を 100% としたときの割合 ( 資料 ) 厚生労働省 平成 24 年 高年齢者の雇用状況 集計結果 (2012 年 ) 3

次に 定年到達者の継続雇用状況を確認する 同じく厚生労働省の2012 年の調査によると 定年到達者のうち 継続雇用を希望しなかった者の割合は24.8% 継続雇用希望者の割合は75.2% である 継続雇用希望者のうち 基準 に該当しないこと等により離職した者の割合は1.6% である ( 図表 5) また 継続雇用制度を導入した企業のうち 基準 がある企業と 基準 がない企業とでは 継続雇用希望者の割合が異なる 継続雇用希望者の割合は 基準 がある企業では72.5% 基準 がない企業では81.7% である これは 基準 がある企業の定年到達者は 自分は 基準に該当しない と判断して 潜在的な継続雇用の希望があっても 実際には継続雇用を希望しない者が一定程度存在することが影響しているとみられる なお 基準 がある企業において 継続雇用希望者のうち 基準 に該当しないこと等により離職する者の割合は 定年到達者の2.3% にとどまっている ( 図表 5) 基準 を導入する企業は多いものの 実際には 継続雇用希望者の多くは継続雇用されている (2)2013 年 4 月以降の高齢者雇用に関する人件費負担増の見通しこうした現状を前提として 2013 年 4 月以降に60 歳に到達し 基準 廃止の影響を受ける世代 5 の60 ~64 歳の雇用者数が増加することによる企業の人件費負担の増加額を試算した 基準 廃止の経過措置の終了後 2025 年 4 月以降は 60~64 歳の希望者全員の雇用が企業に義務付けられることになるが これにより2025 年度の60~64 歳の人件費は現行比 1.4 兆円増加する見通しである ( 図表 6) ただし この人件費負担の増加は 2013 年 4 月の高年齢者雇用安定法の改正の影響よりは 年金の支給開始年齢引き上げによる影響が大きい 法改正による影響は 基準 廃止により継続雇用の希望者の割合が増加することで生じる そこで 試算では 2013 年度以降の継続雇用希望者の割合は 2012 年調査の 基準なし の企業の継続雇用希望者割合 (81.7%) と同じになると仮定した 図表 5 定年到達者の継続雇用希望者の割合 継続雇用を希望しなかった者 継続雇用希望者 全 体 24.8% 75.2% ( うち継続雇用者 73.6% 離職者 1.6%) 基準あり 27.5% 72.5% ( うち継続雇用者 70.2% 離職者 2.3%) 基準なし 18.3% 81.7% ( うち継続雇用者 81.5% 離職者 0.2%) 0 20 40 60 80 100 ( 注 ) 継続雇用希望者のうちの離職者は 基準 に該当しないこと等により離職した者 ( 資料 ) 厚生労働省 平成 24 年 高年齢者の雇用状況 集計結果 (2012 年 ) (%) 4

また 報酬比例部分 の支給開始年齢の引き上げによる影響は 賃金も年金もない所得の空白期間を穴埋めするため 年金が支給される年齢までは継続雇用希望者の割合が増加することにより生じる そこで 試算では 報酬比例部分 が支給されない者の増加により 継続雇用を希望しない者の割合が7 割程度減少すると仮定した 6 (3) 企業の対応方針高齢者雇用の増加に伴う人件費負担増に対して 企業はどう対応するのか 経団連の2011 年の調査によると 希望者全員の65 歳までの継続雇用が義務付けられた場合の対応として 継続雇用者の処遇水準の引き下げ (53.2%) ワークシェアリングの実施 (45.5%) 60 歳到達前の処遇引き下げや退職金 企業年金の見直し (44.9%) と回答した企業が多い ( 図表 7) 継続雇用者の処遇水準やワークシェアリング等の労働条件については 厚生労働省は 高齢者の安定した雇用を確保するという高年齢者雇用安定法の趣旨を踏まえたものであれば 最低賃金などの雇用に関するルールの範囲内で フルタイム パートタイムなどの労働時間 賃金 待遇などに関して 事業主と労働者の間で決めることができるとしており ( 図表 8 上 ) 企業は柔軟な対応が可能である また 退職年齢を選択する制度の導入も認められている 例えば55 歳の時点で 1 従前と同等の労働条件で60 歳定年で退職 255 歳以降の労働条件を変更した上で 65 歳まで継続して働き続ける のいずれかを労働者本人の意思により選択する制度の導入である 同制度を導入した場合でも 継続雇 ( 兆円 ) 1.6 1.4 1.2 1.0 0.8 0.6 0.4 0.2 0.0 図表 6 60~64 歳の継続雇用希望者の増加による人件費増加額の見通し 0.3 0.3 0.3 0.1 0.1 0.1 0.2 0.2 0.2 0.5 0.5 0.5 0.1 0.1 0.1 0.4 0.4 0.4 0.8 0.8 0.8 0.2 0.2 0.2 0.6 0.6 0.7 1.1 1.1 1.1 0.2 0.2 0.2 0.9 0.9 0.9 2013 14 15 16 17 18 19 20 21 22 23 24 25 年度 1.4 0.3 1.2 うち法改正による影響 うち年金支給開始年齢引き上げによる影響 ( 注 ) 高年齢者雇用安定法の改正の影響を受ける世代の人件費増加額 法改正により 2013 年度以降は 継続雇用を希望する人の割合が 75.2%(2012 年調査で 基準あり 企業の継続雇用希望者割合 ) から 81.7%( 同 基準なし 企業の継続雇用希望者割合 ) になると仮定 また 報酬比例部分 の支給開始年齢の引き上げを受けて 継続雇用を希望しない人の割合 18.3% が 7 割程度低下すると仮定 法改正は 基準 廃止の経過措置を考慮 継続雇用後の賃金は定年前賃金の 6 割とした 四捨五入の関係で合計が一致しないことがある ( 資料 ) 総務省 国勢調査 (2010 年 ) 同 労働力調査 (2010 年 ) 厚生労働省 賃金構造基本統計調査 (2011 年 ) 同 平成 24 年 高年齢者の雇用状況 集計結果 (2012 年 ) 同 平成 20 年高年齢者雇用実態調査 (2008 年 ) よりみずほ総合研究所作成 5

用制度を導入したとみなされるため 企業は65 歳までの継続雇用を実施しても1 人当たりの人件費を抑制することが可能である ( 図表 8 下 ) 図表 7 希望者全員の 65 歳までの継続雇用が義務付けられた場合の対応 ( 複数回答 ) 継続雇用者の処遇水準の引き下げ 53.2 ワークシェアリングの実施 60 歳到達前の処遇引き下げや退職金 企業年金の見直し 45.5 44.9 若年者の採用数の縮減 38.4 60 歳到達前に社外へ転籍機会を増やす 23.9 若手 中堅社員の昇格スピードの見直し 対象となる勤務地エリアの拡大 11.2 10.9 0 10 20 30 40 50 60(%) ( 注 ) 高齢者雇用確保措置として 継続雇用制度の導入 ( 選定基準あり ) を選択した企業を集計対象としている ( 資料 ) 日本経済団体連合会 2011 年人事 労務に関するトップ マネジメント調査結果 (2011 年 9 月 29 日 ) 図表 8 厚生労働省 高年齢者雇用安定法 Q&A の記述 ( 抜粋 ) Q1-4: 継続雇用制度について 定年退職者を継続雇用するにあたり いわゆる嘱託やパートなど 従来の労働条件を変更する形で雇用することは可能ですか その場合 1 年ごとに雇用契約を更新する形態でもいいのでしょうか A1-4: 継続雇用後の労働条件については 高年齢者の安定した雇用を確保するという高年齢者雇用安定法の趣旨を踏まえたものであれば 最低賃金などの雇用に関するルールの範囲内で フルタイム パートタイムなどの労働時間 賃金 待遇などに関して 事業主と労働者の間で決めることができます 1 年ごとに雇用契約を更新する形態については 高年齢者雇用安定法の趣旨にかんがみれば 年齢のみを理由として 65 歳前に雇用を終了させるような制度は適当ではないと考えられます したがって この場合は [1]65 歳を下回る上限年齢が設定されていないこと [2]65 歳までは 原則として契約が更新されること ( ただし 能力など年齢以外を理由として契約を更新しないことは認められます ) が必要であると考えられますが 個別の事例に応じて具体的に判断されることとなります Q1-5: 例えば 55 歳の時点で [1] 従前と同等の労働条件で 60 歳定年で退職 [2]55 歳以降の労働条件を変更した上で 65 歳まで継続して働き続けるのいずれかを労働者本人の自由意思により選択するという制度を導入した場合 継続雇用制度を導入したということでよいのでしょうか A1-5: 高年齢者が希望すれば 65 歳まで安定した雇用が確保される仕組みであれば 継続雇用制度を導入していると解釈されるので差し支えありません ( 資料 ) 厚生労働省 高年齢者雇用安定法 Q&A( 高年齢者雇用確保措置関係 ) より抜粋 6

なお 前出の経団連の調査では 高齢者雇用の対応として 若年者の採用数の縮減 と回答した企業が38.4% に上っていることなどから 高齢者雇用の推進が若年者の雇用抑制につながることが懸念されている しかし 2006 年の高年齢者雇用安定法改正による60~64 歳の雇用確保により 若年者の雇用に大きな影響が出たとは認められず 若年者への影響は限定的であると考えられる 図表 9は 年齢階級別の人口に占める雇用者数の割合の推移を示したものである 2006 年以降 60 ~64 歳の雇用者数の割合は上昇しているが 20~24 歳の雇用者数の割合が大きく低下したという傾向はみられない 2009 年以降は20~24 歳の雇用者数の割合が低下しているが ( 図表 9) これは リーマン ショック後の景気悪化による採用抑制の影響と考えられる 厚生労働省の 今後の高年齢者雇用に関する研究会 7 の報告書では 高齢者雇用と若年者雇用との関係について 企業に対するヒアリングでは 専門的技能 経験を有する高年齢者と基本的に経験を有しない若年者とでは労働力として質的に異なるという意見や 新卒採用の数は高年齢者の雇用とのバランスではなく 景気の変動による事業の拡大 縮小等の見通しにより決定しているといった意見があった ことや 欧州では若年者の失業問題に対処するため 高年齢者の早期引退促進政策が推進されたが 結局若年者の失業の解消には効果は見られず かえって社会的コストの増大につながったとの認識が示されている ことをあげ 必ずしも高年齢者の早期退職を促せば若年者の雇用の増加につながるというものではない と指摘されている また 企業の中長期的な成長を維持するには 企業内で高齢者に偏った人員構成とすることは選択しにくい点も 高齢者雇用の推進による若年者の採用抑制への影響が限定的であると考えられる理由である 図表 9 年齢階級別の人口に占める雇用者数の割合の推移 (%) 80 70 60 法改正後 25~29 歳 40~49 歳 30~39 歳 50~59 歳 50 20~24 歳 40 60~64 歳 30 00 01 02 03 04 05 06 07 08 09 10 11 年 ( 注 ) 各年齢階級別の 雇用者数 / 人口 の推移を示したもの ( 資料 ) 総務省 労働力調査 7

3. 人口構成の変化に対応するための高齢者雇用に関する課題 (1) 高齢者雇用の推進による就業者数の減少抑制法改正の影響等による60~64 歳の雇用者数の増加は 企業にとって高齢者雇用に関する人件費負担が増加するといったマイナス面が注目されることが多い しかし 今後 生産年齢人口が大幅に減少することが見込まれるわが国においては 高齢者雇用の推進による就業者数の減少を抑制する効果も期待される 2012 年 8 月に公表された厚生労働省の 雇用政策研究会 8 の報告書では 経済が低成長で現在の労働力率が変化しない場合 2030 年の就業者数は5,453 万人となり 2010 年の就業者数 (6,298 万人 ) より845 万人減少すると試算されている ( ケース1) 一方 適切な経済成長が実現するとともに 女性 若者 高齢者等の労働市場への参加が進めば 2030 年の就業者数は6,085 万人となり 2010 年と比較して213 万人の減少にとどまるという ( ケース2) 特に 60 歳以上の就業者数の増加の余地は大きく ケース1とケース2の差は約 290 万人に上る ( 図表 10) また 全人口に占める就業者数の割合を比較すると 2010 年は49.2% であったが 2030 年のケース1 は46.8% 同ケース2は52.2% であり ケース2が実現すれば 現状を上回る水準となる 当面の生産年齢人口の減少が避けられないなかで 高齢者をはじめとした労働市場への参加を進め 就業者数の減少を抑制することは日本経済の重要な課題のひとつであるといえよう (2) 高齢者が活躍する職場の創設企業にとっても 中長期的に若年者が減少するなかで 高齢者雇用の推進は労働力を確保する手段の一つにもなり得る そこで 如何にして高齢者が活躍できる職場を創設するかが課題となる 図表 10 2030 年までの就業者数の見通し 6298 万人 1141 約 630 万人増 5453 万人 1066 約 290 万人増 6085 万人 1354 60 歳以上 4079 3514 約 250 万人増 3763 30~59 歳 1080 873 約 100 万人増 968 15~29 歳 2010 年 ( 実績 ) ケース1 ケース2 2030 年 ( 注 )1. ケース 1 は経済成長と労働参加が適切に進まないケース ケース 2 は経済成長と労働参加が適切に進むケース 2. 四捨五入の関係で合計が一致しないことがある ( 資料 ) 雇用政策研究会 雇用政策研究会報告書 ~ つくる そだてる つなぐ まもる 雇用政策の推進 ~ (2012 年 8 月 ) 8

参考になるのが先行企業の成功例である 既に 希望者全員が65 歳以上まで働ける企業は48.8% に上るが 9 厚生労働省は 独立行政法人高齢 障害 求職者雇用支援機構との共催で 希望者全員を65 歳以上まで雇用している企業を対象に 毎年 高年齢者雇用開発コンテスト を実施している 同コンテストは 高齢者が能力を十分に発揮し いきいきと働くことのできる職場環境にするための創意工夫を実施した事例を募集し 審査委員会により審査され 受賞が決定される 10 過去の受賞企業の職場の改善事例をみると 高齢者が働きやすい職場の改善を実施 している企業や 高齢期も見据えた職業能力開発を実施 している企業が多いという特徴がみられる まず 高齢者が働きやすい職場の改善例としては 作業負担の軽減を図るための作業施設の改善等が実施されている例が多いが 作業施設の改善は 高齢者だけではなく 若年者にとっても作業負担の軽減につながる また 職業能力開発は 研修等の対象は若年者が中心になりがちであるが 高齢期にも活躍できる従業員を育成するために全従業員を対象としたスキルアップのための研修を実施する例や 高齢者と若年者のペア就労による技術の継承等を実施する例が多い このように 高齢者雇用の先行企業では 職場改善の創意工夫や継続的な能力開発が成果をあげているということができよう 2013 年 4 月から段階的に全ての企業に希望者全員の65 歳までの雇用確保措置の実施が義務付けられるにあたっては 日本の将来の人口構成を見据えた中長期的な職場改善の実施や 人材育成の実施が必要であろう 1 その他の改正内容は図表 1 参照 2 報酬比例部分 の支給開始年齢は 現在は 60 歳だが 2013 年度から 3 年に 1 歳ずつ引き上げられ 2025 年度以降は 65 歳からの支給となる ( 女性は 5 年遅れ ) 3 厚生労働省 平成 24 年 高年齢者の雇用状況 集計結果 (2012 年 ) 4 高年齢者雇用確保措置を 実施済み の企業の割合は 97.3% である 5 経過措置が適用されずに 基準 廃止の影響を受ける世代は 報酬比例部分 の支給開始年齢の引き上げの影響を受ける世代であり 生年月日でみると 1953 年 4 月 2 日生まれ以後の世代となる なお 女性の 報酬比例部分 の支給開始年齢の引き上げは男性より 5 年遅れとなるが 基準 廃止の経過措置は男女で差は設けられていない 6 厚生労働省 平成 20 年高年齢者雇用実態調査 (2008 年 ) によると 継続雇用制度がある事業所で 継続雇用を希望しなかった定年到達者は その理由として 定年退職後に働く意志がない (67.4%) NPO や地域活動等への参加を希望 (2.2%) 等を挙げている (2 つまでの複数回答 ) 本稿では 両者の合計 69.6% は 報酬比例部分の支給開始年齢の引き上げにより 所得の空白期間が生じることから継続雇用希望に転じると仮定した その他の回答には 自社以外で再就職を希望 (22.7%) や 賃金水準や仕事内容が合わないなど 制度とのミスマッチ (17.8%) 等がある 7 厚生労働省職業安定局長が学識経験者の参集を求めて開催し 1 希望者全員の 65 歳までの雇用確保策 2 年齢に関わりなく働ける環境を整備することを中心に調査 検討を行う研究会 2010 年 11 月に開始され 2011 年 6 月に報告書 今後の高年齢者雇用に関する研究会報告書 ~ 生涯現役社会の実現に向けて~ が公表された 8 厚生労働省職業安定局長が学識経験者の参集を求めて開催し 現状の分析を行うとともに 雇用政策のあり方を検討する研究会 2012 年 4 月に開始され 2012 年 8 月に報告書 雇用政策研究会報告書 ~ つくる そだてる つなぐ まもる 雇用政策の推進 ~ が公表された 9 厚生労働省 平成 24 年 高年齢者の雇用状況 集計結果 (2012 年 ) による 10 本コンテストは 高年齢者雇用の重要性について 国民や企業などの理解促進と 高年齢者に意欲と能力がある限り働き続けられる職場づくりのアイデア普及を目的として実施されている 厚生労働大臣表彰 ( 最優秀賞 優秀賞 特別賞 ) と 独立行政法人高齢 障害 求職者雇用支援機構理事長表彰 ( 優秀賞 部門別賞 奨励賞 努力賞 ) がある 当レポートは情報提供のみを目的として作成されたものであり 商品の勧誘を目的としたものではありません 本資料は 当社が信頼できると判断した各種データに基づき作成されておりますが その正確性 確実性を保証するものではありません また 本資料に記載された内容は予告なしに変更されることもあります 9