物性物理学 I( 平山 ) 補足資料 No.6 ( 量子ポイントコンタクト ) 右図のように つ物質が非常に小さな接点を介して接触している状況を考えましょう 物質中の電子の平均自由行程に比べて 接点のサイズが非常に小さな場合 この接点を量子ポイントコンタクトと呼ぶことがあります この系で左右のつの物質の間に電位差を設けて左から右に向かって電流を流すことを行った場合に接点を通って流れる電流を求めるためには 接点のサイズが電子の自由行程に比べて非常に大きいため 統計力学の演習問題によくあるような 一枚の壁で仕切られたつの部屋の片方に気体を入れておいて これが壁に空いた小さな穴を通して単位時間に反対側に流れ出す気体分子数 を計算する問題と同じ考え方をすればよさそうなことが判ります (1) 気体分子が面積 ds の領域に入射する頻度 ここでは具体的に右図のような状況を考え 気体 を仕切っている壁面 (xy 平面 ) 上の面積 ds の領域に z>0 側から気体分子が入射する頻度を計算するこ とにします 気体分子の運動方向はランダムですが ここではその中で特に右図に書いた v の方向に運 動する気体分子について考えます 具体的に v の方 向を (θ,φ) で表すことにすると この方向に対 応する立体角 d は d sin d d ---- (1) x z ds θ vdt φ v vdtsinθ と書けます このため ランダム つまり全方位に対応する立体角 4π であることに注意す れば 上図の v の方向に運動する分子は 気体分子全体の中の d sin d d ----- () だけの割合であることがわかります ただし 気体分子の速度は統計力学で勉強したように Maxwell 分布則に従って分布して います この中で特に速度 v をもつものの割合は 速度分布関数を () v とすると ( v)dv で与えられます 従ってランダムに運動する気体分子の中で 速度 v で (θ,φ) に運動す る気体分子の割合は 結局これらを掛け合わせた で与えられます sin d d ( v)dv ---- (3) 次の考えなければならないのは この速度 v で (θ,φ) に運動する気体分子の中 どれ y
くらいのものが 図の面積 ds の領域を時間 dt の間に通過するかということです 具体的にこの数は 図のような底面積 ds で 面間距離が vdt で与えられる傾いた円筒の中にいる気体分子数で与えられます これは この茶筒のような領域内にいる速度 v で (θ,φ) に運動する気体分子だけが 時間 dt の間に必ず図中の面積 ds の領域を通過することを想像すれば すぐにわかると思います 実際にこの茶筒状の領域の体積は図を見ればわかるように ( vdt)cos ( ds) ---- (4) となります ここで気体分子の密度を n とすれば 以上より結局時間 dt の間に図中の面積 ds の領域を通過する 速度 v で (θ,φ) に運動する気体分子数はnに (3),(4) 式を掛けた sin d d n ( v)dv vdt cos ds ---- (5) で与えられることが判ります Q1 (5) 式で dv, d, d に対する積分を実行することにより 単位時間に単位面積の表 面に入射する気体分子数が の平均速度 です vm 0 nvm 4 v () v dv ---- (6) となることを確認して下さい ただしここで v m は気体分子 () 量子ポイントコンタクトのコンダクタンス 前頁トップの図にある量子ポイントコンタクトに話を戻し 右側の電位は 0 のまま 左 側に電圧 V を印加して電流を流すことを考えましょ う 電子の電荷を e とすると この時左側の電子は右 側に比べて ev だけエネルギーが高くなります ( 右図 ) この時 左側のフェルミ準位 E~E-eV の範囲に居る 電子は右側の空の電子準位へ入ることができるため 左から右へ向かって流れる電流に寄与します このエ ネルギー範囲に居る電子は 電位差 V が小さい場合に は電子の状態密度 N(E)~N(E) として N(E) ev で表されます E E ev
Q このとき 前節における v m を電子のフェルミ速度 v で置き換え 接点は簡単のた めに一辺の長さ d の小さな正方形の形をしていると思えば 前節の結果を利用して 単位 時間あたり接点を通って左から右に流れる電子の数は 1 N N E Vv d 4 ( )e ---- (7) と表される事を確認して下さい Q3 フェルミ波長 と NE ( ) の間には 8 m NE ( ) ---- (8) h の関係があることを確認して下さい Q4 (7),(8) 式を利用して 量子ポイントコンタクトのコンダクタンスは e d G ----- (9) h と求まることを確かめて下さい (3)(9) 式の係数 d の意味について (9) 式で出てきた係数 d は 一体どのような意味を持つのかについて ここでは考えて 見ることにします ここでは量子ポイントコンタクトは一辺の長さ d の正方形であるとし ています この正方形の接点において許される量子状態は 次のような波動関数を持たな ければいけません nx x ny y ( xy, ) sin sin d d ---- (10) ただしここでは 正方形の接点は xy 平面内にあるものとしています またこの量子状態の エネルギー固有値は
n x n y E m d d ---- (11) で与えられます Q5 (10),(11) 式を導出して下さい (11) 式は 正方形の接点における量子状態は x, y 逆格子空間内で 一辺の正方形タ d イルを敷き詰めた際の 各正方形タイルの頂点に対応する格子点として表されることを意 d 味しています このため 逆格子空間内でのこの格子点密度は1/ d となります 一方 x, y 逆格子空間内のフェルミ面 ( フェルミ円 ) の半径を とすると その 面積は 3 となりますから この中にいる量子状態を表す格子点の数は 3 d d ---- (1) と数えられます ただし量子数 n x n y は共に正の数ですからx, y 逆格子空間の第一象 限にしか存在しないので 実際にフェルミエネルギー以下で許される量子状態の数は (1) 式に 1/4 をかけた d K ----- (13) となります これはまさに (9) 式で与えられる量子ポイントコンタクトのコンダクタンスでに現われた係数そのものです さらにここで 逆格子空間の各格子点上ではスピン自由度まで考えればそれぞれつの量子状態を入れることができことも考慮に入れれば 結局スピン祝態度まで考えたときに今の場合に許される量子状態の数は
d K ---- (14) となりますから (9) 式で与えられる量子ポイントコンタクトのコンダクタンスの結果 e d G ---- (9) h d は 具体的には接点における K 個の量子状態がそれぞれ e h のコンダクタンスを 与えていることを意味しています 従って 接点の穴のサイズを小さいものから大きいも のへと段々に変えていけば この接点内に許される量子状態の数が段々増えていくので e h を単位とした階段的なコンダクタンスの変化が実験で観測されることが予想されます 実際 量子ポイントコンタクトを実現するように工夫された様々な実験で こうした コ ンダクンスの量子化 が報告されています 以上