電磁波工学 第 6 回境界条件と伝送線路 柴田幸司
伝送線路とは 伝送線路とは光速で進む電磁波を構造体の中に閉じ込めて低損失にて伝送させるための線路であり 伝搬方向 断面方向に電磁波を閉じ込めるためには金属条件や誘電体の境界条件を利用する必要がある 開放型 TM 型 平行 線 誘電体型 誘電体線路 光ファイバ 閉鎖型 TM 型 同軸線路 導波路型 導波管
おのおのの伝送線路の形状に対する管内断面の電磁波の姿体の導出 以下に各伝送線路の構造に対する電磁波の姿体の例を示す 電界 磁界 導波管 同軸線路 磁界電界 マイクロストリップ線路 この様に 伝送線路内の電磁界は構造により固有の形となるが これは金属境界の条件の違いや伝搬する周波数の違いによるものである そこで 金属境界の構造と内部電磁界の姿体との関係を求めてみる
周波数領域におけるマクスウェルの方程式 直交座標におけるスカラでの 6 つのマクスウェル方程式対について断面における電磁界成分を調べる為に 伝搬方向の電磁界の変化をその性質より伝搬定数としてこの様に定義 ファラデー t ここで また 時間の変化を () () (3) と定義することにより得られるその周波数におけるマクスウェルの方程式は α= の場合 ここでαは減衰定数 βは伝搬定数 より波長と関連 ( 波の 周期 L e [rad] を波長で規格化した値 ) e γl が虚数だと伝搬し実数だと減衰する アンペアマクスウェル (4) (5) (6) となる
これら 6 つの式より 伝搬方向のみの電磁界の Z( 伝搬 ) 方向成分である および だけで伝送線路の他の断面方向の電磁界成 が記述できる すなわち たとえば を求めるために () 式と (5) 式から を消去することを考えれば まず (5) 式は の様に変形できて これを () 式に代入すれば となり これを に着目して整理すると 周波数領域における電磁界分布の統一表現
となる よって 両辺に ωε を掛けると となる ここで となる 但し である 同様に も計算できて と置けば 与式は (7)
(7) (8) (9) () となる μ =4π -7
T モードと TM モード = すなわち 伝送方向の電界が存在しない場合の姿態を T モードと呼び この場合について (7)~() 式は次式の様に簡略化される () () (3) (4) つまり 平面における電磁界は のみで表現 ( 計算 ) できる この時 ヘルムホルツ方程式は伝搬定数 β を用いてあらためて または ここで o と置くことができる
境界条件について異なる媒質の境界 ( 不連続部 ) では マクスウェルの方程式はそのまま適用出来ない 境界面に境界条件を適用 Regio Boudar Plae Regio Medium ( ガラスなど ) 媒質内における電磁波の伝搬 Regio ε μ σ C S t 小さな面 S とこれを囲む閉路 C( C=) について拡張されたマクスウェルアンペア (.4) 式を適用 線積分 ds C Regio 変位電流 S ε μ σ dd J ds dt τ (.4) K (.6) K 境界面を面電流が流れている時の電流密度 [A/m] (.6) 式 境界面に面電流が流れている場合 その分の不連続が生ずる
同様に小さな面 S とこれを囲む閉路 C( C=) についてファラデー (.7) 式を適用 d d ds B ds (.7) dt dt S C (.7) 電界の接線成分は連続 領域 および 共に完全導体でなければ 面電流 = となる (.) 不連続部における一般的な境界条件 (.) 式を変形すれば (.) 式の意味 となる これは 領域 および の単位法線ベクトル に垂直な磁界の 成分 ( および ) が 境界面では等しいということを意味している
境界面 領域 領域 媒質 ( 空気 ) 誘電体の境界条件 媒質 ( ガラスなど ) アンペアマクスウェルの積分形より K K 境界面を面電流が流れている時の密度 [A/m] 境界において 磁界は K の不連続が生じる 但し 完全金属以外では K= となり 入射波透過波媒質の誘電率に関連して透過 が成り立つ また 電界は ファラデーの積分形より となる すなわち 電界の接線成分は連続 ( 境界での電界の接線成分は等しい )
とは 領域 領域 について 単位法線ベクトル ( 境界面と垂直なベクトル ) とは に垂直な および 成分の電界のこと 領域名 つまり 境界において が成り立つ
金属の境界条件 単位法線ベクトル ( 境界面と垂直なベクトル ) とは に垂直な および 成分の電界のことだから 入射波 反射波 金属に電磁波が入射すると 表面の電界強度は零となり ( ショート ) すべて反射する
平行金属板における T モードの伝搬定数と界分布 平行平板 h なるヘルムホルツ方程式を考えると 一般解は A si h B os となることが知られている ( 現時点では AB は未知数 ) ここで 平行金属板については先のマクスウェルの方程式において = o (= =d) なる境界条件が適用される なお は T モードの伝送方向に電界が存在しない性質より常に零である よって に対して実際に金属境界条件を適用するために 方向の磁界として (5b) 式を (5a) 式に代入した =d = A si B os e 今 方向の磁界が h (5) e を用いれば (5a) (5b)
T モードにおいては電界の 成分は (3) 式より d これに を代入して に関する微分を実行すれば となる ここで 金属面の境界条件より o = =d だから まず (6) 式に=を代入すれば であるから A os B si e であり si()= os()= であるから Aos B si e Aos B si e A e (6) となり これを満足する条件として A= を得る
これより T 波において (5b) 式は単に h B os (7) と表される なお B は T モードでの電界の振幅係数であり B= の場合には h os d d となるから それに対応して はあらためて A= および B= を代入して Aos B si e os si e si e となり 他の電磁界成分も先に定義した などに を代入することにより決定される (7a)
さらに (7a) について=dにおいて がゼロになるためには d ( 固有値 ) および界分布の決定 si si e d e なる関係を得る これより である必要がある さらに si()= となるためには = π である必要があり = d なので d = と変形すれば (7) 式に を代入して h B os d (8) を得るので これを用いて T モードの界分布が表せる
について考えると 各 に対する β は とおけて となる ここで d だから (9) であり となり (9) 式の両辺を波数 o で割ると d d d d を得る β はあらためて伝搬定数と呼ばれ 電磁波の伝搬を表す定数である なお 真空中の波数は = () 伝搬定数 β の決定 o である
伝搬定数 β の性質 d () は=の時 すなわち となり 自由空間における波数と一致する ( 平面波または TM モード ) = の時 () 式は d となる ここで f であって が実数となる状態を伝搬モードといい 虚数になる状態を減衰モードという
が実数になる為には たとえば d=5mm の場合には d である必要がある 3 3 d 5 3 となる つまり = の時には f 3. 3 3 となり 自由空間波長 λ が 3mm 以下である必要がある すなわち 8 8 9 3 3 3 の変化に対して β / o と周波数には左図の様な関係がある = [] 以上でなければ T モードの電磁波は伝搬しない = = f [] カットオフ
T モード また 各 に対して平行金属板間の 方向の磁界分布 は 方向の変化に対して および h e h B os d について B= = とすれば (8) = の場合には os()= より いかなる においても = となる これに対して = には = および d の場合に = となり その間では単振動となるので それらを図で示すと下図のような姿態となる = の場合 = の場合 =d = の場合 = TM モード ( 静電磁界 ) T モード (si 分布 ) T モード (os 分布 )
領域 誘電体スラブ線路の伝搬モード 領域 3 領域 領域 C e () d において 各領域の 方向の電界を o eff 領域 C os () o eff (3a) 領域 3 3 C e 3 d (3) 3 o eff 3 とおく ここで () および (3) 式は領域 3より外側においては が指数関数的に減衰することを意味している また i r ここでi=および3である i
さらに C C C 3 は未知の定数である したがって 未知数は eff を含めると4つになるので 連立方程式も4つ必要となる 4つの連立方程式を得るために電界の接線成分である と次式で表される磁界の接線成分 との関係である を用いる すなわち を代入してに関する偏微分を実行すれば 領域 C e (4) 領域 C si (5) 領域 3 3 3 C3 e d (6) を得る
これらの および に関する 6 つの方程式に対して以下の境界条件を適用する すなわち = における電磁界の接線成分の連続性より (7) (8) =d における電磁界の接線成分の連続性より d 4 d (9) d 3 d (3) の合計 4 つの方程式が出来る よって これらの方程式を実際に計算すれば
C e C os C C e C si C C os( C si( ) ) (3) (3) C os 3( d d ) d C e C si 3 C d os( ) C 3 3( d d ) d C e 3 C si( ) 3 3 d 3 C (33) (34) となる
よって (3) 式 /(3) 式を実行すれば C C C si( ) C os( ) si( ) os( ) si( ) os( ) ta( ) ta となる π ごとに繰り返し条件が合う これより ta (35) を得る
また (34) 式 /(33) 式を実行すれば C si( d ) C os( d ) 3C C 3 3 si( d ) os( d ) 3 si( os( d ) d ta( ) d ) 3 ta 3 d (36) π ごとに繰り返し条件が合う を得る
また (36) 式に (35) 式を代入すれば α ta 3 d ta ta ta 3 3 ta ta d d 3 ta ta d 改めて π とおく (36) となる そこで として この式が成り立つようなある周波数における eff が計算できる そして この値から線路の伝搬定数 β が求まる
そこで 具体的に f=g = = = 3 = の場合について f( 3) ata 3 ( eff ) ( eff) ata ( eff ) ( eff) ( eff) d 但し β ~β 3 は (3a) 式を計算したところ 5 5 f( 3) 5 5 4 6 8 eff となるので eff は 8.6 程度となった
FDTD 法よる電磁波伝搬の計算 FDTD 法とは 無線機器内や空間の電磁波をコンピュータによりシミュレーションする 電磁界解析手法 の つ 伝搬特性の解明
電磁界解析と伝送線路理論 電磁波の計算マクスウェル方程式の計算 ( 電磁界解析 ) 有限要素法 モーメント法 モード整合法 FDTD 法 ヘルムホルツ方程式 固有関数に境界条件を適用 マクスウェル方程式の直接差分 利点 アルゴリズムがシンプル 時間領域解析が可能 伝送線路理論 ( 三角関数 ) による計算 容易 しかし複雑なモデルは不可能
t t コンピュータによる時間領域解析 ~FDTD( 時間領域差分 ) 法 ~ マクスウェルの方程式 t t t 偏微分方程式を差分化 (Fiite differee time domai) t t t
偏微分方程式の差分化とは t t 偏微分 微小変化 空間中の微小変化に置き換え ) ( ) ( i i i i i t ) ( ) ( ) ( ) (i ) (i 他の 5 式も同様に差分化時間を表している
3 次元空間への電磁界の配置 (i + + ) (i + + ) (i + ) (i + ) (i ) (i+ ) (i+ ) 単位セル
) ( ) ( i i i i i t ) ( ) ( ) ( i i ) ( ) ( 時間時間との関係 時間 +/ の は +/ の と の および により求まる + の は の と +/ の および により求まる
金属 誘電体の境界条件 4 面金属 中空 金属 or 誘電体 誘電体板 金属の表現法 PC 接線成分の電界 接線成分の導電率を大きくする ( i ) 誘電体 誘電体部分の ε を ε ε r とする
吸収境界条件 導波管 導波管端面の無限を表現 ( 電磁波の全吸収 ) 解析空間周囲の無限を表現 ( 電磁波の全吸収 ) Mur ある波長の電磁波を打ち消すような差分表現 PML(Perfet mathed laer) ある空間インピーダンスを持つ電磁波を磁性損失により減衰
電磁界の励振 励振とは? 電磁界シミュレーションのための仮想的な電力供給 ( 電界 磁界の供給 ) T モード励振 導波管を伝搬するモード電界の励振 ギャップ給電 アンテナやストリップ線路のギャップに電界を励振 T モード ギャップ給電 si f t CW 時間的に連続な信号 (Cotiuous wave) si f t パルス 時間的に不連続な信号 t T ep.9t T.646/ f 矩形パルス ガウシャンパルス
コーラント条件 セル寸法と単位時間 (Δt) との関係 Δt Δ Δ t Δt は () 式を満足する必要がある ( これより大きいと計算結果が不安定になる ) =.9979 8 () [m/s]
解析の流れ ( 導波管の場合 ). 解析モデルのプログラム化. プログラムの実行 ( 電磁界の計算 ) 金属 3. 計算結果の表示 ( プロットソフト ) 励振 吸収境界 電磁界の計算例 (Guplot による )
サンプルプログラムの解析モデル 4 面金属 (PC) 吸収境界 (Mur) 吸収境界 (Mur) 励振 (T ) mm f =.[G] Δt= 5-3 [s] 5 5 タイムステップ.mm 3 セル幅 セル数 7 57.9mm Δ=.575 [mm] Δ=.5 [mm] Δ=.5 [mm] 4
解析時の注意点 セル幅が小さいほど解析精度が向上 しかし 計算時間およびメモリが増大 吸収境界の端部から反射が発生 PML(Perfet mathed laer) などの適用
FDTD 法の応用 ~ 伝送線路特性の解析 ~ 共振器 共振器 マイクロストリップフィルタ 導波管フィルタ
電子レンジ庫内における食品の加熱効率解析