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土木学会論文集 B3( 海洋開発 ) Vol.67,No., 千里浜海岸の汀線位置の変動に関する基礎的研究 BASIC RESEARCH ON THE VARIABILIT OF THE SHORELINE OF THE CHIRIHAMA BEACH 鷲見浩一 出村拓也 山清太郎 3 小田晃 4 落合実 4 遠藤茂勝 5 Hirokazu SUMI, Takuya DEMURA, Seitaro AMA, Minoru OCHIAI, Akira ODA and Shigekatu ENDO 正会員博 ( 工 ) 日本大学准教授生産工学部土木工学科 ( 75-8575 千葉県習志野市泉町 --) 学生会員金沢工業大学大学院工学研究科環境土木工学専攻 ( 9-85 石川県石川郡野々市扇ヶ丘 7-) 3 学生会員日本大学大学院生産工学研究科土木工学専攻 ( 75-8575 千葉県習志野市泉町 --) 4 正会員博 ( 工 ) 日本大学教授生産工学部土木工学科 ( 同上 ) 5 フェロー工博日本大学教授生産工学部土木工学科 ( 同上 ) Chirihama Beach, where drivers are allowed to drive their cars over the sand beach, is an important site for tourism. However, since the 98s, the area has been actively eroded and the shoreline is reported to have receded by approximately 5 meters. This report reviews the characteristics of the littoral drift of the Chirihama Beach based on a field survey of the shoreline and the numerical calculation of the sea waves. The results showed that the wave direction of incident waves from the north-north-west and north-west predominated over the course of the year. Seasonal variation in the significant wave height was clear and large wave heights emerged during the winter period. The survey revealed that the variability characteristics of the shoreline differed in reference to the Hakui River. In the area south of the river, the shoreline showed a trend towards erosion. On the other hand, in the area north of the river, the trend of the shoreline was towards deposition. Key Words : Chirihama Beach, Shoreline, Beach Erosion. はじめに 石川県の海岸線は, 図 -(a) に示すように能登半島の高岩岬を境界として, 北方向に富山県との県境までの区間である能登半島沿岸と南方向に福井県越前岬までの区間である加越沿岸から成る. 石川県内の加越沿岸の海岸線総延長は約 46km であり, その大部分は砂浜海岸である. 千里浜海岸は, この加越沿岸の北部に位置する滝崎から南西へ向かう海岸線長約 3km の押水羽咋海岸に含有される約 8km の海岸線を指す. 千里浜海岸は, 砂浜を大型車両で走行可能な海岸である. 直線的な汀線を有する同海岸には海岸構造物は設置されておらず, 景観性に優れていることから, 千里浜なぎさドライブウェイ として人々から親しまれ, 地域の観光資源としても重要な役割を果たしている. しかし, 近年の千里浜海岸は昭和 5 年代から比較すると 3~5m の汀線後退が確認されている. そして, 砂浜の縮小に伴う高波浪時の走行 車両の安全性確保の観点から, 同海岸での通行規制は増加傾向にある. 千里浜海岸の海浜変動については, 石田ら ) が地象 海象面からの調査により侵食の主要因を検討し, 侵食対策を提示している. また, 由比ら ) は千里浜海岸の沿岸砂州の変動特性について現地測量データを統計的に解析し, 沿岸砂州の変動モードを究明している. このように, 同海岸の特性については, これまでに重要な知見が報告されている. しかし, 千里浜海岸の地形条件と来襲波特性に基づいた波高分布の状況, 空間的な汀線の変動傾向の相違などについては充分な議論がなされていない. 千里浜海岸の安定性を確保するためには, 汀線位置の定量的な把握や漂砂動向の実態解明が必要となる. 本研究では, 千里浜海岸の基礎的な汀線変動特性について,DGPS を使用した現地観測と数値波浪モデルによる波高分布に基づいて検討する. さらに, 小河川周辺の底質の移動状況より, 同海岸の漂砂動向を考究する. I_99

ものである. 図 - の丸に示すように, 観測区間には時間変化に伴う汀線位置の変動を定量的に把握するために, の調査点を設置した. 調査点 ~8 は羽咋川河口よりも南側の海浜に, 調査点 9~ は羽咋川河口よりも北側の海浜に設定した. また, 同海岸には車両の走行安全性の確保を目的として, 鋼製の円管を用いて 7 つの小河川が沈埋化されている. この 7 つの小河川を図 - に四角として図化した. なお, 調査点 6 と第 号小河川, 調査点 5 と第 4 号小河川は同一地点となる. (a) 石川県沿岸 (b) 観測領域図 - 千里浜海岸の位置 () 波浪場とシールズ数の算定千里浜海岸の波高分布を検討するために, 式 () に示すエネルギー平衡方程式を用いて波浪場を算定した. なお, エネルギー平衡方程式への入力条件は, 後述する徳光地先の沖合に設置された超音波式波高計によるデータを用いた. ( SC g cos ) ( SC g sin ) x y C g C C ' S sin cos b S C x y () ここに,Sは方向スペクトル,C, C g は波速と群速度, は波向, ' b は砕波減衰項である. 波高の計算結果から, 微少振幅波の水粒子速度の海底面での流速振幅を求めることにより, シールズ数を式 () を用いて算定した. 図 - 調査点と小河川 fu bm m () sgd. 観測対象海岸と調査概要 () 千里浜海岸と汀線調査方法千里浜海岸は, 金沢港から北東に約 3km の宝達志水町今浜から羽咋市千里浜町に跨がる延長 8km の砂浜海岸である. 今浜における車両走行帯での底質は中央粒径 d 5 =.6mm の細砂, 羽咋川河口周辺での底質も d 5 =.5mm の細砂である. 海底勾配は沖合 km までの外浜では約 /8 であり, 由比ら ) によると水深 5m を中心として, 段,3 段の砂州が発達しており, 外浜の海底地形は複雑な形状となっている. 本研究における汀線観測の調査領域は, 図 - (b) に示すように千里浜海岸を含有するように, 相見川河口から滝崎までの区間とした. この区間において,DGPS による汀線観測を平成 7 年から平成 年の期間に 5 回実施した. 汀線測量には, ハンディタイプの DGPS ユニット (GERMIN 社製 :etrex) を用いた.DGPS は, 基準局から発信される FM 電波を受信機 (GERMIN 社製 :GBR3) が受信して,GPS 衛星からの地理情報の誤差を修正して精度を向上させた ここに, m はシールズ数, u bm は海底での水粒子速度の振幅,sは土粒子の水中比重,dは土粒子の粒径, fは摩擦係数であり,.とした. 3. 千里浜海岸の波浪特性 石川海岸徳光地先の沖合.5km( 水深 h=5m) に設置された超音波式波高計の観測記録から, 千里浜海岸への来襲波特性を検討した. その結果を図 -3(a) ~(c) に示す. なお, 図 -3(a) は平成 年の冬季 (~ 3 月 ), 図 -3(b) は夏期 (7~9 月 ), 図 -3(c) は年間 (~ 月 ) の波向別波高出現分布を示している. 平成 年の波浪観測データから, 千里浜海岸の入射波の波向は年間を通じて北北西と北西に卓越し, その出現頻度はそれぞれ 7%,4% であった. 一方, 月別平均有義波高については季節による変動が明瞭であり, 8 月が約.5m であるのに対し, 月は約.m であり, 冬季に高波浪が出現していた. また, 平成 8 ~ 年における波向も平成 年と同様に, 北北西と北西からの入射波が約 5% であった. かねてか I_

(a) 平成 年 ~3 月 (a) 平成 8 年 (b) 平成 年 7~9 月 (b) 平成 年図 -4 DGPS による千里浜海岸の汀線 (c) 平成 年 ~ 月図 -3 波浪特性 ら千里浜海岸では, 冬季風浪が卓越することが由比ら ) により指摘されていたが, 本調査においても冬季に高波浪が卓越する傾向が図 -3 により確認できた. (a) 調査点 3 4. 千里浜海岸の汀線変化 () 千里浜海岸の汀線変動の傾向千里浜海岸の経時変化に伴う汀線変化特性を検討するために, 平成 7 年から平成 年の期間に DGPS による汀線観測を実施した. 年毎の観測結果の一例を図 -4(a),(b) に示す. 図 -4(a),(b) は, それぞれ平成 8 年と平成 年における汀線の観測結果を図化したものである. 汀線の形状は, 滝崎から羽咋川右岸の区間においては円弧状となっており, 羽咋川左岸から相見側河口域の区間においてはほぼ直線状となっていることが判る. 図 -4 にて, 時間変化に伴う汀線の変動を判別するのは困難である. そこで, 平成 8 年から平成 年の汀線変化を, ほぼ直線状の海浜に位置する調査点 3 と調査点 4, ならびに円弧状の海浜に位置する調査点 の 3 つの区間において検討するために, 図 - 5(a)~(c) を作成した. 図中の実線は平成 8 年 月, (b) 調査点 4 (c) 調査点 図 -5 時間変化に伴う汀線変動 I_

(a) St.4 (b) St.5 (c) St.6 (d) St.7 (e) St.9 図 -6 各調査点における汀線変化量 (f) St. 点線は平成 年 月の汀線位置である. 図 -5(a), (b) から羽咋川以南の調査点において, 平成 8 年と平成 年の観測結果を比較すると, 汀線が後退傾向にあることが確認できる. 図 -5(c) に示す羽咋川以北の調査点においては, 調査点 と の間の区間の汀線位置は前進傾向にあることが判る. DGPS を使用しての現地観測により, 千里浜海岸の汀線変化は, 羽咋川以南の海浜では侵食傾向, 羽咋川以北の海浜では前進傾向にある可能性が確認できた. () 調査点における汀線変動前節では千里浜海岸の汀線位置の変動傾向について検討した. 本節では調査点毎の汀線の前進量と後退量について考察する. 各調査点において観測した経時変化に伴う汀線変化量の一例を図 -6(a)~(f) に示す. なお, 図 -6(a)~ (d) は羽咋川以南の調査点, 図 -6(e),(f) は羽咋川以北の調査点である. 図の縦軸は汀線変化量であり, プラスが汀線の前進, マイナスが後退を示している. なお, 汀線位置は観測時刻と汀線近傍の平均的な砂浜の勾配から富山湾の観測基準面を基準として, 潮位補正を行ったものである. 図 -6(a) は調査点 4 における汀線変化量を示している. 平成 8 年 (6 年 )3 月以降の夏期の汀線位置は回帰直線よりも大きい値であり, 汀線が前進し, 砂浜が堆積傾向にあることが判る. しかし, 平成 8 年 月 (6 年 ) の冬期においては, 冬期風浪の影響により, 汀線位置は回帰直線よりも小さくなっており, 観測開始時の平成 7 年の汀線位置と比較して一時的に約 m 後退している. 回帰直線に基づいた調査点 4 の観測期間の 5 年間における汀線の後退は約 3.5m である. 図 -6(b) は調査点 5 における汀線変化量を示している. 前述の調査点 4 と同様に, 汀線は平成 8 年の夏期から平成 8 年の冬期にかけて後退している. その後, 汀線は平成 9 年の夏期には回復し, 同年の秋期から冬期にかけて, 再び後退する. 回帰直線による調査点 5 の観測期間の 5 年間における汀線の後退は約.74m である. 図 -6(c) と (d) は, それぞれ調査点 6 と 7 における汀線変化量を示している. 両調査点においても平成 8 年の夏期から平成 8 年の冬期にかけて, 汀線は後退するが翌年の夏期には前進している. 回帰直線による調査点 6 と 7 の 5 年間における汀線の後退は, それぞれ約 3.6m と.74m である. 図 -6(e) は調査点 9 における汀線変化量を図示したものである. 平成 8 年の夏期から平成 8 年の冬期に汀線は後退し, 翌年の夏期に前進するという変動特性は, 前述の羽咋川以南の調査点と同様である. しかし, 羽咋川以南の各調査点における回帰直線が侵食を示していたのに対し, 調査点 9 において回帰直線は堆積を示している. 調査点 5 の観測期間の 5 年間における汀線の前進は約 5.m である. 図 -6(f) は調査点 における汀線変化量を示している. 調査点 においても調査点 9 と同様に堆積傾向となっており, 回帰直線による調査点 の観測期間の 5 年間における汀線の前進は約 5.m である. 以上,DGPS を使用しての観測により千里浜海岸の汀線変化について検討した. 季節的な時間スケールにおいては, 冬季の暴浪時に底質が削られて海浜が消失しても, その後の夏期の静穏波の来襲により砂が堆積し, 砂浜が回復するという一連の海浜変化過程が確認できた.5 年間の時間スケールにおける汀線の変化は, 羽咋川以南の調査点では侵食されていたが, 羽咋川以北の調査点では堆積していることが判明した. また, 侵食傾向にある調査点での回帰直線に基づいて, 空間的に平均処理した汀線の後退速度は約.53m/ 年であった. 由比ら ) は 983 年から 6 年に石川県土木部河川課により実施された汀線 I_

Incident wa ve H /3 =.48 T /3 = 4.5(s) NNW.4.4 N.4.3.. 測量結果により, 春期と秋期の汀線変動を検討し, 汀線の後退速度は春期が.67m/ 年, 秋期が.46m/ 年としている. 本研究の汀線の後退速度についても, 既往の研究と整合すると考えられる. 5. 千里浜海岸の波高分布.4. 3.. 6 8.3.... エネルギー平衡方程式による平成 6 年の波浪場の算定結果の一例を図 -7(a)~(c) に示す. 計算への入力条件は, 徳光地先の沖合に設置された超音波式波高計の観測データから月別平均有義波高 H /3 と有義周期 T /3 を求めて, 平成 6 年 6 月は H /3 =.48m, T /3 =4.5s, 波向 =NNW, 平成 6 年 月は H /3 =.3m, T /3 =6.4s, =NNW, 平成 6 年 月は H /3 =.4m,T /3 =7.8s, =NW とした. 周期分割数と方向分割数は, それぞれ 7 と 45, 計算格子幅は沿岸 岸沖方向に等間隔で m とした. なお, 図 -7(a) ~(c) と後述の図 -8(a),(b) は石川県千里浜海岸保全対策検討委員会技術専門部会の資料 3) としても公開してある. 図 -7(a),(b) は, それぞれ平成 6 年 6 月と 月の千里浜海岸における波高の空間分布の計算結果を示している. 両図において, m の範囲では沖.4 (a) 平成 6 年 6 月 Incident wa ve H /3 =.3 T /3 =6.5(s) NNW N......3.3...9.7.8.6.4.5 (unit:m) 6 8 (b) 平成 6 年 月 Incident wave H /3 =.4 T /3 =7.7(s) NW (unit:m)......9.8.7.6.5.3.4 N.....3.4.5.6.7.8.9 6 8 (c) 平成 6 年 月図 -7 千里浜海岸の波浪場の計算結果 (unit:m) Incident wave H /3 =.48 T /3 =4.5(s) NNW...4.6..6.4...8.6.8..4.4..6..8..8.. N Shoreline 6 8 6 5 3 5 3 4 (a) 平成 6 年 6 月 Incident wave H /3 =.4 T /3 =7.7(s) NW N 5 4 5 4 5 4 5 3 Shoreline 側境界から入射した波が浅水変形をしながら砕波点まで伝播し, 砕波帯内では波高を減衰させて汀線まで到達していることが判る.< mの範囲では, 入射波が滝崎による回折効果を受けていることが確認できる. 図 -7(c) は平成 6 年 月の千里浜海岸における波高分布の計算結果を示している.6 月 月の波高分布の計算結果と同様に, 9mの範囲では沖から伝播した波が浅水変形をしながら砕波点まで到達し, その後, 減衰している.9< mの範囲では, 入射波が滝崎により回折していることが確認できる.6 月 月と 月の波高分布を比較すると, 入射波が滝崎による回折効果の影響を受ける範囲が異なっている. これには波向の相違が関係している. 波向がNNWの6 月 月は,NWの 月と比較して, 滝崎に対して約 3 北方向に傾斜して波が入射するために, 回折に伴う遮蔽領域が拡大する. エネルギー平衡方程式より算定した波高値から海底面での水粒子速度の振幅を求めることによって, 計算したシールズ数の空間分布を図 -8(a),(b) に図示する. なお, 底質の粒径はd=.6mmとした. 図 -8(a) は平成 6 年 6 月のシールズ数を示している. 千里浜海岸の底質は細砂であることから, 底質の移動は 7m,5 mの範囲で確認できるが, その他の領域では底質移動は顕著でない. 図 -8(b) は平成 6 年 月のシールズ数を示している. 月では対象領域の全体において,6 月と比較して底質の移動が活発であり, 高濃度の底質流動層が発生していると推測できる. 6. 千里浜海岸の漂砂動向 図 -9(a)~(c) に, 平成 年 月 日に撮影した小河 3 6 8 (b) 平成 6 年 月図 -8 シールズ数の空間分布 I_3

一方, 羽咋川以北の砂浜は, 入射波の滝崎による回折効果により比較的安定している. 千里浜海岸における南方向の沿岸漂砂の発生域については, 滝崎の回折に伴う波の遮蔽域との関連を挙げることができる. したがって, 養浜砂の投入位置を検討する際は, 波の遮蔽域よりも南側の地点が望ましいと考えられる. (a) 第 号小河川 (b) 第 4 号小河川 7. おわりに 本研究では, 千里浜海岸の汀線の基礎的な変動特性について, 汀線位置の現地観測と波浪数値モデルによる波浪場の計算結果などに基づいて検討し, 漂砂特性について新たな知見を得た. ) 千里浜海岸の入射波の波向は年間を通じて北北西と北西が卓越する. 月別有義波高については季節による変動が明瞭であり, 冬期に高波浪が出現していた. ) 各調査点における汀線観測より, 千里浜海岸における汀線位置の時空間変化は, 滝崎の回折に伴う波の遮蔽域に関連して, その変動特性が異なる. 3) 千里浜海岸での漂砂方向は遮蔽域よりも南側の領域では南方向とあることが判明した. 4) 汀線位置の変動特性と汀線近傍域の漂砂動向は, 千里浜海岸の地形的条件と入射波特性に基づいた波高分布に依存している. すなわち, 波の遮蔽域外の調査点での漂砂は南方向であり, 砂浜は侵食傾向にある. 一方, 羽咋側以北の調査点では砂浜は堆積傾向にある. (c) 第 7 号小河川図 -9 底質の移動状況 川周辺域の底質の移動状況の写真の一例を示す. なお, 第 号小河川は没水状態にあり, 漂砂の移動方向を確認することはできなかった. 図 -9(a)~(c) は, それぞれ, 第 号, 第 4 号, 第 7 号小河川周辺での漂砂の移動方向を判別するにあたって有用な資料である. 第 号, 第 4 号, 第 7 号小河川に共通して, 砂面は円管を中心としての右側 ( 北方向 ) が左側 ( 南方向 ) よりも高くなっている. これは, 羽咋川以南の海岸において, 底質が北から南方向に移動していることを意味している. この原因として, 千里浜海岸では NNW と NW を波向とする入射波が年間の約 5% を占めることから, 汀線周辺域での沿岸流は南方向に卓越する. この沿岸流により南方向の沿岸漂砂が発生している. また, 南方向に移動する漂砂量を上回る砂が, 羽咋川以南の海岸に供給されないために, 侵食が発生していると推測できる. 謝辞 : 本研究で使用した波浪データについては, 国土交通省北陸地方整備局金沢河川国道事務所より提供いただいた. また, 千里浜研究会における金沢大学由比政年教授, 斎藤武久准教授, 楳田真也講師との議論から, 有用なご意見をいただいた. ここに記して謝意を表する. 参考文献 ) 石田啓, 高瀬信忠, 長原久克, 浦良一 : 渚ドライブウェーを有する千里浜海岸の現況と侵食対策, 第 3 回海岸工学講演会論文集,pp.355-359, 984. ) 由比政年, 楳田真也, 早川和宏, 川島弘靖, 浦貴暁, 石田啓 : 千里浜海岸における海浜変動の基本特性に関する研究, 土木学会論文集 B( 海岸工学 ),Vol.66, No., pp.56-565,. 3) 鷲見浩一 : 千里浜海岸の汀線位置について, 第 3 回千里浜海岸保全対策検討委員会 技術専門部会, http://www.pref.ishikawa.lg.jp/kasen/chirihama-i/index.html I_4