依田元 * 要 旨 は,5 A と 8 A 定格の大電流測定に対応し, MHz (±3 db) の広い測定周波数帯域を実現した高精度電流センサである. スイッチング周波数の高周波化に伴うノイズ環境下での電流測定を考慮し, 新規開発した巻線構造とシールド構造により, 広帯域, かつ, 高い耐ノイズ性を実現できた. ここに製品の概要, 特長, 構成, および特性データについて解説する.. はじめに 自動車, 鉄道, 航空機などにおいて, 電動化の主要構成要素であるインバーターやコンバーターなどの電源部の小型化, 高効率化の開発は世界中で進められている. これら電源は,SiC,GaN に代表される高速低損失のパワー半導体を搭載し, スイッチング周波数はますます高まっている. 近年の電源は Aといった大電流でも khzを超えるようなスイッチング周波数でドライブされ, 変換効率は 9 % を超えている. このような電源の開発では,.% 単位の効率改善が要求されるため, 高精度な入出力の電力測定だけでなく, リアクトルなど部品レベルの損失把握も必要とされる. これらの測定では, 大電流を広帯域, かつ, 高精度に測定することが必要である. しかし, 従来の高精度電流センサは数百 khz 程度の測定帯域しかなく, 高周波を含む電流や電力の測定誤差が大きいという問題があ ) ) った. この問題を解決すべく,AC/DCカレントセンサ CT9/CT9-は企画 開発された.. 概要 CT9は,5 A 定格で基本測定確度 ±.7%, 直線性 ± ppmを実現した. 新開発の対向配置分割コイルを用いることで MHzまでの広い測定周波数帯域を有しながら, 導体位置の影響, 近接導体の影響, および帯磁の影響を最小限に抑えている. この製品は, 高周波でスイッチングされる環境下で使用される. このような環境下でも周囲のノイズに左右されない安定した測定ができるよう, 対向させて配置した分割コイルを切削加工によるアルミニウム製のソリッドシールドで完全にシールドすることで, db( khz) の優れた耐ノイズ性を持たせた. 高周波大電流測定では, 測定導体が長いほど導体のインダクタンスや寄生容量により測定の誤差要因が CT9の外観増大する. この誤差要因を最小限にするため, 測定導体を短く配線する必要がある. 測定導体長を短くするため,CT9 の形状をどのような姿勢でも設置できるように工夫し, さまざまな設置方法を選択できるようにしている.8 A 定格で MHz 帯域のCT9-もラインアップに加え, さらなる大電流測定にも対応した. 3. 特長 3. 高精度 CT9は5 A 定格で基本測定確度 ±.7 %, 直線性 ± ppmを実現しており, 従来製品と比べて約 倍の測定性能を持つ. また, パワーアナライザ PWとの組み合わせ確度も仕様に規定しており, 電力基本測定確度は ±.77% である. CT9-は8 A 定格で, 基本測定確度 ±.3%, 直線性 ±.5 ppmを実現している.pw との組み合わせ確度も仕様に規定しており, 電力基本測定確度は ±. 8 % である. 通常, 電流定格に対して小さい入力レベルの場合,f.s. 誤差により計算上の測定確度は悪化する.CT9,CT9-は PWとの組み合わせ確度を仕様に規定することで, 電流センサのf.s. 誤差を考慮する必要がなくなり, 広い入力範囲において高精度な測定を実現できる. * 技術部技術 課 9 HIOKI E.E. CORPORATION 日置技報 VOL. 9 NO.
3. 広帯域新規開発した巻線構造により,5 A 定格および,8 A 定格において MHz(±3 db) という従来比 倍の広い測定帯域を達成した. これにより, 高速化が進むスイッチングデバイスでも正確な電流測定ができる. 周波数特性は, M Hz 程度までフラットで, 高周波電流測定時の誤差も小さい. 図 に振幅特性比較を示す. 3.3 高い耐ノイズ性新規開発したソリッドシールドにより, 同相電圧除去比 (CMRR) は khzで db( 万分の) 以上を実現した. これは, 従来製品と比較し約 db( 分の) 以上優れたCMRR 特性であり, 周囲の電界による影響が小さく再現性のよい測定ができる. 図 にノイズ環境下の波形測定結果を示す. 従来製品や他社製品で測定した電流波形には, 電圧変動に起因した同相電圧ノイズが重畳しているが,CT9は同相電圧ノイズが見られず優れた CMRR 性能を示している.. 構成 3) ). 測定原理と回路構成図 3にAC/DCカレントセンサの回路構成を示す. 従来製品のAC/DCカレントセンサ 979と同様に, フラックスゲート方式を用いている. フラックスゲートとは, 磁性材料のB-H 特性の非線形性を利用した磁界検出方法で, 一般的に地磁気の方位検出などに用いられる, 高感度で温度安定性が非常に高い磁気検出方法である. 巻線された磁性材が飽和域に達するように三角波の励磁電流 (f=. k Hz) を流しておく. この状態で測定電流が流れたとき, 発生した磁束によって巻線に生じる電圧波形の変化の差動検出をする. この検出信号を励磁電流と同期したf 信号で同期させて検出することにより, 測定電流にほぼ比例した出力信号を得ることができる. しかし, フラックスゲートは磁性材が飽和する大きな磁界影響下では感度が得ることができなくなるため, ゼロフラックス方式と呼ばれる負帰還回路と組み合わせることで,5 A 定格および 8 A 定格の大電流測定を可能とした. 今回, 従来製品を大幅に上回る基本測定確度 ±.7% を実現するため, フラックスゲート励磁回路のフィルターを最適に設計することでノイズ改善を行い, 出力ノイズを低減している. また, 帰還巻線出力の検出回路を出力配線上の中継ボックスに配置し, 構 Gain error [% rdg.] 8 CT9 Competing instrument Competing instrument - - - -.E+.E+.E+3.E+.E+5.E+ 図 振幅特性比較 Voltage waveform CT9 979 Competing instrument 図 ノイズ環境下の波形測定結果造をコアと巻線部とに分離することで, 検出回路が受ける測定導体からの電界と磁界の影響を低減している.. 構造図 に構造の概略を示す. 新規開発した対向配置分割コイル (Opposed Split Coil : 分割した巻線を磁気コア上で対向させて配置した構造 ) は, 検出巻線を分割することで巻線間の不要な寄生容量結合を抑え, 大幅な広帯域化を実現した. さらに, 分割巻線をトロイダルコア上に対称に配置することで, 磁気を検出するバランスが改善され導体位置の影響を低減している. 新規巻線は切削加工によるアルミニウム製の独自形状のソリッドシールドに内蔵することで, 不要な隙間のない理想的なシールド構造を実現した. これにより従来製品と比べて耐ノイズ性が向上している. また, 図 5に示すようにCT9は従来のデザインを刷新し, 最適な配置を選択できる形状とした. 高周波大電流測定では, 測定導体が長いほど, 導体のインダ 9 HIOKI E.E. CORPORATION 日置技報 VOL. 9 NO.
3 Oscillation circuit f f Triangle wave forming Excitation circuit Flux-gate excitation Differential detector Detection BPF Synchronous detector Amplifier LPF Current buffer Shield Measured current Feedback coil V f.s. Cable i = I/N R Differential circuit Cable 図 3 回路構成 Solid shield Opposed split coil technology 図 構造の概略 図 5 配置方法 Error [% rdg.] 8 - - +DC -DC 55 Hz (55 Hz) - -. Input current [A] 図 直線性 5 A クタンスや寄生容量により測定誤差が増大する. そこで,CT9 はさまざまな姿勢で設置できる独自の形状としたことで, 測定導体を最小限で配線できるように Error [% rdg.] +DC 8 -DC 55 Hz (55 Hz) - - - -. Input current [A] 図 7 直線性 8 A なり, 測定誤差の低減が期待できる. 9 HIOKI E.E. CORPORATION 日置技報 VOL. 9 NO.
Gain error [db] 3 - - -3 - - -7-9 - No. No. k k k M 図 8 振幅 f 特 5 A Gain error [db] 3 - - -3 - - -7-9 No. No. - k k k M 図 9 振幅 f 特 8 A 5 5 Phase error [ ] - - -3 No. No. -35 - k k k M Phase error [ ] - - -3-35 No. No. - k k k M 図 位相 f 特 5 A 図 位相 f 特 8 A Magnitude of effect [db] - - - - - - - - k k k M M 5. 特性データ 5 A 8 A 図 同相電圧の影響 図 から図 7 に諸特性を示す. リニア特性, 温度安 定性, 周波数特性 ( レベル, 位相 ),CMRR など, 従来製品と比較して極めて良好な特性である. これらの特性は,DC から高周波までの測定が必要なインバーターやパワーコンディショナーの入出力の効率測定をする場合において, 測定確度や測定の再現性を大幅に Input conversion offset current [ma] 5 5-5 A_No. 8 A_No. 5 A_No. 8 A_No. 5 A_ 8 A_ 5 A spec. 8 A spec. - Temperature [ C] 図 3 温度特性 _ オフセット 向上させる. この特性データはCT9を使用して測定した参考データであり, 製品の特性を保証するものではない. 9 HIOKI E.E. CORPORATION 日置技報 VOL. 9 NO.
5 Error [% rdg.]..5..5 -.5 -. 5 A_No. 8 A_No. 5 A_No. 8 A_No. 5 A_ 8 A_ 5 A spec. 8 A spec. Magnitude of effect [%]... -. 5 A rated 5 Hz 5 A rated khz 8 A rated 5 Hz 8 A rated khz -.5 -. - Temperature [ C] 図 温度特性 _ 振幅 -. Center A B C D E F Position E D C F A B Magnitude of effect [%] 5 A 8 A... k k k M 図 近接導体の影響. おわりに高周波でスイッチングされるインバーターやパワーコンディショナーなどの変換効率を改善するために, 近年は部品レベルの損失を測定することが要求されるようになっている. このような広帯域 高精度の測定を必要とされる方々に CT9は最適である. このセンサが電源の効率改善に寄与し, 世界のエネルギー効率改善ひいては地球環境保護に貢献できれば幸いである. 図 5 コア内部の導体位置の影響 (A~F: Position) Input conversion magnetization [ma].5.5 -.5 - -.5 5 A 8 A - -. k -. k. k. k Input current [A] 図 7 帯磁の影響参考文献 ) K. Hayashi: Measurement of Loss in High- Frequency Reactors, Bodo s Power Systems, February 7, 8/ (7) ) K. Hayashi: High-Precision Power Measurement of SiC Inverters, Bodo s Power Systems, September, /7 () 3) 山岸君彦 : AC/DCカレントセンサ 979, 日置技報,VOL.7 NO.,33/ () ) 山岸君彦 : AC/DCカレントセンサ CT8/ CT83, 日置技報,VOL.3 NO.,5/3 () 関憲一 *, 林和延 *, 山田修平 *, 小宮山哲也 *3 * 技術部技術 課 *3 技術部技術 課 9 HIOKI E.E. CORPORATION 日置技報 VOL. 9 NO.
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